魔理沙がパチュリーを弾幕ごっこで倒した後、霊児達はパチュリーを取り囲み、

「で、だ。この図書館から出て、レミリア・スカーレットの所まではどうやって行けば良い?」

一同を代表するかの様に、霊児がパチュリーにレミリア・スカーレットが居る場所までの道順を尋ねる。
尋ねられたパチュリーは、

「流石にそこまで教える訳は無いでしょ」

教える気は無いと言って、霊児から顔を背けた。
顔を背けたパチュリーを見て、

「まぁ、当然と言えば当然ですね」

パチュリーの反応は当然だと言わんばかりの表情を浮かべながら椛は霊児の方に顔を向け、

「どうします? 我々だけでレミリア・スカーレットが居る場所を探しますか? それとも、彼女を尋問して無理矢理にでも情報を聞き出しますか?」

自分達だけでレミリア・スカーレットを探すか、それともパチュリーを尋問して無理矢理にでも情報を聞き出すかと言う提案を口にする。
椛が口にした提案を聞いた霊児は、

「そうだな……」

少し考える様な素振りを見せた後、何かに気付いた表情を浮かべながら視線を上の方に移す。
視線を移した後は何かを探す様に目を動かしていたが、直ぐにある場所を注視し始めた。
霊児の視線が固定されている事に気付いた魔理沙は、

「何か見付けたのか? 霊児」

霊児に何か見付けたのかと問う。
問われた事に、

「ああ、今俺が見ている場所を一直線に進めば多分レミリア・スカーレットの居る場所にまで行ける筈だ」

霊児は肯定し、今自分が見ている場所を一直線に進めば多分レミリア・スカーレットの居る場所にまで行ける筈だと言って右手を拳銃の形に変える。
そして、右手の狙いを今見ている方に定めながら人差し指の先に霊力を集中させていく。
霊力を集中させた事で、霊児の右手の人差し指の先から青白い光が発せられ始めた。
発せられた光は時間と共にどんどん強くなり、それに伴うかの様に霊児の指先から感じる霊力もどんどん高まっていく。
霊児の指先から感じられる霊力の高まりを感じ取ったパチュリーは何かを察したのと同時に冷や汗を流し、

「止めてー!!」

慌てた表情を浮かべながら霊児の腰に抱き付き、

「この場所で霊力をそんなに高めた状態で弾とかを撃ったら、余波で私の図書館が滅茶苦茶になっちゃう!! だから撃たないでー!!」

今の霊児がこの場所で弾などを撃ったら余波で図書館が滅茶苦茶になるから撃たないでと若干涙目になりながら懇願する。
しかし、霊児はパチュリーの懇願を無視するかの様に指先に集中させている霊力を高めていく。
霊児がパチュリーの懇願を無視するかの様に霊力を高めている事から、この儘霊児の指先から霊力で出来た弾が放たれてしまう。
そう思われたその時、

「あー……霊児。私としても、出来ればそれをぶっ放すのは止めて欲しいね」

魅魔からぶっ放すのを止めて欲しいと言う声が掛けられた。
それを意外に思った霊児は魅魔の方に顔を向け、

「何でだ?」

何故止めて欲しいのかと聞く。
聞かれた魅魔は、

「この近辺に在る本棚に一通り目を向けたら、高位の魔導書などがゴロゴロしてるのが分かったんだよ」

この近辺の本棚には高位の魔導書などがゴロゴロしている事を話す。

「高位の魔導書?」

高位の魔導書と言う単語で霊児が思わず首を傾げると、

「そうそう。これとかね」

魅魔は近くの本棚から何冊かの本を引っこ抜く。
今、魅魔が引っこ抜いた本が高位の魔導書なのだろうか。
魔法使いと言うより魔力を扱う者では無い霊児に取って魅魔が持っている本の価値は分からないが、

「へー……これが高位の魔導書……」

魔理沙は興味深そうな視線を魅魔が持っている本に向けていた。
どうやら、魔理沙には魅魔が持っている本の価値が分かる様だ。
魔理沙の視線に気付いた魅魔は、

「そう言えば、魔理沙はこれ位の魔導書を見るのは初めてだったけか」

魔理沙が今自分が持っている様な魔導書を見るのは初めてである事を思い出し、

「……よし!! この異変が終わったら高位の魔導書の見分け方と読み解き方を教えて上げるよ」

この異変が終わったら高位の魔導書の見分け方と読み解き方を教える事を約束する。
魅魔が魔理沙に高位の魔導書の見分け方と読み解き方を教えて貰える事を約束したからか、

「はい!! お願いします、魅魔様!!」

魔理沙は嬉しそうな表情を浮かべた。
その後、魅魔は霊児の方に顔を向け、

「と言う訳で、今霊児がやろうとしている方法は却下して貰えると嬉しいんだけど……」

改めて今霊児がやろうとしている事を止めて欲しいと言う。
そして、そんな魅魔の発言に続ける様に、

「霊児、私もここ等一帯を滅茶苦茶にする様な事はしないで欲しいな。だってさ、こんなに本が在るって事は外の世界の本も在るかもしれないでしょ?
例えば、機械工学の本とかさ」
「外の世界の本ですか……それなら、外の世界のカメラに付いて書かれた本が在るかもしれないですね。なら、私もここ等一帯を滅茶苦茶にするのは反対ですね」
「私は霊児がやりたい様にやれば良いと思うぜ。私は霊児がどんな選択をしても霊児に付いて行くぜ」
「この図書館の大きさを考えるに、我々天狗が所持していない書物も文字通り大量に存在している事でしょう。私自身もこの図書館に収められている本には興味が
有りますが……私は異変解決を行う霊児さんのサポートをする為に居ます。ですので、私は霊児さんがどの様な判断と決断をしても霊児さんに従います」

