霊児達が魔界に突入し、霊児が神綺と激戦を繰り広げてからは特に異変と言う様なものは起こらなかった。
唯、異変ではないが変わった事が一つだけある。
それは魔理沙の言葉使いだ。
魔界に突入した日を境にしたかの様に、魔理沙の言葉使いが少しずつ変わっていったのである。
魔理沙は強くなると言っていたので、先ずは言葉使いから入ったのだろうと霊児は考えていた。
序に言えば、魔理沙の言葉使いはちゆりの言葉使いに近くなっている。
魔理沙とちゆりは仲が良かったので、知らず知らずの内にちゆりの影響を受けていたのだろう。
そんな感じで多少の変化はあったものの、幻想郷では平和な日々が続いていた。
まぁ、それなりの頻度で博麗神社で宴会が開かれて宴会の後片付けで霊児が頭を悩ませる言う事が何度があったが。
そして、霊児達が魔界に突入してから幾らかの時間が流れて霊児が少年と呼べる様な容姿にまで成長したある春の日。
霊児は、

「ふんふふーん」

鼻歌交じりに神社の境内の掃き掃除をしていた。
春の陽気に誘われているからか、機嫌が良さそうである。

「……よし」

一通り掃いたからか、霊児は箒を動かすのを止めて振り返り、

「うん、完璧」

完璧と言う言葉を漏らす。
掃除の出来栄えに満足している様だ。

「さて、後は……」

掃除も終わったので饅頭でも食べながら茶でも啜ろうと言う予定を立てていると、

「……ん?」

霊児は自分の神社に誰かが近付いて来ているのを感じる。
それもかなりのスピードで。
ここまでのスピードで自分の神社に来る者として、霊児の頭に魔理沙と文の二人の姿が思い浮かぶ。
確認の為に霊児は顔を上げると、

「あれは……魔理沙でも文でもないな……」

博麗神社に近付いて来ている者は魔理沙でも文でもない事が分かった。
魔理沙、文以外であんなスピードで来るのは誰だと霊児が考えている間に、博麗神社にやって来ている者の姿が視認出来る距離にまで迫る。
その時、

「あいつは……」

霊児は気付く。
今、博麗神社に近付いて来ている者は自分の知っている者であると言う事に。
近付いて来ている者の風貌は腰に刀を携えた大柄な男。
そう、博麗神社に近付いて来ている者は、

「大天狗……」

魔理沙の家を建てて貰う為に妖怪の山で試合を行った際に戦った大天狗であった。
霊児が大天狗の名を口にしたのと同時に大天狗は地に降り立ち、

「久しいな……今代の博麗、七十七代目博麗……博麗霊児よ」

久しいなと言いながら笑みを浮かべ、

「前に会った時によりも随分と大きくなったな」

霊児が大きくなった事を指摘する。

「そりゃそうだろ。俺は人間だしな」

自分は人間なのだから大きくなって当然と言う様な事を口にした後、霊児は一息吐き、

「ま、上がれよ。茶位なら出すぜ」

茶位なら出すから上がって行けと言う。

「何やら忝いな」
「気にすんな」

若干申し訳無さそうになっている大天狗に霊児は気にするなと返し、神社の玄関へと足を進めて行く。
足を進めた霊児に続く様にして大天狗も足を進めて神社の玄関へと向かって行った。






















