「あいたたたた……」

床に叩き付けられた夢美はぶつけた部分を擦りながら上半身を起こす。

「あー……衝撃緩和装置を付けて置いて良かったわ……」

どうやら、衝撃緩和装置と言う物を身に付けていたお陰で床に叩き付けられても大したダメージを受けなかった様である。

「備えあれば患えなしとは良く言ったものね」

夢美がそんな事を呟いた瞬間、霊児は夢美の前に現れ、

「俺の勝ちだな」

夢美の首に短剣の先端を突き付けながら自身の勝利を宣言した。
夢美は驚いた表情をしながら霊児と霊児の短剣の間に目を何度か行き来させ、

「私の負け……か」

ポツリとそう呟く。
夢美が自分の負けを宣言した事で勝負が決したと判断した霊児は短剣を左腰に装備している鞘に収める。
それと同時に夢美は立ち上がり、

「くやしー!! 何で勝てないの!! 魔法!? 魔法なの!? やっぱり魔法使いには勝てないって言うの!?」

行き成りそんな事を大声で口にした。
夢美の発言を聞いて自分が使っているのは魔法じゃないと言う様な事を霊児が思っていると、

「それとも何!? 私には魔法が使えないのが原因だって言うの!? 私だってこの世界に生まれていれば魔法だって使えたのに!!」

夢美は幻想郷で生まれていれば魔法が使えたのにと言う。

「まぁ、生まれなんて選べはしないからな……」

夢美の発言を聞いた霊児が生まれは選べないと口にした時、

「ふっふっふ……」

夢美が邪悪な笑みを浮かべ始めた。
その笑みを見た霊児が何か嫌な予感を感じた瞬間、

「良いわ!! 魔法が駄目だって言うのなら科学力を見せてやろうじゃないの!! 最強無敵の殲滅兵器、地球壊滅用の四次元ポジトロン爆弾を!!」

夢美はそんな事を口走りながら両手を天へと掲げる。
自分の負けを認めたが、それでも認めたくないと言った感じかと霊児は考えた。
霊児がそんな呑気な事を考えている間に、

「……ん?」

夢美が両手を掲げた先の空間が歪み始める。
空間の歪みを見て、何かを召喚し様としているのだろうかと言う考えに達したのと同時に、

「ッ!!」

霊児は気付く。
夢美が発言した言葉の中に聞き捨てなら無い単語が入っている事に。
故に、

「一寸待て、おい!!」

慌てて止めに入る。
流石に地球壊滅などと言う単語が入った爆弾が爆発でもしたら洒落にならない事態になってしまうからだ。

「ふっふっふ……これで……」

夢美の目から爆弾を起爆させる気が満々である事を感じた霊児は止めに入るのでは無く、爆弾を奪う事に行動を変更する。
行動を変えた理由は下手な事をして爆弾を爆発させない為だ。
歪んだ空間から爆弾が現れ様としたその時、

「馬鹿な真似は止めろって!!」

ちゆりがパイプ椅子で夢美の頭を思いっ切り殴って夢美の暴走を止める。
パイプ椅子で頭を殴られた事で夢美が蹲り、頭を押さえていると発生していた空間の歪みが消失した。
これで取り敢えず危機が去ったと言う事を霊児が感じ始めたタイミングで、

「一寸……パイプ椅子は反則でしょ。流石に……」

夢美は若干涙目になりながらちゆりを睨む。
睨まれたちゆりは、

「反則って……ご主人の方が反則だろうが!! 地球壊滅用の四次元ポジトロン爆弾何て使ったら私達は歴史に残る大犯罪者になってたんだぜ!!」

地球壊滅用の四次元ポジトロン爆弾を使ったら大犯罪者になるところだった言って再び夢美の頭をパイプ椅子で思いっ切り殴った。
ちゆりの表情から必死さの他に先程何回も殴られた仕返しと言う想いが籠められているのを霊児が察していると、

