紅魔館の中に入った霊児達は周囲の様子を伺う様に顔を動かす。
顔を動かすと、館の内装の色合いの殆どに紅が使われている事が分かった。
だからか、

「やれやれ、良くここまで紅を使おうと思ったもんだな……」

魔理沙は何処か呆れた感想を抱く。
魔理沙の感想を聞き、

「正に名は体を現すって感じですね」

文は正に名は体を現すと言う感じだと返し、

「それにしても、見事に色々と破壊されてますね……」

見事に色々と破壊されてると口にしながら周囲の光景を写真に収めていく。
文の発言で改めて周囲を見渡すと、絨毯は破け、壁は壊れ、二階へ続くと思われる階段が破壊し尽くされているのが見られた。
無論、こんな惨状になってしまった原因は霊児が蹴り飛ばした鉄製の門にある。
だが、見るも無惨な状態になっているのはそれ等だけでは無く、

「あーあ、見るからに高価そうな壺が割れちゃってるよ」

魅魔は壺が割れていると言いながら視線を床の方に落とす。
魅魔が視線を落とした先には魅魔の言葉通り、床にはバラバラになった壺の残骸が散らばっていた。
バラバラになった壺の残骸を見た後、

「あ、何かあそこの石像と鎧も壊れてるね」
「あの絵画らしき物も先程の影響で見るも無残な状態になっていますね」

にとり、椛の二人が絨毯、壁、階段、壺以外の壊れたり見るも無惨な状態になっている物を一同に伝える。
これまた二人の言葉通り、散々な状態になって石像、鎧、絵画と言った物が幾つも床に転がっていた。
明らかに高価と思える物ばかりが壊れたりしているからか、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人は霊児の方に視線を向ける。
五人の視線に気付いた霊児は、

「気にするな。俺は気にしない」

気にする必要は無いし、自分も気にはしていないと漏らして何かを探す様子を見せながら顔を動かす。
霊児が顔を動かしている間に、

「話は変わりますが、紅魔館内部には紅い霧が在りませんね」

文が紅魔館内部には紅い霧が無いと呟く。
そんな文の呟きに返す様に、

「幾ら何でも、自分の館の中にも紅い霧を出す様な事はしないだろうさ。下手したら、館の中に在る物全てが湿気ってしまうからね」

魅魔は館の中に紅い霧が無いと思われる推察を述べる。

「成程……」

魅魔の推察で文が納得している間に、霊児はある方向に足を進め始めた。
急に移動を開始した霊児に一同は驚くも、直ぐに意識を戻して少し慌てる様な動作で霊児の後を追い、

「霊児、何所に向ってるんだ?」

魔理沙は何所に向かっているのかと尋ねる。
尋ねられた霊児は、

「地下」

一言、地下だと答えた。

「地下?」

向かっている場所が地下だと知った魔理沙が思わず首を傾げた時、

「ああ、地下だ。正確に言うと地下への入り口だ。なぁ、椛」

霊児は正確には地下への入り口だと言い、椛に話し掛ける。

「何か?」

話し掛けられた椛が霊児の方に顔を向けると、

「レミリア・スカーレットってのは吸血鬼何だよな?」

霊児は確認を取る様にレミリア・スカーレットは吸血鬼何だろう問う。

「はい、そうです」

当然の様に肯定の返事が椛から返って来たので、

「吸血鬼ってのは日の光が苦手何だよな?」

霊児は更に確認を取る様に吸血鬼は日の光が苦手何だよなと問うた。
問われた事に、

「はい、吸血鬼は基本的に日の光を苦手としています」

これまた椛から肯定の返事が返って来る。
自分が問うた事が全て肯定された霊児は、

「なら、日の光を避ける為に地下に篭っていると考えるのが普通だろ」

何故、地下に行こうとしていたのかと言う理由を五人に伝えた。

「……成程、理に適っていますね」

霊児の地下に行こうとしていた理由を知り、同意を示している椛に、

「因みに、こっちの方に地下へと続く入り口が在ると思ったのは俺の勘がそう言ってたからだ」

今進んでいる方向に地下へと続く入り口が在ると思った根拠は自分の勘であると口にする。
根拠が勘と言われた場合、普通はそんなものが根拠になるかと言われてしまうだろう。
だが、ここに居る全員は霊児の勘の良さを知っている。
故に、誰一人として霊児に文句の言葉をぶつける者はいなかった。
霊児が地下への入り口を探すと言う様な発言をしたからか、

「なら、手分けをして地下の入り口を探すかい? その方が効率も良いだろうしさ」

魅魔は手分けをして地下への入り口を探そうと言う提案を行う。
魅魔の言う通り、別れて探した方が効率が良いと言う事で、

「そうだな……そうするか」

霊児は手分けをして探索をすると言う案に賛成する意を示す。
同じ様に、

「……ここ等一帯には何かの気配は感じませんし、別れて探索したとしても危険は無いでしょう」

ここ等一帯に何かの気配を感じられなかった事で、椛も別れて探索すると言う案に賛成した。
魅魔の案に霊児、椛の二人が賛成した事で、

「吸血鬼の館を探索……か。中々に面白そうじゃないか」
「一人で探索……か。一寸怖いけど……頑張らなきゃ」
「色々と秘密のベールに包まれている吸血鬼の館を写真に収めれば……間違い無く、"文々。新聞"の目玉になりますね!!」

