霊児とフランドールとの戦いが終わってから暫らく経った頃、

「う……うーん……」

気絶していたフランドールが目を覚まし、周囲を見渡し始める。
フランドールが目を覚ました事に気付いた霊児はフランドールの方に顔を向け、

「やっと起きたか」

やっと起きたかと言う言葉を掛けた。
霊児の言葉に反応したフランドールは声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「あ……」

瓦礫の山の上に腰を落ち着かせている霊児の姿が在った。
そんな霊児の様子を見て、フランドールは思い出す。
霊児と戦い、負けた事を。
だからか、

「…………………………………………………………」

フランドールは唐突に顔を俯かせる。
急にフランドールが顔を俯かせた事で、霊児は癇癪でも起こすのでは思って用心していると、

「久しぶりに体を思いっ切り動かせて楽しかったよ!!」

これまた唐突にフランドールは顔を上げ、満面の笑顔でそう答えた。
フランドールから返って来た反応が少々予想外であった為、

「そ、そうか」

霊児は少し驚いた表情を浮かべてしまう。
霊児が浮かべている表情はフランドールにも見えている筈だが、フランドールは見えている霊児の表情を無視するかの様に、

「それにしても、霊児ってお姉様が言ってた通り強いね!! 負ける何て思わなかった!!」

少々興奮気味に霊児の強さを称賛し始める。
それだけ、霊児の強さはフランドールの予想を大きく上回るものであった様だ。
フランドールからの称賛の言葉に、

「ま、弱かったら博麗何てやってられないからな」

霊児は弱かったら博麗何てやってられないと返し、顔を上の方へと向ける。
顔を上の方に向けた霊児の目には天井では無く、雲が掛かった空が映った。
どうやら、霊児とフランドールの戦いは地下からでも空が見える程に紅魔館を破壊し尽くしてしまった様だ。
地下でさえこの状況なのだから、館その物はもっと悲惨な状況になっている事だろう。
しかし、

「んー……結構暗くなってるな。もう少しで夜になるのか?」

霊児は紅魔館がどう言った状況になっているかは欠片も気にしてはいなかった。
まぁ、霊児らしいと霊児らしいが。
紅魔館の様子を気にも止めず、空を見上げて今の時間を考えている霊児に、

「ねぇねぇ」

フランドールが霊児の羽織りを引っ張って来た。
羽織を引っ張られた事でフランドールが近くに来ている事に気付いた霊児は、

「何だ?」

フランドールの方に顔を向け、何だ問う。
問われたフランドールは、

「また私と遊んでくれる?」

上目遣いでまた自分と遊んでくれるかと言うお願いを口にする。
フランドールの表情を見るに、霊児とならまた楽しく遊べると考えている様だ。
期待に胸を膨らませているフランドールとは対照的に、霊児は少し思案気な表情を浮かべながら頭を回転させていた。
霊児としては別にフランドールと百回戦っても百回勝つ自信が在る。
ならば、別にフランドールと戦っても良いと思われるだろう。
だが、フランドールと戦えばある問題が出て来てしまう。
問題と言うのは、戦いの余波。
今回は紅魔館で戦ったから良かったものの、これが博麗神社だったらどうだ。
確実に戦闘の余波で博麗神社は倒壊するだろう。
もっと言えば、フランドールと戦えば確実に戦った場所に被害が出る。
幻想郷に不必要な被害を出すのは博麗霊児個人としても、七十七代目博麗としても望むところでは無い。
かと言って、フランドールのお願いを断って癇癪を起こされたら面倒だ。
頭を回転させた結果、そこまで考えが行き着いた霊児は、

