「香霖、居るかー?」

そう声を掛けながら霊児は香霖堂の扉を開け、香霖堂の中に入る。
同時に、

「……お、暖かい」

暖かいと言う言葉が霊児の口から漏れた。
現在の幻想郷は、雪景色が普通に見られている状態。
と言う事は当然、香霖堂の中も冷えている筈だ。
しかし、外の寒さとは裏腹に香霖堂の中はとても暖かい。
気温が正反対となっている様な現状に何か秘密が有るなと霊児は思い、奥の方に進んで行くと、

「やぁ、いらっしゃい」

カウンターの方で本を読んでいた霖之助が霊児にそう声を掛けた。
ある程度カウンターに近付いた辺りで霊児は足を止め、

「よう」

片手を上げ、挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉を聞き届けた後、

「それで、何か御入用かな? それとも……まさか……また短剣を壊した……何て事は……」

不安気な表情になりながら、御入用なのかまた短剣を壊したのかを問う。
まぁ、かなり短い頻度で緋々色金製の短剣が二回も破損したのだ。
霖之助が不安を抱くのも無理はない。
それはさて置き、不安気な表情になっている霖之助に、

「ちげーよ」

霊児は否定の言葉を告げる。
緋々色金製の短剣が破損した訳では無い事が分かったからか、

「そうか……」

安堵したと言った表情を霖之助は浮かべ、

「それじゃ、御入用の品は何だい?」

改めと言った感じで欲している物は何だと聞く。
聞かれた事に対する答えとして、

「布地と紙と墨が欲しい。出来るだけ沢山」

布地、紙、墨が大量に欲しいと言う事を霊児は霖之助に伝える。

「布地と紙と墨かい?」

割りと簡単に手に入りそうなばかりを伝えられた為、霖之助は少し驚いた表情を浮べてしまう。

「ああ、そうだ。お守りとお札を作るのに使うのが切れ掛かっててな」
「成程」

伝えた三品を欲している理由を霊児が教えると、霖之助は納得した表情を浮べた。
お守りやお札を売っている霊児に取って、その三品が無くなれば金銭を得る事が出来なくなってしまうだろう。
だが、霊児が欲した三品程度なら人里でも容易に入手する事が出来る。
だと言うのに、態々人里よりも離れているここに来た事に霖之助が一寸した疑問を抱いた時、

「人里の店よりここの方が上質な物が置いてある事が多いからな。在るんだろ? それ相応の物が」

霊児の口から人里の店よりも香霖堂の方が上等な物が置いて在る事が多いからここに来たと言う発言が発せられた。
何気に自分の店を評価された事で霖之助は少し嬉しい気分になりつつ、

「ああ、勿論在るよ。上等な物が。今持って来るから、少し待っていてくれ」

肯定の返事をしながら頼まれた品を持って来る為に店の奥の方へと向かって行く。
霖之助が頼んだ物を持って来るまで暇になったからか、霊児は少し体を動かして店内の様子を見渡していき、

「相変わらず、訳の分からない物ばかりが置いて在るな……」

訳の分からない物ばかり置いて在ると漏らす。
香霖堂に置かれている物は幻想入りして来た外の世界の道具などが多いので、霊児が訳の分からない物ばかり置いて在ると称すのも当然と言えば当然だ。
見知った物でも無いかと思った霊児がもう一度店内を見渡すと、

「お……」

少し離れた場所に刀が置かれているのを発見する。
発見した刀を少し注視すると、何かしらの力が宿っている訳では無い事が見て取れた。
しかし、何の力が宿っていなくても刀自体が何か特別な金属で作られているかもしれない。
そう考えた霊児は発見した刀に近付き、刀を鞘から抜いて刀の刀身を確認しに掛かる。
確認した結果、

