「しっかし、時間操作系の能力を持ってるとはな……」

咲夜が突っ込んで行った扉を視界に入れながら霊児がそんな事を呟くと、

「あの子の能力、やっぱり時間操作だったんだね」

何時の間にか霊児の近くにまでやって来ていた魅魔がやっぱり時間操作系の能力だったのかと口にする。
魅魔が口にした言葉に反応した霊児が魅魔の方に目を向けると、魅魔の近くには魔理沙、にとり、椛、文の四人の姿が見えた。
どうやら、霊児と咲夜の弾幕ごっこが終わったのを知って全員が霊児の近くにまでやって来た様だ。
自分の近くにまでやって来た面々を確認し終えた後、

「やっぱりって事は……咲夜の能力が時間操作系だって事が分かっていたのか?」

霊児は魅魔に咲夜の能力が時間操作系だと分かっていたのかと問う。
問われた事に、

「分かっていたと言うよりは、あんた等の弾幕ごっこを見て気付いたって感じだね。あの咲夜って子が投擲したナイフの中で何の前触れも無く現れたのが
在っただろ。あれを全く感知出来なかったからね。だから、時間操作系じゃないかと思ったのさ。他の可能性として、私を上回るの魔法使いって言うのも
在ったけど……咲夜から感じるのは霊力だけだったからこれは除外したよ」

分かっていたのでは無く、霊児と咲夜の弾幕ごっこを見ていて気付いたのだと返す。
やはりと言うべきか、魅魔も行き成り現れたナイフに関しては感知出来なかった様だ。

「時間操作何て反則ですよ。お陰で決定的な瞬間を何度か逃してしまいましたし……」

咲夜が時間を操ったお陰で決定的な瞬間を写真に収め損ねた事でがっかりしてる文を余所に、

「時間操作系の能力を持った者を配下にしている。となると、レミリア・スカーレットもかなりの能力を持っている事が予想出来ます。用心した方が
良いでしょう」

椛はレミリア・スカーレットもかなりの能力を持つ事が予想出来るので、注意する様に一同を呼び掛ける。
椛の呼び掛けを聞き、

「かなりの能力……か。単純に考えればレミリア・スカーレットの能力は時間操作系と同等かそれ以上のものって事になるけど……時間操作系と同等か
それ以上の能力って何だ?」
「え? うーん……何だろうね? 時間操作系と同等かそれ以上の能力って」

魔理沙とにとりの二人は時間操作系の能力と同等かそれ以上の能力とは何だと言う疑問を浮かべ合う。
そんな二人の疑問に対し、

「ま、レミリア・スカーレットが私等の想像を絶する様な能力を持っていっても霊児が何とかするだろ」

魅魔はレミリア・スカーレットがどんな能力を持っていたとしても霊児が何とかするだろうと言って霊児の方に顔を向ける。
顔を向けられた霊児は、

「そうだな。例えレミリア・スカーレットがどんな能力を持っていたとしても……勝つだけだ」

レミリア・スカーレットがどんな能力を持っていたとしても勝つだけだと言う宣言をし、先へと進み始めた。
霊児が先に進み始めたのを見た魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も先へと進み始める。
六人が先へと進み始めてから少しすれば当然の様に大量の妖精メイドが現れ、一斉に弾幕を放って来た。
予想出来た事ではあるが放たれた弾幕は今まで現れた妖精、妖精メイドの中で最も強い。
少しでも回避先を間違えれば容易く妖精メイドの放つ弾幕に呑まれてしまうだろう。
だが、霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の六人は少しも臆した様子を見せずに突っ込みながら必要最小限の動きで弾幕を回避して行く。
そして、妖精との距離がある程度詰まった所で霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛の五人は弾幕を放って妖精メイド達を撃ち落としていった。
無論、文は五人が弾幕を放っている光景などを写真に収めるだけであったが。
兎も角、放った弾幕で妖精メイドを全て撃ち落した後、

「やっぱり、ここ等の妖精は大分強くなってたな」
「だな。と言っても、私達の敵じゃなかったけどな」
「さて、妖精がこれだけ強くなってるって事はそろそろレミリア・スカーレットとご対面が出来そうだね」
「うーん……漸く噂の吸血鬼に会えると思うと一寸緊張して来たよ」
「楽観視し過ぎるのもあれだけど、緊張し過ぎるのも毒だよ。一回深呼吸をして、気分を落ち着かせたらどう?」
「さてさて、この異変が解決するまで後僅かとなりましたね。ちゃーんと、決着が着くまで色々と写真に収めさせて貰いますよ!!」

霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の軽い雑談を交わしながら進行スピードを上げる。
それから暫らくすると、

「あれは……扉か」

霊児の目に紅く、大きな扉が映った。
あの扉の先にレミリア・スカーレットが居ると考えた霊児は降下し、床に足を着ける。
降下した霊児に続く様に魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人も降下して床に足を着けた。
床に足を着けた全員が紅く、大きな扉に目を向けている中で、

「おそらく、この扉の先にレミリア・スカーレットが居るでしょうが……どうします? 馬鹿正直に扉を開けて中に入るのは危険かと思いますが」

椛は馬鹿正直に扉を開けて中に入るのは危険だと言う。
異変を起こした以上、起こした異変を解決する者が現れる事位はレミリア・スカーレットも考えている筈だ。
ならば、自分の居る場所へと続く扉に罠の一つや二つ仕掛けられていたとしても何の不思議は無い。
万全を期すのなら扉に何か仕掛けられているかどうかを調べるべきだが、

