チルノを倒し、湖を抜けた先に霊児達を待っていたものは平和な道中であった。
何の襲撃も無く、平和な道中と言う事もあってか霊児達は雑談を交わしながら先へと進んで行く。
傍から見れば、霊児達は異変解決では無くピクニックに行っている様に見えるだろう。
それだけ、霊児達の雰囲気が緩んでいるのだ。
しかし、そんな平和な道中も唐突に崩れ去る。
何故ならば、再び襲撃者が現れたからだ。
最初に現れた襲撃者は、何体もの回転する謎の飛行物体。
回転する謎の飛行物体は、現れて早々に弾幕をばら撒いて来た。
ばら撒かれた弾幕を見て、霊児達は緩んでいた雰囲気を一掃させるかの様に一旦進行を止めながら散開して弾幕の射線から逃れて弾幕による迎撃行動を取る。
無論、迎撃行動を取っているのは文以外の面々だが。
霊児達が取った迎撃行動のお陰か、回転する謎の飛行物体を大した時間も掛からずに全滅した。
回転する謎の飛行物体が全滅した事で霊児達が弾幕を放つのを止めると、今度は妖精達が現れる。
道中襲い掛かって来る者は妖精と回転する謎の飛行物体ばかりだなと言う感想を一同が抱いた時、

「……この妖精、さっきまで出て来た妖精よりもずっと強いな」

霊児は湖の方で出て来た妖精よりも強いと言う事に気付き、

「強くなっているのは椛が言った様に、紅い霧を出しているレミリア・スカーレットに近付いたからか?」

強くなった要因は椛が言った様に紅い霧を出している者の居場所に近付いているからかと呟く。
霊児の呟きを聞き、

「そうですね……私の推論はどうであれ、ここ等の紅い霧は濃くなっていますからね。確実にレミリア・スカーレットの居場所には近付いている筈です」

椛は自分の推論は兎も角、レミリア・スカーレットの居場所には確実に近付いていると口にする。

「実際の所、進めば進む程に妖精は強くなっている。だから、椛の推論は合っていると思うよ」
「ふむ……椛の推論を証明する様な形で妖精の強さは上がっているし、信憑性は高いわね」

椛が口にした事を聞いたにとりと文の二人は椛の推論は合っているだろうと言う発言を行う。
その後、

「この異変が解決した後に発行する"文々。新聞"に紅い霧の特性に付いても載せてしまいましょう」

文は"文々。新聞"に載せる内容にこの紅い霧の情報を加える事を決め、手帳にペンを走らせていく。
手帳に色々と書き込んでいる文を見て、

「いや、私の推論はまだ完全に正しいと証明された訳じゃ……」

椛が自分の推論はまだ正しいと証明された訳では無いと言う事を伝え様とすると、

「ああ、大丈夫よ。間違った情報だったら椛に責任を取らすから」

文は間違った情報であったら椛に責任を取らすと返す。

「……は? って、ええ!? 何でそうなるんですか!?」

文の余りの物言いに椛は一瞬呆気に取られるも、直ぐに我を取り戻して文句の言葉を言い放つ。
また文と椛が喧嘩をし始めそうになったからか、

「はいはい、喧嘩しない」

魅魔が仲裁に入る。
魅魔が仲裁に入った事で文と椛の間に生まれ始めていた喧騒な雰囲気が四散した瞬間、

「なぁなぁ、そろそろこの妖精達を倒さないか?」

魔理沙がそろそろ弾幕を放っている妖精を倒さないかと進言して来た。
今、霊児達は雑談を交わしながら迫り来る弾幕を避けている。
別に今の儘でも問題は無いが、常に視界の中に弾幕があると言うのは鬱陶しい事この上ない。
だからか、霊児達は魔理沙の進言を合図にしたかの様に再び弾幕を放って妖精達を撃ち落していく。
言うまでも無いだろうが、今回も弾幕を放っているのは文以外の面々だ。
文が攻撃に参加しないと言っても、妖精の大群程度なら霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛の五人だけで十分であり、