にとりと文は図書館を滅茶苦茶にしないでと、魔理沙と椛は霊児の好きな様にすれば良いとそれぞれ言って来た。
五人の主張を聞いた後、霊児はこの儘霊力で出来た弾をぶっ放すかどうかを考える。
ぶっ放した余波でここ等一帯の本や本棚が滅茶苦茶になり、紛失したとしても霊児に取ってはどうでも良い。
なので、この儘ぶっ放そうとした時、

「…………………………………………………………ッ」

霊児の頭にある懸念事項が過ぎった。
過ぎった懸念事項と言うのは、自分が知りたい情報が書かれた本が紛失してしまうのではと言う事。
例えばこの先何らかの異変が起きた時、その異変を解決する為の重要な事が書かれた本が霊力で出来た弾をぶっ放した余波で紛失してしまったとしたら。
はっきり言って、笑い話にもならない。
仮にそうなったとしても異変を解決する事は出来るだろうが、異変解決をするまでかなりの時間が掛かってしまう事だろう。
今後の事を考えたらとてもじゃないがここ等一帯を滅茶苦茶にする様な事が出来ないので、霊児は腕を降ろして指先に集中させていた霊力を四散させた。
同時に、霊児の指先から発せられていた青白い光が消滅する。
すると、パチュリーはホッとした表情になりながら霊児から離れた。
図書館が滅茶苦茶にされると言う懸念事項が払拭された事で安心しているパチューを余所に、

「話を戻しますが、どうします? 強引に道を作ると言う方法が却下されてしまいましたが」

文が他人事の様にどうやって図書館から脱出するかを問う。
問うて来た文に霊児は色々と突っ込みを入れたかったが、それを抑えて頭を回転させていく。
この図書館の広さを考えるに、普通に出口を探していったら無駄に時間を喰いそうだ。
パチュリーが口を割るまで尋問すると言うのも手だが、これまた口を割らせるまで時間を喰いそうである。
頭を回転させても時間が掛かる方法しか出て来なかった事で霊児が溜息を吐きそうになった時、

「……ん?」

霊児は本棚に収められている本の中からある一冊の本を見付け、見付けた本を本棚から引き抜いて読み始めた。
かなり早いペースで。
霊児が本を呼んでいるのを見て、

「それ、何の本?」

にとりは何の本を読んでいるのかを尋ねる。
尋ねられた内容は隠す様な事でもないので、

「ああ、これは占術の本だ」

霊児はどんな本を読んでいるのかをにとりに教えた。

「仙術?」
「発音が違う。仙術じゃなくて占術な。簡単に言えば占い関連の本だ」

にとりが発した占術の発音が違った為、霊児は発音の訂正を行って今読んでいる本の内容を簡潔に言い表し、

「俺は占術には興味が無かったから占術を習得してはいないんだけどな」

占術に興味は無かったので占術を習得してはいないと呟きながら読んでいた本を閉じて本棚に仕舞い、印を組み始める。
霊児が印を組んでいる姿は珍しいからか、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人は興味深そうな視線を霊児に向けていく。
序にパチュリーも。
魔法使いであるパチュリーに取って、霊力を扱う霊児が行おうとしている事には興味が引かれる様だ。
そんな六人の視線を受けつつも霊児は淡々と印を組んでいき、

「……よし」

印を組み終えると空中に躍り出て、

「行くぞ」

行くぞと言う言葉を一同に掛けた。

「行くって……何処へですか?」

霊児の行くと言う言葉に文がある意味当然と言える疑問を述べると、

「勿論、レミリア・スカーレットが居る所にだ。因みに、レミリア・スカーレットが居る所までの最短ルートは今占った」

霊児はレミリア・スカーレットが居る場所だと答え、補足する様にレミリア・スカーレット居る所までの最短ルートは今占った事を話す。
霊児の話を聞き、

「占ったって……たったあれだけで占術を覚えたんですか!?」

椛は驚きの表情を浮かべてしまった。
それも無理はない。
占術の知識が零の者が占術の事が書かれた本を少し読んだだけで占術を使える様になったのだから。
驚いている椛に、

「まぁ、簡単な内容だったしな。それに元々俺が習得している陰陽術とか神仙術とか呪術と言ったものの応用なども効いたし」

霊児は簡単に占術を使える様になった理由を伝え、更に高度を上げ続ける。
高度をどんどん上げて行く霊児を見て、少し慌てる様な動作で魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も高度を上げて行く。
そして、ある一定以上の高度に達すると一同は霊児を先頭にして何処かへと飛んで行った。
レミリア・スカーレットが居る場所へと。
飛んで行った霊児達が見えなくなった瞬間、

