「……っし、今日も完売」

人里でお守りやらお札やらを売り終えた霊児は一息吐くかの様にそう漏らす。
最初の頃は幾らか売れ残りがあったりしたものではあるが、今では完売するのが当たり前になって来た。
完売する様になったのは、霊児が作ったお守りやお札はかなりの効力があると言うのが知れ渡ったからだ。
おそらく、最初に買った者達が霊児のお守りやお札の良さを広めたのだろう。

「しっかし、作物とかも売れるものだな」

広げた風呂敷を畳みながら、霊児は作物に付いて呟く。
最近、霊児はお守りやお札以外にも神社の畑で採れた作物を売り始めたのだ。
博麗神社印の野菜や果物と言う名で。
作物も売り始めた理由として、野菜や果物が沢山採れる様になったからである。
沢山の野菜が採れる様になった原因は一つ。
秋静葉と秋穣子の秋の神様の二柱にある。
霊児があの二柱と仲良くなり、静葉と穣子が博麗神社に遊びに来る様になってから神社の畑で採れる作物の質と採れる量が上がったのだ。
特に季節が秋の時にはそれが顕著に現れている。

「ま、別個の収入源が得られたから万々歳かな」

霊児はそんな事を呟きながら畳んだ風呂敷を懐に仕舞う。
因みに秋以外の季節では秋と比べて採れる作物の質や量は劣るが、それでも結構な量の野菜を確保する事が出来ている。
霊児は秋になったら売れる量が増えるなと言う事を考えながら今日の売り上げを確認していると、

「斉主様、斉主様」

突如、自身の事を呼ぶ声が耳に入った。
その声に反応した霊児は顔を上げて声が聞こえて来た方に顔を向けると、人が良さそうな老人が目に映る。
この老人が声を掛けて来たのかと判断した霊児は、

「どうしたい、爺さん?」

老人にそう声を掛ける。
すると、

「少々御相談したい事があるのですが……」

老人は少々恐る恐ると言った感じで相談したい事があるのだと言う。

「相談したい事? 何だ、言ってみろ」

霊児が相談したい事を言う様に促すと、

「ありがとうございます。実はですな、最近家で奇妙な事が起きまして……」

老人は礼を言い、最近家で奇妙な事が起きているのだと口にする。

「奇妙な事?」

霊児が首を傾げると、

「ええ。急に変な物音がしたり、誰も居ないのに人影が見えたりと……」

老人は起きている奇妙な事に付いて話す。
老人の話を聞き、霊児は悪霊か怨霊が取り憑いているのでは考える。
とは言え、直接見ない事には答えは出ないと霊児は判断し、

「直接見た方が良いな。案内してくれるか?」

老人に自分の家まで案内する様に言う。

「分かりました」

老人から了承の返事を得られたので霊児は本日の売り上げを仕舞った後、霊児は老人に案内される形で老人の家と向かって行く。





















「さて……と」

老人の家に上がり込み、居間に着くと霊児は家の中をキョロキョロと見渡す。
その中で人の気配を感じなかった事から、

「爺さん、一人暮らしか?」

霊児は老人に一人暮らしかと問う。

「はい、そうです。結婚もしていません」
「へぇー、珍しいな」

老人から返って来た肯定の返事を聞き、霊児は少し驚いた表情を浮かべた。
何故ならば、目の前の老人程の年齢であるならば既に結婚して子や孫が居るのが当たり前の様なものだからである。
特に人里で生活しているのなら尚更だ。
別に結婚は義務と言う訳では無いのだから結婚していない者が居ても不思議では無いなと霊児は思い、頭を切り替える様にしてもう一度家の中を見渡すと、

