ある春の日の昼下がり。
「はぁー…………」
霊児は神社の縁側で茶を啜りながらのんびりとしていた。
茶を啜る以外、特に何かをする事はせずに。
春の陽気のせいか、霊児は特に何かをする気にはなれない様だ。
「あー……平和だ」
偶には丸一日こうやって茶を啜りながらのんびり過ごすのも良いかもしれない。
霊児はそんな事を考えながらまた茶を啜り始めた時、
「ん……」
風を纏った何かが霊児の居る場所を目掛けて飛んで来た。
かなりのスピードで
誰がやって来ているのかを霊児が何となく察した瞬間、やって来た者は霊児の前に降り立つ。
そして、纏わさっていた風が消えると、
「どうもー!! 清く正しい、射命丸文でーす!!」
文が姿を現す。
霊児はやっぱりかと言う表情を浮かべ、穏やかな春の昼下がりは消えてしまったと思った。
だからか、
「……何か用か?」
霊児はジト目で文がやって来た理由を尋ねる。
「そんな邪険にしないでくださいよー。インタビューに答えて欲しいだけですって」
文は両手を振りながらインタビューに答えて欲しいだけだと言うと、
「インタビュー?」
霊児は少し驚いた表情を浮かべてしまう。
てっきり、何か面倒事を持って来たものだと考えていたからだ。
「はい、インタビューです。弾幕ごっこが幻想郷中に広まってから結構な日数が経ちましたからね。ですので、ここ等で一つ弾幕ごっこの立案者の
一人である霊児さんに色々とお話をお聞きしたいと思いましてね」
文が霊児に弾幕ごっこに関するインタビューをしたいのだと言うと、
「ん? 立案者なら俺の他にも大天狗が居るだろ」
霊児は立案者なら自分の他にも大天狗が居るだろうと口にした。
妖怪の山は天狗を中心に様々な妖怪や神が生活している。
天狗を中心としていると言う事は文は勿論、大天狗も妖怪の山で生活しているのだ。
ならば、態々妖怪の山から博麗神社に居る霊児にインタビューしに来る必要はないであろう。
霊児がその様な疑問を抱いている事を察したからか、
「それがですね、本日は大天狗様達全員が御忙しそうにしてましてね。緊急で報告しなければならない事なら兎も角、流石に新聞のインタビューの為に
時間を取らせるのはどうかと思いましてね。その様な状況下でインタビューをすれば、下手したら私が他の大天狗様に目を付けられる事に成り兼ねない
ですからね。流石にそれは御免ですよ」
文は大天狗ではなく霊児にインタビューをしに来た理由を説明する。
「それで、態々俺の所に来たって訳か」
「はい。霊児さんなら暇をしてるか修行してるかのどちらかだと思いまして」
文が霊児なら暇をしてるか修行してるかのどちらかだろうと言うと、霊児は思わず押し黙ってしまった。
文の言う通り、暇をしていたからだ。
「あや? どうかなさいましたか?」
押し黙った霊児に文がどうかしたのかと問い掛けると、
「いや、何でも無い」
霊児は何でも無いと返す。
そして、霊児は咳払いを一つし、
「処で、弾幕ごっこの普及率ってどんなものか分かるか?」
文に弾幕ごっこの普及率がどの程度のものか尋ねてみる事にした。
幻想郷中を飛び回ってネタなどを集めている文ならばこう言う事も知っているだろうと言う考えで。
当然と言うべきか、霊児の考えは当たっており、
「そうですね……大天狗様達が提案したと言う事もあってか、妖怪の山での弾幕ごっこの普及率は八割近くありますね」
文は弾幕ごっこの普及率を答えてくれた。
「ほう……」
妖怪の山では順調に弾幕ごっこは普及している様だ。
しかし、
「唯、幻想郷全体でとなると……二割強位ですかね。普及率は」
幻想郷全体でとなると、弾幕ごっこの普及率はそう高くはない様である。
「そうか……」
