朝、目が覚めた霊児は、

「くぁ……」

上半身を伸ばして頭を覚醒させていく。
ある程度頭が覚醒した辺りで霊児は上半身を伸ばすのを止め、布団から抜け出す。
布団から抜け出した霊児は洗面所に行って顔でも洗おうと思い、襖を開けて自分の部屋を後にして洗面所へと向かう。
その道中で、

「……いや、井戸に行って水でも被るか」

霊児は洗面所で顔を洗うのではなく、井戸に行って水でも被ろうと考えて足を止める。
どうやら、顔を洗うと言う行為よりも水を被る方が楽だと感じた様だ。
兎も角、考えた事を実行に移す為に霊児は洗面所ではなく外に在る井戸へと進路を変えて再び歩き出す。
そして、井戸に向かう途中である一室の前を通ると、

「あら、おはよう。霊児」

襖が開き、通った部屋の中から朝の挨拶と共にレミリアが姿を現した。
姿を現したレミリアを見て、霊児は昨日からレミリアとフランドールのスカーレット姉妹がここに泊まっている事を思い出し、

「ああ、はよ」

適当な挨拶の言葉を返しながら足を止めてレミリアの方に顔を向けた時、

「…………おい」

ある事に気付いた。
気付いた事と言うのは、レミリアとフランドールが使っている部屋の内装に付いてである。
ここ、博麗神社は知っての通り神社だ。
神社と言う事は当然、神社の内装などは基本的に和で構成されている。
だと言うのに、

「………………何で、この部屋は洋風に成っているんだ?」

レミリアとフランドールが使っている部屋は洋風に成っていた。
具体的に言うと天井の付いたベッドに豪華そうなテーブルにソファー、椅子にポットにカップに絵画に壁紙にカーテンなどと言った物で構成されている。
和の要素は何所へ行ってしまったのだろうか。
和で構成されていた部屋の余りの変貌に霊児が何処か唖然とした表情を浮かべている間に、

「ああ、これ? 暫らく住むにしてはこの部屋の内装は私達には合わなくてね。夜中に咲夜が私とフランの着替えなどを持って来てくれたから序にこの部屋を
改造して貰ったのよ。ベッドやテーブルと言ったオプションは紅魔館の無事だった部屋から持って来て貰ったわ」

レミリアは部屋の内装などが変わっている事に付いての説明を行う。
一室とは言え部屋の内装を全て変えるとなればそれ相応の時間が掛かってしまうだろうが、そこは咲夜。
時間を操れる咲夜ならば部屋の内装を全て変える事など一晩もあれば十分であろう。

「成程……」

昨日今日で部屋の内装が思いっ切り変った事に霊児が納得した時、

「それに、暫らく住むにしては小汚かったからね。この部屋。だから、掃除も兼ねて改造させて貰ったのよ」

レミリアは内装の変更は小汚い部屋の掃除も兼ねたものでもあったと漏らす。
レミリアが漏らした発言が耳に入った霊児は、

「……おいテメェ、今小汚いとか言ったろ?」

思わず口元を引く付かせながら突っ込みを入れる。
一応は泊まらせて貰っている立場の者が泊まっている所を小汚いなどと称したのだ。
突っ込みの一つや二つ、入れたくもなるだろう。
それはそうと、普通であれば入れられた突っ込みに何らか反応なり言葉なりを返したりするのだが、

「それはそれとして、朝食はまだかしら?」

レミリアは霊児の突っ込みを無視し、話題を変えるかの様に朝食をまだかと尋ねる。
こちらの意思を無視するかの様なレミリアの態度に霊児は呆れつつも、

「朝食って……今思ったんだがお前等吸血鬼ってこの時間帯は寝てるんじゃないのか?」

思い出したかの様に吸血鬼は朝であるこの時間帯は寝ているのではと聞く。
霊児が聞いて来た事に、

「私達だって普通の人間と同じ時間帯に生活する事もあるわ。それにそう長い期間では無いとは言え、世話になる家主の生活する時間帯に合わせて生活した方が
色々と都合が良いでしょ」

