ユキとマイを倒し、移動を再開してから暫らくすると、

「おや、また暗い空間に出ましたね」

霊児達はまた上下左右が真っ暗な空間に出た。
これまでの道中でも大地などと言ったものを覗けば見える色は黒ばかりであったからか、

「魔界って暗い場所が多いのかな?」

魔理沙はその様な感想を漏らす。

「かもな」

霊児がそれに同意する様な事を言った瞬間、

「私は夜の闇の中の様な暗のは好きだけど、もう少し明るくても良いと思うけどねぇ」
「ですが、全体的に暗い方が魔界って言う感じはしますね」

魅魔と文がそれぞれそんな事を口する。
途中から軽い雑談を交わしながら先へと進んで行く。
それから幾らかの時間が経った時、

「……っと」

妖精達が現れて弾幕を放って来た。
霊児達は道中で妖精が現れて襲い掛かって来るのはお約束になって来たと言う感じを受けながらも散開し、弾幕を放って妖精達を撃ち落していく。
無論、文以外。
そして妖精を一掃し終えると、

「んー……奥の方へ行けば行く程に妖精が強くなってるな」

霊児は一息吐きながら妖精が強くなって来たと言う。

「そうですね……放たれる弾幕量が最初の頃と比べたら激増してますね。写真を撮りながらと回避……と言うのは少し厳しくなって来たかもしれませんね」

文も霊児と同じ様に妖精が強くなって来たと言いながらカメラのフィルムを交換していく。
口では厳しいと言っているが、文の表情を見るにまだまだ余裕そうだ。
しかし、そんな文とは裏腹に、

「魔理沙、大丈夫かい?」
「は、はい!! 大丈夫です、魅魔様!!」

魔理沙は少々息を荒げ、苦しそうな表情を浮かべている。
殆ど休みなしで移動と戦闘を何度も行って来たので魔理沙が疲労を感じ始めても無理は無い。
魔界の創造神である神綺に会うまで後どれだけ進めば良いのか分からないので魔理沙に幻想郷に戻る様に言った方が良いかと考えたが、

「……いや、大丈夫か」

魔理沙が限界なら魅魔が戻る様に言うだろうから自分がそう言う必要は無いなと思い、霊児は考えていた事を頭の隅に追いやる。
とは言っても、魔理沙の疲労が溜まっている事と休み無しで進んで来たのは事実なので、

「ここまで休みなしで来たし……一旦休憩しないか?」

霊児はここで一旦休憩にしないかと言う提案を行う。

「そうですね……確かにここまで休みなしで来たし休憩するには良い機会ですね」
「だね。魔理沙の疲れて来ている事だし……休憩にしよう。良いね、魔理沙」
「は、はい。良いです」

文、魅魔、魔理沙の三人が休憩する事に賛成したので、霊児達は休憩を取り始める。
休憩を取り始めてから暫らく時間が経つと、

「よし、そろそろ先へ進むか」
「そうですね、もう十分休めましたしね」
「休憩は終わりの様だよ、魔理沙。もう行けるかい?」
「はい!! 大丈夫です!!」

霊児達は再び先へと進み始めた。
移動を再開してから少しすると、

「……ん?」

今まで霊児達の進行方向上に大量に出て来た妖精とは違い、一際強そうな妖精が一体現れる。
その妖精は現れるのと同時に、霊児に向けて大量に弾幕を放って来た。
霊児に向けて放って来たのは、一番近くに霊児が居たからであろう。

「……っと」

霊児は弾幕と弾幕の間にある隙間に体を滑り込ませながら妖精が放つ弾幕を避け、妖精の様子を伺っていく。
妖精は消えたり分身と言った事をせず、普通に移動して大量の弾幕を放っている。
何らかの特殊な能力と言ったものは持っていない様だが、代わりに基本能力は今まで出て来た妖精よりもずっと高い。
そう判断した霊児は小細工は無用と言わんばかりに右手を拳銃の形に変え、指先に霊力を集中させていく。
ある程度指先に霊力が集まると霊児は右手を妖精の方に向け、霊力で出来た弾を放つ。
放たれた弾は妖精が放った弾幕を蹴散らしながら突き進んで妖精に激突し、妖精と一緒に何処かへと飛んで行った。
飛んで行ったそれが見えなくなった辺りで、

