「おーい、起きろー」

そんな声と共に、何者かが霊児の体を揺すり始めた。
体を揺すられた事で、

「んー……」

霊児は目を覚ましたが、まだ眠かったので再び眠ろうとする。
しかし、

「寝るな寝るな、起きろってー」

そうはさせるかと言わんばかりに霊児の体を揺する力が強くなった。
自分の体を強く揺すられたからか、観念したかの様に霊児は目を開く。
開いた霊児の目には、

「……魔理沙」

魔理沙の姿が映った。
どうやら、霊児に声を掛けて体を揺すっていたのは魔理沙であった様だ。
目を開いた霊児が魔理沙の存在を認識したのと同時に、

「お、やっと起きたか。もう少ししたら朝ご飯が出来るから、着替えて居間の方へ来てくれよな」

魔理沙もう少ししたら朝ご飯が出来るので、着替えて居間の方に来る様に言って霊児の体を揺するのを止めた。
起きたばかりで霊児の頭は殆ど覚醒してはいなかったが、朝ご飯と言う単語は理解出来たので、

「……ああ、分かった」

霊児は取り敢えず分かったと言う返事をする。
返って来た返事に力強さは感じられなかったが、会話を交わせる程度には覚醒していると魔理沙は判断し、

「それじゃ、私は仕上げが在るから台所に戻るぜ。二度寝しない様にな」

二度寝しない様にと言う言葉を残して霊児の部屋から出て行った。
自分の部屋から出て行った魔理沙を見送った後、霊児は少しの間ボーッとしていたが、

「……ああ」

直ぐに思い出す。
数日前に魔理沙が博麗神社に泊まり込み始めた事を。
序に、魅魔も魔理沙と同じ様に泊まり込み始めた事も。

「……ここ何日かで随分と賑やかになったな。俺の神社も」

軽い愚痴の様なものを零しながら、霊児は布団から抜け出して体を伸ばし始める。

「あー……少し体が固まってるなぁ……」

体を伸ばしながら体が少し固まっている事を霊児は感じるも、

「ま、動いていればその内解れるだろ」

動いていればその内解れるだろうと判断し、体を伸ばすのを止めて着替え始める。
先ず今着ている寝巻き用の白装束を脱ぎ、褌を取り替え、

「えーと、シャツとズボンは……箪笥の中だったな」

箪笥に近付いて背中に陰陽のマークが付いた白いシャツに黒いズボンを取り出し、取り出したそれを着込んでいく。
そして、何時もの格好に着替えた後、

「短剣は何所に置いたっけな?」

自分の短剣を何所に在るかを探すの顔を動かす。
顔を動かして最初に目に付いたのは、柄頭のリング状の部分に釘を通して壁に掛けられている五本の短剣。
壁に掛けられている短剣も、当然霊児の短剣。
だが、壁に掛かっている短剣は予備の物で普段霊児が使っている短剣では無い。
なので、霊児は再び顔を動かし、

「……お、見っけ」

普段使っている短剣が机の上に置いて在るのを見付け出す。
まぁ、霊児の部屋はそこまで広いと言う訳でもないので直ぐに目的の物を見付け出せたとしても不思議では無いだろう。
兎も角、何時も使っている短剣を見付けた霊児はこれまた何時もの様に装備していく。
背中に四本、左腰に一本と言った感じで。
但し、左腰に装備して在るのは短剣の鞘だけ。
何故鞘だけなのかと言うと、霊児の持っている十本の短剣の内の一本はフランドールとの戦いで破損してしまったからだ。
こう言う時にこそ予備の短剣を使うべきなのだが、

「そういや……香霖に預けていた短剣、そろそろ直っていそうだな」

霖之助に修復を頼んだ短剣が直っていそうだと言う事を感じた為、予備の短剣を鞘に収め様とはしなかった。
予備の短剣を収めなくても、後で香霖堂に修復を頼んだ短剣を回収しに行けば良いからだ。
尤も、短剣が直っているかは分からないが。
それはそれとして、装備品を装備し終えた霊児は近くに在った羽織を着込む。
基本色が白で縁が赤く、背中の部分に赤い文字で"七十七代目博麗"と書かれた羽織を。
羽織を着込んだ後、ポケットに夢美から貰ったグローブを入れ、