吸血鬼だって普通の人間と同じ時間帯に生活する事もあるし、家主である霊児の生活リズムに合わせた方が都合が良い事を話し、

「……と言うか、朝や昼と言った時間帯にもここに来てたでしょ。私」

自分が朝や昼と言った時間帯に博麗神社にやって来ていた事を指摘する。
レミリアの指摘を受け、

「……ああ」

霊児は思い出す。
レミリアが朝や昼と言った時間帯に博麗神社にやって来ていた事を。
序に、昨日レミリアが自分とフランドールを博麗神社に泊める様に言って来たのもまだ十分に日が昇っている時間帯であった事も。
つい昨日の事も忘れていた辺り、霊児の頭は思っていた以上に覚醒していない様だ。
その事を実感した霊児はさっさと井戸に行って頭から水を被り、頭を覚醒させ様と言う予定を立て始めたタイミングで、

「それで、朝食は何時出来るのかしら? もう少ししたらフランも起きて来ると思うのだけど」

レミリアは話しを戻す様に改めて朝食はまだかと問う。
問われた事に反応した霊児は自分自身も腹を空かしていると言う事もあってか、

「もう少ししたら作るから待ってろ」

もう少ししたら朝食を作るから待つ様に伝え、井戸が在る外へと向かって行った。























朝食を食べ終えた後、

「朝から鍋物とはね……」

レミリアは空になった鍋を見ながらそんな事を口にする。
やはりと言うべきか、霊児達の朝食は鍋料理であった様だ。

「何か含みが在りそうな言い方だが……そう言った割りには大人しく食ってたじゃないか」

レミリアが口にした事に、霊児が卓袱台に肘を立てて頬杖を付きながらそう返すと、

「でもお姉様、鍋料理って言うの美味しかったよ」

二人の会話に入り込む様な形で鍋料理は美味しかったと言う感想をフランドールは述べて来た。
どうやら、フランドールは今さっき食した鍋料理には何の不満も抱いていない様である。
フランドールが述べた感想を聞いたレミリアは、

「確かに、中々に美味しかったけど……普通鍋物って言うのは夜中とかに食べる物じゃない?」

美味しかったと言う部分に同意を示しつつ、鍋物は夜に食べる物ではないかと言う。
確かに、朝から鍋料理を食べると言うのは余り聞かない話だ。
だが、

「そうか? 俺は昔っから朝昼晩は鍋物だぞ」

霊児は昔から朝昼晩と鍋料理を食べ続けて来たので、レミリアの言い分に首を傾げてしまった。
首を傾げた霊児を見て、

「朝昼晩って……何でそんなに鍋料理を食べてるのよ?」

どうして朝昼晩も鍋料理を食べてるのかと言う疑問をレミリアは漏らす。
レミリアが漏らした疑問に霊児は、

「楽何だよ、鍋料理は。適当に切った野菜などを鍋に突っ込んで煮れば完成するし」

鍋料理は作るのが楽だと言う答えを返した。
霊児から返って来た答えを聞き、

「……一人暮らしの男って、皆こうなのかしら?」

レミリアは一人暮らしの男は皆霊児の様なのかと考えて溜息を一つ吐き、

「鍋料理以外に作った物は無いの?」

話を変えるかの様に鍋料理以外に作った物は無いのかと尋ねる。

「鍋料理以外か? んー……おにぎりと目玉焼き位しか作った事が無いな」
「呆れた。良くそれで飽きが来ないわね」
「色々と具は変えれたりするからか、飽きたって言う感情を抱いた事は無いな。それに、良く魔理沙がご飯を作りに来てくれたりするし。だから、年がら年中
春夏秋冬朝昼晩と鍋料理だけって言う訳でも無いんだよ。まぁ、魔理沙が魔法の研究などに集中してたりすると暫らく来なかったりするけどな。後は……偶に
色んな奴等が何かしらの食い物を持って来たりするし」
「そう……」

