ある晴れた日の昼下がり。
「んー……あと少しかな?」
霊児は七輪を使い、庭で餅を焼いていた。
因みに、焼いている餅は人里で何時もの様に商売をしていた時に老夫婦が料金と一緒に置いていった物である。
餅が安かったので大量に買ったら二人では食べ切れない事に気付き、お裾分けをしていたと言うのが老夫婦の弁。
理由はどうであれ、只で餅を手に入れる事が出来たので霊児としては万々歳。
と言った事があり、霊児はこうして庭で餅を焼いているのだ。
「……さて」
焼いている餅の膨らみ加減からそろそろ食べ頃だと判断した霊児は立ち上がり、
「砂糖醤油でも作るか」
砂糖醤油を作ろうと考え、神社の中に入って砂糖と醤油を持って来ようとする。
そのタイミングで、
「おーい!!」
上空の方から誰かの声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した霊児は神社の中に入ろうとしていたのを中断し、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目には、
「魔理沙」
魔理沙の姿が映った。
霊児が魔理沙の存在を認識したのと同時に、魔理沙は地に足を着け、
「おっす」
霊児に挨拶の言葉を掛ける。
「おう」
掛けられた挨拶の言葉に霊児も挨拶の言葉を返した瞬間、
「これを見てくれよ、霊児」
魔理沙は少し開けた包みを前方へと突き出す。
少し開けた包みの中には、真っ白な色をした茸と金属製の串が沢山入っていた。
「どうしたんだ、これ?」
「ああ、実は……」
茸と金属製の串に付いて問うた霊児に、魔理沙は茸と金属製の串に付いての説明をしていく。
魔法の実験用の茸を探す為に魔理沙は魔法の森を散策していたのだが、雪が大量に積もっているせいか目的の茸は一向に見付けられなかった。
しかし、その代わりと言わんばかりに雪に溶け込む様な色合いをしている茸が沢山見付かったのだ。
仕方が無いので、魔理沙は見付けた茸を持って帰って調べる事にした。
そして、持って返った茸を調べるとある事が分かったのだ。
何が分かったのかと言うと、持って帰って来た茸は魔法の実験には使えないが食用としては非常に優秀な茸であると言う事。
実験用の茸を手に入れる事は出来なかったものの、優秀な食用の茸を手に入れる事が出来たので魔理沙は喜んだものの直ぐにある事に気付く。
気付いた事と言うのは、一人で食べるには茸の数が多過ぎると言う事だ。
なので、霊児と一緒に食べ様と魔理沙は考えて博麗神社にやって来たと言う部分で説明が終わる。
取り敢えず、魔理沙の説明を受けて霊児が納得した表情を浮べた時、
「ほう、餅と茸か。中々に珍しい組み合わせだね」
何の前触れも無く、魅魔が霊児と魔理沙の傍に現れた。
急に魅魔が現れた事で、
「み、魅魔様!? 何時からそこに!?」
驚きの表情を浮べ、魔理沙は魅魔の方に体を向けたが、
「お前、何所から湧いて出た?」
霊児は普段通りと言った感じで魅魔に何所から湧いて出たと言う突っ込みを入れる。
「湧いて出たって……人をボウフラや油虫の様に言わないでくれよ」
湧いて出たと言う表現が不服だという表情を魅魔は浮べつつ、
「魔理沙の所に行こうと思ったら、ここに向かっている魔理沙を見付けてね。折角だから、付けさせて貰ったって訳さ」
博麗神社に向かっている魔理沙を付けて来た事を話す。
「私の事、付けてたんですか。全然気付かなかった……」
「そりゃ、気付かれない様にしてたからね。ま、誰かを付ける際は付けている対象に自分の存在を悟らせ無い様にするのが常道だけど」
魅魔が付けていた事に全く気付けなかった魔理沙に、気付かれない様に付けていたのだから気付かなくても当然だと言い、
「けど、それに気付けてこそだけどね」
それに気付ける様になってこそだと言う言葉で締め括った。
「……やっぱり、魅魔様の背中はまだまだ遠いですね」
改めて魅魔の背中が遠い事を魔理沙が実感している間に、
「それよか、茸は串に刺して焼いといてやるから砂糖醤油を作って来てくれないか? 砂糖と醤油は台所に在るから」