「ふぅ……」

霊児は一息吐く。
すると、

「いやー、流石霊児さんですね」

文は笑顔を浮かべながら近付いて来た。
表情から察するに、また写真を撮っていた様だ。
何所までも自分のペースを貫く文に霊児が感心とも呆れとも言える表情を浮かべてた時、

「ゲホ、ゲホゲホ!!」

魔理沙が急に咳き込み始めた。
咳き込み始めた魔理沙に、

「どうした、大丈夫か?」

霊児は大丈夫かと声を掛けながら魔理沙に近付くと、

「これは……魔界の瘴気のせいだね」

魔理沙の容態を見た魅魔は、魔界の瘴気のせいで咳き込んでしまっているのだと判断する。

「瘴気?」

魔理沙が咳き込み始めた原因が瘴気のせいだと聞いた霊児は周囲を探り、

「…………確かに、瘴気が在るな」

瘴気が在る事に気付く。

「気付いてなかったのかい。まぁ、あんた程の実力が有るのなら魔界の瘴気何て意味を為さいだろうけどさ……」

魅魔は少し呆れ顔になりながら、霊児程の実力が有れば魔界の瘴気何て意味を為さないと言う。

「私も魅魔さんも魔理沙さんも幽香さんも魔界に突入した時から瘴気が存在している事に気付けたと言うのに、霊児さんが気付いていなかった
とは……豪胆と言うか流石は今代の博麗と言うか何と言うか……」

そう言いながら文は霊児に呆れた表情を向けた後、

「処で、魔理沙さんは大丈夫なのですか?」

魅魔に魔理沙の容態を尋ねる。
尋ねられた事に、

「現状では咳き込むだけ済んでるけど……魔界の瘴気は奥に行けば行くほど強くなるからねぇ。神綺ってのがもっと奥に居るのなら……咳き込むだけじゃ
済まないだろうね。今の魔理沙の容態を見るにこれ以上先に進んだら……最悪死ぬね」

魅魔はその様な答えを返す。
最初の方は問題なかったが、ここに来て瘴気が魔理沙に影響を与える強さになった様だ。

「よし、私は魔理沙を連れて幻想郷に戻るから後はあんた達で……」

魅魔が魔理沙を連れて幻想郷に戻ると言う事を口にすると、

「み、魅魔様。私はまだ……大丈夫……です」

魔理沙は自分はまだ大丈夫だと言う。
しかし、それが強がりである事は誰の目から見ても明らかであり、

「魔理沙、解っているだろ」

魅魔に解っているだろうと言われた魔理沙はそれ以上言葉を紡ぐ事は出来なかった。
魔理沙も本当は解っていたのだ。
これ以上先に進んでも霊児の足手纏いにしかならない事を。
だからか、魔理沙は泣きそうな表情を浮かべながら顔を俯け、

「……ごめんね、霊児。全然力に成れなくて」

霊児に力に成れなくてごめんと謝る。
魔理沙が魔界に来た理由は魅魔に勧められたからと言うのもあるが、それ以上に霊児の力に成りたいと言うのがあったのだ。
その様な想いを抱いて魔界に来たと言うのに、大して霊児の力になれなかった。
それを理解しているからこそ、魔理沙はそんな表情を浮かべているのだ。
霊児は俯いてる魔理沙に近付き、

「何言ってるんだ。お前が居なかったら、ここまで来るのにもっと苦労してたかもしれないんだ。十分力に成ってくれたさ。ありがとな、魔理沙」

十分力に成ってくれたと言う。
すると、

「霊児!!」

魔理沙は勢い良く顔を上げて霊児を見る。
顔を上げた魔理沙の表情は泣きそうな表情ではなく、何かを決意した表情になっていた。
急に表情が変わった魔理沙に霊児が少し驚き、何かを言葉を発し様としたが、

