「……んあ?」

妙な違和感を感じながら霊児は目を覚まし、周囲の様子を確認する為に顔を動かしていく。
顔を動かし始めてから幾らか経った頃、

「……何所だ? ここ?」

霊児の口からそんな言葉がポツリと漏れた。
何故、その様な言葉が漏れたのか。
答えは簡単。
目に映った光景全てが赤紫色をしていたからだ。
色合いは違うものの、まるでレミリアが幻想郷中に紅い霧を充満させた時の様に。

「……若しかして、紅魔館が復興した記念にまた異変でも起こしたのか? あいつ」

今見えている光景から、レミリアがまた異変でも起こしたのではと考えた時、

「……ん? 俺、空中に居るのか?」

霊児は自分の体が地面などに接していない事に気付き、視線を落とす。
すると、黒い色をした大地が目に映った。
赤紫色をした空間に黒い色をした大地。
この二つの事から今現在居る場所が幻想郷では無い事を理解した霊児は、

「……何で、俺はこんな所に居るんだ?」

寝る前に何があったのかを思い返す事にした。

「えーと……紅魔館でのパーティに出席し、それが終わった後に神社に戻って、縁側でボケッーとしながら……寝た……か?」

一通り思い出しだ結果、

「……ここは俺の夢の中か?」

今居る場所が自分自身の夢の中であると霊児は断定し掛けたが、

「いや……違う。ここは俺の夢の中じゃない」

直ぐに断定し掛けた事を否定する。
そして、

「夢の中にしちゃ俺の意識はハッキリしてるし、俺自身の感覚も不安定じゃない」

自分に言い聞かせる様に夢ではないと断定した理由を呟き、自分の拳を握ったり開いたりして感覚を確かめていく。
拳を握ったり開いたりと言った行為で改めてここが自分自身の夢の中ではない事を霊児は理解し、

「何で俺がこんな所に来たのか。考えられる可能性は二つ。俺自身が知らぬ間にこの空間に迷い込んだのか、それとも何者かに連れて来られたのか……だ。
で、問題はどう言った方法でここに来たか何だが……」

どの様な方法でここに連れて来られたかの答えを出す為に頭を回転させていく。
しかし、幾ら頭を回転させても答えが出なかったので、

「……取り敢えず、先に進むか。先に進めば何かしらの事が分かるだろうしな」

先に進んで何か手掛かりを探す事にし、霊児は移動を始めた。
























霊児が移動を始めてから幾らか時間が経つと、

「お……」

進行方向上に人魂の様な白い物体が何体も現れた。
この妙な空間とも世界とも言える様な場所に来てから初めて出会った存在。
若しかしたら何かしらの情報が得られるかもしれないと霊児は一瞬思ったが、

「ま、こうなるよな」

現れた白い物体達が有無を言わずに弾幕を放って来た為、霊児は思った事を撤回するかの様に溜息を一つ吐く。
霊児の反応を見るに、この展開は予想出来ていた様である。
まぁ、今までの異変解決の道中で現れた者の殆どが敵であったのだ。
現れた者が敵と言う予想は出来るのはある意味当然なのかもしれない。
尤も、今回のこれが異変解決の道中かと問われたら首を傾げてしまうが。
それはそうと、この儘のんびりとしていたら白い物体が放った弾幕に当たってしまうだろう。
態々弾幕に当たってやる気は霊児には全く無いので、霊児は回避行動を取りながら掌を白い物体が居る方に向け、

「そら」

弾幕を放つ。
放たれた弾幕は次々と白い物体に当たっていき、白い物体達を撃ち落していく。
白い物体全てを撃ち落すと、霊児は弾幕を放つ事と回避行動を取るのを止め、

「ふむ……」

白い物体達がやって来た方に顔を向け、

「今までの経験上、襲撃者が来た方向に行くのが吉だな」

今までの経験から襲撃者が来た方に向かえば何かしらの情報が得られると言う判断を下し、今後の進行方向をどうするかを決めた。
そして、

「……よし」

霊児は何かを決意したかの様な表情を浮かべ、進行スピードを大きく上げる。
この儘何事も無く手掛かりを見付けられれば良かったのだが、

「ま、そう上手くはいかないよな」

そう上手くはいかなかった。
何故ならば、また襲撃者が現れたからだ。
と言っても、今回現れたのは白い物体ではなく目玉。
おまけに数もそれなりに多い。
目玉がその儘飛んで来ると言う光景に中々にシュールだと言う感想を霊児が抱いたタイミングで、目玉達は弾幕を放って来た。
放たれた弾幕は範囲が広く、弾速が速い。
並大抵の者ならば、直ぐに目玉達が放った弾幕の直撃を受けてしまう事であろう。
だが、

「おっと」

放たれた弾幕が霊児に当たる事は無かった。
いや、当たる処か迫り来る弾幕の隙間に容易く体を滑り込ませてお返しと言わんばかりに弾幕を放っているではないか。
更に言えば霊児がお返しとして放っている弾幕は目玉達が放っている弾幕に当たる事なく目玉達に命中し、目玉達を撃ち落していく。
これ等を平然と容易く行なえる辺り、流石は今代の博麗と言ったところか。

「……何か、異変解決の道中みたいだな」

次々と撃ち落されていく目玉達を視界に入れながら、異変解決の道中みたいだと言う事を霊児は思い始めた。
魔界に突入した時にしろ、レミリアが起こした異変を解決に向かった時にしてもこうやって進行方向上に邪魔者が現れたのだからそう思うのも無理はない。
が、今までの異変解決の道中とは違って同行者が誰も居ないと言う違いもある。
霊児が異変解決に行こうとすれば誰かしらが同行して来たが、今回は一人。
まぁ、霊児自身どうやってこの空間に来たかは分からないのだ。
誰も付いて来れないのはある意味当然である。
少しの間、一寸した感慨に霊児が耽っていると、

「お……」

何時の間にか弾幕を放っていた目玉達が一掃されていた。
目の前の脅威が無くなった以上、弾幕を放つ必要性も無くなったので、

「ふぅ……」

一息吐きながら霊児は弾幕を放つのを止め、

「……よし」

少し気合を入れたかの様な表情を浮かべながら再び先へと進み始める。
しかし、再び進み始めた矢先に、

「ッ!!」

何も無い場所から弾幕が現れ、現れた弾幕が霊児の方へと一斉に向かって行く。
自身の方へと向かって来る弾幕を霊児は体を回転させながら避けて行くが、

「あれは……」

進行方向上に黒い球体が幾つも見られた為、一旦動きを止めて黒い球体に目を向けた。
黒い球体に目を向けた霊児は、

「ルーミア……いや、違うか」

一瞬ルーミアかと考えたのだが、直ぐに首を横に振って考えた事を否定する。
否定した理由はルーミアが自分を包み込む様に生み出す闇と比べたら黒い球体は小さいし、何より黒い球体の数が一つではないからだ。
一応、ルーミアが自分と似た様な能力を持った者を集めて指揮をしていると言う可能性も無くはないが。
ルーミアと黒い球体の関係がどうであれ、白い物体に目玉と霊児の邪魔をして来たものに続いて現れたものが黒い球体。
二度ある事三度あると言う諺が在る為、霊児が少し用心した様子を見せた瞬間、

「やっぱりな」

黒い球体達が一斉に弾幕を放って来た。
黒い球体から攻撃が放たれる事は予想出来ていた為、霊児は余裕の表情で回避行動を取りながらお返しの弾幕を放とうとした刹那、

「……ん?」

ある事に気付く。
何に気付いたのかと言うと、自分と黒い球体の距離が思っていたよりも近いと言う事。
弾幕を放って攻撃をする様な距離でも無いので、霊児は弾幕を放つのを中断しながら一番近くに居る黒い球体に肉迫し、

「そら!!」

拳を振るう。
振るわれた拳は勢い良く黒い球体に激突し、黒い球体を明後日の方向へと殴り飛ばした。
それを合図にしたかの様に霊児は近くに居る黒い球体達に片っ端から拳を叩き込み、殴り飛ばしていく。
そして、霊児が全ての黒い球体を殴り飛ばしたタイミングで、

「……ん?」

新たな黒い球体が霊児を取り囲む様にして現れた。
単純に考えれば増援が来たと思えるが、

「増援……いや、違うか。上位種か?」

先の黒い球体と違う部分が見られた為、霊児は先の黒い球体の上位種ではないかと言う予想を立てていく。
因みに、違う部分と言うのは中心部に雷を宿しているか否かである。
単純に能力が上がったのか、それとも何かしらの特殊能力を有しているのか。
その事に付いて霊児が思案し様とした時、霊児を囲んでいる雷を宿した黒い球体が弾幕を放って来た。
但し、弾幕が放たれた方向は霊児が居る内側ではなく霊児の居ない外側であったが。

「何……」

内側ではなく外側に弾幕を放った事に霊児が疑問を覚えたのと同時に、雷を宿した黒い球体が霊児との距離を詰めに掛かった。
距離を詰められた事で包囲網から脱出した自分を外側に放っている弾幕で仕留める気かと予測した霊児は、

「しっ!!」

目にも映らぬ速さで拳撃と蹴りを放ち、自身を取り囲んでいる雷を宿した黒い球体を全て破壊する。
これで霊児の邪魔をするものは無くなったのだが、霊児は移動を再開せずに自分の手足を見詰め、