持って来た茸は自分が焼いて置くので、砂糖醤油を作って置いてくれと言う頼みを霊児は魔理沙にする。
霊児に頼み事をされたからか、
「おう、了解したぜ」
魔理沙は満面の笑顔を浮かべながら了承の返事をし、神社の中へ入って行った。
神社の中に入って行った魔理沙を見届けた後、霊児は魔理沙が持って来た茸を金属製の串に刺していく。
そんな霊児を見ながら、
「それにしても、相変わらずこの神社には参拝客が来ないね。大晦日、正月の時もそうだったけど」
相変わらず博麗神社には参拝客が来ないと言う事を魅魔は呟く。
呟かれた内容が耳に入った霊児は、
「そりゃ、人里の連中にはここには来るなって言ってるからな。昔から」
人里に住む者達には昔から博麗神社に来るなと言っていると言う事を口にする。
「何でまた?」
「単純にここと人里の距離が結構離れているからだな」
霊児が口にした事に疑問を抱いた魅魔に、霊児は茸を刺し終えた金属製の串を七輪の網の上に乗っけていきながら来るなと言った理由を教え、
「人里の人間の殆どは空を飛ぶ事が出来無いからな。飛べる奴等にしても長距離……人里からここ、博麗神社まで休み無しで飛べるのは居るかどうかって
話しだ。となると、当然どっかこっかで降りて休憩を取る事になる。そうなったら、そこ等に居る野良妖怪にでも襲われて食われるだけだろ。仮にそれを
上手い事抜けられたとしても、俺の神社に続く石段が在る区域に出て来る妖怪に襲われて食われるのがオチだな。ここ、博麗神社が建ってる山に出て来る
妖怪はそこそこ強い。おまけに現れる時は集団で出て来る事が殆どだ。人里に居る力を持った人間でも一人二人程度なら簡単に倒され、食われる事に成る
だろうな。一応言って置くと、歩きや馬だったら妖怪に襲われる確率が上がるぞ。尤も、人里の守護者ってのが居たら話は別だろけどな。空中から来るの
ににしろ地上から来るのにしろな。噂程度だけど、その守護者ってのはかなり強いってのを聞いた事があるし」
少々長い補足を行い、
「流石に俺の神社に来る途中で食い殺されたってなったら寝覚めが悪いからな」
自分の神社に来る途中で妖怪に食い殺されたとなったら流石に寝覚めが悪いと言う言葉で説明を終わらせた。
一通り霊児の説明を頭に入れた魅魔は顎に指を当て、
「霊児、あんたが人里から博麗神社まで護衛をすれば良いんじゃないのかい? そうすりゃ、人里の人間が妖怪に襲われて食われるって事態は避けれるだろ」
人里から博麗神社までの道中を霊児が護衛すれば良いだろうと言う提案をしたが、
「やだよ、面倒臭い」
面倒臭いの一言で霊児は魅魔の提案を却下する。
一番最初に出て来た言葉が面倒臭いと言うのはある意味霊児らしいと言う事を魅魔は思いつつ、
「なら、決められた日に人里から博麗神社までの道中に結界を張るってのはどうだい? あんたの腕なら楽勝だろ?」
別の提案を出す。
新たに出された提案に対し、
「そんな事をしたら妖怪の徘徊ルートとか縄張りとかが変わるだろ。それで知恵と知能が欠片も無い妖怪が大量に人里に押し寄せでもしたらどうするんだ」
霊児は尤もらしい理由を付けて却下した。
却下した理由としては一応納得出来るものではあるが、霊児との付き合いがそれなりに長い魅魔には理由が只の言い訳である事を瞬時に察し、
「……で、本音は?」
霊児に本音は何だと問う。
ある意味、自身の心中を言い当てられる事になった霊児ではあるが、
「面倒臭いの一言に尽きる。それに、結界を張ってもし本当にそんな事態になったら俺が解決の為に動かなければ成らなくなるからな。そうなったら、
もっと面倒臭い事態になる」
シレッとした表情で再び面倒臭いと言う一言を発した。
何処までも行っても霊児は霊児と言う事を改めて実感した魅魔が、
「……はぁ」
呆れと感心と混ぜ合わせた様な溜息を一つ吐くと、
「さて、もう一本っと」
新たに茸を刺し終えた金属製の串を霊児は七輪の網の上に乗っける。
切り替えが早いと言うか、マイペースを貫いていると言うか。
ともあれ、
「……ま、その面倒臭がりな所もあんたをあんたとする一部なんだろうね」