香霖堂で売っていた画用紙は完売したが、そこまで弾幕ごっこの普及率には影響しなかった様だ。
それを聞いて霊児が少し残念そうな表情を浮かべたからか、
「一応、幻想郷の中でも特に実力が有る者達が弾幕ごっこをやってますからね。その者達に釣られる様にしてジワジワと広がってはいますよ」
文は弾幕ごっこはジワジワと広まっていると言う。
実力が有る者と言われ、霊児の頭に幽香と魅魔の存在が思い浮かんだ。
あの二人の弾幕ごっこなら映えるだろうなと言う事を霊児が考えていると、
「何か切っ掛けの様なものがあれば一気に広まるとは思うんですけどね」
文が切っ掛けの様なものがあれば一気に広まると言う推察を述べる。
「切っ掛けねぇ……」
弾幕ごっこが一気に広まる切っ掛けとは何であろうか。
少し頭を回転させてみたが、残念ながら霊児にも文にも弾幕ごっこを一気に広めさせる方法は思い付かなかった。
「ま、そんな都合良く弾幕ごっこが広まる切っ掛け何て起きる訳ないか」
「そうですよ。そんな都合良く切っ掛けが起きたのなら、私もネタ集めには苦労しないですし」
都合良く弾幕ごっこが広まる切っ掛け何て起きる訳が無いと二人が言った後、
「ま、果報は寝て待てって言いますしね」
果報は寝て待てと言う言葉で文は締め括る。
幻想郷中に弾幕ごっこ普及し切るのは気長に待つしかないであろう。
「それはそうと、インタビューの方は受けてくれますか?」
文が話を戻す様にインタビューを受けてくれるのかと聞くと、
「そうだな……」
霊児は少し考える素振りを見せる。
その後、
「……いいぜ、インタビューを受けるよ」
インタビューを受ける旨を伝えた。
文のインタビューを受ければ少しは弾幕ごっこをやる者達が増えると考えたからだ。
「ありがとうございます!!」
霊児がインタビューを受ける事を決めたからか、文は嬉しそうな表情を浮かべ、
「先ずは……」
インタビューを行い始めた。
インタビューが終わると、
「インタビューにお答え頂き、ありがとうございました!!」
文は頭を下げて礼の言葉を述べた。
「どういたしまして」
霊児はどういたしましてと返しながらまだ残っていた茶を飲み干す。
すると、
「さて、私はこれから妖怪の山に戻って新聞の作成に取り掛かりますかね」
文は今後の予定を口にする。
「何だ、もう新聞を作るのか」
「それは勿論。速さは大切ですからね」
胸を張りながら速さは大切だと文は言い、
「それでは、失礼しますね」
妖怪の山の方に向かって素っ飛んで行った。
飛んで行った文が見えなくなると、
「もう一杯茶でも飲むか」
霊児は空になった湯飲みに茶を注ぎ、再び茶を啜っていく。
「はぁー……美味い」
一息吐きながら自画自賛の様な台詞を霊児が口にした時、
「……あ」
腹の音が鳴った。
音の発生源は勿論、霊児の腹だ。
「そーいや、昼飯まだ食ってなかったな」
腹の音で昼食を取っていなかった事を思い出したのと同時に、霊児は空腹感を覚えた。
この空腹感を少しでも満たす為に霊児は残っていた茶を一気に飲み干し、
「さて……」
立ち上がって食料庫へと足を向ける。
適当に野菜を台所に持って行って何時もの様に適当な鍋料理でも作ろうかと考えていると、
「お、着いた着いた」
霊児は食料庫に辿り着いた。
そして、食料庫に入る為に扉に手を掛け様とした瞬間、
「そう言えば……最近魚食ってなかったな……」
霊児は唐突に最近魚を食べていなかった事を思い出す。
思い出したからか、霊児は急に魚を食べたくなってしまった。
しかし、今から魚を用意しては昼食を取る時間は遅くなってしまう。
「どうすっかな……」
今直ぐに作れる鍋料理か。
それとも、最近食べていなかった魚か。