「……良し」

霊児の着替えは完了した。
着替えが完了した事で、霊児は早速居間に行って朝食を食べ様としたが、

「……と、その前に脱いだ物を脱衣所の方に持って行くか」

居間に向かう前に脱いだ物を脱衣所に持って行く事にし、畳の上に転がっている寝巻き用の白装束と褌を手に取って部屋を出て脱衣所に向かう。
脱衣所に向かって行く道中で、

「今度、にとりに自動で洗濯してくれる道具でも作って貰うかな? 春夏秋は兎も角、冬の洗濯は色々と堪えるからな……」

霊児は冬場の洗濯は色々と堪えるので、にとりに自動で洗濯してくれる道具でも作って貰おうかと考える。
もし作って貰えたら冬場の洗濯は勿論、洗濯と言う行為そのものが楽になるであろう。
にとりに作ってくれと頼んだら大量の胡瓜を要求されそうだと言う予感が霊児の頭に過ぎったタイミングで、

「……と、着いた着いた」

脱衣所に到着したので、霊児は考えていた事を頭の隅に追いやって脱衣所に中に入り、

「よっと」

洗濯籠の中に寝巻き用の白装束と褌を落とす。
その後、

「何時もなら俺が洗濯するんだが、ここ最近は魔理沙がしてくれるから楽が出来て良いぜ。あいつ等が泊まる様になってから騒がしくなったが、こう言う面で
楽が出来るのなら……とんとんか」

博麗神社にレミリア、フランドール、魔理沙、魅魔が泊まり込む様になってから騒がしくなったものの、楽が出来る様になったのだからとんとんかと結論付け、

「……さて、飯食いに行くか」

気持ちを切り替える様にして居間へと向かって行った。























脱衣所を後にし、居間へと続く襖を開くと、

「お、美味そうだな」

卓袱台の上に並べられている和食が霊児の目に映った。
同時に、

「お、やっと来たな」
「やれやれ、待ち草臥れたよ」
「遅いわよ」
「遅いよー」

魔理沙、魅魔、レミリア、フランドールからやっと来たかと言う様な声を掛けられる。
どうやら、霊児以外の面々は既に居間に集まっていた様だ。

「何だ、先に食ってなかったのか」

先に食べている思っていた霊児が少し驚いた表情で卓袱台の前まで移動した時、

「魔理沙が全員揃うまで朝食はお預けと言ったからさ」

魅魔は魔理沙が全員揃うまでご飯はお預けと言っていた事を話す。
まだ食事を取ってなかった理由を知った霊児は、

「別に先に食ってても良かったんだがな」

先に食べていても良かったのにと零しながら腰を落ち着かせる。
待っていた霊児が到着した事で、居間に居る面々は箸を手に取り、

「「「「「いただきます」」」」」

朝食を食べ始めた。
皆腹を空かせていると言う事もあってか、全員箸の進みが中々に速い。
そして、並べられていた朝食を半分程平らげた辺りで、

「美味しいには美味しいけど、咲夜の作る料理の方が美味しいわね」

レミリアが唐突に魔理沙の作る料理も美味しいが、咲夜の作る料理の方が美味しいと口にする。
レミリアの物言いに少し苛っと来たからか、

「文句が在るなら食うなよ」

魔理沙は少し剥れた表情で文句が在るなら食うなと呟く。
魔理沙の呟きを聞いたレミリアは、

「あら、別に不味いとは言ってないでしょう」

別に不味いと言った訳では無いと返し、漬物を口に運び、

「それにしても、ここ最近は和食が多いわね」

ここ最近は和食ばかり食べていると言った事を漏らす。
漏らした言葉が耳に入った魔理沙と霊児は、

「私は和食が一番得意だからな」
「俺は和食が好きだから別に構わないけどな」

和食が一番得意である事と、和食が好きだから和食ばかりでも構わないと言う。
それに続く様にして、

「魔理沙の作るご飯は美味しいから、ずっと和食でも私は構わないけどね」
「咲夜の作るご飯は洋食ばかりだから、私は新鮮かな」

魅魔とフランドールが和食ばかりでも文句は無いと言う主張をし出した。
霊児、魔理沙、魅魔、フランドールの四人は和食で構わないと言う姿勢を見せたのだが、

「和食も悪くないんだけど、私としてはそろそろ洋食が恋しくなって来たのよね」

四人の意見など知った事かと言わんばかりにレミリアは洋食が恋しくなったとアピールし、霊児の方に視線を向ける。
次からは和食ではなく洋食にしろと言う想いを籠めながら。
レミリアの視線から、レミリアが何を言いたいの理解した霊児はどうするべきかと頭を回転させていく。
霊児自身、和食は好きだが基本的に食べれて腹が膨れれば何でも良いと言うスタンスだ。
はっきり言ってしまえば、和食だろうと洋食だろうと中華だろうと食べられればどれでも良いのである。
だからか、