面倒臭がりな所も霊児を霊児とする一部だと言いながら魅魔は表情を何処か悟ったものに変え、食べ頃に成っている餅を手に取って食べ始めた。
「って、おい。何も付けないで食べるのか?」
何も付けずに餅を食べた魅魔に霊児はそう突っ込みを入れる。
入れられた突っ込みに、
「何も付けずにその儘の味を楽しむと言うの乙なものだと思うけどね」
素材その儘の味を楽しむのも乙なものだと魅魔は返す。
「ふーん……」
返された返答に霊児はそう言うものかと思いつつ、金属製の串に茸を刺していく。
そして、茸を刺し終えた金属製の串を何本か七輪の上の網に乗せた辺りで、
「おーい、砂糖醤油が出来たぜー」
砂糖醤油が出来たと言う言葉と共に、砂糖醤油を入れた皿を手に持ちながら魔理沙が神社の中から出て来た。
「あんがと」
頼み事を完遂してくれた魔理沙に霊児は軽い礼を述べ、餅を手に取り、
「いただきます……っと」
近付いて来た魔理沙が手に持っている砂糖醤油が入っている皿に餅を付け、餅を食べ始める。
霊児だけではなく魅魔も餅を食べているからか、
「それじゃ、私も食べるとするか」
遠慮は要らんと言った感じで魔理沙も餅を食べ始めた。
餅を食べながら、
「そういや、この餅って何処で手に入れたんだ?」
「人里でお守りやらお札を売ってる時に老夫婦から貰った」
「へぇ……そりゃラッキーだったね」
「ですね。餅つきで作る餅なら別ですけど、一からこう言うブロック状の餅を作るのって大変ですし」
「米に限らず、もち米や小麦っと言った物は育てるのにかなり手間が掛かるからな。そう言った物が人里で手に入るのは正直助かる」
「ここの敷地なら稲作とかも出来そうだけど……ま、あんたは面倒臭がり屋だから稲作とかをする気は無いんだろうね」
魔理沙、霊児、魅魔の三人は雑談を交わしていく。
雑談を交わし、七輪の上に乗っかっていた餅を全て食べ終えたの同時に、
「……お」
焼いていた茸が良い感じで焼けた事に霊児は気付いた。
なので、霊児は続ける様に茸が刺さった金属製の串を手に取って茸を口に入れ、
「美味いな」
美味いと言う感想を漏らす。
自分が持って来た茸を食べ、霊児が美味いと言う感想を漏らした為、
「そうだろそうだろ」
嬉しそうな表情を魔理沙は浮べ、魔理沙も茸を食べ始め、
「それじゃ、私もいただくとするかね」
二人に続く様にして魅魔も茸を食べ始める。
三人が食べる物を餅から茸に変えてから幾らか経った頃、
「あら、良い匂いね」
今現在、博麗神社に居るメンバー以外の者の声が三人の耳に入って来た。
耳に入った声から、来訪者が来た事を察した霊児、魔理沙、魅魔の三人は声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、
「御機嫌よう」
「どうも」
レミリアと、レミリアに日傘を差している咲夜の姿が在った。
どうやら、来訪者はレミリアと咲夜の様だ。
それはさて置き、飯時にやって来られたからか、
「何の用だ? 俺は見ての通り食うので忙しいんだが」
若干冷やかな対応を霊児は行なう。
冷たい対応をされたものの、
「あら、冷たい対応ね。でも、これを見てもそんな対応を続ける事が出来るかしら?」
レミリアは何処か得意気な表情を浮かべ、これを見てもそんな対応が出来るかと言い出す。
「これ?」
これの部分が分からなかった事で、霊児が首を傾げた瞬間、
「咲夜」
レミリアから咲夜に声が掛けられる。
「はっ」
声を掛けられた咲夜は一声口にし、中身が露になっている包みを前方に突き出す。
突き出された包みの中には、沢山の肉が入っていた。
肉が入っていた事で霊児の目の色が変わる。
同時に、
「ふふ、これは最高級の牛肉よ」
レミリアの口から包みの中の肉は最高級の牛肉である事を教えた刹那、
「「おお!!」」
魅魔と魔理沙の魔法使い師弟から感嘆とした声が漏れた。
最高級の牛肉など、滅多に食べる機会など無いのだから当然と言えば当然だ。
勿論、霊児に取っても最高級の牛肉を食べる機会など滅多に無い為、
「レミリア、咲夜。良く来たな」
つい先程までの態度とは打って変わったかの様に、霊児は満面の笑顔でレミリアと咲夜に出迎えの言葉を掛けた。
