季節が冬に成ってから暫らく経ったある日。
博麗神社では忘年会と新年会の準備が行われていた。
と言っても、忘年会は飾りでメインは新年会の方ではあるが。
何故、忘年会が飾りで新年会がメインなのか。
答えは簡単。
忘年会よりも新年会の方が者が多く集まるからだ。
まぁ、集まって来る者は人間以外の存在が多いが。
兎も角、新年会の方が盛り上がると言う事で新年会がメインなのである。
それはさて置き、忙しそうに掃除をしたり料理を運んだりしている面々を見ながら、
「……にしても、毎回毎回良く集まるもんだな」
霊児はポツリとそう呟く。
霊児としては、何かある度に色々な者達が博麗神社に集まって来る事に若干の疑問を抱いている様だ。
そんな霊児の一寸した疑問に対する答えとして、
「ま、ここはある意味皆の溜まり場みたいな場所だからね」
博麗神社はある意味皆の溜まりだと言う事を口にしながら魅魔が霊児の正面に降り立った。
「魅魔」
やって来た魅魔の存在を認識した後、
「何所に行ってたんだ?」
何所に行っていたのかと霊児は問う。
問われた魅魔は、
「一寸色々と声を掛けにね」
色々と声を掛けて来たと言いながら霊児の隣に腰を落ち着かせ、
「紅魔館の連中は新年になったらこっちに来るってさ」
紅魔館の面々は新年になったら博麗神社に来る事を教える。
「……あいつ等は呼ばなくても勝手に来ると思うけどな」
紅魔館に居る者達なら呼んだりしなくても勝手に来るだろうと言う事を霊児は零し、忘年会と新年会を混合させた宴会が始まった後の事を思い描いていく。
思い描いた結果、確実に馬鹿騒ぎが始まると言う事が予想出来た為、
「ま、宴会が始まれば確実に馬鹿騒ぎに成るだろうし、今の内に天香香背男命に干渉して実力を落とさせて置くか」
今の内に天香香背男命に干渉して実力を落とさせる事にし、霊児は天香香背男命に干渉していく。
「……………………………………………………」
自身の霊力で天香香背男命を縛り、実力を大きく落とさせた辺りで、
「霊児ー、お節料理出来たから運ぶの手伝ってくれー」
奥の方からお節料理を手に持った魔理沙がやって来た。
やって来た魔理沙に霊児は反応し、魔理沙の方に顔を向けたのと同時に、
「お、美味しそうだね」
上から覗き込む様な形で魅魔は魔理沙が持っているお節料理に視線を向け、美味しそうだと漏らす。
魅魔の接近に気付いた魔理沙はお節料理を背中に隠し、
「あ、駄目ですよ魅魔様。宴会が始まるまでは食べちゃ駄目です」
宴会が始まるまでは食べちゃ駄目だと言う。
「分かってるって」
言われた事に魅魔は分かっていると返したからか、
「なら良いんですけど……」
取り敢えずは納得した言った表情を魔理沙は浮かべ、一息吐く。
そして、
「と言う訳で手伝ってくれるか?」
改めてと言った感じで魔理沙は霊児に手伝ってくれるかと尋ねる。
天香香背男命に対する干渉は何かしらの作業をしていても普通に継続出来るし、これから何かをしなければならない事も特に無いので、
「ああ、良いぞ」
手伝う件を了承しながら霊児は立ち上がり、
「で、俺は何を手伝えば良いんだ?」
何を手伝えば良いんだと聞く。
聞かれた事に、
「台所の方でにとりと妹紅が料理を作ってるから、出来たのから運んで行ってくれ」
魔理沙が出来た料理を運んで欲しいと返すと、
「あいよ」
あいよと言う返事と共に霊児は台所へと向かおうとする。
そのタイミングで、
「どれ、私も台所に行ってみるとするかね」
魅魔も台所に向かうと言い出す。
だからか、
「お前、摘まみ食い目当てじゃないだろうな?」
「おいおい、流石に調理中の物に手を付ける程卑しくは無いさ」
霊児と魅魔はその様な会話を交わし、台所へと向かって行った。
忘年会と新年会を混ぜ合わせた宴会に出す料理が全て完成すると、結構な数の者達が博麗神社に集まって来ていた。
集まって来た者達は、挨拶もそこそこに我が物顔で博麗神社に在る大部屋へと向って行く。
これが当然と言った感じで。
何とも図々しい事ではあるが、何時もの事と言えば何時もの事。
だからか、霊児は特に何かを言うと言った事はしなかった。
それはさて置き、天を月と星が支配し始めた辺りで忘年会と言う名の宴会が始まる。
そして、新年を迎えると忘年会の流れをその儘引き継ぐ形で新年会の言う名の宴会が始まった。
今回の宴会は忘年会と新年会を混ぜ合わせたものなので、宴会の名は何も変わってはいないが。
兎も角、相も変わらず騒ぎ続けている面々を見て、
「ま、予想出来ていた事だな」
予想出来ていた事だと霊児は呟きながら酒を飲む。
騒いでいるのを眺めながら酒を飲むのも一興かと思っていると、
「明けましておめでとう、霊児」
背後から新年の挨拶の言葉が聞こえて来た。
聞こえて来た挨拶に反応した霊児は振り返り、
「明けましておめでとう、レミリア」
新年の挨拶の言葉を掛けて来たレミリアに霊児も新年の挨拶を行なう。
振り返り、新年の挨拶をした霊児の目にレミリアの他にフランドール、咲夜、パチュリー、美鈴、小悪魔と言った紅魔館の面々の姿が映ったので、
「何だ、全員で来たのか?」
霊児は全員で来たのかと尋ねる。
尋ねられたレミリアは、
「全員と言う訳では無いわ。妖精メイド達は紅魔館に残してるしね」
妖精メイド達は紅魔館に残しているので全員では無い事を話す。
と言う事はつまり、現在の紅魔館は妖精メイドだけで切り盛りしていると言う事になる。
その事を知った霊児は一般的な妖精の知能を思い出し、
「……妖精メイドだけに紅魔館の事を任せても大丈夫なのか?」
妖精メイドだけに紅魔館を任せる事になっているが大丈夫なのかと問う。
そう問われた事で不安になったからか、レミリアは咲夜の方に顔を向け、
「咲夜?」
どうなのだと声を掛ける。
声を掛けられた咲夜は少し考える素振りを見せ、
「……まぁ、一晩位であれば大丈夫だと思いますわ」
