「毎度」

毎度と言う言葉と共に霊児は客にお守りとお札と破魔矢を渡し、客から代金を受け取る。
お守りとお札と破魔矢を霊児から買った客は、霊児に頭を下げて去って行った。
それを見届けた後、

「……ふぅ。冬場だと正月が近くなるからか、お守りもお札も何時もの倍以上のペースで売れるな」

霊児は一息吐き、愚痴の様なものを零す。
現在、霊児は人里で商売を行っている。
普段であれば、霊児が人里で売る物はお札やお守りが殆どだ。
時たま、食料庫に入り切らない程に野菜などが採れたら野菜なども売りに出す事もある。
尤も、今回は野菜を売りに出してはいないが。
但し、野菜の代わりと言わんばかりに今日はお守りとお札以外にある物が売り出している物に追加されている。
追加されている物と言うのは、破魔矢。
破魔矢が売り物の中に追加されている理由は至極単純。
正月が近いからである。
正月になれば破魔矢を家に飾って置くのは一般的なので、霊児は冬になるとお札やお守りと併せて破魔矢も作って売っているのだ。

「そういや、あの時のラッシュは凄かったな……」

ふと、初めて人里で商売をやり始めた年の正月前後の時期を霊児は思い出した。
正月も近いと言う事で初めて破魔矢を売りに出した日、一瞬と言える様な速さで売り切れた時の事を。
後で知った事ではあるが、霊児が作るお札とお守りが非常に強力な効果を持っていると言う事が口コミなどで人里中に知れ渡っていたらしい。
故に里民は霊児が作った破魔矢を家に飾れば何事もなく正月を迎えられると考え、霊児が破魔矢を売り始めたら一斉に押し掛けたのだ。
おまけに、破魔矢が売り切れるともう売っていないのかの詰め寄られる始末。
なので、それ以降は冬に成ったらさっさと破魔矢を作る様に霊児はした。
尤も、破魔矢を早くに作らなければ成らなくなった以外にも、

「にしても、冬はお守りもお札も何時もの倍以上の量を作らなきゃならないのが面倒だな……」

冬はお守りやお札の売れ行きが倍以上になるので、お守りやお札を普段の倍は作らなければ成らなくなってしまったが。
まぁ、これに関しては年末年始なので仕方が無いと言えば仕方が無い。
序に言えば、霊児はこの商売で金銭を得ている。
幾ら面倒で苦労が在ると言っても、商売を止めてしまったら霊児は酒、茶葉、煎餅、饅頭、その他諸々と言った物が買えなくなってしまう。
霊児としては、それは何としてでも避けたい事なので、

「はぁ……」

諦めたかの様に溜息を一つ、霊児は吐いた。
そして、疲れを出すかの様に両腕を伸ばしていると、

「……っと」

何者かが近付いて来ている感じた為、霊児は両腕を下ろして顔を上げる。
顔を上げた霊児の目に、

「私にも、何か売ってくれるかしら?」
「アリス」

アリスの姿が映った。
人里にアリスが来ている事から、

「人里で人形劇でもしてたのか?」

霊児は人里で人形劇をしていたのかと問う。
問われたアリスは、

「いえ、今日はお買い物をしに来ただけよ」

否定の言葉と共に買い物籠を霊児に見せ、

「で、その帰りに貴方が露店を開いていたから覗いて見たの」

買い物帰りに霊児が露店を開いていたから覗いて見たと言い、屈んで売っている商品を観察していき、

「あら、結構一般的なお守りが在るのね」

一般的なお守りが多かった為、少し驚いた表情を浮べる。

「どんなお守りが在ると思ってたんだよ、お前」

一般的なお守りも在った事に驚いているアリスに霊児はそう突っ込みを入れ、

「まぁ、普通のお守り以外にも防壁のお守りってのが在るけどな」

普通のお守り以外にも防壁のお守りが在る事を話す。

「防壁のお守り?」

初めて聞くお守り名であった為か、アリスは首を傾げてしまう。
そんなアリスを見た霊児は防壁のお守りを手に取り、

「ああ、これだな」

アリスに手に取ったお守りを見せ付ける。
見せられたお守りは他のお守りと違い、鋼に近い色合いをしていた。

「他のお守りとは随分と色合いが違うわね」
「これは何者かの攻撃が迫って来た場合、障壁を展開して襲って来た相手を弾いたり攻撃を弾いたりするってお守りだな。人里から出て木の実や山菜を
採ったり、魚を獲ったり行く者には人気があるお守りだな」

