朝食を取り終え、暫らく経った頃、

「はぁー……平和だ」

霊児は縁側で茶を啜りながら平和だと漏らす。
何事も無く、のんびりと茶を啜れているのだ。
平和と称しても何の問題も無いであろう。
それはそうと、のんびりと茶を啜っている霊児の近くで、

「はい、チェック」
「なっ!?」

魅魔とレミリアがチェスをやっていた。
チェスをやっているのを見るに、レミリアは咲夜にチェス盤とチェス駒を持って来させた様だ。
兎も角、レミリアとのチェスで勝利を収めた魅魔は、

「これで、私の十連勝だね」

満面の笑顔で十連勝した事を口にする。
勝ち続けて機嫌が良さそうな魅魔に対し、

「くっ!! 将棋なら兎も角、何で私の得意なチェスでまで……」

負け続けているレミリアは当然とも言える様に思いっ切り悔しそうな浮かべ、自分の得意なチェスでまで負け続けると言うのに納得がいかないと呟く。
レミリアの呟きが耳に入ったからか、

「そりゃ、私はあんたよりも存在している年月が長いからね。その差さ」

自分とレミリアとでは存在している年月の差がかなり在ると言って、魅魔は挑発的な笑み浮かべる。
浮かべられた笑みから、魅魔が年月の差を理由に諦めるのかと言っている様に感じたレミリアは、

「うー……もう一勝負よ!!」

もう一度勝負すると主張して盤上の駒を元の位置に戻し始めた。
意地に成っているのか躍起に成っているのかは分からないが、レミリアが臆せずに再び勝負を挑んで来たからか、

「そうこなくっちゃ」

魅魔は嬉しそうな表情になりながらもう一勝負する件を了承する。
そんな二人の会話を耳に入れつつ、再び茶を啜り始めた霊児に、

「おーい、洗濯が終わったから其処の竹竿を使ってもいいかー?」

魔理沙が洗濯が終わったから竹竿を使っても良いかと聞いて来た。
聞かれた事に、

「おーう、使って良いぞー」

霊児は構わないと返す。
すると、

「分かったぜー」

分かったと言う返事と共に魔理沙は竹竿を手に取り、竹竿を木と木の間に設置する。
そして、設置した竹竿に洗濯物を干していく。
その様子を見ながら、遊んでいる二人は兎も角魔理沙が泊まり始めてからは楽が出来て良いなと霊児が思っている間に、

「霊児ー、卓袱台拭き終わったよー」

何時の間にか霊児の近くにやって来たフランドールが卓袱台拭きが終わったと言う声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児はフランドールの方に顔を向け、

「早かったな」

思っていたよりも早くに終わらせた事に驚いたと言った表情になる。
驚いた表情になった霊児を見て、

「頑張ったもん」

フランドールは自慢気な表情を浮かべながら胸を張った。
何故、フランドールが卓袱台拭きをしていたのか。
答えは簡単。
暇そうにしていたフランドールに霊児が卓袱台を拭く様に言ったからだ。
因みに、言われたフランドールは何の文句も言わずに卓袱台拭きを行った。
ずっと地下に籠もりっ切りの生活を送っていたので、拭き掃除でもフランドールの目には新鮮に映ったのだろうか。
理由はどうあれ、魔理沙に以外にも雑事などを行ってくれる人物がいたので霊児としては万々歳である。
ともあれ、フランドールはまだまだ働いてくれそうだっただったので、

「なら、次は廊下の雑巾掛けをしてくれ」

霊児はフランドールに雑巾掛けをする様に頼む。
頼まれたフランドールは、

「はーい」

元気良く雑巾掛けの件を了承し、雑巾を取りに向かう。
本来であれば自分がしなければならない炊事、洗濯、掃除と言った事を他の者が毎日やってくれているからか、

「あー……」

何とも幸せで、気の抜けた表情を霊児は浮かべ始めた。
何もせず、呑気に茶を啜れるという現状に至上の幸福を感じている様だ。
暫らくの間、霊児がのんびりとした時間を過ごしていると、

