昼下がりの博麗神社。
霊児は、

「はぁ……」

縁側で茶を啜り、一息吐いていた。
のんびり、まったりとした表情を浮かべながら。
そんな霊児の隣で、

「はぁー……霊児の淹れる茶は相変わらず美味しいぜ」
「全くだね。料理何て鍋料理位しか出来ない癖に茶を淹れるのだけは超一流だね」
「ふむ……お茶を淹れると言う事だけに関しては確実に咲夜を上回ってるわね」
「紅茶とはまた違った感じの味……」

魔理沙、魅魔、レミリア、フランドールの四人が霊児と同じ様に茶を啜っていた。
普段であれば、霊児以外の四人はこの時間帯には何かしらの行動を取っている。
が、今日に限っては魔理沙、魅魔、レミリア、フランドールの四人は特に何かをすると言う事をしなかった。
なので、この五人はこうやってのんびりと茶を啜っているのだ。
五人が茶を啜り始めてから少し経った頃、少し強めの風が吹いて来た。
吹いて来た風をその身に受けたからか、

「それにしても、大分涼しく成って来たわね」

レミリアは大分涼しく成って来たと呟く。
レミリアの呟きに相槌を打つかの様に、

「まだ暦の上では夏だけど、後何日かすれば秋に成るからね」

後何日かすれば暦の上では秋に成ると言う事を魅魔は返す。
それが耳に入った霊児はふと、今年の夏に起きた事を思い出してみた。
今年の夏と言えば、魔界に突入した時以来の大きな異変が起きた事が真っ先に思い出される。
で、その異変の首謀者が異変を解決した者の神社に居候して茶を啜っているのだから人生分からないものだ。

「……ふぅ」

茶を少し啜り、レミリアが起こした異変を皮切りに異変が立て続けに起きなければ良いなと言う事を霊児が思っていると、

「ねぇねぇ、秋に成れば紅魔館も直るかな?」

フランドールがレミリアに秋に成れば紅魔館も直るかと問う。
問われた事に、

「そうねぇ……咲夜からの定期報告を聞く限り、秋に入って半ば位に成れば修復は完了するんじゃないかしら?」

レミリアは咲夜から報告を思い出し、秋の半分辺りで紅魔館は直るだろうと言う予測を立てる。
レミリアの立てた予測を聞いた聞いた魔理沙は、

「へぇー、もう直るのか。私もあの時あの場に居たが、紅魔館の惨状を見るにもっと時間が掛かると思ってたぜ」

少し驚いた表情を浮かべた。
まぁ、殆ど廃墟と化していた紅魔館がもう少しで直ると言うのだ。
驚くのも無理はない。

「少し前にパチェが図書館の散らばった本の整理やら崩れたり壊れたりした本棚の整理やら修復が終わったって言う報告を受けたから、パチェが
紅魔館の修復を手伝ってくれてるんじゃないかしら?」
「ああ、成程。瓦礫の整理や撤去、一寸した破損程度なら魔法でどうにでもなるしね」

驚いている魔理沙にレミリアが想定以上の早さで紅魔館は直っていっている理由の予想を述べると、魅魔は納得した表情になる。
納得した魅魔とは違って霊児は大して魔法に詳しく無いからか、

「魔法ってそう言う便利なのも在るのか?」

思わず魅魔にそう言った便利な魔法が在るのかと聞く。
聞かれた魅魔は、

「そりゃ魔法だからね、そう言った魔法も含めて色々あるよ。補足して置くと、習得するのに千年以上掛かったり、特殊な条件の基や何らかの代価を払って
使えるもの、魔力の消費が異常に激しいものと言った、習得難易度が高いものや禁術と呼ばれるものもあるよ」

肯定の返事と共に幾つかの魔法の種類に付いて話し、

「因みに、整理整頓の魔法は習得難易度としては比較的優しい部類に入るよ。まぁ、私が魔理沙を弟子に仕立ての頃に教えた魔法の一つでもあるんだけどね」

整理整頓の魔法の習得難易度と、その魔法を弟子に仕立ての頃の魔理沙に教えた事を口にして、

「この子は一つの事に熱中すると直ぐに周りが見えなくなる癖が在ったりするからね。そう言った系統の魔法を最初の頃に教えないと家に足の踏み場が無く
成ったり、実験用の器具やら本などが何処に行ったか分からないって何度も言い出す事になるのが容易く予想出来たから最初の方で教えたんだよ」