「……よっし、片付いたな」

大した時間を掛けずに全ての妖精を撃ち落す事が出来た。
霊児が妖精達を全部撃ち落したと言う発言で一同は弾幕を放つのを止める。
一段落着いた事で、

「で、だ。結局の所、レミリア・スカーレットの居る場所まで後どれ位何だ?」

魔理沙は椛に目的地であるレミリア・スカーレットの居場所まで後どれ位何だと問う。
目的地までの距離を問われた椛は、

「そうですね……」

目を閉じ、集中し始める。
集中し始めてから少しすると椛は目を開き、

「……後少しですね。後少し進めば、レミリア・スカーレットが住む館が見えて来ます」

後少し進めばレミリア・スカーレットが住む館が見えて来る事を皆に伝える。
どうやら、能力を使ってレミリア・スカーレットの住む館が在る場所を探していた様だ。
目的地まで後少しと言う事が分かったからか、

「そうか……後少しか」

魔理沙は何処かわくわくとした表情を浮かべ始めた。
まぁ、今回の異変の首謀者が居る場所に近付いていると言う事が分かれば気持ちが少々昂っても無理はない。
魔理沙からやる気が溢れ出始めているのを感じつつ、

「……さて、そろそろ行こうぜ」

霊児はそろそろ出発する様に言う。
霊児の出発の合図を聞き、一同は少し表情を引き締めて移動を再開した。
移動を再開してから少しすると、

「んー……さっきまでは通常の霧と紅い霧が混ざって見難いって感じだったけど、今は紅い霧が単体で濃くなって見難くなったって感じだね」

魅魔は通常の霧と紅い霧が混ざっていた先程までとは違い、今は紅い霧が単体で濃くなって視界が悪くなっていると口にする。
魅魔が口にした事が耳に入った文は周囲を見渡し、

「それでも先程の通常の霧と紅い霧が混ざり合った場所よりは視界は良いですね」

先程の通常の霧と紅い霧が混ざり合った場所よりも視界が良いと漏らす。

「それでも、霧が濃い事に変わりは無いですからね。くれぐれも逸れない様に御注意を……」
「なぁなぁ、先の方に何か建物の様な物が見えるぞ」

幾らか視界が良くても霧が濃い事に変わりは無いので逸れない様に注意する様に言った瞬間、魔理沙が進行方向上に建物の様な物が見える事を主張した。
紅い霧のせいではっきりとは見えないが、確かに進行方向上には魔理沙の主張通り建物の様な物が見える。
見えている建物がレミリア・スカーレットが居る館であろうか。
この中でレミリア・スカーレットの居る館がどう言った外観であるのかを知っているのは椛だけだ。
なので、霊児、魔理沙、魅魔、にとり、文の五人は椛の方に視線を向ける。
五人の視線が自分に向いている事に気付いた椛は、

「あ、はい。あの見えている建物がレミリア・スカーレットの住む館です」

今見えている建物の様な物が目的の場所である事を話す。
紅い霧のせいで確り見えないとは言え、目的地を肉眼で確認する事が出来たからか、

「やっと目的地か。さっと片付けて、帰ってだらだらとしたいぜ。俺は」
「大丈夫だって。私が居るんだから、直ぐに終わるさ」
「さてさて、漸く吸血鬼の館に乗り込めるって訳かい。楽しみだね」
「吸血鬼……か。うう……足を引っ張らない様に頑張らないと」
「吸血鬼は流水が弱点って言うから、仮ににとりがレミリア・スカーレットと戦う事になっても能力の特性上比較的有利に戦えると思うよ、とは言え、
私も足を引っ張らない様に頑張らないと……」
「今回の異変の首謀者を写真に収めて記事を書けば、間違い無く"文々。新聞"の購買者数大幅増加です!! んー……気合が入って来ますねー」

霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の六人は何処か気合の入った表情を浮かべ、進行スピードを上げる。
進行スピードを上げた事で霊児達とレミリア・スカーレットが住む館までの距離が目に見える早さで縮まっていく。
この分なら直ぐに目的地に着くだろうと思われたその時、妖精の大群が霊児達の進行を妨害するかの様に現れた。
普段であれば一旦散開し、妖精達を各個撃破すると言う手法を取るだろう。
だが、今の霊児達は勢いに乗っている状態だ。
故に、霊児達は散開して攻撃と言う手法では無く突撃をしながら攻撃を行うと言う手法を取った。
まぁ、攻撃を行っているのは文以外の面々であるが。
兎も角、霊児達は夜空を突っ切る流れ星の様に妖精達を蹴散らしながらレミリア・スカーレットの住む館との距離を更に縮めて行く。
そして、紅い霧が存在していてもレミリア・スカーレットの館が確りと見える距離まで来た時、

「一寸待ったー!!」

真下の方から一寸待ったと言う声と共に何者かが霊児達の前に現れた。
現れた者は紅くて長い髪をし、チャイナ服を着た少女。
今までと毛色が違う存在が現れたからか、霊児達は一旦進行を止めて様子を見始める。
その後、霊児は目の前の存在が誰なのかを問おうとしたが、

「あや、彼女は確か……紅美鈴と言う名の妖怪ですね」

霊児が名を問う前に文から現れた少女の名が聞けた。

「何だ、お前の知り合いか?」
「いえ、知り合いと言う訳では無いです。唯、噂には聞いた事が在るんですよ」

霊児が文に目の前の存在と知り合いなのかと言う疑問を投げ掛けると、文は自分の知り合いでは無く噂を聞いた事があると口にし、

「霧の湖方面に武術に秀でた妖怪が居ると。で、色々と情報を集めると彼女……紅美鈴がその武術に秀でた妖怪である事が分かりました。後、未確認情報
ですが……人里で腕に自身が在る者が彼女に挑戦していると言う噂がありますね。まぁ、誰一人として彼女に勝てた者は居ないと聞き及んでいます」

聞いた噂を調べた事で得られた情報を霊児達に伝える。
自分を褒める言動を聞けたから、

「え、えへへへへ……何か照れますね」

美鈴は照れ臭そうな表情を浮かべた。
が、直ぐに表情を戻し、

「……って、違う違う!! お前達!! この紅魔館に何の用だ!!」

霊児達に紅魔館に何の用だと言い放つ。

「へぇー……レミリア・スカーレットの住む館は紅魔館と言う名前なのですか」

レミリア・スカーレットが住む館の名前が知られた事で手帳にペンを走らせている文を余所に、

「この状況下でそれを聞くって事は、お前は紅魔館の者か?」

霊児は美鈴に紅魔館の者かと尋ねる。
尋ねられた事に対する答えの様に、

「その通り。私が紅魔館の門番だ!!」

美鈴は声高々に紅魔館の門番である事を宣言し、

「改めてお前達に問う!! 紅魔館に何の用だ!?」

改めて霊児達に紅魔館にやって目的を問うた。
問われた事に六人を代表してか、

「異変解決。解り易く言うのなら、この紅い霧を出しているレミリア・スカーレットを倒す事だな」

霊児がここまでやって来た用件を説明する。

「成程、それでここまで……」

霊児達が紅魔館にやって来た目的を知った美鈴は納得した表情を浮かべ、

「お前達がお嬢様に害成す存在と解った以上、お前達を通す訳に行かなくなった。それに、お嬢様からは何人たりと通すなと言う命も下っている」

これ以上先へと進ませないと言う意志と戦う意志を見せた。
美鈴の雰囲気を見るに、先に進む為には美鈴を倒す必要があるだろう。
その事を霊児達は感じ取り、美鈴を倒す為に霊児が前に出ようとした時、