一晩位であれば大丈夫だろうと答えた。
尤も、答えた咲夜の声色に余り強さは感じられなかったが。
今現在の紅魔館に居る者が妖精メイドだけと言う話題が出た事で場の空気が何とも言えないものに成ったが、
「お嬢様お嬢様。色々と見て回っても良いですか?」
そんな空気を無視するかの様に、美鈴は少々興奮気味に色々と見て回る為の許可をレミリアから取ろうとした。
思いっ切り場の空気を無視した上での発言ではあるが、それも無理はないだろう。
基本的に紅魔館で門番をしている美鈴に取って、紅魔館を離れて何所かに行くと言う機会は殆ど無い。
その様な立場の者が紅魔館以外の場所で開かれた宴会に参加したのだ。
少々興奮し、色々見て回りたいと思うのも無理はない。
「………………………………………………」
思いっ切り場の空気を無視した発言をした美鈴にレミリアは何か言おうとしたが、宴会の場で小言を言うのもあれだと判断し、
「……良いわ、好きに回って来なさい」
好きに回って来ても良いと言う許可を出す。
「ありがとうございます!!」
許可を出された美鈴は元気な声で礼の言葉を述べ、急ぎ足で賑わっている所に向かって行った。
「元気ねぇ……」
急ぎ足で賑わっている所に向かって行った美鈴をレミリアは元気だと称しながらパチュリーの方に顔を向け、
「パチェもあれ位元気に動いて見たらどう?」
パチュリーにあれ位元気に動いて見たらどうだと提案する。
「レミィ……それ、分かってて言ってる?」
「ふふ、冗談よ冗談」
割りと無茶振りな提案をされた事でパチュリーがジト目で突っ込みを入れると、レミリアは冗談だと返す。
そして、
「全く、余り冗談には聞こえなかったわよ。レミィ」
「あら、酷いわパチェ。私が貴女に無理を強いる様な女に見えて?」
「……偶に無茶振りされる事は在るわね。何でもかんでも出来るって訳でも無いのよ、私」
「あら、それでも大体の事は出来るわよね。パチェは。流石ね」
「褒めても何も出ないわよ」
パチュリーとレミリアが一寸したふざけ合いの様な会話を交わしていると、
「ねぇねぇ、お姉様」
フランドールがレミリアに話し掛けて来た。
話し掛けて来たフランドールに気付いたレミリアはパチュリーとの会話を中断し、
「何かしら、フラン?」
フランドールに話したい事を話す様に促す。
促されたフランドールは、
「私も色々と見て回って来ても良い?」
自分も色々と見て回っても良いかと聞く。
「そうね……」
宴会場内をフランドールが動き回る事に対してレミリアは少し思案したが、
「……良いわ。余り迷惑を掛けない様にね」
多分大丈夫だろうと言う事でフランドールに一人で宴会場内を動き回る事を許可した。
許可を出された事で、
「やった!!」
フランドールは嬉しそうな表情を浮かべ、宴会場内に繰り出して行く。
宴会場内に繰り出したフランドールを見届けた後、
「宜しいんですか?」
宜しいのかと言う声を小悪魔はレミリアに掛けた。
それだけで小悪魔が何を言いたいのかをレミリアは理解し、
「大丈夫よ。紅魔館を廃墟とする程に暴れてからと言うもの、フランはかなり落ち着いて来た。力加減が上手く出来ないと言う心配は在るけど、霊児が
フランのリストバンドにフランの力を押さえ込む術式を入れてくれたしね。リストバンドを外さない限り本来の力は発揮出来ないのでしょう?」
フランドールに関して心配無いと良いと言う事を小悪魔に伝え、霊児の方に顔を向ける。
顔を向けられた霊児は、
「ああ、俺の血を使って術式を入れたからな。リストバンドを外さない限りは問題は無い」
自信満々と言った感じでフランドールがリストバンドを外さない限り問題無いと断言したが、
「いえ、そうではなくてですね。宴会と言う場所では当然、お酒が入ります。私が心配しているのはお酒が入り、酔っ払った妹様が能力を乱発させないかと
言う事何ですが……」
心配しているのは力加減ではなく能力の方だと言う事を小悪魔が口にした瞬間、レミリアは動きを止めてしまった。
フランドールの能力は"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"だ。
これが乱用され様なものなら、とんでも無い被害が出る事になる。
一応、レミリア達は宴会に招待された側。
その招待された側の者が宴会の場で、それも当主の妹が大きな被害を出したのなれば面子などが丸潰れだ。
序に言えば、レミリアはある種の警告を霊児から受けている。
だからか、
「……咲夜、頼めるかしら?」
レミリアは咲夜にフランドールを見て置く様に指示を出す。
指示を出された咲夜は文句の一つも言わず、
「畏まりました」
了承したと言う返事をしながら頭を下げ、フランドールの後を追って行った。
咲夜に任せれば大丈夫だろうと判断したレミリアは一息吐き、
「そうそう、紅魔館からはワインと上質な肉を持って来たわ。もう宴会場内に出回っている筈だから、見掛けたら飲み食いしてみると良いわ」
紅魔館から持って来た物を霊児に伝える。
肉は兎も角、ワインは余り飲む機会が無いからか、
「ワインに肉か……」
楽しみだと言う表情を霊児は浮かべ、レミリアとパチュリーと小悪魔の三人と雑談を交わしていった。
レミリア、パチュリー、小悪魔と雑談を交わし、それが一段落着くと霊児は三人と別れて宴会場内を歩き回っていた。
取り敢えず、適当に飲み食いでもし様かと言う事を霊児が思い始めた辺りで、
「冬が何だー!!」
「そうだそうだー!!」
既に出来上がっている秋姉妹の姿が霊児の目に映る。
他の面々は顔が多少赤らんでいる程度であるが、秋姉妹は真っ赤と言っても良い程に顔が赤らんでいた。
何故あそこまで酔っているんだと言う疑問を抱いた瞬間、ある可能性が霊児の頭に浮かんだ。
浮かんだ可能性と言うのは、自棄酒宜しくと言った感じ周りのペースを大きく上回る形で酒を飲んだと言うもの。
静葉と穣子は秋の神様だ。