霊児と食事に付いての会話を交わしたレミリアは少し思案気な表情を浮かべ、

「咲夜に毎日ご飯を作りに来る様に言おうかしら?」

咲夜にご飯を作りに来る様に言おうかと考え始めた。
レミリアの考えが耳に入ったフランドールは、

「でもお姉様、咲夜をここ連れて来たりしたら紅魔館が直るのが遅くなったりしないかしら?」

咲夜にご飯を作らせる為に博麗神社に連れて来たら紅魔館が直るのが遅くなるのではと言う意見を述べる。
紅魔館復興作業の指揮を執っている咲夜が食事を作る度に現場から離れれば、作業効率は確実に落ちるだろう。
そうなれば、紅魔館が復興するまでに時間が延びるのは自明の理。
フランドールの意見は尤もであるからか、

「うーむ……」

レミリアは悩み始める。
ご飯と紅魔館の復興のどちらを取るべきかと。
レミリアが悩み始めてから少しすると、

「霊児ー、居るー?」

縁側の方から霊児の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自分の名を呼ばれた事に反応した霊児は立ち上がり、縁側の方へと向かう。
そして、縁側に辿り着いた霊児の目に、

「やっ」

片手を上げて挨拶の言葉を口にした妹紅の姿が映った。
自分を呼んだのが妹紅である事を知った事で、

「よう、妹紅」

霊児は片手を上げて妹紅に挨拶の言葉を掛け、

「どうしたんだ? 何か用か?」

何か用でもあるのかと問う。
用件を問われた妹紅は、

「実は昨日の夜中から筍狩りをしててね。そしたら、筍がかなり大量に採れたのよ。正直、私一人じゃ食べ切れないからお裾分けに来たって訳」

筍狩りした事と大量の筍が採れた事を話し、手を上げていない方の手に持っている包みを霊児に見せる。
今の話の後に包みを見せたと言う事から、霊児は包みの中に筍が入っているのだろうと推察し、

「筍か……」

昼が楽しみだと言った表情を浮かべ始めた。
楽しみだと言った表情を浮かべている霊児を余所に、妹紅は霊児へと近付き、

「はい」

筍が入った包みを霊児に手渡す。

「ありがと」

礼の言葉と共に手渡された包みを霊児が受け取ったタイミングで、

「こんな寂れた神社に参拝客でも来たのかしら?」
「誰が来たの?」

レミリアとフランドールが霊児の背後から顔を出した。
レミリアとフランドールの顔を見た妹紅は、

「あんたは……」

少し驚いた表情を浮かべ、

「紅魔館の主のレミリア・スカーレット……」

レミリアの名を呟く。
自分に取って初対面である妹紅が自分の名を知っていたからか、

「あら、私も有名になったものね」

レミリアは少し機嫌が良くなったと言った雰囲気を見せ始めた。
そんなレミリアを見ながら、

「この前の異変の事が天狗の新聞に載っていたからね。それで貴女の事を知ったのよ」

天狗の新聞でレミリアの存在を知った事を妹紅は伝える。
天狗の新聞と言う言葉で、霊児の頭に"文々。新聞"の存在が思い浮かんだ。
レミリアが起こした異変を解決して直ぐに異変の事が書かれた"文々。新聞"がばら撒かれたので、妹紅はそれでレミリアの事を知ったのだろう。
まぁ、"文々。新聞"以外の新聞でレミリアの事を知ったと言う可能性も無きにしも非ずだが。
それはそれとして、レミリアの事は知っていた妹紅ではあったが、

