昼下がりの午後。
博麗神社の居間で霊児、魔理沙、魅魔、静葉、穣子の三人と二柱がのんびりとした時間を過ごしていた時、勢い良く襖が開かれ、
「パーティをするわよ!!」
居間の中に入って来たレミリアが大きな声でパーティをすると言う宣言をして来た。
因みに、レミリアの後ろにはフランドールの姿も見て取れる。
それはそれとして、行き成りの宣言に少々呆気に取れたものの、
「……パーティ?」
霊児はパーティと言う単語で再起動したかの様に首を傾げてしまう。
今日は何かの記念日だったかと言う事を考えながら。
そんな霊児を見て、レミリアは誇らし気な表情を浮かべ、
「聞いて驚きなさい!! 紅魔館が完全に修復したのよ!!」
胸を張りながら紅魔館が完全に修復された事を口にした。
もう紅魔館が修復されたのを知った事で、
「もう直ったのか!?」
驚きの声を魔理沙は上げる。
その声が心地良かったからか、
「ええ、もう直ったわ」
ご機嫌と言った表情で紅魔館の修復が完了した事をレミリアが肯定した瞬間、
「あれ、前に言ってた予想よりも早いんじゃないか?」
霊児から完全修復にはまだ時間が掛かる筈だったのではと言う疑問が投げ掛けられる。
秋に入って半ば位に成ったら紅魔館は直ると言う予想をレミリアは立てていた。
だが、今はまだ秋の初めの方。
確かに、レミリアの予想よりも早くに紅魔館は修復された様だ。
霊児が抱いた疑問に対する答えとして、
「予定よりも早くに修復が完了したのはパチェのお陰ね。咲夜から聞いたところによると、パチェが紅魔館の修復に積極的に協力してくれたらしいのよ。
尤も、パチェが積極的に協力してくれる様になったのは図書館の散らばった本や崩れた本棚などを元通りにした後だったらしいけど」
レミリアは自慢気な表情を浮べながらパチュリーが手伝ってくれたから紅魔館の修復が早く終わったと言う事を話す。
レミリアの自慢話とも言える話を聞き、
「あー……パチュリーは属性魔法を多数使えるからなぁ……」
パチュリーが多数の属性魔法を扱える事を魔理沙は思い出し、
「属性魔法って色々使えて便利そうだよなぁ……。私も覚えてみ様かな……」
自分も属性魔法を覚えてみ様かと言う事を考え始める。
魔理沙が属性魔法の習得に付いて考え始めたからか、
「んー……魔理沙は光と熱が専門だからね。属性魔法を覚え様としたら習得難易度は結構高くなると思うよ」
光と熱が専門の魔理沙では習得難易度は結構高くなると魅魔は言い、
「それに本来向いてない魔法を使うと通常よりも多くの魔力を持っていかれるって事もあるしね。まぁ、私程じゃないが魔理沙は保有魔力量がかなり多い方
だからこれは余り関係ないか」
自分に向いていない魔法は使用時に通常よりも多くの魔力を持っていかれるところまで口にしたが、魔理沙の保有魔力量ならば問題無いかと言って口を閉ざす。
「あら、そうなの?」
魔理沙の保有魔力量が多い事を知った穣子は、確認を取るかの様に魅魔の方に顔を向けた。
秋と言う季節であるからか、秋の神様である穣子と静葉は居候している訳でも無いのに結構な頻度で博麗神社に入り浸っている。
まぁ、これは毎年の事ではあるが。
兎も角、穣子の視線に気付いた魅魔は、
「ああ、そうさ。本人の希望もあったが、私はある一定のレベルに達するまでは魔理沙の長所を重点的に伸ばす鍛え方をしていたからね。この子、私が
鍛える前から結構な魔力量を誇っていたからね。それを鍛えたとなれば、保有魔力量も上がるだろうさ」
長所を重点的に伸ばす鍛え方をしたのだか保有魔力量が上がるのは当然だと述べ、
「後、光と熱に私が鍛える前からそこそこの使えたからね。今じゃ光と熱に関する魔法は結構高いレベルになってるよ」
光と熱に関する魔法も結構高いレベルになっている言う事を居間に居る面々に教え、魔理沙の頭を撫で始める。
頭を撫でられている魔理沙が、
「えへへ……」
少し気恥ずかしそうな表情を浮べている間に、
「さて、話を戻すけど属性魔法を使いたいのなら精霊魔法を覚えた方が良いね」
属性魔法を覚えたいのなら先に精霊魔法を覚えた方が良いと言う助言を魅魔は行う。
精霊魔法と言う単語を聞き、
「精霊魔法……確か、パチェも使えたわね」
パチュリーが精霊魔法を習得していると言う事をレミリアは思い出す。
魔法に関する知識が殆ど無い霊児に取っては精霊魔法と言われても何の事か良く分からないので、
「精霊魔法?」
思わず首を傾げてしまった。
首を傾げてしまった霊児に気付いたからか、
「解り易く言うのなら精霊と契約して力を貸して貰い、貸された力で魔法を行使するって言う魔法さ。精霊魔法の利点は本来自分には使えない属性の魔法でも
使えるって言うのが在るね。代価として、借りた力で魔法を行使する時にはそれ相応の魔力を支払わなければならない。契約する精霊にもよるけど、基本的に
精霊魔法は通常の魔法と比べて消費する魔力が多くなるよ」
魅魔は簡単に精霊魔法の説明をし、
「因みに、パチュリーの場合は能力が"火水木金土日月を操る程度の能力"だからね。言ってしまえば、あの子は基本的な属性魔法を高レベルで扱えるんだよ。
だから、あの子の場合は精霊魔法を自身の魔法の威力などをブーストさせる為に使っているね。ま、数少ない例外ってやつさ」
パチュリーが使う精霊魔法は通常のものと違うと言う補足をする。
そして、
「ま、私は精霊魔法を使わなくても全属性を使えるけどね。それは兎も角、接近戦で私から一本取れたら精霊魔法を教えて上げるよ」
何処か自慢するかの様な表情でそう漏らし、魔理沙の方に視線を移す。
魅魔の接近戦の練度がどれ位のレベルであるかは弟子である魔理沙に取って、これでもかと言う位に知っている。
だからか、
「うへぇー……接近戦で魅魔様から一本ですか。弾幕ごっこに負かりませんか?」