「……普通の刀だな」

極々普通の刀である事が分かった。
だからか、

「普通の刀だったら俺の力に耐え切れないからなぁ。何かしらの力が宿っていたり、特殊な金属で出来ていたら買ったかもしれないんだけどな……」

何処かがっがりとした様子を見せながら霊児は刀を鞘に収め、刀を元在った場所に置いてカウンターの近くに戻る。
そのタイミングで、

「お待たせ」

両手に何かを乗せた霖之助が戻って来た。
霖之助の両手には布地、紙、墨が乗っかって包みが在り、

「これがご所望の品だ」

ご所望の品だと言いながら霖之助は持って来た包みカウンターの上に降ろし、

「さて、今持って来た物がどれ程の物かと言う説明を……」

持って来た物の説明に入ろうとする。
とてもウキウキとした目で。
この事から、霖之助の説明が長くなる事を察した霊児は、

「いや、説明は良いからさっさと売ってくれ」

説明は良いからさっさと売る様に言う。
説明し様としていたところを邪魔され形になったからか、

「……相変わらずだね、君も」

出鼻を挫かれたと言った感じの表情を霖之助は浮かべ、何処か諦めたかの様に相変わらずだと呟く。
そんな霖之助の自分に対する評価を無視するかの様に、

「で、幾らだ?」

幾らで売ってくれるのかと霊児は尋ねる。
尋ねられた霖之助は中指で眼鏡を上げ、

「普通ならそれ相応の金額を取るところだが……僕の頼みを聞いてくれたら、只でそれ等を譲って上げよう」

自分の頼みを聞いてくれたのなら、只で商品を譲ろうと言い出した。
別段、霊児は金欠状態と言う訳では無い。
が、節約出来るのなら節約した方が良いだろう。
だからか、

「頼みねぇ……頼みって何だ?」

取り敢えず、頼み事の内容を言う様に霊児は促した。
促された霖之助は、

「ああ、一寸待ってくれないか」

一寸待ってくれと言う言葉と共にカウンターの下を探し始める。
何かを探しているのでそこそこの時間が掛かると思われたが、

「……在った在った、これだよ」

大した時間を掛ける事無く霖之助は目的の物を見付け、見付けた物をカウンターの上に置く。
カウンターの上に置かれた物は、木箱。
置かれた木箱は少々長い形をしてはいるものの、見た感じは普通の木箱だ。
ならば、木箱の中身が霖之助の頼み事に係わっているのだろうか。
そう推察した霊児は木箱を注視し、

「頼みって言うのは、木箱の中に入っている物の事か?」

推察した内容が合っているかどうかの確認を取る。

「お、察しが良いね。その通りだよ」

取られた確認に霖之助はその通りだと返し、木箱の蓋を開けた。
蓋が開かれた木箱の中に入っていた物は、鞘に収められている一振りの刀。
一見普通の刀に見えるが、普通の刀と違う点が二つ存在している。
一つは鞘に何枚ものお札が貼られていると言う点。
もう一つは、

「……おい、この刀から妖気が漏れ出しているじゃねぇか」

刀から妖気が漏れ出していると言う点だ。

「あ、分かるかい」

一目で刀から妖気が漏れている事を見抜いた霊児に感心したと言った表情を霖之助が向けると、

「分かるも何も、ここまで妖気が漏れてれば誰でも分かるだろ」

霊児は呆れた表情を浮かべ、ここまで妖気が漏れてれば誰でも気付くだろうと漏らす。

「はは、確かに」
「で、だ。これ……何所で手に入れた?」

漏らされた発言を霖之助が苦笑いをしながら肯定すると、霊児はその刀を何所で手に入れたのかを聞く。

「ああ、これは結構前に無縁塚で拾った物だね」
「……………………………………………………」

聞かれた事に対する答えが霖之助から返って来た後、霊児は少し思案し始める。
無縁塚は幻想郷の中でも最も結界が緩い場所であり、様々な場所と繋がっている場所。
それ故に無縁塚には幻想郷の中でも様々なものが最も流れ着き易いのだ。
生物、無機物、何の変哲も無い物、珍品、曰く付きな物、何らかの加護を受けた物、呪われている物、伝説の存在として謳われている物、外の世界の物等々。
無論、妖気が漏れ出している刀も例外では無い。
となると、幻想郷に害を成すものが流れ着いている可能性は十二分に存在している。
だとするならば近い内に一度、無縁塚を見て回った方が良いかもしれない。
近々無縁塚に調査しに向かうべきか、それと杞憂と判断して放置すべきか。
どちらを選ぶべきかを霊児が考えている間に、

