ルイズを倒してから暫らく進んで行くと、

「これは……」

今までとは違い、眼下に何かが広がっている事が見て取れた。
見て取れたものと言うのは大地だ。
先程までの様に上下左右真っ暗な空間が広がっている場所から大地が見える場所に来た事から、霊児は本格的に魔界に入って来たと感じる。
霊児だけではなく、他の面々も見えた大地に目を向けていく。
大地に目を向けていた面々の中で何かに気付いた文は、

「あれは何ですかね?」

あれは何だと言いながら少し奥の方に指をさし、進行を止めた。
文が止まった事で他の面々も止まる。
そして文が指をさした方に一同が顔を向けると、赤い色をした何かが見えた。

「建物……の様に見えるわね」

幽香が赤い色をした何かを建物の様に見えると口にすると、

「じゃあ、一番上に見えるのは屋根なのかな?」

魔理沙は一番上に見えるのは屋根なのかと問うて来たので、

「多分、そうだろうね」

魅魔が屋根で合っていると言う。
幽香、魔理沙、魅魔の会話を聞き、

「どうします? あそこに行ってみますか?」

文が霊児に見えている建物に行ってみるかと尋ねる。
尋ねられた霊児は少し考え、

「いや、無視して先に進もう」

赤い建物の様な無視して先に進もうと返す。

「おや、良いんですか? 何か情報が得られるかも知れませんよ?」

無視して先に進もうと返した霊児に文が何か情報を得られるかもと口にするが、

「いや、あそこに行って調べてもおそらく何の意味もないし何の情報も得られない」

霊児は行っても何かを得られる事は無いと自信満々に断言する。

「根拠は?」

自信満々に得られるものは何も無いと断言した霊児に文は根拠は何かと問うと、

「俺の勘」

勘と言う答えが返って来た。

「勘って……」

勘と答えた霊児に文が呆れた視線を向ける。
他の面々も呆れているだろうなと文は考えていたが、

「それなら、先に進んだ方が良いね」

そんな文の考えとは裏腹に、魅魔が霊児の勘は信じた方が良い言う様な事を口にする。
何を馬鹿なと言う想いが感じられる表情で文が魅魔の方に顔を動かす。
文の視線に気付いた魅魔は、

「博麗の名を冠する者は皆勘が良いからね。それは霊児も例外じゃない」

博麗の名を冠する者は皆勘が良いのだと言う。
そんな魅魔の発言に続く様に、

「私は霊児を信じるよ!!」
「私も魅魔と同意権ね。だから霊児の勘は信じるわ」

魔理沙と幽香も霊児の勘を信じる発言をする。
三人の霊児の勘を信じると言う発言を聞いた後、

「あー……私は過去の巫女とはそれ程親しかったと言う訳ではありませんでしたが、博麗の巫女は勘が良いと言う事は聞いた事がありましたね……」

文は博麗の巫女の勘が良いと言う事を思い出す。
文が口にした事を聞いた魅魔は、

「おや、そうだったのかい? 霊児と親しい様だったからてっきり過去の博麗の巫女とも親しいとものだと思っていたんだが……」

少し驚いた表情を浮かべる。
文は霊児と仲が良いのででっきり過去の博麗の巫女とも仲が良いものだと思っていたからだ。

「そうですね……少しは仲が良かった巫女もいましたが、霊児さんと同じ位に仲が良かった巫女は居なかったですねぇ。一概に博麗の巫女と言っても色々な
巫女が居ましたからね。例えば徹底的に人との係わりを断っていた巫女、まるで仕事をしない巫女、普段は無気力なのにお金にだけ異様な執着を見せる巫女、
妖怪を見付け次第速攻で殺しに掛かる巫女と言った感じで」