「私、もっと強くなる!! そして……ゲホゲホ!!」

魔理沙は霊児が言葉を発する前にもっと強くなると宣言し、更に何かを言おうとしたところで再び咳き込んでしまう。
咳き込み始めた魔理沙に、

「あー、ほらほら無理しない」

魅魔は無理しない様に行って魔理沙の背中を擦る。
そして容態が安定し始めると魔理沙はもう一度霊児の方に顔を向け、

「霊児、私幻想郷に戻るね」

幻想郷に戻ると言う事を自分の口で霊児に伝えた。

「ああ、分かった」

霊児が分かったと返すと、魔理沙は満面の笑顔を浮かべ、

「頑張ってね、霊児」

応援の言葉を掛ける。

「ああ、頑張るさ」

魔理沙の想いに応える様に霊児が頑張ると言った後、魔理沙は魅魔に連れられて来た道を戻って行った。
魔理沙と魅魔の姿が見えなくなると、

「いやー、青春してますねー」

文は青春しているなと呟く。

「ん? 何か言ったか?」

文が呟いた言葉がよく聞き取れなかった霊児が何か言ったかと尋ねると、

「いえいえ何も」

文は何も言っていないと返し、

「それはそうと、私達って今は二人っきりですよね」

自分と霊児の二人っきりである事を口にする。

「ああ、そうだな。それがどうかしたのか?」

そう言いながら霊児は首を傾げてしまう。
何も分かっていないと言う表情をしている霊児に、

「いえいえ、こんなところを誰かに見られたら今代の博麗と美少女烏天狗の熱愛発覚!? 何て噂されてしまいすね……と思いましてね」

文は今の自分達を誰かに見られたら熱愛を疑われると言い、態とらしく頬を赤らめて霊児に顔を向けた。
が、霊児は何の反応も示さず、

「阿呆な事を言っていないでさっさと先に行くぞ」

それだけ言って先へと進んで行く。

「相変わらずからかい甲斐が無いと言うか可愛気が無いと言うか……と言うか、そこまで無反応ですと女としてのプライドに傷が付くんですけどー」

無反応のまま先へ進んで行った霊児に文は文句を言いながら、見失わない様に霊児の後を追い掛ける。
文が文句を言い、霊児がそれを無視すると言った感じで移動を再開してから暫らくすると、

「ん? 何だここ?」

霊児と文は青い光が明滅している空間に入った。
更に、眼下の方には氷を重ねて作った様な青い建物が見える。
何とも不思議な場所だと言う感想を霊児が抱いていたのと同時に、

「いやー、魔界は不可思議な場所が沢山ありますね!! 写真の撮り甲斐があります!!」

文は少々興奮した様子を見せながらカメラのシャッターを切っていく。
これまでの場所とは思いっ切り雰囲気が違う場所に出たので少し用心した方が良いかと霊児が思った時、

「……まぁ、そろそろ出てくるとは思ってた」

進行方向上に大量の妖精が現れ、大量の弾幕を放って来た。
放たれた弾幕を避けながら霊児も弾幕を放って妖精達を撃ち落していく。
今までの経緯を考えるに、霊児一人で弾幕を放つ事になっていただろうが今回は違う。
文も弾幕を放って妖精達を撃ち落しているのだ。
流石に自分と霊児の二人だけでは強さを増して来た大量の妖精相手に写真を撮るだけに専念するのは不可能と判断した様である。
妖精達を撃ち落しながら順調に先へと進んで行くと、

「ふふ……やっぱり来たわね」

霊児達が来る事を知っていたと言う様な声と共に一人の女性が二人の前に現れた。
現れた女性の姿を見た瞬間、

「「ッ!?」」

霊児と文は理解する。
今まで現れて者達とは文字通り次元が違う強さを誇っていると言う事を。
決して油断出来る相手では無い。
霊児は警戒した様子を見せながら女性の姿を確認していく。
赤を基調とした服に銀色の長い髪に左頭頂部付近の髪を結った髪型。
そして、女性から感じられる莫大な量の魔力と神力。
莫大な量の魔力と神力を感じた時、霊児はアリスが言っていた事を思い出し、