「……雷が纏わり付いてるのか」

攻撃を行なった手足に雷が纏わり付いているのかと呟く。
どうやら、雷を宿した黒い球体は直接攻撃をした箇所に雷を纏わせて来る様だ。
所謂、最後の悪足掻と言うやつである。
とは言え、只の悪足掻きで済まないのがこの雷。
並大抵の者ならば纏わり付いている雷のせいで継続的なダメージを受けてしまう事であろう。
無論、継続的なダメージを受けるのは並大抵の者であって霊児の様な実力者はその限りでは無いが。
だが、幾らダメージを受けないと言っても纏わさっている雷は鬱陶しい事この上無い。
なので、

「……ッ!!」

霊児は自身の霊力を解放し、纏わり付いている雷を吹き飛ばした。
いや、吹き飛ばしたと言うより掻き消したと言った方が正しいであろうか。
兎も角、手足に纏わり付いていた雷が無くなったのと同時に霊児は霊力の解放を止めて移動を再開する。
先へと進みながら次はどんな存在が出て来るのかと言う事を霊児が思っていると、

「……と」

霊児の直ぐ近くを青い色をした炎の塊が通過して行った。
つい通過して行った青い色をした炎に霊児は目を向けてしまったが、

「ッ!!」

直ぐに向けていた顔を正面へと戻す。
何故かと言うと、今通過した青い色をした炎が次々と飛来して来たからだ。
これまで様に青い色をした炎も弾幕で迎撃し様としたが、青い色をした炎そのものが攻撃を仕掛けて来る気配が見られなかった為、

「……………………………………………………」

弾幕を放つと言った事はせずにその儘進行を続行した。
勿論、自分に当たりそうな青い色をした炎を避けながら。
青い色をした炎が飛来し始めてから少しすると、唐突に青い色をした炎が飛来して来なくなった。
が、青い色をした炎と入れ替わるかの様に最初の方で出て来た目玉達が現れたではないか。
この目玉の生息区域は意外と広いのかと言う事を霊児が考えている間に、目玉達から弾幕が放たれた。
放たれた弾幕を見た霊児は進行をスピードを変えずに回避行動を取り、弾幕を放って目玉達を次から次へと撃ち落していく。
再び現れたとも言える目玉達を一掃し終えた後、

「またか」

今度は先程倒した中心部に雷を宿した黒い球体が現れた。
雷を宿した球体を己が手足で倒したら手足に雷が纏わり付いてしまったので、同じ轍を踏まない様に霊児は弾幕で雷を宿した黒い球体を撃ち落していく。

「……良し、体に雷は纏わり付いて無い」

弾幕で雷を宿した黒い球体を撃墜しても自身の体に雷が纏わり付かない事を確認出来たからか、霊児は放つ弾幕の量を増やして撃破スピードを上げる。
目玉達と同じ様に雷を宿した黒い球体も全て撃破した後、雷を宿していない普通の黒い球体が現れたは弾幕を放って来た。
出て来る順番的に逆なのではと言う疑問を霊児は抱いたが、悩んだところで答えは出そうないのでその儘弾幕で黒い球体も撃ち落す事にした。
そして、黒い球体も全て撃破した辺りで、

「……ん?」

これで打ち止めと言わんばかりに襲撃が止んだ。
襲撃が止んだと言う事もあり、霊児は弾幕を放つのを止める。
同時に、回避行動と進行も止めて周囲の様子を確認し始めた。
暫しの間周囲の様子を確認しても、目玉や黒い球体と言ったものが見られなかった為、

「……今さっきので打ち止めだったみたいだな」

もう打ち止めであると霊児は判断し、警戒心を解きながらまた先へと進んで行く。
しかし、ある程度先に進んだ辺りで、

「何……」

何も無い所から弾幕が現れ、進行方向上から青い色をした炎が飛来して来たではないか。
自分の方に向かって来る弾幕、青い色をした炎を視界に入れた霊児は、

「さっきの目玉や黒い球体が現れたのを考えれば、これ等が出て来るのは予想出来た事だよな……」

警戒心を早くに解き過ぎた自分の失態に若干呆れながら迫り来る弾幕、青い色をした炎を避けながら移動を続ける。
何も出なくなった矢先にこれだと思いながら。
そう思ってしまったからか、

「またか」

何も無い所から弾幕が放たれると言う事がまた発生した。
これで三度目である。
だからか、

「噂をすれば影ってこう言う事なのかもな」

霊児は若干うんざりしたと言った表情を浮べてしまう。
とは言え、態々弾幕に当たってやる気は霊児には無いので、

「よっと」

小刻みに体を動かして回避行動を取って行く。
回避行動を取り始めてから少しすると弾幕が来なくなったので、

「ふぅ……」

一息吐きながら回避行動を取るのを止めた瞬間、

「あれは……」

霊児の目にあるものが映った。
映ったものと言うのは月だ。
普段、例え異変解決の道中であったとしても月が見えたら少し位は月見をしたいと思うかもしれない。
但し、

「紫の月ってどう言う事だよ」

月が紫色をしていなければ。
紫色をした月。
本来であれば月がこの様な色に変わる事は無いのだが、以前にも似た様な事があった。
以前と言うのは、レミリアが幻想郷中に紅い霧を充満させると言う異変を起こした時の事。
あの時、充満した紅い霧の影響で月が紅く見えていた。
ならば、この紫の月も赤紫色の空間のせいではと霊児は考えたが、

「……いや、違うな」

直ぐに考えた事を否定する。
何故否定したのかと言うと、今現在居る場所の空間の色が赤紫色ではなく夜の闇を思わせる黒色になっていたからだ。
突如として空間の色が変化したのか、それとも気付かない内に空間の色が変わる境界線を越えたのか。
空間の色が変化した理由はどうであれ、周囲の空間の色が夜の闇と同じであるのならここの月は紫色が正常なのだろう。

「…………………………………………………………」

赤紫色の空間や紫色の月。
薄々と言うか殆ど感付いて事ではあるが、ここまで見て来たものなどを纏めた結果、

「やっぱここ、幻想郷じゃ無いな」

今現在居る場所が幻想郷では無いと言う確信を霊児は得る。
その瞬間、

「あら、見ない顔ね。貴方は誰?」

何者かが霊児に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目には金色の髪を肩口位の長さにまで伸ばし、メイド服を着た少女の姿が在った。
メイドと言う事で夢子、咲夜と言った存在を霊児は思い出しつつ、

「……誰だ、お前は?」

少し警戒した様子を見せながら誰だと問う。
まぁ、今まで問答無用で攻撃を仕掛け来たものから一変するかの様に声を掛けて来たのだ。
警戒するのはある意味当然だろう。
それはさて置き、少女は行き成り警戒心を向けられながら問いを投げ掛けられたのだが、

「私の名は夢月よ。そう言う貴方は?」

特に気にした様子を見せずに自分の名を名乗り、霊児は誰なのだと問い返す。
名を名乗られたと言う事もあり、

「霊児。博麗霊児だ」

霊児も自身の名を名乗り、

「処で、ここは何所だ?」

続ける様にここが何所かと尋ねる。
別に教えても構わないと判断した夢月は、

「ここは夢幻世界よ」

今居る場所が何所であるかを簡潔に話す。
夢幻世界と言う世界名は初めて聞くものであった為、

「夢幻世界?」

霊児は首を傾げてしまう。
そんな霊児を見て、

「解り易く言うのであれば、ここは現世と夢の狭間にある世界ね」

夢幻世界がどう言った世界であるかを簡潔に話す。

「現世と夢の狭間にある世界ね……。そんな世界に、悪魔のお前は何をしてるんだ?」

今居る場所、夢幻世界に付いて少しは知る事が出来た霊児は序だと言わんばかりに何故その様な場所に悪魔が居るのかと言う疑問を投げ掛ける。

「あら、どうして私を悪魔だと断定するのかしら?」
「よく言うぜ。体中から漏れてる魔力を隠そうとしてない癖によ」
「良く分かったわね。私が魔力を垂れ流しにしてるって。でも、それだけで私を悪魔と決め付けるのは早計なんじゃないかしら? 魔力を感じたのなら
魔法使いと言う可能性も十分あるでしょ?」

体中から魔力が漏れている点から自分を悪魔と断定した霊児に、夢月がそれだけで自分を悪魔と断じるには証拠不十分なのではと言うと、

「魔力の質だよ」

魔力の質が判断材料に成ったと言う様な事を霊児は口にした。

「魔力の質?」
「そうだ。お前から感じる魔力の質は魔法使いのそれではなく悪魔のそれだ。生憎、知り合いに魔法使い、悪魔、魔界の住人ってのが居るからな。
それ位は分かるさ」

魔力の質だと口にされた事で首を傾げた夢月に、霊児は自分の知り合いには魔法使い、悪魔、魔界の住人と言った存在が居る事を教える。
魔法使い、悪魔、魔界の住人と言った存在との交友関係を霊児が持っているとは全く予想していなかったからか、