「随分平和と言うか呑気な顔をしてるいわね。霊児」

何者かが霊児の近くに降りて来た。
それに気付いた霊児は、顔を何者かが降り立って来た方に向ける。
顔を向けた先には、

「アリス」

アリスの姿が在った。
どうやら、やって来たのはアリスであった様だ。
霊児がアリスの存在を認識したタイミングで、

「おはよう」

アリスは挨拶の言葉を述べながら霊児の隣に腰を落ち着かせる。
シレッと我が物顔で座って来る辺り、こいつもこいつで中々に図々しいなと霊児は思いつつ、

「何か用か?」

何の用件でやって来たのかと問う。
問われた事に、

「貴方に……と言うより、ここの神社に居候している存在に用が在るのよ」

霊児では無く博麗神社に居候している二人に用が在る事を話す。
現在、博麗神社に居候している者と言ったら魔理沙、魅魔、レミリア、フランドールの四名。
魔法使いであるアリスなら同じ魔法使いである魔理沙か魅魔に用があると考えられるが、この二人に用があるなら態々居候している存在とは言わないであろう。
付き合いもそれなりに長いのだから。
となれば、

「用が在るのはレミリアとフランドールか?」

用が在るのはレミリアとフランドールの二人かと霊児は予想し、予想が合っているのかの確認を取る。
霊児が抱いた予想を、

「正解」

アリスは正しいと言ってレミリアの方に視線を移す。
視線を移した先に居るレミリアは、魅魔とのチェスに熱中していてアリスが来た事には気付いてはいない様だ。
チェスに熱中しているレミリアを見て、暫らくは話を聞けそうに無いとアリスが思った時、

「処で、レミリアとフランドールに何の用が在るんだ?」

霊児からスカーレット姉妹に何の用が在るんだと言う疑問が投げ掛けられた。
投げ掛けられた疑問にアリスは、

「近い内に人里で人形劇を開く予定でね」

近い内に人里で人形劇を開く予定である事を伝え、

「因みに内容は悪魔に攫われたお姫様をナイトが助けるって言うある種の典型的なものよ」

続ける様に人形劇の内容を話す。
ここまでの話を聞く限り、別にスカーレット姉妹に用が在るとは思えなかったが、

「けど、お姫様は兎も角として……悪魔とナイトに関しては資料が少々不足してるのよね」

悪魔とナイトに関する資料が少し不足していると言う発言をアリスが零した事で、

「成程。それがレミリアとフランドールに会いに来た理由って訳か」

霊児は納得したと言った表情を浮かべた。
霊児の浮かべた表情を見て、

「そう言う事。吸血鬼は悪魔に分類されるから、作る人形の悪魔の翼のデザインに彼女達の翼を参考にさせて貰おうと考えたのよ。それに紅魔館になら
西洋の鎧とかも飾っていそうだから、それも見せて貰おうと思ってね」

スカーレット姉妹の翼や紅魔館に在るであろう西洋の鎧を作る人形の参考にさせて貰うと言う予定をアリスは口にする。
アリスが口にした事を耳に入れた霊児は、現在の紅魔館は廃墟同然の有様に成っているが鎧とかは残っているのかと言う事を思いつつ、

「そういや、何でここにレミリアとフランドールがここに居るって分かったんだ?」

博麗神社にスカーレット姉妹が居る事が分かったのかと言う事を聞く。
聞かれた事に対する答えとして、

「天狗の新聞に、『紅魔館の吸血鬼姉妹、博麗神社に居候!!』って言う記事が書かれていたからよ」

アリスは天狗の新聞にスカーレット姉妹が博麗神社に居候していると言う記事が書かれている事を教える。
天狗の新聞と言う事で、霊児は"文々。新聞"の存在を頭に思い浮かべた。
少し前に文が博麗神社にスカーレット姉妹が居候している事の真偽を確かめていたので、その時の事を記事にしたのだろう。
後で今日配られたであろう"文々。新聞"に目でも通して置こうかと考え始めた霊児に、

「其処に在るお煎餅、頂いても良いかしら?」

アリスが置いて在る煎餅を食べても良いかと尋ねて来た。
煎餅と言う単語で、霊児は近くに置いて在る煎餅が入った小皿の存在を思い出す。
どうやら、茶を啜る事に夢中で煎餅の存在を忘れていた様だ。
それはそうと、煎餅の存在を今の今まで忘れていたからか、