「痛ぅ……冗談に決まってるでしょうが」

夢美は殴られた部分を擦りながら冗談だと言う。
冗談と言う発言をした夢美を、

「本当か?」

霊児は疑惑の目で見る。
地球壊滅用の四次元ポジトロン爆弾を召喚し様とした夢美の表情がかなり本気であったからだ。

「……本当よ」
「俺の目を見て言えよ」

目を逸らしながら本当と言った夢美に霊児が思わず自分の目を見て言えと言う突っ込みを入れる。
突っ込みを入れられた夢美は

「…………………………………………………………」

何も言えず、黙ってしまう。
それを切っ掛けにしかたの様に変な沈黙が流れ始めたが、

「……まぁ、負けは負けだし霊児を連れ帰る事は諦めるわ。でも、データは沢山取れたわ。これを纏めて提出すれば、私を馬鹿にしてくれた学会の奴等に
目に物見せてくれるわ!! ふっふっふ……自分の価値観が崩された連中の顔が目に浮かぶわ……」

夢美は空気を入れ替えるかの様に霊児を連れ帰る事を諦めると言った宣言をし、学会の連中に対する復讐を完遂した後の事を考え始めた。
邪悪な笑みを浮かべながら。

「うわぁお……ご主人が邪悪な笑みを浮かべているぜ……」
「全くだな」

ちゆりの発言に霊児が同意していると、夢美は邪悪な笑みを浮かべるのを止めて霊児の方に体を向け、

「それはそうと約束はちゃんと果たさないとね。さぁ、霊児!! 貴方の願いを叶えて上げるわ!! 何でも言いなさい!!」

願いを叶えるから何でも言えと言う。

「願いね……」

願いを言えと言われた霊児はつい考え込んでしまった。
いざ、願いを言えといわれても何も思い付かなかったからだ。

「んー……」

少しの間考えてみたが、中々願いが出て来ない。

「ほらほら、何かないの?」
「何かって言っても……」

霊児の口から叶えて欲しい願いが中々出て来なかったからか、

「子供らしく、お菓子が沢山欲しいとか玩具が欲しいとかは?」

夢美はお菓子や玩具は欲しくないかと尋ねる。
が、

「いや、菓子も玩具も別に欲しくは無いな」

霊児はお菓子も玩具も別に欲しくは無いと間髪入れずに返す。

「子供らしくない子供だぜ」

ちゆりが思わず呟いたそんな言葉を霊児は無視し、何か欲しい物を考えている霊児の目に、

「……ん?」

左腰に装備している短剣が入る。
その瞬間、

「……そうだ」

霊児は欲しい物を思い付く。

「何々、叶えて欲しい願いが決まったの?」

夢美が霊児に叶えて欲しい願いが決まったのかと尋ねる。
尋ねられた事を、

「ああ、グローブが欲しい。指の部分が開いているタイプのやつな」

霊児は肯定し、グローブが欲しい事を伝えた。

「グローブ?」

夢美が思わず首を傾げると、

「ああ、グローブだ。有るか?」

霊児は念を押す様にグローブが欲しいのだと言い、有るかを問う。

「勿論有るわよ。一寸待ってなさい」

夢美は勿論有ると言って奥の方へ向かう。
それから少しすると夢美が戻って来て、

「はい、これで良い?」

夢美は手に持っているクローブを霊児に差し出す。
夢美が差し出したグローブのデザインが気に入ったからか、

「お、サンキュー」

霊児は礼を言いながら夢美からグローブを受け取り、早速グローブを着ける。

「お、ピッタリ」

着けたグローブが手の動きを全く阻害せず、非常に馴染む感じである事に驚いている霊児に、

「当然よ、それは収縮自在な代物何だから直ぐに馴染むのは当たり前ね。おまけに耐久性は極めて高いわ。文字通り一生使えるわよ」

夢美は霊児が驚いている事に対する答えを言い、更に耐久性が極めて高くて一生使えると言う事も口にした。
それを聞いた霊児は改めて手を握ったり開いたりし、クローブを摘まんで引っ張ってみる。
その結果、夢美の言っている事をは本当だと言う事を理解した。
短剣を持つ柄の部分が手垢などで汚れなくなれば良いや位の気持ちでグローブが欲しいと霊児は言ったのだが、これは案外良い貰い物をしたのかもしれない。
だからか、