「……あ、魔導書持っていかれた」

パチュリーは魅魔に魔導書を何冊か持っていかれた事に気付き、膝を崩した。





















霊児の先導で図書館を抜け後、一同は壁も床も紅い通路を進んでいた。
ここまで何の障害も無く楽に来る事が出来たからか、

「占いって言うのも、馬鹿に出来ないものだね」

にとりは占いと言うものを見直したと言う言動を漏らす。
それに続く様に、

「そう言えば、霊児は人里でお守りやお札を売って金を稼いでいるんだったよね。だったら、今度は占いもやってみたらどうだい?」

魅魔が人里で占いとしたらどうだと言う提案をして来た。
占いで金稼ぎと言うのは中々に魅力的な提案ではあるが、

「占いで金稼ぎねぇ……今回の場合を除けば占いは一人一人占う必要が在るからなぁ……。一人一人と言うのは、面倒臭い」

一人一人占うと言うのは面倒臭いと言う事で、霊児は占いで金稼ぎと言う方法に難色を示す。

「えー、折角だから人里で占いをやりましょうよ。今なら"文々。新聞"で大々的に宣伝しますよ!!」
「お前さん場合、霊児を使って自分の新聞の購読者数を増やしたいだけだろ」

霊児が占いを始めるのならば自分の新聞で宣伝すると言った文に、魔理沙が的確な突っ込みを入れると、

「……皆さん、雑談がそこまでした方が宜しいかと。敵襲です」

敵が襲来している事を椛は一同に伝える。
椛の言葉で霊児、魔理沙、魅魔、にとり、文の五人が視線を正面に向けると、五人の目には自分達の方に向かって来ている多数の妖精メイドの姿が映った。
敵襲と言う事で雑談を交わしていた五人が表情を少し引き締めた時、妖精メイド達は一斉に弾幕を放ち始める。
放たれた弾幕を見た霊児達は散開する事で弾幕を交わし、反撃と言わんばかりに弾幕を放つ。
その光景をカメラに収めている文以外の面々はであるが。
兎も角、霊児達が放った弾幕は次々と妖精達に命中していく。
弾幕が命中し、妖精メイド達が次々と撃ち落されていくのを余所に、

「……やっぱり、先に進めば進む程に妖精達が放つ弾幕は強くなっていくな」

霊児は妖精達が放つ弾幕の強さを分析していた。
紅い霧だけではなく、紅い霧を出しているレミリア・スカーレットに近付けば近付く程に妖精が強くなると言う考えが正しと仮定すれば、

「後少し……って所か」

レミリア・スカーレットが居る場所まで後少しと言う事になる。
異変解決まで後少しかと霊児が思い始めた瞬間、

「……っと、全部片付いたみたいですね」

妖精達が全て片付いた事を文が口した。
文の発言に反応した霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛の五人は弾幕を放つのを止め、

「ここまで楽に来れたから、今のは良い肩慣らしになったな」
「だな。まぁ、一寸物足り無かった気もするがな」
「ここの妖精達は強く、数は多いけど大して統率が取れてはいないからね。物足り無く感じても仕方が無いさ」
「それにしても、妖精ってここまで強くなるんだね。驚いたよ」
「そうだね。妖精への評価、改めた方が良いかも」

軽い会話を交わしつつ、再び先へと進み始める。
再び進行を開始した道中でも当然の様に妖精メイドが襲い掛かって来たが、これまた当然の様に霊児達に撃退されていく。
襲い掛かって来る襲撃者を倒し、霊児達は順調と言った感じで先に進んでいたが、

「随分、乱暴なお客様が入らしたものね」

順調に進んでいる霊児達の進行を阻むかの様に銀色の髪を肩口付近で揃え、メイドを服を来た少女が現れた。
自分達の進行を阻む様に少女が現れた事で霊児達は一旦進行を止め、現れた少女の風貌から、

「……お前、ここのメイドか?」

霊児は紅魔館のメイドかと推察する。
霊児の推察を、

「ええ、その通りよ」

少女は肯定し、

「私は紅魔館でメイド長をしております、十六夜咲夜と申します」

スカートの端を摘まんでお辞儀をしながら簡単な自己紹介を行う。
お辞儀をした咲夜が顔を上げたタイミングで、

「……あんた、人間だね」

魅魔は咲夜が人間である事に気付く。

「ええ、察しの通り私は人間よ。でも、それが何か?」
「いや何。吸血鬼に仕える人間って言うのも珍しいと思ってね」

咲夜が何か聞きたそうな目をしていたので、魅魔は思った事をその儘伝える。
咲夜に対し、魅魔がその様な事を思うのも無理はない。
何かの気紛れで自分の血を吸いに来るかもしれない吸血鬼に、態々仕え様とは思わないだろう。
魅魔が思った事は尤もであるからか、

「珍しい……ね。否定はしないわ」

咲夜は珍しいと言う魅魔の発言を否定せず、

「けど、貴方達の方が私よりも珍しいんじゃないかしら?」

聞き返すかの様に霊児達の方が珍しいと口にする。

「私達がか?」
「ええ。人間二人、妖怪三人、幽霊一人と言った構成で来ている貴方たちの方が珍しいと思うわ」

自分達の方が珍しいと口にされた事で首を傾げた魔理沙に、咲夜は霊児達の方が珍しいと口にした理由を話す。
咲夜が話した理由を聞き、

「言われてみれば……確かにそうかもね。今の私達の構成、普通は見られるものじゃないし」
「序に言えば、私達のリーダーは霊児さんだからね。これだけの面子を率いているのが人間って言うのも珍しいと思われる理由の一つかも」