「ああ、別に良いぞ」

煎餅を食べても良いと言う許可を霊児は出す。
許可を出された事で、

「ありがとう」

アリスは礼の言葉を言いながら煎餅を一枚手に取って齧り、

「あら、美味しい」

美味しいと言う感想を漏らした。
アリスの感想を聞き、

「人里でも有名な店の物だからな」

人里でも有名な店の物なのだから美味いのはある意味当然と霊児は言い、煎餅を手に取って齧っていく。
二人揃って煎餅を齧り始めてから少し経った頃、

「私、洋菓子とかは作るけど和菓子とかは作った事が無いのよね。これを期に、和菓子を作る練習でも始めてみ様かしら」

アリスが洋菓子などは作るが和菓子は作った事が無いので、これを期に和菓子を作る練習を始めてみ様かと思案し始める。
そのタイミングで

「アリスちゃんが作った和菓子なら、食べてみたいわー」

霊児の隣、アリスが腰を落ち着かせている場所の反対側から呑気な声が聞こえて来た。
突如として聞こえて来た声に反応した霊児とアリスは、少し驚いた表情を浮かべながら声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「神綺」
「神綺様」

魔界の創造神である神綺の姿が在った。
予想外の人物が居た事で少々面喰っている霊児とアリスを余所に、

「少し久し振りね、アリスちゃん」

神綺はアリスに久し振りと言う言葉を掛ける。

「……え、ええ。お久し振りです、神綺様」

声を掛けられた事に気付いたアリスは意識を取り戻したかの様に久し振りと言う言葉と共に頭を下げた。
アリスが頭を下げたのを見届けた神綺は、

「それに貴方と会うのも少し久しぶりね、霊児」

霊児にも久し振りと言う言葉を掛け、霊児の方に顔を向けると、

「あら? 一寸見ない内に随分と大きくなったわね。貴方」

少し驚いた表情を浮かべながら霊児が大きくなった事を指摘する。
神綺からの指摘に、

「俺は人間だぞ」

自分は人間だと言う答えを霊児は返す。

「……ああ、そう言えば貴方は人間だったわね」

返された答えで神綺は霊児が人間である事を思い出し、

「私にとっては一寸でも、貴方ならそれだけ成長するのには十分な時間なのよね」

何処か感慨深そうな表情になった。
自分が人間である事を忘れていた神綺に霊児は少し腹を立てたが、ここで腹を立てても何の意味も無いと判断し、

「それで、何の用だ? 世間話でもしに来たのか?」

話を変えるかの様に何の用で博麗神社へとやって来たのかを聞く。
博麗神社にやって来た用件を聞かれた神綺は表情を少し真面目なものに変え、

「実はね、貴方に頼みたい事があるの」

霊児に頼みたい事があると口にする。
魔界の創造神である神綺からの頼みと言ったら魔界絡みの事であろうか。
ともあれ、頼みたい内容を知らなければ話は進まないので、

「頼みねぇ……何だ?」

頼みの内容を話す様に霊児は促す。
促された事で、

「ええ、実は……」

神綺は頼みたい内容を話し始めた。























神綺の話を聞き終えた霊児は、

「……つまり魔界で一寸した大会があり、それにポケットマネーを全部突っ込んでしまったから何が何でも勝つしかない。だけど、自分は出場する事が
出来ない。おまけに夢子と言ったお前直属の存在も出場出来ない。だから、俺に出場してくれと?」

神綺の話を纏め、これで合っているかと言う確認を取る。
霊児が纏めた内容を、

「ええ、要約するとそんな感じね」

神綺は正しいと断言した。
その瞬間、

「馬鹿だろ」
「馬鹿ですか」

霊児とアリスから馬鹿だろうと言う突っ込みが入る。
まぁ、話の内容を聞く限り馬鹿と言う突っ込みが入っても仕方が無いと言えば仕方が無い。
それはそうと、霊児とアリスの二人から手厳しい突っ込みを入れられた神綺は、

「し、仕方が無いじゃない!! 私が出れないのまでは予想出来たけど、私直属の子も駄目だなんて予想出来なかったんだもん!! 夢子ちゃんなら楽勝に
優勝出来ると踏んでたのにー!!」

若干涙目に成りながら霊児の両肩を掴み、ガクガクと両肩を揺すりながら言い訳をし始めた。
神綺の言い訳は兎も角、両肩を揺すられている霊児の心境は堪ったものでは無い。
なので、