博麗神社の中に入った霊児と大天狗は居間の中に居た。
そして、二人が居間の中に入ってから少しすると、

「ほら」

霊児は茶が入った湯飲みを大天狗に差し出す。

「頂こう」

大天狗は差し出された湯飲みを受け取り、中に入っている茶を啜ると、

「……美味いな。これ程の茶を出せる者は妖怪の山にはおらんな」

美味であると言う感想を漏らした。

「そいつはどうも」

そう言いながら霊児は自分用の茶を啜り、

「それで、本題は何だ? 世間話をしながら茶を啜りに来た……って訳じゃないんだろ?」

大天狗に何の用で自分の所にやって来たのか尋ねる。

「ふふ……相変わらず勘が鋭いな、貴公は」

大天狗は霊児の勘の良さに感心しながら湯飲み置き、

「実は……貴公に相談したい事がある」

相談したい事があるのだと言う。

「相談事? 俺にか?」

霊児が少し驚いた表情をしながら首を傾げると、

「うむ。実は……」

大天狗は頷いた後、霊児に相談したい事を話し始めた。





















大天狗から相談したい事を聞いた霊児は、

「つまり、妖怪全体の活気が無くなり掛けているのを何とかしたい……で合ってるか?」

端的に言い表すと妖怪全体の活気が無くなり掛けているのを何とかしたいで合ってるかと問う。

「うむ。平和なのは良い事なのだが、そのせいで多くの妖怪達が平和ボケの様になってしまってな。知恵も知能も無い本能だけで生きている様な妖怪を
除けば殆どの妖怪は何かをする事も起こす事も無く、ダラダラと生きておる。要するに妖怪全体が怠惰なのだ」

霊児が問うた事を大天狗は肯定し、妖怪全体が怠惰である事を口にする。
妖怪達の今と言うのを知って霊児は少し驚きつつも、

「何で俺に相談したんだ?」

何故、自分の相談したのか聞いてみた。
妖怪の問題を人間である自分に相談したのが些か腑に落ちないからだ。
霊児の疑問は尤もだと判断したからか、

「以前貴公が企画し、出場した大会からは一時的ではあるが暫らくの間は妖怪の山に活気が戻ってな。妖怪の山に活気を戻す様な企画を出した事がある
貴公だからこそ、何か良い案が浮かぶのではと思ってな」

大天狗は霊児に相談をした理由を話す。

「成程……」

理由を聞いて霊児が納得した表情を浮かべていると、

「少し卑しい言い方になるが……貴公とて、妖怪が表舞台に立つ事が全く無くなれば困るであろう。幻想郷を護る今代の博麗として」

妖怪が表舞台に立たなくなれば霊児も困るのではと言う事を大天狗は口にする。

「確かにな……」

大天狗の言う通り、この状況が続くのであれば霊児としても困る事となってしまう。
幻想郷は人妖のバランスで成り立っている。
妖怪の活気が無くなると言う事は、幻想郷のバランスが崩れると言っているのと同じだ。
それを避ける為にも早急に何らかの案を出さねばならないだろう。
今代の博麗としても、霊児個人としても。
なので、霊児は良い案を出す為に頭を回転させていく。
頭を回転させてから少しすると、

「…………………………ッ」

霊児はつい先程大天狗が言った発言を思い出す。
『貴公が以前企画し、出場した大会』と言う発言を。
この大会を開いた結果、一時的とは言え妖怪の山に活気が戻った。
ならば、それを応用すれば良いのではと考えた瞬間、

「……………………あ」

霊児は何かが思い付いた表情を浮かべる。

「何か思い付いたのか?」

霊児の表情を見て、大天狗は何か思い付いたのかと問う。

「ああ、命の遣り取りを抜きにした戦いごっこ……って言う遊びを作って広めてみたらどうだ?」

霊児は思い付いた事を肯定し、思い付いた事を説明すると、

「命の遣り取りを抜きにした戦いごっこ?」

返って来た答えが予想外のものであったからか、大天狗は思わず首を傾げてしまう。
そんな大天狗の疑問に答えるかの様に、

「ああ、そうだ。命の遣り取りが抜きって言うのであれば気軽に手を出し易いし、一寸した問題事の解決にだって使えるだろ」

命の遣り取りを抜きにした戦いごっこを提案した理由を話す。

「ふむ……成程な……」

理由を聞いた大天狗が一考の価値有りと言う表情を浮かべると、

「ごっこと付けたのは遊びの意味合いを強くする為だ。その方が親しみが沸いて身近に感じるし、遊びならその力を人妖に限らず色んな奴等に知らしめる
事が出来るだろ」

霊児は序と言わんばかりにごっこと付けた理由も説明する。

「確かに。妖怪の力を人間に、人間の力を妖怪に見せると言うのは互いに取って良い刺激になるであろう」

妖怪の力を人間が見れば妖怪が強大な存在であると知り続ける事が出来るであろう。
逆に人間の力を妖怪が見れば人間が自分達を打倒するに足る力を具えていると認識する事が出来る。
現状を打開するには良い案の様に思えたが、