「……弾幕ごっこでなら、また遊んでやるぜ」

弾幕ごっこでなら、また遊んでやると言う答えを返す。
その様な答えを返されたフランドールは、

「弾幕ごっこ?」

疑問気な表情を浮かべながら首を傾げ、

「戦っている時も弾幕ごっこの事を言ってたよね? 弾幕ごっこって面白いの?」

弾幕ごっことは何だと言う事を詰め寄る様にして聞いて来た。
フランドールの様子から弾幕ごっこに興味を抱き始めている事を霊児は察し、

「ああ、面白いぞ。それに、弾幕ごっこなら俺以の奴等とも楽しく遊べるぞ」

更に弾幕ごっこの興味を引こうとする。
弾幕ごっこなら霊児だけでは無く、他の者達とも遊べる事を知ったからか、

「本当!?」

フランドールは嬉しそうな表情を浮かべた。
フランドールの表情から完全に喰い付いた事を確信した霊児は、

「ああ、本当だ。取り敢えず、弾幕ごっこに付いて教えてやるよ」

弾幕ごっこに付いて説明を始める事にする。





















ルールも含め、弾幕ごっこの事を霊児が一通り説明し終えると、

「……うん、何となくだけどルールは解ったよ」

フランドールから何となくではあるがルールは解ったと言う返事が返って来た。
先程の様子と弾幕ごっこの説明を大人しく聞いていた事から、霊児はフランドールが弾幕ごっこをやり始めるだろうと言う確信を得る。
ついこの前にレミリアが起こした異変を弾幕ごっこで解決したので、弾幕ごっこの普及率はかなり上がって来ている。
ここで異変の主犯格であるレミリアの妹も弾幕ごっこを始めたとなれば、弾幕ごっこの普及率は更に上がる事だろう。
ならば、諸手を上げて喜ぶべきところなのだが、

「………………………………………………………………」

霊児はある一抹の不安を覚えていた。
覚えた不安と言うのは、フランドールは力加減が出来るのかと言う事だ。
弾幕ごっこは遊びである。
その遊びで死者や重傷者を出す様な事態に成ったら目も当てられない。
なので、

「なぁ、フランドール。俺に向けて軽めの弾を一発だけ放ってくれ」

霊児は抱いている不安を解消する為に、フランドールに自分に向けて軽めの弾を一発だけ放つ様に言う。
弾を放つ様に言われたフランドールは、

「弾を? うん、良いよ」

異を唱える事無く少し後ろに下がって霊児の方に掌を向け、掌から魔力で出来た弾を一発だけ放つ。
放たれた弾は勢い良く霊児の方に向かって行き、放たれた弾が霊児の体に当たる直前、

「……っと」

霊児は片手を上げてフランドールが放った弾を受け止め、握り潰す。
握り潰した弾の感触を感じ、霊児はある事を理解した。
何を理解したのかと言うと、フランドールが放った威力の弾では弾幕ごっこは出来ないと言う事だ。
何故かと言うと、フランドールが軽く放った弾の威力が強過ぎたからだ。
幻想郷で実力者と言える様な者達ならばフランドールが軽く放った弾が直撃したとしても平気だろうが、並大抵の者なら別。
確実に多大なダメージを負ってしまうだろう。
これではとてもじゃないが、フランドールに弾幕ごっこをやらせる訳にはいかない。
しかし、今更フランドールに弾幕ごっこをするなとは言えないだろう。
そんな事を言ってフランドールの機嫌を損ね、霊児の短剣を容易く破壊した技を乱発でもされたら厄介だ。
となれば、どうにかしてフランドールの攻撃レベルを遊びの領分にまで落とす必要が在る。
だが、そう易々とフランドールの力を落とす方法など見付かる訳が無いと思った時、

「……ん?」

霊児の目にフランドールが手首に付けているリストバンドが目に映った。
それを見た霊児は、

「……あ」

何かを思い付いた表情を浮かべ、

「そのリストバンド、一寸貸してくれ」

フランドールにリストバンドを自分に貸してくれて口にする。
霊児が口にした言葉が耳に入ったフランドールは、

「リストバンド? うん、良いよ」

快くリストバンドを貸す件を了承し、左手首に付けているリストバンドを外して霊児に投げ渡す。
投げ渡されたリストバンドを霊児は左手で掴み、自分の右手の人差し指の腹を食い破る。
そして、人差し指の腹を食い破った事で流れる事となった自分の血を使い、