「へー……面白いわね、貴方」

霊児に興味を抱いたと言った様な表情を夢月は浮かべ、霊児と言う存在を観察していき、

「この世界に紛れ込んだのに自由に動けるって事は、それ相応の力が有るって事だし」

夢幻世界に紛れ込んだと言うのに自由に動ける事から、霊児がそれ相応の力を有している事を見抜く。

「……紛れ込んだ? どう言う事だ?」

夢月が発した言動の中に気になる部分が在ったので、霊児は夢月に説明しろと言った様な視線を向ける。
霊児の視線を受け、

「何か、さっきから説明してばかりね」

うんざりしたと言った様な表情を夢月は浮べたが、

「……ま、久し振りのお客様だからサービスして上げましょうか」

久し振りの客と言う事もあり、サービスをし様かと呟き、

「ここ、夢幻世界は偶に色んな存在が紛れ込んだりするの。勿論、紛れ込んで来ている者は正規の方法でこの世界にやって来た訳では無い。ま、それは当然ね。
何せ、紛れ込んで来た者は寝ている間にこの世界に来てしまうのだから。もう少し詳しく言うと、寝ている時に精神がこの世界に紛れ込んでしまったって感じ
かしら。それはそうと、この世界に紛れ込んだ者の大半は体の自由が殆ど効かずに意識も夢現の儘。夢幻世界に来た事自体覚えていないか、若しくは夢の一部
と思った儘目を覚ますでしょうね」

どの様にして紛れ込むのか、紛れ込んだ存在がどう言った状況に陥るのかを霊児に教えた。
つまり、寝ていたら極稀に夢幻世界に紛れ込んでしまう事が在るらしい。
更に言えば、目を覚ます頃には勝手に夢幻世界から元の世界に帰れるとの事。
はっきり言って、不用意に動かないで大人しくしていたら霊児はその内幻想郷に帰れたのだ。
完全に無駄な労力しか払っていない事を思い知った霊児ががっかりとした様に肩を落とした時、

「でも、貴方の様な存在は別。紛れ込んで来た存在にある一定以上の力が有ればそれなりに動く事が出来るし、思考もある程度はハッキリする。でも……」

夢月は好戦的な笑みを浮べながら高度を上げ、

「貴方の様に身体能力も意識も現世と全く変わらない人間が紛れ込んできたのは初めて」

軽い殺意を霊児に叩き込む。
叩き込まれた殺意に反応した霊児は落としていた肩を上げ、夢月が居る方に顔を向ける。
顔を上げた事で霊児の視線と夢月の視線が合わさった瞬間、夢月は口元を吊り上げ、

「ねぇ……」

自身の掌を霊児に向け、

「私と遊びましょう」

自分と遊ぼうと言う言葉と共に掌からレーザーを霊児に向けて放った。
何の宣戦布告も無く放たれた攻撃を、

「行き成りか……」

予測出来ていたと言わんばかりの動作で避け、

「一応聞いて置くが、理由は?」

行き成り攻撃を仕掛けて来た理由を霊児は夢月に聞く。
聞かれた夢月は人差し指を下唇に当て、

「そうね……ここずっと退屈していたからって言うのも在るけど、尤もらしい理由を言うのであれば……私達の世界で好き放題暴れてくれた者への制裁……かしらね」

自分達の世界で好き放題暴れてくれた者への制裁だと答える。
夢月が答えた内容を耳に入れた霊児は、

「…………………………………………………………」

魔界に突入した時の事を思い出した。
あの時も向かって来るものを片っ端から倒して突き進んでいたら、神綺と戦う破目になったのだ。
同じ過ちを繰り返してしまった気がしないでもないが、現状を見るに戦いを避ける事は出来そうに無い。
なので、霊児は左腰に装備して在る短剣を左手で引き抜き、

「良いぜ、掛かって来いよ。どの道、降り掛かる火の粉は払うだけだ」

そう言い放って構えを取った。
霊児から戦う意思、そして自分に勝ってやると言う想いが感じられた為、

「人間風情に私を火の粉の様に振り払えるかどうか……見せてみなさい!!」

若干機嫌を損ねた様な表情を夢月は浮かべ、弾幕を放つ。
放たれた弾幕は広範囲に広がり、密度の高いものであったが、

「なっ!?」

霊児は真正面から突っ込んで行くと言う方法を取った。
回避や防御を取って来る事を想定していた夢月は驚きの表情を浮べてしまう。
しかも、霊児は真正面から突っ込んで来ていると言うのに、

「あ、当たらない!?」

一発も弾幕が当たらなかった。
当たらない理由は簡単。
全て、必要最小限の動きで避けているからだ。
予想以上に霊児の実力が高かった為、戦い方を変えるべきかと夢月が思案し始めた瞬間、

「しっ!!」

何時の間にか夢月の間合いに入り込んでいた霊児が短剣を振るった。

「くっ!?」

振るわれた短剣に反応した夢月は弾幕を放つのを止め、後ろへと下がる。
後ろに下がった事で何とか振るわれた短剣の回避に成功した夢月は、後ろに下がった勢いを利用して距離を取ろうと体を動かす。
が、夢月が距離を取る前に、

「………………………………」

霊児は右手の拳銃の形に変え、人差し指を夢月へと向ける。
指先を向けられた夢月が思わず疑問気な表情を浮べたタイミングで、

「ッ!?」

霊児の指先から霊力で出来た巨大な弾が放たれた。
迫り来る霊力で出来た弾を見て、夢月は本能的に理解する。
直撃したら只では済まないと。
だからか、

「くっ!!」

反射的に、且つ強引に夢月は体の位置をずらす。
霊児と夢月の距離は近かったのだが、霊力で出来た巨大な弾が夢月に当たる事は無かった。
ギリギリの距離であったが、何とか無事に回避出来た様である。
取り敢えず霊児の攻撃の直撃を喰らわずに済み、

「ふぅ……」

夢月が安堵の息を吐く。
その刹那、

「がっ!!」

夢月の背中に衝撃が走り、夢月は吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされた夢月は何故と言う疑問を抱きながら振り返ると、蹴りを放った体勢を取っている霊児の姿が夢月の目に映る。
どうやら、霊児は霊力で出来た弾を隠れ蓑にするかの様に夢月に近付いて蹴りを叩き込んだ様だ。
目の前の脅威に気を取られて敵への警戒を疎かにした自分の間抜けさに夢月は呆れながら体勢を立て直そうとすると、

「ッ!?」

離れてしまった夢月との距離を霊児は詰めに掛かった。
現時点で距離を詰められるのは不味いからか、夢月は咄嗟に両手を霊児の方に向け、

「これなら……」

二種類の弾幕を放つ。
広範囲に広がっていく弾幕と、霊児目掛けて向かって行くと言う二種類の弾幕を。
ここで不用意な回避行動を取ったら被弾してしまうと判断した霊児は急ブレーキを掛け、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

短剣を高速で振るって自分に命中するであろう弾幕を斬り払っていく。
迫り来る弾幕を斬り払い始めてから幾らかすると、弾幕が止み始めたので、

「……………………………………………………」

霊児は短剣を振るうのを止め、弾幕が放たれて来た方向に顔を向ける。
だが、

「……居ない?」

顔を向けた先に夢月の姿は無かった。
おそらく、霊児が弾幕を斬り払っている間に姿を晦ましたのだろう。
となれば、不意を突く様な攻撃を夢月は仕掛けて来るだろうと考えた霊児は、

「ッ!!」

反射的に頭を下げる。
何故、頭を下げたのか。
答えは簡単。
霊児の頭が在った場所に何かが通ったからだ。
因みに、通ったものは夢月の脚。
やはりと言うべきか、夢月は霊児の不意を突いた攻撃を仕掛けて来た様である。
それはそれとして、不意を突いた一撃を避けられてしまったからか、

「外した!?」

驚愕の表情を夢月は浮べ、動きを止めてしまう。
まぁ、完全に不意を突いた攻撃を避けられてしまったのだ。
驚いてしまうのも無理はない。
が、驚きと同時に動きを止めてしまったのはいけなかった。
何故ならば、

「しっ!!」

動きを止めた夢月の隙を突くかの様に霊児は体を回転させ、体を回転させた勢いを利用して回し蹴りを放ったからだ。
放たれた蹴りは動きを止めている夢月に当たってしまうと思われたが、

「ッ!!」

寸前で霊児の脚が迫って来ている事に気付いた夢月は腕を盾の様に構え、迫って来ていた脚を己が腕で受け止める。
しかし、防いだ程度で安心するなと言わんばかりに霊児は蹴りを放っている脚に力を籠め、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

脚を振り抜いて夢月を蹴り飛ばす。
受け止めたと言うのに、蹴り飛ばされた。
この事実に夢月は忌々しいと言う様な感情を抱きながら体を回転させ、体勢を立て直して顔を上げると、

「なっ!!」

目の前で刺突を繰り出そうとしている霊児の姿が夢月の目に映る。
幾ら蹴り飛ばされている最中だったとは言え、霊児の接近を全く感知出来なかった事に夢月は信じられないと言った様な表情を浮べるも、

「ッ!!」

反射的に右手を伸ばし、短剣を握っている霊児の左手首を掴んで刺突が放たれるのを未然に防ぎ、

「せい!!」

空いている左手で拳を振るう。
振るわれた拳は霊児の顔面へと向かって行ったが、

「おっと」

振るわれた拳が霊児の顔面に当たる前に、霊児は右手で夢月が振るった拳を受け止めた。

「く……」

悉く自分の攻撃を余裕の表情で捌き切る霊児を夢月は腹立たしく思うも、直ぐに互いの両手が触れ合っていると言う現状に気付く。
ならば、己が力で霊児を押し切れば良い。
そう考えた夢月は両腕に力を籠めていく。
だが、