「どうやって中に入るか……だ何て決まってるだろ」

霊児は椛の意見を無視するかの様に中への入り方は決まっていると口しながら扉の前まで近付き、

「こうするだけだ」

紅い扉に思いっ切り蹴りを叩き込んだ。
霊児が蹴りを叩き込んだ事で扉は形を歪ませながら壊れ、奥の方へと勢い良く吹っ飛んで行った。
吹っ飛んで行った扉が見えなくなると霊児は蹴りを放った脚を下ろし、後ろに振り返って、

「ほら、さっさと行くぞ」

一同にさっさと行く様に促す。
促された一同はそれぞれ霊児に感心や呆れと言った視線を向けながら足を進め始めた。
一同が歩き始めたのを見た霊児は体を正面に向け、足を進め始める。
扉が在った場所を越えた先の部屋は、今まで通って来た通路などと比べて格段に暗い。
しかし、何もかもが見えないと言う訳でも無かった。
何故かと言うと、窓硝子から月明かりなどが部屋の中に入って来ているからだ。
窓硝子から月明かりなどが入って来た事で霊児が視線を窓硝子の方に移し、

「……もう夜になっていたのか」

もう夜になっていたのかと呟いた時、

「あらあら、随分と乱暴なお客様も居たものね」

部屋の奥の方からその様な言葉が聞こえて来た。
聞こえて来た言葉に反応した霊児達が顔を動かすと、大きな椅子に座った女の子の姿が霊児達の目に映る。
蝙蝠の様な翼を生やし、肩口付近までの長さの薄い青色の髪に変わった帽子を被った女の子が。
この女の子がレミリア・スカーレットかと思っている霊児達の目に、ある物が映った。
映った物と言うのは、真っ二つに斬り裂かれた紅い扉。
目の前の女の子の佇まいを見るに、椅子から立ち上がると言った事をせずに蹴り飛ばされた扉を真っ二つに斬り裂いた様である。
飛んで来た扉を立つ事無く真っ二つに斬り裂いた事から、霊児は目の前の女の子がかなりの実力を有している事を理解し、

「お前が……レミリア・スカーレットか?」

確認を取る様にお前がレミリア・スカーレットかと問う。
問われた事に、

「ええ、その通り。私がレミリア・スカーレットよ」

女の子は自分がレミリア・スカーレットである事を肯定した。
遂にレミリア・スカーレットと対面した事で魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の間で若干張り詰めた様な空気が流れ始める。
背後から漂うそんな空気を感じながら、

「幾つか聞きたい事が在る。答えろ」

霊児は少し相手を威圧する様な声色で聞きたい事が在るから答えと言う言葉を掛けた。
しかし、

「構わないわ。答えて上げるから言ってみなさい」

レミリアは霊児の威圧など無視する様に答えて上げるから言って見ろと返す。
霊児の威圧を物ともしていない様子ではあるが、レミリア程の実力なら今の威圧を受け流しても何の不思議も無いからか、

「先ず一つ。何で幻想郷中に紅い霧を覆わせた?」

霊児は気にした様子を見せずに幻想郷中に紅い霧を覆わせた理由を聞く。
霊児が聞いて来た事は予想していたからか、

「私は日光が苦手でね」

レミリアは少しも間を置かずに日光が苦手である事を伝える。
日光が苦手と言う言葉だけでは答えになっていない様な気もするが、

「成程。それで紅い霧を出して日光が来ない様にしているって訳か」

霊児はそれだけでレミリアが紅い霧を幻想郷中に覆わせた理由を理解した。

「正解。察しが良いわね」

幻想郷中に紅い霧を漂わせている理由を瞬時に理解した霊児にレミリアが何処か感心した表情を向けたが、

「二つ目。何で態々お前の配下の者達に弾幕ごっこで戦う様に命じたんだ?」

霊児は向けられた表情を無視し、二つの目の疑問をレミリアに投げ掛ける。
いや、二つ目の疑問を投げ掛けたと言うより霊児が一番答えを知りたい疑問を投げ掛けたと言った方が正しいであろうか。
霊児としては自分の配下の者達に通常戦闘では無く弾幕ごっこで戦う様に命じたのは大層な理由が在るものだと考えていたが、

「何でって……遊び何だから普通に戦うって言うのは味気無いじゃない」

別に大層な理由では無かった。
と言うより、レミリアに取っては幻想郷中に紅い霧を覆わせた事は遊びと変わりが無い事の様だ。
幻想郷に住む者の大半に迷惑を与える様な遊びをするとは傍迷惑だなと思いつつも、霊児は納得していた。
紅魔館に組する者が弾幕ごっこで勝負を仕掛けて来た事に。
弾幕ごっこは遊び。
つまり、レミリアは紅い霧を幻想郷中に覆わせると言う遊びに同じく遊びである弾幕ごっこをぶつけて来たのだ。
それはそれとして、大層な理由は無く只の遊びと言う事が分かって自分のやる気が削がれていくのを霊児は感じながら、