嫌そうな表情を魔理沙は浮かべ、接近戦ではなく弾幕ごっこに負からないかと問う。
が、
「負からないねぇ。魔理沙は接近戦がまだまだ弱いからねぇ。接近戦が得意な奴に接近戦で勝てとまでは言わないが、最低でも距離を詰められたのなら直ぐに
距離を離すかある程度渡り合える位の事が出来ないと駄目さね。魔法使いは近距離が弱いってイメージが結構在ったりするしさ」
無常にも魔理沙の願いは魅魔に切り捨てられてしまった。
魔法使いは近距離に弱いと言うイメージ在る言う発言が魅魔から発せられた事で、
「でも、魅魔様は接近戦も超強いですよね」
魔理沙は魔法使いが近距離に弱いと言うが、魅魔は接近戦もかなり強いだろう言う指摘をする。
そう、魔法使いは近距離に弱いとイメージを払拭するかの様に魅魔は接近戦が強いのだ。
いや、強いと言うよりも接近戦が得意な者が相手でも接近戦で圧倒出来る程の実力を魅魔は誇っている。
魅魔以外に接近戦が得意な者に接近戦で挑んで戦いを優位に進められる者と言ったら、魔界に居る魔法使い位であろうか。
と言っても、魔界の魔法使いも近距離に弱い者は多々居るらしいが。
兎も角、接近戦もかなり強いと称された魅魔は、
「まぁね」
さも当然と言った感じで肯定の返事を返す。
遠近両方での戦いが可能で保有魔力量が多く、多種多様の魔法を使える魅魔の事を改めて思い返し、
「はぁ……魅魔様の背中は遠いですね……」
まだまだ魅魔には追い着けそうに無いと魔理沙は溜息混じりにそう呟く。
魔理沙の呟きが耳に入った事で、
「そりゃ私はあんたの師匠だからね。何時かは私を超えるだろうけど、まだまだ超えさせはしないさ」
何時かは自分を超えるだろうが、まだまだ超えさせる気は無いと魅魔が笑顔で口にした瞬間、
「はいはい、話を戻すわよ」
話が一段落着いたと判断したレミリアは手を叩き、自分に注目を集める。
手を叩いた事で一同の視線がレミリアに集まった刹那、
「パーティの開始時刻は日が暮れてからよ」
レミリアはパーティの開始時刻を伝えながら招待状の配っていく。
配られた招待状は封筒に収められていたが、封筒にはパーティの開催場所と開催日時が書かれていた。
意外と確り作られているなと言う感想を霊児は抱きながら、
「こんな物、何時作ったんだ?」
何時、招待状を作ったんだと言う疑問を投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に対する答えとして、
「朝食を食べた後よ。朝方……丁度魔理沙が朝食を作り始めた辺りで咲夜が紅魔館の修復が終わったって言う報告をしに来たからね。その時にパーティを
開こうと計画したのよ」
招待状を作り始めた時間とパーティを開こうと思った経緯をレミリアは話す。
レミリアの話しを聞き、
「ああ。それでお前等、朝食を食った後直ぐに部屋へと引っ込んだのか」
朝食を食べた後、レミリアとフランドールが直ぐに使っている部屋へと引っ込んだ理由を霊児が理解した時、
「因みに執筆は私が」
「封筒入れは私がしたんだよー!!」
レミリアとフランドールがそれぞれ自分が招待状作成の為に行なった事を一同に伝える。
端的に言えば、この招待状はスカーレット姉妹が共同で作成したものと言う事だ。
「結構な数だったから、中々に大変だったわ」
招待状の枚数が多かったからか、レミリアは大変だったと呟き、
「と、言う訳だから参加しなさい」
改めて言った感じで霊児達にパーティに参加する様にと言う。
パーティへの参加。
となれば、只で上手いご飯が大量に食えると言う事になるので、
「分かった、参加する」
有無を言わずに参加する旨を霊児は伝える。
それに続く様にして、
「パーティか。豪華そうな料理が沢山出て来そうだな」
「紅魔館でのパーティなら、ワインも飲めそうだね……」
「吸血鬼の館で開かれるパーティに神が参加する……か。普通じゃ考えられないけど……今更よね」
「そうね。何度もここで食卓を囲んでいる訳だし」
魔理沙、魅魔、静葉、穣子の二人と二柱もパーティに参加すると言う意思を示す。
ここに居る全員がパーティに参加する事を決めたので、レミリアは満足気な表情を浮かべ、
「そうそう、招待状は門番をしている美鈴に見せてね」
注意事項として、招待状を門番である美鈴に見せる様にと述べる。
取り敢えず注意事項を理解し、今後と言うか夜の予定を決まった事で、
「あいよ」
霊児は適当な返事を返す。
そして、博麗神社に居る面々は紅魔館でパーティが開催されるまでのんびりと過ごす事にした。
日が暮れ、月が天を支配し始めた時間帯。
紅魔館の中庭でパーティが開かれていた。
無論、紅魔館完全修復祝いのパーティだ。
そんなパーティが開かれている中で、
「……思っていたよりも賑わってるな」
ワインを飲みながら思っていたよりも賑わっているなと言う感想を霊児は呟く。
霊児の呟き通り、紅魔館で開かれているパーティはかなり賑わっている。
はっきり言って、霊児はここまで賑わう事になるとは予想していなかった。
何故かと言うと、今回のパーティは内輪だけでやるものだと考えていたからである。
しかし、現実はそうで無かった。
博麗神社に居た面々、紅魔館の面々以外にもこのパーティに参加している者がチラホラと見受けられている。
おそらく、咲夜が色々な所に招待状を配って回ったのだろう。
一人で色々な所に招待状を配って回ると言うのは中々に大変だっただろうなと言う事を霊児が思っていると、
「こんばんは!! 霊児さん!!」
誰かが霊児に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は、声が聞こえて来た方に向ける。
顔を向けた霊児の目には、
「文か」
文の姿が映った。
どうやら、霊児に声を掛けて来たのは文であった様だ。
声を掛けて来た者が誰であるかを理解した事で、
「お前の所にも招待状が来たのか?」
