春の季節が過ぎれば当然、夏の季節がやって来る。
蝉が煩く鳴き続け、太陽が光輝く夏が。
そんな夏のある日、

「暑ー……」

霊児は縁側に座り、暑いと漏らしながら団扇で自分を扇いでいた。
面倒臭い作業ではあるが、団扇で扇ぐのを止めてしまったら余計に暑くなるので止めるに止められない。
時偶、普通に風が吹いて風鈴が鳴る事もあるが、

「……ちっとも涼しくなった気にならねぇ」

少しも涼しくなった気にはならなかった。

「今年の夏は何時もより暑い気がするな……」

今年の夏は何時もより暑いと呟きながら霊児は空を見上げる。
見上げた先には太陽が見えた。
ギラギラと輝いている太陽が。
こんな暑い日にギラギラと輝いてる太陽を忌々しく思っていたからか、

「暑ぃ……」

暑いと言う言葉が自然と口から出て来てしまう。
出て来てしまうだけだったらまだ良かったのだが、暑いと言う単語を口にしたからか霊児は余計に暑くなったと感じてしまった。
下手な事を口にした自分の失態に霊児は思わず溜息を吐き、

「暑い……」
「何か冷たい飲み物とかないのかい?」
「何だって今年と言うか……今日はこんなに暑いのかしら?」
「そろそろ突っ込もうと思ってたんだが……ここは避暑地じゃねぇんだぞ、お前等」

何時の間にか神社にやって来て自分の傍に腰を落ち着かせている魔理沙、魅魔、アリスの三人にその様な突っ込みを入れる。
霊児の突っ込みを聞いたからか、

「そうは言ってもな、今の魔法の森の中は蒸し風呂状態なんだぜ。暑く暑くて、とてもじゃないが魔法の森の中に居ようって気にはならないんだ」

魔理沙は団扇で自分を扇ぎながら今の魔法の森の状態を話す。
魔理沙の発言に続ける様にして、

「魔法の森が蒸し風呂状態になっているせいで家の中がムワっとしているのよね。換気のなどの為に窓を開けたりしたら余計に熱くなるし。だから、
とてもじゃないけどずっと家の中や魔法の森の中に居るって事はしたくないのよ」

アリスは魔法の森だけではなく家の中の状態も口にする。
それを聞いた霊児はアリスの方に顔を向け、

「……てか、便利だな。それ」

便利だなと言う言葉を漏らした。
何故便利だなと言う言葉を漏らしたのかと言うと、アリスは人形に団扇を扇がせているからだ。
楽が出来て羨ましいと言う感想を霊児が抱いていると、

「私は人形遣いだからね。この程度の事位は出来て当然よ」

アリスは人形遣いならこの程度の事は出来て当然と返す。

「去年、一昨年はそこまで暑くは無かった筈だけど……今年の夏は一段と暑いね」

他の面々と同じ様に団扇で自分を扇いでいる魅魔が今年の夏は一段と暑いと言う愚痴を零して来たので、

「……お前って一応は幽霊の区分に入るんだろ? 暑さとか感じるのか?」

霊児はふと、疑問に思った事を尋ねてみた。
尋ねられた事に、

「正確に言うと、私は幽霊ではなく悪霊……ではなく亡霊か。もう、悪霊と言われる様な事はしていないしね」

自分は幽霊ではなく亡霊に区分されるのだと言う訂正を魅魔は行い、

「詳しい説明は暑くて言うのが面倒だから省くけど、基本的には生きている者とそこまで変わらないよ。そっちの方が魔法を扱うのに色々と便利だしね」

生きている者とそこまで変わらないと言う言葉で締め括る。
魅魔の説明を聞き、

「へぇー……」

霊児は適当な相槌を打つ。
霊児の反応が薄かったからか、

「折角説明したんだから、もう少し何か言ってくれても良いだろうに」

魅魔はもう少し反応があっても良いのでは呟く。
その後、霊児、魔理沙、アリス、魅魔の四人は暑いせいか何かしたりと言った事はせずにボケーッとしていた。
と言っても、団扇で自分を扇ぐと言う行為は止める事はしなかったが。
四人がボケーッとし始めてから幾らかの時間が流れた頃、