「私が行きます」

自分が行くと言って椛が一歩前に出た。

「貴女が相手……か。てっきり、そっちの男の子が来ると思ったんだけど……」

一歩前に出た椛を見て、少し意外そうな表情を浮かべている美鈴に、

「霊児さんには体力を温存して置いて欲しいので。まぁ、無用な心配でしょうけど」

椛は自分が前に出た理由を述べる。
そして続ける様に、

「私は霊児さんのサポートをする命を受け、ここに来たのですから」

自分は霊児のサポートをする命令を受けてここに来たのだと言う。
ここに来るまで色々と遭ったと言うのに、任務の事を忘れていなかった椛を、

「ほんと、生真面目と言うか頭が硬い言うか……」

文は少し呆れた声色で生真面目、頭が硬いと指摘する。
指摘された言葉が耳に入ったからか、

「何処かの不真面目な先輩よりはマシだと思いますけどね。生真面目で頭が硬い方が」

椛はジト目になりながら振り返り、不真面目な先輩よりもマシだと返す。

「……何よ」
「……何ですか」

再び文と椛が喧嘩しそうになり始めた瞬間、

「椛、頑張ってね」

にとりが椛へ応援の言葉を送った。
にとりからの応援の言葉を受け、

「……うん」

椛は喧嘩しそうになりそうだった雰囲気を四散させ、軽い笑みを浮かべて美鈴の方に向き直る。
少しの間椛と美鈴が睨み合いを行った後、

「……あ、戦いは弾幕ごっこでお願いしますね」

突如、美鈴が戦闘方法は弾幕ごっこを指定して来た。

「弾幕ごっこで……」

美鈴が戦闘方法を弾幕ごっこに指定した事で、椛は驚きの表情を浮かべる。
それも無理はない。
異変を起こした者の配下が弾幕ごっこでの戦いを求めて来る事など、完全に予想外の事であるのだから。
現に霊児、魔理沙、魅魔、にとり、文の五人も程度は違えどそれぞれ驚きの表情を浮かべていた。
背後から感じられる驚きの感情を余所に、椛は考える。
これはチャンスではないかと。
通常の戦闘とは違い、弾幕ごっこは決着が着くまで戦っても体力などの消耗はかなり少ない。
椛は霊児がレミリア・スカーレットに遅れを取るとは思ってはいないが、万が一と言う事もある。
霊児に助太刀する必要があった場合、余力は有るだけ有った方が良い。
その様な結論を出した椛は、

「……分かりました。弾幕ごっこで良いです」

弾幕ごっこで戦う事を受け入れ、

「白狼天狗、犬走椛」

名乗りを上げ、通常の刀よりも太い刀と紅葉のマークが付いた丸い盾を手に取って構えを取る。
名乗りを上げられた事で、

「紅魔館が門番、紅美鈴」

美鈴も同じ様に名乗りを上げ、構えを取った。
構えを取った椛と美鈴を見て、霊児達は流れ弾が来る事を見越して二人から距離を取って行く。
霊児達が椛と美鈴から十分に距離を取ったのと同時に椛と美鈴の弾幕ごっこが開始される。
弾幕ごっこ始まって早々に、椛と美鈴は弾幕により応酬を繰り広げ始めた。
椛は無数の弾幕を一つの形にした弾幕を放つと言うスタイルを。
美鈴は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色の色をした弾幕をばら撒くと言うスタイルをそれぞれ取っている。
二人の弾幕ごっこの様子を見ながら、

「……意外だな」

霊児は意外だと呟く。

「何がだい?」
「いやさ、こんな事を仕出かした奴の部下が態々弾幕ごっこで戦いを仕掛けて来るって事が……な」

何が意外なのかと聞いて来た魅魔に、霊児は異変を起こした者の部下が態々弾幕ごっこで戦いを仕掛けて来た事が意外なのだと返す。
椛と美鈴の二人が放ってる弾幕の威力は、全て纏めて受けたとしても死ぬレベルでは無い。
この事から美鈴の弾幕ごっこで戦うと言う発言は虚言ではなさそうである。

「てか、こんな場所にまで弾幕ごっこは広がっていたんだな」
「弾幕ごっこの存在、更にルール及びスペルカードの作成方法を纏めた新聞を我々天狗達が総動員で幻想郷中にばら撒きましたからね。弾幕ごっこを
やっているやっていないは別として、弾幕ごっこの存在自体は幻想郷に住んでいる者なら皆が知っている筈ですよ」