文が過去の博麗の巫女の一部を語った事で、

「ああ、そう言えばそんなのも居たわね……」

幽香も過去の博麗の巫女の事を思い出す。
その中で、

「花を観賞していたら行き成り攻撃をして来たものだから……文字通り軽く捻ってやったわ」

花の観賞中に攻撃を仕掛けられた事を思い出したからか、幽香の機嫌が若干悪くなる。
が、

「尤も、実力は霊児と比べたら月とスッポンだったけどね」

直ぐに機嫌を直して霊児の方に顔を向けた。
幽香の表情を見て幽香が何を言いたいのかを理解したからか、

「ははは……」

霊児は乾いた笑みを浮かべる。
そんな霊児を余所に、

「そう言えば、魅魔が昔戦ったって言う博麗の巫女ってどんな奴だったの?」

幽香は魅魔に昔戦った博麗の巫女はどんな奴であったのかを問う。

「私が戦った時の巫女かい。そうさねぇ……殺生や戦いと言ったものを好まない巫女だったねぇ。端的に言うのなら心優しい巫女だね」

魅魔は少し昔を思い出す様な表情をしながら自分が戦った巫女の事を口にし、だから自分は消滅しなかったのだと続ける。
文、幽香、魅魔の会話を聞いた魔理沙は、

「へぇー……色んな巫女が居たんだね。私は霊児しか知らないからよく分からないや」

自分は霊児以外の博麗は知らないからよく分からないと漏らす。
魔理沙が漏らした感想が耳に入った霊児は、

「俺も俺より前の博麗の事は知らないいけどな」

自分の前の博麗の事は知らないと言う。

「霊児も知らないんだ」
「まぁ、先代の博麗と霊児さんの間には結構な開きがあるので霊児さんが自分のより前の博麗の事を知らなくても無理はないですね」

魔理沙の発言に文がそう返すと突如霊児、幽香、魅魔の三人は進行方向上に手を向けて弾幕を放っていく。
すると、進行方向上に集まっていた低級以下の悪魔達が弾幕に当たって次々と撃ち落されていった。
どうやら、霊児、幽香、魅魔の三人は敵が近付いている事に気付いて弾幕を放った様だ。
霊児達三人が低級以下の悪魔達を撃ち落し終えると、

「やはり気付いていましたか。気付いていなかったら私が迎撃しているところでしたよ」

文は霊児達が気付かなかったら自分が迎撃していたと言いながらカメラのシャッターを切る。
魔界の風景を撮っている文の方に霊児は顔を向け、

「お前も少しは働けよ」

呆れた表情を浮かべながら働けと言う。

「いやー、そうは言っても私が出る幕なんて全然無かったじゃないですかー」

文が満面の笑顔で自分の出る幕は無かったと口にすると、

「……はぁ」

霊児は大きな溜息を一つ吐いた。
霊児が吐いた溜息に反応したかの様に、

「え? え?」

魔理沙は慌てて周囲を見渡す。
文と霊児の発言で漸く敵が近付いている事に気付いた様だ。
魅魔は慌てて周囲の様子を確認している魔理沙の頭に手を乗せ、

「喋ってる時でも周りの気配を探れる様にね」

そう言って頭を撫でる。
頭を撫でられた魔理沙は、恥ずかしさと嬉しさが入り混じった様な表情を浮かべていた。
魅魔に頭を撫でられて嬉しい反面、自分だけ敵の襲撃に気付けなくて悔しい様だ。
会話が一段落着いたからか、

「さて、お喋りはここまでにして先に進もうぜ」

霊児は先に進む様に言い、先へと進んで行く。
先へと進んで行った霊児に置いて行かれない様に魔理沙、魅魔、幽香、文の四人も移動を再開する。
進行方向に度々現れる低級以下の悪魔を順調に撃ち落としながら進んで行くと、

「妖精?」

妖精の集団が現れた。

「おお!! 魔界にも妖精が居るんですね!!」

妖精に姿を見た文は驚いた表情を浮かべながらシャッターを切っていき、

「あ、フィルム無くなった」

フィルムが無くなると直ぐにフィルムの交換を行う。
こいつの行動はブレ無いなと霊児が思っていると、

「……おっと」

妖精達が弾幕を放って来た。
弾幕を放って来た事で完全に敵意ありと判断した霊児は応戦するかの様に弾幕を放ち、妖精達を撃ち落していく。
簡単に撃ち落されていく妖精を見ながら、

「ふむ……魔界の妖精と言っても幻想郷の妖精と強さは然程変わらないんだな」

強さ自体は幻想郷の妖精と大して変わらないと言う判断を下すと、魔理沙、魅魔、幽香の三人も弾幕を放って妖精達を撃ち落していった。
因みに文は霊児達が弾幕を放っている様子を写真に収めるだけであったが。
と、この様に低級以下の悪魔だけではなく妖精までもが妨害行動を取って来たが霊児達の障害になりはしなかった。
低級以下の悪魔と妖精を倒しながら順調に進んで行くと、