「……そうだ」

霊児は何か思い付いた表情を浮かべ、魔理沙、魅魔、アリスの三人の方に視線を移し、

「お前等三人魔法使いなんだから、何か涼しくする様な魔法とか使えないのか?」

場を涼しくする様な魔法は使えないのかと問う。
涼しくする様な魔法は使えないのかと問われた三人はそれぞれ顔を見合わせた後、

「私は人形を操ったりするのが専門だから場を涼しくさせる様な魔法……まぁ、属性魔法に分類されるかしらね? 兎も角、私は人形を操ったりする系統
以外の魔法の練度はそんなに高くないの。だから、涼しくさせる様な魔法は使えないわ」
「私の魔法は光や熱などが専門だからな。私が涼しくさせ様と何か魔法を使ったら、涼しくなる処か余計に暑くするだけに終わると思うぜ。まぁ、魔法薬
とかなら場を涼しくさせる様な物もあるんだろうが……生憎そう言った効果がある魔法薬は作った事が無いからなぁ……」

アリスと魔理沙から場を涼しくさせる様な魔法は使えないと言う事を話す。
二人が場を涼しくさせる様な魔法は使えないと言った後、霊児、アリス、魔理沙の三人の視線は魅魔の方に向けられた。

「……ん? 私かい?」

魅魔が自分かと聞くと、三人が同時に頷いたので、

「んー……確かに、フィールド魔法は使えるけどね……」

魅魔はフィールド魔法の事を口にする。

「フィールド魔法?」

魔法に関する知識が大して無い霊児が首を傾げてしまったのを見てしまったからか、

「解り易く言えば場を組み変える魔法さ。自分を有利にして相手を不利にさせるって言う使い方が一般的かね。例えば……自分に炎熱の耐性を付ける様な
魔法を使った後に場を獄炎の世界に変えたりとか、平地を木々が生い茂る森に変えて相手の戦術を崩したり、変化させた場に在るものを攻撃に使ったりと
言った風にね。欠点としてはフィールド魔法は消費魔力量がかなり多いって事と習得難易度がかなり高いって言う二点かな。仮に習得出来たとしても並の
魔法使いならフィールド魔法を発動しただけで魔力が枯渇するだろうね。確実に。まぁ……私、魔理沙、アリスだったらフィールド魔法を使っても魔力が
枯渇する事は無いけどね」

魅魔がフィールド魔法に付いて簡単に説明してくれた。

「へぇー……」

聞かされたフィールド魔法の事を霊児が頭に入れている間に、

「話を戻すけど、先程言った様に私はフィールド魔法を扱う事が出来る。だから、場を涼しくさせる事は可能と言えば可能だ」

魅魔は自分なら場を涼しくさせる事は可能だと言う。
魅魔の話を聞き、これで涼しくなると霊児、魔理沙、アリスの三人が思った時、

「唯……私は攻撃魔法以外の魔法は殆ど加減が出来なくてね」

魅魔から攻撃魔法以外の魔法は殆ど加減が出来ないと言う情報が聞こえて来た。
それを聞き、三人が嫌な予感を感じていると、

「私が場を冷やす魔法を使ったら……博麗神社の敷地内全てがカチンコチンに氷る事だろうね」

魅魔は場を冷やす魔法を自分が使ったら周囲一体が氷ってしまうと言う。
氷ってしまうと言う発言を聞き、霊児はその状況をイメージする。
イメージの結果、涼しくはなるだろうが畑と花壇が全滅すると言う結論に達した。
畑が駄目になれば食料は採れなくなり、花壇が駄目になれば確実に幽香の怒りを買う事になるであろう。
なので、

「却下だ却下」

霊児は場を涼しくする魔法を使うのは止める様に言い、

「そう上手くはいかないか」

溜息を一つ吐く。
何処か落胆している霊児を見て癇に障ったからか、

「攻撃魔法に特化している様な事は言ったが、攻撃魔法以外の魔法も一流の魔法使い以上に扱えると自負しているよ。時間さえ掛ければある程度の加減も
効く筈さ。と言っても、この暑さじゃ集中力が持たないだろうけど。後、攻撃魔法以外の魔法も一流の魔法使い以上に扱えるとは言ったが……超一流には
流石に及ばないだろうけどね。でも、私位の実力が有る魔法使いなんて滅多にいないよ」

魅魔は如何に自分が凄い魔法使いであるか話し始めた。
魅魔の話を聞き、

「流石魅魔様です!!」

尊敬の眼差しで魅魔を見ている魔理沙を尻目に霊児は考える。
フィールド魔法ではなく、大量の氷を降らす様な魔法を使って貰えれば涼しくなるのではないかと。
中々に良いアイディアだと思い、考えた事を魅魔に言おうとしたが、