「えーと……」

リストバンドの内側に術式を書き込んでいく。
術式を書き終えると、霊児はフランドールにリストバンドを投げ返し、

「取り敢えず、今返したリストバンドを付けてくれ」

返したリストバンドを再び付ける様に言う。
言われたフランドールはこれまた素直に返されたリストバンドを左手首に付ける。
その瞬間、

「……あれ?」

フランドールは自分の体に錘を括り付けられた様な感覚を覚えた。
フランドールの表情からフランドールが何を感じているのかを察した霊児は、

「リストバンドに装着者の力を大きく押さえ込む術式を書き込んだからな。お前が違和感を感じるのも当然だ」

フランドールが感じている違和感の正体を教えつつ、

「弾幕ごっこをやる時は必ずそれを付けろよ。因みに、それを外せば本来の力を出せる様になるからな」

弾幕ごっこをする時は必ず術式を書き込んだリストバンドを付ける様に言い聞かせ、そのリストバンドを外せば本来の力が出せると言う言葉で締め括る。
霊児の説明を聞き、

「へぇー……」

フランドールは左手首に付けているリストバンドに興味深そうな視線を向け始めた。
リストバンドに視線を集中させているフランドールに、

「最終的には、それが無くてもこれ位の威力の弾を平気で出せる様にしろよ」

リストバンドが無くてもこれ位の威力の弾を平気で出せる様にしろと言う忠告をし、霊児は右手を真横に向けて霊力で出来た弾を一発だけ放つ。
放たれた弾は近くの瓦礫に当たり、軽い爆発と爆煙を発生させる。
発生した爆発と爆煙は少しすると消え、弾が当たった瓦礫が姿を現す。
姿を現した瓦礫にはこれと言った損傷は見られなかった。
霊児が行った事を見たフランドールは、

「はーい」

素直に霊児の忠告を受け入れる。
フランドールの素直さに、霊児はレミリアもフランドール位素直だったら苦労は少なかっただろうなと思いながら懐に手を入れ、

「取り敢えず、俺の持っている白紙のスペルカードを五枚程やるから弾幕ごっこを直ぐにやりたいなら考えて置けよ」

白紙のスペルカード取り出し、取り出した白紙のスペルカードをフランドールに投げ渡す。
因みに、霊児が取り出した白紙のスペルカードは何らかの理由でスペルカードが破損した際に直ぐに同じ物を作れる様に携帯していた予備の物だ。

「わとと……」

フランドールが投げ渡されたスペルカードを少し危な気な様子で受け取ったのを見届けた後、

「あ、そう言えば聞きたい事が在るんだが良いか?」

霊児は何かを思い出したかの様な表情を浮かべ、聞きたい事が在るから聞いても良いかと尋ねる。

「聞きたい事? 何?」
「さっき戦ってた時、俺の短剣を簡単に破壊しただろ。あれ、どうやったんだ?」

尋ねられたフランドールは首を傾げて聞きたい事を言う様に促して来たので、霊児は疑問に思っていた事を口にした。
緋々色金製の短剣を容易く破壊した技だ。
技の正体を知りたいと思うのはある意味当然だろう。
それはそうと、霊児が口にした事に対する答えを、

「あれ? こう……きゅっとしてドカーンって」

フランドールは述べる。
しかし、

「……ん?」

霊児にはフランドールが伝え様とした事が伝わらなかった様で、霊児の表情は疑問気なものになってしまう。
疑問気な表情になってしまった霊児を見たフランドールは、

「えっとね、お姉様が言うには私の能力は"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"何だって」

レミリアが名付けた自分の能力の名前を霊児に伝える。
フランドールの能力名を知り、

「……成程」

霊児は納得した表情になった。
"ありとあらゆるものを破壊する能力"ならば、緋々色金製の短剣が破壊されるのも当然だろう。
フランドールが思っていた以上に強力な能力を有していた事に霊児は驚くも、