「サンキューな」

霊児は再度礼の言葉を口にした。
その後、

「……あ」

霊児には何かを思い出した様な表情になって夢美の方へ向き直る。

「そうそう。分かってるとは思うが、この世界の事は……」
「分かってるわよ。この世界の事は秘密にして置けでしょ。この世界の事を公表したらどうなるかって事位、分かるわよ」

霊児が言葉を言い切る前に、夢美は霊児が言おうとしていた事を口にした。
どうやら、要らぬ心配であった様だ。
やはり頭の回転が早いなと霊児は思いつつ、夢美とちゆりの手を掴む。

「え? 何? どうしたの?」
「どうしたんだぜ?」

急に手を掴まれた事で夢美とちゆりが驚いた表情を浮かべていると、

「宴会やると思うから、お前等二人も参加な」

霊児は宴会をやると思うから二人とも参加と言う。

「宴会?」
「そ、宴会」

宴会と言われて首を傾げた夢美に、霊児は宴会である事を肯定しながら二人の手を掴んだ儘の状態で出口に向う。

「馬鹿騒ぎが好きな連中ばっかりだからな。多分、もう準備終ってると思うぜ」
「何で私等も参加するんだ?」

ある意味当然の疑問を口にしたちゆりに、

「そりゃ、この騒ぎを起した張本人だからな。参加してもらわなきゃ困る。お前等が参加してくれればそれでこの騒ぎは終了って意味合いにもなるしな」

霊児は夢美とちゆりを宴会に参加させる理由を説明する。

「これから向こうに帰って論文作成し様と思ってたのに……」

霊児の言い分は理解出来るが、この後の予定を潰される事となってしまった夢美がそう愚痴を零し始めた。
そんな夢美に、

「敗者は勝者に従うしかないと思うぜ、ご主人」

ちゆりは自分達は敗者なのだから勝者である霊児に従うしかないと言う言葉を掛けた時、

「お、外だな」

霊児達は外に出た。

「あー……もう日が暮れ始めてるな」

霊児は日が暮れ始めた時間帯である事に少し驚きながら二人から手を離し、体を伸ばす。

「あら、ここは随分自然が豊富な所なのね」

外の景色を見た夢美は感慨深い表情になりがらそう呟く。
今見える景色は霊児にとっては見慣れた様なものであるが、夢美にとっては非常に珍しいものの様だ。
夢美が住んでいる所は自然が少ない所なのかと霊児が考えていると、

「だろ。私もあの紙切れ配る時に見て驚いたぜ」

ちゆりは夢美に同意する様な発言をしながら目に見える景色を見渡していく。
どうやら、二人ともここから見える景色を目に焼き付けている様だ。
それから少しした時、

「処で、宴会って何所でやるの?」

夢美は宴会は何所でやるのか尋ねる。
そう言えば宴会の開催場所を言ってなかったなと霊児が思いながら、

「俺の神社」

自分の神社であると言う。
その瞬間、

「ほう……神社」

夢美の目がギラリと光った様に見えた。
魔法魔法と言っていたが、夢美は魔法以外にも神社とかそう言った類のものにも興味がある様だ。
目をキラキラさせている夢美を見ながら、

「……さっさと行くか」

霊児は空中に躍り出る。
それに続く様にして夢美とちゆりが空中に躍り出ると、三人は霊児を先頭にして博麗神社へと向かって行った。





















霊児達が博麗神社に辿り着いた時には、霊児の予想通り宴会の準備が進められていた。
うや、準備が進められていると言うのは語弊がある。
準備が進められていたと言うより、霊児達が来るまで待ってたと言った方が正しい感じだ。
その様な状態であったのならば霊児達が来た時点で当然の様に宴会は始まり、

「やっぱこうなるか」

大騒ぎ状態になった。
まぁ、宴会が始まれば大騒ぎになるのは何時もの事である。
因みに夢美とちゆりは当たり前の様に受け入れられた。
宴会を開けば大体は仲良くなれると言うのは幻想郷の凄いところなのかもしれない。
霊児がそんな事を思った時、