軽い声色で文にも招待状が来たのかと問う。
問われた文は近くのテーブルの上に乗っかっているワイン瓶を手に取り、
「ええ、来ましたよ」
肯定の返事をしながら空のグラスにワインを注ぎ、
「私の他にも大天狗様と椛、それからにとりも来てますよ」
自分以外にも大天狗、椛、にとりの三人も来ている事を霊児に教えながらグラスを手に取ってワインを飲む。
「へぇ、あいつ等も来てるのか……」
割と意外な所からもパーティの出席者が来ている事を知り、少し驚いた表情を霊児が浮かべた時、
「それにしても、よくこの短期間で直りましたね。紅魔館」
紅魔館がこんな短期間で直るとは思わなかったと言う事を、文はワインを飲みながら漏らす。
やはりと言うべきか、廃墟と言って良い程の状態に成ってしまった紅魔館がこんな短期間で直ったのは文に取っても予想外の事であった様だ。
「私の見立てでは、直るまでもう数ヶ月は掛かると踏んでたんですけどねぇ……」
「何でも、パチュリーが頑張ったらしいぞ」
こんな早くに紅魔館が直った事に一寸した疑問を抱いている文に、紅魔館の修復にパチュリーが手を貸していたを霊児は教える。
「ほうほう、あの七曜の魔女がですか」
霊児から教えられた情報に興味を抱いた文はワインを飲み干し、空になったグラスをテーブルの上に置き、
「これは……その辺りの事をパチュリーさんから詳しく取材せねばなりませんね」
手帳を取り出してパチュリーの姿を探す為に顔を動かしていく。
だからか、
「こんな時でも取材か、お前」
霊児は少し呆れた視線を文に向ける。
向けられた視線に気付いた文は顔を霊児が居る方に動かし、
「当然です!! こう言う状況下では色々な者が集まりますからね。取材をする状況としては中々に適しているのですよ」
胸を張りながら宴会、パーティと言った場では色々な者が集まるので取材をするには中々に適しいると言い、
「明日の"文々。新聞"の記事は紅魔館修復の陰に魔女の姿在りで決まりですね!!」
明日、発刊する"文々。新聞"の内容をどうするかを決めに掛かった。
何やらやる気になっている文を尻目に、パチュリーに一寸した同情めいた感情を霊児が抱いている間に、
「では、食べ歩きを兼ねて私はパチュリーさんを探しに行きますね」
これからの予定を文は決め、霊児に一声掛けてパーティ会場内へと繰り出して行く。
そんな文を見届けた後、残っていたワインを霊児は飲み干し、
「さて……」
空になったグラスをテーブルの上に置き、文に倣う様な形でパーティ会場内を見て回る事にした。
と言っても、見れるものはテーブルの上に乗っている料理と賑わっている者達位で在るが。
兎も角、賑わっているパーティ会場内を歩き回り始めてから少し時間が経つと、
「お……」
あるテーブルの上に肉料理が並んでいるのが霊児の目に映った。
しかも、骨付き肉。
パーティが始まって以来、肉類の物は食べていなかったので、
「いっただっきまーす!!」
有無を言わずに、霊児は骨付き肉に齧り付く。
それはもう、豪快に。
そして、一心不乱と言った感じで骨付き肉を食べている霊児に、
「御機嫌よう、霊児」
誰かが霊児に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は口に含んでいる飲み込み、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、
「アリス」
アリスの姿が在った。
声を掛けて来たのがアリスである事を認識したのと同時に、
「てか、どうしたんだ? その格好?」
アリスがしている格好に付いての指摘を行なう。
何故、態々アリスの格好に付いての指摘を行なったのか。
答えは簡単。
今のアリスは普段着と言った格好ではなく、高価そうなドレスを着込んでいたからだ。
霊児に今現在の格好を指摘されたアリスは、少し恥ずかしそうな表情を浮かべ、
「ああ、これ。パーティだって言うからドレスを着て来たんだけど……」
パーティだからドレスを着て来たのだと言って周囲を見渡し、
「……皆、普段着なのよね」
ポツリと自分以外の皆は普段着である事を呟く。
呟かれた事が耳に入った霊児は周囲を見渡し、
「ああ、確かに」
納得した表情を浮べた。
少なくとも、今居る場所から見える者達の中にドレスと言った類の物を着ている者が見られなかったからだ。
序に言えば、霊児も何時も通りの格好である。
納得した表情を浮べた霊児を見て、
「これじゃあ、私一人だけ浮いてるみたいじゃない」
自分だけ浮いているみたいだと言って、アリスは溜息を一つ吐いた。
まぁ、自分だけ着飾った格好をしていたら浮いていると感じても仕方が無い。
溜息を吐き、何処か落ち込んだ雰囲気を見せ始めたアリスを霊児は無視するかの様に、
「てか、お前の所にも招待状が送られてたんだな」
アリスの所にも招待状が来たのかと言う。
話題が着ている物から変わった事で、アリスは気を持ち直したかの様に霊児の方に顔を向け、
「ええ。ここのメイドが私の家まで招待状を届けてくれたのよ」
魔法の森に在る自分の家にまで咲夜が招待状を届けたくれた事を話す。
やはりと言うべきか、アリスに招待状を届けたのは咲夜であった様だ。
博麗神社に居た面々はレミリアが直接渡して来たから別として、一人で妖怪の山と魔法の森に届け物を届けると言うのは中々の労力であろう。
尤も、時間を操る程度の能力を持つ咲夜に取っては大した労力では無かったかもしれないが。
「……ま、それはそれとして今はパーティを楽しみましょうか」
自分以外の誰もドレスを着ていなかったなどと色々遭ったが、今はパーティを楽しむ事にすると言ってアリスはテーブルの上に乗っていたステーキを食べ始めた。
フォークとナイフを使いながら。
上品な仕草でステーキを食べているアリスを見て、