「ん? 妖精……いや、今まで出てきたのとは雰囲気が違うな」

霊児達の進行方向上に一際強そうな妖精が現れる。
その妖精は現れるや否や、行き成り弾幕を広範囲に放って来た。

「……っと」

霊児達は散開して弾幕を避けて行く。
弾幕を避けながら霊児はさっさと倒して先に進もうと妖精に狙いを定めると、

「……消えた?」

妖精は掻き消える様に消えてしまった。
逃げたとは思えなかった霊児が妖精を探す為に周囲を見渡すと、

「ッ!?」

消えていた妖精が突然また現れ、一番近い場所に居た霊児に向けて大量の弾幕を放つ。
距離が近かった為か、

「ち……」

霊児は回避ではなく動きを止めて手の甲で弾幕を弾いて防ぐ事にする。
だが、動きを止めて弾幕を手の甲で弾くと言う方法を取ったお陰で、

「奴は攻撃し終わった瞬間に消え、再び現れて攻撃する。これの繰り返しか……」

霊児は妖精の攻撃パターンを完全に見切る事が出来た。
見切ったのなら後はさっさと倒すだけ。

「………………………………………………………………」

霊児は左手の甲で弾幕を弾いていくながらチャンスを待っていると、

「……来た」

チャンスは直ぐに来た。
妖精の姿が先程と同じ様に消えると、霊児は右手を拳銃の形に変えて次に妖精が現れるであろう場所に右手を向けながら指先に霊力を集中させ、

「……そこ」

妖精が現れたのと同時に霊力で出来た弾を一発だけ撃ち出す。
撃ち出された弾は妖精が現れたのと同時に着弾し、爆発と爆煙を発生させる。
そして、爆煙を突き抜ける様にして妖精は墜落していった。
それを見届けると、

「……こんなものか」

霊児はそう呟いて戦闘体勢を解く。
そのタイミングで、

「いやー、流石霊児さん。お見事でした」

文がお見事と言いながら霊児に近付いて来た。
霊児は近付いた文に顔を向け、

「また見物か……」

何処か諦めた様な視線を向ける。

「そうは言っても、手助けの必要性を全く感じなかったもので」

霊児の呆れた視線に返す様に文が手助けをする必要性を全く感じなかったと言うと、

「私は霊児が絶対勝つって信じてたよ!!」

魔理沙が極めて純粋な瞳で霊児が勝つ事を信じていたと口にする。
そんな魔理沙の発言を聞いた後、

「……お前もこれ位言えないのか?」

霊児は文に魔理沙の様に言えないのかと問うと、

「あやややや、勿論私も霊児さんが勝つと信じていましたよ」

文は取って付けた様に霊児の勝利を信じていたと口にする。

「はいはい」

適当に相槌を打った後、霊児は魅魔と幽香の方に顔を向け、

「そういや、お前等も俺に任せっ切りだったよ」

自分に任せっ切りである事を言うと、

「あの程度の相手、手を貸す程でも無かっただろう」
「降り掛かる火の粉は払う方だけど、私が払うに前に貴方が払いに行ったじゃない」

魅魔と幽香はそれぞれ手を出さなかった理由を言う。

「……本当は面倒臭かったから手を出さなかったんじゃないのか?」

霊児は手を出さなかったのは面倒臭かっただけではと口にすると、魅魔と幽香は露骨に霊児から視線を逸らす。
視線を逸らした二人を見て、魔界に来てから貧乏籤ばかりを引いてる気になったからか、

「……はぁ」

霊児は大きな溜息を一つ吐いた。

「おや、どうしました? 溜息を吐くと幸せが逃げると言いますよ」
「誰のせいだと……」

少しも悪びれた様子を見せない文に霊児が突っ込みを入れ様とすると、

「ねぇねぇ霊児、早く先に行こうよ」

魔理沙が霊児の手を引っ張って先に進む様に促す。
促された事で霊児は魔界にやって来た本来の目的を思い出し、移動を再開する。
当然、魔理沙、魅魔、幽香、文の四人も先へ進む為に霊児の後を追って行く。
移動を再開してから少しすると、

「……敵が出て来ないな」

霊児は今まで大量に出て来た低級以下の悪魔や妖精が出て来ない事に気付く。
考えられる可能性としては先程の妖精と霊児が戦っている様子を見てこの近辺の低級以下の悪魔や妖精達が適う訳が無いと思って身を潜めたと言うのが上げられる。
理由はどうあれ、霊児達は襲撃が無いの良い事に周囲の景色を楽しみながら先へと進んで行く。
今までとは違って一寸した観光気分で進んで行くと、