「霊児ー、一寸付き合いなさいよー」

霊児の後ろから声が聞こえて来た。
その声に反応した霊児は自身の背後へ体を向ける。
体を向けた霊児の目には、

「妹紅か」

妹紅の姿が映った。
どうやら、霊児に声を掛けたのは妹紅であった様だ。
妹紅の頬の色から少し酔っている事を霊児が察していると、

「霊児、一緒に飲みましょうよ」

妹紅は霊児に一緒に飲もうと誘って来た。
妹紅の手に酒瓶と空の杯が二つあるのを確認し、

「そうだな、一緒に飲むか」

霊児は腰を落ち着かせて妹紅と一緒に飲む事にする。
霊児が腰を落ち着かせると妹紅も腰を落ち着かせ、杯の中に酒を注いでいく。
そして、その内の一つを霊児に差し出したタイミングで、

「結局、願いを叶えたのは霊児なのね」

少し愚痴る様にそう言いながら妹紅は酒を飲む。

「何だ、どうしても叶えたい願いでもあったのか?」
「まぁ……一応……ね」
「ふーん……」

深く聞かない方が良いと判断したから、霊児はそれ以上追求せずに酒を飲んでいく。
霊児が酒を飲み始めたのを見計らったかの様に、

「それはそうと、一番厄介な相手は霊児だけだと思ってたんだけど……まさかあんなのが居るとはね……」

妹紅は自分の対戦相手である幽香を思い出す。
幽香の様な実力者が居たのは予想外だと言う様な事を妹紅が思っていると、

「それは私も同じよ」

幽香が二人の近くにやって来た。

「幽香……」

変にタイミングが良かったなと言う感想を霊児が抱いている間に、

「私も厄介なのは霊児と魅魔位だと思ってたのにね。予想外だったわ」

幽香は腰を落ち着かせて酒を飲み始める。
そして、酒を飲み干した瞬間、

「それにしても、こんなのと引き分けになるとはねぇ……」

幽香は意外そうな視線を妹紅に向けた。
どうやら、妹紅と引き分けた事に納得がいかない様だ。

「あら、こんなのとは言ってくれるじゃない。何ならここでキッチリと白黒を……着けましょうか?」
「あら、良い度胸じゃない」

二人が一触即発の雰囲気になったのを見て、

「お、おい……」

霊児が止めに入る。
ここで乱闘騒ぎを起こされると神社に被害が出てしまうからだ。
霊児が止めに入ったからか、元々ここで争う気が無かったからかは分からないが、

「分かってるわよ」
「酒の席でそんな無粋な事はしないわ」

二人は直ぐに一触即発の雰囲気を消し、何処からか酒樽を取り出して飲み比べを始めた。
暴れるのではなく酒の飲み比べなら神社に被害は出ないと安心した霊児は宴会場内を回って見ようと思い、立ち上がって周囲を見渡す。
そんな時、

「あれは……文か」

文の姿が目に映る。
何やら手帳に何かを書き込んでいる様だ。
書き込んでいる内容が気になったからか、霊児は文に近付き、

「よ、何書いてんだ?」

文にそう声を掛けた。

「あや、これは霊児さん」

霊児の存在に気付いた文は手を休めて顔を上げ、

「つい先程、夢美さんから色々とインタビューしましてね」

今行っている事の説明をし、嬉しそうな表情になる。
その表情を見て何かを察した霊児は、

「その内容を新聞にする気か?」

確認を取る様に新聞にする気かと問う。

「はい!! 異世界の人間を記事した記者など私以外には居ないでしょう!! これで"文々。新聞"の購読者数増加は間違い無しです!!」

文は新聞にする事を肯定し、またまた嬉しそうな表情を浮かべる。
確かに、文の言う通り異世界の人間を記事にした者など幻想郷では文一人だけであろう。
それならば興味本位で"文々。新聞"を購読する者がパラパラと現れるかもしれない。
霊児がそんな事を思っていると、

「霊児ー!!」

背後から霊児の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
その声に反応した霊児が後ろに顔を向ける。
後ろに顔を向けた霊児の目には、