「……あんたが魔界の創造神、神綺か?」

女性にお前が神綺なのかと問う。

「あら、その様子だと自己紹介は必要ないみたいね。その通り、私が魔界の創造神である神綺よ」

どうやら、この女性が神綺で合っていた様だ。

「何者かが魔界に来てた事は知っていたけど……まさか来てたのは人間の男の子と烏天狗とはね。それで、態々魔界の奥地にまで来た目的は何かしら?」

神綺は霊児達が魔界にやって来ていた事を知っていたと言いながら、魔界の奥地にやって来た目的を尋ねる。

「魔界の住人が大量に幻想郷……つまり魔界の外に来てる。それを止めたいんだが……」

霊児が魔界の奥地にまでやって来た目的を口にすると、

「うーん、そっちに魔界の住人が行ってるって事は民間の旅行会社が勝手にツアーを組んでるだけだと思うから、私がそれを止めさせる事は出来ないわね」

神綺は魔界の住人が幻想郷の方に行っているのは民間の旅行会社が企画した事だから自分が止める様には言えないと言う。

「まぁ、只幻想郷に旅行に来ただけって言うなら俺も態々魔界に来なかったんだが……魔界の住人が幻想郷で破壊活動に近い事をしてな」
「え!?」

霊児の発言を聞いた神綺は驚きの表情を浮かべる。
魔界から幻想郷に行った者達がそんな事をしているとは思わなかった様だ。

「大して強くは無かったが、その代わり数だけは異様に多くてな。幸いと言って良いのか分からんが、俺の神社に大量に来てくれたお陰で幻想郷に大きな
被害は出てない筈だ。少なくとも、第一波の殆どは俺が片付けた」
「え、霊児さんの所にはそんなに大量に来てたんですか?」

霊児の発言を聞いた文は少し驚いた表情を浮かべながら確認を取る様な事を言う。

「ああ、そうだけど……妖怪の山はそうじゃなかったのか?」
「少なくとも、妖怪の山の方面では百匹はいかなかったですね」

文の話しを聞く限りだと、霊児の所にだけ大量に行った様だ。

「何で俺の所にだけ……」

霊児は思わず肩を落とすと、

「魔界の入り口に一番近いのが博麗神社だからですかね?」

文は博麗神社に低級以下の悪魔が殺到した理由を推察する。
そんな二人の会話を聞きながら神綺が何かを考えてると、

「神綺様、賊の発する言葉など真に受ける必要などございません。この者達は私が始末を着けて置きますので、ここはお下がりください」

長い金色の髪にメイドを服を着た少女が現れた。
霊児は服装と神綺への言葉使いから神綺のメイドかと思いながら、

「行き成り物騒な事を言うな。平和的に解決って手段は無いのか?」

相手の反応を確かめる様にそう言う。

「あら、魔界で暴れるだけ暴れた侵入者への対処はこんなものだと思うけど」

少女から返って来た返答を聞いた霊児は思わず納得した表情になる。
自分も神社で攻めて来た大量の低級以下の悪魔を始末したのだから。

「夢子ちゃんがそう言うのなら任せるけど……油断はしない様にね。それと、私は少し調べたい事があるから終わったらご飯でも作って待ってて」

神綺がこの場に現れた少女である夢子に全て任せると言う様な事を口にすると、

「はい、お任せください」

夢子は頭を下げて了承の返事を返す。
それを聞き届けた神綺が去って行くと、

「さて、どうしてやろうかしら」

夢子は顔を上げながらそう呟き、霊児の目の前に一瞬で移動して何かを振るった。

「ッ!?」

夢子の接近に気付いた霊児が慌てて上半身を後ろに倒した瞬間、霊児の前髪が数本宙を舞う。
攻撃された事を理解した霊児は上半身を倒した勢いを利用して体を回転させ、夢子の顎を蹴り上げ様とする。
カウンターを狙えるタイミングであったが、

「ちっ……」

霊児の蹴りが顎に当たる直前に夢子が顎を引いた事で回避されてしまう。
攻撃を回避された後、霊児は体勢を立て直しながら距離を取り、

「油断した……今まで出て来た魔界の連中は遠距離戦主体だったからてっきりお前もそうだと思ってたんだがな……」

夢子が近距離戦を仕掛けて来た事に驚いたと言う事を口にした。
霊児が口にした事を聞いた夢子は、

「魔界の住人は魔に属する者……要約すると魔法使いが多く、遠距離戦ばかりで戦う者が多いけど……私や神綺様の様に遠近両方で戦える者も存在する」

律儀に魔界の住人は遠距離戦だけではなく自分の様に遠近両方で戦える者も居る事を教え、手に持っている得物を構える。
夢子が手にしている得物はナイフの様に思えたが、

「いや……あれは短剣だな」

霊児はナイフではなく短剣であると言う判断を下す。
何故ナイフ様に思えたかと、一般的な短剣よりも刃渡りが短かったからだ。
霊児の使っている短剣も一般的な短剣よりも刃渡りが短い物であるが、夢子の持つ短剣は霊児の短剣よりも短い。
その事から下手に懐に入られたら厄介だなと言う事を霊児が考えていると、