「少し偉そうに語ったが……結局の所、私は細かい操作とかは得意じゃないのさ。まぁ、私は全力で魔法を放つのが好きだから気にはしてないけどね」

締め括る様に言った魅魔の発言を聞き、霊児は言おうとした言葉を呑み込む。
巨大な氷の塊が降って来て博麗神社が潰れると言う未来が見えたからだ。

「成程、その辺りは似た者師弟なのね」

魅魔の話を聞き、アリスは魔理沙と魅魔の事を似た者師弟だと称する。

「何だ、自分だけ毛色が違う魔法使いで寂しいのか?」

魔理沙がからかう様に自分だけ仲間外れで寂しいのかとアリスに聞くと、

「そんな事、ある訳無いでしょ」

アリスは否定の言葉を返す。

「またまたー。一人だけパワーが足りなくて寂しいんだろ?」
「違うって言ってるでしょ。それにパワーだって十分にあるわよ」
「そうか? 私からしたらお前はパワーが足りてない様に感じるけどな」
「そりゃ、パワー馬鹿の貴女と比べれば劣るでしょうけど。それに、私からしたら貴女にはブレインが足りてない様に感じるけど」
「……それはあれか? 私が馬鹿だと言いたいのか?」
「別にそこまでは言っていないけど……若しかして、自分は馬鹿だと言う自覚があるのかしら?」
「……何だと?」
「……何よ?」

魔理沙とアリスから一戦交えそうな雰囲気が感じられたが、

「……止めるか。余計に暑くなりそうだし」
「……そうね。ここで争っても無駄に暑くなって無意味に体力を消耗するだけね」

ここで争っても余計に暑くなるだけだと言う判断を魔理沙とアリスは下し、一戦交えそうな雰囲気を消散させる。
結局、涼しくなる方法は無い事が分かったからか、

「「「「…………はぁ」」」」

四人は同時に溜息を吐いた時、風が吹いて風鈴が再び音を鳴らした。
風鈴の音を聞き、

「……妖怪の山は涼しそうで良いだろうなー」

霊児は思い出したかの様に妖怪の山は涼しそうで良いなと呟く。
霊児の呟きが耳に入ったからか、

「妖怪の山が? どうして?」

アリスはどうして妖怪の山が涼しそうなのかと問う。
問われた事に、

「前に椛に聞いたんだ。妖怪の山にはでっかい滝が在るってな」

霊児は妖怪の山には大きな滝が在るからだと返す。
それを聞いたアリスは、

「へぇー……」

何処か羨ましそうな表情を浮かべた。
妖怪の山に涼し気な場所が在る事を知ったのだ。
羨ましくなるのも無理はないであろう。
霊児とアリスの会話を聞いていた魔理沙は、

「……なぁなぁ、霊児」

何かを思い付いた表情を浮かべながら霊児に話し掛ける。

「ん? どうした?」

話し掛けられた霊児が魔理沙の方に顔を向けると、

「だったらさ、これから妖怪の山に行かないか?」

魔理沙が妖怪の山に行かないかと言う提案をして来た。
その提案を、

「無理だ」

霊児は無理だと言う。

「何でだ? 前は普通に行けただろ」

無理だと言った霊児に、魔理沙は以前妖怪の山に行けた事を口にする。
魔理沙の言う前とは、妖怪の山で開催された一寸した大会に霊児が参加した時の事だ。
大会が開催されていた時は人間で妖怪の山に住んでいない霊児と魔理沙も普通に妖怪の山に入山する事が出来た。
だと言うのに、何で妖怪の山に入山する事は無理なのかと言う疑問を抱いている魔理沙に、

「前の時は天狗側に招待されたって形だから妖怪の山への入山も問題無く出来たんだ。招待されてもいないのに避暑地探しが目的で妖怪の山に行っても
追い返されるだけに終わるだろ。まぁ、無理矢理押し通る事も出来るだろうが……その後に妖怪の山と戦争状態になるって事が考えられるからなぁ。仮
に妖怪の山の全てを敵に回して勝つ自信は十分にあるが、幾ら何でもそんな理由で妖怪の山と事を構える積りは俺には無い。それに数が多い分、妖怪の
山の連中と戦う事になったら面倒臭いからな」