秋の神様であるからか、静葉と穣子は秋とそれ以外の季節ではテンションが大きく異なる。
特に、冬に成った時の秋姉妹のテンションはかなり低い。
そんな風に落ち込んだテンションを上げ、冬に対する苛立ちを解消する為に酒を大量に飲んだ。
そう考えたのなら、秋姉妹の酔っ払い具合にも納得がいく。
それは兎も角、酔っ払いの相手は勘弁と言わんばかりに霊児は秋姉妹から離れ様としたが、
「霊児さん!!」
「霊児!!」
離れ切る前に静葉と穣子が霊児の存在に気付いた様で、二柱は霊児に近付いて行った。
そして、
「霊児さんも秋こそ至高の季節だと思いますよね!?」
「そうだよね、霊児!?」
静葉と穣子は秋こそ至高の季節だろうと言いながら霊児に詰め寄り、秋こそ至高と言う部分に同意を求めようとする。
ここで下手な事を言えば面倒な事態に成るのは火を見るより明らかなので、
「ああ、そうだな」
霊児は適当に話を合わせる事にした。
すると、
「ですよね、ですよね!!」
「だよね、だよね!!」
静葉と穣子の機嫌が目に見えて良くなっていく。
やはりと言うべきか、秋を褒め称える様な発言をして置けば秋姉妹の機嫌は取れる様だ。
ならば、ここで更に煽てて上手い事自分から興味を逸らさせ様と言う計画を霊児は立て、
「ああ、秋と比べたら他の季節など霞んでしまうさ。で、だ。秋の神様であるお前達にはもっと美味い飯を食べて美味い酒を飲んで欲しいからな。
あっちの方に美味い飯と酒が在るぞ」
即座に立てた計画を実行し、適当な方向に指をさして秋姉妹を追いやろうとする。
宴会と言う場で酒が入り、おまけに煽てられて気分が良い静葉と穣子の二柱は、
「つまり、私達秋の神への貢物と言う訳ね」
「ならば、受け取らない訳にはいかないわね」
何の疑いも持つ事無く、霊児が指をさした方へと向かって行った。
上手く秋姉妹を別の場所に誘導する事が出来た霊児は助かったと言った表情を浮かべ、秋姉妹が向かって行った場所とは正反対の方向に体を向けて足を進め始める。
少し進むとお節料理が乗った皿を見付けたので、腰を落ち着かせてお節料理を食べ始め様とした時、
「お……」
天照大神が天香香背男命に勝ったのを霊児は感じ取った。
これで、霊児はもう天香香背男命に干渉する必要は無くなったのだが、
「思っていたよりも時間が掛かったな……」
干渉を止める前に天照大神が天香香背男命を倒すまでに思っていた以上に時間が掛かったと言う事を呟く。
天香香背男命に対する縛りが弱かったのか、それとも何時も縛っていたせいで天香香背男命の実力が上がったのか。
前者なら兎も角、後者なら次の博麗が儀式をした時に天照大神を勝たせられなくなる可能性が出て来る。
まぁ、その場合は自分の霊力を使い切る勢いで天照大神をサポートせよと言う様な文章を書物か巻物に残して置けば良いだろうと霊児は考えた。
博麗に選ばれる者ならそれ相応の霊力を保持している筈であろうし。
仮に霊力の総量が少なかったとしても、何かしらの能力が突出している可能性は十分に在るのでそれを活かす様な事も書き残して置けば良い。
只の人間に博麗は勤まりはしないのだから。
「……って、何で俺は何十年も先の事を心配してるんだ? 来年の事を言うと鬼が笑うって言うが……何十年も先の事を言ったら鬼が笑う処じゃないな」
らしくない事を考えていたから、霊児は苦笑しながら天香香背男命の干渉を止めてお節料理を口に運び、
「うん、美味い」
美味いと言う感想を漏らしたタイミングで、
「お、盛り上がってますねー。良い事です」
「それにしても、毎年毎年天魔様主催の新年会を抜け出して来てしまってますが……良いんでしょうかね?」
文と椛がやって来た。
二人がやって来た事に気付いた霊児は文と椛の方に顔を向け、
「何だ、今年も来たのか」
今年も来たのかと言う言葉を掛ける。
掛けられた言葉に、
「そりゃもう!! この通りお酒とお節料理も持って来ましたよ!!」
文は元気な声で肯定の返事をし、持って来たお節料理を霊児に見せた。
因みに、椛は酒を霊児に見せている。
どうやら、二人で協力してお節料理と酒を持って来た様だ。
天狗である文と椛が持って来たお節料理と酒となれば、椛が言っていた天魔主催の新年会で出された物であろう。
となれば、今食べているお節料理とはまた違った味付けのお節料理を食べる事が出来るし天狗の酒を飲む事が出来る。
文と椛が持って来たお節料理と酒が楽しみだと言った事を霊児が思っている間に、
「それはそうと、霊児さん。大天狗様から霊児さんに言伝を預かっています」
大天狗から霊児に言伝を預かっていると言う発言が椛の口から発せられた。
「大天狗から?」
「はい。明けましてめでとう、今年もよろしくとの事です」
大天狗の言伝に少し興味を抱いた霊児が椛の方に顔を向けると、椛は大天狗の言葉をその儘霊児に伝える。
伝えられた内容は大天狗らしい簡潔なものであったからか、霊児は軽い笑みを浮かべ、
「分かった。明けましておめでとう、こちらこそよろしくと返して置いてくれ」
大天狗に明けましておめでとう、こちらこそよろしくと返して置いてくれと言う。
「分かりました。大天狗様にそう伝えて置きます」
返された発言を大天狗に伝えて置く事を椛が約束した時、
「大天狗様も椛に言伝を頼まずに、天魔様主催の新年会を抜け出して直接言えば良いのに」
態々言伝を頼まずに、大天狗もこっちに来て直接言えば良いのにと文は呟く。
そんな文の呟きに反応した椛は、
「私達の様な白狼天狗と烏天狗が天魔様主催の新年会を抜け出すのは兎も角……いえ、兎も角と言っても良いのかとは思いますが……。まぁ、それはそれとして。
天魔様直属の部下である大天狗様が天魔様主催の新年会を抜け出すのは非常に無理があるでしょう」
少し呆れた顔で突っ込みを入れる。
入れられた突っ込みに、
「あー……それもそうか。他の大天狗様ならまだ何とかなったかも知れないけど、私等の所の大天狗様は知名度が高いし」