「だが……只の戦いごっこでは特徴と呼べるもの無いな。それでは注目の的には成らぬのではないか?」

大天狗はそれだけでは注目される事は無いのではと言う。

「そう、それが問題なんだよな……」

霊児は大天狗が言った事を肯定し、再び頭を回転させる。
この戦いごっこを深く浸透させる様な目玉の様なものはないかと。
それを探す為に何か参考になるものを探す為に、過去の記憶を遡っていくと、

「…………………………………………あ」

霊児の頭にある時の光景が思い浮かぶ。

「もしや、また何か思い付いたのか?」
「ああ、そうだ。前に魔界に行って戦った時、魔界の住人の多くが弾幕……要は遠距離を重視した戦い方をしていたんだ」

大天狗のまた何か思い付いたのかと言う問い掛けに霊児は肯定の返事を返し、魔界に行った事と魔界の住人の戦い方を話す。

「貴公等が以前魔界に突入し、悪意を持って幻想郷にやって来た悪魔達の流出を止めて異変を解決したと言うのは射命丸文からの報告で聞き及んでおるが……
それがこの話と何の関係がある?」
「あるさ」

今の話が今回の件に関係あるのかと言う疑問を抱いている大天狗に、霊児は関係あると断言し、

「弾幕を……遠距離戦を重視した戦い方なら、遠くから見る分なら綺麗に映るだろ。それを目玉に出来ないか?」

遠距離戦を重視した戦い方なら、遠くから見る分には綺麗に映るだろうからそれを目玉に出来ないかと言う。
そう言われた大天狗はその場面を想像し、

「……確かに、綺麗に映りそうであるな。上手くいけばそれが目玉になるであろう」

綺麗に映り、上手くいけば目玉になりそうだと呟く。

「それによ、これだったらあいつがあんな風に出来るのなら俺にだってって感じのでやり始める奴が増えていくと思うぞ」
「……その案をベースにした方が良いかも知れん」

この戦いごっこの利点を聞いたから、大天狗は霊児が提示した案をベースにした方が良いと判断する。

「なら、この案をお互いに色々と煮詰めてまた後日にまた話し合いの場でも設けるか?」
「うむ、それが良さそうだな。儂はこの案を次の大天狗会議に持ち出して内容を煮詰める事にしよう」

再び話し合いの場を設ける事を決めた後、大天狗は立ち上がり、

「礼を言うぞ、博麗霊児。貴公に相談したお陰でこの件は早くに片が付きそうだ」

礼を言いながら頭を下げた。

「気にするな。幻想郷に係わる事なら俺も無関係じゃいられないしな」

頭を下げた大天狗に霊児は幻想郷に係わる事なら無関係ではいられないと返す。
すると、大天狗は頭を上げ、

「そうか」

軽い笑みを浮かべた後、博麗神社を後にして妖怪の山へと帰って行った。
妖怪に山へと帰って行った大天狗を見送った後、霊児は縁側へと移動する。
そして、縁側着くと寝そべり、

「さて……どうするかな」

目を瞑って考えを廻らせていく。
一応、弾幕を……遠距離戦を重視した戦いごっこと言う案は出した。
だが、それだけでは華が無い。
言ってしまえば、遠距離戦のみと言う戦いなら普通の戦いでも十分に出来るだろう。
なので、この戦いごっこにはこれだと言う様なものが必要だと霊児は考えている。
しかし、だからと言ってそう都合良くアイディアが出て来る訳では無い。
何か良いアイディアを出す為に霊児が思考の海に没してから幾らかの時間が過ぎると、