どちらにすべきか少しの間思案した結果、
「よし、魚にしよう」
霊児は鍋物ではなく魚を食べる事に決める。
魚を食べる事を決めた後、霊児は食料庫の扉を開けて中に入り、
「えーと大根は……あったあった」
大根を一本手に取って食料庫を出て行く。
食料庫を出た後、霊児は台所に移動して大根を擂って大根おろしを作り始める。
「……よし、こんなものか」
大根を擂り終えると、大根おろしを大き目の皿の上に乗せて醤油を掛けていく。
それが済むと、霊児は醤油が入った大根おろしが乗った皿を手に持って酒瓶と釣竿と鉄製の串を取りに向かう。
取りに向かった後、霊児は酒瓶、釣竿、鉄製の串を自身の体に括り付けていく。
酒瓶を左腰に、釣竿と何本かの鉄製の串を右腰に。
括り付け終わると、
「さて……いくか」
霊児は霧の湖を目指して飛んで行った。
霧の湖周辺にまで来ると、
「到着……っと」
霊児は降下して地に足を着ける。
そして、持って来た醤油が入った大根おろしが乗った皿、酒瓶、釣竿、鉄製の串を地面に置いていく。
その後、霊児は枯れ枝を探す為に動き始める。
霧の湖の近辺には幾つもの木々が生えているので、短時間で結構な量の枯れ木を集める事が出来た。
枯れ木が十分に集まると、持って来た物を置いた場所にまで戻って枯れ木を置き、
「そら」
霊児は枯れ木に向けて霊力で出来た弾を一発だけ放ち、枯れ木に火を点ける。
パチパチと言う音を立てながら燃えている枯れ木を見た後、霊児は釣竿を手に持って狙いを湖に定め、
「しっ!!」
釣竿を一気に振るって戻す。
するとどうだろう。
釣り針に魚が掛かっているではないか。
「完璧」
完璧と言う言葉を漏らしながら霊児は釣った魚を釣り針から放し、鉄製の串を一本手に持って魚を刺す。
刺された魚が絶命したのを確認した後、魚が刺さっている鉄製の串を燃えている枯れ木の近くに刺して魚を焼いていく。
「……さて、この魚が焼け切る前にもう何匹が釣って置くか」
釣った魚が焼けていくの見た後、霊児はそう言いながら再び湖に狙いを定める。
見ての通り、霊児の魚の釣り方と言うのは餌を付けずに釣り針を魚の口に直接引っ掛けて釣上げると言う方法を取っているのだ。
中々に難しい技術ではあるが、霊児は何の苦もなくやってのけている。
幼少期の頃からこの釣り方で釣っていたので、慣れたものなのであろう。
だからか、
「……しっ!!」
霊児は短い時間で再び魚を釣上げた。
そんな感じで、霊児は次々と魚を釣上げていく。
魚を釣り始めてから少しすれば、十分な量の魚を釣る事が出来た。
なので、霊児は魚を釣るのを止めて魚を焼く事に専念している。
「……お、一匹良い感じに焼けて来たな」
焼いている魚の一匹が十分に焼けたからか、霊児はその魚が刺さっている鉄製の串を手に取って醤油を入れた大根おろしの上に魚を乗せ、
「いただきます」
焼き魚を食べ始めていく。
その瞬間、
「……うん、美味い」
霊児の口から美味いと言う感想が自然に漏れた。
大自然の中で食べているからか、神社の中で食べる焼き魚よりも美味しく感じているのかもしれない。
自然の中で食べるのも良いものだなと思いながら霊児は酒を飲み始める。
一人宴会状態になってから幾らかの時間が過ぎると、
「魚を釣りに霧の湖にやって来たら良い匂いがしたから、気になって匂いがする場所を探していたら……霊児が居るじゃない」
霊児の背後から声が聞こえて来た。
声の主を確認する為に霊児が顔を後ろに向けると、
「妹紅」
妹紅の姿が目に映る。
どうやら、霊児に声を掛けて来たのは妹紅であった様だ。
「やっ」
妹紅は片手を上げ、挨拶の言葉を述べながら霊児に近付き、
「大漁じゃない」