魔理沙、にとり、文の三人も別れて探索をする事に賛成する。
尤も、文に関して探索とは別の事が目的の様だが。
兎も角、話が纏まった事で、

「話は纏まった様だし、ある程度時間が経ったらまたここに集合って事で良いかい?」

魅魔がある程度時間が経ったら再びここに集合と言う事で良いかと聞くと、霊児、魔理沙、にとり、椛、文の五人は頷く。
そして、六人は別れて紅魔館内の探索を始めた。





















探索を始めてから幾らかの時間が経った頃、霊児達は別れた場所に戻って来ていた。
別れた面々が再び集まった事で、

「……で、見付かったか? 地下への入り口は」

霊児は他の面々に地下への入り口は見付かったのかを尋ねる。
尋ねられた魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人は、

「いんや、全然。序に言えば、余り珍しい物も見付からなかったぜ」
「私の方も収穫無しだね。吸血鬼の館って言う位だから、魔道具や魔導書の一つや二つ在ると思ったんだけどね」
「私も二人と同じで地下への入り口を見付ける事は出来なかったよ」
「すみません、地下へと入り口を見付ける事は出来ませんでした」
「私の方も他の方々と同じですね。おまけに収めた写真は似た様なのばかりでしたし」

地下への入り口を見付ける事が出来なかったと答えた。
一部の面々は地下への入り口以外のものも探していた様だが、霊児は気にした様子を見せず、

「そうか。お前等の方も見付からなかったか」

お前等の方も見付からなかったかのかと呟く。
霊児の口振りから察するに、霊児の方も地下への入り口を見付ける事は出来なかった様だ。
結局、誰も地下への入り口を見付ける事が出来なかった事で霊児達は同時に溜息を吐いた。
全員が揃いも揃って溜息を吐いたせいか、場の空気が少々重くなってしまう。
場の空気が重くなった事を感じ取ったにとりは、

「そ、それにしてもさ!! この館、随分広いよね」

重くなった空気を払拭させるかの様に別の話題を出す。
にとりが出した話題に、

「ああ、それは私も思いました。外観の大きさと中の広さが一致し無いんですよね」

文が喰い付いたかの様に紅魔館の外観の大きさと中の広さが一致し無い事を口にする。
それを聞き、

「ああ、それは空間が弄られているせいだね」

魅魔が外観の大きさと中の広さが一致しないのは空間が弄られているせいだと言う。

「空間を……ですか? 魅魔様?」

魔理沙が少し驚いた表情を浮かべながら魅魔の方に顔を向けると、

「ああ、そうさ。空間を弄ってこの紅魔館の中を広くしてるのさ。尤も、空間を弄っている力は誰かの能力か魔法かまでは断定出来ないがね。序に言って
置くと、どれだけ広がっているかも分からないよ」

魅魔は空間を弄って紅魔館内部を広くしている事と、それが誰かの能力か魔法及びどれだけ広くなったかまでは断定出来ない事を話す。

「はー……中々に便利だな」

空間を弄って広くしている事に感心している霊児とは対照的に、

「しかし、それでは地下へと続く入り口を探すだけでも相当な時間を使う事になりますね」

椛は少し不安気な表情を浮かべながら、それでは地下へと続く入り口を見付けるのに相当時間を使う事になってしまうと漏らした。
確かに紅魔館の内部がどれだけ広がっているのか分からなければ、地下へと続く入り口一つ見付けるのにも相当な手間となる。
更に言うのであれば、霊児達が今現在居る場所は敵地のど真ん中。
敵地のど真ん中で一定範囲内に留まり続けるのはある種の自殺行為だろう。
かと言って、現状を打開する良い案があると言う訳でも無い。
この儘では無駄に時間を浪費していくだけになるかと思われた時、

「……よし」

霊児は何かを思い付いた表情を浮かべる。
霊児が表情を変えた事に気付いた魔理沙は、

「お、何か良い案が浮かんだのか?」

何か良い案でも浮かんだのかと問う。
問われた事に、

「ああ」

霊児は肯定の返事をしながら歩き出す。
歩き出した霊児の後を追う様に魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も歩き出した。
歩き出してから少しすると霊児はあるドアの前で立ち止まり、ドアを開く。
開いたドアの中に見える部屋は、それなりの広さが有る事が分かった。
その部屋の中に霊児は迷わず入って行き、部屋のど真ん中辺りで足を止める。
部屋のど真ん中で霊児が止まった事で他の面々も足を止め、

「若しかして、ここに地下への口が在るのですか?」

文がこの部屋の中に地下へと続く入り口が在るのかと聞く。
聞かれた事を、

「いや、ここには無い」

霊児は否定し、

「だから、今から作る」

今から作ると言いながら片足を振り上げ、上げた足を一気に振り下ろす。
すると、振り下ろした霊児の足を中心に床全体に皹が入り、

「「「「「ッ!?」」」」」

床が崩壊した。
急に床が崩壊した事で、霊児以外の面々が慌てた表情で飛行を行い、

「壊すなら壊すって言ってください!! 危ないじゃないですか!!」

五人を代表するかの様に文が霊児に向けて文句の言葉をぶつける。
ぶつけられた文句の言葉に、

「ああ、悪い悪い」

霊児は欠片も悪いと思っていないと言う様な声色で謝罪をし、視線を落とす。
視線を落とした霊児に釣られる様に魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も視線を落とすと、五人の目に大きな空洞が映った。
何所まで続くかの分からない程の空洞に五人が少々目を奪われている間に

「多分、この空洞を降りて行けば地下へと行ける筈だ」

この空洞の先に地下が在る筈だと霊児は述べる。
それを聞いた魅魔は、

「成程。それで床を踏み砕いたって訳かい」

合点がいったと言う表情を浮かべ、

「それにしても、随分と力尽くな方法を取ったものだね」

少し呆れた様子で随分と力尽くな方法を取ったものだと口にした。
魅魔の発言が耳に入ったからか、

「言うだろ? 道がなければ自分で作れって」

霊児はそんな事を呟き、降下して行く。
降下した霊児に続く様にして魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も降下して行った。





