自分達の所の大天狗は知名度が高いので、天魔主催の新年会を抜け出すのは無理が在るかと文は納得した表情でそう漏らす。
文と椛の発言を聞き、
「何だ、あいつってそんなに有名なのか?」
二人の直属の上司である大天狗はそんなに有名なのかと問うと、
「それはもう。全員で十数人に居る大天狗様達の中で一番の武闘派で思慮深いと言うのもありますが、大天狗様達の中で直接的な戦闘力が一番高いですからね。
知と武の両方を高いレベルで備えていますから、私達の所の大天狗様は天狗達の中でもかなり評価されているのです」
「序と言う事になりますが、私達の所の大天狗様は天魔様に匹敵する程の戦闘力を備えていると言われてますからね。それも評価を上げる要因となってます」
二人から自分達の所の大天狗が有名である理由などを話し、
「尤も、私も椛も天魔様と大天狗様が本気で戦われているお姿を見た事は無いんですけどね」
自分も椛も天魔と大天狗が本気で戦っている見た事が無いと言う補足を文が行なう。
文と椛の直属の上司である大天狗の事を少し知れた霊児は、前に大天狗と戦った時の事を思い出す。
あの時は試合と言う形と取っていた為、戦いはそこまで激化しなかった。
が、もしも試合形式で無かったら。
かなり高い確率で、戦いが激化していた事であろう。
異変などが起きたと言う訳でも無いのに、強い相手と戦うと言うのは霊児としては面倒臭い事この上無い。
今後、妖怪の山で異変が起きる事が無ければ良いなと言う願望を霊児が抱き始めた時、
「そんな大天狗様の部下であると言うのに、何で貴女は好い加減何ですか?」
椛が文に嫌味の様なものをぶつけていた。
ぶつけられた嫌味に反応した文は口元を引くつかせ、
「あら、貴女の様な頭の固い頑固者よりはマシだと思うけど?」
椛と同じ様に文も嫌味の様なものをぶつける。
それを皮切りしたかの様に、
「頭が固い者と好い加減な者。一体、どちらが信用されるでしょうね?」
「そうね、頭が固くて教科書通りの事しか出来ない者より柔軟な思考が出来る者の方が信用されるんじないかしら?」
「柔軟な思考が出来る者が好い加減だと、信用はされないでしょう。何たって、好い加減何ですから」
「好い加減好い加減って、私は仕事をちゃんとしてるわよ」
「ええ、知ってますよ。程好く仕事に手を抜いてる事も」
「そりゃ、ボケーッっと侵入者が来るか来ないかを見張っている貴女と忙しい私とじゃねぇ。適度に休憩を入れないとモチベーションが持たないのよ」
「……忙しい? 貴女の場合は仕事じゃなくて新聞のネタ集めでしょうに。大して購読者数の居ない新聞の」
「……何ですって?」
「事実でしょうに」
「……ええ、事実ね。只ボケーッと見張っているだけの貴女の仕事の楽さは」
「……言ってくれますね」
椛と文は口喧嘩を始め出した。
宴会の席だと言うのに口喧嘩をし出したからか、
「酒の席で位、仲良くしろよお前等」
少しは仲良くしろと言い、溜息を一つ吐く。
同時に、酒が入れば確実に文と椛が自分に絡んで来る事が予想出来た為、
「………………………………………………………………」
絡まれる前に今居る場所から離れる事を決め、霊児はそっと立ち上がる。
幸いと言って良いかは分からないが、文と椛は口喧嘩に夢中で霊児が立ち上がった事に気付いてはいない。
だからか、霊児は何の邪魔も無く文と椛の傍から離れる事が出来た。
やって来て早々に文と椛が口喧嘩を始めた事から、天狗の方の新年会で酒を幾らか飲んで来たのだろうと言う推察を霊児がしていると、
「「霊児」」
自身の名を呼ぶ声が霊児の耳に入って来たので、霊児は推察を止めて声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目に、
「アリス、幽香」
アリスと幽香の姿が映った。
どうやら、霊児に声を掛けて来たのはアリスと幽香の二人であった様だ。
取り敢えず、声を掛けて来た二人に近付くと仲良く酒を飲んでいた事が分かったので、
「珍しいな。お前等が二人揃って酒を飲んでる何て」
お前等二人が揃って酒を飲んでいる何て珍しいなと言う声を掛け、二人に近付いて行く。
「そうかしら?」
「会えば話しをしたりする仲ではあるわよ」
掛けられた声にアリスは首を傾げたが、幽香は会えば話しをする仲だと言いながら酒を飲み、
「それにしても、ここの新年会に参加するメンバーも結構増えたわね」
博麗神社の新年会に参加するメンバーも増えたと漏らし、周囲を見渡す。
増えたのは、主に紅魔館の面々ではあるが。
「まぁ、今年……って言うか去年か。レミリアが異変を起こした事で紅魔館の面々とも係わりが出来たからなぁ」
参加メンバーが増えた理由を霊児は漏らしながら腰を落ち着かせ、酒を飲む。
異変が起きた事で宴会に参加するメンバーが増えたと言う部分を聞き、
「あら、それなら来年も新年会に参加するメンバーが増えるのかしら?」
来年も博麗神社の新年会に参加するメンバーが増えるのではと言う予想をアリスは立てる。
「それって今年も異変が起きるって事か? 勘弁してくれ。俺はのんびりと過ごしたいんだからよ」
「でも、何か事が起こったら解決の為に動くんでしょ?」
アリスが経てた予想に自分はのんびりと過ごしたいのにと霊児が返すと、異変が起きたら解決の為に動くのだろうとアリスが口にした瞬間、
「そりゃな。俺は今代の博麗、七十七代目博麗だからな」
間髪入れずに霊児は肯定の返事をした。
のんびり、ダラダラとした生活を好んでいる癖に幻想郷に対する問題にだけは比較的真面目に取り組むなと言う感想をアリスが霊児に抱いた刹那、
「なら、今年も異変解決の為に動く事になりそうね」
今年も霊児は異変解決に動く事になりそうだと言う事を幽香は口にし、からかいの視線を霊児に向ける。
「今年も? 何でまた?」