「……じゃあ、最後だ。この紅い霧を今直ぐに消す気は在るのか?」

今直ぐに消す気は在るのかと聞いた瞬間、

「無いわね」

レミリアは間髪入れずに消す気は無いと言う意思を示す。
自分が少し言った位で紅い霧を消す気が無い事は最初っから解っていたからか、

「だろうな」

霊児に落胆した様子を見られなかった。

「……さて、答える事には答えて上げたわ。それで、どうするの? 疑問が晴れた事で満足してお帰りになられるのかしら?」
「まさか。お前を倒して紅い霧を消してから帰るさ」

何処か挑発する様な笑みを浮かべながら挑発する様な事を口にしたレミリアに対し、霊児は不敵な笑みを浮かべながら一歩前に出てそう宣言する。

「あら、折角数が揃っているって言うのに貴方一人で来るの? 私は全員で掛かって来ても構わないわよ」
「後で一対一じゃないから勝てなかったって言う駄々を捏ねられても困るからな」

レミリアと霊児がお互いを挑発をする様な言い合った後、

「それはそうと……貴女達は良いの? 彼、一人で戦う気だけど?」

レミリアは魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人に霊児一人に任せて良いのかと尋ねる。
尋ねられた五人は、

「私は霊児の意思を尊重するぜ。それに、私は霊児が勝つって信じてるからな。だから、何の心配もしてはいないぜ」
「このメンバーのリーダーは霊児だからね。リーダーが一人で戦うって言ってるなら任せるさ。ま、私も霊児の強さは知っているから何の心配もしてはいないさ」
「吸血鬼何て存在にたった一人で挑む何て危険極まりないけど……霊児は凄く強いから大丈夫かな」
「効率で言うのなら、全員で掛かるのが良いのですが……霊児さんが御一人で戦うと言うのなら霊児さんに任せましょう。それに、私も霊児さんの強さを知って
いますかね。序に言えば戦闘方法が弾真ごっこあるならば心配は要りませんしね」
「うーむ……異変解決が終わった後に発行する"文々。新聞"のタイトルはどうしましょう? 『今代の博麗率いる面々が見事異変解決!!』にしましょうか?
それとも……『幻想郷中を覆っていた紅い霧払拭!! その影には博麗在り!?』にしましょうか? いやいや、考えれば他にも色々と良さそうなタイトルが
出て来そうですし……ううーん、悩みますねぇ」

口々に霊児が一人で戦っても勝つのは霊児だと言う発言を発していった。
魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の五人から霊児に対する揺ぎ無い信頼を感じ取ったレミリアは、

「あらあら、随分と信頼されている様だけど……残念ね。その信頼に応えられない何て」

その信頼には応えられないと言う発言をし、

「何故ならば、貴方はここで私に惨めに倒されてしまうのだから」

再び挑発を行う。
行われた挑発に、

「そう言うお前は可哀想だな。近い内に吸血鬼がたった一人の人間に敗れたって話が広まるぜ。少なくとも、妖怪の山にはな」

霊児も再び挑発を返す。
返された挑発が耳に入ったレミリアは、

「ふふ……さっきから思っていたけど、本当に威勢が良いわね。貴方」

口元を釣上げながら腰を上げ、翼を羽ばたかせ空中へと躍り出た。
空中に躍り出たレミリアの後を追う様に霊児も空中へと躍り出る。
空中に出た二人はある程度の高度に達すると上昇をするのを止め、間合いを取る様に後ろに下がった。
後ろに下がった霊児が改めてレミリアを視界に入れた時、

「月が……紅い?」

霊児はレミリアの背後に在る硝子の先に見えている月が紅い事に気付く。
幻想郷中を覆っている紅い霧が月を紅く見せているのだろうと言う推察を霊児が考えた瞬間、

「こんなにも月が紅いから……」

レミリアは誰かに語り聞かせる様にそんな事を呟き始めた。
レミリアが急に呟いた意味と、その内容。
霊児には何一つ解らなかったが、些か興が乗ったからか、

「こんなにも月が紅いのに……」

霊児もそれに合わせる似た様な事を呟く。
そして、

「楽しい夜になりそうね」
「短い夜になりそうだな」

レミリアと霊児はそう言い合い、レミリアからの先制攻撃で弾幕ごっこが始まった。
レミリアからの攻撃は大、中、小の三つの弾幕を纏めて放つと言うもの。
大きい弾幕は兎も角、中、小の弾幕は無作為に動くので考えて動かなければ中、小の弾幕に当たった後に大きい弾幕を叩き込まれると言う結果になるであろう。
レミリアが放った弾幕への回避行動を頭に入れながら霊児は回避行動を取りつつ、レミリアの弾幕の隙間を縫う様にして弾幕を放つ。
自身の弾幕を避けた上で反撃を仕掛けて来た霊児に、

「へぇー……これを避けた上で反撃を仕掛けて来るとはね。思っていた以上にやるじゃない」

レミリアは感心した表情を向けながら回避行動を取り始め、放つ弾幕のスピードを上げて弾幕の量を増やしていく。
これで霊児の回避行動なり放つ弾幕の精度を鈍らせられれば御の字と言った感じであったが、