大漁だと言いながら妹紅は霊児の隣に腰を落ち着かせた。
「まぁな」
霊児は大漁である事を肯定しながら魚を焼いてる鉄製の串を一本手に取り、
「食うか?」
妹紅に食べるかと問い掛けながら手に取った鉄製の串を突き出す。
「良いの?」
「ああ、無くなったらまた釣れば良いしな」
「そう。それなら頂くわ」
霊児の言葉で焼き魚を食べる事を決めた妹紅は鉄製の串を手に取り、醤油が入った大根おろしを付けて焼き魚を食べ始めると、
「……あら、美味しい」
妹紅の口から自然と美味しいと言う感想が出て来た。
「私は焼き魚には基本的に塩を塗して食べるけど、醤油を入れた大根おろしも良いものね」
「塩か……今度焼き魚を作る時は塩でも塗してみるかな」
「やってみなさい。美味しいから」
焼き魚を食べ、二人が焼き魚談義を始めてから少しすると、
「あ、そうそう。話は変わるけど貴方達が作った弾幕ごっこ、あれ良いわね」
妹紅は唐突に弾幕ごっこが良いと言う事を口にし、続ける様に、
「スペルカードで発動する技なら竹林の中で使っても竹に火が点く事何て殆ど無いし。私が使う技の殆どは炎系だから、弾幕ごっこが出来る前は竹林に
炎が燃え移らない様に気を使いながら戦っていたのよね。スペルカードで発動した技は威力が大幅に下がるのがあれだけど、輝夜と奴と戦う時に周囲を
気にせずに技を放てるってのはやっぱり良いわ」
場所を気にせずに技を放てるのは良いと言う。
「そうかい」
妹紅の発言を聞き、自分の知り合いは弾幕ごっこをやっている者が多いなと霊児が考えていると、
「あれ、良い匂いがするねー」
湖の方からその様な声が聞こえて来た。
声が聞こえて来た方に霊児と妹紅が顔を向けると、
「にとり……」
湖から上半身を出しているにとりの姿が二人の目に映る。
にとりの存在を認識した霊児は、
「お前、何でそんな所から現れたんだ?」
何で湖から現れたのかを問う。
この様な事を問うた理由は勿論ある。
基本的に空を飛べる者は空を飛んで来るので、幾ら河童と言えど空を飛べるにとりが湖から出て来たのは些か腑に落ちないからだ。
そんな霊児の疑問に答えるかの様に、
「実はさ、さっきまで川に体を浮かばせながら昼寝をしてたんだよね」
にとりは川に浮かびながら昼寝をしていた事を話しながら湖から上がって霊児の方に近付き、
「で、気付いたら霧の湖の方にまで流されてたんだよね」
気付いたら霧の湖の方にまで来ていたと言って腰を落ち着かせた。
要は、昼寝をしていたら霧の湖にまで流されて来たと言う事らしい。
「河童が流されて来たねぇ……」
にとりの話を聞いた妹紅は、少し呆れた視線をにとりに向け、
「河童の川流れって言う諺があるけど……まさか、直接その諺をこの目で見る事になるとはね……」
諺通りの出来事に遭遇する事になるとは思わなかったと口にする。
泳ぎが得意なのに川に流されると言う失態が露見したからか、
「いやぁ……ははは……」
にとりは苦笑いを浮かべながら妹紅から顔を逸らし、
「そ、それよりさ!! 二人とも美味しそうな物を食べてるよね!!」
話を変える様に焼き魚の話題を出す。
焼き魚の話題が出されたからか、
「食うか?」
魚を焼いている鉄製の串を抜きながら食べるかと霊児が問うと、
「食べる!!」
にとりは元気良く食べると言いながら霊児が持っている鉄製の串を手に取り、
「いっただっきまーす!!」
焼き魚を食べ始めた。
何も付けずに焼き魚を食べ始めたにとりを見て、
「あら、にとりは何も付けないで食べるのが好みなの?」
妹紅はにとりに焼き魚には何も付けずに食べるのが好みなのかと尋ねる。
「好みって言うか……素材の味をそのまま楽しみたいって感じかな」