最高級とは言え、牛肉一つでここまで態度を変えた霊児にレミリアは若干呆れた感情を抱きつつ、
「……貴方って、食べ物なら容易く釣られるのね」
霊児を食べ物に釣られ易い男だと称する。
レミリアの中で霊児の評価が変な方向に向かっている間に、
「持って来たお肉、その七輪の網を使って焼いても良いかしら?」
咲夜が持って来た肉を七輪の網を使って焼いても良いかと問う。
早く肉を食いたいからか、
「早く乗っけて焼いてくれ」
間髪入れずに早く肉を食べたいから早く焼いてくれと言う指示を出した。
考える間も無く肉を焼く許可を霊児から出された事で、
「食い意地が張ってるわね、ほんと」
食い意地が張っていると言う言葉を咲夜は漏らし、咲夜はレミリアと一緒に七輪に近付いて行く。
そして、咲夜は七輪の網に牛肉を乗せ始める。
レミリアに傘を差している状態だと言うのに、咲夜は苦も無く綺麗な配置で牛肉を網の上に乗せていた。
何とも器用なものである。
牛肉が網の上に乗っかる度に良い匂いが辺りを漂い、霊児、魔理沙、魅魔の胃袋を刺激していく。
次々と牛肉を網の上に乗せていく中で、
「……あら? 白い茸?」
咲夜は白い茸が焼かれている事に気付き、
「この茸、まさか毒鶴茸じゃ無いわよね?」
焼いている茸は毒鶴茸では無いだろうなと聞く。
聞かれた事に、
「いんや、違うぜ。白い茸だけど、毒鶴茸とは別の茸だ」
茸を持って来た魔理沙が否定の言葉を返す。
取り敢えず、焼かれている茸が毒茸で無い事を知った咲夜は、
「そう」
何処か安心した表情を浮かべ、再び網の上に牛肉を並べていく。
網の上に牛肉を乗せられるだけ乗せてから少し経った後、
「お、良い感じに焼けて来たな」
牛肉が良い感じに焼けて来ている事に霊児は気付く。
同時に、簡易型のテーブルと簡易型の椅子が現れている事にも気付いた。
突如として現れた椅子にレミリアが腰を落ち着かせると、テーブルの上に牛肉が乗った皿とナイフとフォークが現れる。
十中八九、咲夜がレミリアの為に用意したものであろう。
だからか、レミリアは自然な動作でナイフとフォークを使って上品に牛肉を食べ始めた。
兎も角、牛肉がもう食べ頃と言う事で霊児、魔理沙、魅魔の三人もレミリアと同じ様に牛肉を食べていく。
同じと言っても、食べ方に関してはレミリアと違って牛肉を金属製の串で刺して食べると言う方法を取っているが。
それはそれとして、霊児、魔理沙、魅魔の三人は、
「いやー、こう言う上等な肉を食う機会何て滅多に無いからな。棚牡丹棚牡丹」
「だな。人里で売ってる高級肉って高いし。一応、魔法の森には肉に似た食感の茸はあるけど……高級肉に似た食感の茸何て滅多に手に入らないからな」
「魔理沙にしろ霊児にしろ、肉類は余り食べる機会は無いだろうしね。特に霊児の場合は神社の裏庭で野菜を作ってるから、腐り易い物を態々保存し様とは
考え無いだろうし」
牛肉を食べながらそれぞれ思い思いの感想を口にしていく。
ガツガツとした勢いで牛肉を食べている三人を見ながら、
「もう少し、上品に食べれないのかしら?」
もう少し上品に食べれないのかとレミリアは尋ねる。
尋ねられた事に、
「そうか? バーベキューみたいな感じ何だからこれで良いだろ」
霊児が三人を代表するかの様に、別にこれでも良いだろうと言う発言を行なう。
霊児の発言に物申す気は無いからか、魔理沙と魅魔は特に突っ込みを入れる事無く牛肉を食べ続けていた。
上品さが感じられない食べ方をしている三人にレミリアは何か言いた気な表情を浮べるも、
「……まぁ、良いわ」
直ぐに表情を戻して咲夜の方に顔を向け、
「咲夜、貴女も食べなさい」
咲夜も牛肉を食べる様に促す。
「よろしいのですか?」
「ええ。日傘を椅子に固定しても良いわ」
自分も牛肉を食べても良いと言われた事で咲夜が確認を取りに掛かると、日傘を椅子に固定しても良いから食べろとレミリアは言う。
そう言われた事で、
「それでは失礼して……」
咲夜は一声掛けながら日傘をレミリアが腰を落ち着かせている椅子に固定し、何処からか大きめの皿と箸を取り出す。