「押し……切れない……」

どれだけ力を籠めても押し切る事が出来なかった。
悪魔である夢月の力を持ってしても人間である霊児を力で押し切れない。
悪魔としてそれなりに長い時を生きた来た中で、こんな事態は夢月に取って初めての出来事である。
だからか、

「貴方……本当に人間?」

本当に人間かと言う問いを夢月は霊児に投げ掛けた。
投げ掛けられた問いに、

「よく言われるが……俺は純度100%の人間だぜ!!」

霊児は純粋な人間であると言う主張を行ないながら夢月の腹部に蹴りを叩き込み、右手を離す。
蹴りを叩き込み、右手を離した事で、

「かは!!」

口から空気を吐き出しながら夢月は吹き飛んで行ってしまった。
当然、吹き飛んで行った夢月を追う様に霊児は移動を開始する。
霊児が追って来ている事に気付いた夢月は強引に体勢を立て直し、反射したかの様に霊児が向かって来ている方に突っ込んで行き、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

霊児に肉迫したのと同時に拳を振るい、蹴りを放つ。
振るわれた拳、放たれた蹴りは全て霊児の体へと向かって行ったが、

「く……」

夢月の攻撃は全て霊児の右腕一本に捌かれたしまった。
どれだけ攻撃を加えても何一つ決定打にならない現状に業を煮やした夢月は一旦攻撃を止めて後ろに下がり、両手から魔力で出来た弾を生み出し、

「喰らえ!!」

喰らえと言う言葉と共に生み出した二つの弾をぶつけさせ、爆発させた。

「何!?」

喰らえと言う台詞からてっきり自分に向けて放って来るものだと思っていた霊児は、虚を突かれたかの様に動きを止めてしまう。
が、直ぐに再起動して行動を起こそうとしたが、

「くそ……」

生み出された魔力の弾同士が激突して爆発が起きた影響で爆煙が発生した為、夢月が何所に行ったのか分からなくなってしまっていた。
取り敢えず、爆煙が存在している空域から脱出し様かと考えたタイミングで、

「ん……」

少し離れた場所で魔力が高まっていっているのを霊児は感じ取る。
十中八九、夢月が何かしらの攻撃を行う為の準備をしているのだろう。
出来る事なら妨害したいが、高まっている魔力を頼りに攻撃を仕掛けるのは下策だ。
何故ならば、高まっている魔力が霊児を誘き寄せる為の餌と言う可能性があるからである。
仕方が無いので、当初の予定通り爆煙が発生している空域から脱出すると、

「ッ!!」

何処にも逃げ場が無い様な弾幕が霊児の目に映った。
無論、この弾幕を放っているのは夢月だ。

「……この弾幕で俺の隙を誘い、隙が出来た所に必殺の一撃を叩き込むって感じか」

逃げ場の無い弾幕を放った夢月の狙いを推察しつつ、霊児は改めてと言った感じで周囲を見渡していく。
見渡した結果、全く逃げ場が無い事が分かったので、

「………………………………………………………………」

霊児は右手を拳銃の形に変え、指先に霊力を集中させながら右手を夢月の方に向ける。
霊力を集中している指先から力強い青白い光が発し始めた辺りで弾幕が霊児の目の前にまで迫って来たので、

「行け!!」

指先から霊力で出来た超巨大な弾を霊児は放った。
放たれた弾は迫り来る弾幕を蹴散らし、夢月が居る場所へと向けて突き進んで行く。
それを見た夢月は、

「なっ!?」

驚きの表情を浮べてしまう。
どうやら、あんな短時間でこれ程のエネルギー密度を誇る弾を放てるとは思って無かった様だ。
ともあれ、この儘弾幕を放っていても事態は何も好転しない事を理解した夢月は弾幕を放つのを止め、

「なら……」

代わりと言わんばかりに両手を合わせ、ビームを放つ。
放たれたビームは霊児が放った弾に向かって突き進み、霊力で出来た弾と激突した瞬間、

「そんな……」

弾かれてしまった。
均衡する事も、減速させる事も出来ずに。
余りにも呆気無く弾かれてしまったビームを見て、夢月は信じられないと言った表情を浮べてしまう。
だが、幾ら信じられないと言っても霊力で出来た超巨大な弾は夢月に向かってどんどん近付いて行き、

「しまっ!!」

夢月が気付いた時にはもう回避出来ない場所にまで迫って来ていた。
もう回避する事は出来ない。
何処か他人事の様に夢月はそう理解しながら、思う。
変な意地を張らず、最初から回避行動を取っていれば良かったと。
そして、霊力で出来た弾が夢月に当たろうとした刹那、

「なっ!?」

夢月は空間に溶ける様にして消えてしまった。
突如として姿を消した夢月に、霊児は驚きの感情を抱き、

「………………………………………………………………」

ある疑問を抱く。
抱いた疑問と言うのは、何故今の技を今まで使って来なかったのかと言う事だ。
今の技を最初から使っていれば、こうも霊児優勢で戦いが進む事も無かったであろう。

「………………………………………………………………」

若しかしたら、何らかの特殊な条件化でなければ今の技は使えないのではないかと言う考えが霊児の頭に過ぎった時、

「ふふ、妹が世話になった様ね」

霊児の背後から、妹が世話になったと言う発言が聞こえて来た。
聞こえて来た発言に反応した霊児は、

「ッ!?」

慌てた動作で背後へと振り返る。
振り返った霊児の目には、少女の姿が映った。
夢月よりも若干長い金色の髪に赤い色をしたリボンを付け、白っぽいシャツ状の服に赤いベストを着た少女が。
更には、背中から天使の様な翼を生やしている。
少女が現れた際の台詞と少女の顔付きから夢月の姉である事は分かるが、悪魔である夢月の姉なのに何で天使の様な翼を生やしているんだと霊児が思っていると、

「私の名は幻月。この世界を創った者よ」

少女、幻月は自分の名と自分が何者であるかを述べた。
幻月の簡単な自己紹介を聞き終えた後、

「この世界を創った……と言う事は、お前は創造神なのか?」

確認を取るかの様に霊児は幻月に創造神なのかと尋ねる。

「ええ、そうよ」

尋ねた事に肯定の返事が返って来たので、

「神綺と同じ存在か……」
「あら、神綺と知り合いなの?」

霊児が思わず神綺と同じ存在なのかと呟くと、幻月は少し驚いた表情を浮べて神綺と知り合いなのかと尋ね返して来た。

「ま、一応な。と言うか、お前も神綺と知り合いのなのか?」
「ええ、神綺とは世界を創った者同士だしね。色々と交流があるのよ」

お互いがお互い神綺と知り合いと言う知り合いと言う事がしれたからか、霊児と幻月は何かを考える様な体勢を取り、

「と言っても、ここ数百年は神綺と会ってはいないんだけどね」

思い出したかの様に幻月は神綺とは数百年は会っていない事を話し、霊児をジッと見詰め始める。
そして、

「私の妹を圧倒した事と言い、神綺と知り合いと言う事と言い……貴方、相当強いでしょ」

唐突に、強いだろうと言う言葉を霊児に向けて投げ掛けた。
幻月の物言いから、ある程度強さの予測をされていると霊児は予想し、

「ああ」
「なら……私とも遊びましょ。答えは聞かないけど」

投げ掛けられた強いと言う言葉を肯定すると、幻月は口元を吊り上げながそう口にする。
勿論、遊びと言うのは戦いの事だ。
天使の様な外見の癖に口にした事は物騒なものであった為、

「天使の様な翼を生やしている癖に、言う事は大概だな。お前」

軽い突っ込みを霊児は幻月に入れる。
霊児からの突っ込みを受けた幻月は胸を張り、

「あら、実は私達……悪魔と天使の間に生まれた者なのよ」

自分と夢月は悪魔と天使の間に生まれたのだと言ってのけた。
それを聞いた霊児は驚いたと言った表情を浮べたが、

「嘘よ」

舌の根が乾かない内に幻月の口から嘘だと言う言葉が紡がれる。

「嘘かよ」

思わせぶりな発言をして置いて嘘だと言った幻月に霊児が呆れた表情を向けた直後、

「それも嘘」

嘘だと言う事が嘘だと言う発言を幻月は発した。

「どっちだよ!!」
「どっちでも良いでしょ、そんな事」

まるで自分をからかっている幻月の物言いに霊児が再び突っ込みを入れると、幻月は何処吹く風と言った感じで構えを取り、

「そう言えば、貴方の名は?」

今更ながら、霊児の名は何だと問う。
幻月が勝手に名乗ったとは言え、自分だけが相手の名を知っているのは不公平だと感じたからか、

「霊児。博麗霊児だ」

霊児は自身の名を幻月に伝える。
霊児の名を知り得た幻月は、

「そう……霊児ね。ねぇ、私を楽しませてよね!!」

これ以上の問答は無用と言わんばかりに自身の魔力と神力を解放した。

「ッ!?」

同時に紫色の月の裏側に十字架が現れたが、霊児に取ってそれはどうでも良い。
問題なのは、幻月の戦闘能力。
創造神と言う事である程度の予測は出来ていたが、幻月から解放された魔力と神力を感じ取った霊児は理解した。
目の前に居る相手、幻月の実力は神綺と同レベルである事を。
幻月と神綺が同レベルの実力者であるならば、霊児もさっさと戦闘体勢を整える必要がある。
が、霊児が戦闘体勢を整える前に幻月は霊児の目の前にまで迫って来ており、