「あのー、私も助太刀しましょうか?」

文が手を貸そうかと言って来た。
どうやら、今の攻防を見て写真を撮るより霊児に手を貸した方が良いと思った様だ。
それだけ、文の目から見ても夢子の実力が高いと言う事だろう。
だが、

「大丈夫だ。お前は写真でも撮ってろ」

霊児は文の提案を断った。
別に文の事を足手纏いと思っている訳ではない。
唯、霊児の勘が目の前の相手は一対一より一対多の方が得意そうだと言っているからだ。

「あら、それでいいの? 二対一でやった方が少ない勝率が僅かに上がるかもしれないのに」

助力を拒んだ霊児に夢子が挑発する様な事を言うと、

「ああ、一対一じゃなかったから勝てませんでした……って感じで駄々をお前に捏ねられても困るしな」

同じく挑発する様な言葉を返す。
しかし、夢子が挑発に乗った様子はない。
安い挑発には乗らないかと思いながら霊児は左腰の装備している短剣を左手で抜き放ち、

「それと……俺を只の子供と思わない方が良いぜ」

自分の事を甘く見ない様に言って構えを取る。

「ええ、分かっているわ。先の一撃を回避したのと同時に私に攻撃を放った。そんな貴方を只の子供と思える訳がない」

夢子が油断する気は毛頭無いと言う様な事を口にした瞬間、

「ッ!!」
「ふっ!!」

二人は同時に駆けて交差していた。
交差した二人の距離が離れると、

「痛ッ!!」
「むっ!!」

霊児の頬と夢子の肩が斬り裂かれ、斬られた部分から血が流れ落ちる。
流れ落ちる血を無視するかの様に二人が振り返ると、夢子は自分の周囲に無数の短剣を出現させ、

「いけ!!」

出現させた短剣を霊児に向けて一斉に放つ。
放たれた短剣を一本一本迎撃してもキリがないと判断した霊児は横に移動する事で回避し、反撃に移ろうとしたが、

「ッ!!」

移れなかった。
何故ならば、夢子は短剣を放つのを止めて自分が放った短剣と短剣の間を縫う様に移動して霊児の懐にまで入り込んで来ていたからだ。
無数に放たれた短剣は只の目晦ましか霊児が思った時、夢子は短剣を振るう。
振るわれた短剣を霊児は自分の短剣で受け止めたが、

「ぐうっ!!」

斬撃の威力が高すぎた為か、霊児は弾き飛ばされる様に吹き飛んで行ってしまった。
吹き飛んで行った霊児に追い討ちを掛ける為に夢子は霊児に肉迫して行く。
霊児は吹き飛ばされながら夢子が振るった短剣を只受け止めただけではまた吹き飛ばされてしまうと思いつつ体を回転させて体勢を立て直した時、

「ッ!!」

肉迫していた夢子が直ぐ近くにまで迫って来ている事に気付く。
ここまで近付かれたのなら下手な小細工は無用と言わんばかりに霊児が短剣を振り被ると、夢子も短剣を振り被る。
そして、

「「はあ!!」」

二人は短剣を振るう。
二人が振るった短剣は激突し、

「「ッ!!」」

霊児と夢子は短剣を激突させた衝撃で弾かれる様に距離を取って行く。
距離が離れて行く中、霊児は体勢を立て直す事をせずに左手に持っている短剣を夢子に向けて投擲する。

「ッ!!」

自身に向けて迫って来る短剣に気付いた夢子は体勢を立て直すのを止め、短剣を避ける為に顔を傾けた。
だが、

「くっ!!」

完全に回避する事は出来なかった様で、頬から血を流してしまう。
頬が斬られた事に夢子は気にした様子を見せずに視線を霊児の方に戻すと、

「消え……ッ!!」

霊児が消えている事に気付き、何かを感じて反射的に頭を下げる。
その瞬間、夢子の頭があった場所に何かが通った。
何が通ったのかと言うと、霊児の短剣だ。
夢子は全く気付かれる事なく自身の背後に回った霊児驚くも、体が反応するがままに背後に居る霊児に向けて蹴りを放つ。
放たれた蹴りを霊児の右手の甲で弾いたが、