こんな場所にまで弾幕ごっこが広がっていた事に少し驚いている霊児に、文は美鈴が弾幕ごっこの存在を知っている理由を話す。
異変を起こしているレミリア・スカーレット及びその配下の者も幻想郷に住まう存在なので、別に弾幕ごっこの存在を知っていても別に不思議は無い。
文の推察を聞き、霊児は納得した表情を浮かべ、

「……てか、お前まだこっちに居たんだな。てっきり、椛と美鈴の弾幕ごっこの様子を写真に撮る為に飛び回ってると思ったんだけどな」

まだ自分達の周囲に居る文に少し驚いた表情を向ける。

「いや、写真を撮ろうにもまだ序盤ですからね。もう少し状況が動いてから写真を撮ろうと思いまして」

霊児から少し驚いた表情を向けられた文がもう少し状況が動いてから写真を撮り始め様と思ったのだと言うと、

「あ、椛が押し始めたよ」

にとりが現在の椛と文の弾幕ごっこの状況を口にした。
にとりの言葉に反応した霊児と文が弾幕ごっこが行われている地点に顔を向けると、椛の弾幕に押され始めている美鈴の様子が目に映る。
二人の弾幕ごっこの様子を見ながら、

「ふむ……あの美鈴って子、近距離戦はかなり得意な様だけど遠距離戦は不得意の様だね。弾幕の数の多さでそれを誤魔化してたみたいだけど……それも
椛には通じなくなり、押され始めたって感じだね」

魅魔は美鈴が近距離戦が得意で遠距離戦を苦手としている事と、どう言った経緯で押され始めたのかを見抜く。
魅魔が美鈴の得意不得意だけではなく押され始めて経緯まで見抜いた事で、

「魅魔様、もうそこまで見抜かれたんですか!? 私はあの美鈴って言う妖怪は遠距離戦が苦手そうだなって思えた位なのに……流石です!! 魅魔様!!」

魔理沙は魅魔に尊敬の視線を向ける。
魔理沙から尊敬の視線を受けている魅魔は、

「この程度の事、大した事は無いさ」

この程度は大した事無いと言い、

「それにしても、椛の遠距離戦の練度は思っていた以上に高いね。装備品から近距離戦の練度が高い事は予想出来たが、遠距離戦の練度も高いって言うのは
少し驚いたね」

椛が遠距離戦の練度も高い事に少し驚いたと呟く。
少し驚いている魅魔に、

「椛……白狼天狗の役目は妖怪の山に進入して来た追い返しが主なものです。あの子、生真面目ですから進入して来た相手がどんな相手でも対応出来る様に
結構満遍無く鍛えてますからね。ですので、椛の遠距離戦の能力がそれなりの水準であっても不思議はありませんね」

文は椛の遠距離戦の能力がそれなりの水準である事の理由を説明する。
文の説明で魅魔が納得した表情を浮かべた時、

「くっ!!」

美鈴は椛から距離を取る様に高度を上げながら大きく後ろに下がった。

「む……」

美鈴が後ろに下がったのを見た椛は放つ弾幕の数を減らし、様子を見始める。
どうやら、深追いは危険だと判断した様だ。
後ろに下がった美鈴は懐に手を入れてスペルカードを取り出し、

「彩符『極彩颱風』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動したのと同時に美鈴の体が回転し、美鈴の体から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の色をした大量の弾幕が零れ落ちる。
美鈴がスペルカードを発動させたからか、

「スペルカードが発動されましたね!! 一寸、写真を撮りに行って来ます!!」

文は元気な声で写真を撮って来ると宣言して椛と美鈴の近くにまで素っ飛んで行った。
素っ飛んで行った文を余所に、零れ落ちた弾幕が大地に降り注ぐ雨の様に椛に向って行くのを見て、

「おお、綺麗なものだねぇ」

魅魔は暢気な感想を漏らす。
魅魔の言う通り美鈴が発動したスペルカードは綺麗に映るが、美鈴と弾幕ごっこをしている椛はそんな暢気な感想を漏らしている余裕は無い。
何故ならば零れ落ちた弾幕の軌道は完全にランダムであり、弾幕の量も非常に多いからだ。
そんな状況下で零れ落ちている弾幕に目を奪われてしまえば、椛は直ぐに弾幕の雨をその身で受ける事になるだろう。