「お、あれは……」

少し遠くの方に大きな草原に流れる川、そして山と言った景色が見えて来た。
今までと違って自然溢れる景色が見えたからか、

「おー、これは中々に絶景ですね」

文は嬉しそうな表情を浮かべながらカメラのシャッターを切っていく。
霊児は写真を撮っている文を尻目に魔界にも自然が豊富な場所があるんだなと言う事を思っていると、

「……ん?」

進行方向上に見知った人物の後姿を発見した。
何でここに居るのか気になった霊児は発見した人物に近付き、

「こんな所で何をやってるんだ、アリス」

声を掛ける。
そう、霊児が発見した人物とはアリスであったのだ。
声を掛けられたアリスは振り返り、

「霊児……だけじゃないわね。霊児含めて五人かしら……」

少し驚いた表情を浮かべる。
どうやら、霊児達がここに居る事はアリスにとって予想外であった様だ。
二人がお互いの名前を知っていた事から、

「……霊児、この人と知り合いなの?」

魔理沙は霊児に知り合いなのかと尋ねる。

「ん? 魔理沙はアリスと会った事ないのか?」

魔理沙の方に顔を向けて霊児がアリスと会った事ないのかと口にすると、

「ああ、貴女が魔法の森に新しく住み始めた魔法使いね。私はアリス・マーガトロイド。貴女と同じ魔法の森に住む魔法使いよ」

アリスは魔理沙が魔法の森に住み始めた魔法使いだと理解し、自己紹介を行う。
アリスの自己紹介を聞いた霊児が結局魔理沙とはあれから会ってなかったのかと思っていると、

「あ、私は霧雨魔理沙です」

魔理沙も自己紹介を行った。
互いの自己紹介が終わったからか、

「それで、貴方達は魔界に何しに来たのかしら?」

アリスは霊児達に魔界にやって来た理由を尋ねる。

「俺としてはお前が魔界に居る理由を知りたいんだが……まぁ、良いか。実は……」

霊児はアリスが魔界に居る理由が知りたいと口にしながらも、魔界に来た理由を言う。
霊児から魔界に来た理由を聞いたアリスは、

「ふむ……成程……魔界に来た理由は私と同じか……」

自分と同じかと呟いて何かを考え始める。
アリスの発言から察するに、魔界にやって来た理由はアリスも霊児達と同じ様だ。
目的が同じならアリスも霊児達と一緒に行く事になると思われたが、そうはならなかった。
何故ならば、

「……その件に関しては私が話を付けるから、貴方達は帰りなさい」

アリスが霊児達に帰る様に言ったからだ。
帰る様に言ったアリスに反発するかの様に、

「そうはいきませんね。まだ魔界の写真などを全然撮っていないのですから」

文は魔界の写真を全然撮っていないのだから帰れないのだと言う文句を口にする。
それを皮切りにしたかの様に魔理沙、魅魔、幽香の三人も文句の言葉を言おうとしたが、この三人に喋らせては話が進まなくなると感じた霊児は一歩前に出て、

「何で俺達を帰そうとする?」

他の三人が何かを言おうとする前に自分達を帰そうとする理由を問う。
霊児の言い分は尤もだと思ったからか、

「魔界は貴方達が思っているよりずっと危険な場所だからよ」

アリスは霊児達を帰す理由を話す。
要約すると、霊児達に危険な目に遭って欲しく無いと言う事だろう。
だが、そう言うアリスはどうなのだろうか。
魔界が危険な場所であるのなら、アリスも危険な筈である。
その事を指摘し様とした時、霊児の頭にある事が過ぎった。
過ぎった事と言うのはアリスは魔界の上層部の者と知り合いとなのでは言う事だ。
なので、

「お前、魔界のお偉いさん……若しくはトップと知り合いなのか?」

霊児は頭に過ぎった事をアリスに尋ねる。
尋ねられたアリスは少し驚いた表情を浮かべ、

「そう……ね、それなりの付き合いはあるわ」

知り合いである事を認める様な発言をして一息吐き、

「それと、魔界には貴方達が思っている以上の実力者が存在するの」

魔界には霊児達が思っている以上の実力者が存在するのだと言う。

「実力者?」

霊児が首を傾げると、

「そう。特に貴方の言う魔界のお偉いさん……トップはね」

アリスはかなり神妙な顔をしながら代表的な実力者として魔界のトップの事を口にする。

「……そんなに強いのか?」

神妙な顔をしながら魔界のトップの事を口にしたアリスが気になったからか、霊児がどれ程の強さを持っているのか聞くと、

「……この魔界のトップと言える者の名は神綺。魔界と言う世界を含めて魔界の全ては彼女が創ったの。要するに魔界の創造神よ」

アリスは魔界のトップの名は神綺で創造神である事を口にした。
確かに、この魔界と言う世界も含めて魔界の全てを創った存在だと言うのであれば相当な力を有している事位は容易く想像出来る。
だからか、

「あら、それは面白そうじゃない」

幽香は嬉しそうな表情を浮かべた。
強敵と戦える事になりそうだから嬉しいのかもしれない。
そんな幽香を見て、

「貴女が行ったら色々と拗れそうな気がするんだけど……」

アリスは頭を押さえながら何処か呆れた表情を浮かべる。
幽香と魔界の創造神である神綺が出会った場面まで想像したからか、アリスの表情が呆れから不安に変わっていった。
が、直ぐに表情を戻し、