「解っているとは思うが、その能力は弾幕ごっこでは絶対に使うなよ」

直ぐに気を取り直してフランドールにその能力は弾幕ごっこでは絶対に使うなと厳命する。
フランドールが弾幕ごっこ中に自身の能力を使えば遊びの範疇を確実に超えてしまうので、霊児がそう厳命するのも無理はない。
ある意味弾幕ごっこをするには自分に制限を掛けろと言われた様なものなのだが、

「はーい」

フランドールは特に異を唱える事無く了承の返事を返し、白紙のスペルカードと睨めっこを始めた。
何の異も唱えなかったのは、体を思いっ切り動かせた事で機嫌が良くなっているからであろうか。
ともあれ、フランドールの様子から本当にレミリアと違って素直だなと言う感想を霊児が抱いていると、

「お、やっと見付けたぜ」

上空の方からやっと見付けたと言う声と共に魔理沙が降下し、霊児の隣に腰を落ち着かせて来た。
霊児が腰を落ち着かせている瓦礫の山は結構狭い。
そこに腰を落ち着かせた言う事は、魔理沙はと霊児と必然的に密着状態になる。
態々狭い場所に腰を落ち着かせる必要は無いだろうと霊児は思ったが、それを言っても仕方が無いだろう。
俗に言う今更と言うやつだ。
だからか、霊児は何も言わずに隣に腰を落ち着かせた魔理沙の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る魔理沙は多少ボロボロな風貌であったが、満面の笑顔を浮かべていた。
魔理沙が満面の笑みを浮かべている事から、

「そっちも勝った様だな」

霊児は魔理沙も勝ちを得たと確信する。

「当然だぜ」

霊児の確信を魔理沙は胸を張りながら当然と返し、

「処で、あいつは誰だ?」

白紙のスペルカードと睨めっこをしているフランドールの方に顔を向けて誰だと尋ねる。

「あいつはフランドール・スカーレット。レミリアの妹だそうだ」
「へぇ、レミリアの……」

霊児からフランドールの正体を教えられた魔理沙は改めてと言った感じでフランドールの方に顔を向け、

「確かに、顔付きとかがレミリアに似てるな」

顔を付きなどがレミリアに似ていると呟き、何かを考え始めた。
急に魔理沙が何かを考え込み始めたからか、

「ん? どうした?」

霊児はどうしたのかと問う。
問われた魔理沙は、

「いや、パチュリーが危険な奴が先に居るって言ってたんだが……あの様子を見てるとそんな危険な奴には見えないなと思ってな」

パチュリーが言っていた情報と今現在見ているフランドールの情報が一致し無い事を漏らす。
確かに、白紙のスペルカードと睨めっこをしているフランドールを見ても危険な奴とは思えないだろう。
魔理沙が漏らした発言も尤もだと言う事を霊児は感じつつ、

「ま、有している能力は物騒極まりないものだったけどな」

有している能力は物騒であったと口にする。

「一体、どんな能力を持ってるんだ? あのフランドールって奴」
「"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"だそうだ」