霊児は無理だと言う理由を説明する。

「そっか……」

妖怪の山への入山が不可能だと分かったからか、魔理沙は少しがっかりとした表情を浮かべてしまった時、

「妖怪の山って言ったら、結構な組織力を有してる所じゃないか。中心となっている天狗の数も中々に多い。そんな連中を全て敵に回しても勝つ自信が
あると言い切るとは……相変わらずの自信家だね」

魅魔が少しからかう様な声色で霊児の事を自信家と称した。
自身の事を自信家と称した魅魔に、

「生憎、強くなければ博麗何てやってられないからな」

霊児は強くなければ博麗何てやってられないと返す。
その発言を聞き、

「まぁ、自分の強さに自信が無ければ神綺様と戦ったりはしないわよね」

アリスは自分の強さに自信が無ければ神綺相手に戦ったりはしないだろうと口にする。
確かに、自分の強さに自信が無い者が魔界の創造神に戦いを挑む事はしないであろう。
もし、神綺と同等の強さを持っている者が幻想郷に害をなす為に現れたら確実にお互いの命を賭けた戦いになる。
アリスが口にした事を聞いた霊児がそんな事を考えていると、

「あ、なら川とか湖ならどうだ? それなら妖怪の山以外に結構あるだろ」

魔理沙が川や湖に行かないかと言う提案を行う。
魔理沙の提案は正しい様に感じられたが、

「いや、それは却下だ」

霊児はその提案を却下した。

「何でだよ?」

自分の提案を却下された事で疑問気な表情を浮かべた魔理沙に、

「この馬鹿みたいに暑い中、涼しい場所に行こうって言うのは普通に考える事だ。今頃、川や湖は妖怪で鮨詰めだろうぜ」

霊児は却下した理由を話す。

「あー……確かにそうなってそうだな」

霊児が口にした理由を聞き、魔理沙は納得した表情になりながら溜息を一つ吐く。
結局、涼しくなる方法は何も無いのかと思われたその時、

「……あ、そうだ」

アリスは何かを思い付いた表情を浮かべ、

「香霖堂になら何か涼しくさせる様な道具が在るんじゃないかしら?」

香霖堂になら何か涼しくさせる様な道具が在るのではと言う。

「確かに、香霖の所になら何か在りそうだな」

アリスの発言を聞き、魔理沙は同意を示す発言をする。
アリス、魔理沙の言う通り香霖堂になら涼しく過ごせる何かが在るかもしれない。
行って見る価値はあるだろう。
しかし、一つだけ問題がある。
問題と言うのは、

「で、誰が香霖堂に行くんだ?」

誰がこんな暑い中、香霖堂に行くのかと言う問題が。
霊児がその事を口にした瞬間、魔理沙、魅魔、アリスの視線が霊児の方に向いた。
三人の視線から、三人が何を言いたいのか理解した霊児は、

「……分かったよ、俺が行くよ」

何処か諦めた表情になりながら自分が行くと言い、隣に置いてあった羽織を着て博麗神社を飛び出して香霖堂へと向かって行く。
博麗神社を後にしてから直ぐに、

「……何で俺が行く事になったんだ?」

霊児は思わず何で自分が行く事になったのだと言う疑問を抱き、首を傾げてしまった。





















香霖堂を目指し始めてから少しすると、

「暑ー……」

霊児は暑くて仕方が無いと言う表情を浮かべながらダラダラと空を飛んでいた。
最初はそれなりのスピードを出していたのだが、今はこれだ。
暑さのせいでスピードを出す事すら面倒臭くなっている様である。
因みに、

「羽織り……頭から被って無かったらもっと暑かっただろうな……」

現在の霊児に格好は着ていた羽織りを頭から被っている状態だ。
つまり、羽織りを帽子代わりにして少しでも暑さを和らげているのである。

「あー……これで香霖の所に何も無かった無駄足だな……。てか、何で俺が行く事になったんだ……ほんと」

暑さのせいか、霊児の口から愚痴が漏れ始めた時、

「あら、霊児じゃない」

真横から声が聞こえて来た。
こんな暑い中、霊児は自分以外に誰が出歩いているのかと思いながら一旦止まって声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「幽香……」

風見幽香の姿があった。
霊児に声を掛けて来たのは幽香であった様だ。
太陽がギラギラと輝いている暑い日だと言うのに、幽香には暑がっている様子が欠片も見られない。
差している傘のお陰だからだろうか。
暑がっていない幽香を霊児は羨ましく思いつつ、