「……ん」

霊児は何かに気付た。

「……どうでしょうか?」

老人が少々心配気な表情で霊児の顔を覗き込むと、

「半紙と墨と筆と硯と水はあるか?」

霊児は老人に半紙と墨と筆と硯と水はあるかと尋ねる。

「ええ、有りますが……」

老人は有ると言ってそんな物を何を使うんだろう言った表情を浮かべると、

「持って来てくれ」

霊児は持って来る様に言う。

「はぁ……分かりました」

老人は了承の返事をしてタンスの中から水以外の物を出し、卓袱台の上に置く。
その後、居間から出て水が入った桶を持って戻って来る。

「どうぞ」

老人が水を湯飲みに入れて卓袱台の上に置くと、霊児は硯に水を入れて墨を磨っていく。
墨を十分に磨り終えると霊児は半紙をそれぞれ四分の一程の大きさに切り、卓袱台の上に並べる。
並べ終えると、

「さて……」

霊児は筆を使ってそれぞれの半紙に何やら文字を書き込んでいく。
全ての半紙に文字を書き終えると、霊児は文字が書き込まれた一枚の半紙を手に取って立ち上がる。
そして大きな柱に近付くと、

「てい」

文字が書かれた半紙を柱に貼り付けた。
その瞬間、断末魔の様な悲鳴が周囲に響き渡る。
響き渡っていた悲鳴が聞こえなくなると、

「あの……今のは?」

老人は霊児に今の悲鳴は何なのかと問う。

「今の悲鳴は悪霊……と言える程の力を持ってない霊のものだ。そいつがこの家の取り憑いて悪さをしていたんだ。今、俺が作ったお札で弾き飛ばして
やったから、暫らくは不可解な現象は起こらない筈だ」

霊児が問われた事に答え、暫らくは安心だと言うと、

「それはありがとうございます」

老人は礼の言葉を述べながら頭を下げる。
老人が下げた頭を上げると、

「もう三枚作って置いたから、お札の効果が切れてまた出て来たら柱にでも貼っといてくれ」

霊児はお札の効果が切れたらこのお札を貼ってくれと言って三枚のお札を老人に差し出す。

「重ね重ね、ありがとうございます」

三枚のお札を受け取った老人が再び礼の言葉を述べて頭を下げると、霊児は再び周囲を探り始めていた。
そして、

「そこ!!」

ある場所目掛けて手を伸ばす。
伸ばした手に何かが触れた感触を得た霊児は、

「……よし」

それを掴み、伸ばした手を引き戻す。
引き戻した手には、

「痛い痛い痛い痛い!! 頭が潰れるー!!」

金色の髪に赤を基調とした服を着た妖精が掴まれていた。
霊児が掴んでいる妖精に目を向けていると、

「「サニー!?」」

別の妖精が二人現れる。
一人は同じく金色の髪をし、白を基調とした服を着た妖精。
もう一人は長くて黒い髪をし、白と青を基調とした服を着た妖精。
現れたのはこの二人だ。
三人組の妖精かと霊児が思っていると、

「何で見付かったの!? サニー!? ルナ!?」
「私、能力を解いてないわよ!!」
「私もよ!! て言うかルナ、貴女今能力解いてるでしょ!! と言うか助けてー!!」

三人の妖精は何やら言い合いを始めた。
会話から察するに、この妖精達の能力で姿を隠していた様だ。
三人が言い合いをしている間に、

「捕まえた」

霊児は一瞬で捕まっていない二人の妖精の背後に回り、二人の妖精の服の襟首に指を引っ掛けて捕まえる。
霊児に捕らえられた事で三人の妖精が顔色を青くすると、

「あ、あの……その三人の子供は?」

老人が驚きながら、霊児に三人の妖精の事に付いて尋ねる。

「妖精だ。妖精って言うのは悪戯好きでな」

霊児は三人の妖精を捕らえたまま老人に近付き、妖精に付いて説明していく。

「この家に入った時から妙な気配を感じていたんだ。てっきりさっき追い払った霊かと思ったんだが違ってな。で、霊を追い払った後のもう一度
探ってみたらこいつらを見付けたって訳だ」