フランドールの能力に興味を覚えた魔理沙に、霊児はフランドールが有している能力を伝えた。

「成程、そいつは確かに物騒極まりない能力だな」

人柄は兎も角、フランドールが有している能力は物騒極まりないと言う事を魔理沙は理解し、

「となると、紅魔館が廃墟と化してるのはあいつの能力せいか……?」

紅魔館が廃墟と化しているのはフランドールの能力のせいかと考察していく。
魔理沙の考察が耳に入ったからから、

「あいつ自身は紅魔館に能力は使ってなかったぞ。てか、紅魔館ってそんな事に成ってるのか?」

霊児は魔理沙の考察内容を訂正し、今現在の紅魔館はどうなっているのだと言う疑問を述べる。

「んー……紅魔館が廃墟館に成ったって言える位の状態だな。お陰で、霊児を見付けるのに苦労したぜ」

魔理沙が今現在の紅魔館の状態を語った事で、

「廃墟館ねぇ……」

霊児はフランドールとの戦いを思い返す。
思い返した結果、

「あー……確かに、紅魔館が廃墟館に成っても可笑しくは無いか」

紅魔館が廃墟館に成っても可笑しくは無いと言う結論に達した。
その後、

「まぁ、私とパチュリーが弾幕ごっこをしている間にも奥の方から戦闘音やら何かが破壊される音が響き渡って来たからな。激しい戦いだったってのは
理解出来るぜ」
「ま、レミリアがフランドールに弾幕ごっこの事を教えて無かったから普通に戦う事に成ったんだけどな」
「成程。つまり、紅魔館がこんな状態に成ったのはレミリアのせいって事か?」
「そう言う事。弾幕ごっこならどれだけ激しく戦っても紅魔館が廃墟と化す事は無かっただろうな」
「確かに、霊児の方も弾幕ごっこで戦っていれば紅魔館が廃墟と化す事は無かった筈だな」

魔理沙と霊児は紅魔館が廃墟と貸した件に付いての雑談を交わしていく。
二人の雑談は、フランドールが魔理沙の存在に気付くまで続いていった。





















霊児と魔理沙が紅魔館に向って一戦交え、紅魔館が廃墟と化してから一日経った朝。
霊児は香霖堂に赴き、

「と、言う訳でこれを直してくれ」

有無を言わせずにこれを直してくれと言いながらカウンターの上に刀身が砕けた短剣を置く。
目の前に置かれた刀身が砕けた短剣を見た霖之助は、

「君ねぇ……」

自分の頭を押さえながら大きな溜息を一つ吐き、

「解っているのかい? 緋々色金は非常に希少性の高い金属で……」

改めて緋々色金の希少性を説こうとする。
しかし、

「だからこうやって大金も持って来ただろ」

態々霖之助の説明を聞く気は無いからか、霊児は話を遮るかの様に大金を持って来たと口にしてカウンターの上に大きな袋を置いた。
置かれた袋の大きさに霖之助は少し面喰うも、袋を開いて中身を確認し、

「……これはまた……随分と貯め込んだものだね……」

驚いた表情を浮かべてしまう。
それだけ、袋の中身には大量のお金が入っていた様だ。
霖之助が袋の中に入っている大金に驚いている間に、

「俺のお守りやお札は人気が高くてな。結構な頻度で完売してるんだぜ。序に言えばお払いとかもやってるし、最近は占いとかも始めたからな。
金には困ってないんだよ」

袋の中に大量のお金が入っている理由を話す。
霊児の中々の多芸っ振りを知り、

「多芸だね……」

霖之助が呆れと感心を足し合わせた様な表情を浮かべると、

「それに、金の消費も基本は酒代と米代位だからな。貯まる一方だ」

霊児は補足する様に自身の金の出費に付いて説明する。
その後、霊児はカウンターの上に腰を落ち着かせ、

「それで、短剣を修復する件は引き受けてくれるのか?」

短剣を修復してくれるのかと問う。
問われた霖之助は、

「どうせ、僕が短剣の修復を引き受けるまで諦める気は無いんだろ。引き受けるよ」

諦めたと言った感じで短剣の修復は引き受けると返し、

「それはそれとして、一体誰と戦ったら緋々色金製の短剣が破壊されるんだい? また魔界の創造神と戦ったのかな?」

話題を変えるかの様に緋々色金製の短剣を破壊した者は誰なのかと尋ねる。
霖之助は霊児が今回戦った相手を以前緋々色金製の短剣を破壊した神綺だと予想したが、

「いや、戦った相手は神綺じゃない」

霊児からその予想は外れていると言われてしまう。

「ほう……だとすると、魔界の創造神以外の創造神と戦ったのかい?」
「創造神……て言うか、創造神クラスの奴と戦ったら俺もこんな無事な状態でここに来れてはいないさ。俺が戦ったのはフランドールって言う吸血鬼だ」
「フランドール?」