「しまっ!!」

幻月の拳が霊児の頬に突き刺さり、霊児は殴り飛ばされてしまった。
殴り飛ばされた霊児は一直線に黒い大地へと向かって行き、黒い大地に叩き付けられてしまう。
大きな激突音を上げ、砂煙を巻き上げながら。
砂煙が巻き上がり、地表の様子が分からない黒い大地を見ながら幻月は身構えたのが、

「……あれ?」

幾ら待っても霊児が再び上がって来る事が無かったので、幻月は首を傾げてしまう。
今、霊児の頬に叩き込まれた一撃は幻月にとっては挨拶の様なもの。
もっと言うのであれば、一寸撫でただけ。
自身の妹を圧倒し、神綺とも知り合いともなればそれ相応の強さを持っていると幻月は考えていた。
だと言うのに、霊児は叩き付けられた大地から上がって来ない。
若しかしたら、自分の見込み違いだったのではと幻月が思っていると、

「……ん?」

砂煙の一部分が光っているのを幻月は発見した。
何が光っているんだろうと幻月は思い、目を凝らそうとした時、

「ッ!?」

光っている部分から青白い色をした超巨大な弾が飛び出して来たではないか。
突然迫って来た弾に幻月が驚くも、反射的に右手を突き出し、

「くっ!!」

突き出した右手で青白い色をした超巨大な弾を受け止める。
だが、思っていた以上に威力が有った為、

「ぐう……」

幻月は歯を喰い縛り、

「はあ!!」

力を籠めて受け止めている弾を握り潰す。
握り潰した事で受け止めていた弾が消えた後、夢月は自分の右手に目を向ける。
目を向けた幻月の右手の掌は、僅かに焼け爛れていた。
この事から、自分の見込みは間違っていなかったと幻月が判断した瞬間、

「ん……」

眼下に見えていた砂煙が吹き飛び、砂煙の中心部だったと思わしき場所から霊児が姿を現す。
体中から霊力を解放した状態で。

「へぇ……」

解放されている霊力を感じ、幻月は霊児が自分と変わらない実力を持っている事を理解した。
だからか、幻月はご機嫌と言った表情を浮かべ、

「ふふ……」

ゆっくりとした動作で降下して行く。
降下して来る幻月を見ながら霊児は殴られた際に口元から垂れだした血を手の甲で拭い、

「ッ!!」

幻月の方へと突っ込んで行った。
突っ込んで来た霊児を見た幻月は、頭と足の位置を入れ替える様に体を回転させて霊児に合わせるかの様に一気に突っ込んで行く。
突撃するかの様に突っ込んで行った二人が相手を自分の間合いに入れた刹那、

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

霊児は短剣を、幻月は己が爪をそれぞれ振るう。
振るったのと同時に短剣と爪は激突し、金属と金属を激突させた様な激突音が辺り一帯に響き渡る。
互いの得物を激突させた事でこの儘鍔迫り合いの様な形に持ち込むのかと思われたが、

「「しっ!!」」

霊児と幻月は鍔迫り合いをする様な形には持っていかずに強引に自分の得物を振り抜き、交差して行く。
そして、交差した霊児と幻月がある程度の距離を取ったタイミングで、

「「ッ!!」」

二人の二の腕から血が流れ落ちた。
今の激突が痛み分けと言う結果に終わったからか、霊児は霊力の解放を止めて幻月の方に体を向ける。
霊児が霊力の解放を止めたのを感じ取った幻月は、霊児に併せるかの様に魔力と神力の解放を止め、

「へぇ……やるじゃない。血を流したの何て神綺と戦った時以来よ」

霊児を称賛する言葉を述べながら流れている血を指で掬い、舌で舐め摂った。
その動作には不思議な妖艶さが有ったが、

「…………………………………………」

霊児は特に反応を示す事無く、構えを取る。
もう霊児の準備が整っているからか、

「さて、それじゃ……いくわよ」

幻月はそう言いながら姿を消す。
いや、正確には姿を消したと言える程のスピードで移動したのだ。
そんなスピードで移動した幻月は一瞬よりも短い一瞬で霊児の背後に回り込み、

「ふっ!!」

己が手を突き出す。
が、自分の背後に幻月が回っていた事など気付いていたと言わんばかりの動作で霊児は体を回転させて突き出された手を避け、

「りゃあ!!」

体を回転させた勢いを利用した回し蹴り放つ。
放たれた回し蹴りを幻月は空いていた腕で受け止めながら突き出した手を引き、

「中々重い蹴り……ね!!」

引いた手を今度は霊児の顔面目掛けて突き出す。
再び突き出された手を避ける為に霊児は顔を傾けたが、完全に避ける事は出来なかった様で霊児の頬から血が零れ出した。
頬に走る痛みで避け切れなかった事を霊児は理解しつつ、

「そう言うお前も中々鋭い爪を持ってる……な!!」

軽口を叩きながら後ろに跳び、間合いを取る。
離れて行く霊児を視界に入れながら幻月は体勢を立て直し、

「距離を取ったのなら……こうするだけよ!!」

霊児に向けて弾幕を放つ。
放たれた弾幕の量、密度、速さ、範囲の全てが夢月よりもずっと上であった。
宛ら、弾幕の雨の様に見える。
おまけに、弾幕一発一発に籠められている魔力、神力の量が桁違いだ。
迫り来る弾幕を見ながら創造神と言うのは広域殲滅が得意なのかと霊児は思いながら体勢を立て直し、

「夢想封印・連!!!!」

両手を広げて己が技を放つ。
すると、霊児の体中から七色に光る弾が次から次へと絶え間無く放たれて行くではないか。
夢想封印・連とは夢想封印を連続で放つと言う技。
無論、只七色に光る弾を連続で放っている訳では無い。
七色に光る弾の生成速度と射出速度が極めて速くて弾自体の威力も極めて高く、着弾してからの爆発範囲が非常に広いのだ。
言うなれば、夢想封印・連と言う技は霊児専用の広域殲滅型の技なのである。
元々この技は神綺が使った広域殲滅型の技に対抗する為に編み出した技なのだが、神綺以外の相手に使う事になるとは霊児も思わなかったであろう。
まぁ、神綺と同じで幻月も創造神なのだから何れは夢想封印・連を使わざるを得ない状況に陥ったであろうが。
兎も角、霊児が放ち続けている七色に光る弾と幻月が放ち続けている弾幕。
弾幕量で言えば幻月の弾幕の方が上だが、弾そのものの大きさは霊児の七色に光る弾の方が上。
と言っても、弾幕量も弾の大きさもそこまでの差は無い。
故に幻月が放った弾幕は七色に光る幾つもの弾を掻い潜って霊児に迫る事なく、七色に光る幾つもの弾と激突して大爆発を起こした。
無論、それだけで終わりはしない。
発生した大爆発に巻き込まれる形で他の弾も次々と連鎖的に大爆発を起こし、発生した爆発が重なり合い、

「「ッ!!」」

何時しか発生した大爆発は一つの大きな爆発となって霊児と幻月の二人を飲み込んでしまった。
霊児と幻月の二人が爆発に呑み込まれて少しすると、突如として二人を呑み込んでいた爆発が消し飛んでしまったではないか。
爆発が行き成り消し飛んでしまった原因。
それは、

「ぐ……」
「く……」

短剣と爪で鍔迫り合いの様な状態を取っている霊児と幻月の二人にある様だ。
おそらく、爆発の中に居たのにも係わらずに突撃を仕掛けて自分の得物同士を激突させた際の衝撃で爆発が消し飛んだのだろう。
爆発が吹き飛ばす様な激突をした霊児と幻月は、まるで示し合わせたかの様に自分の得物を引き、

「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」

短剣と爪を超高速且つ連続で振るい、自分の得物同士をぶつけ合う。
ぶつけ合う度に金属と金属を激突させた様な音が響き渡り、火花を散らせていく。
暫しの間、二人は自分の得物をぶつけ合っていたが唐突にそれを止めて代わりと言わんばかりに空いている手を突き出した。
霊児は青白い光を発している右手の人差し指を。
幻月は太陽の様な光を発している左手の掌を。
お互い同じ様な行動を取った為、

「「ッ!?」」

霊児と幻月は驚きの表情を浮べてしまう。
しかし、直ぐに表情を戻してそれぞれ放とうとしていた技を放つ。
霊力で出来た超巨大な弾と極太のビームを。
零距離と言っても良い程の距離で放たれた弾とビームは一瞬にも満たない時間で激突し、大爆発を起こし、

「ぐう!!」
「くう!!」

爆心地にいた霊児と幻月は爆発の直撃を受ける形でそれぞれ正反対の方向へと吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされ、爆心地からかなり距離が離れた辺りで霊児は体を回転させ、