教えた経緯を言いながら魔理沙の方に顔を向ける。
魅魔が言った事は正しいからか、

「あ、あはははは……」

魔理沙は苦笑いを浮かべながら魅魔から顔を逸らす。
その後、魔理沙の方に向けていた顔を正面に戻し、

「それにあの子は属性魔法の使い手だろ。だったら外壁用のブロックを生み出したりも出来るだろうから、修復の効率も上がるだろうさ」

パチュリーの扱う魔法なら紅魔館の修復効率を上げても不思議では無い言う発言で締め括った。
魅魔からパチュリーの扱う魔法に付いて聞いたからか、

「ねぇねぇ、魔理沙はそう言った魔法は使えないの?」

フランドールは魔理沙にパチュリーの様な魔法は使えるのかと言う疑問を投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に、

「私か? 私は光と熱が専門だからなぁ……余りそう言った魔法は得意じゃないんだ。それに、そう言ったのよりド派手にぶっ放す魔法の方が好きだしな」

自分が専門としている魔法は光と熱なので、紅魔館の修繕に必要な物を生み出したりする様な魔法は得意では無いと魔理沙は返す。
魔理沙が得意としている魔法を知ったフランドールは魅魔の方に顔を向け、

「魅魔は?」

魅魔にもパチュリーの様な魔法は使えるのかと言う疑問を投げ掛けた。
すると、

「私かい? 私は攻撃系の魔法以外は余り加減が効か無くてね。まぁ、時間を掛けたりすれば話しは別だろうけど。兎も角、私がそう言った魔法を
使ったら……巨大な土の塊辺りが生み出されたり降って来ると思うよ? それに、私も魔法は全力でぶっ放すのが好きだしね」

魅魔は攻撃魔法以外の魔法は余り加減が効か無い事と、それ系統の魔法を使ったらどうなるかを説明する。
魅魔の説明が耳に入った霊児は、アリスが魔理沙と魅魔の事を似たもの師弟と称していた事を思い出した。
同時に、全力で魔法をぶっ放すのが好きな魔法使い師弟と言うフレーズが頭に浮かんだ。
少なくとも、頭に浮かんだフレーズは間違っていないなと言ったどうでも良い事を霊児が考えている間に、

「そう言えば、前に来た人形遣いの……アリス・マーガトロイドだったかしら? 確か、彼女は人形を操る魔法が専門だった筈よね。こうして知ってる
魔法使いを比べてみると、パチェって本当に万能ね」

改めてパチュリーが万能な魔法使いであると言う事をレミリアは実感していた。
確かに、パチュリーは魔理沙とアリスの二人と違って一芸特化と言った感じでは無い。
序に言えば魅魔の様に攻撃魔法以外は上手く加減が出来ないと言う訳でも無いので、パチュリーが万能な魔法使いであるとレミリアが感じるのはある意味当然だ。
それはそうと、場が魔法使い談義で盛り上がり始めたからか、

「魔法使いか……」

フランドールが魔法使いと言う存在に興味を覚え始めた。
吸血鬼であるフランドールは分類上悪魔と称される存在であるので、当然ながら魔力を有している。
故に、魔法を習得する事自体は可能だろう。
若しかしたら魔理沙、魅魔、アリス、パチュリーの誰かに弟子入りしたりするのかもしれないと言う事を霊児が思った時、

「おーい!!」

上空の方から声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した一同は顔を上げ、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた一同の目には空の方から博麗神社にやって来ている人影が映り、映った人影は少しすると博麗神社の敷地内に降り立った。
そのタイミングで、

「にとり」

霊児は降り立って来た者の名を口にする。
どうやら、声を掛けて来た者はにとりであった様だ。
やって来たにとりが、

「やっほ」

挨拶の言葉と共に片手を上げると、

「あら、何時ぞやの河童じゃない」

にとりが誰であったかをレミリアは思い出す。
同時に、にとりは縁側に座っている面々を視界に入れ、

「文さんの新聞に吸血鬼姉妹が博麗神社に居候し始めたって言う記事が書かれてたんだけど……本当だったんだ」

"文々。新聞"に書かれていた記事は本当だったんだと呟き、

「それはそうと、遅くなったけど自動水遣り機と風呂場の定期点検に来たよ」

やって来た理由を霊児に伝える。
理由を伝えられた霊児は、確かに定期点検をしに来るのが何時もよりも遅かったなと言う事を思いつつ、

「何で遅くなったんだ?」

遅くなった理由を聞く。
理由を聞かれたにとりは、少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら頬を掻き、