霊児が口にしたフランドールと言う名前に聞き覚えが無いからか、霖之助は首を傾げてしまった。
首を傾げた霖之助を見て、霊児は霖之助がフランドールの存在を知らない事を思い出し、

「レミリア……紅魔館の主の妹だ」

フランドールが誰なのかを教える。

「ほう、あの館の主に妹が居たのか」

レミリアに妹が居た事を始めて知った霖之助は少し意外そうな表情を浮かべ、

「吸血鬼の強さは噂程度には聞き及んでいるが……そんなに強かったのかい?」

フランドールはそんなに強かったのかと聞く。
どうやら、幾ら吸血鬼の力が強大であっても緋々色金を破壊出来る程の力を有しているとは思っていない様だ。
そんな霖之助の疑問に答える様に、

「フランドール自身の強さと言うより、有している能力が凄かったな」

霊児はフランドール自身の力よりも有している能力が凄かった事を話す。

「能力がかい?」
「そ。フランドールの能力は"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"だそうだ」
「成程、それなら緋々色金が破壊されるのも無理はないか」

霊児からフランドールの能力を伝えられ、緋々色金が破壊されるのも無理はないと霖之助が納得した後、

「……でだ。短剣の修復はどれ位で済む?」

霊児は話を戻すかの様に短剣の修復はどれ位で済むのかと尋ねる。

「そうだね……」

尋ねられた霖之助はもう一度刀身が砕けた短剣に目を向け、

「五日も在れば、短剣の修復は終わると思うよ」

短剣の修復には五日は必要だと言う結論を下す。
五日は少々長い様な気がしないでもないが、霊児が普段装備している短剣の数は五本。
そして、予備として自身の部屋の壁に掛けて在る短剣の数も五本。
となれば、普段装備している短剣の数が減る事も無いので、

「了解。五日後にまた来るぞ」

霊児は特に異を唱える事無く五日後にまた来ると言う言葉を残し、カウンターの上から降りる。
カウンターから降りた霊児にもう帰ると言った雰囲気が感じられた為、

「これ以上短剣を壊さないでくれよ。僕の緋々色金のコレクションだってそう多くは無いんだからね」

霖之助はこれ以上短剣を壊さないでくれと言う忠告を行う。
霖之助の忠告が耳に入った霊児は振り返り、

「それは敵に言ってくれ」

短剣を壊すなと言う台詞は自分が戦う相手に言ってくれと返す。
確かに、霊児の短剣は霊児が望んで壊したと言う訳では無い。
神綺と戦った時もフランドールと戦った時も全て、戦いの過程で破壊されたものだ。
しかし、幾ら霊児が望んだ事では無いと言っても破壊されたのは事実である。
それも二度。
二度ある事は三度あると言う諺も在るので、

「いっその事、緋々色金よりも数ランク程落ちている金属を使ってみるかい? それだったら結構な数を確保しているんだけどね」

霖之助は短剣の材質に緋々色金では無く、緋々色金よりも数ランク程落ちている金属を使ったらどうだと言う提案を行う。
この提案が受け入れられれば、今後短剣が破壊される様な事態に成ったとしても霖之助のコレクションである緋々色金が失われる事は無い。
霖之助としては自分の提案を霊児が受け入れてくれれば万々歳なのだが、