にとりと椛は珍しいと思われても仕方が無いと言う表情を浮かべた。
咲夜との会話で場に流れていた空気が緩やかなものになって来たからか、

「……それで、貴方達はこの紅魔館に何の御用かしら?」

話を切り替え、場の空気を引き締めるかの様に咲夜は霊児達に紅魔館にやって来た理由を問う。
問われた事に、

「ここに来た理由はお前のご主人様に会って紅い霧を止めて貰う為だ。ま、嫌だと言われても力尽くで止めさせるがな」

霊児は隠す気は無いと言わん態度で紅魔館にやって来た目的を咲夜に伝える。

「成程、お嬢様に……」
「で、通してくれるのか? 何も言わずに通してくれれば楽で良いんだけど」

霊児達の目的を知って何かを考える様な素振りをしている咲夜に霊児がこの儘通してくれるのかと聞くと、

「無理ね。お嬢様に危害を加え様とする輩を通すと思う?」

間髪入れずに無理だと言う答えが咲夜から返って来た。
咲夜から返って来た答えは十分に予想出来ていたからか、霊児達は落胆した様子を見せずに、

「さて、これで一戦交える事になりましたが……誰がいきます?」
「普通に貴女がいったらどうです? 霊児さんを除き、全員一戦交えていますし」
「んー……私はさっき戦ったばかりだが、弾幕ごっこだったからな。まだまだいけるぜ」
「私が戦っても構わないよ。吸血鬼が自身の配下に置く人間……咲夜には少し興味が有るからね」
「私もいけるよ」

文、椛、魔理沙、魅魔、にとりの五人は誰が咲夜と戦うかと言う相談を始める。
相談している面々からこの五人の中の誰かが咲夜と戦う事になると思われたその時、

「いや、俺がやる」

自分が戦うと言う宣言しながら霊児が前に出た。
霊児の宣言を受け、自分が戦う気であった魔理沙、魅魔、にとり、椛の四人は出鼻を挫かれた様な表情を浮かべてしまう。
そんな表情を浮かべている四人を余所に、

「あら、貴方が来るの? 大人しく女の子達の影に隠れていた方が良いんじゃない?」

咲夜は前に出て来た霊児を挑発する言動を言い放つ。
しかし、

「どの道、レミリア・スカーレットとは十中八九の確率で戦う事になるんだ。なら、準備運動位は必要だろ」

霊児は咲夜の挑発を無視し、逆に挑発をし返した。

「準備運動……ね。余り大きな事を言うと後で恥を掻く事になるわよ」
「安心しろ。俺が恥を掻く事は有り得ないからな」

返された挑発に更に挑発を返す咲夜に自身満々の態度を示す霊児。
二人の間に漂っている雰囲気を察した魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人は霊児にこの場を任せる様にして後ろに下がって行く。
そして、後ろに下がった五人が霊児と咲夜から十分に距離を取ったタイミングで、

「あ、そうそう。戦闘方法は弾幕ごっこでね」

咲夜は戦闘方法を弾幕ごっこに指定して来た。

「何……」

咲夜が戦闘方法を弾幕ごっこに指定した事で霊児は少し驚きの表情を浮かべるも、

「一つ聞きたい。何で戦闘方法を弾幕ごっこに指定して来た?」

直ぐに表情を戻し、戦闘方法を弾幕ごっこに指定して来た理由を尋ねる。
この程度の事は教えても構わないと判断したからか、

「お嬢様の命令よ。無礼なお客様は弾幕ごっこで追い払えと言うね」

咲夜は何の抵抗も無く、戦闘方法を弾幕ごっこに指定した理由を説明した。

「ふむ……」

咲夜が戦闘方法を弾幕ごっこに指定して来た理由を知り、霊児は何故レミリア・スカーレットがその様な命令を下したのかを考える。
弾幕ごっこは遊びだ。
故に事故や過失を除き、殺傷行為と言ったものは禁じられている。
序に戦いが終わった後の追い討ちも。
殺傷行為や追い討ちが禁じられていると言う事は、戦いが終わっても死ぬ可能性がかなり低いと言う事。
なので、レミリア・スカーレットが自分の部下の身を案じて戦闘方法を弾幕ごっこに指定したと考えれば一応の説明は付く。
だが、幻想郷中に紅い霧をばら撒く様な輩が自分達の敗北を考えるであろうか。
この様な事を仕出かしたのだから、普通は自分達の敗北など考えはしないだろう。
レミリア・スカーレットが用心深いと言ってしまえばそれまでだが、霊児はどうには腑に落ちない気分に陥っていた。
その気分を払拭する為にも答えを出そうとするも、幾ら考えても答えは出そうに無いと感じたからか、