「……ぐっ!!」

強引に体勢を立て直し、急停止を掛けて自身の右腕へと目を向ける。
目を向けて先ず最初に気付いた事は右腕が肩まで露に成っていると言う事。
おそらく、爆発の影響で消し飛んでしまったのだろう。
次に気付いたのは自身の右腕の容態。
霊児の右腕は指先から肘の辺りまで火傷の様な痕が在り、更には血まで流れ落ちている。
結構な怪我を負っている様に見える右腕を霊児は軽く動かし、

「……痛みは在るが、問題無く動くな」

ある程度の痛みは在るものの、戦闘行動には支障は無しと言う判断を下す。
その後、右手で握り拳を作りながら自分と同じ様に爆発の直撃を受けて吹き飛んで行った幻月を探す為に顔を上げた瞬間、

「なっ!?」

間近にまで迫って来ていた幻月の姿が霊児の目に映る。
まだ体勢を立て直したばかりの霊児では碌な対応が出来ず、

「ぐあ!!」

迫って来たいた幻月の頭突きを額に受けてしまった。
頭突きを額に受けた霊児は額から血を噴出させ、踏鞴を踏むかの様に後ろに下がり、

「ぐう!!」

頭突きの影響で朦朧と仕掛けた意識を戻すかの様に頭を振るう。
霊児が頭を振るっている最中に、幻月は左手を伸ばして霊児の顔面を掴む。
顔面を掴んでいる幻月の左手や左腕も、霊児の右手や右腕と同じ様な状態になっていた。
そんな状態の左手を平然と使って来る辺り、幻月の左腕も霊児の右腕と同じで戦闘行動には支障が無い程度の怪我の様だ。
それはそうと、霊児の顔面を掴んでいる幻月は、

「つーかまーえた」

捕まえたと言いながら霊児を掴んでいる左手から太陽を思わせる様な光を発せさせる。
先程と同じ様な極太ビームを幻月は放つ気の様だ。
零距離、しかも頭部に直撃を受けたら只では済まないと言う事を直感的に感じ取り、

「しっ!!」

反射的に左手に持っている短剣を振るう。
振るわれた短剣は幻月の左腕に叩き斬ろうとしていた為、

「おっと!!」

幻月は少々大げさな動作で左手を引く。
そして、霊児が短剣を振り切ったタイミングで、

「せい!!」

極太ビームの代わりだと言わんばかりに幻月は左手で突きを放つ。
突きが放たれた事に反応した霊児は咄嗟に上半身を後ろに倒し、幻月の突きを避ける。

「避けた!?」

攻撃を振り切った直後に放った攻撃を避けられた為、幻月は思わず驚いた表情を浮べてしまう。
幻月が驚いている間に霊児は上半身を後ろに倒した勢いをその儘利用するかの様に体を後ろに回転させる。
更に、体を回転させている最中に体を捻り、

「夢想封印・脚!!!!」

己が技を発動させ、七色に光る脚を幻月の後頭部に叩き付けた。
後頭部に蹴りを叩き込まれた幻月は、

「がっ!!」

黒い大地へと顔面から叩き落され、大地を削りながら吹き飛んで行ってしまう。
自分からどんどんと距離を離して行っている幻月を追い掛ける為、霊児は移動を開始する。
そして、吹き飛んでいる幻月を自分の間合いに入れたのと同時に、

「夢想封印・拳!!!!」

霊児は己が技を発動させ、七色に光る拳を放つ。
放たれた拳は幻月の背中へと一直線に向かって行ったが、

「なっ!?」

霊児の拳が幻月の背中に当たる直前、幻月が空間に溶ける様にして消えてしまったではないか。
当たる直前で目標を見失ってしまった霊児の拳は黒い大地に叩き込まれ、黒い大地に超巨大なクレーターを作った。

「くそ!!」

幻月に当てる為の一撃を避けられた事に霊児が悪態を吐きながら幻月を探そうとした刹那、何の前触れも無く幻月が霊児の背後に現れ、

「どーん!!」

ドロップキックを霊児の背中に叩き込んだ。
完全に不意を突かれた霊児は、

「があ!!」

ドロップキックの直撃を受け、自身が作り出したクレーターに叩き落されてしまう。
叩き落された霊児がクレーターの底に激突すると、激突した衝撃で土砂崩れが発生して霊児は土砂の中に埋もれてしまった。
土砂崩れが起こるとは予想していなかったからか、

「あらー……」

何とも言えない表情を幻月は浮べてしまう。
が、直ぐに表情を戻して霊児が埋もれてしまった場所を注意深く観察していく。
何時、霊児が土砂で埋もれた地帯から飛び出して来ても直ぐに対応が出来る様に。
観察を始めてから少しすると、

「ッ!!」

幻月の真下の土砂が盛り上がり、盛り上がった箇所から霊力で出来た弾が飛び出して来た。
飛び出して来た弾を幻月は後ろに跳ぶ事で回避し、弾が出て来た箇所を覗き込んだタイミングで、

「ッ!! また!?」

霊力で出来た弾が飛び出した来た箇所から今度は短剣が飛び出して来たではないか。
この儘では顔面に短剣が突き刺さってしまうので、幻月は顔を引いて飛び出して来た短剣を避け、

「何だって短剣を……」

何故霊力で出来た弾ではなく短剣を投擲して来たのだろうと言う疑問を抱きながら飛び出して来た短剣に目を向けた時、

「なっ!?」

何の前触れも無く短剣の傍に現れ、左手で短剣を掴んで斬り掛かって来た霊児の姿が幻月の目に映った。
霊児がクレーターの中から脱出したのを全く感知出来なかった事に驚いている間に、短剣が眼前にまで迫って来ていたので、

「ッ!!」

幻月は反射的に後ろに跳ぶ。
しかし、完全に避け切る事は出来なかった様で、

「くっ!!」

幻月が地に足を着けたのと同時に幻月の額の中心から血が流れ落ちた。
先手を取られ、一撃入れられた今の状態では霊児にペースを握られてしまうと判断した幻月は間合いを取る為にもう一度後ろへと跳ぶ。
だが、幻月が間合いを取る前に霊児は間合いを詰め、

「しっ!!」

逃がさんと言わんばかりに短剣を振るう。
振るわれた短剣は幻月の体を捉えていた為、

「くっ!!」

短剣の軌道を逸らすかの様に幻月は己が爪を振るった。
すると、短剣と爪は激突して幻月の目論見通り短剣の軌道が逸れる。

「ち……」

振るった短剣を払われた事に霊児は舌打ちをしつつ、連続して短剣を振るいながら前へと突き進む。
対する幻月は後ろに下がりながら己が爪を振るい、短剣の軌道を逸らしていく。
攻める霊児と護る幻月。
そんな攻防を繰り広げ始めてから幾らか経った頃、

「さっきの移動術、どうやったの? 全く見えなかったし、感知も出来なかったわ」

クレーターの中からどの様にして脱出したのかと言う事を幻月は霊児に問う。
問われた霊児は、

「企業秘密だ」

企業秘密だと言い、

「お前こそさっきの空間に溶ける様に移動したあれ、どうやったんだ?」

空間に溶ける様にして移動した術は何なんだと問い返す。
問い返された幻月は軽い笑みを浮かべ、

「企業秘密よ」

霊児と同じ様に企業秘密だと口にした。
軽いふざけ合いの様なものを交わしてはいるものの、二人の手元は少しも緩んではいない。
目に映らない速さで短剣と爪が激突し続けている。
二人の様子から短剣と爪の激突は永遠に続くかと思われたが、

「ッ!!」

振るっている爪が上手い具合に短剣に当たった様で、霊児の短剣はカチ上げられてしまった。
短剣をカチ上げられた事で霊児の胴体ががら空きとなったのをチャンスと判断した幻月は、

「貰った!!」

がら空きとなった胴体に向けて己が爪を振るう。
胴体狙いの爪を迎撃するのは不可能だと言う事を霊児は直感的に感じ取り、

「ちぃ!!」

反射的に後ろに跳ぶ。
が、後ろに跳んだのが僅かに遅かった様で、

「痛ッ!!」

霊児のシャツと腹部に四本の線が走り、走った線から血が噴出する。

「ぐ……」

腹部から感じる痛みで霊児が若干顔を歪めていると、一気に畳み掛けるかの様に幻月は距離を詰めながら己が手を突き出す。
突き出された手を霊児は体を捻る事で避け、捻った勢いを利用して膝蹴りを放つが、

「同じ手は二度も喰わないわよ!!」

読んでいたと言わんばかりに幻月は体を屈めて膝蹴りを回避し、カウンター気味に霊児の腹部に肘打ちを叩き込む。
しかも、ご丁寧に傷口目掛けて。

「がは!!」

腹部に肘打ち叩き込まれた霊児は血を吐き出しながら踏鞴を踏むかの数歩後ろに下がってしまう。
後ろに下がった霊児を追う様に幻月は足を大きく前に一歩出し、

「せい!!」

霊児の頬に己が拳を叩き込む。
新たな攻撃を加えられた事で更に後ろ下がってしまった霊児を追う様に、幻月はもう一度足を大きく前に出して反対側の頬に拳を叩き込んだ。
腹部に受けたダメージが大きいからか、霊児は何か行動を起こすと言った事をせずに殴られた儘。
ならば、反撃が出来ない内にダメージを稼ごうと幻月は考えて更に拳を叩き込もうとしたタイミングで、