空洞を抜ける様に降下し、暫らく進んだ霊児達は大量の本棚に大量の本が収められている場所に出た。
大量の本棚に大量の本が在る事から、

「ここは……図書館か?」

霊児はここが図書館なのではと推察する。
霊児の推察を聞き、

「うん、ここは図書館で間違い無いよ」

魅魔は霊児の推察が合っていると言い、

「それにしても、この図書館はかなり広いね。正直、驚いたよ」

この図書館の広さに驚いたと呟く。
魅魔の言葉通り、今霊児達が居る図書館はかなり広い。
それこそ、端が全く見えない程に。

「こんな広大な図書館が幻想郷に在ったとは……これは良いスクープになりそうです!!」
「貴女はまた……」

広大とも言える図書館に興味を引かれた文が周囲の光景を写真に収め始めたのを見て、椛は文に呆れた視線を向けつつ、

「それはそうと、この図書館には日の光が殆ど入って来てはいません。故に、ここにレミリア・スカーレットが居ると言う考えは的外れと言う訳では
無さそうですね」

この図書館に日の光は殆ど入って来てはいないので、ここにレミリア・スカーレットが居ると言う考えは的外れでは無さそうだと漏らす。
そのタイミングで、

「あれは……妖精か? メイド服を来てるけど」

魔理沙は少し遠くの方からメイド服を来た妖精が接近している事に気付く。
魔理沙の言葉を聞き、

「上の館内部を探索している時には何も現れず、この図書館に入ったら妖精が現れた……か。これは当たりかもね」

魅魔は館内部を探索している時には何も現れず、図書館に入ったら妖精が現れた事から当たりかもしれないと言って何処か興味深そうな表情を浮かべる。
同時に、

「妖精がメイド服を着ているから……妖精メイドって感じかな」

にとりが現れた妖精の呼称を考えた時、妖精メイドが霊児達に向けて弾幕を放って来た。
迫り来る弾幕を見ながら、

「ここの妖精が放つ弾幕……美鈴と出会う前に出て来た妖精よりも強いな」

霊児は放たれている弾幕が今まで出て来た妖精が放つものよりも強い事を感じ取る。
紅魔館に住まう妖精だから強いのか。
それとも、紅魔館に紅い霧が充満していなくても紅い霧を出しているレミリア・スカーレットが近くに存在しているから強いのか。
妖精が強い理由は幾らでも上げられるが、上げた中から答えを出すのはかなり面倒だ。
だからか、霊児は早々に妖精の強さの事を頭の隅に追いやり、

「……さて、こいつ等を倒して先に進むか」

迫り来る弾幕を避けながら弾幕を放って妖精メイド達を撃ち落していく。
霊児が弾幕を放ったのを皮切りにしたかの様に魔理沙、魅魔、にとり、椛の四人も弾幕を放つ。
尤も、文だけは弾幕を放たずに弾幕を放っている五人の様子を写真に収めるだけであったが。
現れた妖精メイド達を一掃し終えると、霊児達は弾幕を放つのを止める。

「妖精が出て来た方に行けば、レミリア・スカーレットが居るのかな?」
「んー……一応、主を外敵から護る為に出て来たと考えたらそうなるね。とは言え、護衛が妖精と言うのは頼り無い気はするが……」

妖精が出て来た方に行けばレミリア・スカーレットに会えるのかと考えている魔理沙に、魅魔はその可能性はそれなりに在ると言う。
魔理沙、魅魔の発言から、

「……よし、妖精達が来た方に行くぞ」

霊児は妖精達が来た方に進む事を決め、先陣を切る様にして先へと進み始めた。
そんな霊児の後を追う様に魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も先へと進み始める。
六人が図書館の中を移動し始めてから少しすると、霊児達の進行方向上に幾つかの魔法陣が現れた。
現れた魔法陣を見て、

「あれは設置型の魔法陣だね」

魅魔は設置型の魔法陣だと漏らす。

「設置型の魔法陣?」

余り魔法に詳しく無い霊児が設置型の魔法陣とは何ぞやと言った表情を浮かべている霊児に、

「ああ、一定の範囲に入ると作動する魔法陣さ。簡単に言えばトラップだね」

魅魔は簡単な説明を行い、

「因みに、魔法陣系は魅魔様が得意とする魔法の一つだぜ」

魔理沙が補足する様に魔法陣系は魅魔の得意と魔法の一つだと話す。
同時に、魔法陣から無数の弾幕が放たれた。
放たれた弾幕を見て、

「どうやら、魔法陣が発動する距離にまで近付いていた様だね」

魅魔は冷静に魔法陣が発動したであろう理由を述べる。

「それはそうと、魔法陣が在るって事はこの紅魔館に魔法使いが居るって事ですかね?」
「吸血鬼は魔力は有れど、魔法を使うって話は余り聞かないからね。十中八九、ここには魔法使いが居るだろうさ。それも、結構な力を持ったのがね」

迫り来る弾幕を避けながら紅魔館にも魔法使いが居るのかと言う疑問を呟いた魔理沙に、魅魔は同じ様に弾幕を避けながら十中八九居るだろうと返す。
魅魔が返した発言を聞き、

「ふむふむ、紅魔館には凄腕の魔法使い居る……と。ふふふ、紅魔館の秘密のベールが次々と露になっていきますね」
「また貴女は……」

紅魔館の秘密が色々と知れて嬉しそうな表情を浮かべながら迫り来る弾幕を避けている文に、これまた同じ様に弾幕を避けている椛が呆れた視線を向けた。
殆ど片手間で迫り来る弾幕を余裕で避けている辺り、魔理沙、魅魔、文、椛の力は流石と言ったところだ。
少しお気楽な雰囲気が場に漂い始めた時、