他のお守りとは色合いが違うと言う感想を抱いたアリスに、霊児は防壁のお守りに付いての簡単な説明をしていく。

「へぇー……」

一通りの説明を受けたアリスが改めと言った感じで防壁のお守りを観察していくと、

「まぁ襲って来た者の強さをにもよるが、大体80回から100回程障壁を展開すると意味を為さなくなるな」

補足するかの様に、霊児は障壁を何回展開出来るかと言う事をアリスに教える。

「ま、無限に使い続けられる……って言う様に都合良くはいかないわね」

そう言ってアリスが防壁のお守りから目を離したので、防壁のお守りを霊児は商品が陳列している場所に戻す。
その瞬間、

「お札の方はどんな物が揃っているの?」

アリスからお札の方はどんな物が揃っているのか聞いて来たので、

「お札の方は家に憑いている悪霊などを叩き出すもの、家に悪霊などを近付けさせないもの、所持していれば悪霊などを近付けさせない結界を張るもの、
投擲すれば一寸した遠距離用の武器になるもの。こんな感じだな。投擲用のお札以外は、お札に籠められている俺の霊力が尽きない限り効果は続くぞ」

売りに出しているお札の説明と、投擲用以外は籠められている霊力が残っている限りは効果を発揮し続けると言う事を霊児はアリスに教えた。

「投擲用のお札以外のお札の効果持続は?」
「大体二ヶ月前後だな」
「ふむ……」

投擲用のお札以外のお札の効果持続時間を知れたアリスは少し考える素振りを見せた後、

「……折角だから、貴方が売っている物を買わせて頂くわね。取り敢えず……開運と厄払いのお守り、家に貼り付けるタイプの二種類のお札、それから
破魔矢を頂こうかしら」

霊児の露店から欲しい物を告げ、財布を取り出したので、

「毎度」

霊児は毎度と言う言葉と共に告げられた商品を手に取っていく。
そして、

「はい、これで丁度だと思うわよ」
「……確かに」

アリスと霊児はお金と商品を交換する。
買った商品をアリスは買い物籠の中に入れ、

「さて、買う物は買ったし私は帰るわね」

霊児にもう帰る事を伝え、

「風邪、引かない様にね」

風邪を引かない様にと言う言葉を残して去って行った。
今現在の霊児は羽織り、シャツ、ズボンと何時もと変わらない格好だ。
冬だと言うのに。
アリスが風邪を引かない様にと言う言葉を残すのも無理はない。
と言っても、霊児本人は大して寒いとは感じてはいないのだが。
言う程、今日は寒いかと霊児が思い始めた辺りで、

「……おっ」

霊児の目に多数の里民が自分の所に押し寄せて来ているのが映った。
どうやら、お客の第二陣が来た様だ。
思考に意識を向けていてはこの数は捌き切れないので、霊児は意識をやって来ている者達に向ける向ける事にした。






















幻想郷上空。
人里で商売を終えた霊児は空を飛びながら、

「あー……疲れた」

疲れを吐き出すかの様に息を一つ吐きつつ、

「でもま、客の数も作った数も多かったが……完売したから良いか」

完売したから良いかと呟く。
それはさて置き、人里で商売を終えた霊児は博麗神社ではなく霧の湖に向かっていた。
何故、博麗神社ではなく霧の湖に向かっているのか。
答えは簡単。
商売していた時にある客が代金と一緒に酒を置いていき、その酒には魚が合うと言う事を教えてくれたからだ。
つまり、魚を食べながら酒を飲みたいが為にこうやって霧の湖に向かっているのである。
しかし、商売をし終えたら直ぐに霧の湖に向かう事にしたので霊児は釣り道具を持って来てはいない。
だが、人里で商売をする時に風呂敷だけでは収まり切らないお守りとお札を霊児は壺に入れて持って来ていた。
取り敢えず、得た魚を保管すると言う事は出来そうだ。
では、魚を釣る為の道具はどうするのか。
これに関してはそこ等の木の枝と蔓を使って簡易的な釣り竿を作れば良い。
霧の湖に着いてからの予定を霊児が立て終えた辺りで、