「……え!?」

霊児は真後ろに倒れ込こんでしまった。
突如として攻撃目標が消えた事に幻月は間の抜けた声を漏らするも、咄嗟に放とうとしていた拳を止める。
お陰で拳を空振ると言う事態は避けられたものの、振るおうとしていた拳を止めた事で生まれ隙を突くかの様に、

「らあ!!」

霊児から両足を使った蹴りが幻月の腹部に叩き込まれた。
先の時とは逆にカウンター気味の攻撃を叩き込まれた幻月は、

「かは!!」

血を吐き出しながら空中へと蹴り上げられてしまう。
幻月が蹴り上げられ、高度を上げている間に霊児は地に足を着け、

「ッ!!」

跳躍を行なって幻月の後を追い掛ける。
そして、幻月に追い付いた瞬間、

「だりゃあ!!」

霊児は幻月の頭頂部に踵落しを叩き込み、空中へと押し上げられていた幻月を地上へと叩き落した。
無論、叩き落した幻月を追う為に霊児は急降下して行く。
降下し始めてから少しすると幻月が地面に叩き付けられたので、霊児は降下速度を一気に上げ、

「せい!!」

叩き落された幻月の背中にドロップキックを叩き込もうとする。
しかし、

「ッ!?」

ドロップキックが叩き込まれる前に幻月が側転を行なった為、霊児のドロップキックは幻月ではなく黒い大地に叩き込まれ、

「げ!?」

黒い大地にクレーターを作ってしまった。
意図せずクレーターを作ってしまった事で霊児が体勢を崩してしまった時、幻月は立ち上がり、

「隙有り!!」

霊児の後頭部を掴み、霊児を頭から黒い大地に叩き付け、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

ボーリングで玉を転がすかの様に投げ飛ばす。
投げ飛ばされた霊児は黒い大地を削りながら吹っ飛んで行き、投げ飛ばされてから少しした辺りで、

「づ!!」

霊児は黒い大地から頭を引っこ抜き、地に足を着けて減速して行きながら顔を上げる。
顔を上げた霊児の目には、

「ッ!!」

天使の様な翼を羽ばたき、無数の純白の羽根を飛ばして来た幻月の姿が映った。
まるで身を削る様な攻撃方法に霊児は少し驚くも、直ぐに体勢を整え、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

短剣を連続で振るい、迫って来る純白の羽根を片っ端から斬り落としていく。
しかし、

「く……」

幾ら斬り落としても向かって来る純白の羽根が尽きる事は無かった。
この儘、只迫り来る純白の羽根を斬り落としていても埒が開かない。
幸い、今は向かって来る羽根の量が多過ぎて互いの姿を視認出来ない状況だ。
ならば、純白の羽根を隠れ蓑にして高威力の霊力で出来た弾を放つ準備をする事も可能だろう。
そう考えた霊児が霊力で出来た弾を放つ準備に取り掛かろうとした瞬間、

「なっ!?」

霊児の短剣の刀身が半分程、突如として砕け散った。
短剣が砕けた事に霊児は驚きの表情を浮べるが、寧ろ今まで良く持ち応えた方である。
何せ、今霊児が対峙している相手は神綺と同じ創造神。
世界を丸ごと一つ創る様な存在だ。
その様な存在が繰り出す攻撃を、一本の短剣で対処していたのだから破損するのも無理はない。
尤も、霊児の短剣が緋々色金で出来ているからここまで持った様なもの。
並みの金属であるならば、最初の一合いで砕け散っていたであろう。
ともあれ、自身の短剣が砕かれた事で驚いた表情を浮べていた霊児であったが、

「ッ!!」

直ぐに現状を思い出し、状況を把握する為に短剣から目を離す。
すると、眼前にまで無数の純白の羽根が迫って来ている事が分かった。
もう迎撃は不可能な距離まで迫って来ている事を悟った霊児は体を屈めて防御の体勢を取り、

「ぐうううううぅぅぅぅぅ……」

純白の羽根を己が体で受け止めていく。
防御に徹し始めてから幾らかすると、

「……ん?」

体の至る所から感じていた衝撃が止んだので、霊児は屈めていた体勢を戻しながら防御を解いた時、

「貰った!!」

眼前には己が手を霊児に突き刺そうとしている幻月の姿が在った。
この儘では幻月の手で刺し貫かれてしまうと言う事を感じ取った霊児が反射的に体の在る位置をずらすと、

「ぐっ!!」

突き出された幻月の手は霊児の首を掠る。
直撃を避ける事は出来たのでこれで一安心と思うも束の間、幻月は空いている手で第二撃を放とうとして来た。
それに気付いた霊児は咄嗟に右手で背中の方に隠し持っている四本の短剣の内の一本を引き抜き、

「しっ!!」

引き抜いた短剣を斬り上げるかの様に振るい、幻月の左肩を斬り落とそうとする。

「ッ!?」

振るわれた短剣の狙いに気付いた幻月は慌てて攻撃を中断して後ろに下がったのと同時に、鮮血が宙を舞う。
手痛い反撃を受けたからか、幻月は間合いを取るかの様に後ろへと跳ぶ。
離れて行く幻月を視界に入れながら霊児は刀身が半分程砕けた短剣を左腰の鞘に収め、左手を首の方へと持って行く。
持って行った左手に血が掛かって来る感触が無かったので、頚動脈は無事だと言う判断を下す。
そのタイミングで、

「あっぶなー……もう少しで斬り落とされるところだったわ」

幻月からもう少しで斬り落とされるところだったと言う呟きが発せられた。
幻月の呟きに反応した霊児は首に持って行っていた左手を下ろし、顔を上げる。
顔を上げた霊児の目には、血が流れている左肩を右手で押さえている幻月の姿が在った。
斬った時の感触と出血具合から、半分以上は斬れた筈だと思いながら霊児は自身の腹部に目を向け、

「………………………………………………………………」

思う。
腹部に負った傷が予想していたよりも深いと。
傷は内臓にまで届いてはいない様だが、霊児の腹部からは未だに血が止まらずに留めなく流れている。
出血多量で今直ぐにどうこうなると言う事は無いが、幻月の強さから考えるに戦いはまだまだ続く。
となれば、戦いの途中で血を流し過ぎて動きが鈍った隙を幻月は確実に突いて来るであろう。
幻月相手に常に隙を突かれ続けると言うのは無謀の一言。
なので、霊児は動きが鈍る前に切り札を切る事を決めて右手に持っている短剣を背中の方に仕舞う。
急に自分の得物を仕舞った霊児を見て、

「何? 降参?」

幻月は思わず降参かと尋ねる。
尋ねられた霊児は、

「まさか……」

まさかと返しながら両腕を前方へと伸ばし、掌を向かい合わせ、

「はああああああぁぁぁぁぁぁ…………」

右手から黒い光を放つ球体を、左手から白い光を放つ球体をそれぞれ生み出した。
そして、両手を近付けて二つの球体を強引に混ぜ合わせる。
するとどうだろう。
合わさった球体は大きく膨れ上がり、溢れんばかりの光を発し始めたではないか。
発せられている光の色は光色と言う言葉が似合う色をしている。
ともあれ、黒と白の二つの球体を混ぜ合わせたそれを、

「陰陽混合弾!!!!」

幻月に向けて霊児は放った。

「ッ!!」

放たれた球体を見た幻月は慌てて回避行動を取る。
が、僅かに間に合わなかった様で霊児が放った球体は幻月の翼の一部分に当たり、

「なっ!?」

当たった部分を消滅させた。
触れただけで自身の翼の一部分を消滅させられた事に幻月が驚いている間に、放たれた球体は幻月の遥か後方で爆発を起こす。
起こった爆発で幻月は意識を戻し、

「今のは……何?」

今のは何だと問う。
問われた霊児は隠して置く事では無いと言わんばかりに、

「陰と陽を組み合わせた弾だ」

陰と陽を組み合わせた弾であると口にする。

「陰と陽?」

霊児が口にした事を耳に入れた幻月が首を傾げると、

「陰と陽ってのは隣り合って存在するもの。決して混ざり合い、融合するものではない。なら、それを完全なレベルで混ぜ合わせたのならどうなるのか?
答えは……」

霊児は簡単に陰と陽に付いて簡単に説明し、陰と陽を強引に混ぜ合わせた場合の答えを言おうとしたが、

「あらゆるものを消滅させるものとなる」

霊児の答えを聞く前に、幻月は陰と陽を強引に混ぜ合わせたものがどういった効力を持つのかの答えを述べた。

「ああ、そうだ。これの前に攻撃も防御も意味は無い。触れたものを問答無用で消滅させるからな。だから、放ち終わった後は爆破させなきゃならないんだよ。
放って置いたらあらゆるものを消滅させながら突き進んで行くからな」
「ふーん……成程。随分強力な技ね。でも……」

あらゆるものを消滅させると言う事を霊児が肯定した為、幻月は強力な技だと言う感想を漏らし、

「でもね……」

霊児に自身の掌を向ける。
向けた掌からは霊児の陰陽混合弾と同じ色をした光が発せられ、幻月の掌からビームが放たれた。
迫り来るビームを見た霊児は慌てて回避行動を取ったが、幻月が放ったビームは霊児の羽織の一部分に当たり、