「そのステーキ、一応一口で食べれる様に切られているんだから態々ナイフを使う必要は無かったんじゃないか?」
一口で食べられるサイズに切られているのに、何でナイフを使っているのかと言う疑問を述べる。
述べられた疑問に、
「そりゃ、一口で食べれるでしょうけど……お肉を頬張る事に成りそうだからね」
ステーキを頬張る事に成りそうだからナイフを使っていると言う答えをアリスは一旦食べるのを止めながら返す。
食べ物を頬張る事など霊児に取ってはどうでも無いが、アリスに取ってはどうでも在る様だ。
兎も角、一口で食べられそうなステーキを更に小さくしている理由が知れたので、
「ふーん……」
霊児は再び骨付き肉を食べ始めた。
一心不乱と言った感じで骨付き肉を食べている霊児を見たアリスは、
「別にマナーとかを煩く言う気は無いけど、口周りは余り汚さない様にしなさいよ」
軽い突っ込みを入れ、自身も再びステーキを再び食べ始める。
食事を終えた霊児とアリスの二人は軽い雑談を交わし、それが一段落着くと二人は別れてパーティ会場内を散策し始めた。
散策を始めてから幾らかすると、
「妹紅……」
霊児は妹紅の姿を発見した。
折角見知った顔を見掛けたので、霊児は妹紅に近付き、
「よう、妹紅」
妹紅に声を掛ける。
掛けられた声に反応した妹紅は声が聞こえて来た方に顔を向け、
「あ、霊児」
声を掛けて来たのが霊児である事を認識した。
互いが互いの存在を認識した後、
「お前の所にも招待状が来たのか」
妹紅の所にも招待状が来たのかと言う事を霊児は尋ねる。
尋ねられた妹紅は、
「ええ。ここのメイドが私の家にまで招待状を届けてくれたのよ」
肯定の返事を返しながら手に持っている空のグラスをテーブルの上に置き、
「それにしても、あの子凄いわね。迷いの竹林にある私の家にまで迷わず来れたみたいだし」
咲夜を称賛する発言を行なう。
称賛した発言の中に迷わず自分の家まで来れたと言う部分が在ったので、
「……ああ、そう言えばあそこは迷い易いんだったな」
迷いの竹林が非常に迷い易い場所である事を霊児は思い出す。
迷いの竹林はその名の通り、一度入ったら迷わない事は無いと言っても良い程の場所。
入り口付近なら兎も角、空を飛ぶ事が出来ない者が迷いの竹林の奥地に入り込んだら死んでも出て来れない可能性が極めて高い。
無論、長年迷いの竹林に住んでいる妹紅は別。
長年住んでいると言うだけあって、迷いの竹林は妹紅に取っては自分の庭みたいなものなのだから。
そんな特定の者以外では迷ってしまう様な場所で、空を飛べると言っても届け物を届け切った咲夜。
流石は完全で瀟洒なる従者と言ったところか。
それはそれとして、霊児が迷いの竹林の特性を思い出した事を察した妹紅は、
「そ。私の様に迷いの竹林に住んでる訳でも無ければ、霊児の様に勘が物凄く優れてるって訳じゃないのにね」
そう言いながらテーブルの上に置いて在る焼き鳥串を二本手に取り、
「食べる? この焼き鳥、焼き鳥屋をやってる私から見てもかなり美味しいわよ」
手に取った焼き鳥串の内、一本を霊児に差し出しながら食べるかと聞く。
妹紅が手に持っている焼き鳥は一目見ただけで美味しそうだと言う事が解ったので、
「ああ、食う食う」
瞬時に食べる事を霊児は主張し、妹紅から焼き鳥串を受け取って食べ始めた。
ガツガツと言う様な音が聞こえそうな勢いで焼き鳥を食べている霊児に、
「相変わらず、食い気が凄いわね」
妹紅は若干呆れた視線を向けつつ、自分も焼き鳥を食べ始める。
そして、二人が焼き鳥を食べ終えたタイミングで、
「こんばんは、お二人さん」
霊児と妹紅の背後から挨拶の言葉が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した霊児と妹紅は焼き鳥串を近くに在ったゴミ箱に捨て、振り返る。
振り返った先には、風見幽香の姿が在った。
どうやら、挨拶の言葉を掛けて来たのは幽香であった様だ。
挨拶の言葉を掛けて来たのが誰であるかを知ったからか、
「貴女も来てたのね、幽香」
少し驚いた表情を妹紅は浮べる。
驚いた表情を浮べている妹紅を幽香は視界に入れつつ、
「ええ、パーティの招待状が届いたからね。それより、ここ最近会ってなかったけど元気そうね、妹紅」
自分の所にも招待状が届いた事を伝え、妹紅にここ最近会ってはいなかったが元気そうで何よりだと言う。
そう言われた妹紅は少し好戦的な笑みを浮かべ、
「貴女も元気そうで何よりだわ、幽香」
幽香も元気そうで何よりだと返し、幽香と視線をぶつけ合う。
視線をぶつけ合っている妹紅と幽香の二人を見て、
「……ああ」
岡崎夢美が起こしたとも言える異変で戦って以来、この二人がライバル意識を持つ様に成った事を霊児は思い出した。
ライバル意識を持っていると言っても、妹紅と幽香は軽い手合わせをする程度と言う比較的良好な関係を築いている。
妹紅にしろ幽香にしろ中々に激しい部分が在るので割と平和な所に収まったのは少々以外だったと言う事を霊児が改めて思っていると、
「そうはそうと、一寸疑問なのよね」
一寸した疑問が在る事を幽香が呟いた。
幽香の呟きを聞き、
「疑問? 何がよ?」
妹紅は抱いた疑問を話す様に促す。
促された幽香は、
「私にまでパーティの招待状が来た事が……よ。ここの連中とはお呼ばれする程の付き合いが在ったとは思えないんだけど……」
抱いた疑問をその儘口にする。
確かに、幽香と紅魔館の面々に接点と言える様なものは殆ど存在しない。
接点が無いのであれば、幽香が紅魔館で開かれるパーティに招待されると言う事は無いであろう。
だが、現実はパーティの招待状が幽香にも届いている。
なので、霊児は頭を回転させていく。
何故、幽香にも招待状が来たのかと言う答えを出す為に。
取り敢えず、今現在の自分が知り得ているパーティに招待された面々の姿を霊児は頭に思い浮かべ、