「……それは兎も角、彼女は少し気分屋なところがあるから下手に機嫌を損ねる様な事をすれば大変な事になるわ」

アリスは魔界の創造神である神綺は気分屋である事を霊児達に教え、

「けど、さっきも言った様に私は魔界の創造神である彼女とは面識がある。少なくとも私なら彼女の機嫌を損ねる様な事にはならない」

自分なら神綺の機嫌を損ねる様な事にはならないと言う。
確かに、アリスの言う事は理に適っている。
神綺の事を全く知らない霊児達よりも神綺の事を知っているアリスに任せた方が良いだろう。

「……成程、お前が俺達の事を心配しているのはよく分かった」
「べ、別に心配してる訳じゃ……」

霊児の発言を聞いたアリスが少し頬を赤らめると、霊児は左腰に装備している短剣のリングに左手の中指で引っ掛けて短剣を浮かび上がらせ、

「だが、俺達の中にはいそうですかと言って帰る奴は一人も居ない様だぜ」

浮かび上がった短剣を左手で掴み、自分達の中で大人しく帰る者は居ないと口にする。
その言葉を受けたアリスが霊児達の方に顔を向けると、魔理沙も幽香も魅魔も文も皆が皆先に進むと言う目をしていた。
無論、霊児も。
引く気が無い五人を見てどうしたものかとアリスが考えていると、

「それにこいつ等は兎も角としても、俺は今代の博麗……七十七代目博麗として来てるんだ。帰れと言われて帰る訳にはいかない」

霊児は他の面々は兎も角、自分は博麗として来ているのだから帰る訳にいかないと言う。

「……一寸意外ね。面倒臭がり屋の貴方なら丸投げしても可笑しく無いと思ってたけど」

霊児の言い分を聞いたアリスが少し驚いた表情を浮かべながらそう言うと、

「生憎、何か異変が起きた際には解決に向かうのが博麗としての義務の様なものだからな。誰かに丸投げする事は出来ないんだよ」

霊児は事が起きた際には博麗である自分は解決に向かわなければならないと返す。
そして続ける様に、

「それと、幻想郷を護る為には俺が直接魔界のトップ……神綺って奴に会う必要があると感じている」

幻想郷を護る為には自分が神綺と会う必要がある事を感じているのだと言う。

「幻想郷を護る為……ね。それも博麗としての義務?」

幻想郷を護ると言うのも博麗としての義務かとアリスが問うと、

「俺は自身の役目を幻想郷を護る事だと捉えているが、別にこれは俺が博麗だからって訳じゃ無い。幻想郷を護ると言うのは他の誰でもない、俺自身の意思だ」

霊児は博麗としての義務ではなく自分自身の意思だと口にする。
幻想郷を護るのは自分自身の意思だと言った霊児から極めて強い信念の様なもの感じたからか、

「決意は固い様ね……良いわ」

アリスは何処か諦めた様な笑みを浮かべ、

「ここから先に進める力があるかどうか、私が確かめて上げるわ!!」

先に進む実力が有るかどうか確かめると言って無数の人形を展開させた。
無数の人形を展開させたアリスの雰囲気から今まで出て来た者達とは文字通り格が違うと言った事を感じ取ったからか、

「……手を貸そうか?」

魅魔が手を貸そうかと言う。
しかし、

「いや、俺一人で十分だ」

霊児は自分一人だけで十分だと返し、

「それに、アリスは俺の実力を知りたい様だからな。俺一人でやった方が後腐れ無いだろ」

アリスは自分の実力を知りたい様だと言う事を伝える。
その事を伝えられた魅魔は先程の霊児とアリスのやり取り思い出し、

「……確かに、あんた一人に任せた方が丸く収まりそうだね。取り敢えず気を付けなよ。あの子、今までの奴等とは文字通り格が違う様だからさ」

霊児に任せる旨と気を付けろと言う事を口にして二人から距離を取った。
そんな魅魔に続く様に、

「頑張ってね、霊児!!」
「魔界に来てから碌な奴と戦えてはいないけど……まぁ良いわ。奥の方に行けばもっと強い奴が居るでしょうからアリスの相手は霊児に譲って上げるわ」
「私は霊児さんのご活躍を確りとカメラに収めさせて頂きますよ!!」