「そっちの子は誰?」

フランドールの事は知らなかった様で、フランドールの方に視線を向けながら誰だと尋ねる。
自分の事を尋ねられたフランドールは、

「私? 私はフランドール・スカーレット。お姉様の妹よ」

簡単な自己紹介を行う。

「へぇ、妹」

フランドールがレミリアの妹である事を知った妹紅は、レミリアとフランドールを見比べる様に視線を動かし、

「……確かに、似てるわね」

レミリアとフランドールの顔付きが似ている事を認識した。
その後、

「お姉さんは誰?」

フランドールも妹紅の方を見ながら誰だと尋ねて来たので、

「私かい? 私は藤原妹紅。健康マニアの焼き鳥屋さ」

妹紅も簡単な自己紹介を行う。
妹紅の自己紹介を聞き、

「健康マニアの焼き鳥屋……ね。こんな寂れた神社に来るのだから只の人間じゃないとは思っていたけど……」

レミリアは興味を覚えたかの様な表情を浮かべ、妹紅をジッと見詰め始めた。
急にジッと見詰められるた妹紅は首を傾げ、何か用でもあるのかと言う言葉を発し様としたが、

「おい、さっきも人の神社を寂れたとか言ったよな。お前」

妹紅が言葉を発する前に霊児からの突っ込みがレミリアに入る。
幾ら参拝客が全く来ない神社とは言え、態々二度も聞こえる様に寂れた神社と言われたら霊児も突っ込みの一つや二つ入れたくもなるだろう。
しかし、レミリアは霊児からの突っ込みを無視し、

「貴女……不死人ね」

妹紅を不死人であると断定した。
不死人であると言われた妹紅は、

「ッ!!」

驚愕の表情になり、動きを止めてしまう。
妹紅の反応を見るに、妹紅が不死人と言うのは間違っていない様だ。
不死人である事を見抜かれ、動きを止めている妹紅に、

「へぇー、お前って不死人だったんだ」

霊児は少し驚いた声色でそんな事を口にした。
霊児が口にした発言が余りにも予想外あったからか、

「…………えっと、それだけ?」

少し唖然とした表情で妹紅は霊児にそれだけかと聞く。
聞かれた事に、

「それだけって言われても……それだけだしなぁ。大体、幻想郷にどれだけの種族が居ると思ってるんだ。今更お前が不死人だと知った処でどうにもならねぇよ」

霊児は幻想郷に存在している種族の数を考えれば今更不死人の一人や二人でたところで気にする必要性など無いとシレッとした表情で返す。
霊児が返した言葉に何一つ嘘など無い事を感じ取った妹紅は、

「そ……っか」

何処か安心した様な表情を浮かべた。
今の会話で安心する様な場面が在ったとは思えなかったらか、霊児は疑問気な表情を浮かべてしまう。
霊児の表情の変化に気付いた妹紅は少し慌てた動作で表情を戻し、

「別に……何でも無いわよ」

何処か嬉しそうな声色で何でも無いと言い、

「それはそうと、何でその二人がここに居るの?」

話を変えるかの様にスカーレット姉妹が博麗神社に居る理由を問う。
問われた事は隠して置く必要性は無いので

「ああ、それは……」

スカーレット姉妹が博麗神社に居る理由を説明する。
霊児の説明を聞き、

「成程、それでその二人がここに居候しているのね」

妹紅は納得した表情を浮かべ、

「じゃあ……一昨日空に向って突き進んで行った巨大な青白い光の塊……と言うか霊力の塊、あれは霊児のだったんだ」

一昨日空に向かって突き進んで行った霊力の塊は霊児のものだったのかと考えた。
妹紅が考えた事が耳に入った霊児は、

「一昨日って言うと……あれか」

フランドールとの戦いで霊力の塊を上方に向けて放った事を思い出す。
放った霊力の塊は紅魔館の天井部分を全て貫通し、外へ出たのだ。
霊児が放った霊力の塊が誰か彼かの目に留まったとしても不思議では無い。
若しかしたら、近々『天を昇る謎の光る物体』と言う様な事が書かれた"文々。新聞"が発行されるかもしれないと霊児が思った瞬間、

「……そうだ」

霊児は何かを思い付いた表情を浮かべ、

「妹紅、フランドールと弾幕ごっこをしてくれないか?」

妹紅にフランドールと弾幕ごっこしてくれと頼み始めた。

「え、この子と弾幕ごっこ? 別に構わないけど……良いの? 吸血鬼が朝っぱらから外を出歩く様な真似をして」

急にフランドールと弾幕ごっこをしてくれと頼まれた妹紅は吸血鬼が朝っぱらから外を出歩く様な真似をしても良いのかと言う疑問を述べる。
博麗神社で弾幕ごっこをやるとなれば、当然場所は屋外になるだろう。
そして、吸血鬼の弱点の一つとして日光が上げられる。
なので、妹紅がその様な疑問を述べるのも無理はない。
だが、