「それにしても、どうした? やけにご機嫌じゃないか」

幽香がやけに機嫌が良さそうな表情を浮かべていたので、機嫌が良い理由を尋ねる。
機嫌を尋ねられた幽香は、

「あら、分かるかしら?」

嬉しそうな表情を浮かべながら分かるかと聞いて来た。

「そりゃ……なぁ」

見れば分かると言う様な事を口にすると、

「実はね、そろそろ太陽の畑の向日葵が芽を出しそうなのよ」

幽香は太陽の畑の向日葵が芽を出しそうになっている事を話す。
それを聞き、

「ああ……」

霊児は幽香の機嫌が良い理由を理解した。
風見幽香は花を何よりも大切にしている妖怪だ。
大切にしている数ある花の中でも特に向日葵を大切にしているのだから、機嫌が良くなるのも当然であろう。

「それはそうと、この前貴方に渡した向日葵の種はちゃんと植えてくれてる?」

霊児が幽香の機嫌が良い理由を理解している間に、今度は幽香が前に霊児に渡した向日葵の種をちゃんと植えたのかと少し凄む様な視線で尋ねて来た。
夏になる少し前に幽香から渡された向日葵の種の事を霊児は思い出しつつ、

「ああ、ちゃんと花壇に植えてるよ」

花壇に植えている事を幽香に伝える。
ちゃんと植えてなかったら幽香の怒りを買って神社で暴れられ、博麗神社が倒壊などと言う事態になってたかもなと言う事を霊児が考えていると、

「そう。ならいいわ」

幽香は表情を戻した。
おそらく、霊児が向日葵の種をちゃんと植えている事が分かったからであろう。
その後、

「さて、私はそろそろ行くわ」

幽香はそろそろ行くと言う。

「ああ、太陽の畑に行くのか」
「ええ、水遣りとか色々とあるからね。あ、そうそう。私は暫らくは太陽の畑に居るから来たかったら何時でもいらっしゃい。歓迎して上げるわ」

太陽の畑に来る事があれば歓迎すると言い残し、去って行った。
去って行く幽香の後姿を見ながら、

「ほんとにご機嫌だったな、あいつ」

霊児は本当に幽香はご機嫌だったなと呟き、移動を再開する。





















幽香と別れてから暫らくすると、香霖堂が見えて来た。
同時に、霊児は降下して香霖堂の前に降り立ち、

「香霖居るかー?」

声を掛けながら香霖堂の扉を開け、中に入る。

「外程じゃないが、店の中も暑いな……」

外よりは暑くないと呟きながら霊児は頭に被っている羽織を肩に移し、奥へと進んで行く。
そして、カウンターまで後半分と言った所まで来た時、

「やぁ、いらっしゃい」

霖之助が声を掛けて来た。
団扇で自分を扇いでいる辺り、霖之助も暑くて仕方が無い様だ。

「さて、何がご入用かな?」

何が欲しいのか問うて来た霖之助に、

「この暑さを何とかする様な物はないか?」

霊児はカウンターに近付きながらこの暑さを何とかする様な物はないかと尋ねる。

「暑さを何とかする物かい? そうだね……」

霖之助は少し考える素振りを見せた後、

「そうだ、あれ何かどうだい?」

何か思い付いた表情を浮かべながらある方向に指をさす。
霖之助が指をさした方に目を向けると、三枚の羽がくっ付いた置物が霊児の目に映った。
初めて見る物であるからか、

「何だ、あれ?」

霊児は霖之助が指をさした物が何であるのかを聞く。

「あれは扇風機と言って、自動で風を送ってくれる外の世界の道具さ」
「ほう……」

霖之助の説明を聞き、霊児は興味深そうな目で扇風機を見ながら、

「で、これはどうやって動かすんだ?」

扇風機の動かし方を問う。
当然、動かし方に対する答えが返って来るものだと思われたが、

「さぁ? 僕にも分からないな」

霖之助からは動かし方が分からないと言う答えが返って来た。

「……おい」

分からないと言う答えを聞き、霊児が思わず呆れた表情になると、

「僕の能力は"道具の名前と用途が判る程度の能力"だからね。使用方法までは判らないよ」

霖之助は自分の能力では使用方法までは分からないのだと返す。

「ああ……そう言えばそんな能力だったな」

霊児は霖之助の能力を思い出しながら溜息を一つ吐き、

「他には何かないのか?」

使い方の分からない道具には用は無いと言う様に他に何かないのかと尋ねる。
尋ねられた霖之助は、

「そうだな……ああ、あれがあったか」

何か良い物があると言う様な事を口にして立ち上がり、奥の方へと向って行く。
店の奥に向かって行った霖之助の表情は中々に自信有り気であった為、霊児は期待した表情を浮かべる。
霊児が一寸したわくわくを抱いている間に、