妹紅が尋ねた事に素材の味をそのまま楽しみたいとにとりは返し、
「それはそうと、弾幕ごっこって中々に楽しいよね」
唐突に弾幕ごっこの話題を出す。
「弾幕ごっこは結構体を動かすから、気分転換をするのには丁度良いしね。それに、スペルカードを作るのも楽しいし」
「あー……分かるわ。普通の戦いじゃ使えない技でも弾幕ごっこじゃ使えたりするのって結構在ったりするから、そう言うのを考えるのも中々楽しく感じるわ」
「好評な様で何よりだ」
にとりと妹紅の話を聞き、霊児は自分の知り合い連中は皆弾幕ごっこをやっているなと感じた。
若しかしたら、弾幕ごっこの発案者の一人である霊児に皆気を使って弾幕ごっこをやり始めたのかもしれない。
だが、経緯はどうあれ弾幕ごっこをやっている者は弾幕ごっこを楽しんでいる様なので何よりだ。
後は、このまま弾幕ごっこが広まっていけば幻想郷に活気が戻る事であろう。
霊児はそんな事を考えながら酒瓶を手に取って酒を飲み始めると、
「あれ? 霊児、美味しそうなのを飲んでるじゃない」
にとりが物欲しそうな目で霊児が持っている酒瓶を見て来た。
「何だ、飲みたいのか」
「うん!!」
飲みたいと言う意思をにとりが示すと、
「ほら」
霊児は酒瓶をにとりに投げ渡す。
「おっとっと……」
少し危な気な様子ではあったが、にとりは投げられた酒瓶を受け止める。
そして、酒を飲み、
「……うん、美味しい」
美味しいと言う感想を漏らす。
「あら、そんなに美味しいお酒なの?」
霊児とにとりが飲んだ酒に興味が出て来たからか、妹紅が酒の味に付いて尋ねると、
「んー……一寸刺激が足りない感じだけど、美味しいよ」
にとりは一寸刺激が足りない感じだが美味しいと言い、
「飲んでみる?」
飲んでみるかと問う。
「飲んでみたいけど……良い、霊児?」
「ああ、別に良いぞ」
霊児の許可が取れたからか、にとりは妹紅に酒瓶を投げ渡した。
「お……っと」
投げ渡された酒瓶を妹紅は受け止め、酒を飲むと、
「……うん、美味しいわね」
美味しいと言う感想を口にする。
「味からして結構高そうなお酒だけど……」
「正解。それ、人里の酒屋で買った結構高いやつだ」
妹紅が呟いた事を霊児が肯定すると、
「霊児霊児、胡瓜は無いの? お酒のつまみにし様と思ってるんだけど」
にとりが胡瓜は無いのかと尋ねて来た。
「無い。持って来たのは酒と醤油が入った大根おろしだけだ」
「ちぇー」
胡瓜が無い事を知ってにとりは少し拗ねた表情になってしまう。
そんなにとりを見て、
「やっぱり、河童って胡瓜が好きなのね」
妹紅は呆れと感心が混ざった様な表情を浮かべた。
「勿論!! そもそも胡瓜ってのはね……」
にとりは笑顔で胡瓜が好きな事を肯定し、胡瓜の良さを語ろうとする。
その話が長くなりそうだと直感的に感じ取った霊児は魚を焼いている鉄製の串を一本手に取り、
「そら」
にとりの口に突っ込んだ。
つい先程まで火で熱せられていた魚を口に突っ込まれたのだから、
「熱ッ!!」
にとりは熱さで大声を上げてしまった。
慌てる様な動作で鉄製の串を掴み、焼き魚を自分の口から離すと、
「何するんだよ!! 霊児!!」
にとりは霊児に向けて文句の言葉を口にする。
「ああ、話が長くなりそうだったからな。強制的に止めさせて貰った」
「むー……私に胡瓜の良さを語らせないとは……」
「まぁまぁ……」
霊児の物言いに思いっ切り不満気な表情を浮かべたにとりを妹紅が宥めていく。
そんな感じで三人だけのプチ宴会状態に突入していったが、このプチ宴会は結構盛り上がっていった。
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