「がっ!?」

夢子は蹴りを放った体勢のまま体を捻らせながら回転させて霊児の頬に膝蹴りを叩き込み、霊児を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた霊児は地面に向って行き、

「ぐっ!!」

激突してバウンドしてしまう。
バウンドして再び地面に激突する前に霊児は体勢を立て直し、足を地面に着ける。
結構な高さから落下したのに地面にクレーターが出来ていないのを見るに、それなりに頑丈な地質なのかと思いながら顔を上げると、

「……ッ」

自分に向けて空中から突っ込んで来ている夢子の姿が霊児の目に映った、
これ以上ペースを握られては厄介だと判断した霊児は両手を広げ、

「夢想封印・集!!」

己が技を放つ。
夢想封印・集は夢想封印をより集中的に放つ様にした技。
言うなれば、一対一に特化した夢想封印である。
霊児の体中から七色に光る弾が次々と放たれて夢子へと向って行き、

「ッ!!」

着弾し、爆発と爆煙が発生していく。
連鎖的に発生していく爆発音を耳にしながら霊児は夢想封印・集を放つのを止め、

「…………………………………………………………」

爆発と爆煙に覆われている場所をジッと見詰め、短剣を構える。
夢想封印・集を放つのを止めたのは夢想封印・集を放っている時に夢子が何か行動を起こした場合、初動が遅れてしまうからだ。
技を放つのを止めた霊児の判断は正しく、

「ッ!!」

夢子は爆煙の中を突っ切る様にして飛び出し、猛スピードで霊児へと突っ込んで来た。
近付いて来る夢子を見て、霊児は想像していたよりもダメージが少ないと思いながら短剣を盾の様に構え、

「ぐっ!!」

突っ込んで来た来た勢いを利用して夢子が放った刺突を短剣で受け止める。
受け止める事は出来たものの刺突の威力が高過ぎた為か、霊児が地に足を着けた地面を中心に罅割れが蜘蛛の巣状に走っていく。
夢子は今の一撃を防がれた事を気にした様子を見せずに地面に降り立ち、地面を蹴って再び霊児に突っ込みながら接近戦を仕掛ける。
次々と振るわれる短剣を迎え撃つかの様に後ろに下がりながら霊児も短剣を振るう。
短剣と短剣がぶつかり火花が舞い散る攻防の中、霊児は何となくではあるが悟る。
夢子のダメージが少ない理由を。
おそらくではあるが、七色に光る弾が何発か着弾した後に短剣を投擲して身代わりにした。
それで夢子自身には然程大きなダメージは無かったのであろう。
下手に弾幕系の技を使うと不利な状況に陥るなと考えていると、

「しまっ!!」

霊児の短剣が夢子の短剣によって上空へと弾かれてしまう。
弾かれてしまった短剣に霊児の目が一瞬向いてしまった時、

「貰った!!」

夢子の短剣が霊児の首目掛けて振るわれる。
振るわれた短剣が首の皮膚に触れた瞬間、

「らあ!!」

霊児は背中に四本隠し持っている短剣の一本を右手で抜き放ち、抜き放った勢いを利用して斬り上げを行う。

「ッ!!」

霊児が攻撃を放って来た事に夢子は驚くも、反射的に攻撃を中断して後ろへ跳ぶ。
夢子が霊児から大きく距離を取ったタイミングで上空に弾かれていた短剣が落下して来たので、

「よっ……と」

霊児は落下して来た短剣を左手で掴む。
その後、右手に持っている短剣を仕舞って首に手を当てる。
血は流れているものの噴出してはいない事から、

「…………頚動脈は無事か」

頚動脈までは斬られていないと霊児は判断する。
この程度なら直ぐに血は止まるなと感じながら首から右手を離し、夢子に視線を移す。
視線を移した霊児の目には、額の中央から血を流している夢子の姿が映った。
どうやら、どちらかに致命傷を与える事なく痛み分けに終った様だ。