魔理沙、幽香、文が言いたい事を言って後ろのに下がる。
まともに霊児の応援をしているのは魔理沙だけではあるが、気にしないのが吉であろう。
魅魔、魔理沙、幽香、文の四人が十分に距離を取ったの感じた霊児が構えを取ると、

「準備が完了した様ね。それなら……いくわよ!!」

アリスは展開させた人形でランスを持たせているものを一斉に霊児に突撃させる。
突撃を仕掛けて来た人形を避ける為に霊児は高度を上げ、お返しと言わんばかりにアリスに向けて弾幕を広範囲に放つ。
放たれた弾幕を避ける為にアリスは大きく回避行動を取るだろうと霊児は考えたが、そうならなかった。
何故ならば、

「何……」

アリスは今居る場所から動かずに自分に当たるであろう弾幕を全て盾を持たせている人形で防いったからだ。
完全に見切られてる。
そう判断した霊児が弾幕を放つのを止めると、盾を持った人形の後ろから別の人形が出て来て霊児の向けてレーザーを放つ。
迫って来るレーザーを霊児は短剣の腹で受け止め、弾く様に振るって防いでいく。
受け止めた感触からレーザーの出力はそこまで高くないと言う事を感じた瞬間、

「ッ!!」

霊児は体を逸らす。
背後からランスを持った人形が何体か迫って来たからだ。
どうやら、霊児の意識がレーザーに向かっている間にアリスは人形を霊児の背後に向かわせていた様である。
レーザー及びランスを持った人形の突撃を避け、防がれた事にアリスは気にした様子を見せずにレーザー放つ人形とランスを持った人形の数を増やす。
そして、仕上げと言わんばかりにレーザーの出力と攻撃スピードを上げて再度霊児に向けて攻撃を仕掛ける。
レーザーとランスを持った人形の突撃を避けながら、

「よく、これだけ数の人形を同時に操れるな」

霊児はアリスの人形を操る技能の高さを褒める様な事を呟く。
すると、

「この程度の数の人形を操る事位、人形遣いである私に取っては朝飯前よ」

アリスは涼しい表情で朝飯前と返しながら攻撃に参加させていない人形の配置を変える。
現在、アリスが展開させている人形は三十数体程。
アスリの表情から今操っている人形の数倍程の数の人形は確実に操れるだろうと思いながら、霊児はどう攻めるか考えていく。
遠距離戦では先程の様に盾を持った人形に攻撃を防がれてしまうだろう。
逆に近距離戦を行おうにもアリスに近付く前に人形に邪魔されるのが目に見えている。
二重結界式移動術で移動する為に短剣を投擲しても、同じ様に防がれたり弾かれたりする事だろう。
二重結界式移動術ではなく純粋なスピードで錯乱してからの攻撃と言う方法もあるが、人形の数が数だ。
確実に人形の探知範囲内に入り、アリスに気付かれてしまう事だろう。
下手をしたら警戒したアリスが人形の数を増やすと言う事態になるかもしれない。
思っていた以上に隙が無いなと思いつつ、

「封魔陣ならなんとかなるんだろうけど……」

霊児はこの状況を打開出来る技名を呟く。
封魔陣と言う技はお札を投げ、投げたお札を無数に増殖させると言うもの。
封魔陣一つで攻撃、防御、移動制限の三つを行えるのだ。
しかもお札自体は紙で出来ているので薄い。
これならば人形の間を縫う様にしてアリスに直接当てると言う事も可能だろう。
だと言うのに何故霊児は封魔陣を使わないのか。
答えは、

「封魔陣用のお札……ちゃんと作って置けば良かった……」

封魔陣用のお札を作っていないからである。
封魔陣用のお札には書き込む術式などが多く、それを面倒臭がった霊児は封魔陣用のお札を作らなかったのだ。
霊児は作って置かなかった事を少し後悔したが、後の祭りである。
これでは完全に打つ手は無くなったと思われるが、実はそうでは無い。
例えば霊力を全力で解放をして力尽くで突破するとか、人形を貫くやり方で短剣を投擲するとか、夢想封印・乱で人形を全て破壊すると言った方法。
これらの方法なら現状の打開は可能だが、霊児はこの方法を取る気は無い。
何故ならば、神綺の存在があるからだ。
神綺は魔界の全てを創ったと言う魔界の創造神。
その力は間違いなく絶大であろう。
今後の展開次第では神綺と戦う事になる可能性があるが故に、霊児は力を温存出来る場面では極力温存して置きたいのだ。