「別に良いぞ。洋食でも」

霊児が特に考えもせず洋食でも構わないと答えた。
すると、

「やった。これで今日から洋食ね」

レミリアはご機嫌と言った表情になり、次のご飯に想いを馳せる。
そんなレミリアに対し、

「洋食か……」

次からご飯を洋食に指定された魔理沙は、何を作るべきかを悩み始めた。
まぁ、今まで和食ばかり作っていたのに急に洋食を作る事になったのだ。
そりゃ悩みもするだろう。

「うーむ、何を作るかな……」
「私は肉類が食べたいねぇ」
「私も私もー」

悩んでいる魔理沙に魅魔とフランドールが肉が食べたいと言っているのを余所に、霊児はレミリアの方に顔を向け、

「そういや、何で俺に許可を得る様な真似をしたんだ? 何時ものお前だったら勝手に決めそうなものなのによ」

何で態々許可を得る様な真似をしたのかと尋ねる。
尋ねられたレミリアは、

「あら、一応とは言え私は居候させて貰っている身よ。こう言う事に関しては家主である貴方に許可を得るのは当然でしょ」

自分は居候なのだから、こう言った事に関する許可を家主である霊児に取るのは当然だろうと返す。
レミリアとしては食事のメニューを変えさせるのには家主である霊児に許可を得る必要が在ると思っている様だが、

「……その割にはお前、俺の許可無く勝手に部屋を改装したよな」

霊児の許可無く勝手に部屋を改装した為、霊児はその事に対する突っ込みを入れる。
しかし、

「それはそれ、これはこれっと言うやつよ」

霊児からの突っ込みをレミリアは軽くいなし、茶を啜り始めた。
同時に、

「ああ、あれは見事な洋室だ。一晩であそこまで改装したあんたのメイドは大したものさね」

霊児とレミリアのやり取りを聞いていた魅魔が一晩で部屋を改装した咲夜を大したものだと称して焼き魚を頬張り、

「お、この魚良い焼き加減だね」

焼き魚の感想を述べる。
自分が焼いた魚を褒められた事で、

「ありがとうございます、魅魔様」

魔理沙は嬉しそうな表情を浮かべ、礼の言葉と共に頭を下げた。
その後、

「ねぇ、お醤油取ってー」

話を遮るかの様に、フランドールが醤油を取ってくれと言う声を掛ける。
フランドールの声に反応した霊児は近くに在った醤油瓶を手で掴み、

「そら」

手首を軽く動かし、掴んだ醤油瓶を卓袱台の上を滑らせる様にして動かす。
動かされた醤油瓶はフランドールの目の前で止まったので、

「ありがとー」

礼の言葉と共にフランドールは醤油瓶を手に取り、擂り大根に醤油を掛けていく。
それぞれが思い思いの方法で食事を取り、雑談を交わし始めてから幾ら経った頃、

「「「「「ご馳走様」」」」」

霊児達は朝食を食べ終えた。
朝食を食べ終えた後、各々がまったりとした雰囲気を楽しもうとした時、

「って、フラン。口周り」

フランドールの口周りが汚れている事に気付いたレミリアはハンカチを取り出し、フランドールの口に取り出したハンカチを当て、

「わぷ」
「もう少し、レディとしての嗜みを持ちなさい」

レディとしての嗜みを持つ様にと言いながら口周りを拭っていく。
そして、

「はい、綺麗になった」

レミリアがフランドールの口からハンカチを離したタイミングで、

「霊児、この後何か予定って在るか?」

魔理沙が霊児にこの後何か予定は在るのかと問う。
問われた事に、

「ん、ああ。頼んでいた短剣の修復がそろそろ終わったと思うから、それを受け取りに香霖堂へ向う積りだ」

霊児は頼んでいた短剣の修復が終わったと思うので、香霖堂に向かう積りである事を話す。
霊児が香霖堂と行く事を知った魔理沙は、

「なら、私も行って良いか?」

自分も一緒に行っても良いかと聞く。

「ああ、別に良いぞ。お前等はどうする?」

魔理沙の同行を認めつつ、霊児はお前等はどうすると言いながら魅魔、レミリア、フランドールの方に視線を向ける。
視線を向けられたレミリアが、

「今日は快晴だから、私とフランはここで大人しくしてるわ」

今日は快晴なので自分とフランドールは博麗神社で大人しくしている事を霊児に伝えると、

「なら、私はレミリアと将棋でもしているかね」

これ幸いと言わんばかりに魅魔はレミリアと将棋をすると言う予定を立て始めた。
自分の許可を得ずに予定を立てた魅魔に、

「また将棋? チェスでもしない?」

レミリアは将棋では無くチェスをしないかと口にする。
レミリアの台詞から察するに、ここ最近は将棋ばかりをやっている様だ。
なので、将棋では無くチェスをしたいとレミリアは口にしたのだが、