「お、落ち着け。てか、俺と戦った時に見せた威厳はどこへ行った?」

霊児は神綺に落ち着かせる様に、自分と戦った時の威厳はどうしたと言い聞かせる。
そう言い聞かせたからか、神綺は霊児の両肩を揺すると言う行為を止めた。
が、

「毎日毎日威厳を出していても疲れるだけでしょ。だから、必要時以外は大体こんな感じよ」

止めたのは両肩を揺すると言う行為だけで、威厳が無いのは普段の状態であると言う様な事を口にする。
神綺が口にした事はともあれ、自分の両肩から神綺の手が離れて揺すられる事が無くなったので、

「あっそ」

興味が無くなったかの様に霊児は再び茶を啜り始めた。
霊児の態度から神綺は霊児に見捨てられたと思い、

「あーん!! 無視しないでー!!」

再び涙目の状態に成りながら再度霊児の両肩を掴んで揺すり、

「私と貴方の仲でしょー!! 私を助けると思ってー!!」

自分を助けてと言う懇願をする。
しかし、先程両肩を揺すられた事で揺すられると言う行為に耐性が出来たからか、

「どんな仲だよ。俺とお前って殺し合い以外何かしたか?」

霊児は動じた様子を欠片も見せずに殺し合い以外の事をしたのかと言いながら茶を啜り続けていく。

「あの後、一緒に宴会したでしょー!!」

殺し合い以外にも一緒に宴会をした事を神綺は話したが、

「そうですねー」

だからどうしたと言わんばかりの態度を霊児は示し、神綺を適当にあしらいながら茶を啜る事を止めなかった。
そして、煎餅を一枚手に取って齧り、

「あー……この煎餅は美味いな、やっぱり」

齧った煎餅の感想を漏らす。
神綺の懐事情などどうでも良いと言わんばかりに。
今までの流れから、霊児に神綺を助ける気など全く無いと思われたその時、

「助けてくれたら、魔界の美味しいお酒をプレゼントするからー!!」

神綺が取り敢えず言ってみたと言う台詞に、

「……ッ」

霊児は思いっ切り反応を示す。
霊児が示した反応から脈有りと判断した神綺は、

「序に、美味しい食べ物やお菓子も付けるけど?」

畳み掛ける様に自分を助けてくれたら美味しい酒の他にも食べ物やお菓子も付けると言う。
美味しい酒、食べ物、お菓子と言った物に惹かれたからか、

「……仕方が無いな。その大会、出てやろうか」

急に態度を変えたかの様に霊児は魔界で開かれる大会に出場する事を決めた。
酒や食べ物と言った存在に容易く釣られた霊児に、

「貴方って、結構扱い易いのね」

呆れた表情をアリスは向けた。
流石に今代の博麗が酒や食べ物に釣られたと言う事実が在っては不味いからか、

「……違うぞ、俺は神綺の為に戦おうと思っただけだ」

酒や食べ物に釣られた訳では無く、神綺の為に戦おうと思ったと言う主張をし出す。
霊児の主張は明らかに苦し紛れに出した言い訳であったが、

「はいはい、そう言う事にして置いて上げるわ」

アリスは霊児の主張通りして置いて上げると口にし、煎餅を齧る。
取り敢えず自分の体面を護れた事を感じた霊児は、場の雰囲気を変えるかの様に背後に畳んで置いた羽織りを着込んで立ち上がり、

「それで、大会ってのは何時始まるんだ?」

大会は何時始まるのかを問うと、

「今日よ。正確に言うと、これから直ぐに」

これから直ぐにと言う答えが神綺から返って来た。
同時に、神綺は立ち上がって霊児の手を取り、

「さ、行きましょ」

空間転移の術を発動させる。























「おー……」

一瞬よりも短い時間で魔界に着いた事に霊児は感心しながらポケットに入れて在る夢美から貰ったグローブを取り出し、

「お前ってこう言う術も使えたんだな」

グローブを手に着け、こう言った術も使えたんだなと口にする。
霊児が口にした事を聞いた神綺は、

「そりゃ、魔界の創造神だもの。これ位の事は朝飯前よ」

魔界の創造神である自分に取ってはこれ位は朝飯前と言って胸を張り、

「さ、早く行きましょう」

早く行く様に促し、足を進め始めた。
足を進めた神綺の後を追う様にして霊児も足を進めて行く。
霊児と神綺の二人が足を進め始めてから少しすると、出店や露店と言った物は二人の目に映り始めた。
出店や露店と言った物を見て、