「ねぇねぇ、そろそろあの魔法陣を何とかしない?」

にとりはそろそろ弾幕を放って来ている魔法陣を何とかしないかと言う提案をして来た。
この儘の状態でも霊児達は弾幕に被弾する事は無いだろうが、鬱陶しい事この上無い。
にとりの提案を受けて思う所があったからか、霊児は左手で左腰に装備している短剣を引き抜き、

「……ッ」

魔法陣の一つに向けて突っ込んで行く。
突っ込んで行った霊児は当然の様に弾幕の雨に曝される事となったが、霊児は必要最小限の動きで弾幕を避けながら距離を詰め、

「……しっ!!」

短剣を振るって魔法陣を一つを真っ二つに斬り裂いた。
斬り裂かれた魔法陣が力を失ったかの様に消滅していく。
それを見届けた後、霊児は残りの魔法陣も斬り裂きに掛かる。
当然、魔法陣の方も黙って霊児を近付ける気は無い様で霊児の進行を妨害する様に弾幕を放つ。
しかし、放たれた弾幕は霊児に当たる事はなく、

「……これで全部か」

魔法陣は成す術も無く全て真っ二つに斬り裂かれてしまった。
斬り裂かれた魔法陣が力を失ったかの様に消えていくのを視界に入れながら、霊児が短剣を鞘に収めたタイミングで、

「流石霊児だぜ!!」
「流石だね。瞬く間に魔法陣全てを処理する何てさ」
「凄いねー。あっと言う間に魔法陣をどうにかしちゃう何て」
「流石です。見事なお手並みでした」
「んー……もう少しゆっくり倒して頂ければ確りと写真を撮る事が出来たんですけどね」

魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人は霊児を称賛する発言をしながら霊児に近付いて行く。
まぁ、五人の内一人だけ称賛以外の言葉を発しているが気にしない方が良いだろう。
取り敢えず、霊児は五人の称賛の言葉を受けながら、

「ま、この程度はな」

この程度は大した事は無いと言って先を見据え、

「さて、行くぞ」

一声掛けながら移動を再開した。
移動を再開した霊児の後を追う様に魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も移動を再開する。
その道中で当然の様に現れて攻撃して来た妖精メイドと魔法陣を打ち倒し、破壊しながら。
現れる妨害なども難無く突破し、霊児達が順調に進んでいる時、

「これ以上先には進ませませんよ!!」

赤くて長い髪に白と黒を基本した服、背中から黒い翼を生やした少女が現れた。
今までとは明らかに毛色が違う者が現れた事で霊児達が進行を止めると、

「あれは……小悪魔だね」

魅魔は現れた者の正体を口にする。

「小悪魔?」
「解り易く言うのなら、小悪魔って言うの悪魔の一種さ」
「悪魔の一種……ね。じゃあ、あいつは魔界から来たのか?」
「来たって言うよりは召喚されて使役された……って言った方が正しいかね。ここに吸血鬼と魔法使いが居る事を考えるに。まぁ、流石にあの小悪魔が
レミリア・スカーレットに使役されているのかここの魔法使いに使役されているのかまでは分からないがね」

小悪魔と言う単語から出て来た霊児の疑問に、律儀に答えていく魅魔。
そんな二人の会話に耳を傾けている魔理沙、にとり、椛、文の四人。
全員が全員隙を曝け出している状態であるからか、小悪魔はチャンスと言わんばかりに大小二つの弾幕を交互に放つ。
会話と会話に聞き耳を立てる事に集中している霊児達になら当たると思われたが、

「おっと」
「よっと」
「ほっと」
「わとと」
「っと」
「……とと」

霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の六人は散開する様に散らばって弾幕を避けていく。
思いっ切り隙を出していたと言うのに容易く避けた霊児達を見て、

「そんな!?」

小悪魔は驚きの表情を浮かべた。
完全に隙を突いたと思った攻撃を避けられたのだから、驚くのも無理は無い。
が、直ぐに表情を戻して弾幕の量を増やしながら射線を一番近い霊児に変える。
これにより霊児一人に弾幕が集中する事になったが、霊児は弾幕と弾幕の間に体を滑り込ませて冷静に弾幕を避けていく。
幾ら弾幕を撃ち込んでも霊児に掠りもしない事から、

「あ、当たらない!?」

小悪魔は焦りの表情を浮かべ、更に弾幕の量の増やす。
だが、それでも霊児に弾幕が当たる事は無かった。
幾ら弾幕の数を増やしても一向に弾幕が当たる気配が見られなかった事で、小悪魔の弾幕に乱れが生じ始める。
それを見た霊児は今がチャンスと言わんばかりに弾幕を放つ。
霊児が放った弾幕は小悪魔の弾幕をすり抜ける様にして小悪魔に迫って行き、

「きゃあ!!」

放った弾幕は小悪魔に命中し、爆発と爆煙が発生した。
爆発と爆煙が連鎖的に発生し始めてから少しすると、小悪魔から放たれていた弾幕が消える。
自分の意思で弾幕を消したのか、それとも気絶したから弾幕が消えたのか。
どちらかなのかを確認する為に霊児は弾幕を放つのを止める。
霊児が弾幕を放つのを止めた事で爆煙が晴れて目に映る光景が鮮明になると、何所かに向けて逃げる様に去って行く小悪魔の姿が一同の目に映った。
飛んで行った小悪魔を見て、小悪魔は自分の意思で弾幕を放つのを止めたのかと霊児が判断していると、