「いやー……実はついこの前、外の世界の機械が幻想入りして来てね。それを弄くってたら時間を忘れて……」

外の世界の機械が幻想入りして来た事を話す。
つまり、外の世界から幻想入りして来た機械に心を奪われたせいでにとりは定期点検に来るのが遅れたのだ。
と言っても、霊児はにとりに定期点検に来る事を強制させている訳でも無いので、

「まぁ、良いや。さっさと点検の方、頼むぜ」

特に怒ると言った事はせず、にとりに点検の方を頼むと言う。
そう言われたにとりは、

「任せて置きなよ!! まぁ、私が作った物が早々に不備を起すとは思えないけどね」

自信満々と言った表情を浮かべながら神社の中へと入って行った。
神社の中に入って行ったにとりを見届けた後、

「へぇ……あの水を自動で遣る機械にお風呂場にあったあの装置。あれは河童が作った物だったのね」

霊児とにとりの会話からレミリアは博麗神社に在る機械はにとりが作った物であった事を理解し、

「水や遣り機の方は兎も角、捻ればお湯や水が出るって言うのは便利よね。紅魔館にも付けて貰おうかしら?」

紅魔館にも蛇口を捻ってお湯や水が出て来る装置を付けて貰おうかと考える。
そんなレミリアの考えが耳に入ったからか、

「だったら、にとりに頼んでみたらどうだ? あいつ、機械弄りやら何かの発明が大好きだから喜んで引き受けてくれると思うぞ」

霊児はにとりに作って貰う様に頼んでみたらどうだと言う提案を行う。
霊児の提案を受けたレミリアは、

「なら、後で頼んでみ様かしら」

一考の価値在りと感じ、頭を回転させていく。
どう言った風に頼もうか考えているのだろうか。
まぁ、頼んだところで紅魔館の修復が完了しなければどうし様も無いであろうが。
それはそうと、レミリアが頭を回転させ始めた時、

「……ん?」

霊児は誰かが博麗神社にやって来ている事にを感じ取り、顔を上げる。
顔を上げた霊児の目には、

「椛」

椛の姿が映った。
霊児がやって来た椛の存在を認識している間に椛は博麗神社の敷地内に降り立ち、

「どうも、こんにちは」

挨拶の言葉と共に頭を下げる。
その瞬間、椛の来訪にレミリアは気付き、

「あら、何時ぞやの白狼天狗じゃない。大天狗の使いで来たのかしら?」

頭の回転を止めて椛に大天狗の使いで来たのかと問う。
問われた椛は下げていた頭を上げ、

「いえ、違います」

大天狗の使い来た事を首を横に振って否定し、

「今日は休みでしたのでにとりと大将棋をし様と思ってにとりの家に行ったら留守でして。その時、近くに居た河童がにとりは博麗神社に向ったと
教えてくれたのでこちらに来ました」

博麗神社にやって来た理由を話す。
椛も椛で暇である事を知った霊児は、

「………………………………………………………………」

少し考える様な素振りを見せ、

「なぁ、椛。今日は暇なんだよな」

今日は暇なのだろうと言う確認を取る。

「ええ、そうですよ」

取られた確認に椛が肯定の返事をした事で、

「ならさ、これだけ人数も居るしお前にも手伝って欲しい事があるんだけどよ……」

手伝って欲しい事があると霊児は口にした。

「手伝って欲しい事ですか?」
「ああ、実は……」

口にされた事を聞いた椛が首を傾げてしまったのを見て、霊児は手伝って欲しい事の内容を説明し始める。























にとりが自動水遣り機と風呂場の点検を終えてから暫らく時間が経った頃、

「確かに、これは人数が多い方が良いでしょうね」

椛は霊児の手伝いを行いながらこれは人数が多い方が良いと呟く。
因みに、椛以外にも魔理沙、魅魔、レミリア、フランドール、にとりの五人も霊児の手伝いを行っていた。
この六人は何を手伝っているのかと言うと、博麗神社の蔵の整理を手伝っているのだ。
何故蔵の整理なのか。
答えは簡単。
丁度それなりの人数が集まっていたので、蔵の整理をし様と霊児が思い立ったからである。
それはそうと、一通り蔵の中の物を出し終えた後、