「生憎、ここにチェス駒もチェス盤も無いからね。チェスは出来ないよ」

レミリアの期待を裏切るかの様に、博麗神社にチェスで遊ぶ為に必要な物が無い事を伝える。
博麗神社にチェスで遊ぶ為の物が無い事を知ったからか、

「……咲夜に駒とチェス盤を持って来て貰おうかしら」

咲夜にチェス駒とチェス盤を持って来る様に言おうかとレミリアは考え始めた。
考え事をしているレミリアを見て、

「じゃあさ、私とやろうよ。二人の対局を見て将棋のルールを覚えたんだ」

フランドールは魅魔に自分と将棋をし様と言い出す。
魅魔としては将棋が出来れば良い様で、

「お、なら今日はフランドールとやるかね」

フランドールと対局する事を決める。
霊児と魔理沙は外出で、魅魔とスカーレット姉妹は留守番と言う博麗神社に居る全員の今後の予定が決まった後、

「それじゃ、私は台所に行って食器を洗って来るぜ」

魔理沙は卓袱台の上の食器を一箇所に纏め、纏めた食器を持って台所へと向かって行く。
魔理沙が台所に向かってから少しすると、台所で洗い物をしている音が聞こえ始めた。
その音を合図にしたかの様に霊児は立ち上がり、軽いストレッチを行っていく。
ストレッチを行ってから幾らか時間が経った頃、

「お待たせ」

洗い物を終えた魔理沙が居間へと戻って来たので、霊児はストレッチを止め、

「それじゃ、行くか」

一声掛けて魔理沙と一緒に外に出る。
外に出た二人は同時に空中へと躍り出て、香霖堂へと向かって行った。























博麗神社を出発した霊児と魔理沙が香霖堂に辿り着くと、

「おーっす」
「香霖、居るかー?」

二人はそんな声を掛けながら香霖堂の扉を開き、中へと入って行った。
中に入った二人がカウンター付近にまで近付いたタイミングで、

「おや、霊児に魔理沙じゃないか。いらっしゃい」

霊児と魔理沙がやって来た事に霖之助は気付き、読んでいた本から目を外す。

「相変わらず暇してるみたいだな」
「ま、この店が繁盛していたら驚きだがな」
「余計なお世話だよ」

霊児と魔理沙のからかいの言葉を霖之助は適当に返しつつ、

「それで、今日は何の用だい?」

今日は何の用でここに来たのかと問う。

「俺の短剣の事だよ。修復、終わったか?」
「ああ、終わっているよ。今持って来るから少し待っていてくれ」

問われた霊児が香霖堂にやって来た用件を話すと、霖之助は今持って来るから少し待つ様に言って奥の方へと引っ込んで行った。
奥に引っ込んで行った霖之助を見送った後、少しの間暇になった霊児と魔理沙は周囲を見渡し、

「相変わらず、ここには統一性の無い物ばかりが並べられているな」
「ま、仕方無いんじゃないか? 香霖は無節操に色々と拾って来るし」
「そう言うお前も、色々と拾ってるよな」
「私は香霖程、無節操に拾ったりはしてないぜ」

軽い雑談を交わしていく。
と言っても、

「お待たせ」

霖之助は大した時間を掛けずに戻って来たので、雑談は直ぐに中断する事となった。
戻って来た霖之助は白い布に包まれた何かをカウンターの上に置き、布を取り払う。
取り払われた布の中からは、完全に修復された霊児の短剣が出て来た。
出て来た短剣を見て、

「お、綺麗に直ったな」

綺麗に直ったなと言う感想を霊児は漏らし、短剣を手に取って観察をしていく。
それを見ながら、

「僕としてはもう少し時間が掛かるとは思っていたんだが……君のお陰で緋々色金の扱いが上手く成っていた様でね。割と短期間で短剣を修復する事が出来たよ」

霊児のお陰で緋々色金の扱いが上手くなったと霖之助は零す。
霖之助が零した発言には皮肉が籠められていたのだが、

「礼を言って何も出ないぜ」

籠められた皮肉を無視するかの様に礼を言っても何も出ないと霊児は返し、手に持っている短剣を鞘に収める。

「別に礼は言ってないよ」

相変わらずの霊児を見て霖之助は思わず溜息を一つ吐き、

「今度からは気を付けてくれよ。僕のコレクションの緋々色金だってそう数は多く無いんだから」

緋々色金のコレクションの数はそう多くは無いのだから気を付ける様に言う。
神綺との戦いで一回、今回のフランドールとの戦い一回と合計で二回緋々色金製の短剣は破壊されてしまった。
だが、それは霊児が望んだ事では無い。
なので、