「出店や露店が多いな」

そう言った物が多いなと霊児は呟く。
霊児の呟きが耳に入った神綺が、

「そりゃ大会と言ってもお祭りの様なものだからね。こう言ったお店が並ぶのは当たり前よ」

大会と言ってもお祭りの様なものなのだからこう言った店が並ぶのは当然と返した時、

「あれ、神綺様じゃないですか」
「……神綺様」

誰かが神綺の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
聞こえた声に反応した霊児と神綺は足を止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先に居た人物を見て、

「あら、ユキちゃんとマイちゃんじゃない」

神綺はユキとマイが自分の名を呼んで来たのだと理解した。
同時に、ユキとマイの二人を見た霊児が魔界に突入した時の事を思い出していると、

「そう言えば、神綺様が出場させる選手は決まったんですか?」
「……ユキ、神綺様の隣。多分、隣に居る人が出場選手」

ユキとマイの二人は神綺の出場選手に付いての話をし始め、霊児の方に視線を移す。
その瞬間、

「あれ? その人、何処が見た様な……」

ユキは霊児を何処かで見た事があると感じ、頭を捻らせ始めた。
頭を捻らせているユキの隣でマイはジッと霊児の顔を見詰め、

「……この人、前に魔界に突入して来た一味の中に居た男の子」

神綺の隣の居る霊児が以前、魔界に突入して来た一味の男の子である事に気付く。
マイが気付いた事に呼応するかの様に、

「ああ、あの時の……」

ユキは霊児達が魔界に突入して来た時の事を思い出し、

「……あれ? あの時の子にして随分と大きくなってない?」

あの時よりも随分と大きくなった霊児に疑問を覚える。
ユキの反応からこいつも自分の事を人間である事を忘れていたのかと霊児が思った刹那、

「……ユキ、あの時の男の子は人間。だから、私達に取っては大した事が無い年月でも人間ならこれだけ成長していても不思議では無い」

マイが霊児は人間であると言う指摘を行った。
マイからの指摘で、

「ああ、成程。だったら納得……」

納得したと言った表情をユキは浮かべたが、直ぐに浮かべた表情を強張らせ、

「あのー……若しかして、神綺様の出場選手ってさっきマイが言った通り……」
「ええ、そうよ。彼、博麗霊児が私の選手」

恐る恐ると言った感じで霊児が出場選手かと問うと、神綺は間髪入れずに肯定の返事をする。
神綺の出場選手が霊児である事を知ったユキは、

「そんなー……私とマイとでワンツーフィニッシュする計画がー……」

自分とマイとでワンツーフィニッシュする計画が崩れ去った事を確信し、がっくりと肩を落としてしまった。

「あらあら、諦めるのはまだ早いんじゃないかしら?」
「……神綺様に勝つ様なのが相手では、私やユキじゃ勝てる可能性は極めて低い」

肩を落としたユキに神綺が諦めるのはまだ早いと言うと、マイが神綺に勝つ様なのが相手では自分とユキでは勝率が極めて低いと漏らす。
二人の会話が耳に入ったからか、

「諦めるのが早いって……神綺様、私達を含めた誰もが彼に勝てる訳が無いって確信してますよね」

ユキは神綺にどうせ霊児には誰も勝てる訳が無いと言う確信を得ているのだろうと言う突っ込みを入れる。
中々に的確な突っ込みではあったが、

「うふふ、どうかしらー?」

突っ込みを入れられた神綺は屈託の無い笑みを浮かべ、真意を分からせなくする様な発言を口にした。
相変わらずとも言える神綺の態度にユキとマイ溜息を一つ吐き、

「はぁ、夢子さんが出場しないから優勝を狙えると思ったんだけどなー」
「……参加せずにルイズの様に観戦してれば良かったかも」

愚痴を零していく。
まぁ、自分達でワンツーフィニッシュを狙うと言う予定を完全に崩されたのだ。
愚痴の一つや二つ、言いたくもなるだろう。

「……大会、どうする?」
「……取り敢えず、上位を目指しましょ。具体的に言うと、賞金が出る辺りを」

愚痴を零していたマイとユキの二人がワンツーフィニッシュでは無く、賞金が入る順位を目指そうとしたタイミングで、

「それじゃ、私達はそろそろ行くわね」

神綺はそろそろ行くと言う事を伝え、足を進めて行く。
確かに、余りのんびりとしていては不戦敗になってしまう可能性があるので急いだ方が良いかもしれない。
なので、霊児も足を進め始める。
去って行く霊児と神綺の見たユキとマイは、