「……動きを鈍らせる事も動揺する事もないか」

霊児はレミリアの予想に反する様に動きを鈍らせる事も動揺する事も無かった。
弾幕の量を増やし、弾速を上げても何の意味も成さない事を悟ったから、

「ふむ……」

レミリアは弾幕を放つのを止め、懐に手を入れながら後ろに下がって行く。
それを見た霊児はレミリアが何をするのかを察し、弾幕を放つのを止めて様子を見始める。

「あら、意外に慎重ね」

レミリアは様子を見始めた霊児を意外に思いつつも懐からスペルカードを取り出し、

「天罰『スターオブダビデ』」

スペルカードを発動させた。
すると、レミリアを取り囲む様に紅い光球が幾つか現れ、

「自分の周囲だけでは無く、少し離れた場所にも紅い光球が表れたか……」

更にレミリアから少し離れた場所にも幾つもの紅い光球が現れ始めたではないか。
紅い光球の配置から単純に防御を固めて来たのかと霊児は考えたが、直ぐにその考えは違うと言う事を思い知らされる事となった。
何故ならば、

「……ッ」

紅い光球がビームを放って来たからだ。
放たれたビームの幾つかは紅い光球と紅い光球を繋ぐだけであったが、何本かのビームは霊児の方に向かって行った。
迫り来るビームを避ける為に霊児が回避行動を取ったタイミングで、

「何……」

紅い光球から弾幕が放たれる。
まだビームを放っている状態であると言うのにだ。
因みに、放たれている弾幕は弾幕が円の形を型作っているものとその円が弾けた様にばら撒かれるタイプの二種類である。
ビームと弾幕による攻撃を同時に行える事に霊児は驚きつつも、

「…………………………………………」

ビーム、弾幕の両方を的確に避けていきながらレミリアが発動したスペルカードに付いて分かった事を纏めていく。
あの紅い光球は攻撃だけでは無くレミリアを守る様に配置されている為、攻防一体で在ると言う事。
ビームは攻撃だけでは無く紅い光球同士を結ぶ様にも放たれている為、移動の制限もされていると言う事。
単純に弾幕の量が多い為、一発でも当たれば立て続けに弾幕が当たってしまうだろうと言う事。
纏めるとしたら、この三つだろうか。

「攻撃に防御、更には移動制限を持たせたスペルカード……か。俺の封魔陣に似てるな」

攻撃に防御、移動制限と言う三つを有していると言う点から自分の持つ技の一つである封魔陣に似ていると言う感想を抱きつつ、

「なら……付け入る隙も有る」

付け入る隙も有ると漏らすと、紅い光球が全て消えてしまった。
まだスペルカードの発動時間が過ぎてはいない筈なのにと言う疑問を霊児が抱いた時、再び紅い光球が現れ始める。
どうやら、紅い光球は出現と消滅を繰り返すと言うサイクイルを取っている様だ。
但し、再び現れた紅い光球の配置は最初の時とは違っている様である。

「……紅い光球の配置を一定の頻度で変えて俺に回避パターンを掴ませない気か」

霊児は紅い光球の出現と消滅のサイクルを繰り返させる事の利点を見抜きつつ、回避行動の仕方を変えながら左腕を懐に入れた。
そして、紅い光球が再び消えた瞬間、

「弾丸『光霊弾』」

霊児は懐からスペルカードを取り出しながら右手を拳銃の形に変え、スペルカードを発動させた。
スペルカードを発動させたのと同時に霊児は右手をレミリアの方に向けながら右手の人差し指の先に霊力を集中させていく。
霊力を集中させてから少しすると三度紅い光球が現れたので、霊児は指先から霊力で出来た弾を放つ。
放たれた弾は三度現れた紅い光球を破壊しながらレミリアへと勢い良く向かって行く。

「ッ!!」

紅い光球を破壊しながら突き進んでくる弾を見て、レミリアは少し驚いた表情を浮かべながら弾の射線から自分の体をずらして弾を避ける。
が、完全に避け切れた訳では無い様で、

「あら……」

弾が通った衝撃でレミリアの帽子が頭から離れて行ってしまった。
自分の頭から離れて行った帽子に一瞬だけ目を向けた後、レミリアは霊児に視線を戻し、

「へぇ……やるじゃない。あの光球、そう簡単には壊れない物だったんだけどね」

紅い光球を容易く破壊した攻撃を行った霊児を評価する発言を口にする。
その後、

「となると、このスペルカードの発動を続けても意味は無いか」

このスペルカードの発動を続けても意味が無いと呟いてスペルカードの発動を止めた。
レミリアがスペルカードの発動を止めた事で残っていた紅い光球が全て消える。

「………………………………………………」

レミリアの台詞と紅い光球が全て消えた事でレミリアがスペルカードの発動を止めた事を霊児は察し、自分のスペルカードの発動も止めて右腕を下ろす。
何故自分のスペルカードの発動を止めたのかと言うと、これまたレミリアの発言で次の一手は自分の光霊弾に対抗し得るものだと感じ取ったからだ。
それはそうと、霊児が右腕を下ろした事で先の一撃を放って来ないと考えたレミリアは、

「さて、仕切り直しといきましょうか」

気分を入れ替えるかの様に大き目の弾を一発だけ放つ。
これだけならば避ける事に何の問題も無かったが、

「軌跡から小型の弾幕がばら撒かれるタイプか」

大きな弾の軌跡から小型の弾幕がばら撒かれるタイプであった為、霊児は少々面倒臭そうな表情を浮かべる。
面倒臭そうな表情を浮かべた理由は、単体よりも複数を避ける方が面倒であるからだ。
霊児が大きい弾を避け、続けて小型の弾幕を避けている間に、