「魔理沙」

魔理沙の姿が目に映った。
霊児が魔理沙の存在を認識したのと同時に、

「霊児!! この天ぷら私が作ったんだよ!! 食べて食べて!!」

魔理沙は天ぷらが乗った皿を突き出す。
どうやら、魔理沙は自分が作った料理を霊児に食べて欲しい様だ。
その天ぷらを見て何も食べていない事を思い出した霊児は、

「ああ、じゃあ一つ貰うぞ」

天ぷらを一つ手に取って食べ始める。

「ど、どうかな? 美味しい……かな?」

少し不安気な表情で美味しいかと尋ねた魔理沙に、

「ああ、美味い」

霊児は美味いと口にした。
すると、魔理沙は物凄く嬉しそうな表情になりながら、

「まだ沢山あるから、一杯食べてね!!」

天ぷらをもっと食べる様に霊児に勧める。

「あ、ああ」

魔理沙の気迫に負けたかの様に霊児は天ぷらを次々と食べていく。
そして、皿の上に乗っていた天ぷらを全て食べ終わった時、

「いやー、自然が多いからか野菜とかが美味いな」

ちゆりがやって来た。
手に持っている食べ物を見る辺り、適当に食べ歩きをしていた様だ。
ちゆりがやって来た事に気付いた魔理沙は、

「ちゆりは野菜を食べてたの?」
「そうだぜ。そう言えば、皿の上には何が乗ってたんだ?」
「天ぷらだよ」
「天ぷらかー……私も食べたかったぜ」
「あ、奥の方にまだあると思うよ」
「お、そうなのか。なら、後で探しに行くかな」

ちゆりと楽しそうに会話を始めた。
何時の間に仲良くなったのだろうか。
二人とも同じ金髪だから直ぐに仲良くなったのだろうか霊児が考えている間に、

「おや、これはちゆりさん。良い所に……」

文が笑みを浮かべながらちゆりに近付く。

「な、何だぜ?」

何か嫌な予感を感じ取ったからか、ちゆりが思わず一歩下がると、

「いえいえ、折角ですからちゆりさんにもインタビューをやって置こうと思いましてね」

文はインタビューを行うと言ってちゆりに近付く。

「インタビューって……さっきご主人にしてただろ」
「そうですが……夢美さんとは違った内容をちゆりさんから聞けるかもしれないじゃないですか」

要するに、文は新聞の内容を充実させる為にちゆりにもインタビューをしたい様だ。
文の目からどんな事をしてでもインタビューを受けて貰うぞと言う強い意志を感じたからか、

「はぁ……」

ちゆりは溜息を一つ吐いた。
そんなちゆりを見て、

「あはは……頑張って、ちゆり」

魔理沙は苦笑いを浮かべながら、慰める様にちゆりの肩に手を置く。
少々哀愁が漂っている感じのちゆりに文がインタビューを行っている中、霊児は酒を飲みたくなったので酒を探しに向かう。
取り敢えず、誰か酒を飲んでる者から貰おうと言う事を考えつつ周囲を見渡しなが足を進めて行くと、