「前にも言った思うが、それは敵に言ってくれ」

霊児はそう言う台詞は敵に言ってくれと口にする。
そんな二人の会話を聞き、

「それはそうと、香霖の緋々色金のコレクションってそんなに数が少ないのか?」

霖之助の持つ緋々色金のコレクションの数は少ないのかと言う疑問を魔理沙は投げ掛けた。
何だかんだ言っても霖之助は破損した緋々色金製の短剣の修復をしてくれているので、緋々色金の数が多くは無いと言われても余りピンと来ないのであろう。
魔理沙から投げ掛けられた疑問に、

「結構前にも言ったとは思うが、緋々色金は非常に希少価値が高い金属だ。そうそう手に入る物じゃ無いよ」

霖之助は改めて緋々色金は非常に希少価値が高く、そう簡単に手に入る物では無い事を説明し、

「序に言うと、以前君に上げたミニ八卦炉の装甲等も緋々色金で構成されているよ」

中指で眼鏡を吊り上げながら魔理沙に上げたミニ八卦炉の装甲等も緋々色金で構成されている事を話す。
自分のミニ八卦炉にも霊児の短剣と同じ緋々色金が使われている事を知った魔理沙は、

「え?」

少し驚いた表情を浮かべながら懐からミニ八卦炉を取り出し、ミニ八卦炉の観察を始める。
魔理沙が取り出したミニ八卦炉に霖之助は視線を向け、

「それを作る時、最初は装甲等を緋々色金にする積りは無かったんだが……誰かさんが緋々色金製の短剣を十本も注文したせいで僕の感覚が狂ってしまった
様でね。出来る限り最高の物を……と考えていたら、何時の間にか緋々色金を使ってしまっていたんだよ」

緋々色金製の短剣を霊児が十本も注文したせいで、大した抵抗も無くミニ八卦炉の作成に緋々色金を使った事を呟く。
しかし、

「と言う事は、霊児の短剣と私のミニ八卦炉はお揃いって事になるな」
「同じ緋々色金を使ってから、そうなるか」
「えへへ……と、だったらミニ八卦炉を盾の様に使っても大丈夫かもな」
「緋々色金で出来ているから、多少の無茶で壊れる事は無いだろ。けど、術式を崩さない様にしろよ」
「あ、そっか。霊児の短剣は柄に術式が刻まれてるけど、私のミニ八卦炉はそうじゃ無いもんな」

魔理沙と霊児は霖之助の呟きを無視するかの様に緋々色金に付いての話しをしていた。
こう言うところは昔と変わらないなと霖之助は思いつつ、

「それで、用件は短剣の事だけかい?」

用件は短剣の事だけかと問う。
霖之助からの問い掛けに反応した霊児と魔理沙は話しを中断し、霊児が霖之助の問い掛けに対する答えを述べ様とした瞬間、

「どうもー!! 清く正しい射命丸文でーす!!」

香霖堂の扉が勢い良く開かれ、文が香霖堂の中へと入って来た。
行き成りやって来た来訪者ではあったが、霖之助は直ぐに表情を戻し、

「いらっしゃい、何か御入用かな?」

やって来た文に何か御入用かと尋ねる。
尋ねられた文は、

「いえ、用が在るのは霊児さん何ですよ」

御入用では無く霊児に用が在るのだと口にし、霊児の方へと近付いて行く。

「俺?」

自分に用が在ると口にされ、少し驚いた表情を浮かべた霊児に、

「はい!! そうです!!」

文は詰め寄りながら手帳を取り出し、

「最近、紅魔館の吸血鬼姉妹が博麗神社に住み始めたと言う噂を聞きましてね。その真偽を確かめに来たのです」

スカーレット姉妹が博麗神社に泊まっている事の真偽を確かめに来た事を伝える。

「……良くそう言った情報を仕入れて来れるな」
「私には独自の情報網と言うのが在るのです」

余り表立ってはいない情報を仕入れた文に霊児が感心していると、文は独自の情報網が在ると言って胸を張り、

「霊児さんの台詞から察するに、吸血鬼姉妹は博麗神社に泊まっている様ですね。そうはそうと、博麗神社って神や人間以外の存在は良く来訪しますよね。
いっその事、"博麗妖社"か"博麗魔社"に改名しませんか?」