「それにしても、随分と埃が溜まってたね。この蔵」

にとりは随分と埃が溜まっていた口にした。
にとりが口にした事が耳に入った霊児は、

「ここ……数年程は全く開けてなかったからな。この蔵」

ここ数年程は蔵を全く開けていなかったと言った事を漏らしながら手に持っていた大き目の木箱をレミリアの前に置き、

「じゃ、中の整理を宜しく」

レミリアに木箱の中の整理を頼む。
頼まれたレミリアは面倒臭そうな表情を浮かべ、

「はぁ、何で私が……」

文句を言いながら木箱の蓋を開け、中身の整理を始めた。
文句の言葉を述べてはいるものの、家主である霊児の意向には従う様だ。
レミリアが木箱の中の整理を始めたのを見届けた後、霊児は蔵から出した物を並べて在る場所へと向かって行く。
そして、蔵から出した物が並べられている辺りに来た時、

「それにしても、書物や道具の類だけじゃなくて刀剣の類も在るね」
「後、衣服関連もね」

椛とにとりの会話が聞こえて来た。
二人の会話が気に掛かったからか、霊児は一旦足を止め、

「書物は兎も角、道具と刀剣の類の殆どは儀式用の物だと思うぞ」

道具と刀剣の類の殆どは儀式用の物だと言う事を伝えた。
霊児から伝えられた事を耳に入れた椛とにとりは改めてと言った感じで刀剣などに目を向け、

「……確かに、言われて見れば儀式用って感じがしますね」
「そうだね。一寸した装飾とかも有るし」

儀式用の物である事に納得したと言った表情になる。
その後、

「じゃあ、この巫女装束も儀式用?」

にとりは巫女装束を手に取ってこれも儀式用なのかと問う。
にとりが手に取った巫女装束が目に入った魔理沙は、

「お、懐かしいなそれ」

昔を懐かしむ様な表情を浮かべた。
家出をし、博麗神社に居候していた時の事を思い出したのだろうか。
そんな魔理沙を余所に、

「それは俺より前の博麗が着ていた巫女装束だろ」

問われた事に対する答えを霊児は述べる。

「それが何で蔵の中に?」
「記念か何かの積りで残して置いたんじゃないか?」
「あー、分かる分かる。私もローブだとか昔着ていた服とか仕舞って在るし」
「そう言えば、私も初めて支給された刀と盾は仕舞って在ったっけ」

にとり、霊児、魔理沙、椛の四人が巫女装束から昔の衣服や道具の話に展開させ、更に発展させていこうとした時、

「きゃ!?」

軽い悲鳴と共にレミリアの手から何かが放り投げられた。
レミリアの悲鳴に反応したフランドール、魔理沙、椛、魅魔、にとり、霊児の六人は、

「大丈夫、お姉様?」
「何かあったのか?」
「何かありましたか?」
「どうしたんだい?」
「どうかしたの?」
「どうした?」

心配する様な声を掛けながらレミリアが居る方へと近付いて行く。
近付いて行った一同がレミリアの傍にまでやって来たタイミングで、

「いえ、短刀を掴んだら急に弾かれてね……」

レミリアは短刀を掴んだら急に弾かれた事を口にする。
レミリアが口にした事を聞いた霊児は周囲を見渡し、

「……短刀ってこれか?」

近くに落ちていた短刀を拾い、拾った短刀をレミリアに見せながらこれかと聞く。
聞かれたレミリアは霊児が拾った短刀をジッと見詰め、

「……ええ、それよ」

肯定の返事をした。
放り投げられた短刀が今自分が持っている短刀である事を理解した霊児は、

「どれどれ……」

手に持っている短刀を観察していく。
観察しても特に変わったものは見られなかったので、今度は短刀を鞘から抜いて短刀の刀身を確認しに掛かる。
確認した結果、

「こいつは……」

刀身に様々な術式がビッシリと書き込まれている事が分かった。
書き込まれている術式に弾かれた原因が在ると考えた霊児は、書かれている術式を正確に読み取っていく。
黙って短刀の刀身に目を向けている霊児を見て、

「何か見付かったのか、霊児」

魔理沙は背後から覗き込む様な形で霊児に何か見付かったのかと聞く。

「ん、ああ。レミリアが弾かれた理由が分かったぞ」

魔理沙から聞かれた事に対する答えとして、霊児はレミリアが弾かれた理由が分かったと言って一同に短刀の刀身に書き込まれている術式を見せる。
すると、魔理沙、魅魔、レミリア、フランドール、にとり、椛の視線が短刀の刀身へと向いた。
それを合図にしたかの様に、