「だって貴方、あそこの吸血鬼……レミリア・スカーレットが起した異変を弾幕ごっこで解決したでしょ」
まるで予言の様な言葉を発した幽香に霊児が何でだと言う疑問をぶつけると、幽香はレミリアが起こした異変の話題を出す。
レミリアが起こした異変。
端的に言えば、幻想郷中に紅い霧を充満させると言うもの。
と言っても、幽香が話題に出したのはこの部分ではなく異変の解決方法。
幽香の言う通り、レミリアが起こした異変は弾幕ごっこで解決された。
故に、
「ああ、そうだ」
否定する言葉を述べる事無く、霊児はそうだと言う返事をする。
そうだと言う返事が霊児から返って来たからか、解っているじゃないかと言う表情を幽香は浮かべ、
「弾幕ごっこは遊び。そして、その遊びで貴方は異変を解決した。天狗の新聞で見たけど、異変解決の道中で現れた邪魔者も全て弾幕ごっこで撃退した
そうじゃない。少し話が逸れたけど、異変=遊びと言う認識が幻想郷に広まっていても可笑しくはないわよ」
異変=遊びと言う認識が幻想郷に広まっていても可笑しくはないと言う発言を発した。
幽香から発せられた発言を頭に入れた霊児は、ある答えを導き出したが、
「……つまり?」
頭に入れ、導き出した答えが外れてくれと言った表情を浮べて幽香に答えを話す様に促す。
すると、見る者全てを魅了するかの様な笑みを幽香は浮かべ、
「もう、解ってる癖に。異変を遊び感覚で起こす輩が現れるかもしれないって事よ」
異変を遊び感覚で起こす者が現れるかもしれないと答えた。
霊児が導き出した答えと幽香の答えは一致していた為、
「……はぁ」
霊児はやっぱりかと言う想い籠めて溜息を一つ吐く。
妖怪全体の活気が無くなり掛けているので何とかならないかと言う相談を、霊児は大天狗から受けた
幻想郷に取って、妖怪の活気が無くなると言うのは人妖のバランスが崩れる言っている様なもの。
そのバランス崩壊を避ける為に生まれたのがスペルカードルール、通称弾幕ごっこである。
気軽に出来る戦いごっこと言う触れ込みで弾幕ごっこは広められたが、最初の頃は大して普及してはいなかった。
だが、レミリアが起こした異変を弾幕ごっこで解決してから一変。
幻想郷中に弾幕ごっこが爆発的な勢いで普及したのだ。
まぁ、その普及には文が幻想郷中にばら撒いた"文々。新聞"も一役担っているが。
兎も角、弾幕ごっこが普及した事で妖怪全体の活気が無くなると言う事態は避けられた。
が、弾幕ごっこと言う遊びで異変を解決した為に異変を起こし易くさせてしまったのである。
多少の事は遊びで済ませられると言う前例を霊児自ら作ってしまったので、異変を起こし易くさせてしまったのはある意味霊児の自業自得。
弾幕ごっこが普及した事は幻想郷に取ってはプラスであるが、霊児個人としてはマイナス。
博麗としては喜ぶべきなのだが、霊児個人としては嘆くところ。
それ故に何とも言えない表情を浮べた霊児に同情したからか、
「ま、頑張りなさい」
「異変が起こったら、お酒位は奢って上げるわ」
幽香とアリスは慰めの言葉を掛けながら霊児の肩に手を置き、
「私が持って来た焼き魚を上げるから、何時までも辛気臭い顔をしてないの」
「ほら、持って来たお節料理を上げるから元気出しなさい」
自分が持って来た物を食べて元気を出せと言う言葉を掛けた。
アリスと幽香に慰められる形で酒を飲み、お節料理と焼き魚を食べ始めてから幾ら経った頃。
霊児は二人と別れて適当に宴会場内を見て回っていた。
酒を飲み、お節料理を食べて雑談を交わすと言った感じで自由気儘に宴会を楽しんでいる霊児に、
「だーれだ?」
何者かが声を掛け、自身の手で霊児の視界を塞ぐ。
掛けられた声から、
「……神綺か」
自分の視界を塞いだ者を神綺であると霊児は断定した。
すると、
「あーん、そこは『えー、分かんないなー?』って言う場面じゃないのー?」
返って来た言葉が不満だと言いながら霊児に声を掛けて来た者は霊児から手を離す。
今の言動から目隠しをして来た者は神綺であると霊児は確信しながら振り返り、
「てか、お前も来てたんだな」
神綺も来ていた事に驚いたと言った表情を浮べると、
「ええ、この前貴方に会った時に貴方が人間だと言う事を思い出したからね。だから頻繁に会いに来ようと思って」
少し前に霊児に会った時、霊児が人間である事を思い出したので頻繁に会いに来ようと思ったのだと言う事を口にする。
霊児が神綺と前に会ったのは夏であったので、頻繁に会いに来ようと思ったと言う神綺の発言に霊児は疑問を抱いてしまう。
が、霊児は直ぐにある事を思い出した。
思い出した事と言うのは、神綺が魔界の創造神である事。
魔界の創造神である以上、神綺は魔界を創った以前から存在している。
まぁ、当然と言えば当然だが。
兎も角、創造神である神綺は不老不死と言っても良い様な存在である。
序に言えば、霊児とは比べ物にならない程の時を生きているのだ。
そんな存在に取って、夏の次に冬に会いに来ると言うのは頻繁に会うと言う事になるであろう。
ならば、頻繁に会いに来ようと思ったと言う神綺の発言に不思議は無いなと霊児は考え直し、
「てか、今失礼な事を言ったよな。俺の事を人間だと言う事を思い出したって」
話を変えるかの様に自分の事を人間以外の存在の様に思っていた神綺に突っ込みを入れる。
入れられた突っ込みに、
「あら、幼少期の頃でも創造神である私とある程度まともにやり合えたって言う時点で……ねぇ。おまけに勝ちを拾ったし」
神綺は下唇に人差し指を当て、幼少期の頃でもある程度自分とまともにやり合え勝った霊児の事を人間と称して良いのかと言う疑問を述べた時、
「まぁまぁ、お二方」
場の空気が悪くなる前に夢子が間に入り、お酒とお節料理を二人に差し出した。
神綺だけではなく夢子も来ていた事に霊児は少し驚きつつ、
「お前も来てたのか」
お前も来ていたのかと声を掛ける。