霊児の台詞からスカーレット姉妹が博麗神社に泊まっている事を確信しつつ、博麗神社の改名を行ったらどうだと言う提案を行う。
確かに、全くと言って良い程に博麗神社には参拝客は来てはいない。
更に言えば、神社だと言うのに神も存在してはいないのだ。
はっきり言って、博麗神社は神社かと言われたら首を傾げてしまう様な有様である。
が、幾ら神社と言われて疑問を持つ様な神社でも改名する気は霊児には無い様で、

「しねぇよ」

しないと言う突っ込みを文に入れた。
その後、霊児は思い出したかの様に、

「そういや文って、俺より前の博麗とも付き合いが在ったんだよな?」

自分よりも前の博麗とも文は付き合いが在ったのだろうと言う話題を出す。
出された話題を、

「ええ。霊児さん程親しかった訳では在りませんが、歴代の博麗とは面識が在りますね」

文は肯定し、補足する様に歴代の博麗とは霊児程親しかった訳では無い事を伝える。
取り敢えず文が過去の博麗とも接点が在る事が分かったからか、

「だったら、参拝客は兎も角俺の神社の神とか見た事在るんじゃ無いのか? 俺は見た事無いけど」

ある意味当然とも言える疑問を投げ掛けた。
歴代の博麗と面識が在るのならば、一度位は博麗神社の神を見た事が在るのでは考えるのは自然だろう。
それはそうと、博麗神社の神を見た事は無いのかと言う疑問を投げ掛けられた文は腕を組んで記憶を過去に遡らせ、

「……私も博麗神社の神様は見た事は在りませんね」

自分も博麗神社の神を見た事は無いと言う結論を下した。
歴代の博麗との関わりが在る文でさえ博麗神社の神を見た事が無いと言う事実を知った霊児は、

「…………一体何時から俺の神社に神は居なくなったんだ?」

何時から自分の神社に神が居なくなったんだと言う言葉を思わず吐き出してしまったが、

「……翌々考えたら、神が居なくても俺は別に困らないんよな」

直ぐに博麗神社に神が居なくても困らないと言う事に気付き、何処か安心した様な表情を浮かべる。

「良いんですか、それで? 貴方、神職に携わる人間でしょうに……」
「その神職に携わる人間が良いって言ってるんだから良いんだよ」

文が呆れた様な表情で神職に携わる人間がそれで良いのかと言うと、霊児はその神職に携わる人間が良いと言っているのだから良いと返す。
神社に神など居なくても良い言う神職に携わる人間とは思えない発言をした霊児に、

「いっその事、新しく神様を祀ってみたらどうだ?」

魔理沙は新しく神様を祀ってみたらどうだと言ってみた。

「新しく祀るねぇ……」

魔理沙の発言を受け、霊児は少し頭を回転させていく。
一応頭を回転させる辺り、自分の神社に神が居ない事を砂の一粒程も気にしていないと言う訳では無い様だ。
暫しの間、頭を回転させた結果、

「……心当たりは秋姉妹だな。あいつ等、毎年秋になったら良く俺の神社に来るし」

秋姉妹の存在が霊児の頭に思い浮かんだ。
秋の神である秋静葉と秋穣子の二柱は、秋になると霊児の畑で育てている作物目当てで良く博麗神社にやって来る。
"紅葉を司る程度の能力"を持つ静葉と"豊穣を司る程度の能力"を持つ穣子の二柱を祀る事が出来れば、霊児に取って色々とプラスになるだろう。
なので、霊児が少し真面目に秋姉妹を祀る事を考え始めた時、