「それなら大丈夫よ。今の天気は曇りで覆っている雲は厚い。この状況下でフランが外に出ても何の問題も無いわ。まぁ、レベル……格が低い吸血鬼なら厚い雲から
漏れている日の光でも身を焦がす事になるだろうけど……私やフランなら厚い雲から漏れた程度の日の光で身を焦がすなど在り得ないわ」

フランドールの姉であり同じ吸血鬼であるレミリアから屋外に出ても問題無いと言う言葉が発せられた。
姉であり、同じ吸血鬼であるレミリアが問題無いと言うのだから問題無いのだろうと妹紅は判断していると、

「ねぇねぇ!! 早く弾幕ごっこやろ!!」

フランドールが妹紅の傍まで駆け寄り、早く弾幕ごっこをやろうと急かし始める。
フランドールの元気の良さに妹紅は少し面喰うも、

「……それじゃ、やりましょうか」

直ぐに気を取り直したかの様に弾幕ごっこをやろうと言い、空中へと躍り出た。
空中に躍り出た妹紅を追う様にしてフランドールも空中へと躍り出る。
空中に出た妹紅とフランドールはある程度の高度に達すると高度を上げるの止め、弾かれるかの様に間合いを取り、

「「ッ!!」」

二人は弾幕ごっこを始めた。
博麗神社上空で始まった妹紅とフランドールの弾幕ごっこ。
霊児とレミリアの二人は特にする事も無かったので、妹紅とフランドールの弾幕ごっこの観戦を始める。
二人の弾幕ごっこが始まってから少し時間が経った頃、

「……少し意外ね」

唐突に、レミリアが霊児に話し掛けて来た。
話し掛けられた霊児はレミリアの方に顔を向け、

「ん? 何がだ?」

何が意外なのかと返す。
霊児が自分と会話をする意思を感じ取った事で、

「フランの弾幕ごっこの初戦の相手がよ。てっきり貴方が相手をしてくれるものだと思っていたんだけどね」

レミリアは何が意外だったのかを口にする。
フランドールに弾幕ごっこの存在、ルール等を教えたのは博麗霊児だ。
故に、フランドールの弾幕ごっこの初戦の相手は霊児がするものだとレミリアは考えたのだろう。
レミリアが口にした意外の意味を理解した霊児は、

「俺じゃなく妹紅に任せたのは確認と見極めの為だ」

フランドールの相手を妹紅に任せたのは確認と見極めの為だと言う。

「確認と見極め?」

何に対しての確認と見極めなのかが解らないと言った感じでレミリアが首を傾げたので、

「確認ってのはフランドールがちゃんとコミュニケーションが取れるのか……ってのだな。一応俺や魔理沙とは会話は出来ていたんだが、少し心配だったんだよな。
フランドールはずっと地下に居たって話らしいし」

霊児は先ず、確認の意味合いに付いて説明する。
フランドールが地下のの部分でレミリアは一瞬何とも言えない表情を浮かべたが、直ぐに表情を戻し、

「その確認が弾幕ごっこ……か。確かに、弾幕ごっこなら余計な言葉が要らないから対人経験の浅いフランに丁度良いわね」

余計な言葉が要らない弾幕ごっこなら対人経験の浅いフランドールには丁度良いと呟き、

「それで、見極めと言うのは?」

続ける様にして見極めの意味に付いて聞く。

「見極めに付いてはフランドール自身に付いてだ。フランドールが有している能力は極めて強力なもの。はっきり言ってフランドールが無作為に自分の能力を
使ったり乱発すれば、幻想郷は文字通りの意味で破壊されるだろうな」
「……ええ、フランの能力ならそれも可能でしょうね」

見極めの中身とフランドールの能力なら文字通りの意味で幻想郷を破壊する事も可能だろうと言う話を霊児はして来たので、レミリアは話の内容を肯定する。
フランドールの能力は"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"。
その力は緋々色金製の短剣を容易く破壊する程。
フランドールが無作為に自分の能力を使ったり乱発すれば、霊児とレミリアの言う通り幻想郷は文字通りの意味で破壊されてしまうだろう。
レミリアもフランドールの能力に付いて自分と同じ見解を抱いている事を理解した後、