そう言いながら霊児は捕まえている妖精を老人に見せ、

「大方、変な物音はこいつ等のせいだろ」

変な物音はこの三人の妖精せいだろうと言う。
すると、三人の妖精は目を泳がせ始めた。
どうやら、霊児の推察通りであった様だ。

「さて……どうしてくれ様か……」

口元を釣上げながら霊児がそう口にすると、三妖精を震え上がった。





















霊児が最初に捕まえた妖精はサニーミルク。
能力は"光を屈折させる程度の能力"。
次に捕まえた金色の髪をした妖精はルナチャイルド。
能力は"音を消す程度の能力"。
最後に、黒くて長い髪をした妖精がスターサファイア。
能力は"動く物の気配を探る程度の能力"。
この三人の妖精は自分達の能力を使って姿を隠し、悪戯を繰り返して来た様である。
それで今回、悪戯の標的に選ばれてしまったのがこの老人の家であったのだ。
最も、直ぐに霊児に発見されてしまったのだが。
悪戯の仕置きとしてサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人は霊児の拳骨を叩き込まれた。
これで今回の件は幕を閉じたのだが現在、

「この羊羹、美味しいわね」
「そうね、確かに美味しいわ」
「きっと高い羊羹なのよ」

何故かサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三妖精が霊児と一緒に茶を啜りながら羊羹を食べている。
霊児に関しては今回の件を解決してくれたお礼なのだろうが、何故この妖精達まで茶を啜って羊羹を食べているのだろうか。
答えは簡単。
老人が勧めたからだ。
三妖精に拳骨を喰らわせた霊児はこの三妖精の処遇を老人に委ねたら、老人は三妖精の事を許したのだ。
自分の家で悪戯を行ったこの妖精一味を許すとは、何とも人の良い老人である。
羊羹を食い、茶を啜っている間に霊児の頭にある考え過ぎった。
過ぎった考えと言うのは若しかしたら自分も含め、三妖精も孫の様に思われているのではと言うものだ。
この老人には伴侶が居らず、子も孫も居ないとの事なので霊児と三妖精をそう言う目で見ていても不思議では無い。
霊児がそんな事を考えていると、

「追加の羊羹をお持ちしました」

老人が追加の羊羹を持って来た。

「あら、気が利くじゃない」
「うんうん、苦しゅうない苦しゅうない」
「こう言う美味しい物は沢山食べても飽きないものね」

サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人は図々しい事を口にする。
それが目に余ったからか、

「お前等、もう一発拳骨してやろうか?」

霊児は脅しを掛けながら三妖精を睨み付ける。
睨み付けられた三妖精が震え上がると、

「まぁまぁ……」

老人が仲裁に入った。
仲裁に入った老人を見て、本当に人が良い爺さんだなと霊児は羊羹を食べ、

「……うん、美味い」

羊羹の感想を口にし、茶を啜って一息吐く。
そして霊児はこうして茶が飲めて羊羹が食えるので良しとする事にし、老人の家で寛ぐ事にした。






















「謝礼処か羊羹と西瓜まで貰っちまったな……」

神社に帰って来た霊児は手に持っている荷物も見ながらポツリとそう呟く。
霊児が手に持っている荷物と言うは問題を解決した家の老人から貰った物だ。
霊児としては謝礼だけでも良かったのだが、羊羹と西瓜も是非にと言って来たので貰って来たのである。

「羊羹は後で茶で啜りながら食うか」

羊羹の食べ時を決め、羊羹を戸棚の中に仕舞う。
その後、

「西瓜は……そうだ、腹減ってるからこれを昼食にするか」

西瓜を昼食にする事にして霊児は縁側へと足を進める。
縁側に着くと霊児は西瓜を降ろし、

「さて、まずは西瓜を切る必要があるが……」

チラリと左腰に装備してある短剣に視線を移す。
霊児はこれで西瓜を切ろうと考えたが、

「駄目だな……」

直ぐに却下する事となった。
何故ならば、この短剣は戦闘用に使っている物であるからだ。
洗浄や簡単な手入れと言った基本的な事はしているので、別に汚いと言う事を無い。
しかし、戦闘用に使っている得物で食材を切ると言う事は少々思うところがある。