「お……」

眼下に霧の湖が見え始めた。
なので、霊児は降下して地に足を着け、

「えーと……あれで良いか」

近くの木から枝と蔓を拝借して簡易的な釣り竿を作る。
作った釣り竿を見て、

「うん、中々の出来栄え」

自画自賛とも言える台詞を霊児は漏らしながら湖へ近付き、

「この辺で良いか」

湖が目の前に見えた辺りで足を止め、

「……しっ!!」

釣り竿を振るい、魚が掛かるのを待つ。
暫らくすると、握っている釣り竿から魚が掛かった感触が伝わったので、

「貰った!!」

霊児は一気に釣り竿を引き上げる。
その瞬間、

「あ……」

何かが圧し折れる音と共に釣り竿が折れてしまった。
どうやら、木の枝で作った釣り竿では魚を釣り上げられる程の強度は無かった様だ。
圧し折れてしまった木の枝で作った釣り竿を見て、どうし様かと霊児が考えていると、

「あら、霊児じゃない」

背後から霊児の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に霊児は反応し、振り返る。
振り返った霊児の目には、

「妹紅」

妹紅の姿が映った。
この事から、自分に声を掛けて来たのが妹紅であると霊児が認識した時、

「何かあったの?」

何かあったのかと妹紅は霊児に問う。
問われた霊児は一息吐き、

「ああ、実は……」

何があったのかを説明していく。
一通り、霊児の説明を聞き終えた後、

「成程ね」

納得したと言った表情を妹紅は浮かべ、

「一旦神社に帰って釣り竿を取って来たら?」

神社に戻り、釣り竿を取って来たらどうだと言う提案をする。
妹紅からされた提案は理に適ってはいるのだが、

「いや、それはそれでな……」

今更博麗神社に戻るのは少々思うところがあるからか、霊児は他に何か良い手は無いかと頭を回転させていく。
そして、ある程度頭を回転させた辺りで、

「あ、そうだ」

良い手を思い付いたと言った表情を浮べる。

「何か良い案でも思い付いたの?」
「ああ」

霊児が浮べた表情から何か良い案でも浮かんだのかと察した妹紅に、霊児は肯定の言葉を掛けながら羽織とシャツを脱ぎ始めた。
行き成り自分の衣服を脱ぎ始めた霊児を見た妹紅は、

「ちょ、一寸!?」

若干顔を赤く染めていく。
が、そんな妹紅を無視するかの様に上半身裸になった霊児は隠し持っている短剣を含めた合計五本の短剣を外して地面に置き、

「……さて」

続ける様に持って来ていた酒と壺を置き、ストレッチを行なっていく。
上半身裸になり、ストレッチを行なっている事から、

「まさか……素潜りで魚を獲る気?」

素潜りで魚を獲る気かと妹紅は考え、そう尋ねる。
尋ねられた事に、

「ああ」

肯定の返事を霊児が返した瞬間、

「分かってるの!? 今は冬なのよ!! そんな季節に素潜りだなんて……って大丈夫か。霊児は普通の人間じゃないし」

冬に素潜りをするなど自殺行為だと言う様な事を口走ろうとしたが、霊児が普通の人間とは違う事を思い出したので口走ろうとしていた言葉を妹紅は飲み込む。
そのタイミングでストレッチが終わったので、霊児は早速湖の中に潜ろうとしたが、

「……あ、そうそう。湖から獲った魚、半分やるから適当に整理しといてくれるか? 俺の風呂敷と壺を使って良いからさ」

得た魚をどするかを考えていなかった事に気付き、妹紅に獲た魚を半分やるから湖から獲った魚を整理してくれと言う事を頼んだ。

「それ位なら別に構わないわ」
「じゃ、宜しく」

霊児の頼みを妹紅が了承したのと同時に、霊児は宜しくと言う言葉と共に息を大きく吸い込んで湖へと飛び込んだ。
湖に飛び込み、少し潜った辺りで泳いでる魚を一匹発見した。
幸い、魚の方は霊児の存在に気付いていない様だったので、