「……よし」

霊児はレミリア・スカーレットに直接答えを聞き出そうと決める。
霊児が何かを決心した事に気付いた咲夜は、

「疑問は晴れた様ね。なら……いくわよ!!」

これ以上の問答は無用と言わんとばかりに何処からか数本のナイフを取り出し、霊児に向けて取り出した数本のナイフを投擲した。
投擲され、迫り来るナイフを、

「よっと」

霊児は紙一重で避けていく。
今投擲したナイフが紙一重で避けられたのを見て、

「ふむ……これならどう?」

咲夜は再び幾本ものナイフを何処からか取り出し、取り出したナイフの全てを投擲した。
今投擲されたナイフは紙一重では避けれない程に範囲が広く、先に投擲されたナイフよりも速い。
と言っても避けれない程でも無いので、霊児は高度を上げる事で投擲されたナイフを避ける。
避けた後、自身の真下を通り抜けて行くナイフを見て、

「……ナイフの刀身に霊力が纏わされているな」

霊児は咲夜が投擲したナイフの刀身に霊力が纏わされている事に気付く。
刀身に纏わされている霊力の感じからナイフが直撃しても自身の体に刺さる事は無いと知り、

「成程……」

霊児が咲夜も美鈴とパチュリーと同じで弾幕ごっこのルールを守る気が在る事を理解したのと同時に、

「……っと」

体を逸らす。
何故、霊児が体を逸らしたのかと言うと、

「……簡単に避けてくれるわね」

高度を上げた霊児に向けて、咲夜が物凄い速度でナイフを投擲したからだ。
自身が投擲したナイフを悉く避けた霊児に攻撃を当てるには少し捻った方法が必要だと咲夜は判断し、今度はナイフでは無く霊力で出来た大量の弾幕を放つ。

「今度は弾幕か……」

急に攻め手を変えて来た事を意外に思いつつも、弾幕を避け様とした時、

「……ッ」

霊児の目にある物が映る。
映った物と言うのは、大量の弾幕を隠れ蓑にしたかの様に迫って来ている幾本ものナイフだ。
大量の弾幕と幾本ものナイフと言う構成から、

「大量の弾幕は囮であり、目晦まし。本命はナイフか」

霊児は咲夜の狙いを見抜き、大きな動きで回避行動を取る。
が、霊児が大きな動きで回避行動を取る事は咲夜も予想していた様で、

「甘い!!」

咲夜は直ぐに弾幕とナイフの射線を回避行動を取った霊児の方に移す。
咲夜の切り替えの速さから霊児は大きな動きで回避行動を取るのは余り意味は無いと悟り、細かい動きでの回避行動に切り替える。
迫り来る弾幕、ナイフを避けながら、

「……しっかし、メイドって言うのは刃物を使うのが主流なのかね」

霊児はポツリとそんな事を呟き、魔界に突入した時に戦った夢子の事を思い出す。
魔界で戦った夢子も咲夜と同じ様に刃物をメインに使って来た。
但し、夢子はナイフではなく霊児の持つ短剣よりも短い短剣を使っていたが。
それは兎も角、霊児が先程から回避行動だけで反撃を行っていないからか、

「さっきから避けるだけだけど……避けるだけで精一杯かしら?」

咲夜は挑発する様な声色で避けるだけで精一杯かと問う。
咲夜の声で霊児は意識を弾幕ごっこに戻し、咲夜の放つ攻撃を分析していく。
現在の咲夜の攻撃構成は大量の弾幕、その大量の弾幕を隠れ蓑にする様にして迫り来るナイフと言うもの。
霊児は既に咲夜の狙いは見抜いているが、場の状況から咲夜の狙いだけに注意を向ける訳にもいかない。
本命であるナイフばかりに意識を集中させれば、囮である弾幕に被弾する事となるだろう。
本命と囮の両方に意識を向けなければならず、弾幕の量から下手な回避行動を取る事も出来ない。
並大抵の者ならば攻撃に転ずる事も出来ず、回避行動で体力が落ちて動きが鈍った辺りで被弾して敗北と言う結果が待っている事だろう。
しかし、霊児は並大抵の者では無い。
咲夜の攻撃をある程度分析し終えた霊児は回避行動を取りながら咲夜に掌を向け、霊力で出来た弾を何発か放つ。
放たれた弾は咲夜が放った弾幕に投擲したナイフを掻い潜る様にして咲夜へと迫って行く。
自分が放った弾幕に投擲したナイフをすり抜ける様にして迫り来る弾を見て、

「ッ!!」

咲夜は驚きの表情を浮かべ、反射的に回避行動を取ってしまう。
同時に、

「しまっ!!」

咲夜は気付く。
反射的に回避行動を取った事で、攻撃が疎かになってしまった事に。
霊児が放った弾を避けた後、咲夜が慌てた動作で霊児を探す様に顔を動かすと、

「さて、今度は俺の番だ」

攻撃が薄くなった隙を突くかの様に霊児は大量の弾幕を咲夜に向けて放った。
放たれた弾幕は咲夜が放った弾幕、投擲したナイフと激突して爆発と爆煙を発生させたが、

「くっ!!」

発生させた爆煙を突き破る様にして霊児の弾幕は現れ、突き進んで行く。
この儘では霊児の弾幕に呑み込まれてしまう事を悟った咲夜は弾幕を放つ事とナイフを投擲する事を止め、本格的に回避行動を取り始める。
攻める霊児に避ける咲夜。
先程までと比べて攻守が思いっ切り逆転したからか、