「……ずっと攻撃しないで回避しているだけの様だけど、打つ手が無いのかしら?」

攻撃をせずに回避行動だけを取っている霊児にアリスが打つ手には無いのかと問うと、

「さてな。それより、さっきから俺に攻撃が当たってないぞ。ちゃんと狙ったらどうだ?」

霊児は曖昧な返事をしつつ、攻撃が当たっていない事に対する挑発を行う。

「安い挑発ね」

アリスは涼しい表情で安い挑発と返す。
やはりこの程度の挑発には乗らないかと霊児が思っていると、

「でも……このまま状況が動かない攻撃を行い続けるのは只の魔力の無駄遣いね……」

アリスはこのまま攻撃を行っても魔力の無駄遣いになると言いながら展開している人形の数を増やす。
そして、

「だから、貴方の挑発に乗って上げるわ」

挑発に乗ると言って新たに展開させた人形を霊児の攻撃へと回した。
具体的に言うとレーザーを放つ人形とランスによる突撃を行う人形の数を倍にし、新たに人形から弾幕を放たせる事をしたのだ。

「ッ!!」

攻撃の頻度が大幅に跳ね上がった事に霊児が少し驚きの表情を浮かべるも直ぐに表情を戻し、距離を取りに掛かる。
が、

「……ちっ!!」

アリスの人形達は直ぐに霊児に追い付いて攻撃を仕掛けて来た。
迫り来るレーザーは体の位置をずらし、ランスによる突撃は体を捻らせ、弾幕は短剣で斬り払うと言う方法で霊児はアリスの攻撃を避けて防いでいく。
攻撃の頻度が大幅に上がって事でアリスは少し焦っているのではと霊児は一瞬考えたが、

「……それはないか」

直ぐにそれは無いと断じる。
断じた理由としてランスを持たせた人形による近距離攻撃及び包囲網、遠距離攻撃を行う人形、有事の際に備えた人形と言う陣形が欠片も崩れてないからだ。

「やるべきか……」

このままではジリ貧だと感じた霊児は多少のダメージや消耗を無視して勝負を決めに掛かるべきかを思案し始める。
霊力を解放した状態で強引に突き進めばアリスに肉迫する事は十分に可能だ。
当然、アリスは自分の懐に入られた時に対する手の一つや二つは持っているであろう。
だが、それでも現状から脱する事が出来るのならやる価値は十分にある。
唯一の懸念は受けるダメージと消耗度合いであるが、

「……アリスのミスで陣形が崩れるのを待つよりはずっと良いか」

アリスのミスを待って無駄に時間を浪費するよりはずっと良いと言う事で多少のダメージや消耗は無視すると言う結論を出す。
神綺と戦う事になった際の懸念を頭から追い出し、霊力を解放し様としたところで、

「……いや、待てよ」

霊児はある事を思い付く。
思い付いた事と言うのはアリスのミスを待つのではなく、ミスを誘発すると言う事だ。
ミスを誘発させる事が出来れば、強引に突破する必要は無い。
問題は霊児が仕向けたミスに引っ掛かってくれるかと言う事だが、

「ミスらなくても一瞬だけでも俺から意識を逸らせれば……」

一瞬だけでも自分から意識を逸らせれば十分だと感じたからか、霊児は力尽くでの突破から今考えた作戦にシフトさせ、

「……よっと」

ランスを持った人形の突撃を避けた後、霊児は大きく距離を取る様に一直線に移動をする。
一直線に移動した霊児に当然の様にレーザーと弾幕が飛んでいく。
迫って来たレーザーと弾幕を避ける素振りを霊児は見せずに両腕を交差させる。
その数瞬後、レーザーと弾幕は霊児に着弾して爆発と爆煙が発生した。

「……当たった?」

レーザーと弾幕が当たったの見たアリスは訝しげな表情を浮かべる。
今の攻撃、霊児なら避けられた筈であるからだ。
霊児の表情から疲労の色は見られなかった事から、態と攻撃を受けた可能性が高いと言う事をアリスが考えた時、

「ッ!!」

爆煙の中から爆煙を纏った何かが飛び出して来た。
爆煙の中から飛び出して来たものなど霊児しかいないと判断したアリスは霊児の進行方向上に攻撃に参加させていなかった人形を配置させる。

「人形の配置が薄い方に向かって攻撃を行おうとしたのだろうけど、当てが外れた様ね」

アリスが霊児に狙いが外れたと言う事を言った瞬間、

「え……?」

爆煙の中から飛び出して来た霊児と思われたものがアリスの人形に突き刺さった。
そう、突き刺さったのだ。
そこでアリスは気付く。
飛び出して来たものは霊児ではないと言う事に。
気付いたの同時に纏わされていた爆煙が晴れ、