「逃げて行った彼女を追って行けば、レミリア・スカーレットの居る所なり魔法使い居る所なりに行けそうですね」

文が逃げて行った小悪魔の後を追って行けば吸血鬼か魔法使いの居場所まで案内してくれそうだと言う。
文の発言を聞き、

「そうですね……今の引き際を見るに、自分の手には負えないと判断したから自分よりも上の者に報告しに行ったと考えるのが自然ですね。文さんの
言う通り、逃げて行った彼女を追うのが得策かと」

椛は少し驚いた表情を浮かべながら文の意見に同意を示す。

「何で、貴女は驚いた表情をしてるのよ」
「いえ、貴女の口から的を得た発言をするとは思わなかったものでつい」
「……ま、私は新聞記者だからね。色々と頭が回るのよ。尤も、貴女の様な基本的に暇をしている者にはこんな的を得た発言は出来ないでしょうけど」
「……言ってくれますね」

ふとした会話が切っ掛けで文と桃が喧嘩を始めそうな雰囲気になったが、

「おいおい、喧嘩するなよ」

魔理沙が仲裁に入った事でそれもなくなった。
魔理沙の仲裁で場の雰囲気が落ち着きを取り戻した後、霊児達は気持ちを切り替える様に小悪魔が飛んで行った方に向かって行く。
それから幾らか時間が経った時、

「……貴方達ね、侵入者は」

紫色の長い髪をし、ゆったりとした服を着た少女が現れた。
先程の小悪魔と同様に今まで出て来た者と毛色が違う事から、霊児達は進行を止める。
そして、霊児は現れた少女の風貌を見ながら思う。
椛から伝えられたレミリア・スカーレットの風貌の情報とは一致しないと。
この事から目の前の少女はレミリア・スカーレットでは無いと考えられるが、椛にレミリア・スカーレットの情報を伝えたのは大天狗だ。
大天狗の記憶の中のレミリア・スカーレットと今のレミリア・スカーレットの風貌が違っていると言う可能性は十分に存在する。
なので、

「……お前がレミリア・スカーレットか?」

霊児は目の前の少女にお前がレミリア・スカーレットなのかと問う。
問われた事を、

「違うわ。私はパチュリー・ノーレッジ。魔法使いよ」

少女は否定し、簡単な自己紹介を行った。

「あやや、外れの様ですね」

文は残念そうな表情をしながら外れかと漏らし、

「では、吸血鬼のレミリア・スカーレットさんは何所に居られるので?」

レミリア・スカーレットは何所に居るのかを尋ねる。
侵入者である霊児達に態々レミリア・スカーレットの居場所を教えてくれるとは思えなかったが、

「彼女なら……この館の屋上か、若しくはその真下の部屋にでも居るんじゃないかしら」

意外な事にパリュリーは霊児達にレミリア・スカーレットの居場所を教えてくれた。
侵入者である自分達に情報提供をしたパチュリーに若干の不信感を抱きつつも、

「……そうか、ありがとう」

霊児は軽い礼の言葉を述べる。
その後、霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の六人が進路を変える為に体を動かそうとした瞬間、

「待ちなさい」

パチュリーは霊児達を呼び止め、

「侵入者をその儘見逃すと思う?」

侵入者を見逃すと思っているのかと聞く。

「……確かに、普通は見逃さないな」

パチュリーの言っている事は尤もだと霊児は思いつつ、

「俺達にレミリア・スカーレットの居場所を態々教えたのは、ここで俺達を倒し切る自信が有ったからか」

パチュリーが自分達にレミリア・スカーレットの居場所を教えた理由を理解した。

「そう言う事。俗に言う冥土の土産ってやつよ」
「その冥土の土産が敵に塩を送る事に成らなければ良いけどな」

自信が有りそうな表情をしているパチュリーに霊児が挑発的な発言をぶつけた時、

「よし!! 相手が魔法使いなら私の出番だな!!」

魔理沙は自分が戦う事を宣言しながら前に出て、

「霊児!! 私がどれだけ強くなったか見ててくれよ!!」

霊児の方を見ながら自分がどれだけ強くなったかを見て欲しいと口にする。

「ああ、分かった」

魔理沙が口にした事を受け入れると言う発言を霊児がしたからか、魔理沙は嬉しそうな表情を浮かべてパチュリーの方に向き直った。
魔理沙とパチュリーが睨み合う様な形になってから少しすると、

「……貴女、人間の魔法使いね」

パチュリーは魔理沙が人間の魔法使いである事に気付く。

「良く分かったな」

自分の事を人間の魔法使いだと気付いたパチュリーに魔理沙が何処か感心した表情を浮かべる。
それを見たパチュリーは、

「純粋な魔法使いと人間の魔法使いとでは魔力の感じが違うのよ」

純粋な魔法使いと人間の魔法使いでは魔力の感じが違うのだと言う。
そう言われた魔理沙は探る様な視線をパチュリーに向け、

「……確かにお前の魔力の感じは魅魔様に似ていて、アリスに近いな」

パチュリーの魔力の感じが魅魔に似ていて、アリスに近い事を知る。

「魅魔にアリス?」

魔理沙の発言が気に掛かったパチュリーは霊児達の方に視線を移し、

「魅魔って言うのはそこの幽霊ね。魔法使いの幽霊とは……これまた珍しい。となると、アリスって言うのは私と同じで純粋な魔法使いか」

勝手に魅魔とアリスがどの様な存在であるかを推察し始めた。
尤も、パチュリーの推察は間違っていなかったので誰も突っ込みは入れなかったが。
一通り推察が終わったからか、

「この子が様付けで呼ぶって事は貴女がこの子の師匠でしょ? 良いの? この子に私の相手をさせて」

パチュリーは自分の相手を魔理沙にさせても良いのかと魅魔に問う。
要約すると、パチュリーは純粋な魔法使い相手に人間の魔法使いでは分が悪いと言っているのだ。
問われた事に、