「……ああ、成程。何でお前が招待されたのかが分かった。序に招待状を配られた面々の共通点も」
幽香に招待状が配られた理由と招待状を配られた面々の共通点に気付いた。
短い時間で答えを得た霊児に妹紅と幽香は少し驚くも、直ぐに気を取り直し、
「あら、それは何かしら?」
「早速、分かった事を聞かせて貰いましょうか」
早く気付いた事を言う様にと霊児を急かす。
急かされたからか、
「単純に、俺と付き合いが在るからだよ。招待状が配られている面々って俺と付き合いが在る奴ばかりだし」
霊児は単刀直入に得た答えを述べた。
述べられた答えを耳に入れ、頭の中で纏めた結果、
「……ああ、成程」
納得がいったと言う表情を幽香は浮べる。
でなければ、紅魔館に居る面々と接点が全く無いと言って良い存在である幽香にも招待状が配られる訳が無いからだ。
尤も、招待された面々が霊児との付き合いがある者ばかりと言う理由に付いては分からないが。
一応世話になったのだから、霊児に気を使って霊児との付き合いが在る者に招待状を送ったのかと言う事を妹紅が考え始めた辺りで、
「と言っても、魔界の面々にまでは手が回らなかったみたいだがな」
補足するかの様に、霊児は魔界の者達には招待状が届いていない事を話す。
それを知った幽香は、
「まぁ、それは仕方が無いじゃかしら。魔界は広いしね。前に魔界に突入した時だって、霊児の勘が無ければ何日魔界を彷徨う事になったか分からないし」
魔界の者には招待状が届いていないのは仕方が無いと言う様な事を漏らした。
魔界と言う世界は幻想郷とは比べ物にならない程に広大な世界だ。
はっきり言って、そんな広大な世界で前情報無く届け物を届けると言うのは不可能に近い。
幾ら咲夜が時間を操る程度の能力を持っていたとしてもだ。
と言うより、魔界に住まう者で無い者が魔界で時間を止めたりしたら。
その場合、時間を止めた事を察知した魔界に住む者に宣戦布告を受けたと判断されるかもしれない。
更に言えば、宣戦布告に託けて暇を持て余した神綺辺りが霊児に戦いを仕掛けて来る可能性が十分に考えられる。
理由はどうであれ、魔界に居る面々に招待状が配られなかったのは霊児に取っては助かったと言っても良いだろう。
流石に大した理由も無いのに創造神である神綺と戦うのは勘弁したいからだ。
パーティの招待状を魔界にまで届けなかった咲夜に霊児が軽い感謝の念を抱いている間に、
「それはそうと、私は貴方のお陰でここにお呼ばれされたって事になるわね」
幽香は霊児の方に顔を向け、
「なら、お礼を言わせて貰おうかしら」
軽い礼の言葉を掛ける。
急に礼を言われたからか、
「ん? 何だよ急に?」
訝し気な表情を霊児は浮べてしまう。
そんな霊児に、
「前々から、ここの花壇には興味が在ったのよ。こう言う機会でも無いとここの花壇をじっくり見られなかっただろうし」
紅魔館の花壇には前々から興味を抱いていた事を幽香は教え、
「ここの花壇の花、随分丁寧に育てられた見事なものだわ」
紅魔館で育てられている花を称賛する発言を零す。
四季のフラワーマスターとも言われる幽香が称賛する位だ。
実際、紅魔館で育てられている花は見事なものなのだろう。
紅魔館で育てられている花に付いての評価が幽香から下された後、
「相変わらず、花が好きよね。幽香は」
「ま、花妖怪らしいからな」
妹紅と霊児の二人は、幽香は相変わらず花が好きだなと言う感想を抱く。
二人から自分に対する感想が耳に届いたからか、幽香は霊児と妹紅の方に顔を向け、
「あら、霊児は兎も角妹紅。女である貴女なら花に対しての憧れが幾らか在るでしょうに」
霊児は兎も角妹紅なら花に対する憧れが在るだろう言う。
「花にねぇ……まぁ、無いとは言わないけど……」
「だったら、私が貴女に似合いそうな花でも見繕って上げましょうか?」
言われた事を肯定した妹紅に、幽香が似合う花でも見繕おうかと提案する。
「私に似合う花……ねぇ。例えば?」
「そうね……貴女にはオウムバナが似合いそうね」
「オウムバナ……確か赤い色をした花だったわよね? 花言葉は?」
「風変わりな人よ」
「風変わりな人……ねぇ……」
幽香に自分に似合いそうな花に付いて言及された妹紅は、確かになと思った。
自分自身の在り方が不老不死にしては変わっている事を十分に自覚しているからだ。
割と仲良く会話を妹紅と幽香を見ながら、
「本当、平和的な所に落ち着いたもんだよな。あいつ等」
改めてと言った感じで妹紅と幽香の関係は平和な所に落ち着いたと霊児はポツリと呟いた。
妹紅と幽香の二人とパーティ会場で会ってから暫らく経った後、霊児は二人と別れて再び会場内を彷徨っていた。
彷徨っていたと言っても、食べ歩きをしていただけだが。
兎も角、食べ歩きを楽しんでいる霊児に、
「楽しんでるかしら?」
配膳をしていた咲夜が声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は咲夜の方に顔を向け、
「ああ、それなりにな」
それなりにと返す。
霊児の表情からパーティを楽しんでいる事を察せられたからか、
「そう言って貰えると、このパーティ会場に在る料理を作った甲斐があったわ」
咲夜は料理を作った甲斐があったと言って軽い笑みを浮べる。
咲夜が発した台詞から、
「この会場内の料理、やっぱりお前が全部作ったのか?」
パーティ会場の料理を全て咲夜が作ったのだと言う確信を霊児が得ていると、
「ええ。妖精メイドにこんな料理は作れないし、美鈴は門番。パチュリー様に手伝わせる訳にもいかなし、小悪魔はパチュリー様の御付。お嬢様、妹様の
御二方に手伝わせる何て以ての外だしね」
自分しか料理を作る者が居なかったと言う事を口にした。
確かに、紅魔館で生活している面々の中で料理を作れる者として上げられる者の筆頭は咲夜であろう。