「…………………………………………………………」

霊児は素早く見付けた魚に近付き、泳いでいた魚を鷲掴みにして上方へと放り投げる。
放り投げられた魚は、妹紅の近くに落ちているだろうと言う確信が霊児にはあった。
だからか、放り投げた魚の行方を気にする事無く霊児は次の魚を探す為に顔を動かしていく。
魚を見付け、見付けた鷲掴みにして放り投げてまた魚を探す。
この様な行為を何度か繰り返し、それなりの数の魚を放り投げたのでそろそろ浮上し様かと霊児が思い始めた刹那、

「……?」

遠くの方に上半身が人間で下半身が魚、つまり人魚の姿が霊児の目に映る。
こんな場所に人魚と驚いた霊児が良く確認し様と目を凝らしたが、霊児の目にはもう何も映ってはいなかった。
見間違いだったのか、驚いている間に見えない所に行ってしまったのか。
どちらかなのかは分からないが、もし本当に人魚だったのなら宴会の時の良いネタになる。
そう思った霊児が人魚らしき存在を見掛けた場所に向かおうとした時、真横から何かが近付いて来ているのを霊児は感じ取った。
感じ取ったものが気に掛かった霊児が真横に顔を向けると、

「ッ!?」

猛スピード自分に向けて迫って来ている何かが視界に映ったので、霊児は回避行動を取る。
すると、突っ込んで来た何かは霊児の体が在った場所を通り抜けて行く。
通り抜けて行った何かを目で追った結果、それは魚だと言う事が分かった。
但し、通り抜けた魚は普通の魚と違う点が幾つか見られる。
一つ目は大きさ。
突っ込んで来た魚は霊児の十倍程の大きさがあるのだ。
二つ目は角。
魚の頭頂部と思わしき部分に一際目立つ角が生えているのである。
三つ目は牙。
何時も食べている様な魚には見られない様な牙が大量にあの魚には生え揃っている。
普通の魚以外にもあの様な魚も霧の湖に居るのかと霊児が感心していると、突っ込んで来た魚が振り返るかの様に霊児の方に体を向けた。
どう考えても戦いを避け切れ無い事を霊児が察したのと同時に、魚は再び霊児に向けて突っ込んで行く。
どんどんと距離を縮めて来る魚を霊児は目に入れながら、思う。
中々に食い甲斐があると。
先に得た魚と、今迫って来ている魚を合わせれば十分に腹は膨れると考えた霊児は、

「…………………………………………」

軽く構えを取る。
そして、突っ込んで来た魚が目の前に来たタイミングで、

「……ッ!!」

霊児は魚の角を両手で掴み、ジャイアントスイングの要領で体を回転させながら魚を上方へと放り投げる。
放り投げられた魚が湖の中か叩き出されたのを見た霊児は、急浮上を行なって湖から脱出した。
無論、これだけでは終わらない。
まだ舞い上がっている魚を地上に叩き付ける為、霊児は魚にぐんぐんと近付いて蹴りを放つ準備をする。
この儘いけば、そう遠くない内に魚を地上に蹴り落とす事が出来るだろう。
しかし、そんな霊児の予定とは裏腹に、

「ッ!?」

ある程度魚に近付いた辺りで魚が急に霊児の方に体を向け、口を大きく開きながら突っ込んで来た。
これには流石の霊児も驚きを隠せ無かった様だ。
まぁ、魚が空中で水中と同じ様な動きをするなどと普通は思えないで驚くのも無理はないだろう。
それはそれとして、これでは蹴りを放ったのと同時に噛み付かれてしまう可能性が在る。
別に噛み付かれたとしても大したダメージには成らないであろうが、態々噛み付かれてやる気は霊児には無い。
だからか、

「なら……」

霊児は蹴りを放つのを中断し、両足を真っ直ぐ魚の方へと伸ばした。
伸ばされた両足は当然に様に魚の口内に入り、これまた当然の様に魚は霊児の両足を噛み千切ろうする。
だが、