「く……」

弾幕を放ちながらでは降り注ぐ弾幕を避け切れないと判断したからか、椛は弾幕を放つのを止めて回避行動に専念し出す。
少々危うい面も見受けられるが、椛の動きを見るにスペルカードの制限時間が来るまで避け続ける事が出来そうだ。
だからか、椛の表情にも幾らかの余裕が見え始める。
その瞬間、

「な……に……」

降り注いでいた弾幕が突如として消滅した。
まだスペルカードの制限時間は過ぎていないのに何故と言う疑問を抱いた時、

「……ッ!!」

椛は気付く。
スペルカードの制限時間が過ぎたのではなく、スペルカードの発動を止めたのだと言う事に。
気付いたのと同時に顔を動かすと、椛の目には自分と同じ高度にまで降りてスペルカードを突き出している美鈴の姿が映った。
美鈴の姿を見て、美鈴が何をし様と理解した椛は、

「しまっ!!」

慌てて距離を取ろうする。
が、椛が距離を取ろうとする前に、

「気符『星脈弾』」

美鈴はスペルカードを発動させた。
スペルカードを発動したのと同時に美鈴から青白く、丸くて大きい弾が放たれる。
放たれた弾を見るに、美鈴が発動させたスペルカードは霊児のスペルカードの"弾丸『光霊弾』"と似たタイプのものの様だ。
兎も角、放たれた弾は椛へと向かって行き、

「やった!!」

爆発を起こして爆煙を発生させた。
発生した爆発と爆煙を見た美鈴は若干表情を緩めながら爆煙が発生している地点を注視する。
今の一撃で倒せたのか倒せていないのかを確認する為だ。
今の一撃で倒せていれば椛は墜落するし、倒せていなければ椛は爆煙を突っ切る様に出て来るだろう。
そう考えながら、

「…………………………………………」

美鈴は表情を引き締め、構えを取り直す。
だが、そんな美鈴の考えを裏切るかの様に、

「狗符『レイビーズバイト』」

上の方からスペルカードを発動させる声が聞こえて来た。

「ッ!?」

スペルカードを発動させる声が耳に入った美鈴が反射的に顔を上げると、

「なっ!!」

引き締めていた表情が驚愕に包まれたものへと変わった。
何故かと言うと、美鈴の目には弾幕で構成された口を開いた巨大な狼の頭部が映ったからだ。
美鈴と同じ様に椛が発動させたスペルカードを見ていた霊児は、

「へぇー……弾幕で何かを模す……か。面白い発想だな」

感心したと言う感想を抱いていた。
それだけ、弾幕で何かを模すと言う発想は霊児に取って斬新であった様だ。
自分も椛が発動させた様なスペルカードを作成し様かと霊児は思い始める。
霊児がそんな事を思っている間に、

「行っ……けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

椛は天に向けていた刀を振り下ろし、弾幕で構成された狼の頭部を美鈴に向けて飛ばす。
弾幕を模した狼の頭部が迫って来ているのを見て、

「ッ!!」

美鈴は慌てて回避行動を取る。
しかし、驚いていた時間が少し長かったせいか美鈴は射程圏外に逃れる前に弾幕で構成された狼の頭部の口内に入ってしまう。
そして弾幕で構成された狼の口が閉じ、大爆発と爆煙が発生した。

「……よし」

自身の発動したスペルカードが直撃した事を確信した椛は軽く声を出し、発生した爆煙を注視する。
注視している理由は勿論、今の一撃で倒せたか倒せていないかを確認する為だ。
爆煙を注視し始めてからそう時間を置かずに、

「……あ」

爆煙を突っ切る様にしながら墜落して行っている美鈴が椛の目に映った。
墜落して行っているのに体勢を立て直さないのを見るに、美鈴は気絶している様だ。
今現在の高度は中々に高いが、美鈴は妖怪なのでこの儘墜落して地面に激突しても問題は無いだろう。
勝負が着いたからか、