「俺が本気で戦った場合、緋々色金以外の金属じゃあ耐え切れないと思うからその案は却下で」

霊児は緋々色金以外の金属では自分の本気には耐え切れないと言う事で、霖之助の提案を受け入れなかった。

「……因みに、緋々色金以外の金属が君の力に耐え切れないと言うのの根拠は?」

霊児が語った事の根拠は何だと言う霖之助の疑問に、

「俺の勘」

自信満々の表情で自分の勘と霊児は答える。
歴代の博麗の巫女と同じ様に霊児の勘が良い事は霖之助も知っているので、

「なら、仕方がないか」

霖之助は仕方が無いと漏らし、諦めた表情を浮かべてしまう。
霖之助の表情からちゃんと緋々色金を使って短剣を修復してくれる事を霊児は確信し、

「それじゃ、宜しく頼むぜ」

言うだけ言って出口に向けて足を進め、香霖堂を後にした。





















香霖堂を後にした霊児は、真っ直ぐ自分の家である博麗神社に帰って行った。
そして、博麗神社に帰って来た霊児が居間へと続く襖を開いた時、

「お帰りなさい」
「お帰りー」

レミリアとフランドールのスカーレット姉妹が出迎えの言葉を掛けて来たではないか。
余りにも予想外の人物が出迎え言葉を掛けて来た事で霊児の思考は一瞬止まるも、直ぐに再起動し、

「……一寸待て。何でお前等がここにいる?」

スカーレット姉妹に何でここに居るのかを尋ねる。
尋ねられた事に対する答えを、

「私達がここに居る理由? 暫らくの間、ここに住まわせて貰うからよ」

レミリアはシレッとした表情で暫らくの間、博麗神社に住むと言った事を口にした。
突然で唐突過ぎるレミリアの宣言に、

「……は?」

思わず間の抜けた表情を霊児は浮かべてしまった。
家主が不在の間にやって来ては居間で寛ぎ、泊まらせろと言って来たのだ。
その様な表情を浮かべるも無理はないだろう。
霊児の表情を見て、自分の言葉が耳に入っていないのではと考えたレミリアは、

「だから、暫らくの間ここに住まわせて貰うから」

もう一度暫らくの間、博麗神社に住まわせて貰うと口にする。
レミリアが再び同じ言葉を口にしたのを合図にしたかの様に霊児は表情を戻し、

「……取り敢えず、何でそんな事になった?」

レミリアに何で自分の神社に泊まる事になったのかを問う。
問われた事に、

「昨日の一件で紅魔館が滅茶苦茶に成ったからよ。当然、その影響で私の部屋も吹き飛んでしまったし」

レミリアは今の紅魔館に誰かが住む事は出来ないと説明し、

「何でも。紅魔館が滅茶苦茶に成ったのは誰かさんが紅魔館で大暴れしたからと言う報告を受けているのだけど……」

紅魔館が滅茶苦茶になった原因は誰かが大暴れしたせいだと言って霊児の方に顔を向ける。
レミリアの物言いから、紅魔館が滅茶苦茶になった理由をレミリアが知っている事を霊児は理解し、

「お前がフランドールに弾幕ごっこの事を教えていれば、紅魔館が滅茶苦茶に成る事も無かったと思うがな」

紅魔館が滅茶苦茶に成ったのはレミリアのせいでも在ると返す。
霊児から返って来た発言を聞き、

「あら、パチェの忠告を無視して先に進まなければ紅魔館が滅茶苦茶に成る事も無かったと思うのだけど?」

レミリアは霊児がパチュリーの忠告を無視しなければ紅魔館が滅茶苦茶に成る事は無かったと指摘する。
ああ言えばこう言うと言うのは正にこの事だなと霊児は思いつつ、

「そもそも何で俺の神社何だ? パチュリーの図書館にでも行けば良いだろうが」

話を変えるかの様に泊まるのであれば自分の神社では無く、パチュリーの図書館で良いだろうと言う提案を行う。
そう提案したのは、霊児の記憶ではパチュリーの図書館にまでは被害を出してはいないからだ。
しかし、霊児の記憶とは裏腹に、

「パチェの図書館は戦闘の衝撃で本棚が引っ繰り返りまくったそうよ。とてもじゃないけどそこで寝泊りする余裕は無いわね」

パチュリーの図書館は霊児とフランドールの戦いの衝撃で寝泊り出来る状態では無くなってしまった様である。
レミリアからパチュリーの図書館の惨状を教えられた霊児は、

「あらー……」

ポカーンとした表情を浮かべてしまう。
どうやら、パチュリーの図書館がそんな状態になっているのは霊児に取って完全に予想外の事であった様だ。
霊児がそんな表情を浮かべている間に、