「お待たせ。これなんかどうだい?」

霖之助は戻り、手に持っている平べったい大きい何かを霊児に見せて来た。

「何だ、それ?」
「これはビニールプールと言われる物だ」

疑問気な表情を浮かべている霊児に、霖之助は持って来た物の名称を教え、

「これに空気を入れて膨らませ、その中に水を入れれば手軽に水遊びを楽しむ事が出来るんだ」

空気を入れて膨らませ、水を入れれば簡単に水遊びが出来る事を説明する。

「ほう……」

霖之助の説明を聞き、霊児は是が非でもこのビニールプールが欲しくなった。
この暑い日に手軽に水遊びが楽しめる。
今、一番欲しい物だ。
だからか、

「買った」

多少値が張っても構わないと言う気持ちで霊児は買ったと言う言葉を述べる。
それを聞き、

「毎度」

霖之助は眼鏡を中指で上げながら毎度と言い、値段交渉に入った。
値眼交渉には時間が掛かると思われたが、値段交渉は直ぐに終わる事となる。
直ぐに終わった理由は、霊児がさっさと帰って涼みたいからと多少値が張っても構わないと言ったからだ。
少々ぼっ手操られた感があったものの、霊児は提示されたお金を払ってビニールプールを受け取る。
そして、肩に掛けてある羽織を頭に移して香霖堂を後にした。






















香霖堂を後にし、眼下に博麗神社の縁側が見えると降下して地に足を着け、

「ただいま」

霊児はただいまと言う。

「おかえり」

ただいまと言った霊児に魔理沙が出迎えの言葉を掛けると、

「何で、態々空を飛んで帰って来たんだい?」

魅魔は何で空を飛んで帰って来たのかと言う疑問をぶつける。

「何でって……空を飛べるかに決まってるだろう」
「……言い方を変え様か。何で二重結界式移動術を使って帰って来なかったんだい?」

魅魔が二重結界式移動術の事を口にした瞬間、

「……あ」

霊児はすっかり忘れてたと言う表情になった。
おそらく、暑さのせいで二重結界式移動術の事が頭の中からすっかりと抜け落ちていたのだろう。
二重結界式移動術を使えばこの暑い中を往復しなくても済んだと言うのに。
自身の技の事を忘れていた霊児の間抜けさを無視する様に、

「……それで、香霖堂に目的の物はあった?」

アリスは目的の物は香霖堂にあったのかと聞く。
自分の間抜けを無視してくれたアリスをありがたく思いつつ、

「ああ、あったぜ」

霊児は香霖堂に目的の物があった事を伝え、買って来たビニールプールを三人に見せる。
ビニールプールを初めて見るからか、

「霊児、それ何だ?」

魔理沙がビニールプールが何なのかと聞く。
なので、

「ああ、これはビニールプールと言ってな……」

霊児はビニールプールの説明を行う。
説明が終わると、

「じゃあじゃあ!! これでこの暑さともおさらば出来るって訳だな!!」

魔理沙は少々興奮気味な様子でこの暑さともおさらば出来るなと口にする。

「そう言う事」

霊児は魔理沙が口にした事を肯定しながら持っているビニールプールを地面に下ろし、

「さっさと空気を入れるか」

ビニールプールに空気を入れていく。
そして、ビニールプールが膨らみ切り、

「……よし、こんなもんだな」

霊児が一息吐いた時、

「おおー……思ってた以上に大きいな」
「この大きさなら、一寸やそっとで水が温まるって事はなさそうね……」

魔理沙とアリスが思って以上に大きいビニールプールに感嘆の声を漏らす。
その後、

「それじゃ、水を入れて来るか」

霊児は左腰に装備している短剣を抜き、ビニールプールの中に置く。
置かれた短剣を見て、

「ああ、成程。二重結界式移動術で水を送る気だね」

魅魔は霊児が何をし様としているのかを理解する。

「そう言う事。二重結界式移動術は俺以外のものを跳ばす事にも使えるからな」

霊児は二重結界式移動術で水を送る事を肯定し、井戸の方へと向かって行く。
井戸に着くと、霊児は井戸の中を覗き込み、

「範囲は……大体こんなものか」

右手を井戸の中に向けながら範囲を決め、二重結界式移動術を発動させる。
二重結界式移動術が発動した事を確認した後、霊児は縁側の方へと戻って行く。
戻った先に在るビニールプルールには、