「あー……あの二柱を博麗神社に祀られるのは一寸困りますね」

文が待ったを掛けた。

「何でだ?」

待ったを掛けられた霊児は疑問気な表情を浮かべると、

「あの御二方が妖怪の山に住んでいるはご存知ですよね?」

文は確認を取る様に静葉と穣子の二柱が妖怪の山に住んでいるのは知っているだろうと聞く。

「ああ」
「あの御二方が妖怪の山に住んでいるお陰で妖怪の山は毎年豊作なのです。まぁ、秋以外の季節は秋と比べて採れる作物の量は結構劣りますが」

聞かれた事を霊児が肯定すると、文は秋姉妹が居るお陰で妖怪の山は毎年豊作である事を口にし、

「ですから、秋姉妹の御二方が居なくなると当然作物が採れる量が減ります。妖怪の山は結構な大所帯ですからね。下手をすると暴動が起きますよ」

続ける様に秋姉妹が妖怪の山から居なくなれば、食料難で暴動が起きる可能性が在る事を述べる。
妖怪の山は天狗を中心としたコミュニティではあるが、天狗の他にも数多の妖怪や神々も住んでいるのだ。
食糧難ともなれば、暴動の一つや二つは起こるであろう。
更に言えば、知恵も知能も無い妖怪などは妖怪の山を降りて暴れる可能性が出て来る。
そうなったら最悪の場合、幻想郷のパワーバランスが崩れてしまう虞が在る為、

「あー……それなら却下だな」

霊児は秋姉妹を自分の神社の神に祀ると計画を白紙に戻し、

「ま、別に俺のに神社に神が居なくても俺は困らないしこの儘で良いか」

自分の神社に神が居なくても良いと言う結論に達した。
色々と考えたと言うのに一周回って元の位置に戻っただけに終わった霊児に、

「結局、其処に落ち着くんですか」
「ま、こうなるとは思っていたけどね」

文と霖之助は呆れた表情を霊児に向けたが、

「霊児らしいと言えば霊児らしい、私はこれで良いと思うぜ」

魔理沙だけは霊児らしくて良いと言う。
そのタイミングで、再び香霖堂の扉が勢い良く開かれた。
再び勢い良く開かれた扉に反応した霊児、魔理沙、霖之助、文の四人は開かれた扉に目を向ける。
目を向けた先には、