「問題無いさ。確かに、魔理沙は魔法使いとしてはまだまだ未熟だけど……強いよ。私の弟子は」

魅魔は魔理沙は強いと断言した。
同時に、魔理沙は懐から二個の陰陽玉を取り出して自身の傍らに佇まさせる。
魔理沙が戦う意志を示した事でパチュリーは間合いを取る様に後ろに下がった。
互いの間合いが取れ、いざ戦いが始まると思われたタイミングで、

「……あ、言い忘れていた。戦闘方法は弾幕ごっこね」

パチュリーが戦闘方法を弾幕ごっこに指定して来た。

「お前も弾幕ごっこで戦いを挑んで来るのか……」

弾幕ごっこで戦いを挑んで来たパチュリーに魔理沙は驚きつつも、霊児の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る霊児は、何かを考えている表情をしていた。
何を考えているのかと言うと、パチュリーが弾幕ごっこで勝負を仕掛けて来た事に付いてだ。
正直な所、霊児には異変を起こした者の仲間が弾幕ごっこと言う遊びで勝負を仕掛けて来る理由が分からないのである。
異変を完遂させたいのなら後顧の憂いを断つ為に、最低でも霊児達に戦闘不能になる程のダメージを与える必要があるだろう。
だと言うのに、パチュリーは美鈴と同じ様に戦闘方法を弾幕ごっこに指定して来た。
事の真意はどう考えても分からないが、弾幕ごっこで戦えば消耗はかなり少なくなるので、

「…………………………………………」

霊児は魔理沙の目を見ながら頷く。
頷いた霊児を見た魔理沙は顔をパチュリーの方に戻し、

「良いぜ。弾幕ごっこで」

弾幕ごっこで戦う事を受け入れたと言う宣言をし、構えを取る。
構えを取った魔理沙を見て、パチュリーも構えを取り、

「……見せて貰いましょうか。人間の魔法使いの実力を」

魔理沙の実力を見せて貰うと言って、パチュリーは細かい弾幕を放ちながら太いレーザーを四方向に向けて放つ。

「おっと、行き成りだな」

有無を言わせずに弾幕ごっこを始めたパチュリーに魔理沙は少し驚くも、器用な動きで弾幕とレーザーと言う二種類の攻撃を避けていく。
無論、魔理沙としても只避けていると言うだけでは無い。
魔理沙は回避行動を取りながら反撃と言わんばかりに自分自身、そして二個の陰陽玉から弾幕を放っていた。
魔理沙と陰陽玉から放たれた弾幕を避ける為にパチュリーは最小限の動きで弾幕を避け様としたが、

「……ッ」

直ぐにある事に気付き、回避方法を大きく動いて避けると言う方法に変える。
パチュリーが気付いた事と言うのは、陰陽玉から放たれる弾幕にはある程度の追尾機能が有ると言う事だ。
故に、パチュリーは弾幕の追尾から逃れる為に大きく動いて避けると言う方法を取ったのである。
因みに、陰陽玉の元々の持ち主である霊児は、

「……ああ、そう言えば陰陽玉にはあんな効果が有ったっけか」

今ので陰陽玉から放たれる弾幕に追尾機能が有る事を思い出したと言う表情を浮かべていた。
霊児の浮かべている表情を見た魅魔は、

「陰陽玉は元々あんたの物だろうに……」

霊児に呆れた視線を向ける。
その視線の意味を感じ取った霊児は、

「そうは言っても……俺、陰陽玉を使った事何て無いからな」

自分は陰陽玉を使った事が無いと漏らす。

「過去の博麗の巫女の殆どはちゃんと陰陽玉を使ってたんだけどねぇ」
「生憎、俺の戦闘スタイルに陰陽玉は合わないからな。それに鈍器として使おうにも俺には緋々色金製の短剣が在るからな。俺に陰陽玉は必要ねぇよ」
「自分には必要無いからと言っても、普通博麗の秘宝とも言える物を上げるかい? しかも、魔理沙にも使える様に調整して」
「博麗に取って陰陽玉は秘宝かも知れないが、俺……博麗霊児に取っては秘宝でも何でも無いからな」

そんな会話を交わしている魅魔と霊児に割り込む様にして、

「ねぇねぇ。一寸気になったんだけど魔理沙とあのパチュリーって、魔法使いとしてはどれ位の差が在るの?」

にとりは魔理沙とパチュリーの二人は魔法使いとしてはどれ位の差が在るのかを尋ねる。
尋ねられた事に、

「魔法使いとしての力量なら、魔理沙よりもあのパチュリーって子の方がずっと上だね」

魅魔は魔法使いとしての力量なら魔理沙よりもパチュリーの方が上だと言い切った。
それを聞き、にとりは不安気な表情を浮かべ始めたが、

「けど、魔法使いとしての力量と戦闘能力がイコールで結ばれるとは限らないさ」

魅魔が続ける様に魔法使いとしての力量と戦闘能力がイコールで結ばれるとは限らないと言った為、にとりは表情を戻して魔理沙とパチュリー方に顔を向ける。
顔を向けたにとりの目には、パチュリーと対等に渡り合ってる魔理沙の姿が映った。
おまけにカメラのシャッターを切りながら二人の周囲を飛び回っている文の姿も。

「……あれ? 何で文さんはもう写真を撮ってるの? てっきり、スペルカードを発動した辺りから写真を撮り始めると思ってたのに」
「何でも、今回は魔法使い同士の弾幕ごっこだから最初っから写真を撮る事にしたんだって」