「もし、この弾幕ごっこでフランドールが手当たりしだいに自分の能力を使う何て兆候が見られたら……消す」

霊児は今回の妹紅とフランドールの弾幕ごっこでフランドールが無作為に自分の能力を使う様なら消すと低い声で呟く。
霊児の呟きが耳に入ったレミリアは凝縮された殺気を霊児に叩き込み、

「そんな事……私がさせるとでも思う?」

底冷えする様な声色でそんな事を自分がさせるとでも思っているのかと言う。
言われた霊児は視線をレミリアの方に向け、

「止められるのか? お前に、俺が?」

強気な台詞を返す。
今、レミリアが霊児に叩き込んでいる殺気は並大抵の者なら一瞬でショック死させる程に強力なもの。
序に言えば、並大抵の者では無くかなりの実力者であったとしても体を震わせる事であろう。
だと言うのに、そんな殺気を叩き込まている霊児はショック死処か震えもしていない。
平常時と何も変わらないのだ。
まるで、レミリアの殺気など何の意味も成さないと言う様に。
殺気を叩き込んだ事で改めて霊児がどれ程の高みに居るのかを思い知ったレミリアが、

「……ち」

小さな舌打ちを零した瞬間、

「ま、消す必要は無さそうだがな。見た感じ、フランドールから能力を使う感じは見られないし」

霊児は視線を弾幕ごっこをしている妹紅とフランドールの方に戻し、自分がフランドールを消す必要は無さそうだと漏らす。
現在の弾幕ごっこの戦況は妹紅優勢の形で進んでいるが、フランドールは不利な状況を打破する為に能力を使おうとはしていない。
少なくとも、この弾幕ごっこでフランドールが能力を使う心配は無いであろう。
一応、霊児はフランドールを消す気は無いと言う事をレミリアに伝えたのだが、

「…………………………………………………………………………」

レミリアからの殺気が収まる事は無かった。
幾ら効果が無いと言っても常時殺気を叩き込まれるのは鬱陶しいので、霊児はまたレミリアの方に視線を向け、

「仮にフランドールが暴走し、能力の乱用を始めたら……俺が動く前にお前が動くだろ」

仮にフランドールが暴走したら自分が動く前にお前が動くだろうと口にする。
霊児が口にした事を聞いたレミリアは思わず鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情を浮かべたものの、

「貴方……私を試したわね……」

直ぐに浮かべた表情をジト目に変えながら殺気を四散させ、突っ込みを入れた。
レミリアはフランドールが暴走した際に自分がどう言った対応を取るのかを霊児は知りたかったのだろうと考えている様だが、

「さぁ、どうだろうな」

レミリアが考えている事を知ってか知らずか、霊児はそれを無視するかの様に曖昧な返事をし、

「唯、忘れるなよ。俺は自身の……今代の博麗としての役目は幻想郷を護る事だと思っている。ま、これは博麗だからってだけでは無く俺自身の意思だがな。
兎も角、その為なら……幻想郷を護る為なら俺はどんな事でもするぜ。それを忘れるなよ」

警告とも言える言葉を残す。
霊児からの警告を受けたレミリアは、

「……ええ、肝に命じて置くわ」

警告を受け止めたと言った返事をし、思う。
今現在のフランドールは本当に安定していると。
少し前までのフランドールなら何をするにして危なっかしくて常に見ている必要があったが、少なくとも今現在のフランドールにその心配は見られない。
フランドールがこうも安定し始めたのは、霊児と戦ってからだ。
全力を出して戦え、戦った相手が普通に無事だったと言う事実がフランドールの溜まっていた鬱憤などを晴らしたのだろうとレミリアは考えている。
但し、晴らされた鬱憤が再び溜まったらまた危うい状態になるかもしれないが。
暫しの間、フランドールの事に付いてレミリアが思考を廻らせて黙っていたからか、