と言うより、パーティで出す料理を一人で作れなければ紅魔館のメイド長は勤まらないのかもしれない。
鍋料理だけなら自分でもパーティで出す量を作れそうだと言う事を霊児が思い始めた時、
「見付けたわよ!!」
パチュリーが声を荒げながら霊児の方に近付いて来た。
それに気付いた霊児はパチュリーの方に顔を向け、
「何だよ、声を荒げて。どうしたんだ?」
どうかしたのかと問う。
問われたパチュリーは霊児を睨み付ける様に、
「貴方でしょ!! あの天狗を嗾けたの!! そのお陰で私が食べようと思ってた野菜スティックを食べ損ねたじゃない!!」
何が遭ったのかを説明し、霊児に詰め寄って行く。
やはりと言うべきか、文はパチュリーにインタビューをしていた様だ。
声を荒げ、霊児に詰め寄っているパチュリーを見た咲夜は、
「パチュリー様、そう叫ばれると御体に障りますよ」
体に障るので少し落ち着く様にと言う言葉を掛ける。
が、
「大丈夫よ。今日は調子が良いから」
パチュリーからは調子が良いので平気と言った言葉が返されてしまう。
パチュリーの様子から、この儘では面倒臭い事に成りそうだと言う未来を霊児は感じ取り、
「まぁまぁ、これでも食って落ち着けって」
近くのテーブルの上に乗っかっていた食べ物を手で掴み、掴んだ食べ物をパチュリーの口に中に放り込む。
食べ物を強制的に口の中に放り込まれたパチュリーは、口の中に入った食べ物を数回程噛んで飲み込んだ瞬間、
「辛ッ!!」
口元を押さえ、屈み込んでしまった。
急にパチュリーが屈み込んだ事を霊児は不審に思い、
「俺……何食わせた?」
思わず自分は何を食わせたのかと呟いてしまう。
そんな呟きが耳に入ったからか、
「今回作った料理で辛い物と言えば……辛子明太子位かしら」
咲夜は下唇に人差し指を当て、作った料理の中で辛い物の名を上げる。
「辛子明太子?」
辛子明太子と言う食べ物に聞き覚えが無いと言った表情を浮べてしまったので、
「確か……タラって言う海に住んで居る魚を使った物よ」
辛子明太子がどう言った食べ物であるかを咲夜は簡単に説明した。
「……海? 幻想郷に海は無いのにどうやって海に居る魚何て手に入れたんだ?」
「えーと……魚屋の店主が言うには、定期的……って程じゃ無いらしいんだけど昔から外の世界の食材などを売りに来てる者が居るらしいのよ」
海の魚の入手経路に付いて疑問を霊児は覚えたが、魚屋の店主が言っていた事を咲夜から聞いた事で、
「……成程」
納得した表情を浮べる。
しかし、代わりに気になる事が一つ出て来た。
気になる事と言うのは、外の食材を売りに来ている者。
幻想入りして来た物を売り払っているのなら未だしも、咲夜の台詞から察するに外の世界の物を売っている者は自由に幻想郷と外の世界を行き来しているのだろう。
博麗大結界を弄って外の世界との出入り口を作ると言った方法をせずに。
何故そう言い切れるのかと言うと、博麗大結界に何かあれば霊児はそれを感じ取る事が出来るからだ。
兎も角、幻想郷と外の世界を自由に行き来する事が出来る者には多少の警戒をする必要があるだろう。
だが、そこまで警戒する必要は無いとも霊児は思っている。
何故ならば、何か事を起こすのならとっくの昔に起こしているであろうからだ。
仮にこれから先に、何か幻想郷の存在をそのものを揺るがす何かを起こそうとするのなら。
その時は瞬時に犯人を叩き潰せば良い。
そこまで霊児が考えた辺りで、
「……水!! 水!!」
屈んでいたパチュリーが勢い良く立ち上がり、水を要求し始めた。
パチュリーが出した要求を予測していた咲夜は、
「こちらに」
水が入ったコップを乗せたトレイをパチュリーに差し出した。
差し出されたコップをパチュリーは引っ手繰るかの様に掴み、コップの中の水を勢い良く飲み始める。
そして、パチュリーが全ての水を飲み干したタイミングで、
「あら、随分と盛り上がってるじゃない」
「あれ、何かパチュリーが疲れているみたいだけど……どうしたの?」
霊児達が居る場所にレミリアとフランドールがやって来た。
レミリアとフランドールの来訪に気付いたパチュリーはレミリアの方に顔を向け、
「一寸、聞いてよレミィ!!」
文にインタビューをされた事、霊児に辛子明太子を口の中に放り込まれた事と言ったこれまでの経緯の愚痴を零していく。
一通りパチュリーの愚痴を聞いた後、
「……あら? パチェって辛い物、苦手だったかしら?」
レミリアは疑問気な表情を浮べてしまう。
幾ら記憶を掘り起こしても、パチュリーが辛い物を苦手としている記憶は無かった様だ。
何やら考え込んでいるレミリアを見て、
「……パチュリー様が食された辛子明太子は通常の物よりも辛くした物ですので、そのせいでは? 合わせ食いや纏めて食べる者が多いと思いましたので
辛子明太子を通常の物よりも辛くしたのですが……裏目に出ましたかね?」
パチュリーの食した辛子明太子は通常の物よりも辛くしている事を咲夜は説明する。
説明された事に興味を抱いたフランドールは辛子明太子を口に入れ、
「んー……そんなに辛いかな? 私は丁度良いけど」
自分に取っては丁度良いと言った感想を漏らす。
どうやら、パチュリーが思わず屈み込んでしまう辛さの食べ物でもフランドールに取っては丁度良い辛さであった様だ。
辛子明太子の味が気に入ったからか、フランドールはもう一個辛子明太子を食べ様と手を伸ばしたタイミングで、
「……って、フラン。口周り」
フランドールの口周りが汚れている事に気付いたレミリアはハンカチを取り出し、フランドールの口周りを拭っていく。
幸いと言って良いかは分からないが、咲夜とパチュリーの視線はレミリアとフランドールの方に向いている。
姉らしい事をしているレミリアが珍しいのだろうか。