「何だ、こんな時間から昼寝か? 霊児」

そんな声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した霊児が目を開けると、

「おはよ、霊児」

魔理沙の姿が目に映る。
霊児に声を掛けて来たのは魔理沙であった様だ。

「ああ、はよ」

掛けられた挨拶に霊児はそう返し、上半身を起こすと、

「しっかし、こんな時間に昼寝とはな。徹夜でもしてたのか?」

魔理沙は徹夜でもしていたのかと問い掛けながら霊児の隣に腰を落ち着かせた。
問い掛けられた事を、

「いや、違う。少し考え事をしてたんだ」

霊児は否定し、考え事をしていたのだと言う。

「考え事?」

魔理沙が首を傾げると、

「ああ、実はな……」

霊児は先程大天狗と話し合った内容を魔理沙に伝える。

「ふーん……それで華になる様なものを考えていたのか」

霊児から考えている聞いた魔理沙は何かを思い付いた表情を浮かべながら立ち上がり、

「華と言ったら……」

ミニ八卦炉を両手で持って構え、

「やっぱこんなド派手な一撃だろ!!」

両手を空に向け、

「マスタースパーク!!!!」

マスタースパークをぶっ放した。
放たれたマスタースパークが空の彼方へ消えると、魔理沙はマスタースパークを放つのを止めて構えを解く。
そしてミニ八卦炉を仕舞いながら霊児の方に顔を向け、

「どうだ? こう言う派手なのは華があるだろ」

何処か得意気な表情をしながらこう言う派手な技は華があるだろうと言う。

「ああ、そうだな……」

霊児は肯定の返事を返しつつ、魔界に突入した時の事を思い出していたからか昔よりも桁違いなまでに威力が上がっていると言う感想を抱いた。
余談ではあるが、魔理沙はマスタースパークの応用型や発展型を多数編み出している。
マスタースパークの様な派手な技なら見栄えが良いだろうなと思った時、

「…………それだあ!!」

霊児は大きな声を上げながら勢い良く立ち上がった。

「うっひゃあ!?」

霊児が行き成り大きな声を出した事で魔理沙は驚きの声を上げ、

「い、行き成り大きな声を出すなよ!! 吃驚するだろ!!」

霊児に文句の言葉を述べる。

「ああ、悪い悪い」

霊児は平謝りをしながら空中に躍り出て、

「一寸出掛けるから、留守番よろしくな」

魔理沙に留守を頼み、何所かへと飛んで行ってしまう。

「れ、霊児!!」

魔理沙が何かを言い掛けた時には、既に霊児の姿は見えなくなってしまっていた。
霊児が飛んで行った方を少しの間見続けた後、

「……霊児が帰って来たら腹を空かせてそうだな。昼ご飯でも作って待ってるか」

魔理沙は腹を空かせて帰って来るであろう霊児の為に昼ご飯を作る事を決め、博麗神社の台所へと向かう。
何処か楽しそうな表情を浮かべながら。






















出掛けて行った霊児が帰って来ると、魔理沙が作った昼食が用意されていた。
魔理沙の予想通り霊児は腹を空かせており、帰って来て早々に霊児は魔理沙と一緒に昼食を取る。
昼食を取っている時、魔理沙が作った昼食が自分の好きな物ばかりであったからか霊児は終始嬉しそうな表情で食事を取っていた。
そんな霊児を見て、魔理沙も嬉しそうな表情をしながら食事を取っていく。
食事を取り終えると、霊児は自分の部屋に向かって行った。
何でも、何か作業をするとの事。
そして、日が沈み始めた頃、

「……出来た!!」

霊児は出来たと言う声を上げる。
すると、

「お、何だ。出来たのか?」

魔理沙が足で襖を開けながら部屋の中へと入って来た。
魔理沙は両手にお盆を持っており、お盆の上には茶が入った湯飲みと煎餅が入った小皿が見受けられる。
霊児の視線が茶と煎餅に向いている事に気付いた魔理沙が、