「どうかしたのか?」

霊児はどうかしたの声を掛ける。
掛けられた声に反応したレミリアは意識を現実に戻し、

「何でも無いわ」

何でも返して妹紅とフランドールの弾幕ごっこの様子を観察していく。
それに続く様にして、霊児も再び妹紅とフランドールの弾幕ごっこの観戦を始める。























「うー……負けちゃった」
「弾幕ごっこ、今回が初めてだったんでしょ? 初めてであれだけ出来れば大したものよ」

多少ボロボロになったフランドールと妹紅の二人が、そんな会話を交わしながら降下して地面に足を着けた。
会話の内容から察するに、弾幕ごっこは妹紅の勝利で幕を閉じた様だ。
降り立ったフランドールと妹紅の二人は、

「それにしても、妹紅って強いね。強い人間って咲夜に霊児、魔理沙位しか知らないから吃驚しちゃった」
「私は不老不死何だけど……ま、それなりに長い時を生きて来たからね。自然と強くなったのよ」

仲が良さ気な雰囲気を見せながら霊児とレミリアが腰を落ち着かせている方へと足を進めて行く。
そして、妹紅とフランドールが霊児のレミリアの目の前まで来た時、

「……あら、誰か来てる様よ」

レミリアは誰かが来ている事を口にする。
レミリアが口にした事に反応した霊児は顔を上げ、視線を上空の方へと移す。
視線を移した霊児の目には、二つの黒い点が映る。
映った黒い点はどんどんと大きくなり、見えた二つの黒い点が人の形をしていると霊児が認識したタイミングで、

「おっす、霊児!!」
「やあ、一寸久し振りかね」

魔理沙と魅魔が霊児達の近くに降り立った。
どうやら、見えていた二つの黒い点は魔理沙と魅魔であった様だ。
霊児達の近くに降り立った魔理沙は周囲を見渡し、

「私達以外に来ているのは妹紅にレミリアにフランドール……あれ? 咲夜は居ないのか? レミリアとフランドールが居るのに咲夜が居ないってのも
珍しいな……」

レミリアとフランドールが居るのに咲夜が居ない事に少し驚いたと言った表情を浮かべる。
レミリアとフランドールのスカーレット姉妹が揃って外出していると言うのに咲夜は勿論、付き人の一人も居ないのだ。
魔理沙が驚きを覚えるのも無理はない。
少し驚いている魔理沙を見て、レミリアは何かを思い付いた表情を浮かべ、

「ああ、それはね……」

魔理沙の疑問を晴らす為の説明をしていく。
咲夜が居ない理由から自分とフランドールが博麗神社に居る理由まで。
レミリアから理由を聞き終えた魔理沙は、

「な、何ぃ!?」

思いっ切り驚いた表情を浮かべた。
魔理沙の反応が予想通りあったからか、

「あら、何を驚いているのかしら? 私の家である紅魔館が使えない以上、何所かに泊まると言うのは自然な流れでしょ」

レミリアは機嫌が良さそうな表情になりながらからかう様に自分達が博麗神社に泊まるのは当然な流れだろうと言い、

「それとも……私達がここに泊まる事で貴女に何か不都合でも在るのかしら?」

からかう様に自分とフランドールが博麗神社に泊まる事で何か不都合でも在るのかと聞く。
聞かれた事に、

「いや、別に無いけどさ……」

かなり渋々と言った感じで魔理沙は不都合は無いと呟き、

「うむむむむむ……」

何かを考え込み始めた。
それから少しすると魔理沙は何かを決意したかの様な表情を浮かべ、

「霊児!! 私も暫らくここに泊まるけど良いよな!?」

霊児に自分も博麗神社に泊まるけど良いよなと言う。
魔理沙が博麗神社に泊まる事など今まで数え切れない程在ったし、今更泊まる人数が一人や二人増えたところで大した事は無いので、