ここ暫らく一緒に暮らして霊児に取っては割りと見慣れた光景ではあるが、咲夜とパチュリーに取っては珍しい光景なのだろう。
それはそれとして、パチュリーの意識がレミリアとフランドールの方に向いている間に、
「………………………………………………」
霊児は今居る場所から静かに離れて行った。
何故静かに離れて行ったかと言うと、パチュリーに気付かれるのを避ける為だ。
気付かれたら確実に文のインタビューの件、口の中に辛子明太子を放り込んだ件に付いて文句を言って来る事が予想出来たからである。
静かに離れたお陰か、霊児はパチュリー達に気付かれる事無く離脱出来たので、
「さて……」
食べ歩きを再開する為、再びパーティ会場内を彷徨い始めた。
パーティ会場内を再び彷徨い始めてから幾らか時間が経った時、
「お、ワイン見っけ」
霊児はテーブルの上にワイン瓶が在るのを発見した。
少々喉が渇いていた霊児はワイン瓶を手に取り、空のグラスにワインを注いでいく。
そして、グラスにワインが満たされたタイミングで、
「博麗霊児ではないか」
誰かが霊児の名を呼んで来た。
呼ばれた自分の名に反応した霊児はグラスにワインを注ぐのを止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、
「大天狗」
大天狗の姿が在った。
どうやら、霊児に声を掛けて来たのは大天狗であった様だ。
改めて言った感じで霊児が大天狗の風貌を見ていると、大天狗の手にワインで満たされているグラスが在るのが目に映る。
それを見た霊児は折角なのでと思いながらワインで満たされたグラスを手に取り、
「相変わらずの様だな、貴公も」
「そう言うお前もな、大天狗」
大天狗と軽い挨拶を交わしてお互いのグラスを合わる。
軽い乾杯を交わした後、二人は同時にワインを飲んでいき、
「ふむ……」
ワインを飲み干すと大天狗は軽く周囲を見渡し、
「しかし、洋食を食するのも久しいな」
洋食を食するのも久し振りだと呟く。
大天狗が呟いた事が少々気に掛かった霊児は、
「そうなのか?」
大天狗に妖怪の山の食事事情に付いて聞く事にした。
聞かれた大天狗は、
「うむ、他は知らぬが儂等天狗が妖怪の山で食するのは和食が中心であるな」
天狗に限れば食しているのは和食が中心だと言う事を教え、
「そう言う貴公はどうなのだ? やはり、和食ばかりなのか?」
そう言う霊児はどうなのかと聞き返す。
「俺か? 俺は基本的には鍋料理……和食になるな。唯、ここ最近はレミリアの奴が洋食を食べたいって言っていたから洋食が多かったな。後は魔理沙に
頼めば色々と作ってくれるぞ。和食、洋食、中華の何でも」
「……そう言えば、貴公の神社にあの姉妹が居候していたのであったな」
聞き返された答えから、大天狗はスカーレット姉妹が博麗神社に居候していた事を思い出し、
「吸血鬼が神社に泊まる……か。字面だけで見たら普通では考えらぬ事だな」
霊児に軽い突っ込み入れる。
入れられた突っ込みは尤もであるからか、
「確かに」
霊児は肯定の返事をしながら苦笑いを浮かべた。
その瞬間、
「大天狗様!! ステーキを探して参りました!!」
ステーキを持った椛が霊児と大天狗の傍に現れる。
現れた椛に気付いた大天狗は椛の方に顔を向け、
「すまんな、犬走椛よ。宴会……パーティだと言うのに使い走りの様な真似をさせて……」
礼を述べながら椛からステーキを受け取り、ステーキを食べ始めた。
中々に豪快な食べっ振りでステーキを食べている大天狗を尻目に、
「よう、椛」
取り敢えずと言った感じで、霊児は椛に挨拶の言葉を掛ける。
挨拶の言葉で霊児が大天狗と一緒に居た事に椛は気付き、
「あ、こんばんは。霊児さん」
少し慌てた動作で頭を下げた。
そんな椛を見て、文と違って椛は真面目だと言った事を霊児は改めて思いつつ、
「やっぱり、お前等の所にもパーティの招待状は届いてたんだな」
やっぱり椛と大天狗にも招待状が届いていたんだなと言う。
霊児が言った事が耳に入った椛は顔を上げ、
「正確に言うと、文さんの元に届けられた招待状が文さんの手で大天狗様と私に届けられたのです」
訂正するかの様に招待状は文の手から大天狗と自分に届けられた事を話す。
椛からの話を頭に入れた霊児は、納得した表情を浮かべた。
基本的に人間の立ち入りを禁止している妖怪の山に人間が入って来た事が発覚したら。
下手をすれば妖怪の山に居る天狗全てを敵に回してしまう可能性が在る。
色々と融通を利かせてくれそうな文なら兎も角、生真面目な椛や立場上見過ごす事が出来そうに無い大天狗に見付かったら事だろう。
故に、咲夜は文に椛と大天狗に招待状を渡す様に頼んだのだろう。
おそらく、にとりにも。
咲夜が文に他三名への招待状を渡してくれと頼んだ理由に付いて霊児が推察した辺りで、
「しかし、少し前までなら考えられなったであろうな。儂が紅魔館主催のパーティに参加すると言う事は」
ステーキを食べ終えた大天狗が紅魔館のパーティに参加する事になるとは思わなかったと呟く。
大天狗からしてみたら、紅魔館は嘗て大きな戦いを繰り広げた相手。
と言っても、嘗て大天狗達が紅魔館と戦った時は先代と今代の博麗が居なかった空白の時期。
大天狗達と紅魔館の面々が戦った時に、人間である咲夜の存在は無かった筈だ。
まぁ、咲夜の存在の有無は余り関係無いであろうが。
兎も角、嘗て大きな戦いを繰り広げた紅魔館から招待状を送られた事が大天狗に取っては驚くべき出来事であった様である。
だからか、
「……ふふ、考えもしなかった事が起こるか。だからこそ、面白い」
大天狗は軽い笑みを浮かべた。
何処か楽し気な雰囲気を見せ始めた大天狗を余所に、
「んー……洋食何て余り食べ無いからか、とても美味しく感じるなぁ……」
テーブルの上に並んでいる洋食を食べながら、椛は洋食に対する感想を漏らす。