「ほら、次々といくわよ」

レミリアは次々と大きな弾を霊児に向けて放つ。
無論、新たに放たれた大きな弾の軌跡からも小型の弾幕がばら撒かれている。
次々と迫り来る弾と弾幕を避けながら、霊児はある事に気付く。
大きい弾に気を取られ過ぎれば小さい弾幕に、小さい弾幕に気を取られ過ぎれば大きい弾に当たってしまうと言う事に。

「弾と弾幕の両方が囮であり本命……か。思って以上に厄介だな……」

大きい弾と小型の弾幕の両方が囮であり本命である事に霊児はやり難さを感じながらもレミリアに向けて弾幕を放つ。
但し、霊児の弾幕はレミリアの弾と弾幕に当たらない様に放っているので量自体は少ないが。
しかし、量が少ないと言っても、

「……この量の弾幕でもぶつける事無く、私に向けて来るか」

霊児が放った弾幕はレミリアの弾と弾幕を隙間を縫う様にしてレミリアへと向かって行った。
当然、レミリアは霊児の弾幕を避ける為に回避行動を取る。
霊児は弾幕を、レミリアは弾と弾幕を互いに放ち合ってはいるがどれも決定打にはなっていない。
だからか、

「埒が開かないわね……」

互いに弾幕を放ち合っていても埒が開かないとレミリアは判断し、弾と弾幕を放つのを止めながら高度を上げて行く。

「逃げた……いや、距離を取ったのか」

レミリアが弾と弾幕を放つのを止めて高度を上げた理由を霊児は距離を取る為だと考え、霊児も弾幕を放つのを止めて高度を上げ様としたが、

「冥符『紅色の冥界』」

霊児が高度を上げる前にレミリアはスペルカードを発動した。
スペルカードが発動された事で霊児は高度を上げるのを止めてレミリアの方に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目には、血の様に紅い弾幕がレミリアを護る様にして次から次へと現れている光景が映った。
現れた始めた弾幕がレミリアの姿を完全に隠して仕舞いそうになった時、現れた一部の弾幕が零れ落ちる様にして霊児へと向かって行く。

「……今度は防御重視のスペルカードか」

レミリアを覆う様に次から次へと現れている弾幕を見ながら霊児はそう呟き、零れ落ちて来ている弾幕を避ける為に距離を取る。
距離さえ取れれば零れ落ちて来ている弾幕を避ける事など容易になると思われたが、

「そう上手くはいかないよな」

零れ落ちている弾幕の降下ポイントが霊児を追う様にして変わってしまい、避ける事は容易では無くなってしまった。
零れ落ちている弾幕が自分を追って来るのならば距離を取っても意味は無いので、霊児は回避方法を距離を取る方法から細かい動きで避けていく方法に変える。
傍から見れば霊児は血の様に紅い弾幕のシャワーを浴びている様に見えるが、霊児の体に弾幕は一発も当たってはいない。
零れ落ちている弾幕を全て回避しているからだ。
順調に零れ落ちている弾幕を避けている事から回避に付いては問題は無いだろう。
問題は攻撃だ。
レミリアを護る様に次から次へと現れている血の様に紅い弾幕はかなり密集しているので接近戦を仕掛けるのは難しい。
かと言って、弾幕を放ってもレミリアを護っている弾幕と相殺し合うだけだ。
更に言えば霊児がレミリアの弾幕を相殺したとしても、レミリアの弾幕は次から次へと現れる。
はっきり言ってしまえば、只弾幕を放つだけはイタチごっこになるだけ。
では、どうするべきか。
答えは簡単。
血の様に紅い弾幕が密集していて通常の弾幕ではレミリアに届かないと言うのであれば、届く様な攻撃をすれば良いだけ。
霊児はそう思いながら懐に手を入れ、懐からスペルカードと一枚のお札を取り出し、

「夢符『封魔陣』」

スペルカードを発動させ、お札を投擲する。
投擲されたお札は少し進むと、文字通り大量に数を増やしたではないか。
封魔陣は移動制限、攻撃、防御の三つを兼ね備えた技。
だが、今回はその三つが狙いで霊児はこのスペルカードを使ったのでは無い。
霊児の狙いは血の様に紅い弾幕をお札で突破する事に有るのだ。
幾ら血の様に紅い弾幕が密集していても、紙で出来たお札が通る位の隙間は存在している。
無論、全てのお札が血の様に紅い弾幕に激突しなかったと言う訳では無いが、

「……よし、通った」

それなりの数のお札が血の様に紅い弾幕を突破し、レミリアの体へと向かって行く。
お札が血の様に紅い弾幕の中に入って少しすると爆発音が聞こえ始めたが、ダメージを受けたレミリアの声は聞こえて来なかった。
と言う事は、