「よし、完璧」

水が満たされていた。
無事に水をビニールプールに送れた様だ。

「しっかし、相変わらず二重結界式移動術の発動を察する事が出来ないね」
「ま、発動を感知させないのも二重結界式移動術の特性の一つだからな」

二重結界式移動術の発動を察する事が出来ないと言った魅魔にそれも特性の一つだと霊児は返し、ビニールプールの中に手を入れ、

「よっ……と」

短剣を拾い上げて短剣に付いている水を払う様に短剣に振るい、短剣を鞘に収めた。
霊児が短剣を鞘に収めたタイミングで、

「今思ったんだけど、水着とかはどうするの?」

アリスは水着などはどうするのかと口にする。
確かに、水遊びなどをするには水着などが必要だろう。
しかし、

「え? このまま入れば良いだろ。こんだけ暑いんだから、服なんて直ぐに乾くだろ」

霊児は水着何て必要無いと言って鞘に収められている短剣五本を体が外していく。
短剣五本を外し終えると、霊児は羽織とシャツを脱ぎ、

「そら」

外した装備と脱いだ衣服を自分が腰を落ち着かせたいた場所に投げ、靴を脱いでビニールプールに飛び込んだ。

「ああー……涼しいー……」

ビニールプールに満たされている水に浸かり、涼し気な表情を浮かべている霊児を見て、

「ああ、そうか。このまま入れば良いのか」

魔理沙は納得した表情になる。
が、そんな魔理沙と対照的に、

「服を着たまま入るって言うのは……」

アリスは何かを考える表情を浮かべた。
どうやら、服を着たままビニールプールに入る事を躊躇っている様だ。

「別に良いだろう。服が濡れたって直ぐに乾くんだしさ」
「だからと言って、服を着たままって入るって言うのはね……」

今一煮え切らないアリスを見て、魔理沙は何かを思い付き、

「……なぁ、あれって何だ」

少し先の方を指をさしながらあれは何だと口にする。

「え、何?」

魔理沙が指をさした方向にアリスが意識を向けた瞬間、

「隙有り!!」

魔理沙はアリスの背後に回り、アリスの背中を押す。
そんな事をされたアリスは、

「きゃあ!?」

当然の様に水が満たされたビニールプールの中へと落ちて行った。
そう、魔理沙が思い付いた事と言うのはアリスを強引にビニールプールに入れてしまおうと言う事だったのだ。
ビニールプールに落とされたアリスは、

「ぷは!!」

水面から顔を出し、

「行き成り何をするのよ!!」

文句の言葉を口にする。

「おいおい、踏ん切りが付かない様だったから私が付けてやったんじゃないか」

少しも悪びれた様子を見せない魔理沙に腹を立てたからか、アリスはビニールプールの奥の方に少し進んで行く。
そして、人形を操り、

「うわあ!?」

魔理沙を水が満たされたビニールプールにへと叩き落した。
先程の意趣返しと言ったところか。
アリスが為て遣ったりと言う表情を浮かべていると、

「ぷは!!」

魔理沙は水面から顔を出し、

「何するんだよ!!」

文句の言葉を口にする。

「あら、ごめんなさい。手が滑ったせいで間違って人形達が貴女の背中を押し出す様に操ってしまったみたい」
「人形遣いのお前が間違って人形を操るってどう言う……事だ!?」

アリスの変な言い訳を聞き、魔理沙がアリスに水を掛けると、

「何するのよ!!」

アリスも反撃と言わんばかりに魔理沙に水を掛けた。
水の掛け合いを始めた二人を見て、

「やれやれ、元気だねぇ……」

魅魔はビニールプールに入りながら元気だねと呟く。
こうして、霊児達は日が暮れるまでビニールプールで水遊びに興じる事となった。























前話へ                                           戻る                                             次話へ