既に写真を撮り始めている文に疑問を覚えたにとりに、椛がその疑問を解消させる説明を少し呆れた声色で行う。

「ああ、成程……」

椛の説明を聞き、にとりが納得した表情を浮かべていると、

「随分とちょこまと動くわね」

パチュリーは感心した表情になりながらそう呟いた。
どうやら自分の弾幕を悉く避けていく魔理沙を見て、魔理沙への評価を改めた様だ。

「これでも、スピードには自信が在るんだよ」

パチュリーの呟きに魔理沙は余裕が感じられる声色でスピードには自信が在るのだと返し、パチュリーの弾幕を隙間の縫う様にして弾幕を放っていく。
自身に向けて迫り来る弾幕を避ける為、パチュリーは魔理沙から大きく距離を取り、

「人間の魔法使いも存外、馬鹿に出来ないものね。おまけにその二個のオプション、かなりの力を持ってる様だし……」

魔理沙だけではなく人間の魔法使いに対する評価も改め、魔理沙の傍ら漂っている二つの陰陽玉に視線を向ける。
パチュリーの視線が陰陽玉に向いている事に気付いた魔理沙は、

「オプションって言うのは陰陽玉の事か? これは霊児から貰った私の宝物だぜ」

満面の笑顔で陰陽玉は霊児から貰った宝物だと口にする。
満面の笑顔でそう言い切った魔理沙に、

「そ、そう」

パチュリーは少々呆気に取られながら、

「それはそうと、手数は完全に向こうが上ね。ま、向こうにはオプションが在るのだから当然と言えば当然か」

手数に関しては魔理沙の方が完全に上だと断言した。
しかし、断言したパチュリーからは余裕と言ったものが感じられたからか、

「何だ、お前にも私の陰陽玉の様なオプション兵装が在るのか?」

魔理沙は自分の様にオプション兵装が在るのかと聞く。
聞かれた事を、

「ええ、確かに私にも貴女の様に攻撃を補佐するオプション兵装は在るわ」

パチュリーは肯定したが、

「けど、私はそれを使う気は無い」

オプション兵装を使う気は無いと言う。

「え? 何でだ?」
「さあ? 理由は自分で考えなさい」

オプション兵装が在るのに使わないパチュリーに魔理沙は疑問を覚えたが、パチュリーはその疑問に対する答えを教える気は無い事を言葉で示しつつ、

「でも、こっちは使うわよ」

こっちは使うと言いながら懐に手を入れ、弾幕を放つのを止めてスペルカードを取り出した。
パチュリーがスペルカードを取り出したのを見た魔理沙は、

「……ッ」

警戒した様子を見せながら弾幕を放つのを止め、パチュリーから距離を取る。
同時に、

「土符『レイジィトリリトン』」

パチュリーのスペルカードが発動された。
すると、パチュリーから均一の大きさをした弾幕が無作為に放たれる。
無作為に放たれている弾幕を見て、

「……スピードを落とすか」

魔理沙はスピードを落とし始めた。
何故、魔理沙はスピードを落としたのか。
魔理沙がスピードを落とした理由は、パチュリーから放たれている弾幕に在る。
パチュリーが発動したスペルカードで放たれる弾幕は、数が多い上に弾幕と弾幕の間が狭い。
下手にスピードを出した状態で回避行動を取れば、魔理沙は弾幕の雨の中を突っ込む事になるだろう。
なので、魔理沙はスピードを落とす事にしたのだ。

「この弾幕の量を前にしたら少しは冷静さを失うと思ったんだけど……存外、冷静ね」

大量の弾幕を目にしても冷静さを欠片も失わなかった魔理沙にパチュリーは少し驚いた様子を見せたが、

「だけど、そんな細かい動きだけで何時までこの弾幕を避け続ける事が出来るかしら?」

直ぐに驚いた様子を消し、何時までこの弾幕を避け続ける事が出来るのかと問う。
スピードを落としたと言う事は、距離を大きく取って体勢を立て直す事が出来なくなったと言う事。
つまり、魔理沙は距離が十分に離れていない場所で弾幕を避け続けなければならないのだ。
そんな状況下で何時までも弾幕を避け続ける事は出来ないと思われたが、

「何時まで……か。そんなもの、何時までに決まってるぜ!!」

魔理沙は堂々とした態度で何時までも避け続けられると宣言した。
宣言した魔理沙の瞳に欠片の揺らぎも見られなかった事から、

「……スペルカードの発動時間が終わるまで避け続ける気ね」

パチュリーは魔理沙の宣言が虚言や強がりの類では無いと判断し、本当にスペルカードの発動時間が終わるまで避け続ける気だと考える。
だが、

「外れ。確かに何時までも避け続けられると言ったが、そもそもスペルカードの発動が終わるまで待つって言うのは私らしく無いからな」

魔理沙はパチュリーの考えを否定する発言をしながら懐に手を入れ、

「それに言うだろ。目には目を、歯には歯をって」

スペルカードを取り出し、

「星符『メテオニックシャワー』」

スペルカードを発動させた。
その瞬間、魔理沙から無数の星型の弾幕が放たれる。
放たれた弾幕を見て、

「……成程。確かに目に目を、歯には歯をね」

パチュリーが確かに魔理沙の言葉通りだと呟いた時、魔理沙とパチュリーの弾幕が激突し合った。
弾幕と弾幕が激突した事で爆発と爆煙が発生し、魔理沙とパチュリーの二人は爆煙に包まれていく。
爆煙に包まれた事で二人の姿が見えなくなってしまったが、爆煙の中から弾幕が飛び出して来ているので魔理沙もパチュリーは健在である事が分かる。
それから少しすると爆煙の中から弾幕が飛び出して来るのが止んで爆煙が晴れていく。
爆煙が晴れた場所には多少服を傷めてはいるものの、ある程度距離を取って互いの様子を伺っている魔理沙とパチュリーの健在な姿が見られた。
魔理沙とパチュリーの服が多少傷んでいるのを見るに、視界が不明瞭の中で弾幕を完全に避け続けると言うのは無理だった様だ。
が、それでも二人とも直撃を受けた様子が見られないのは流石である。