「見付けましたよ、文さん!!」

犬走椛の姿が在った。
どうやら、香霖堂の扉を勢い良く開いたのは椛であった様だ。
椛の存在を認識した文が、

「あら、椛じゃない」

暢気な声を掛けると、

「『あら、椛じゃない』じゃありませんよ!! こんな所で何をやってるんですか!?」

椛は怒鳴る様にこんな所で何をやっているんだと言い放ち、文に近付いて行く。
怒鳴られる理由が分からないからか、

「何って……取材だけど」

疑問気な表情を浮かべ、首を傾げながら取材だと文は返す。
文から返って来た言葉を聞いた椛は呆れた表情を浮かべ、

「取材って……今日が何の日か覚えていないんですか?」

今日が何の日か覚えていないのかと問う。

「今日って……今日は私はフリーだけど?」
「それ、昨日の事でしょう」

問われた事に対する答えだと言わんばかりに文が今日はフリーだと言うと、椛からフリーなのは昨日だと言う言葉が伝えられる。
余りも予想外の言葉が伝えられてからか、

「……え?」

文は間の抜けた表情を浮かべ、

「……え?」

文の反応が予想外であったからか、椛も間の抜けた表情を浮かべてしまった。
お互い間の抜けた表情を浮かべた文と椛は、

「「……………………………………………………………………………………」」

暫しの間、無言で見詰め合う。
そして、見詰め合い始めてから幾らか時間が経った頃、

「…………本当?」

恐る恐ると言った感じで、文は本当かと確認を取る。
文としては一抹の希望を望んでと言った感じであったのだが、

「本当です」

無常にも、椛の口からは本当だと言う言葉を発せられた。
今日がフリーの日では無いと言う事実を知った文は、

「そう言えば、かなり徹夜して新聞を作った記憶が…………」

かなりの徹夜をして新聞を作った事を思い出す。
徹夜をして新聞を作ったと言う事から、

「新聞が完成したのと同時に力尽きた様に寝て、その儘丸一日以上寝てたんじゃないんですか? それで日付を間違えたんじゃ……」

椛は文が今日をフリーの日だと勘違いした理由を推察していく。
椛の推察から、

「若しかして……今日、私が出席しなければならない会議の日じゃ……」

今日は自分が参加しなければならない会議の日だと言う事に文が気付いた刹那、

「……大天狗様、カンカンでしたよ」

大天狗がカンカンに怒っている事を椛は文に伝える。
その瞬間、

「それでは、これにて失礼します!!」

表情を真っ青にさせた文が大慌てで妖怪の山へと素っ飛んで行った。
香霖堂の窓硝子を突き破って。
窓硝子を破壊され、外から吹いて来る風を感じつつ、

「…………これの修繕費、誰に請求すれば良いのかな?」

霖之助はポツリと破壊された窓硝子の修繕費は誰に請求すれば良いのかと呟く。
霖之助が零した呟きを聞いた椛は、

「……全額文さんにお願いします」

間髪入れずに修繕費は全額文に請求する様に言い、

「それはそれとして、この店の窓硝子が破損した原因の幾らかは私に在ります。ですので、窓硝子が割れた部分を私が塞ごうと思うのですが……良いでしょうか?」

香霖堂の窓硝子が割れた原因の幾らかは自分に在るので、自分が割れた部分を塞いでも良いかと尋ねる。

「後で僕がやらなければならないと思っていたんだが……やってくれるのなら大歓迎だ。木材などは店の裏手に在る物を使ってくれ」
「分かりました」

霖之助から割れた窓硝子部分を塞いでも良いと言う許可が取れた事で、椛は分かったと言いながら霊児と魔理沙の方に顔を向け、

「挨拶もそこそこですみません。この後……と言うか割れた部分を塞いだ後、妖怪の山で見回りの仕事が在りますので申し訳在りませんがこれで
失礼させて頂きます。と言うか大天狗様、幾ら先輩後輩の間柄だからって文さんの捜索を毎回私に一任しないで欲しいな。まぁ、私の能力を当て
にしている部分も在るんだろうけど……」

頭を下げながら妖怪の山での仕事が在る事を口にし、大天狗への愚痴を零しながら香霖堂の扉から外へと出て行った。
それを見届けた後、

「椛の奴、忙しそうだな。誰かと違って」
「そうだな、忙しそうにしてるぜ。誰かと違って」

霊児と魔理沙はからかいの霖之助に言葉を掛ける。
からかいの言葉と言っても、言っている事は事実である為、

「……はぁ、余計なお世話だよ」

霖之助は溜息を一つ吐き、余計なお世話と返す事しか出来なかった。
そんな霖之助を余所に、

「さて、私等はどうする?」
「んー……もう特にここでする事も無いし、帰るか」
「了解だぜ」

魔理沙と霊児はそろそろ帰ろうと言う事を決め、香霖堂の出口へと向って行き、

「次に来る時は何か買って行ってくれよ」
「買いたい物が在ったらな」
「札などを作る紙とかが無くなったら買うさ」

霖之助と軽い会話を交わし、香霖堂を後にする。
























「お、良い風だな」
「そうだな」

流れて来る風を感じ、霊児と魔理沙は良い風と言う感想を漏らす。
現在、霊児と魔理沙は草原でのんびりと日向ぼっこをしていた。
何故、博麗神社に帰った筈の二人が草原に居るのか。
答えは簡単。
帰りの道中でのんびり出来そうな草原を見付けたからだ。
序に言えば、急いで帰らなければならない理由が無いのも霊児と魔理沙が草原で日向ぼっこしている要因の一つであろう。

「それにしても、大分涼しくなって来たな。もう、夏も終わりかもな」
「だな。この分なら魔法の森が蒸し風呂状態から脱却する日も近そうだぜ」
「俺は魔法の森に住んで居ないから分からないが、そんなに酷いのか?」
「前にも言ったと思うが、魔法の森全体がムワッとしてるんだよ。おまけに、そのムワッとしたものが家の中でも発生するからなぁ……」
「あー……そりゃ大変だな」
「全くだぜ。ま、こんなのは今年の夏だけだと思いたいがな」

霊児と魔理沙が雑談を交わし、のんびりと過ごし始めてから幾らか時間が経った頃、

「ふあ……」

霊児は眠気を覚えたかの様に目元を擦り始めた。
目元を擦り始めた霊児を見て、

「どうしたんだ?」

魔理沙がどうかしたのかと声を掛けると、

「いや、少し眠くなって来ただけだ」

霊児から少し眠く眠くなって来たと言う言葉が返って来る。
こののんびりとした雰囲気で、眠気を誘われたのだろうか。
それはそうと、今にも眠ってしまいそうな雰囲気を霊児が出していたからか、

「なら……さ」

魔理沙は少し頬を赤く染めながら自分の膝をポンポンと叩き、

「ここ……空いてるぜ」

自分の膝は空いていると言うアピールを始めた。
どうやら、寝たいのなら自分の膝を使えと言っている様だ。
ともあれ、本格的に眠くなって来ていた霊児は、

「じゃ、そうさせて貰うぜ」

後頭部を魔理沙の膝辺り乗っける様にして体を倒し、

「適当な時間になったら起してくれ」

適当な時間になったら起こしてくれと頼む。

「お、おう。分かったぜ」

霊児の頼みを了承すると言う返事が魔理沙から返って来たので、霊児は目を瞑って夢の世界へと旅立って行った。























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