「ああ、別に構わないぞ」

霊児は別に構わないと返す。
博麗神社への宿泊の許可が取れたからか、魔理沙は嬉しそうな表情を浮かべ、

「良し!! もう少しで昼だからご飯を作ってやるよ!! 何かリクエストは在るか?」

気合を入れながら昼ご飯を作る事を宣言し、リクエストは在るかと問う。
問われた霊児は、

「んー……そうだ。さっき妹紅から筍を貰ったんだ。だから、今日の昼は筍をメインにした物にしてくれ」

妹紅から筍を貰った事を魔理沙に伝え、今日の昼は筍をメインにした物にしてくれと頼みながら筍が入った包みを魔理沙に見せる。

「筍をメインにした物……だな。了解したぜ」
「じゃ、宜しくな」

魔理沙から了承の返事を聞いた霊児は、宜しくなと言う言葉と共に筍が入った包みを投げ渡す。
投げ渡された包みを、

「……おっと」

魔理沙は受け止め、縁側に上がって台所に向かおうとする。
台所へと向かおうとしている魔理沙の後姿を見て、

「……あ、そうだ。居間の卓袱台の上に鍋が在るから、洗って置いてくれ」

霊児が思い出したかの様に居間に在る鍋を洗って置いてくれと言う言葉を発すると、

「あいよ、了解したぜ」

了解したと言う返事と共に魔理沙は居間の方に消えて行った。
その後、

「筍をメインしたご飯か……楽しみだねぇ」

魅魔は筍をメインにしたご飯が楽しみだと呟く。
魅魔の呟きが耳に入った霊児はジト目になりながら、

「……お前、食ってく積もりか?」

突っ込みを入れる。

「おいおい、そう冷たい事を言いなさんな。あの包みの大きさからして私等全員が食べてもお釣りが来るだろうし。ね」

霊児からの突っ込みに魅魔は軽い茶々を入れながら自分達全員が筍を食べてもお釣りが来るだろうと口にし、妹紅に同意を求める様に声を掛けた。
同意を求められた妹紅は、

「そうね、結構な量を持って来たらここに居る全員が食べても十分にお釣りは来るとは思うわ」

魅魔が口にした事は正しいと言い、

「それはそうと……図々しいとは思うけど私もお昼、一緒に頂いても良いかしら? 弾幕ごっこをしたせいか、一寸お腹が減ってね」

申し訳なさそうな声色で自分も昼ご飯を頂いても良いかと尋ねる。
尋ねられた事を聞き、魅魔にもこれ位の謙虚さがあればと思いながら、

「ああ、別に良いぞ」

霊児は昼を食べて行く事に許可を出した。
同時に、

「筍か……どんな食べ物何だろ? 楽しみ」
「ふむ、咲夜の料理程の物は出て来ないだろうけど……楽しみね」

フランドールとレミリアの二人は筍を使った料理が楽しみと言った言葉を零す。
今、博麗神社に面々全員が昼ご飯を食べる事が分かったからか、

「それじゃ、魔理沙に六人前作る様に言って来るからね」

魔理沙に何人前作るべきかを教える為に魅魔は縁側に上がり、

「あ、序だから私も暫らくは博麗神社に泊まる事にするよ」

自分も博麗神社に泊まる事を伝えて居間の方へと消えて行った。
勝手に自分の神社に泊まる事を決めた魅魔に霊児は呆れつつ、

「……妹紅、お前はどうするんだ? お前も泊まっていくのか?」

一応、妹紅にも泊まっていくのかと聞く。
聞かれた妹紅は、

「私は止めて置くわ。余り長い間家を空けて置くと、泥棒姫やら泥棒兎やらが入り込んで来ると思うから」

防犯面に心配が在るので、自分は泊まらない事を霊児に伝えた。

「泥棒姫に泥棒兎ねぇ……迷いの竹林も中々に物騒なんだな」
「まぁね。泥棒姫……馬鹿姫や野良妖怪と言った存在に気を付けていれば割と平和よ。迷いの竹林もね」
「ふーん……」

霊児は妹紅と他愛無い会話を交わしつつ、ご飯が出来るまで待つ事にする。
そんなこんなで、スカーレット姉妹に続いて魔理沙と魅魔の師弟コンビも博麗神社に泊まる事となった。























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