「因みに、パチェと小悪魔は図書館の復旧で大忙しみたいよ。それと、咲夜は紅魔館の復興作業の指揮を執ってるわ。美鈴は主に力仕事をしてるわね」

レミリアは続ける様にしてパチュリー、小悪魔、咲夜、美鈴の四人が何をしているのかを説明した。
レミリアの説明で紅魔館の面々がどうしているのかと言う事と、スカーレット姉妹のみがここに居る理由を知った霊児は、

「…………………………………………………………」

レミリアとフランドールの二人をどうするべきかを考える。
霊児としては態々スカーレット姉妹を自分の神社に泊めてやる義理は無い。
だが、ここでスカーレット姉妹を追い出したらある心配事が出て来る。
心配事と言うのは、追い出された後のスカーレット姉妹の動向だ。
寝床を見付ける為に博麗神社を後にしたスカーレット姉妹が、何所か別の場所で問題を起こすと言う可能性がある。
それだけなら未だしも、起こした問題が異変にでも変化したら面倒臭い事この上無い。
発生した異変を解決しに行くのは霊児なのだから。
なので、

「……はぁ、好きなだけ泊まっていけ」

霊児は諦めたかの様にスカーレット姉妹が博麗神社に泊まる事を許可する。
霊児からスカーレット姉妹の宿泊を許可すると言う言葉が取れたので、

「ええ、好きなだけ泊まらせて貰うわ」

既に我が家同然の態度で過ごすと言った雰囲気をレミリアは見せ始めた。
相変わらずとも言えるレミリアの態度に霊児が呆れた感情を抱いた時、

「はい、霊児」

フランドールが霊児に紙製の箱を手渡す。
手渡された箱を受け取った霊児は、

「ん? 中に何が入ってるんだ、これ?」

箱の中身は何だと問うと、

「ケーキとクッキーだよ」

フランドールは素直に箱の中身を教えてくれた。
少々小腹も空いている事だし、食える物ならさっさと食おうと考えた霊児は早速箱からケーキとクッキーを取り出そうとしたが、

「……因みに主な材料は?」

途中で思い留まったかの様に取り出すのを止め、ケーキとクッキーに使われている主な材料は何だと聞く。

「血」

聞かれた事に対する答えがフランドールの口から紡がれた瞬間、

「いらん」

霊児は受け取った箱をフランドールに突っ返した。
ケーキとクッキーが入った箱を突っ返されたフランドールは、

「えー、血入りのケーキやクッキーって美味しいのに」

不満気な表情を浮かべてしまう。
まぁ、自分が美味しいと思っている物をいらんの一言で突っ返されたのだ。
不満気な表情の一つや二つ、浮かべるのも無理はない。

「食べ様よー。美味しいよ」

突っ返された箱を突き返しながらフランドールは美味しいから食べろと言って来たが、

「俺は人間だ。食わせたいなら普通のケーキとクッキーを持って来い」

霊児は普通のケーキとクッキーなら食うが、血入りの物を食う気は無いと主張して突き返された箱を更に突き返す。
霊児の主張が耳に入ったからか、

「あらあら、食わず嫌いは良く無いわよ」

食わず嫌いは良く無いと言う発言をレミリアは零した。
レミリアが零した発言に反応した霊児は、

「んな事言うと、これからの食卓にはにんにくしか出さんぞ」

これからの食卓にはにんにくしか出さないぞと返し、戸棚に仕舞って在る煎餅を取り出しに向かった。
霊児の背後で色々と言って来ているスカーレット姉妹を声を無視しながら。
そんなこんなで色々とあったものの、紅魔館が復旧するまでレミリアとフランドールのスカーレット姉妹が博麗神社で暮らす事となった。























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