「この刀身に書き込まれている術式の一つに妖怪、悪魔、悪霊その他諸々を弾く結界を張るってのが在る。要するに、人間以外は弾く結界を張るって事だ」

短刀の刀身に書き込まれている術式の一つに付いての説明を霊児は行う。
すると、

「その割りには、この短刀からは結界が展開されていない様に見えるけど?」

魅魔は短刀からは結界が展開されていないと言う指摘を行う。
確かに、魅魔の指摘通り短刀からは結界が展開されていない。
魅魔の指摘で何故結界が張られていないのかと言う疑問を魔理沙、レミリア、フランドール、にとり、椛の五人が覚えた時、

「ああ、これは本来地面に突き刺して使う物だからな。言ってしまえば、地面に突き刺さなければ結界は展開されはしないんだ。それでも、人間以外が
手にすれば手にした者を弾くって言う効果は有るみたいだがな」

覚えた疑問を晴らすかの様に霊児は短刀の詳細に付いて少々詳しく話して短刀を鞘に収め、

「因みに、結界としての強さは中の下位だ。レミリアは勿論、ここに居る面々なら楽に突破出来るな。まぁ、魔理沙は人間だから結界に弾かれるって事は
無いだろうがな」

結界のとしての強さは中の下位で、ここに居る面々なら楽に結界を突破出来ると言う言葉で締め括った。
自分なら短刀の結界を楽に突破出来ると言う発言に気分を良くしたからか、

「ま、当然ね」

レミリアは少し誇らし気な表情を浮かべ、再び木箱の中の整理を始める。
が、

「……あら?」

直ぐに何かを見付け、整理を中断して見付けた物を取り出す。
レミリアが取り出した物と言うのは、綺麗な円状をした鏡。
多少の装飾をされていて少々豪華そうな感じではあるが、別段気に掛かると言う程でも無い。
しかし、レミリアの視線は取り出した鏡に釘付けになっている。
なので、

「その鏡がどうかしたのか?」

霊児はその鏡がどうかしたのかと言う疑問を投げ掛けた。
投げ掛けられた疑問に反応したレミリアは、

「この鏡、私の姿が映るのよね」

意識を取り戻したかの様に、取り出した鏡には自分の姿が映ると言った事を話す。
鏡に自分の姿が映る。
これは極普通で自然な事だ。
故に、レミリアが態々自分の姿が鏡に映った事を話した理由が分からず、

「映るって……それが普通だろ」

首を傾げながら霊児はそれが普通だろう言う。
そう言われたレミリアは若干呆れた視線を向け、

「あら、聞いた事が無いの? 吸血鬼は鏡に映らないって言う話」

吸血鬼は鏡に映らないと言う話を聞いた事が無いのかと尋ね、

「吸血鬼が鏡に映らないって言うのは結構有名な話だよ」

魅魔が補足するかの様にその話は結構有名だと漏らす。
レミリアと魅魔の二人からこの程度の事は知ってて当然だろうと言われたからか、吸血鬼に関する情報を思い出そうと霊児が頭を捻らせ始めた。
だが、思い出そうとしている霊児を無視するかの様に、

「……さて、先程も言った様に吸血鬼は鏡に映らない。けど、紅魔館に在る鏡は別。何故かと言うと、紅魔館に在る鏡には全て吸血鬼でも姿が映る様に
パチェが魔術的な処置をしてくれたから」

レミリアは紅魔館に在る鏡にはパチュリーが魔術的な処置をしてくれたので吸血鬼でも姿が映ると言う事を霊児に伝え、霊児の方に顔を向ける。
自分が何を言いたいか解るだろうと言った表情を浮かべながら。
当然、レミリアの目論見通り霊児は理解した。
木箱から取り出した鏡にレミリアが視線を釘付けにした理由を。
理由をと言っても、大したものでは無い。
紅魔館に在る鏡の様にパチュリーが魔術的な処置を施した訳でも無いのに鏡に自分の姿が映ったからだ。
霊児がその事を理解した刹那、

「それはそうと、この鏡には魔的な要素は感じ無いのよね。代わりに神力なら感じるんだけど。霊児、分かる?」

レミリアは手に持っている鏡が神力を宿している事を感じ取り、霊児に何か分かるかと聞きながら鏡を手渡す。
手渡された鏡を霊児は受け取り、

「どれどれ……」

受け取った鏡を調べ始める。
鏡を調べ始めてから少しすると、霊児は納得した言った表情を浮かべた。
そんな霊児の表情の変化に気付いた魔理沙は、

「お、何か分かったのか?」

霊児に何か分かったのかと言う声を掛ける。
声を掛けられた霊児は手に持っている鏡から目を離し、

「ああ、分かった。毎年、新年に成ると天照大神と天香香背男命が争うんだ。で、この争いで天香香背男命が勝つとその年は妖怪が強くなってしまう。
それを避ける為に博麗の名を待つ者は毎年儀式を行ってその戦いに干渉し、天照大神を確実に勝たせる様にしてるんだ」