「急に避けるだけになったが……逃げるだけで精一杯か?」

霊児は先の咲夜と似た様な挑発を行う。
霊児の挑発を受けた咲夜は一瞬だけ腹立たしいと言う表情を浮かべた後、懐に手を入れてスペルカードを取り出し、

「幻在『クロックコープス』」

スペルカードを発動させた。
咲夜がスペルカードを発動させた事で、

「……………………………………………………」

霊児は少し警戒心を抱きながら弾幕を放つのを止め、様子を見始める。
一方、スペルカードを発動させた咲夜は太腿辺りに装備しているナイフを一本引き抜き、

「いけ!!」

引き抜いたナイフを霊児に向けて投擲させた。

「……一本だけ?」

スペルカードを発動したのに放たれたのはナイフ一本だけと言う現状に、霊児は些か肩透かしを喰らった気分になる。
その瞬間、

「なっ!?」

投擲されたナイフが何の前触れも無く一気に数を増やした。
急激に数を増やしたナイフに霊児は驚きの表情を浮かべるも、

「どうやって……」

ナイフが増えた絡繰を見抜く為に表情を戻し、頭を回転させていく。
一番最初にナイフ自体に物を増殖させる様な術式が書き込まれているのではと言うのを考え付いたが、

「……いや、違うか」

ナイフから何らかの術が発動したのを感じられなかったので、霊児は最初に考え付いたものを捨て去る。
次に考え付いたのは咲夜がナイフを更に投擲して数を増やしたと言うもの。
これならばナイフに何らかの術式が書き込まれていなくてもナイフの数が増えた事に対する説明も付くが、

「……咲夜がナイフを更に投擲した事に感付く事も出来なかったのか。俺が」

この考えが正しいと言うのならば、霊児は咲夜がナイフを更に投擲した事に感付けなかったと言う事になる。
だが、スペルカードを発動する前に咲夜が投擲したナイフに付いては投擲する瞬間も含めて霊児は見抜く事が出来ていた。
だと言うのに今回は感付く事すら出来なかったので、やはり何らかの絡繰が有ると言う判断を下した時、

「ッ!!」

霊児は自身の目の前まで大量のナイフが迫って来ている事を知る。
考え事に集中し過ぎたかと思いながら霊児は咲夜を注視する様に視線を動かしながら回避行動を取った。
ナイフが急激に増えた絡繰を見抜く為に。
霊児が回避行動を取った事で、咲夜は再び霊児に向けてナイフを一本投擲する。
投擲されたナイフがある程度進んだ所で、

「ッ!!」

ナイフは再び何の前触れも無く数を増やした。
霊児に増えるところを感知させずに。
絡繰を見抜く処か感知すら出来なかった事に対し、

「くそ……」

霊児は軽い悪態を吐きつつ、回避行動を取ると、

「……ん?」

ある事に気付く。
何に気付いたのかと言うと、今現在の咲夜の居る位置。
咲夜の居る位置がついさっきまでと比べてずれているのである。
霊児が余程距離を取る様な動きでもしない限り、咲夜は居る位置を動かなくても十分に霊児を狙える筈なのにだ。
霊児からの反撃を警戒して移動したと言えば一応の説明は付くが、

「……………………………………………………」

霊児の勘がそれは違うと訴える。
では、どうしてだと霊児が思った時、

「……ん?」

投擲されているナイフの内、何本かのナイフは咲夜が今居る位置からでは描けない軌道を取っているのが霊児の目に映った。
本来は描けない軌道を取っていると言う事は咲夜がナイフを操っているか特殊な投擲方法が使われていると言う可能性が考えられる。
が、当の咲夜にナイフを操っている様子が見られなければナイフが特殊な投擲方法で投擲された様子も見られない。
となれば、別の場所でナイフを投擲したと考えるのが自然であるが、

「……となると、俺が感知する事が出来ないスピードで移動して投擲、そして元居た位置に戻ったと言う事になるな」

この考えが正しければ、咲夜は移動、投擲、移動と言う三工程を霊児に感知させる事無く行ったと言う事になる。
しかし、それが正しければ様々な疑問が出て来てしまう。
例えば、何故今までそのスピードの片鱗すら見せなかったのかと言う疑問など。

「……………………………………………………」

これ以上考えても仕方が無いと判断したからか、霊児は今まで得た情報を纏め始める。
ナイフ自体が増えているのでは無く、おそらく咲夜がナイフを投擲して増やしていると言う事。
自分に感付かさせる事も無く、咲夜はナイフの数を増やす事が出来ると言う事。
立ち位置を変える必要も無いのに咲夜が立ち位置を変えていると言う事。
本来は描けない軌道を取っているナイフ。
咲夜が自分を遥かに上回るスピードを持っていると言う可能性。
以上の今まで得られた情報を纏めた結果、

「……そうか、時間を操っているのか……」

霊児は咲夜が時間操作の能力を持っていると言う結論に達した。
咲夜が時間操作の能力を持っているのであれば、今まで得た情報の全てに説明が付く。
それはそれとして、時間操作の能力を持っている咲夜は一見すると無敵の様に思えるが、