「ッ!!」

当たった羽織の一部分は陰陽混合弾が当たった幻月の翼の一部分と同じ様に消滅したではないか。
消滅した部分に霊児が目を向けたのと同時に放たれていたビームが消え、

「この様に……それと同じ系統の技なら私も使えるわよ」

自分も陰陽混合弾と同じ系統の技なら使えると言う事が幻月の口から語られた。
容易く自身の切り札と同系統の技を幻月に使われてしまった霊児であったが、

「だろうな」

当の霊児は大して驚いていないと言った表情を浮べていた。
折角同系統の技を見せたというのに霊児が大して驚いていなかったので、

「あら、驚かないのね」

少し不満気な表情を幻月は浮べる。
そんな幻月を見ながら、

「ああ、お前は世界を創る様な存在だからな。創造する力を有しているなら消滅させる力も有していたとしても何の不思議も無い。それに、元々これは
神綺も同じ様な技を使えるだろうと考えて作った技だからな。神綺と同じ創造神のお前がそれを使える事は想定の範囲内だ」

大して驚いていない理由を霊児は話す。

「そう……」

取り敢えず、霊児が驚いていない理由を知った幻月は、

「で、どうするの? 今のやり取りでお互い、あらゆるものを消滅させる技を使える事だけが分かっただけだけど?」

互いに同系統の技が使える事が分かったが、これからどうするのかと聞く。
聞かれた霊児は少し体を屈め、

「同じ系統の技なら……力が強い方が勝つだろ!!」

そう言い放ちながら霊力を解放し、両手を合わせ、

「陰陽混合拳!!!!」

両手から陰陽混合弾と同じ光を発せさせる。
霊児の台詞と構えから、

「その台詞から察するに、力で私に勝つ積り?」

自分と力比べをする気かと考えた幻月に、

「ああ。それとも……逃げるか?」

霊児は挑発の言葉を掛ける。
挑発としては安く、陳腐なものであったが、

「……良いわ、その挑発に乗って上げる!!」

掛けられた挑発に幻月は乗り、魔力と神力を解放して両手を合わせて霊児の両手から発せられている光と同じ光りを発せさせた。
そして、あらゆるものを消滅させる技を放とうとしている二人の力が最高潮に達した瞬間、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

霊児と幻月は同時に突っ込んで行った。
























「……!!」

声が聞こえる。

「…………!!」

必死な声色で、叫ぶ様な声が。
聞こえていた声は、

「……児!!」

霊児の名を呼ぶ声である様だ。

「霊児!!」

それに気付いた霊児が目を開けると、

「霊児!!!!」
「……魔理沙?」

涙目に成っている魔理沙の姿が目に映る。
なので、どうかしたのかと言う声を霊児が掛け様とした瞬間、

「霊児ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!」

霊児は魔理沙に思いっ切り抱きしめられた。
今一つ状況が把握出来ていていないからか、

「……どうしたんだ?」

どうしたんだと言う言葉を霊児が発した時、

「だ、だって!! 霊児、寝た儘血を流してて!! 服もボロボロで!! それで急に傷口が増えたりして!! 何度名前も呼んでも体を揺すっても
全然起きなくて!! それで……」

かなり慌てた声色で、魔理沙は霊児に何が起こっていたのかを口にしていく。
魔理沙が口にした血と傷口と言う単語を耳に入れたのと同時に、

「……ッ」

体中を鋭い痛みが駆け巡っている事を霊児は感じ取り、視線を自分の体へと向ける。
魔理沙に抱き付かれている為、胸部や腹部と言った部分は見えないもののそれ以外の部分は十分に見て取れた。
傷だけではなく着ている服もボロボロに成っている事から、体の状態を含めて色々とリンクしていたのだろうと言う事を霊児は考えながら思い出す。
夢幻世界であった事を。
気付いたら夢幻世界で夢月と戦い、その後に姉の幻月とも戦いを繰り広げた。
そして、戦いの最終局面で切り札である陰陽混合拳を幻月が叩き込もうとしていた陰陽混合拳と同種の技に叩き込もうとした辺りで、

「…………………………………………………………」

自身の記憶が途切れている事に気付く。
不自然なところで記憶が途切れている事と、自分に抱き付いている魔理沙から霊児はある推察を立てる。
立てた推察と言うのは、魔理沙の声で夢幻世界から引き戻されたと言うもの。
夢月が話してくれた紛れ込んだ者の夢幻世界からの戻り方を踏まえると、霊児が立てた推察は合っているだろう。
夢幻世界から幻想郷に戻って来れた経緯に付いての推察を一通り霊児が終えたタイミングで、

「霊児!! 体とか大丈夫か!? 何か悪い病気とかに掛かってたりはしてないか!?」

霊児に抱き付いている魔理沙が少し離れ、霊児の容態に付いて尋ね始めた。
まぁ、魔理沙からしたら寝ていた霊児がどんどん傷を増やしていっている様に見えたのだ。
心配するのも無理はない。
それはそうと、尋ねられた霊児は、

「ああ、大丈夫だし病気にもなってねぇよ」

平気だと返しながら立ち上がろうとしたので、

「おっと」

立とうとしている霊児の邪魔にならない様に、魔理沙は霊児から離れる。
その数瞬後に霊児は立ち上がり、体を軽く動かしていく。
体を動かす度に痛みが走ったり軋んだりするものの、動かすだけなら大丈夫そうだと言う判断を下し、

「……今って何時だ?」

思い出したかの様に今は何時だと魔理沙に聞く。

「まだ朝だぜ」

聞いた事に朝だと言う答えが返って来ると、急に空腹感を覚えたので、

「なぁ、朝飯作ってくれるか?」

霊児は魔理沙に朝ご飯を作ってくれと頼み始めた。
別に頼まなくとも、魔理沙が博麗神社に来た時は何時も魔理沙がご飯を作ってくれるのだが。
ともあれ、頼まれた魔理沙は、

「ああ、別に良いぜ」

安心したかの様な表情を浮かべ、朝ご飯を作る件を了承した。
大きな怪我を負ってはいるものの、何時も通りの振る舞いをしている霊児を見て安心した様だ。
魔理沙の様子から後幾らかすれば朝食が出来るだろう霊児は思い始めたが、

「けどその前に……」

朝ご飯を作る前の一仕事だと言わんばかりに魔理沙は霊児の左手を掴み、

「怪我の治療だ」

怪我の治療だと言って霊児の部屋が在る方へと体を向ける。

「い、いや、それより先に飯を……」
「駄目だ。ご飯は怪我の治療してからだぜ」

腹が減っているので治療よりも先にご飯してくれと霊児は頼んだが、魔理沙は霊児の頼みを受け入れずに治療を受けろと言う。
負っている怪我の事もあり、霊児としては自分で朝食を作る気にはなれなかった。
尤も、霊児が作れる料理は鍋料理位ではあるが。
兎も角、今現在の博麗神社の食卓は魔理沙が握っているので、

「……分かった分かった。先に治療すれば良いんだろ」

霊児は折れ、諦めたかの様に先に治療すると呟く。
すると、

「よし、ならさっさと治療しないとな。霊児だけだったら適当に消毒して終わりって事になりそうだから、私が治療してやるぜ」

霊児にだけに治療させたら雑なものなりそうだから、自分が治療すると魔理沙は言いながら霊児を連れて足を進め始めた。
























霊児の治療を終え、朝食を作り終えた後、

「で、だ。何だってそんな怪我を負ったんだ」

霊児と一緒に朝食を食べながら、魔理沙はどうしてそんな怪我を負ったんだと尋ねる。
尋ねられた霊児は一旦箸を置き、

「ああ、実は……」

夢幻世界であった事を話し始めた。
霊児の話を一通り聞き終えた魔理沙は、

「はぁ……夢幻世界の創造神と戦ったねぇ……。まぁ、霊児にそんな大怪我を負わせられる存在と言ったら創造神位だろうけどさ」

驚きと共に納得したと言った表情を浮べる。
そして、

「しっかし、意外と近い所にも神綺以外の創造神も居たんだな」
「夢幻世界を幻想郷に近い位置に在るかと言われても分からんが……魔界と同じで夢幻世界への入り口も幻想郷に在りそうな気がするな……」
「……ああ、寝ている最中に夢幻世界に紛れ込むのは正規の入り方じゃ無いんだけっか」
「そ。紛れ込んだ場合は大人しく待ってれば勝手に元居た世界に戻れるそうだ」
「へー……それよか、魔界の創造神だけではなく夢幻世界の創造神も幻想郷に来そうな感じだな」
「幻想郷に来る位なら別に良いんだよ。幻想郷に害を成そうとしたり、俺に戦いを挑んだりしなければな」
「はは。ともあれ、私としては霊児が生きて夢幻世界から戻って来てくれたのが一番良かったぜ」

魔理沙と霊児はご飯を食べつつ、雑談を交わしていく。
そんな中で、霊児はある事を思い出す。
思い出した事と言うのは、幻月の戦いで破損した短剣に付いてだ。
普段持ち歩いている五本の短剣とは別に部屋の中に予備の短剣が五本在るが、修復するのなら早い方が良いだろう。
なので、今日中に香霖堂へと赴いて霖之助に短剣の修復を依頼し様と言う予定を霊児は頭の中で立てていった。
























余談であるが、その日の昼下がり。
香霖堂から森近霖之助の悲鳴が響き渡ったと言う。























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