「スペルカードの発動時間が終わるまで耐え切っ……いえ、撃ち合い続けるとはね。やるじゃない」
「お前もな」

パチュリーと魔理沙は今のスペルカードで仕留め切れなかった事を褒め合い、何処か挑発的な笑みを浮かべ、

「普通に弾幕を撃ち合っても、数に比重を置いたスペルカードでも中々決着は着きそうにないわね」

パチュリーはこの儘では決着が着きそうに無いと漏らす。
パチュリーが漏らした発言が耳に入った魔理沙は、

「なら、降参でもするか?」

からかう様な声色で、降参でもするかと尋ねる。

「それこそ、まさかよ」

尋ねられた事をパチュリーは否定しながら懐に手を入れ、

「弾幕の撃ち合いや数による戦いで勝負が着き難いと言うのであれば、火力勝負に持っていくだけよ」

火力勝負に持っていくだけだと口にしてスペルカードを取り出し、

「日符『ロイヤルフレア』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードを発動させた途端、パチュリーの頭上に炎の玉が生成される。
しかし、それだけでは終わらなかった。
何と、生成された炎の玉はどんどんと大きく成っていくではないか。
炎の玉が大きく成り切ったタイミングで放たれると言う事を直感的に感じ取った魔理沙は不敵な笑みを浮かべ、

「悪いな。私はパワー勝負が一番得意なんだよ」

パワー勝負が一番得意なのだと言いながら懐に手を入れてミニ八卦炉とスペルカードを取り出した。
そして、取り出したミニ八卦炉を右手で持ちながら前方に突き出し、

「恋符『マスタースパーク』」

魔理沙はスペルカードを発動させる。
スペルカードを発動させた事で魔理沙から極太レーザーが放たれたが、同時にパチュリーからも炎の玉が放たれた。
どうやら、魔理沙の攻撃のタイミングとパチュリーが生成していた炎の玉が完成したタイミングは同じであった様だ。
放たれた極太レーザーと炎の玉は激突し、均衡し合う。
レーザーと炎の玉が均衡し合っているのを見て、パチュリーは火力勝負も互角かと考えたが、

「なっ!!」

直ぐにその考えは覆される事になる。
何故ならば、少しずつ少しずつではあるが極太レーザーが炎の玉を押し始めたからだ。
押され始めたのを見て、パチュリーは力を籠めるが、

「そ、そんな!!」

押し返す事も均衡状態に戻す事も出来なかった。
完全にパワー負けをしていると言う事実に驚いているパチュリーに、

「言っただろ。私はパワー勝負が一番得意なんだって。それに……」

魔理沙はもう一度自分はパワー勝負が得意なのだと言って一瞬だけ霊児の方に視線を移し、

「霊児に格好悪い姿を見せたくないしな」

霊児に格好悪い姿を見せたくないと呟いた瞬間、極太レーザーは炎の玉を突き破ってパチュリーを呑み込んだ。
パチュリーを呑み込んだ極太レーザーが消えると、

「……ッ」

フラフラとした様子で降下して行くパチュリーの姿が魔理沙の目に映る。
映った光景に、魔理沙は驚きを隠せないでいた。
マスタースパークは魔理沙が好んで使う攻撃魔法であり、魔理沙の攻撃魔法の中でもトップクラスの威力を誇っている。
と言っても、スペルカードで発動した技などに殺傷力などは殆ど無いのでパチュリーがダメージを負っていないと言う事に関しては問題無い。
だが、殺傷力は無くとも衝撃に関してはそれ相応に在る。
だと言うのに、パチュリーは気絶する事無く意識を保っていた。
故に、魔理沙は驚きを隠せないでいたのだ。
が、魔理沙としても何時まで驚いていると言う訳でも無く、

「マスタースパークが駄目ならもっとの上のを……」

直ぐに表情を戻して懐に手を入れる。
魔理沙の台詞から察するに、マスタースパークよりも威力が上のスペルカードを使う気の様だ。

「……よし」

魔理沙がどのスペルカードを使うかを決めた時、パチュリーは本棚の天辺に着地して膝を着いた。
膝を着いたパチュリーを見て、

「……え?」

魔理沙は思わず間の抜けた表情を浮かべてしまう。
何故ならば、本棚に足を着けたら戦況の立て直しと自分への牽制の為に弾幕を放って来るものだと思ったからだ。
おまけに、パチュリーは膝を着くだけでは無く咳もし始めた。
膝を着き、咳き込み始めたパチュリーを見て、

「……ん?」

魔理沙はある可能性を考える。
考えた可能性と言うのは、パチュリーは気絶しなかっただけで戦闘継続をする事が出来る程の力は残されていないのではと言う事だ。
考えた可能性が正しいのかどうか確認する為に魔理沙は状況を分析していく。
その間にパチュリーの咳が収まり、

「……降参。私の負けよ」

パチュリーは自身の負けを宣言した。
パチュリーの降参の宣言を聞き、

「降参か……」

魔理沙は少々不満気な表情になってしまう。
まぁ、これからマスタースパーク以上の威力を持つスペルカードを使おうとしていたのだ。
そんな表情になってしまっても無理はない。
しかし、既に勝敗は決している。
魔理沙の勝ちと言う形で。
弾幕ごっこのルール上、勝敗が決した後に追撃を行うのはルール違反だ。
これ以上自分に出来る事は何も無いからか、魔理沙は気持ちを切り替える様に表情を戻して霊児の方に顔を向け、

「やったぜ!!」

満面の笑顔を共に、ピースサインをした。























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