「やる……」

夢子は流れ落ちる血を拭おうともせずに表情を引き締め、霊児の様子を探っていく。
今の一撃を受けて用心し始めたのだろうか。
もしそうなら態々夢子に情報を与える必要は無いので、

「……………………………………………………………………」

霊児は再び構えを取り直してジリジリと距離を詰めて行く。
ある程度距離が詰まると夢子は先程とは比べ物にならない量の短剣を展開し、一斉に霊児に向けて射出した。
しかも、弾幕も放つと言うおまけ付きで。
この距離であの量の短剣と弾幕を避けたり迎撃しては余計な被害が出そうだと直感的に感じ取った霊児は、

「二重結界!!」

回避でも迎撃でもなく、防御を取った。
攻撃用でも移動用でもない、通常の二重結界を発動する事で。
純粋な強度であれば二重結界よりも八方鬼縛結界の方が上である。
それなのに何故、霊児は二重結界を使ったのか。
答えは簡単。
二重結界が霊児の中で最も早く展開出来る結界であるからだ。
故に霊児は二重結界を発動させたのである。
強度的に些か不安があったが、夢子が放った短剣も弾幕も全て霊児の二重結界に阻まれた。
無事に阻めた事から、霊児はこのまま弾幕が止むまで二重結界を維持し様かと考えていると、

「ッ!?」

突如、展開している二重結界の内の一枚が破られてしまう。
何事かと思った霊児が破られた結界部分に目を向けると、レーザーが四散している様子が目に映った。

「そうか……短剣と弾幕を隠れ蓑にして俺に気付かれない様に強力な一撃を放って来たな……」

二重結界の結界の強度を直ぐに看破した洞察力とそれを破る威力を持った攻撃を直ぐに放った夢子に驚嘆の想いを抱きながら、

「ちっ!!」

もう一枚の結界が破られて串刺しになってしまう前に弾幕が最も薄い方向へと体を突っ込ませる。
霊児が体を突っ込ませたのと同時に二重結界が破られ、霊児が居た場所に大量の短剣、弾幕、レーザーが通っていく。
ギリギリだったと思いながら一息吐いて視線を動かすと、

「なっ!?」

霊児の直ぐ近くにまで夢子が近付いて来ていた。
夢子は霊児の回避先を読んだ様に見えるが、それは違う。
回避先を読んだのではない。
回避先が分かっていたのだ。
どうして分かったのか。
答えは夢子が態と攻撃が薄い範囲を作ったからである。
霊児が攻撃が薄い範囲に避けるであろうと予測して。

「ちっ!!」

夢子の掌で踊っていた様な気分になった霊児が舌打ちをしながら地に足を着けると、

「取った!!」
「ッ!!」

霊児は自分の胸元に向けて短剣が迫って来ている事に気付く。
迫って来ている短剣の持ち主は言うまでもなく、夢子だ。
間に合うかと思いながら霊児は回避行動を取るが、無常にも短剣の切っ先は迫っていく。
そして、

「……え?」

夢子は間の抜けた表情を浮かべてしまう。
何故かと言うと、短剣を握っている手に霊児の胸元を突き刺した言う感触が伝わって来なかったからだ。
狙いは完璧だった筈だと思いながら視線を短剣に移すと、

「な……肩!?」

夢子は自身の短剣が霊児の胸元を突き刺しているのではなく肩を斬り裂いている事を知る。
どうして外したと思いながら視線を動かすと、ある光景が夢子の目に映った。
映った光景と言うのは割れた大地とそこにめり込んでいる霊児の足。
それを見た瞬間、夢子は理解する。
自身の刺突が霊児の胸元を外した理由を。
外れた理由は先程広がった罅割れで脆くなった部分に足を強く着けた事で大地が割れ、霊児が体勢を崩したからだ。
狙ってやったのか、それとも偶然か。
どちらかなのかを考える前に夢子は霊児から慌てて距離を取ろうとする。
夢子が慌てて距離を取ろうとするのも無理もない。
今の霊児と夢子は密着状態にある。
しかも、夢子が霊児に覆い被さる様な形で。
これでは霊児がどう動くか夢子には分からない。
故に夢子は慌てて距離を取ろうとしたのだ。
だが、夢子が距離を取ろうと動いたのが僅かに遅かった。
何故ならば、霊児は胸元への攻撃を外して一瞬だけ夢子が硬直している間に準備を整え終えていたからだ。
夢子が距離を離す僅か少し前に、