「ずっと篭りっ切りだっただろ。疲れてるんじゃないかと思って簡単に食べれる物を持って来たぜ。まぁ、お茶の味は霊児が淹れたのと比べれば
落ちるとは思うけどな……」

茶と煎餅を持って来た理由を説明し、霊児が淹れた茶に比べれば味は落ちると思うと言うと、

「ありがとな」

霊児は礼を言いながら立ち上がってお盆の上にある湯飲みを手に持って茶を啜り、

「……中々美味いな」

中々美味いと言う感想を漏らす。

「そ、そうか?」

中々美味いと言われて魔理沙が嬉しそうな表情を浮かべる。
その間に霊児は煎餅を全て食べ、

「そうだ。一寸テストに付き合ってくれないか?」

魔理沙にテストに付き合ってくれと言う。

「部屋に篭って作ってたやつのか? 私は構わないぜ」

テストに付き合うのは構わないと返すと、

「それじゃ、外に出るか」

霊児は外に出る様に促す。

「あ、じゃあ先に行っててくれ。私は空になったこれを台所に持ってくから」

空になった食器を台所に持って行くと言って魔理沙が部屋から出て行ったのを見届けた後、霊児は外に出る。
外に出てから少しすると、

「お待たせ。それで、私は何をしたら良いんだ?」

魔理沙も外に出て来た。
外に出て来た魔理沙の方に霊児は顔を向け、

「ああ、先ずはこれを持ってくれ」

手に持っている物を魔理沙に手渡す。

「これは……白いカードか?」

魔理沙が霊児から手渡された物は何も描かれていない、真っ白なカードであった。

「変わった紙だな……」

肌触りが従来の紙と違ったからか、魔理沙が変わった紙と言う感想を口にすると、

「ああ、それはさっき香霖の所で買って来た紙だ。それは外の世界の紙で名前は確か……画用紙……だったかな」

霊児は渡した紙は霖之助の所で買った外の世界の紙で画用紙と言う名前である事を魔理沙に伝える。
同時に、画用紙を買う時に霖之助に結構吹っ掛けられた事を霊児は思い返す。
商人であるからか、霖之助は値段交渉と言ったものにはかなり強い。
その事はもう過ぎた事なので、霊児は吹っ掛けられた事は頭の隅に置き、

「それはそうと、それを持った状態でマスタースパークを放ってくれ」

魔理沙に真っ白なカードを持った状態でマスタースパークを放ってくれと言う。

「分かったぜ」

魔理沙は霊児に言われるが儘にミニ八卦炉を取り出して構えを取り、

「マスタースパーク!!!!」

マスタースパークを放とうとする。
だが、

「…………あれ?」

マスタースパークは放たれなかった。
どうしてだと言う疑問を魔理沙が抱いていると、

「そこそこ」

霊児は魔理沙の持っているカードに指をさす。
霊児が指をさしているカードに目を向けると、

「……絵が付いてる?」

魔理沙は真っ白だったカードに絵が付いている事に気付く。
その絵が自分のマスタースパークみたいだと魔理沙が感じていると、

「そのカードには封印の術式と保存の術式と記憶の術式を刻み込んであるんだ」

霊児はカードに封印と保存と記憶の術式を刻み込んあるのだと言う。

「封印術と保存術と記憶術?」
「そ。封印の術式で放った技を封印し、保存の術式で封印した技を劣化しない様にし、記憶の術式で封印された技を解放しても無くならない様にする。
解り易く言うのならそのカードで何時でも自分の技を使えるって物だな。まぁ、幾らかの制限はあるけどな」

疑問気な表情をしている魔理沙に霊児はそれぞれの術式を刻んだ意味を説明し、

「俺が作った二重結界式移動術の術式からの応用も利いたしな。お陰で随分早く完成出来たぜ」

二重結界式移動術の術式を作成した経験もあって随分早くに完成した事を話す。

「へぇー……」

霊児の説明を聞いて興味深そうな表情でカードを見ていると、

「あ、裏側に術式が刻み込まれてる」

魔理沙はカードの裏側に術式が刻まれている事を知る。

「因みに、技を封印したカードは技を封印した者にしか使えないから。だから、万が一紛失したって事になっても誰かに使われる事はないぞ」

霊児は補足する様に技を封印したカードは技を封印した者にしか使えない様にしている事を口にした。

「只のカードって思ってたけど……結構複雑に術式を組んでるんだな……」

霊児の説明を聞いて魔理沙は感心した表情を浮かべ、

「で、これどうやって使うんだ?」

カードの使用方法を問う。

「魔理沙なら……魔力だな。そのカードに軽く魔力を籠めて技名を言えば使えるぞ」

カードの使用方法を聞いた魔理沙は早速カードに魔力を籠め、

「恋符『マスタースパーク』」

構えを取りながらそんな宣言する。
すると、魔理沙からマスタースパークが放たれた。
放たれているマスタースパークを見ながら、

「んー……見た目は同じだけど、何時もよりかなり威力が落ちてるな」

魔理沙は見た目は同じだけど威力がかなり落ちていると言う感想を漏らしてマスタースパークを放つを止める。
マスタースパークの威力が落ちていた事で少し不満気な表情を浮かべている魔理沙に、