分かったと言いながら自分が毎年行っている儀式に付いて話し始めた。
鏡と儀式。
この二つの関連性が今一分からなかったフランドールが、

「儀式とその鏡って何の関係があるの?」

儀式と鏡に何の関係があるのかと霊児に問うと、

「ああ、関係あるさ。この鏡は八咫鏡だからな」

霊児の口からこの鏡は八咫鏡なので関係あると言う言葉が発せられる。
その瞬間、

「や、八咫鏡!? 八咫鏡ってあの八咫鏡ですか!? 三種の神器の!?」

椛は驚いた表情を浮かべ、霊児に詰め寄った。
まぁ、椛が驚くのも無理はない。
三種の神器と言えば、秘宝と言っての良い程の物なのだから。
椛が驚いている理由に納得しつつも、霊児は驚いている椛を落ち着かせる様に、

「元々八咫鏡に限らず天叢雲剣、八尺瓊勾玉の三種の神器は天照大神から授けられた物だ。で、儀式の際に天照大神に干渉し易くする為に三種の神器の
一つである八咫鏡を用いて可能性がある。と言うより、多分そうだ」

三種の神器の一つである八咫鏡が博麗神社の蔵に眠っていた理由を述べる。
述べられた理由で納得したからか、

「成程……」

霊児に詰め寄っていた椛は落ち着きを取り戻す。
が、椛が落ち着いた代わりと言わんばかりに、

「でも、何で儀式で使う八咫鏡が蔵の中で埃を被ってたのさ?」

にとりから当然とも言える疑問が霊児へと投げ掛けられた。
確かに、霊児の言葉通り八咫鏡が儀式で使われる物なら蔵の中に仕舞った儘と言うのは可笑しい。
以上の点からにとりが抱いた疑問は尤もであるのだが、投げ掛けられた疑問の内容は霊児に取って予想の範囲内であった様で、

「俺の場合は天照大神ではなく、天香香背男命に干渉してるからな。具体的に言うと天香香背男命に干渉し、俺の霊力で縛って実力を大幅に落とさせてから
天照大神を嗾けるって方法を取ってるんだよ。俺の場合」

霊児はシレッとした表情で儀式の際、自分が干渉しているのは天照大神ではなく天香香背男命の方である事を教える。
霊児から教えられた事を頭に入れたにとりは、

「……ああ、成程。それなら天照大神に干渉し易くする為の八咫鏡が蔵の中で眠っていたのも納得だね」

八咫鏡が蔵の中で眠っていた事に納得した。
しかし、一難去ってまた一難と言わんばかりに、

「……あれ? 毎年ここで皆集まって新年会を開いていますが、霊児さんが儀式を行ってる姿を一度も見た事無いのですが……」
「……そう言えば、私も一回しか見た事がないな。霊児が儀式をしているの」

椛と魔理沙の二人が疑問気な表情を浮かべながら霊児が儀式を行っている様子を全くと言って良い程に見た事が無いと漏らす。
二人が漏らした言葉が耳に入った霊児は、さっきから質問されてばかりだなと思いつつ、

「そりゃそうだろ。今じゃそんな正しい儀式をしなくても神々に干渉する事が出来るからな。ぶっちゃけ、寝転んで煎餅を齧りながらでも干渉は出来る。
補足しとくと、これは神降ろしに関しても同じだ。因みに神降ろしに関しては俺の霊力を餌にして神を呼び寄せたり、霊力を使ってこちら側に引っ張り
寄せて無理矢理俺に憑依させるんだ。憑依した後は俺の霊力で神を縛って神の能力だけを行使させ、用が済んだら体から追い出すと言う方法を取ってる
がな。一応言って置くと、魔理沙が見たのはまだ儀式をしなければ干渉出来なかった頃の事だな」

二人の疑問も晴らす事を言った後、

「……そういや、お前と文が正月に初めて俺の神社に来た時には儀式はしていた筈だぞ」

思い出したかの様に椛の方に視線を向け、椛と文が正月に初めて博麗神社に来た時には儀式はしていたと口にする。

「あれ? そうでしたっけ?」

口にされた事を聞いて椛は思わずそうだったっけかと聞き返したが、

「あー……そう言えばあの時、霊児さんに挨拶もせずに神社の中に入って行きましたっけ。文さんに半ば強制的に連れて来られたせいですけど。だから、
霊児さんが儀式をしている様子を見た事が無かったのかな?」