「夢想封印・拳!!!!」

霊児は七色に光る拳を夢子の腹部へと叩き込む。

「ッ!?」

腹部に強烈な一撃を叩き込まれた夢子は勢い良く吹っ飛んで行き、氷の様なブロックを積み重ねた青い建物に激突した。
霊児が放った夢想封印・拳とは、体外に向けて放つ七色に光る弾全て拳に集めて拳撃の威力を大幅に上昇させると言う技だ。
これと殆ど同じ原理の技で夢想封印・脚と言う技もある。
こちらは七色に光る弾全てを拳ではなく脚に集めるタイプのものだ。

「さて……」

夢子が突っ込んだ影響で崩落した建物に霊児が視線を向けていると、

「どうです?」

文は霊児の近くに降り立ってどうだと問う。

「あの程度で死んだとは思えない。が、出て来ないところを見るに気絶したな。結構良い所に拳が入ったし」

文の問い掛けに霊児は気絶している筈だと返しながら短剣を鞘に収め、

「それよか、俺はこのまま進むけどお前はどうする? 確実に一戦交える事になると思うから帰りたかったら帰っても良いぞ」

霊児は帰りたければ帰っても良いぞ言う。
すると、

「いえいえ、これでも私は記者の端くれ!! 何所までも付いて行きますよ!! 勿論、霊児さんの邪魔はしませんから御安心を」

文は何が何でも付いて行くと言う旨を伝える。
迷い無く付いて行くと口にした文に、

「やれやれ、義理堅いと言うか使命感があると言うか……」

霊児が何処か感心した浮かべた。

「それはもう、私は清く正しい射命丸文ですから」

文は笑顔でそう返した後、

「それに、この一件の真実は私も知らねばなりませんから」

今回の一件は知らねばならないと言って少し真面目な表情を浮かべる。

「なんでまた?」
「霊児さんだから言ってしまいますが、私は大天狗様から悪魔が現れた原因を調べて来いと言う任務を受けていましてね」
「大天狗から?」

大天狗から任務を受けて魔界に来たと言った文に霊児が少し驚いた表情を浮かべていると、

「ええ。私の直属の上司であり、以前霊児さんと戦った大天狗様からです。話を戻しますよ。妖怪の山に悪魔が現れ、我々を襲って来た事から大天狗様達の
間で悪魔による幻想郷の侵略ではないかと囁かれていましてね」

文は任務の詳細を口にした。

「そんな事になってたのか」
「はい。ですので真実を明らかにする為に実力があり、天狗の中で最もスピードがある私が選ばれたのです」

そう言って胸を張った文を見ながら、

「てか、俺にそんな事を言っても良いのか?」

霊児は任務の内容を自分に言っても良いのかと尋ねる。

「無用な混乱を避けるために無闇に喋るなと言われてますが、霊児さんなら問題ないです。これでも霊児さんの事は信頼してるんですよ、私は」

文は笑顔で霊児の事を信頼していると言うと、

「はいはい、どうも」

霊児は適当に返す。

「もう少し、嬉しそうな表情を浮かべても良いと思うのですけどね……」

霊児の反応に少し不満があると言う表情を文が浮かべていると、

「そう言えば色々と写真を撮ってたけど、あれは報告書用か?」

霊児は思い出したかの様に写真の事に付いて尋ねる。

「いえ、そっちは"文々。新聞"に載せる用です。題して、『魔界とそこに住まう者達に密着!!』と言った感じで!!」
「おい……」

任務で来ていたんじゃないのかよと霊児が思っていると、

「仕事と趣味を両立かつ同時進行する事が可能な出来る女天狗なのです。私は」

文は自分の事を出来る女と称してまたまた胸を張った。

「はいはい」

霊児が呆れた表情を浮かべながら空中に躍り出て先に進んで行くと、

「あっ、待ってくださいよー!!」

文は黒い翼を羽ばたかせながら慌てて空中に躍り出て、霊児を追い掛けて行く。

























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