「短剣に……羽織り?」

アリスは自分の人形に突き刺さっているものが短剣と羽織であると知る。
因みに羽織は短剣の柄頭のリングに結ばさっていた。
短剣に羽織りが結ばさっていた事で大きく見えた為、アリスは飛び出して来たものが霊児であると誤認してしまったのだ。
アリスが爆煙の中から飛び出して来たのが霊児では無いと知った時、

「ッ!!」

アリスの近くを何かが通る。
通ったものが何か確認する為にアリスが顔を動かそうとした瞬間、

「動くな」

そんな霊児の声と共にアリスの首に短剣がそえられていた。

「い、何時の間に……」

自身の背後に回った事を全く感知出来なかったアリスが驚きの表情を浮かべながら何時移動したのかを問うと、

「たった今だ」

たった今だと返す。
返された言葉から先程自分の傍を通った物に秘密があるのだろうとアリスが考えた時、

「さぁ、どうする」

霊児はどうするかと口にする。
それを聞いたアリスは霊児が如何なる手段で自身の背後に回ったのかを考えるを止め、現状を冷静に分析していく。
ここまで密着された状態で下手な動きを見せれば容易く首を斬られてしまう事だろう。
かと言ってこの状態から逃れる為に人形で霊児を攻撃させたとしても、攻撃が当たる前に霊児は確実に気付く。
抜け出せる方法が見付からなかったからかアリスは溜息を一つ吐き、

「私の負けよ」

自身の負けを認める発言を行った。





















「俺が勝ったんだから、文句は無いな?」

霊児は人形に突き刺さっていた短剣を回収し、羽織を着直しながら文句は無いなと言うと、

「負けた私に何かを言う資格は無いわ。この件に関しては貴方達に任せるわ」

アリスは負けた自分に何かを言う資格は無く、この件は霊児達に任せると返す。
その後、

「この先をずっと真っ直ぐ進んで行けば目的の人物に会える筈よ」

アリスは進むべき場所を指でさし、

「しつこい様だけど貴方達が会おうとしている魔界の創造神、神綺は想像を絶する力の持ち主よ。下手に機嫌を損ねる様な事はしないでね」

改めて神綺に気を付ける様な事を言う。

「ああ、分かった」

霊児が分かったと返すと、

「約一名、危なさそうなのが居るけど……」

アリスは何処か心配気な表情を浮かべながら幽香の方に顔を向ける。
顔を向けられた幽香は、

「失礼ね、私の目的は神綺と言う輩に文句を言うのが半分。もう半分は魔界の花を見る事よ」

自分の目的を口にし、アリスが指をさした方へと飛んで行く。
飛んで行った幽香に続く様にして、

「それじゃ、またね」
「同じ魔法の森に住む者同士、この子と仲良くしてやってくれ」

魔理沙と魅魔がアリスにそう声を掛け、幽香の後を追って行き、

「いやー、これは良い記事が書けそうです!!」

文は満面の笑顔を浮かべながら幽香、魔理沙、魅魔の後を猛スピードで追って行った。
飛んで行った四人の姿を見送った後、

「……随分と個性的なメンバーね」

アリスはそんな感想を漏らす。

「……否定はしない」

霊児は何処か疲れた表情を浮かべながら否定はしないと言い、先に言った四人の後を追って行く。
魔界の奥へと進んで行った五人の姿を見送った後、

「まさか……あれ程とはね……」

ポツリとそんな事を呟いた。
今回の戦闘が霊児とアリスの初戦闘である。
博麗と言う事と嘗て魔法の森で巨大な茸型妖怪を一撃で倒した事から、アリスは霊児が強いと言う事は容易く予想出来ていたが、

「流石に強さの底が全く見えないとは思わなかったわ……」

強さの底が全く見えない事は予想出来なかった。
霊児の強さなら魔界でも平気でやっていけるだろう。
だが、霊児達が会おうとして神綺の強さまた底が見えない。
もし、霊児と神綺が激突する様な事態なったら大変な事になるだろう。
だと言うのに、アリスは大して心配はしていなかった。
それは霊児が今代の博麗であるからか。
それとも、霊児が博麗霊児であるか。
とちらかなのかはアリスには分からない。
唯、

「何とかしてくれる……ってすんなり思えるのは霊児の凄い所なのかしら?」

霊児なら何とかしてくれると言う事だけは分かった。
尤も、戦い始める前はそんな事は思わなかったのだが。
今、そう思えるのは戦って霊児の強さの一端に触れたからだろうか。
見た目は普通の男の子の様なのに、その様に思わせてくれる霊児にアリスは素直に凄いと思いつつ、

「……さて、後は彼らに任せたのだから私は素直に幻想郷へと帰りましょうか」

幻想郷の方へと進路を変え、飛んで行った。
























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