「余計な心配とは思うけど、気を付けてね」
「……私と当たったらお手柔らかに。何だったら、負けてくれても可」

それぞれ思い思いの言葉を掛け、二人の背を見送った。























ユキとマイの二人と会ってから幾らか経った頃、

「へぇー……かなり大きい会場だな」

霊児の目にはかなり大きな大会会場が映った。
大会会場に少し目を奪われている霊児に、

「大会会場と言うよりはコロシアム、闘技場と言った方が正しいかもしれないわね」

神綺は大会会場と言うよりはコロシアムや闘技場と言った方が正しいと口にし、

「あ、ルールだけど殺生と飛行、武器と道具使用は禁止されてるからね。敗北条件はリングアウトにダウンしてからの10カウント、気絶で負けよ」

大会のルールに付いての説明を行う。
神綺から大会のルールを説明された霊児は、

「大体分かった」

装備している五本の短剣を抜き取り、

「ちゃんと持ってろよ」

抜き取った五本の短剣を神綺に渡す。

「はいはい、分かっているわよ」

神綺が自分の短剣を受け取ったのを見届けた後、霊児は大会会場内に入ろうとする。
その時、

「神綺様!!」

大会会場の方から夢子が慌てた表情で霊児達が居る方にやって来た。
やって来た夢子を見て、

「あら、夢子ちゃん。どうしたの?」

神綺は呑気な表情と声色でどうしたのかと問う。
慌てている自分とは対照的に呑気にしている神綺に夢子は若干呆れながら、

「どうしたのって……って、そちらの方は?」

突っ込みを入れ様としたが、突っ込みを入れる前に神綺の隣に居る霊児は誰だと聞く。
やはりと言うべきか、夢子も霊児の事が誰か分からなかった様だ。
こいつも自分の事を人間である事を忘れているのかと霊児が思っている間に、

「霊児よ霊児。ほら、前に魔界に突入して来た」

霊児が誰なのかを神綺は夢子に伝えると、

「霊児……ああ、あの時の……」

夢子は霊児の存在を思い出し、

「人間は成長が早いものですね……」

感慨深そうな表情を浮かべた。
が、直ぐに浮かべていた表情を何かに気付いたものに変え、

「若しかして、彼を参加させる御積りですか?」

霊児を大会に出場させる気なのかと尋ねる。

「ええ、そうだけど」
「なら、早く彼を会場へ!! もう試合が始まりますよ!!」

尋ねられた事に神綺が肯定の返事をしたのと同時に、夢子は慌てた口調でもう試合が始まる事を口にした。

「ええ!! もうそんな時間!?」
「おい…………」

試合がもう始まる事を知り、慌てふためいている神綺を霊児は呆れた視線で見る。
霊児からの視線を感じ取った神綺は、

「だって、まだ時間があると思ったんだもん!!」

可愛らしさで誤魔化さそうとした。
そんな神綺に、

「……神綺様は少しのんびりし過ぎです」

夢子は霊児と同じ様に呆れた視線を向け、

「どうしてこう、オンとオフとで差が激しいのかしら」

疲れを吐き出すかの様に溜息を一つ吐く。
そして、

「それはそうと、早く試合会場に向って頂けませんか? 早くしなければ不戦敗で神綺様のポケットマネーが消え去ってしまうので……」

霊児に早く大会に出場する様にお願いして来た。

「あ、お前もその事を知ってたのか」

夢子も神綺のポケットマネーが賭けられている事を知ったいたと言う事実に霊児は少し驚くも、

「ま、報酬の為にも軽く優勝して来てやるよ」

報酬の為に軽く優勝すると言いながら体を少し屈め、跳躍を行う。
跳躍を行った霊児の勢いは強く、大会会場を飛び越してしまうと思われたが、

「よっ……と」

大会会場を跳び越す前に霊児は急降下を取ってリングに着地する。
突如としてリングに降り立った霊児に呆気に取られたからか、観客、対戦相手、アナウンサーの全てが言葉を失ってしまった。
全員が言葉を失っている間に霊児は周囲を見渡し、改めて大きい会場だと言う感想を抱く。
同時に、妖怪の山で開かれた大会の事を思い出す。
あの大会会場も中々に広く大きかったが、この大会会場はそれとは比較に成らない程に広く大きい。
序に言えばリングの大きさも観客の数の多さも段違いだ。
霊児がついつい記憶の中に在る妖怪の山の会場と魔界の会場を比べている間に、アナウンサーは気を取り直し、