「ええ、神綺様のお目付け役と言った感じで」
「お目付け役?」
掛けられた声に反応した夢子は神綺のお目付け役で来た事を話すと、霊児は疑問気な表情を浮べたので、
「……この人、自分が主催した新年会をほっぽり出してこちらに来たもので」
神綺が自分で主催した新年会をほっぽり出してここに来た事を話し、夢子はジト目になりながら神綺に視線を移した。
自分で主催した新年会をほっぽり出して博麗神社の新年会に参加して来たのだ。
ジト目にもなるだろう。
それはそうと、その様な視線を自分の側近とも言える者から向けられている神綺であるが、
「あら、別に良いじゃないー」
向けられている視線何て気にしないと言った感じで、神綺はお節料理を頬張っていく。
何とも自由奔放な神綺に、霊児と夢子が呆れた感情を抱いた時、
「見ー付けた」
また何者かが現れ、神綺に声を掛ける。
声を掛けられた神綺は口の中に入れていたお節料理を呑み込んで声が聞こえて来た方に顔を向け、
「あら、幻月じゃない」
自分に声を掛けて来た者が幻月である事を理解した。
どうやら、神綺だけではなく幻月も来ていた様だ。
魔界の創造神と夢幻世界の創造神が一箇所に揃うのも珍しい光景だなと言う感想を霊児が抱いている間に、
「こうやって顔を合わせるのは……数百年振りかしらね?」
「そうね……数百年振りで合ってると思うわ。幻月」
「それにしても、数百年前と変わってないわね」
「そりゃ、高々数百年だもの。変わる程の年月でも無いでしょ」
「それもそうか」
幻月と神綺は軽い会話を交わしていく。
やはりと言うべきか、神綺や幻月の様な創造神に取って数百年と言う年月は大したものでは無い様だ。
暫しの間、神綺と幻月は親交を深め合っていたが、
「……っと、そう言えば貴女がこっちに来たのって私と顔を合わせる為?」
唐突に会話を中断させ、自分と会う為にここにやって来たのかと神綺は幻月に問う。
問われた幻月は、
「それもあるけど……」
一応そうだと言いながら霊児の方に顔を向け、
「前に戦って決着が着かなかった霊児の様子を見に来たの」
以前戦って決着が着かなかった霊児の様子を見に来たのだと語った。
「あら、貴女も霊児と戦ったの?」
「ええ。でも、驚いたわ。私と対等に戦える人間が居たなんて」
幻月も霊児と戦っていた事に神綺が驚くと、幻月は霊児の強さを賞賛する言葉を述べる。
幻月の発言からつい最近霊児と幻月が戦った事に神綺は感付き、
「へぇ……」
視線を霊児の方に移し、
「最近一寸運動不足だったし、久しぶりに私とも戦って貰おうかしら?」
何やら物騒な事を口にし出した。
運動不足を解消させる程度の理由で神綺の様な者と戦う気は霊児には無いので、
「勘弁してくれ」
戦う気は無いと言う主張を行なう。
「あら、酷い。女性の誘いを断る何て、男として失格よ」
自分と戦う事を拒否した霊児に神綺は不満をぶつけるも、
「……っと、そうだ」
ふと何かを思い出したかの様な表情を浮かべ、自身の掌の上に酒瓶を出現させ、
「手ぶらで参加するのもあれだからね。魔界のお酒を上げるわ」
出現させた酒瓶を霊児に手渡す。
それを見た幻月は、自分も言った感じで掌から酒瓶を現し、
「はい、私からは夢幻世界産のお酒を上げるわ」
夢幻世界産の酒瓶を霊児に手渡した。
魔界産の酒と夢幻世界産の酒など、幻想郷では滅多に手に入る物では無い。
だからか、
「お、サンキュ」
霊児は笑顔で酒を受け取り、受け取った酒を飲み始める。
そして、霊児が二人から貰った酒を飲み干した辺りで、
「そう言えば、神綺がこっちに来たのって霊児への顔見せ?」
博麗神社にやって来たのは霊児への顔見せの為かと幻月は神綺に聞く。
聞かれた神綺は、
「それもあるけど……」
肯定の返事をしながら霊児の方に顔を向け、
「若い燕に唾でも付けと置こうかと思って……ね」
妖艶な笑みを浮かべながらそんな事を言い出した。
その瞬間、
「駄目だー!!」
「うお!?」
駄目だと言う声と共に魔理沙が正面から霊児に抱き付き、
「霊児は私のだー!!!! そして私は霊児の女だー!!!!」
霊児は自分ので自分は霊児の女だと言う主張を少々呂律が回らない口調でし出す。
魔理沙の主張は兎も角、抱き付いて来た魔理沙を抱き止めた霊児はある事に気付く。
気付いた事と言うのは、魔理沙の顔が結構赤く酒臭いと言う事。
昔ならいざ知らず、今の魔理沙は結構酒に強い。
少なくとも、一回の宴会位で奇行に走ったり呂律が回らない程に酔う事は無い筈だ。
ここまで魔理沙が酔っ払った原因に付いて霊児が考え様とした刹那、
「霊児。私、千年以上も独り身だったからさ……そろそろ誰かと一緒になろうと思ってたのよ!!」
「霊児と私は盟友だよねー!! だからさ、一緒になろうよー!!」
「霊児さん霊児さん、私と一緒に天狗ライフを楽しみませんか!?」
「霊児さん、あんな駄目天狗のよりも私と一緒に過ごしましょう!!」
「人間の貴方にボロ負けした事で私のプライドはズタボロ!! だから責任を取りなさい!!」
やたらと高いテンションで妹紅、にとり、文、椛、夢月の五人が魔理沙と同じ様な事を言いながら霊児に抱き付いて来た。
しかも全員が全員、魔理沙と同じ様に顔が赤いし酒臭かった。
夢月はどうか知らないが、他の面々は皆酒に強い。
特に、天狗である文と椛の酒の強さは屈指のものだ。
そんな文と椛まで思いっ切り酔っ払っている事に疑問を抱いたタイミングで、
「……ん?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべている神綺と幻月の姿が霊児の目に映る。
この事から、神綺と幻月が何かを仕組んだのかと霊児は判断し、
「何をした?」
何をしたのかを問う。
問われた神綺と幻月はしてやったりと言う様な表情を浮かべ、
「あら、何もしてないわよ」
「只……」
先程霊児に手渡した酒瓶と同じ酒瓶を自身の掌に上に出現させ、