「そりゃ遊び用だからな。遊び用の物で相手に致命傷を与えたら遊びにならないだろ。だから、見た目は派手でも威力は殆ど無いんだ。威力を大幅に
落とす術式も組み込んでるしな。と言っても衝撃はそれ相応にあるから相手を戦闘不能にさせる事も一応は可能だ」

威力が無い理由を説明し、衝撃はそれ相応にあるので相手を戦闘不能にさせる事も一応は可能だと言い、

「利点はどんな技でも殆ど消耗無しで直ぐに放てるって言う点だな。他には技を放っていられる時間が制限されてるってのもあるぜ」

普通に技を放った場合とカードで技を放った場合の違いを話す。

「へぇー……」

霊児の話を聞きながら魔理沙が改めてカードを見ていると、

「てか、恋符って何だ?」

霊児はカードで技を放つ際に魔理沙が言った恋符と言った意味に付いて尋ねる。
その事に付いて尋ねられた魔理沙は、

「べ、別に良いだろ」

頬を少し赤らめながら顔を明後日の方に向けた。
顔を赤らめている魔理沙を余所に、

「まぁ、カードで技を使う時に恋符何々って感じで最初に何か単語を付ければ普通に放つのと区別が出来て良いかもな」

最初に何か単語を付ければ普通に放つ技と区別が付いて良いと呟く。
このカードで発動させる技には技名の前に何か単語を付けるのを推奨し様か霊児が考えていると、

「そ、それよりさ!! このカードって何か名前があるのか!?」

魔理沙が話を変える様にこのカードに名前はあるのかと尋ねる。

「名前か? いや、無いが……」
「それじゃあさ、スペルカードって言うのはどうだ?」

名前が無い事を霊児が伝えると、魔理沙はスペルカードと言う名前はどうだと言う。

「スペルカード……良いな、それ」

魔理沙が提案したスペルカードと言う名称に霊児は好意的な反応を示し、

「よし、このカードはスペルカードって名前にするか」

カードの名前をスペルカードと言う名前に決定した。





















後日、霊児と大天狗との間で再び話し合いの場が設けられた。
霊児は魔理沙の協力で得られた事を、大天狗は大天狗会議で得られた事を互いに伝え合う。
その結果、ある遊びが生まれた。
スペルカードルールと言う名の遊びが。
尤も、スペルカードルールと言う名前ではお堅くて馴染み難くなるのではと言う事が考えられたので通称を弾幕ごっことする事になった。
因みに、この弾幕ごっこのルールとしては以下の通りなっている。

一つ、事故や過失を除いた殺傷は禁止。
一つ、勝負が着いた後の追い討ちは禁止。
一つ、絶対回避不可能な攻撃は禁止。
一つ、スペルカードを全て破られてしまったらどれだけ優勢であっても敗北を認めなければならない。

ルールとしてはこんな感じだ。
何か不具合があればその都度修正していけば良いだろう。
近日中には天狗達が中心となって幻想郷中にスペルカードの作成方法と弾幕ごっこと言う名の遊びを広める手筈となっている。
これで妖怪、強いては幻想郷に活気が戻るかは天のみが知ると言ったところだ。
そして、現在、

「……どうしてこうなった」

博麗神社では前祝いと称した宴会が開かれていた。
天狗達だけが集まるなら兎も角、何所から聞き付けたのか分からないが色んな者達も宴会に参加している。
祝い何か二の次で騒ぎに来ただけだろうと霊児が思っていると、