『あ、あのー、貴方が神綺様サイドの選手ですか?』

霊児に神綺側の選手なのかと問う。
問われた事で霊児は意識を現実へと戻し、

「ああ、そうだ」

肯定の返事を返す。
霊児が神綺側の選手ある事を肯定したので、

『それでは、一回戦Aブロック第十七試合……始め!!』

アナウンサーは試合開始の宣言をする。
試合開始の宣言がされたのと同時に、

「ほう、お前が俺の対戦相手か」

対戦相手が霊児に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は、自分の対戦相手に視線を向ける。
視線を向けた霊児の目には、灰色の肌をした二足歩行で筋骨隆々の猪と言った存在が映った。
因みに、大きさは霊児の五倍程。
見た目からしてパワー自慢かと霊児が思っていると、

「ふん、相手が人間の小僧っ子とはな。この試合は貰ったな」

対戦相手が挑発を掛けて来た。
掛けられた挑発に、

「良いからさっさと掛かって来いよ。試合はもう始まってるんだからさ」

霊児は余裕綽々と言った態度を見せ付ける。
霊児の態度がまるで路肩の石を蹴飛ばす様なものであると感じた対戦相手は、

「ふん、ほざいたな!!」

怒り狂ったかの様にリングを蹴って霊児に近付き、霊児の顔面に拳を叩き込んだ。
叩き込まれた拳の威力はかなり高かった様で拳が叩き込まれた霊児の顔面からは大きな激突音が響き渡り、衝撃波が発生した。
放った拳から確かな手応えを感じ取った対戦相手は自身の勝利を確信し、口元を吊り上げる。
しかし、

「何だ、これで終わりか?」

拳を叩き込んだ霊児から平時と変わらない声が発せられた為、対戦相手は吊り上げていた口元を下げて表情を氷らせてしまう。
そして、恐る恐ると言った動作で拳を離した対戦相手の目には、

「なぁ……」

傷は勿論、痣の一つも負ってはいない霊児の姿が映った。
自分の渾身の一撃を受けても何のダメージも受けていない霊児に、対戦相手は恐れ慄いたかの様に後ろに下がる。
その瞬間、霊児は対戦相手の懐に入り込み、

「しっ!!」

対戦相手の腹部に肘打ちを叩き込む。
肘打ちを叩き込まれた対戦相手が踏鞴を踏む様に数歩後ろに下がったタイミングで、霊児は跳躍し、

「らあ!!」

対戦相手の顎を蹴り上げる。
顎を蹴り上げられて対戦相手が体を宙に浮かせ、目の前に対戦相手の腹部が来た刹那、

「はあ!!」

霊児は対戦相手の腹部に蹴りを叩き込み、対戦相手を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた対戦相手はその儘リング外まで飛んで行き、観客席の下の方の壁に激突してズルズルと落下しながらリング外に腰を落ち着かせた。
余りにも突然で、余りにも圧倒的で呆気無い決着に観客とアナウンサーが思わず言葉を失っている間に、

「ま、これだけパフォーマンスすれば遅刻した事に何か言われたりはしないだろ」

ポツリとその様な霊児は呟く。
すると、それを合図にしたかの様に観客席から大きな歓声がドッと湧き始めた。























一回戦を圧倒的とも言える強さで勝ちを収めた霊児は、その後も順調に勝ち進んで優勝をその手に掴んだ。
そして現在、

「はい、約束通り魔界のお酒と食べ物とお菓子よ」

霊児は神綺から約束の報酬を受け取っていた。
因みに、報酬は全て荷車に乗せられている。
ポケットマネーが無くなる処か大きく増えたので、色々とサービスしてくれた様だ。
それはそうと、荷車に乗っかっている報酬に一通り目を通した後、