「ふぅ……」

椛は息を一つ吐く。
椛が息を吐いたタイミングで、

「いやー、良い写真が撮れた撮れた」

文は嬉しそうな表情を浮かべながら良い写真が撮れたと言いながら椛の近くにまでやって来た。

「……まぁ、今のは弾幕ごっこでしたから特に何かを言う気は無いですが」
「まーた不満気な表情をして。人が折角飛んで来たあんたの盾を受け止めて上げたって言うのに」

不満気な表情を浮かべながら文の方に椛が視線を向けると、文は椛の盾を椛に見せる。

「あ、私の盾」
「それにしても……盾を身代わりにして自分に攻撃が直撃したと思わせ、その隙を突くって言う手をよく使ったわね。そんな古典的で使い古されていそう
な手、普通使わないと思うけど?」
「古典的で使い古された手と言うのは、言ってしまえば確りと対策方法などが練られていると言う事。ですが、言い換えればそんな対策された方法を態々
使って来るとは考えないでしょう。ですから、私はこの手を使ったんですよ。実際、上手くいきましたし」

文の疑問に椛は使い古された手だから使ったのだと返し、

「……ま、一応盾を受け止めてくれた事に対する礼は言わせて貰います。ありがとうございます」

盾を受け止めてくれた事に対する礼を述べ、文から盾を受け取った時、

「お疲れ、椛」

にとりが労いの言葉を掛けながら椛の傍までやって来た。

「ありがとう、にとり」

にとりの労いの言葉に椛は軽い笑みを浮かべてありがとうと返す。
同時に他の面々も椛達の近くにまでやって来て一言二言交わした後、霊児達は降下して地に足を着けて足を進めて行く。
足を進めてから少しすると鉄製の巨大な門と、紅一色で彩られた大きな館が霊児達の目に映った。
思っていた以上に大きい館であるからか、

「はー……思っていた以上にでかい館だな……」

魔理沙は感嘆の声を漏らす。
その後、

「それで……どうしますか? ばれない様に、こっそりと進入しますか?」

文はばれない様に進入するのかと聞いて来た。
レミリア・スカーレットが住む館である紅魔館は霊児達に取っては敵の本拠地でもある。
ここは文の言う通り、ばれない様に侵入するのが常道だろう。
だが、

「いや……堂々と真正面から入ろう」

霊児は常道から外れる様に真正面から入ろうと言い出した。

「真正面からですか? 少々思う所は在るのですが、ここは文さんの言う通りばれない様に侵入した方が得策なのでは?」
「私の発言の何処に思う所が在ったのよ」

少々不満気な表情をしながら文の発言に同意を示した椛に、文は何処に思う所が在るのだと言う突っ込みを入れる。
二人の漫才の様な掛け合いを聞きながら、

「どの道、中で暴れるんだ。ばれ様がばれなかろうが関係ねぇよ。それに、進入するのに余り時間を掛けたくないしな」

霊児は真正面から突入する理由を説明し、

「それに……向こうからの宣戦布告は受けたが、俺からの宣戦布告はまだだったし……な!!」

自分からの宣戦布告はまだだったと言いながら鉄製の門に蹴りを叩き込んだ。
蹴りを叩き込まれた門はひん曲がるの同時に形を歪めながら吹き飛んで行き、紅魔館の中に続くであろう扉に激突して扉を破壊する。
更に、鉄製の門は破壊した扉を巻き込みながら紅魔館の中へと入って行った。
鉄製の門と扉が紅魔館の中へ入ってから数瞬後、紅魔館の中から様々な物が壊れる音が霊児達の耳に入る。
どうやら、霊児が蹴り飛ばした鉄製の門が扉だけではなく紅魔館の中に在る物も破壊して行った様だ。

「おー……中から色んな物が壊れれる音が聞こえて来るな。取り敢えず、宣戦布告は成功って感じか?」

魔理沙は悪戯が成功したと言う様な表情をしながら、霊児に宣戦布告は成功かと尋ねる。

「ま、成功だろうな」

魔理沙が尋ねた事を霊児は肯定し、

「さ、行こうぜ」

霊児は紅魔館の方へと足を進めて行く。
それに続く様にして魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も紅魔館の方へと足を進めて行った。























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