「だが……付け入る隙はある……」

霊児は付け入る隙を発見していた。
発見した付け入る隙と言うのは時間を止めて時間を動かした後、再び時間を止めるまである程度のインターバルが必要であると言う事。
そして、時間を動かした瞬間には僅かながらの隙が発生すると言う事だ。
もし、インターバルが必要で無ければ今咲夜が発動しているスペルカードで最初に一本だけ投擲されるナイフはもっと短い頻度で投擲される筈である。
無論、咲夜が今発動しているスペルカードがこう言う攻撃パターンで組まれている可能性も十分に存在しているが、

「………………………………………………」

霊児はその可能性は無いと感じていた。
感じた根拠は何も無い只の勘であるが、霊児は自分の勘を信じて攻めに転じ様とした時、

「……ッ」

再び咲夜が一本のナイフを投擲する。
投擲されたナイフを見た霊児は今だと思いながら懐に手を入れ、投擲されたナイフが増えたタイミングで懐からスペルカードを取り出し、

「連弾『乱射光霊弾』」

両手を突き出してスペルカードを発動させた。
霊児が発動させたスペルカードは十本の指から霊力で出来た弾を絶え間無く放ち続ける言うもの。
簡潔に言えば、霊児が指先から霊力で出来た弾を放つ技の連射型だ。
利点は単発型と比べて連射型は連射性能が高く、弾量が多いと言う点。
欠点は一発一発の威力が低く、弾の大きさが小さいと言う点だ。
尤も、欠点は戦い方次第で幾らでもカバー出来るが。
兎も角、スペルカードを発動させた事で霊児の十本の指先から霊力で出来た弾が次々と放たれる。
放たれた弾は投擲されているナイフに次々と命中してナイフの軌道を変え、ナイフに命中しなかった弾は咲夜へと向かって行く。

「くっ!!」

自身に向けて迫って来る大量の霊力の弾を避ける為に咲夜は回避行動を取るのと同時にナイフを一本投擲する。
投擲されたナイフは今までと同じ様に途中で数を増やす。
投擲したナイフの射線上には霊児が放った弾は無いので邪魔をされる事は無いと思われたが、

「ッ!!」

咲夜が新たに投擲したナイフにも霊児が放った弾が命中し、軌道を変えて行ってしまった。
何故射線上に無かった霊児の弾が咲夜のナイフに当たったのかと言うと、霊児が体を動かして射線を変えたからだ。

「く……」

今居る場所に留まれば霊児の放つ弾に当たってしまうので咲夜は再び回避行動を取り、ナイフを投擲する。
回避行動を取った咲夜を追う様に、霊児は再び体を動かした。
咲夜が回避行動を取ってナイフを投擲すると、それに合わせる様に霊児は体を動かす。
何やら追いかけっこの様な状態が少しの間続いたが、二人が発動していたスペルカードの制限時間が過ぎた事でそれも収まる。
場に霊力で出来た弾とナイフが飛び交わ無くなった後、霊児と咲夜は間合いを取り直す様に距離を取った。
距離を取った咲夜は息を整え、ある程度息が整うと太腿付近に装備しているナイフを右手で引き抜き、

「……しっ!!」

霊児の方に向けて一気に肉迫して行く。
そして、咲夜の間合いに霊児が入ると、

「はあ!!」

咲夜はナイフの刀身に霊力を纏わせ、思いっ切りナイフを振るう。
振るわれたナイフが霊児の体に当たる直前、霊児は左手で左腰に装備している短剣を引き抜いて咲夜のナイフを受け止め、

「まさか、斬り掛かって来るとはな。少し、驚いたぜ。まぁ、弾幕ごっこのルールに"接近戦は禁止"って言う決まりは無いからな。尤も、弾幕ごっこって言う
名前で皆自然と遠距離戦を取ってるけど」

少し驚いた表情を浮かべながらそんな事を呟く。
霊児の呟いた通り、弾幕ごっこのルールに接近戦は禁止と言う決まりは無い。
しかし、弾幕ごっこと言う名前故に弾幕ごっこをやる者は基本的に遠距離戦しか行っていなかった。
まぁ、弾幕ごっこが生まれてからまだ然程時間が経っている訳でも無いので遠距離戦だけが主となっているのも仕方が無いと言えば仕方が無い。
だから、今現在の段階で弾幕ごっこの最中に行き成り接近戦を仕掛けると言うのは中々に効果的だ。
だが、

「まだ、弾幕ごっこは生まれたばかり。だから、行き成り接近戦を仕掛ける中々に効果的だ」

その中々に効果的な方法も接近戦が得意としている霊児に対しては、

「けどな、俺は近距離戦が一番得意なんだよ」

悪手であった。
霊児の発した台詞で何か嫌なものを感じた咲夜が後ろに下がろうとした瞬間、

「はあ!!」
「くっ!?」

霊児は左手を振るい、咲夜を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた咲夜を追う様にして霊児は突っ込んで行き、短剣の刀身に霊力を纏わせて振るう。

「ッ!!」

振るわれた短剣に反応した咲夜は強引に体勢を立て直し、振るわれた短剣をナイフで防ぐ。
が、

「なっ!?」

霊児の短剣を受け止めた咲夜のナイフは明後日の方向に吹っ飛んで行ってしまった。
自身の得物が自分の手から離れ、隙が生じた咲夜に向けて霊児はチャンスと言わんばかりに刺突を放つ。
放たれた刺突は勢い良く咲夜の体に向かって行くが、