やはり、普段余り食さない物を食せば何時もよりも美味しく感じるのだろう。
ならば、ここ最近洋食ばかり食べていたのは損だったかと霊児は一瞬思ったが、
「……ま、いっか」
美味い食べ物を食べられるのならば別に良いかと判断し、椛と同じ様に洋食を食べ始めた。
椛、大天狗と一緒に食事を取った後、霊児はまたパーティ会場内を彷徨っていた。
まだまだ腹に余裕は在る様で、目ぼしい物を適当に食べながら。
そんな感じで適当にパーティ会場内を散策していると、
「あ、魅魔様。グラスの中が空になってますよ。御注ぎしますね」
「お、悪いね」
魅魔のグラスにワインを注いでいる魔理沙の姿が霊児の目に映った。
更に、
「くっ!! 秋の食物って訳でもないのにかなり美味しいじゃない!!」
「これは……秋の神である私達に対する挑戦ね」
「そんな事は無いと思うけどなぁ……」
穣子と静葉の秋姉妹ににとりの姿も見られる。
折角見知った顔を見掛けたので、霊児は魔理沙達が集まっている所に向かい、
「よう」
軽く挨拶の言葉を掛けた。
掛けられた声に反応した魔理沙は霊児の方に顔を向け、
「おう」
挨拶の言葉を返す。
同時に、
「……あれ? 霊児、何も持って無いんだな」
魔理沙は霊児が自身の手に何も持っていない事に気付き、
「私が何か見繕って来ようか?」
自分が食べ物を持って来ようかと言う提案を行なう。
自分で食べたい物を集めると言う行為に少々面倒臭いものを感じたからか、
「ああ、頼む」
魔理沙の提案を霊児は受け入れた。
すると、魔理沙は笑みを浮かべ、
「了解。一寸待っててくれよ」
了承の返事と共に料理が乗っかっているテーブルの方に向って行く。
魔理沙がテーブルの方で料理を見繕っている間に、
「楽しんでるかい? 霊児」
魅魔が霊児に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は魅魔の方に顔を向け、
「ま、それなりにな」
それなりに楽しんでいると口にする。
「そりゃ良かった。こう言う行事は楽しんで何ぼだからね」
霊児から楽しんでいる様子を感じ取れた為、魅魔は軽い笑みを浮べた瞬間、
「霊児!! 霊児もここに並んでいる料理は秋の神である私達に対する挑戦だと思うわよね!!」
「霊児さんもそう思いますよね!! このパーティに出されている料理が秋の神である私達に対する挑戦であると!!」
「霊児ー、この御二方を何とかしてよー」
穣子と静葉の二柱が霊児に絡み始め、にとりが霊児に助けを求めて来た。
察するに、秋姉妹はにとりに愚痴を聞かせ続けられた様だ。
とは言え、ここでにとりを助けてたら秋姉妹の愚痴の矛先が自分に向いてしまうので、
「あー……取り敢えず、ワインでもがぶ飲みしてろ。お前等」
霊児は適当にあしらうかの様にワインでも飲んでいろと言う。
普段であればそんな事を言われても何の意味も無かったであろうが、現在はアルコールが入っていたからか、
「そうね!! こう言う時は沢山飲むに限るわ!!」
「そうと決まれば、早速行きましょう!!」
穣子と静葉は何の疑いも無く、ワインが沢山並んでいる所へと向かって行った。
「ちょ!! 助けてよー!! 霊児ー!!」
何やら霊児に助けを求めているにとりを連れて。
そんな二柱と一人の様子を見届けた後、
「おーい、持って来たぞー!!」
大きな皿を手に持った魔理沙が霊児の傍まで戻って来た。
皿の中には様々な種類の料理が並べられている。
「お、美味そうだな」
魔理沙が持って来た料理を見て、美味そうだと言う感想を漏らした霊児に、
「そりゃ霊児が好きな物ばかり入れて来たからな」
魔理沙は霊児の好きな物ばかりを入れて来たから美味しそうに思えるのは当然だと述べ、
「……はい、あーん」
食べ物の一つをフォークで刺し、食べ物が刺さったフォークを霊児へと突き出した。
自分にご飯を食べさせ様とした魔理沙に霊児は少し驚くも、直ぐにある事を思い出す。
思い出した事と言うのは、今現在居る場所がパーティ会場だと言う事を。
パーティならば多少のアルコールが入り、テンションなどが上がるのはある意味当然。
ならば、魔理沙がこう言った行動に出るのもある意味自然だ
なので、霊児は特に抵抗する事も無く突き出された食べ物を食べ始めた。
そして、魔理沙に食べさせられる形で霊児は食事を取っていく。
そんな二人の様子を見て、
「……私、お邪魔かね?」
小さな声で自分は邪魔かと魅魔は呟いた。
紅魔館でのパーティが終わり、自分の神社である博麗神社に帰って来た霊児は、
「あー……食った食った」
縁側にある柱に背を預け、満足気な表情を浮べながら視線を天へと移す。
天へと移した霊児の目には、綺麗な月が映った。
映った月をボーッとした表情で見ながら、霊児は思う。
静かだと。
まぁ、静かなのはある意味当然だ。
何時も遅くまで騒いで連中が居ないのだから。
紅魔館の修復が完了した事でスカーレット姉妹は紅魔館に戻り、それに伴うかの様に魔理沙も魔法の森に在る自分の家へと戻って行った。
因みに、この三人と同じ様に博麗神社に居候していた魅魔も居なくなっている。
おそらく、魔理沙に付いて行ったのだろう。
秋姉妹に関しては幾ら秋だと言っても四六時中博麗神社に居座っている訳でも無いので、今ここに居なくても大した問題では無い。
それはそうと、久々の一人。
だからか、
「……ふぅ」
霊児は軽い寂しさの様なものを覚えた。
が、覚えたその寂しさも直ぐに収まる。
今までずっと、一人で暮らしをしていたのだから。
自分の中で発生した軽い感情を整理した後、
「……………………………………………………」
久々とも言える静かな夜を楽しみながら霊児は瞼を閉じ、夢の世界へと旅立って行った。
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