直ぐに当時の事を思い出し、霊児が儀式をしている様子を見た事が無かった理由に当たりを付けた。
そして、当時の事を思い出した椛に呼応するかの様に、

「そう言えば昔、言ってたっけっか。儀式の簡略化がどうとかって」

魔理沙は過去に霊児が儀式の簡略化に付いて話していた事を思い出す。
魔理沙と椛が過去の出来事に少々思いを馳せている間に、

「結構ズボラだからねぇ。霊児は」

ここまでの話を黙って聞いていた魅魔が、ポツリと霊児はズボラだと呟く。
魅魔が呟いた事は霊児の耳に入ったが、

「……………………………………………………………………」

霊児は何も言い返す事が出来なかった、
何故ならば、儀式の簡略化を行った理由は通常の儀式は準備も含めて面倒臭いからだ。
因みに、神降ろしに関しても同上である。
付き合いが長い分、こいつも中々に的確な突っ込みを入れて来るなと霊児が思った時、

「…………成程、やっと理由が分かったわ」

レミリアが唐突にやっと理由が分かったと言う言葉を発した。

「理由?」

何の理由か分からなかった霊児が首を傾げた瞬間、

「毎年毎年、悪魔の星の明星が輝か無い理由がよ!!」

レミリアは分かった理由を大きな声で宣言しながら霊児に掴み掛かり、

「今直ぐそんな儀式を止めなさい!! さぁ!! 早く!!」

霊児の体を思いっ切り揺すりながら儀式を即刻止める様に言い放つ。
以前、神綺に体を揺すられた事で耐性が出来ていたからか、

「流石にそれは無理だ」

体を揺すられている事などどうでも良いと言った感じで霊児は無理だと返す。

「何でよ!?」
「天香香背男命が勝った場合、その年は妖怪の年となって妖怪全体の力量が上がる。俺にとってはそこ等の妖怪の力が仮に十倍に上がったとしても何の問題も
ないが、人里の人間に取っては死活問題だろ。序に言ったら力量が上がって自惚れた妖怪が人里含み、幻想郷の各種地域に襲撃を掛けると言う可能性がある。
てか、知恵や知能の欠片も無い様な妖怪が必ずどっかこっかに襲撃を掛けるだろうな」

無理だと返した霊児にレミリアが体を揺するのを止めて理由を求めて詰め寄ると、霊児はレミリアに天香香背男命が天照大神に勝ったらどうなるかを伝える。
その事を伝えられたレミリアは力を無くしたかの様に霊児から手を離し、

「……流石に一度に大量の数の妖怪が襲撃に来れば美鈴を抜いて紅魔館に進入される。妖精メイドは戦闘になったら役に立たない……幾ら何でも咲夜一人で
全てを捌けるとは……。そうなったら、確実に紅魔館が荒らされる。でも、一悪魔として明星には……」

顔を下に向けながらブツブツと何かを口にしながら考え事を始めた。
レミリアがブツブツと口にした事が耳に入った霊児は、

「ま、俺が博麗をやっている間はミスなんて起こらないから諦めろ」

自分が博麗をやっている間は儀式の失敗が起こる事は絶対に無いので諦めろと言う突っ込みを入れる。
すると、レミリアは勢い良く顔を上げ、

「なっ!? レディの独り言を聞くなんて紳士失格よ!!」

上げた顔を少し赤らめながらレディの独り言を聞くのは紳士失格だと言う発言を霊児に叩き付けた。
が、

「なら、聞こえる様な声で独り言を言うなよ」

叩き付けられた発言など知った事など無い言わんばかりに霊児は再度突っ込みを入れる。
再度入れられた突っ込みにレミリアが何かを返そうとしたタイミングで、

「ねぇねぇ、お姉様は何を困ってるの? 明星が輝か無かったら何がいけないの?」

フランドールはレミリアに明星が輝か無いのの何がいけないのかと問う。
問われたレミリアは急遽向けていた顔を霊児からフランドールが居る方に変え、

「フラン……貴女も悪魔何だから……悪魔の星の明星に付いて知って置きなさい。いい、悪魔の星の明星って言うのはね……」

自身の両手をフランドールの両肩に乗せながら言い聞かせる様に悪魔の明星に付いての説明をし始めた。
悪魔の星の明星が輝こうが輝かなかろうが霊児に取ってはどうでも良い事。
なので、フランドールに必死になって悪魔の星の明星に付いての説明をしているレミリアを無視するかの様に霊児は魔理沙、魅魔、にとり、椛の方に顔を向け、