「まだ!!」

咲夜は寸前の所で何処からか二本のナイフを取り出して両手で持ち、二本のナイフを盾の様に構える。
二本のナイフを盾の様に構えた事で咲夜は霊児の刺突を防ぐ事には成功したものの、

「くうっ!!」

刺突の衝撃を完全に防ぎ切る事は出来ず、後ずさる様にして突き飛ばされてしまった。
突き飛ばされた咲夜を追う様にして霊児は再び突っ込んで行き、連続して短剣を振るう。
振るわれた短剣を咲夜は二本のナイフを使って防いでいくが、

「く……」

一向に攻勢に移れないでいた。
何故かと言うと、攻勢に移ろうものなら直ぐに霊児の短剣をその身に受けてしまう事になるからだ。
連続して振るわれていく一本の短剣を二本のナイフで何とか防ぎながら、咲夜は理解する。
接近戦では完全に圧倒されていると言う事と、この儘霊児の短剣を防ぎ続けていても状況が好転する処か悪化の一途を辿るだけと言う事を。
だからか、

「ぐ……」

咲夜は霊児の短剣をナイフで受ける時に力を緩め、霊児の力を利用する事で強引に距離を取り、

「せい!!」

左手に持っているナイフを投擲して霊児の追撃を防ごうとする。
投擲されたナイフを見て、霊児は追撃を止めて回避行動を取った。
霊児が回避行動を取ってる間に咲夜は懐に手を入れ、スペルカードを取り出し、

「光速『C.リコシェ』」

スペルカードを発動させて右手に持っているナイフを明後日の方向に投擲する。
ナイフを明後日の方向に投擲した咲夜に霊児が訝しげな視線を向けていると、明後日の方向に投擲されたナイフは反射したかの様に進路を変え、

「……ん?」

霊児の傍を通り抜けて行った。
通り抜けて行ったナイフを見て、反射したナイフを自分に当てるのでは無いのかと霊児が思った時、

「何……」

霊児の傍を通り抜けたナイフは再び反射したかの様に進路を変えて霊児の傍を通り抜ける。
最初に反射した時よりも飛躍的に速度を上げながら。
自分自身にナイフを当てる気が無いのかと言う疑問を霊児が抱いている間にナイフは反射を続けていく。
霊児を取り囲む様な軌道を描きながら。

「俺の取り囲むような軌道……そうか」

反射したナイフの軌道から、霊児は悟る。
咲夜が発動したスペルカードの特性を。
相手を取り囲むよう軌道で相手の動き制限しながら何時来るのかと言う疑心暗鬼を与え、ナイフを直撃させる。
おそらく、これが咲夜の発動したスペルカードの特性だ。
これが分かったのなら、後は何時ナイフが直撃するのかを見極めるだけ。
霊児は精神を集中させ、周囲の状況を探っていく。
それから少しすると霊児は何かを感じ取り、

「……と」

霊児は体を傾ける。
すると、霊児の体が在った場所をナイフが通り抜けた。
霊児の体が在った場所を通り抜けたナイフは今までの様に反射して跳ね返って来たりはせず、途中で力を失ったかの様に地面に向かって落ちて行く。
力を失ったナイフを見た霊児が傾けた体を戻したタイミングで、

「傷符『インスクライプレッドソウル』」

何時の間にか霊児の目の前に迫って来ていた咲夜がスペルカードを発動した。
その瞬間、ナイフによる超速の斬撃が幾つも霊児を襲う。
完全に不意を突いた、これ以上無いと言う程のタイミングで発動したスペルカード。
決して避け様のない攻撃の筈だったのだが、

「……流石だな」

放たれた斬撃は全て、霊児が左手に持っている短剣に防がれてしまった。

「そんな……」

必勝を籠めて放った攻撃を完全に防がれた事で咲夜が何処か唖然とした表情を浮かべていると、

「惜しかったな。今のスペルカード、正面からじゃなくて俺の背後で発動するべきだったと思うぜ。背後からだったら、多分当たってた」

霊児は今のスペルカードは自分の背後で発動するべきだったなと呟き、懐に手を入れてスペルカードを取り出し、

「神脚『夢想封印・脚』」

スペルカードを発動する。
スペルカードが発動したのと同時に霊児の右脚が七色の光りを発し、

「らあ!!」

霊児は七色に光る脚を咲夜へと叩き込む。
叩き込まれた蹴りは咲夜に直撃し、

「ッ!?」

咲夜を簡単に吹き飛ばして行く。
吹き飛ばされた咲夜は何処かの扉に激突し、扉を突き破って部屋の中へと突っ込んで行った。
部屋の中へと突っ込んで行った咲夜が出て来るのを霊児は少しの間待っていたが、

「…………出て来ないな」

当の咲夜は部屋の中から出て来ない。
咲夜が出て来ない事から、霊児は咲夜が気絶したものだと考え、

「俺の勝ちだ」

少し大きな声で自分の勝ちを宣言しながら左手に持っている短剣を左腰の鞘に収める。
少し大きな声を出しても、

「…………やっぱり出て来ないな」

部屋の中から咲夜が出て来なかった事で霊児は咲夜は気絶したのだと確信し、この弾幕ごっこの決着が着いた事を理解しながら一息吐いた。
























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