そして、咲夜が箸を使って焼いている牛肉を皿の上に乗せて食べ始めたタイミングで、
「……っと、そろそろもう一度餅を焼き始めるか」
「さっきから牛肉ばっかで米類の物が恋しくなって来たからな。良いんじゃないか」
「んじゃま、もう一回餅を焼くとするかね」
「牛肉に餅に茸ねぇ……改めて見ると、中々珍妙な組み合わせね」
「そうですね、私もその様な組み合わせで料理を作った事は在りませんし。ですが、偶にはこう言う組み合わせの物を食するのも良いものかと」
霊児、魔理沙、魅魔、レミリア、咲夜の五人は軽い雑談を交わしていった。
雑談の内容は今食べている物の話題がメインであったが、雑談は弾んでいく。
食事と雑談の二つを五人が楽しみ始めてから幾らか経つと、真っ黒い球体が霊児達の方へと近付いて来た。
真っ黒い球体の接近に気付いた霊児、魔理沙、魅魔、レミリア、咲夜の五人は、
「「「「「……ん?」」」」」
真っ黒い球体が近付いて来ている方に顔を向ける。
顔を向けられている真っ黒い球体は七輪の傍に来た辺りで動きを止め、
「良い匂いー」
声を発した。
声が発せられた事から真っ黒い球体の中に何かが潜んでいる事を五人が察したのと同時に、真っ黒い球体が消え、
「おー、美味しそー」
ルーミアが姿を現す。
やはりと言うべきか、真っ黒い球体の中身はルーミアであった様だ。
ある意味正体を現したルーミアは七輪の網の上に在る餅、茸、牛肉を注視し、
「いっただっきまーす!!」
七輪諸共食べ物に齧り付こうとした。
その瞬間、
「何し様としてんだ、テメェ」
「きゃう!?」
ルーミアの頭頂部に霊児は手刀を叩き込み、ルーミアを雪のマットに叩き落とす。
叩き落されたルーミアが雪に埋もれてから少しすると、
「うー……痛いのかー」
若干フラフラした様子でルーミアは起き上がりながら痛みを訴え、
「何するのよ」
霊児に文句の言葉をぶつける。
「それはこっちの台詞だ。お前こそ一体何し様としていた」
「うー……だって、冬場は中々食べるものが手に入らないんだもん。そしたらこっちの方から良い匂いがして来てー……」
ぶつけられた文句の言葉に何するのこっちの台詞だと霊児が返すと、ルーミアは声を萎めながら言い訳を始めた。
要するに、お腹が減ってそこ等辺を彷徨っていたら餅、茸、牛肉を焼いている匂いに惹かれてここまでやって来たと言う事だろう。
ルーミアが発した言い訳から、ここまでやって来た要因に付いて霊児が推察している間に、
「あら、この妖怪は……」
「紅魔館近辺で偶に見掛ける妖怪ですね」
レミリアと咲夜はルーミアに付いて話していく。
どうやら、レミリアと咲夜の主従コンビはルーミアを見掛けた事がある様だ。
そんな二人に続く様に、
「ルーミア……偶に見掛ける事があるよな」
「あの子、真っ黒い球体で自身を包んで移動する事があるからね。朝昼だったら見掛ける事も多々あるだろうさ」
魔理沙と魅魔からもルーミアの目撃情報が述べられた。
真っ黒い球体で移動すると言う中々奇抜な移動方法をルーミアは取っているので、人目に着く事は多いのであろう。
それはそれとして、ルーミアが物欲しそうな目で七輪の網に乗っている餅、茸、牛肉を見ていた為、
「お前も食ってくか?」
霊児はルーミアにお前も食っていくかと提案する。
霊児としてはここで変に暴れられて博麗神社に被害が出るのを嫌っての提案であったが、
「良いの!?」
提案された内容を受けたルーミアは大喜びで目を輝かせ、
「わーい!!」
己が手で使って焼いている牛肉を掴み、牛肉を食べ始めた。
素手で食べ物を取っているルーミアを見て、一同は箸なり串なり使えよと思ったが、
「「「「「………………………………………………………………………………」」」」」
特に何かを言うと言った事はせず、自分達のペースで食事を続けていく。
何を言ったところで、ルーミアが何かしらの道具を使って牛肉などを食べるとは思えなかったからだ。
ともあれ、こんな感じで冬の一日が過ぎていった。
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