「で、話を戻すがレミリアの姿が鏡に映ったのはこれが八咫鏡だからだな」

脱線し続けた話を戻すかの様に吸血鬼であるレミリアが鏡に映ったのは、八咫鏡であるからだと言う事を述べた。

「三種の神器の一つ、八咫鏡なら本来鏡に映らないものを映す程度の事は朝飯前だろうね」

霊児が述べた事に魅魔は同意を示しつつ、

「で、見付けた八咫鏡はどうするんだい?」

見付けた八咫鏡がどうするのかと問う。
問われた霊児は、

「んー……」

少し考える素振りを見せ、

「流石に八咫鏡と分かった以上、蔵で埃被せて置く訳にもいかないからな。俺の部屋にでも飾って置くよ」

自分の部屋にでも飾って置くと言う結論を下した。
流石に蔵の中から出て来た鏡が三種の神器の一つと分かった以上、ぞんざいに扱う気には成れなかった様だ。
思い掛けない場所から出て来た八咫鏡の処遇が決まった後、

「ここの蔵に八咫鏡が有りましたが、他の三種の神器の天叢雲剣、八尺瓊勾玉もここに眠っているのでしょうか?」

椛が他の三種の神器である天叢雲剣、八尺瓊勾玉の二つも博麗神社の蔵に眠っているのかと言う疑問を述べる。
確かに、八咫鏡が在ったらのなら他の二つも眠っている可能性は十分に在るだろう。
探してみる価値は有りそうだが、

「んー……いや、八咫鏡以外の三種の神器はここの蔵には無いな」

霊児は八咫鏡以外の三種の神器は博麗神社の蔵には無いと断言した。
断言したと言っても、そこには何の根拠も無い。
だが、魔理沙、魅魔、にとり、椛の四人は霊児の勘の良さを知っている為、

「じゃあ、無さそうだな」
「だね」
「残念だなー。他の三種の神器も見てみたかったのに」
「残念って。三種の神器の一つが眠っていたと言うだけも十分に凄い事だよ、にとり」

一様に博麗神社の蔵の中に天叢雲剣、八尺瓊勾玉が存在しない事を信じていた。
が、

「蔵の中には無いが、天叢雲剣と八尺瓊勾玉は幻想郷の何処かには在りそうだがな」

幻想郷の何所かに天叢雲剣、八尺瓊勾玉は在りそうだと言う事を霊児が呟いた為、

「おっ、なら今度探してみるかな」
「そうさね……三種の神器何だ。探す価値は在りそうだ」
「だったら、暇な時にでも水の中を探してみ様かな」
「私も、暇な時は妖怪の山を探してみ様かな」

魔理沙、魅魔、にとり、椛の四人は天叢雲剣、八尺瓊勾玉の探索を考え始めた。
そんな四人の雰囲気からその儘残る三種の神器の探索に向かいに行きそうな雰囲気を感じ取った霊児は、

「おーい、蔵の整理を再開し様ぜ」

魔理沙、魅魔、にとり、椛の四人に蔵の整理を再開させる言葉を掛ける。
その言葉に反応した四人は、思い出したかの様に蔵の整理を再開し始めた。
蔵の整理を再開した四人を見届けた後、

「後は……っと」

霊児は未だ話し込んでいるレミリアとフランドールに、

「蔵の整理を再開するぞー」

蔵の整理を再開する旨を伝える。
伝えられた言葉に反応したレミリアは何か言葉を返そうしたが、

「はーい!!」

返す前にフランドールが我先にと言わんばかりに蔵から出した物を置いている場所へと向かって行った。
どうやら、さっさと蔵の整理を始めたがる程にレミリアの話は退屈であった様だ。
それに気付いたからか、

「フラン……」

フランドールの背中をレミリアは何とも言えない表情で見ていたが、

「さっきの木箱の中の整理、宜しくな」

霊児から木箱の中の整理を再開する様に言われた為、

「……分かったわよ」

力無くと言った感じでレミリアは木箱の中の整理を再開した。
自分を除く六人が蔵の整理を再開した為、

「さて……と、俺も再開するか」

霊児も蔵の整理を再開する為、蔵から出した物を纏めている場所へと向って行く。























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