「レミリアに俺のお札は当たっていないって事か」

レミリアに霊児のお札に当たってはいないと言う事になる。
あの状況下で回避行動を取れるレミリアに感心しつつも、霊児はスペルカードの発動を続けていく。
その過程でお札と血の様に紅い弾幕が激突して爆発と爆煙を発生させるが、霊児とレミリアに互いの攻撃が当たった様子は見られなかった。
そんな風に二人がお札と弾幕を撃ち合う様な形になってから少しすると、お札と弾幕が唐突に消えた。
どうやら、霊児とレミリアのスペルカードの制限時間が過ぎた様だ。
スペルカードの制限時間が過ぎ、お札と弾幕が消えて発生していた爆煙が消えると、

「ふむ……思っていた以上にやるわね。幾ら弾幕ごっことは言え、私と対等に撃ち合える何てね」

レミリアは感心した表情を浮かべながら間合いを取る様に後ろに下がった。
後ろに下がったレミリアは体勢を整え、

「さて、遠距離戦じゃ埒が開かないとなると……」

右手から真紅の槍を生み出し、

「こっちで攻めてみ様かしら」

霊児に向けて一気に肉迫して真紅の槍を振るう。
振るわれた真紅の槍が霊児の体に当たる直前、霊児は左手で左腰に装備している短剣を引き抜いて真紅の槍を受け止めた。

「結構力を籠めたのに真正面から受け止める……か。やるじゃない」

苦も無く自身が振るった槍を受け止めた霊児をレミリアは評価しつつ、真紅の槍に籠めている力を上げていく。
レミリアとしてはこれで一気に押し切る積りであったが、押し切る事は出来なかった。
何故ならば、レミリアが力を籠めるのに呼応したかの様に霊児も力を籠めたからだ。
霊児が力を籠めた事で二人は鍔迫り合いをする様な形になったが、ある程度鍔迫り合いの形を維持するとレミリアは唐突に真紅の槍を引き、

「そら!!」

連続して突きを放つ。
傍から見れば一瞬で何十もの突きが同時に霊児を襲っている様に見えるだろう。
並大抵の者ならば何が起こったのかを解らない儘、全身を穴だらけにされてしまうだろうが、

「……っと」

霊児は突きの全てを短剣の腹で受け止めていた。
自身の突きを全て的確に防いでいく霊児を見て、

「貴方……本当に人間? 本気では無いとは言え私の攻撃を受け止めだけに留まらず、このスピードに付いて来る何て……」

レミリアは思わず本当に人間かと尋ねる。
流石に、本気では無いと言っても吸血鬼である自分の力とスピードにここまで付いて来られるとは思わなかった様だ。
序に言えば、霊児がまだまだ余裕が有りそうな表情を浮かべているのも尋ねた原因の一つであろう。
尋ねられた霊児は、

「失敬な。俺は純度100%の人間だ!!」

不満気な表情になりながら短剣で真紅の槍を上から押さえ込み、レミリアの腹部に蹴りを叩き込む。

「ぐっ!!」

蹴りを叩き込まれたレミリアは勢い良く吹っ飛んで行ったが、

「舐めるな!!」

壁に叩き付けられる前に全身を伸ばしながら翼を大きく広げ、急ブレーキを掛ける。
急ブレーキを掛け、吹き飛びが止まるとレミリアは体勢を立て直して霊児が居る位置に視線を移す。
が、

「なっ!! 居ない!?」

視線を移した先に霊児の姿は無かった。
姿を消した霊児を探す為に周囲の様子を伺おうとした直前、

「ッ!!」

レミリアは背後に何かを感じ、慌てて背後へと振り返る。
振り返ったレミリアの目には、脚を振り被っている霊児の姿が映った。
自分が吹き飛んでいる間に自分の背後にまで移動した霊児にレミリアは少し驚くも、真紅の槍を霊児の蹴りが来るであろう場所に置き、

「ぐっ!!」

真紅の槍で霊児の蹴りを受け止めたが、レミリアは再び吹き飛ばされてしまう。
だが、今回は真紅の槍で防御出来たのでレミリアのダメージは最小限に抑えられたらしく、

「……ッ」

先程よりも早くに吹き飛びが止まり、霊児を視界に入れた儘の状態でレミリアは体勢を立て直す事が出来た。
視界に入れている霊児は短剣を振り被りながら真正面から突っ込んで来ているので、レミリアは真正面から迎え撃つと言う意気込みで真紅の槍を構える。
そして、霊児がレミリアの間合いに入ったタイミングで、

「しっ!!」
「はあ!!」

霊児は短剣を振り下ろし、レミリアは真紅の槍を振り上げた。
振り下ろされた短剣と振り上げられた真紅の槍は当然の様に激突し、激突音と衝撃波が発生する。
霊児とレミリアは発生した激突音と衝撃波を無視するかの様に自分の得物と相手の得物を激突させている今の状態を少しの間維持した後、

「「ッ!!」」

まるで示し合わせたかの様に二人は同時に後ろへと跳んで距離を取り、またまた示し合わせたかの様に二人は猛スピードで同時に突っ込んで行った。
猛スピードで突っ込んだ二人は再び互いの得物を激突させたが、今度は鍔迫り合いの様な形にはならずに離れる様に交差し、