「狙い通りだ!!」

噛み千切ろうとした魚が牙と牙を合わせる前に、霊児は両方の足を上下に向けて開く。
すると、足から伝わる感触から魚の顎が外れたのを感じ取った霊児は体を回転させ、

「……らあ!!」

魚を地面に向けて投げ飛ばす。
投げ飛ばされた魚は勢い良く地面に激突し、動かなくなった。
それを見届けた霊児が降下して地面に足を着け、

「ふぅ……」

一息吐いた時、

「この大量の魚……どうするのよ?」

妹紅から大量の魚をどうするのかと言う声が掛けられる。
そう声を掛けて来た妹紅の方に霊児は顔を向けると、大量の魚が風呂敷の上に鎮座している事と壺の中に詰まっている事が分かった。
今まで獲って来た魚とたった今獲た魚。
これ等二つを合わせ、半分にしたとしても霊児と妹紅の腹に収まり切りはしないだろう。
ちゃんと獲った魚を数えて置けば良かったと霊児は反省しつつ、獲た魚をどうし様かと考えていく。
勿論、腐らせると言うのは論外だ。
とは言え、獲た魚は仕留めてしまっているので長期間の保存は難しい。
となれば、直ぐに食べてしまうのがベストだ。
沢山と言える様な魚をどうやって食べ切るかの答えを出す為に頭を回転させた結果、

「……よし、今日宴会をしよう」

宴会を開く事を霊児は決めた。
確かに、宴会を開けば二人では食べ切れない魚も食べ切れるであろう。
大量の魚を消費する手として宴会は有効な手であるからか、妹紅は納得した表情を浮かべつつ、

「良いアイディアだけど……何所で宴会をする積りなの?」

良いアイディアだが何所で宴会をするのかと疑問を霊児に投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に、

「そうだな……紅魔館で良いだろ。ここから近いから、魚が新鮮な内に食えそうだしな」

宴会会場は紅魔館で良いだろうと霊児は返す。

「……良いの? 勝手決めて?」
「大丈夫だろ、多分」

勝手に紅魔館で宴会で開く予定を立てても良いのかと悩み始めた妹紅に、霊児は多分大丈夫だろうと返す。

「また適当な。でもま、早めに魚の調理出来るのは良いわね。冬だと言っても腐る時は腐るし」

返って来た返答を聞いて妹紅は何処か呆れた表情を浮べるも、早めに魚を処理すると言う部分は賛成の様で魚を乗せている風呂敷を畳んでいく。
取り敢えず、妹紅が自分の案に乗ってくれたからか、

「さて……」

霊児は脱いだ羽織りにシャツを着直し、外した装備品や酒等を体に付け直していく。
そして、先程仕留めた魚の角を掴んで空中へと躍り出た。
それに続く様にして魚を包んだ風呂敷と魚が詰まった壺を妹紅は手で掴み、空中へと躍り出る。
空中に躍り出た二人は顔を見合わせ、紅魔館へと向かって行った。























霧の湖を後にした霊児と妹紅は、

「よっと」
「……っと」

紅魔館の中庭に降り立った。
地に足を着けた霊児と妹紅はそれぞれ持って来たものを地面に降ろし、

「んー……もう少し早く着くと思ったんだがな……」
「今回は荷物が在ったからね。余りスピードを出し過ぎると角の部分が折れたり、風呂敷が開いて魚がばら撒かれる事態が起こったかもしれないし」

霧の湖から紅魔館に着くまでに掛かった時間に付いて軽く話していると、

「あら、美鈴はどうしたの?」

咲夜が音も無く二人の傍に現れた。
それに気付いた霊児と妹紅は咲夜の方に顔を、

「よう」
「お邪魔してるわ」

軽い挨拶の言葉を掛ける。
無断で紅魔館の中庭に降り立ち、それが発見されたと言うのに全く態度を崩そうとしない二人に咲夜は呆れつつ、

「……で、もう一度聞くけど美鈴はどうしたの?」

改めてと言った感じで美鈴はどうしたのかと問う。
問われた事に、

「上空から見たら寝てたからな。スルーして来た」

霊児は美鈴が寝ていたのでスルーして来たと言う事を伝える。
その事を伝えられた咲夜は、

「あの子は……」

頭を押さえ始めた。
まぁ、門番が職務を放棄して居眠りをしていたのだ。
頭の一つや二つ、押さえたくもなるだろう。
だが、何時までも頭を押さえている訳にもいかないので、