「てっきり夢子位の強さ持ってる奴も出場して来るかもって思ってたんが、そんな事は無かったな」

出場した大会に夢子位の強さを持った者が出場して居なかった事を霊児は呟く。
霊児の呟きが耳に入った夢子と神綺は、

「まぁ、魔界は広いですからね。それにこの大会は魔界全土ではなく魔界の極一部で開催されたものですし」
「序に言えば、夢子ちゃん位の強さを持った存在なんて私は見た事は無いわね。今まで魔界に住んでいて私に接触して来た者の中で夢子ちゃん位の強さを持った
存在は居なかった。大体夢子ちゃん位の強さを持っているのなら私に取り入ろうとするか、私の命を狙って私に接触を計ろうとする個人や団体が居ても可笑しく
は無いしね。だから、夢子ちゃん位の強さを持った存在は居たとしても極僅の筈よ」

今回の大会は魔界の極一部である事と、夢子位の強さを持った存在など極僅かしないと言う事を口にする。
夢子が口にした事よりも神綺が口にした事の方が気に掛かった霊児が、

「そうなのか? てか、お前って魔界の全てを知っている訳じゃ無いんだな」

神綺の方に顔を向けながら一寸した疑問を述べると、

「私は魔界の全てを創った創造神。故に最初期に創ったものなどは全てと言って良い程に把握しているわ。けど、その後に育まれたものなどは別。
何故かと言うと、それ等に関しては私は全く関知していないから。だから、何所に誰が居てどんな力とどれだけの力を持っているのかって言うのは
全然分からないのよ。地理や地形、建造物と言ったものも含めてね。まぁ、私のお家であるお城近辺の事とかは別だけど」

気分が良いからか、神綺は霊児の疑問に対する答えを教えてくれた。
教えてくれた事を頭に入れ、言われてみたら確かにその通りだと霊児が思っている間に、

「そうそう。貴方から預かっている短剣を返して置くわ」

神綺は霊児から預かっていた短剣を全て霊児の鞘に転送させる。

「お……」

預けていた短剣が戻って来た事を確認した霊児は、

「じゃ、俺を博麗神社に帰してくれ」

神綺に自分を博麗神社に戻す様に言う。

「ええ、分かっているわよ」

言われた事に神綺は分かっていると返しながら霊児に片手を向け、

「それじゃ、またね」

またねと言う言葉と共に転移魔法を霊児に掛けた。























見えていた光景が一変した事に気付いた霊児は、

「……と、戻って来たか」

博麗神社に戻って来た事を理解し、視線を上空へと向ける。
視線を上空へと向けた霊児の目には、既に落ち始めている太陽が映った。
今現在の太陽の状況から、

「あー……魔界で何か食ってから帰ってくれば良かったな」

魔界で何か食べてから帰ってくれば良かったと言う愚痴を霊児は零す。
そして、持って来た荷車に向けると、

「お、霊児!!」

魔理沙が霊児の方へと近付いて来た。
近付いて来た魔理沙の方に霊児が顔を向けた時、

「おかえり」

霊児の正面にまで来ていた魔理沙が出迎えの言葉を掛ける。
掛けられた出迎えの言葉に、

「ああ、ただいま」

霊児はただいまと返す。
その後、

「アリスから聞いたぜ。魔界で開かれた大会に出場して来たって」

アリスから魔界の大会に出場したと言う話しを聞いたと言う事を口にし、荷車に目を向け、

「あれが大会の優勝賞品か?」

大会の優勝賞品かと問う。
問われた事に、

「ああ、そうだ」

肯定の返事を霊児が肯定すると、魔理沙は荷車に乗っている食べ物等を見て、

「折角だし、今日は宴会を開かないか?」

宴会を開かないかと言う提案をして来た。
魔界から持って来た酒、食べ物、お菓子はかなりの量なので、宴会をやる分には何の問題も無い。
序に言えば、持って来た物を全て食料庫に入れる事は出来ないだろう。
腐らせる位なら、早々に消費させた方が良いと霊児は判断し、

「そうだな、宴会開くか」

宴会を開く事を決める。
すると、

「よし!! じゃ、私はこれから色々な所に声を掛けに行くぜ!!」

魔理沙は箒に跨って空中に躍り出て、宴会が開かれる事を知らせに回ると言って素っ飛んで行った。
こうして、日が暮れ始めた辺りで宴会が開催される事となる。
余談ではあるが、開催された宴会に神綺、夢子、ユキ、マイ、ルイズと言った魔界の面々も何時の間にか参加していた。
尤も、宴会と言う場なので魔界の面々が参加している事を誰も咎める事はしなかったが。
まぁ、何時も通りの宴会と言えばそれまでである。
ともあれ、開かれた宴会は大いに盛り上がったと言う。























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