「飲んでるか、霊児」

魔理沙が酒を片手に話し掛けて来た。

「ああ、それなりにな」

霊児はそれなりになと返すと、

「っと、杯の中身が空だぜ」

杯の中身が空だと言いながら魔理沙は霊児の杯に酒を注ぐ。

「ありがと」

霊児が礼を言いながら注がれた酒を飲み干すと、

「あら、お揃いで」

アリスが霊児と魔理沙の近くにやって来た。

「お前も来てたのか」
「ええ、魔理沙に無理矢理誘われてね」

霊児の問いにアリスは魔理沙に無理矢理誘われて来たと言いながら魔理沙の方に顔を向けると、

「何言ってるんだ。魔法の森の中を暇そうに歩いていたじゃないか」

魔理沙は魔法の森の中を暇そうに歩いていただろうと指摘する。

「別に暇だから魔法の森の中を歩いていたんじゃなく、気分転換がてらに散歩していただけ何だけど……」

指摘された事にアリスは暇だったからではなく気分転換の為に魔法の森の中を歩いていたのだと言うと、

「なら良いじゃないか。宴会の方が良い気分転換になるぜ」

魔理沙は少しも悪びれた様子を見せずに宴会の方が良い気分転換になるだろうと返す。
そんな魔理沙の表情を見たアリスは疲れを出すかの様に息を一つ吐き、

「それはそうと、ここに来る途中に魔理沙から聞いたけど貴方と天狗達も中々面白い遊びを考えたじゃない」

話を変えるかの様に霊児と天狗達が考えた遊びに付いて口にする。

「ん? 弾幕ごっこの事か?」
「ええ、そうよ」

霊児に問われた事をアリスは肯定し、

「お互い色々と制限が付いている状態で相手を倒すって言うのは頭の使い甲斐がありそうだしね。それに、普通の戦闘用の技じゃなくて弾幕ごっこ専用の技を
考えるのも中々に面白そうじゃない」

弾幕ごっこは中々面白そうだと話す。
アリスの反応から、霊児はこの分なら直ぐに弾幕ごっこは幻想郷に受け入れられるのではと考えていると、

「おいおい、頭何て使わなくても強力な一撃を放てば良いだろ」

魔理沙が頭何て使わなくても強力な一撃を放てば良いだろうとアリスに言う。

「何言ってるの。そんな方法じゃ、魔力を無駄に消費するだけよ。戦いに限らずこの弾幕ごっこに必要なものは頭……ブレインよ」
「生憎、私の魔力の総量はかなり多いって魅魔様が言ってたからな。だから、多少魔力を無駄に消費しても私には何の問題も無いんだよ。と言う事で、
戦いに限らずこの弾幕ごっこに必要なものは強力な一撃……パワーだぜ」
「いいえ、ブレインよ」
「いいや、パワーだぜ」
「ブレイン!!」
「パワー!!」

アリスと魔理沙が互いに信条としているものが違うと言う事が明らかになったから、二人は反発を始めた。
二人の雰囲気から一戦交えそうな雰囲気を感じ取ったからか、

「お、おい……」

霊児は何か言葉を掛け様とする。
すると、

「分かってるって。流石に宴会の空気を壊す様な事はしないぜ」
「ええ、だから宴会の場で相応しい方法で決着を着けるわ。酒飲みって言う方法でね。」

魔理沙とアリスは宴会の空気を壊す様な事はせずに宴会の場で相応しい酒飲みと言う方法で決着を着けると言って、二人は何処かへと向かって行く。
二人分の酒を探しに行ったのだろう。
去って行った二人を見送り終えると、

「博麗霊児よ」

自分の名を呼ぶ声が霊児の耳に入って来た。
声が聞こえて来た方に顔を向けると、

「大天狗」

大天狗の姿が霊児の目に映る。
声を掛けて来たのは大天狗であった様だ。

「どうしたんだ?」
「何、貴公と一緒に酒でも飲もうかと思ってな」

大天狗はそう言いながら酒瓶を霊児に見せる。

「これは天狗の酒だが……射命丸文と犬走椛から貴公は天狗の酒でも普通に飲めると聞き及んでいるからな。天狗の酒でも問題なかろう」
「そうだな……」

霊児は少し考える素振りを見せながら周囲を見渡すと、自分達が居る場所が騒いでいる連中から少し離れた場所である事が分かった。
ここで大天狗て一緒に飲んでいてはあの中には入れないだろうが、

「……ま、偶には騒いでいる連中を肴に飲むのも一興か」

偶には騒いでいる連中を肴にして飲むのも一興だと考え、

「そうだな、一緒に飲むか」

大天狗と一緒に飲む事を決める。
霊児が大天狗と飲む事を了承すると、大天狗は霊児の杯に酒を注いで腰を落ち着かせた。
そして、

「ま、何はともあれ」
「乾杯」

杯と酒瓶を合わせ、霊児と大天狗は酒を飲み始めていく。
その後、騒いでいる連中を肴に二人は軽い会話を交わしながら男二人で飲んでいった。























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