「んー……あ、そうだ。この短剣を手に入れてから使う機会が殆ど無くなってからあれを忘れてたな」

霊児は思い出したかの様に右手を手刀の形に変え、そこから霊力を発生させて霊力で出来た剣を生み出す。
そして右腕を軽く動かし、

「……よし、久し振りに使ったけど問題は無いな」

問題無しと判断すると、霊児は西瓜に向けて腕を数回振るう。
すると、西瓜は綺麗に切り分けられた。

「完璧だな」

綺麗に切り分けられた西瓜を見ながら霊児は自画自賛をする様な事を呟き、霊力で出来た剣を消して西瓜を食べようとしたところで、

「あ、塩持って来るのを忘れてた」

塩の存在を思い出し、塩を取って来る為に台所へと足を運ぶ。
台所から塩を取った時、

「あ、台所には包丁が有ったんだよな……」

霊児は台所に包丁が有る事に今更ながら気付く。
自分の間抜けさに呆れながら霊児が縁側に戻ると、

「いやー、この西瓜美味しいですねー」

文が西瓜を食べながら縁側に座っていた。

「……何で居る?」

霊児が顔を引き付かせながら何故ここに居るのかと問うと、

「いやー、最近これと言ったネタが無かったので……」

文は最近ネタが無かったと言う事を口にする。

「それで俺の所に来たと?」
「ええ。そしたら見事に切り分けられた美味しそうな西瓜があるではありませんか」

つまり、ネタを求めて霊児の所にやって来たら見事に切り分けられた西瓜があったので勝手に食したとの事。
文の図々しさに呆れつつも、

「……まぁ、結構大きいのだから一切れ位は良いけどな」

霊児は何処か疲れた雰囲気でそう言い、腰を落ち着かせて西瓜に塩を掛けて食べ始めた。
文にどうこう言うより、腹を満たす事が最優先と考えた様だ。

「あ、塩貰いますね」
「はいはい」

文の塩をの要求に応えつつも霊児は西瓜を食べていく。
そして西瓜の種を飛ばしたりしていると、

「お、美味しそうな物を食べてるじゃないか」

そんな声が聞こえて来た。
その声に反応した霊児はまた来客かと思って顔を上げると、

「……魔理沙と魅魔か」

魔理沙と魅魔の姿が霊児の目に映る。
やって来たのは魔理沙と魅魔であった様だ。

「どうしたんだ?」

霊児がやって来た用件を尋ねると、

「いやね、この子が新しい魔法を習得してさ」

魅魔はそう言って魔理沙の頭を撫で、

「そしたらそれを霊児に見せたいって言ってさ」

魔理沙が新しく習得した魔法を霊児に見せたがっているのだと言う。

「えへへ……」

魅魔に頭を撫でられている魔理沙は少し照れ臭そうな表情を浮かべる。
魔理沙の頭から魅魔が手を離すと、

「あ、そうだ。お団子を作って来たんだよ。一緒に食べよ」

魔理沙は思い出したかの様に手に持っている包みを霊児に見せた。
おそらく、その中に団子が入っているのだろう。

「そうだな……一緒に食うか」

霊児が一緒に団子を食べる事を承諾すると、

「魔法や団子の前に、この西瓜を食べてからだね」

魅魔は先に西瓜を食べてからと言って西瓜に手を伸ばす。

「お前もか……」

少し呆れた様な視線を魅魔に向けると、

「……ん?」

霊児は西瓜を物欲しそうな目で見ている魔理沙に気付く。

「……魔理沙、お前も食ってけ」

霊児が何処か諦めた感じで魔理沙に西瓜を食べる様に勧めると、

「良いの?」

魔理沙は自分も食べて良いのか問う。

「こいつ等は好き勝手に食ってるからな。今更だろ」
「そうそう。こう言うものは皆で食べた方が美味しいですよ」
「こんだけ有るんだ。食い扶持が一人増えたところで変わりゃしないよ」

霊児が構わないと言うと、文と魅魔がそれに続ける様にしてそんな事を口にした。
文と魅魔の発言を聞いてそれは自分の台詞だろうと言おうとしたが、直ぐに言っても無駄だと悟って霊児は開き掛けた口を閉じる。
その間に魔理沙は霊児の隣に、魅魔は魔理沙の隣に腰を落ち着かせて西瓜を食べていく。
こんな感じで騒がしい一日が過ぎていった。















前話へ                                      戻る                                          次話へ