「美鈴のお仕置きは後でやるとして、そんなに魚を持って来てどうしたのかしら?」

話を切り替えるかの様に咲夜は頭から手を離し、大量の魚を持って来てどうしたのかと尋ねる。
態々大量の魚を持って紅魔館にやって来た事を言わなければ話が進まないので、

「ああ、実は……」

紅魔館にまで足を運んだ理由を霊児は咲夜に説明していく。

「成程、それで宴会をね……」

一通り霊児の説明を頭に入れた咲夜は口元に手を当てて少し考える素振りを見せ、

「まぁ、お嬢様は騒がしいのも結構好きだから宴会を開く許可は取れると思うわ」

多分、レミリアから宴会を開く許可は取れそうだと呟く。
半ば宴会を開く許可が出た様なものであるからか、

「なら、決まりだな」
「悪いわね。急に押し掛けて宴会を開いて何て事を頼んで」

霊児と妹紅は口々にそう漏らす。
妹紅は若干申し訳無さそうにしているのに対し、霊児は何時も通りの態度。
相変わらずとも言える霊児に咲夜は再び呆れつつ、

「別に構わないわ」

別に構わないと言ってレミリアの所に向かおうとした時、

「あら?」

咲夜の目にあるものが映った。
映ったものと言うのは霊児が持って来た巨大な魚。
最初は只の大きな魚だと咲夜は思っていたが、良く良く見てみたら只の大きな魚では無かった。
一般的な魚には角や牙と言ったものは生えてはいないのだから。
だからか、

「この魚、何所で獲って来たの? 初めて見る魚だけど」

巨大な魚を何所で入手したのかを咲夜は霊児に聞く。

「これか? 霧の湖に居たぞ」
「霧の湖? あそこにこんな魚が居たのね……」

霊児から巨大な魚の出所を教えられると、咲夜は驚きの表情を浮べる。
どうやら、紅魔館の近くに在る霧の湖にこの様な魚が存在するとは思わなかった様だ。
暇が出来たら霧の湖に生息している魚の調査でもしてみ様かと咲夜は思いつつ、

「それはそれとして、この魚をどう調理したものかしら……」

霊児が獲って来た巨大な魚をどう調理するべきかを考え始めた。
未知とも言える魚の調理に付いて考えている咲夜に、

「だったら、パチュリー聞いて来たらどうだ?」

パチュリーに聞いて来たらどうだと言う提案を霊児は行なう。
確かに、知識人と名高いパチュリーなら巨大な魚に付いて何か知っている可能性が高い。
仮にパチュリーが知らなかったとしても、パチュリーの図書館の蔵書量は相当なもの。
巨大な魚の情報のの一つや二つ、見付かるであろう。
霊児の提案を受け、パチュリーの所に行けば何かしらの手掛かり位は見付かるだろうと言う事を思い付いた咲夜は、

「……そうね、パチュリー様の所に行ってみる事にするわ」

霊児の提案を受け入れる事にし、

「けど、その前にこの魚は台所に運ぶ必要が在るわね」

図書館に行く前の仕事だと言わんばかりに巨大な魚の角と魚が入った風呂敷と壺を掴み、姿を消した。
おそらく、時間を止めて魚を台所に持って行ったのだろう。
霊児と妹紅がそう考えたのと同時に咲夜は再び姿を現し、

「取り敢えず、貴方達を客間に案内するわね。着いて来て」

客間まで案内すると言いながら咲夜は霊児と妹紅に背を向けて歩き出したので、霊児と妹紅は咲夜に付いて行く様に足を動かし始めた。
近い内に始まるであろう宴会を楽しみにしながら。























余談であるが、霊児が獲って来た巨大な魚。
あれの角は魔法の実験に大いに役立つものであったのだ。
尤も、それが分かったの宴会の最中。
当然、そうなるとその角を狙う者が出て来る。
宴会に参加していた魔理沙とアリスだ。
なので、魔理沙、アリス、パチュリーの三人の間で誰が角を得るかと言う争いが始まりそうになる。
とは言え、宴会と言う場であるからか実力行使と言う手段に出る事は無かった。
が、言い争いには発展した様だが。
それで結局どうなったかと言うと、角は三等分すると言う事で落ち着いた。
そこに至るまで様々な言い争いがあったが、その言い争いは宴会参加者の良い肴になったと言う。























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