「「ッ!!」」

少し離れた所で止まって振り返り、再び突っ込んで一瞬だけ激突した後に交差して離れて行く。
これを、霊児とレミリアは何度も繰り返す。
何度も何度も。
何度目かになるかは分からない交差の後、二人は距離を取って振り返りはしたが突っ込むと言った事をせずに互いの様子を見始めた。
息が乱れ始めて来ているレミリアに対し、少しも息を乱してはいない霊児。
自分と霊児の現状を見て、レミリアは理解する。
目の前の相手は接近戦が極めて得意としている事に。
はっきり言ってしまえば、遠距離戦から接近戦に変えたレミリアの行動は状況を悪化させるだけとなったのだ。
悪化した状況を戻すには、再び戦い方を遠距離戦に戻せば良い。
しかし、不利になったからと言って戦い方を遠距離戦に戻すと言うのはレミリアのプライドが許さなかった。
故に、意地でも接近戦で勝つと言う想いを胸に秘めながらレミリアは懐に手を入れてスペルカードを取り出し、

「運命『ミゼラブルフェイト』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、レミリアの近くに先端が矛になっている紅い鎖が幾つか現れた。
現れた鎖はかなりのスピードで霊児の方に向けて伸びて行ったが、

「おっと」

霊児は伸びて来た鎖を余裕の表情で全て避けていく。
霊児に当たらなかった鎖はその儘伸びて行き、

「ッ!!」

霊児から少し距離を取った辺りで鎖は反転し、再び進路を霊児に向けた。
背後から迫って来ている鎖を感じながら霊児は追尾型と判断し、全て紙一重で避けると言う回避行動を取る。
全て紙一重で回避している事で霊児の周囲は紅い鎖で覆われていくが、霊児は欠片も動揺した様子を見せずに回避行動を続けていった。
回避行動を取り始めてから幾らか時間が過ぎると、何の前触れも無く紅い鎖が消える。
紅い鎖が消えた事でスペルカードの発動が終わったのだと考えた霊児が動きを止めた時、

「……捉えた」

上半身を大きく反らしたレミリアが霊児の目の前に現れた。
現れたレミリアは右手に真紅の槍を、左手にスペルカードを持っており、

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

有無を言わせずにスペルカードを発動させ、真紅の槍が投擲する。
至近距離で放った一撃。
これは決まった。
レミリアはそう思ったが、

「危ね……もう少しで直撃してたぞ」

霊児からは難を逃れたと言う言葉が聞こえて来たではないか。
霊児の言葉に反応したレミリアは思わず顔を上げると、何のダメージも負っていない霊児の姿が映った。
だからか、

「馬鹿な……」

レミリアは思わず唖然とした表情を浮かべてしまう。
スペルカードでの一撃だ。
直撃してもまだまだ戦闘続行可能と言うのであれば、レミリアとしても理解は出来る。
では、何が理解出来ていないのかと言うと霊児が投擲された真紅の槍を避けた事だ。
スペルカードで発動した技は、威力以外は本来の技と殆ど同じ。
つまり、技の射出速度なども同じなのだ。
そして、今の技はレミリアの持つ技の中でも最速の部類に入る。
そんな技を至近距離で放ったと言うのに避けられた事がレミリアには理解出来なかったのだ。
それはさて置き、レミリアが唖然としている間に霊児は短剣を鞘に収めて懐に手を入れる。

「ッ!!」

霊児が懐に手を入れた辺りでレミリアは意識を戻したが、レミリアが行動を起こす前に霊児は懐からスペルカードを取り出してレミリアの両肩を掴み、

「神霊『夢想封印・零』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動するのと同時に霊児の体から七色に光る弾が次々と放たれ、

「ッ!?」

放たれた七色に光る弾は次々とレミリアに着弾し、爆発と爆煙が発生していく。
七色に光る弾が放たれてから少しすると爆発音が止み、レミリアが爆煙を突き抜ける様にして飛び出して来た。
いや、飛び出したと言うより墜落したと言った方が正しいだろう。
放って置けばレミリアは床に叩き付けられそうだが、霊児は爆煙の中を飛び出してレミリアの後を追い掛ける。
どうやら、霊児はレミリアに追撃を掛ける気の様だ。
霊児の進行ペースならレミリアが床に叩き付けられる少し前に攻撃を加えられそうであったが、

「……く!!」

レミリアはその前に体勢を立て直しながら翼を広げて急ブレーキを掛け、空中に留まった。
空中に留まったレミリアに霊児は少し驚いた表情を向けながらブレーキを掛けて止まる。
因みに、今現在の二人の立ち位置は霊児が上でレミリアが下。
解り易く言えば、見下ろす霊児と見上げるレミリアと言う形になっている。
自分が見上げる立場と言うのが気に入らないからか、

「やってくれたわね……」

レミリアは忌々しいと言った表情を浮かべてた。
忌々しいと言う表情を浮かべているレミリアの風貌は、多少ボロボロになっている程度。
まだまだ戦闘を続ける事は可能の様だ。
今のでレミリアが気を失ったりしなかったからか、霊児は少し警戒した様子を見せ始める。
霊児が警戒している間にレミリアは懐に手を入れてスペルカードを取り出そうとしたが、