「「一寸強いお酒をばら撒いただけよ」」
事前に打ち合わせをしていたかの様に、全く同じタイミングで一寸強い酒をばら撒いたと言う事を口にした。
一寸強い酒と二人は口にしたが、文と椛までもが完全に酔っ払っているのだ。
実際は相当強い酒なのだろう。
面倒な事をしてくれたこの二人に何か言ってやろうと霊児が頭を回転させている間に、
「何人か完全に酔っ払ったから一寸焚き付ければ面白い事になるとは思ったけど……」
「これは予想以上ね。抱き付いている者の中に夢月ちゃんが居た事に関しては一寸予想外だったけど。私の妹を誑かす何て……よっ、色男」
神綺と幻月はからかいの言葉を掛け始める。
余計な茶々を入れられた事で霊児の頭の回転が止まってしまったが、止まった事で聞きたい事が頭に浮かんだので、
「てかお前等、何時の間にこんな事を仕出かしたんだ?」
浮かんだ事を霊児はその儘伝えた。
すると、
「それは勿論、貴方が気付かない内によ」
「私達は創造神よ。物の転移などは赤子の手を捻るが如くよ。まぁ、私達と同レベルの霊児には気付かれる可能性が在ったから転移させる時はかなり慎重に
やったのよ。神綺と協力してね。その他、細かいところは念話での打ち合わせ」
得意気な表情でそう言った神綺と幻月の顔を見た霊児がイラッとしたものの、
「……となると、さっきの久し振りに会ったって言う会話からの全てがブラフか」
先程、二人が交わし始めた会話からの全てがブラフであった事を理解する。
「正解。貴方の予想通り、会話から後の全てはブラフよ」
「今の今まで気付かれなったところを見るに、慎重にやって正解だったわね」
先の会話がブラフである事を神綺と幻月が肯定したタイミングで、
「モテモテだねー、霊児」
良い感じで酔っ払っている魅魔が霊児に絡んで来た。
また余計な奴がやって来たと思いながら霊児が魅魔の方に顔を向けた瞬間、
「何で酔っ払った位でこんな状況になってるか分からないって顔をしてるね。理由……教えて上げ様か?」
魔理沙、妹紅、にとり、文、椛、夢月と言った面々が告白紛いの言葉を口にしながら霊児に抱き付いた理由を教え様かと呟く。
霊児ともしても、どうしてこんな状況になったのかを知りたいからか、
「分かるのか?」
「勿論」
確認を取るかの様に分かるのかと尋ねると、魅魔は自信満々言った感じで勿論だと漏らし、
「それは霊児が強いからさ」
霊児が強いからとだと述べる。
「俺が強いから?」
述べられた理由を耳に入れても今一良く分からないと言った表情を霊児が浮べた為、
「そ。女って言う生き物は強い男に惹かれるものなのさ。野生に生きる獣を見てみな。野生に生きる雌は皆、強い雄の子を生そうとするだろ。それと同じ理由さ」
どうして霊児が強い事でこうなったのかを魅魔は解り易く説明していく。
説明された内容を一通り頭に入れた霊児は、
「つまり?」
纏めるとどうなるのかを話す様に促す。
促された魅魔は一息吐き、
「完全に酔っ払って理性と言う枷が殆ど外れている連中……要するにあんたに抱き付いてる連中だね。あんたに抱き付いている女……つまり雌は本能的に強い男……
雄であるあんた……霊児を求めているのさ」
説明した内容をもう少し解り易く説明した。
同時に、誰にも聞こえない声量でそんな理由も無く純粋にあんたの事を好いて愛しているのが最低でも一人は居るけどねと零し、
「ま、酔い潰れている連中が起きてたらあんたに抱きつく女の数は増えていただろうけどね」
場の雰囲気を変えるかの様に、茶化す様な声色で酔い潰れている連中は起きていたら霊児に抱き付く者は増えていただろうと言う。
そう言われた事で、霊児が酔い潰れている面々を確認する為に顔を動かそうとした時、
「それより、天狗も完全に酔っ払う様な酒を飲んでも全然平気って……あんた、ほんとに人間かい? 寧ろ、種族博麗霊児だったりするんじゃないかい?」
天狗でさえも完全に酔っ払う様な酒を飲んでも全然平気な霊児は本当に人間なのかと言う疑問を魅魔が漏らした事で、
「失敬な。俺は純度100%の人間だ」
霊児は顔を動かすのを止め、自分は純度100%の人間である事を主張する。
魅魔と霊児が人間かどうかと言う言い争いを始めた辺りで、
「てっきり、アリスちゃんもあんな感じに成ると思ったんだけどねぇ……」
アリスも霊児に抱き付いている者と同じ様に成ると思っていたと神綺は呟く。
呟かれた発言を聞いたアリスはシレッとした表情で、
「酒は飲んでも呑まれるなと言いますし」
酒に呑まれる様な真似はしないと口にし、酒を一口飲む。
アリスが口にした事から察するに、アリスは他の面々と違って程好く酒を飲んでいた様だ。
アリスの意外な一面を見れずに不満気と言った感じの神綺であったが、
「私は夢月ちゃんの意外な一面を見れて満足だけどねー」
同じ創造神である幻月は妹である夢月の意外な一面を見れて満足と言った表情を浮べていた。
身近な者の意外な一面が見たい、見れたと言った発言が飛び交っていたからか、
「咲夜もあれ位酔ったらあの中に入っていたのかしら?」
従者を持つ身であるレミリアは、神綺と幻月が話している内容に乗っかる様な言葉を零して咲夜の方に顔を向ける。
レミリアに顔を向けられた咲夜は顔色一つ変えず、
「さぁ、それはどうでしょう?」
クールな返答を返した。
完全で瀟洒な従者に取って、この程度で心乱す事など有り得ない様だ。
ちっとも動揺しなかった咲夜が不満であったからか、
「パチェだったら、どうなってかしら?」
レミリアはパチュリーに、パチュリーならどうなっていたかと声を掛ける。
が、
「さぁ、どうかしらね?」
パチュリーも咲夜と同じ様な反応を返した為、
「うー……」
不満気な表情をレミリアは浮べてしまった。
レミリアとしては、狼狽えたり顔を赤らめたりと言った反応を見せるのを期待していた様だ。