「やれやれ、あんたの魔法に対する熱意は魔理沙にも負けてはいないね」

そんな声が霊児の耳に入った。
それが魅魔の声であると判断した霊児は魅魔の方に近付き、

「どうしたんだ?」

どうかしたのかと尋ねる。
すると、

「ああ、霊児かい」

魅魔が霊児の方に顔を向け、

「いや、何。さっきから質問攻めにあっててね」

魅魔は自分の後ろにいる存在に指をさす。
魅魔が指をさした方には、目をキラキラさせた夢美の姿があった。

「ずっと魔法の事やら何やら聞かれてね……」

何所か疲れた表情を浮かべている魅魔を余所に、

「ご機嫌だな」

霊児は夢美にそう声を掛ける。

「勿論よ!!」

夢美はご機嫌である事を肯定し、

「だって、魔法だけじゃなくて幽霊や妖怪と言った者達も存在してると言う確定情報が入ったのよ!! 機嫌が良くならない理由は無いわ!!」

機嫌が良い理由を説明した。
夢美の中では魔法だけではなく幽霊や妖怪も非常に興味を引く様であるのかと霊児が考え始めた時、

「ねぇねぇ、もっと色々と教えてよ!!」

夢美は魅魔にもっと色々と教えてと言う。

「分かった、分かったって」

魅魔は夢美の熱意に負けたと言った感じで様々な事を話し始めた。
この様子では酒を貰う事は無理だなと判断した霊児は周囲を見渡すと、

「お……」

静葉と穣子と椛の三人が一塊になって飲んでいる様子が目に映る。
あの様子なら酒を貰えると判断にした霊児は三人に近付き、

「よう、飲んでるか?」

そう声を掛けた。

「あ、霊児さん」

霊児の存在に気付いた椛が顔を上げたタイミングで、

「酒、貰っても良いか?」

霊児はそんな事を言いながら腰を落ち着かせる。

「あ、どうぞ」

椛は空の杯に酒を注ぎ、霊児へと差し出す。
差し出された酒を飲んだ後、

「お前等は何してたんだ?」

霊児は何をしていたのかと問う。
問われた事に、

「まぁ……一寸した反省会の様なものですね」

二人の話を聞いていた静葉が反省会だと口にする。
そして、

「例えば、私と姉さんが願いに釣られて行き成り戦い始めた事とかね」
「まぁ、私達の戦闘能力は大して高くないのだから組んで戦うのが得策であったでしょうにね……」
「私は……文さんとの連携不足でしょうね」

穣子、静葉、椛の三人はそれぞれ反省すべき点を口にしていく。
この反省点がもし、あの時活かされていたら戦いの行方が変わっていたかもしれない。
霊児がそんな事を考えいると、

「願いと言えば霊児、貴方も欲が無いわね。もっと大きな願いを叶える事も出来たでしょうに」

穣子はそんな事を言いながら霊児が着けているグローブに目を向ける。

「そうか?」

霊児が首を傾げると、

「どんな願いも……と言うのであれば、在り来たりですが山の様なお金をと言う様な願いも叶えられたでしょうに」

椛は在り来たりな願いを言う。

「金っつてもな……食っていく分には困ってないからな」
「まぁ、くちなわの口裂けと言いますからそれ位の願いが丁度良いのかもしれませんね」

霊児の発言を聞いた静葉がそう返した後、

「確かに、欲深い人間が身を滅ぼすって言う話は良くあるわね」
「そう言った意味では、霊児さん位の願いが妥当なのかもしれないですね」

穣子と椛が静葉に同意する様な発言をする。
それを皮切りにしたかの様に四人で適当に雑談をしていく。
雑談が一段落着くと酒が切れた事に霊児は気付く、酒を補充する為に席を立つ。
そして宴会場内を歩き回っていると、

「霊児!!」
「うおう!?」

突如、霊児は腰の辺りに衝撃が走った。
誰だと思いながら、霊児は自身の背後に顔を向ける。
顔を向けた霊児に目には、

「霊児ー……」
「にとりか」

にとりの姿が目に映った。
腰の辺りに衝撃が走ったのはにとりのせいかと霊児は判断し、

「どうしたんだ?」

どうかしたのかと問う。
すると、

「どうしたって……何で私に労いの言葉の一つも無いの!!」

にとりは何で自分に労いの言葉の一つも無いのかと言う文句の言葉を口にした。
文句を言うにとりの顔が赤い事からそれなりに酔っ払っている事を霊児が認識している間に、

「気絶した皆を全員神社に運んで、一息入れ様と思ったら皆起き始めて、そこから休む間も無く宴会の準備……私が一番頑張ったんだよ!!」

にとりは宴会が始まるまでの経緯を説明する。
その熱意に負けたからか、

「あー……分かった分かった。ありがとな。助かったよ」

取り敢えず礼の言葉を口にした。

「気持ちが籠もってなーい!!」
「分かった分かった。酌するから……な」

不機嫌なにとりを宥める為に霊児は近くにセットで置いてあった酒瓶と杯を使って酌をする。

「うんうん」

その行いに、にとりは満足したかの様に表情を緩めて杯に注がれた酒を飲んでいく。
結構簡単ににとりの機嫌が直った事に霊児は少し呆れながらも、

「ま、いっか」

霊児も酒を飲み始めた。





















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