「…………あ」

レミリアはスペルカードでは無く間の抜けた声を出し、動きを止めてしまった。
懐に手を入れたのにスペルカードを出さずに間の抜けた声を出して動きを止めたのを見て、

「……若しかして、スペルカードを使い切ったのか?」

霊児はレミリアにスペルカードを使い切ったのかと尋ねる。
尋ねられたレミリアは、無言で体をプルプルと震わせ始めた。
その様子を見て、

「……図星か」

霊児は図星かと呟く。
弾幕ごっこのルール上、スペルカードを全て使い切ったらどれだけ余力が残っていたとしても負けである。
なので、スペルカードを使い切って負けと言う事態にならない為にもそれなりの数のスペルカードを用意して置くのが定石だ。
だと言うのにレミリアがスペルカード切れを起こしたと言う事は、自分の力を過信してスペルカードを大して用意して来なかったと言う事が考えられる。
レミリアの様子から霊児がそう推察していると、

「……まだよ」

レミリアは懐から手を出して、体中から魔力を溢れ出させた。
レミリアの雰囲気から察するに、レミリアは弾幕ごっこから通常戦闘に移行したい様だ。
まぁ、まだまだ余力が十分に残っていると言うのにスペルカードが切れての敗北。
納得がいかないと言う気持ちも解らなくは無い。
魔力を溢れ出させ、第二ラウンドを始める気になっているレミリアを余所に、

「ふむ……」

霊児は考える。
通常戦闘に移行するかどうかを。
霊児としても弾幕ごっこから通常戦闘に移行しても別に構わなかった。
レミリアと普通に戦っても、勝つ自身が有るからだ。
だったら何も迷う必要は無いだろうが、通常戦闘に移行しなければある利点が生まれる。
生まれる利点と言うのは弾幕ごっこの宣伝効果。
霊児達はレミリアとの戦いを含めてここまでの戦いの全てを弾幕ごっこで行なって来た。
つまり、通常戦闘に移行しなければ今回の異変は弾幕ごっこで解決したと言う事になる。
異変の解決を弾幕ごっこで成し遂げたとなれば、かなりの宣伝効果が期待出来るだろう。
だが、最後の最後で通常戦闘で勝って異変解決となったら弾幕ごっこの宣伝に成りはしない。
ならば、通常戦闘に移行させる訳にはいかないと言う結論に達した霊児は、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

霊力を解放する。
霊児が霊力を解放した瞬間、霊児の体中から勢い良く青白い光が溢れ出て、

「なっ!?」

レミリアは吹き飛ばされそうになってしまう。

「ぐ……余波でこんな……」

霊力を解放した余波だけで吹き飛ばされそうになった事にレミリアは驚くも、吹き飛ばされない様に全身に力を籠めて顔を両腕で覆った。
霊児が霊力を解放してから幾らか時間が経つと、余波が弱くなり始める。
余波が弱くなったのを感じたレミリアは両腕を下ろし、周囲の様子を伺う。
周囲の様子を伺ったレミリアは、

「……へ?」

思わず唖然とした表情を浮かべてしまった。
何故かと言うと、室内で戦っていたと言うのに何時の間にか外に出ていたからだ。
何時の間にか外に出た事で唖然としているレミリアを余所に、

「霊力を解放するならするって言ってくれよ!! 危ないじゃないか!!」

魅魔は霊児に向けて文句を言葉をぶつけていた。
文句の言葉が耳に入った霊児が魅魔の方に視線を向けると、魔理沙、にとり、椛、文の四人よりも前に出て障壁を展開している魅魔の姿が映る。
展開されている障壁を見て、他の面々を護る為に障壁を張ったのかと推察している霊児に、

「全くですよ!! 後少し魅魔さんの後ろにまで下がるのが遅かったら、下手をしたら私までこの部屋と同じ様に吹っ飛んでいたかも知れないじゃないですか!!」

文も文句の言葉を叩き付けた。
吹き飛ばされそうになったのは自分とレミリアの弾幕ごっこの写真を撮る為に自分達の近くを飛び回っていたせいだろうと考えつつ、

「別に良いだろ。平気だったんだから」

少しも悪びれてはいないと言う言葉を霊児は返す。
魅魔、文、霊児の三人の会話を聞いたレミリアは、

「まさか……霊力を解放しただけでこの部屋を吹き飛ばした……?」

霊児は霊力を解放しただけでこの部屋を吹き飛ばしたと言う考えに達した。
同時に、霊児はレミリアの方に視線を戻し、

「どうする? 俺は第二ラウンドを始めても良いぞ」

挑発的な笑みを浮かべ、霊力を解放した儘の状態で第二ラウンドを始めても良いと言う。
余裕綽々と言った態度の霊児に腹を立てつつも、レミリアは現状を冷静に分析をしていく。
戦ったとしてもレミリアに負ける気は無いが、問題は戦いの最中。
弾幕ごっこから通常戦闘に移行すれば、戦いは確実に激しくなるだろう。
それも桁違いに。
そんな激しい戦いを霊力を解放しただけで部屋を吹き飛ばした霊児と行えば、紅魔館が滅茶苦茶になる事は必至。
おまけに、霊力を解放している霊児の表情からは余裕と言ったものが見られる。
霊児がまだまだ霊力を解放する事が出来るとしたら、紅魔館その物が吹き飛ばされるかもしれない。
自分の館が吹き飛ばされると言う事態は流石に避けたいからか、

「……はぁ、私の負けよ」

レミリアは溜息を吐きながら自分の負けを認め、溢れ出させてた魔力を止めた。
レミリアの敗北宣言を聞き、霊児は霊力の解放を止める。
こうして、霊児とレミリアの弾幕ごっこは霊児の勝利で幕を閉じた。























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