周囲で完全に酔っ払っていたら霊児に抱き付いている者の様に成ったのかと言う会話が交わされている間にも、会話に乗っかっていない面々は酒を飲んでいく。
どうやら、今の霊児を肴に酒を飲んでいる様だ。
こっちは纏わり付いている奴等をどうにかする為に頭を捻っていると言うのに呑気なものだと霊児が思っていると、
「それで、どうするの?」
どうするのかと言う言葉が幽香から掛けられた。
掛けられた言葉に疑問を抱いた霊児は幽香の方に顔を向け、
「どうするって……何をだ?」
どういう事だと言う問いを投げ掛ける。
「そんなに求められてるんだから応えて上げればって事よ。言うでしょ、据え膳食わぬは男の恥って」
投げ掛けられた問いに、求められているのだから応えて上げたらどうだと幽香が言った瞬間、
「そうだそうだー!!」
魅魔からも応えろと言う声が上がって来た。
態々こう言う話題を出したり乗ったりしている辺り、幽香も魅魔も少々悪い酔い方をしている様だ。
それはさて置き、据え膳食わぬは男の恥と言う言葉の意味が分からなかったからか、
「ねーねーお姉様、据え膳食わぬは男の恥ってどう言う意味?」
フランドールはレミリアに言葉の意味を尋ねる。
「……フラン、貴女にはまだ早いわ」
尋ねられたレミリアは一瞬言葉を詰まらせたものの、取り敢えずまだ早いと言う言葉で濁そうとしたが、
「えー、教えてよー」
フランドールが駄々を捏ねる様に教えて欲しいと主張した為、
「……パチェに聞きなさい」
妥協案と言う事でパチュリーに聞けと言う事にした。
突然話題を振られたパチュリーは少し慌てた動作でレミリアの方に顔を向け、
「ちょ!! それは姉である貴女の役目じゃないの、レミィ!?」
その言葉の意味を教えるのは姉であるレミリアの役目だろうと反論する。
幽香の余計な発言で場が混沌とし始めた事で、この状況を何とかし様と霊児は頭を悩ませていったが、
「ほらほら、ここで手を出さないと男じゃ無いわよー」
何か良い案が出る前に、幻月が何らかの起爆剤となる様な発言を投下して来た。
色恋や情愛と言ったものは良い肴になるからか、場の混沌が幾らか収まっていく。
混沌とした場が収まるのは霊児としては歓迎なのだが、
「………………………………………………」
幻月が投下した発言に下手な言葉を返せば、確実に場は今までよりも混沌としたものになるであろう。
だからか、霊児は上手く場を収める為に考えを廻らせているのだが、
「ほらほらー、空いている部屋の一つや二つは在るでしょ? 酔っ払ってるんだから甘い言葉の一つでも掛ければその儘お手付きが可能よー」
幻月に続く様に神綺も起爆剤となる様な発言を投下してくれたので、
「酔っ払ってる奴にそう言う事って何か違うだろ。と言うか、俺の趣味じゃない」
考えを廻らせるのを一旦中断し、酔っている相手にそう言った事をする気は無いと断言する。
「あら、意外。霊児もお年頃だから、てっきり欲望の儘に行くと思ったのに。結構紳士なのね。私と戦った時は容赦の無い攻撃を繰り出して来たって言うのに」
「霊児がもう少し年を取っていれば、欲望の赴く儘にって言う状態になってたかもね」
意外と紳士的な対応をした霊児に少し驚いた幻月に、魅魔は霊児がもう少し年を取れば欲望の赴く儘にと言う状態になっただろうと言う。
そう言われた幻月は、何か良い事を思い付いたと言った表情を浮かべ、
「成程、それならその時に備えて私が夢月ちゃんの弱点を教えて上げ様かしらね」
霊児がもう少し年取った時の為に備えて夢月の弱点を教えて上げると幻月は口にし、手をワキワキさせながら霊児達へ近付いて行く。
そんな幻月を見て、
「じゃあ、私もアリスちゃんと夢子ちゃんの弱点を教えて上げ様かしら」
自分も霊児にアリスと夢子の弱点を教え様かと神綺は企み出す。
弱点は勿論、弱点以外にも色々と良からぬ事を教えそうだと言う事を感じ取ったからか、
「「神綺様!?」」
アリスと夢子は慌てた動作で神綺を止めに掛かった。
混沌とした状況が改善処か悪化の一途を辿っている事に霊児は腹を立て、
「…………………………………………………………」
上手いこと手首を動かし、自分に抱き付いている者達が射線に入らない様に両手の人差し指を一番煽ってくれた幻月と魅魔の方に向ける。
そして、人差し指の先に霊力を集中させていく。
霊力を集中させているからか、霊児の人差し指の先から青白い光が発せられる。
発せらている光が時間と共に力強く成っていっているからか、
「オーケーオーケー、私達が悪かった」
「だからそれを消そうか」
幻月と魅魔は分が悪いと判断し、謝罪の言葉を述べながら霊力の集中を止める様に頼む。
二人の反応からこれ以上場を混沌とさせる様な発言をする気が無いと言う事を感じられた為、霊児は指先に集めていた霊力を四散させる。
すると、霊児の人差し指から発せられていた青白い光が消失した。
取り敢えず、場がこれ以上混沌とする事は無くなったので霊児は息を一つ吐き、
「どうするかな、こいつ等」
自分に抱き付いている者達をどうするべきかに付いて頭を捻らせていく。
抱き付いている者達は全員が全員、幸せそうな表情を浮べている。
なので、無理矢理引き剥がしたら余計な騒動が発生する可能性はそれなりに高い。
だが、霊児に抱き付いている者達は先程から口数が殆ど無くなっている。
となれば、酔い潰れるのも時間の問題であろう。
ならば、ここは待ちの一手が得策である判断し、
「……こいつ等、早く酔い潰れないかな」
待つ事を決め、早く自分に抱き付いて連中が早く酔い潰れないかと霊児はポツリと呟いた。
余談ではあるが、霊児に抱き付いていた面々は酔っ払っていた時に記憶が無いと言う事が分かった。
仮に覚えていたら、それはそれで騒動の原因に成っていたであろう。
なので、霊児はあの時の出来事は心の中に仕舞って置く事にした。
宴会に参加していた者達に宴会の時の事は他言無用と言う事を厳命しながら。
前話へ 戻る 次話へ