「拾った時は何とも無かったんだが……この前、この刀の手入れをし様と思って木箱の蓋を取ったら妖気が漏れ出している事に気付いたんだ」

拾った当初は何とも無かった事と、妖気が漏れている事に気付いたのつい最近だと言う事を霖之助は話し、

「この木箱には妖気とかそう言った類のものを漏らさない様な処理が施されてね。そのお陰で、妖気が漏れている事に気付けなかったんだ」

木箱には妖気の類が漏れ出さない様な処理がされているので妖気が漏れている事に気付けなかったと言う補足を行なう。
霖之助からの話と補足を頭を入れた霊児は、刀に施された封印が時間と共に緩まったのだろうと推察した。
ならば、再度封印を施してやれば良いだろうと霊児が考えた刹那、

「僕の能力で分かったのはこの刀はかなりの切れ味を持った無名の妖刀と言う事だけだ」

思い出したかの様に拾った刀に関する簡単な説明をする。
無名の妖刀と言う部分に幾らかの興味を抱いたからか、

「で、他には?」

霊児は再封印する事を後回しにする事を決め、他に分かっている事を言う様に促す。
霖之助の能力は"道具の名前と用途がわかる程度の能力"。
なので、この刀に付いてもっと詳しい内容を聞く事が出来ると思われたが、

「残念だけど、僕が知り得た事はこれだけだよ。これ以上調べ様とすると、僕の身が危なくなりそうだったからね」

霖之助自身が身の危険を感じた為、これ以上の情報を得る事は出来なかった。
まぁ、これに関しては仕方が無いと言えば仕方が無い。
兎も角、妖気が漏れ出している妖刀。
普通であれ直ぐにでも封印をし直してくれと頼んで来るだろう。
しかし、今この場で唯一妖刀に封印処理が出来る霊児は、

「要は、この妖刀がどう言った力を持っているのかを調べれば良いんだな」

封印ではなく、妖刀の持つ力に付いて調べれば良いのだろうと口にした。
何故、霊児はその様な事を口にしたのか。
答えは簡単。
霖之助との付き合いがそれなりに長い霊児に取って、霖之助が只封印をし直してくれと言う頼みをして来る訳が無いと言う事を分かっていたからだ。
だからか、

「うん、宜しく頼むよ。後、それが終わったらそれ相応の処理をして貰えればありがたいかな」

特に驚いたと言った様な表情を霖之助は浮べず、宜しく頼むと言って軽く頭を下げる。
それを合図にしたかの様に霊児は妖刀を木箱の中から取り出し、

「どれどれ……」

妖刀を鞘から引き抜いた。

「お、おい!!」

霊児の突然の行動に霖之助は驚きの声を上げてしまう。
どんな能力が有るか分からない妖刀を何の対策も無く引き抜いたのだから、驚くのも無理はない。
が、

「んー……」

直ぐ近くで驚いている霖之助を無視するかの様に霊児は妖刀を観察していき、

「この妖刀……使用者の体を乗っ取る力が有るな」

ポツリとこの妖刀には使用者の体を乗っ取る力が有ると呟く。

「体を……乗っ取る?」

こうも簡単に妖刀が有している力を言い当て霊児に霖之助が驚きの感情を向けていると、

「ああ、そうだ。この妖刀……鞘から抜いたのと同時に使用者の体を乗っ取り、乗っ取られた使用者は目に映るもの全てを斬り捨てる為だけに生きる事になるな。
勿論、死ぬまでな。それとは別に、妖気が完全なレベルで漏れ出すと近くに居る者を誘い込んで刀を鞘から抜かせるって言う能力……と言うか催眠か? そう言う
力も在るみたいだな」

使用者の体を乗っ取ると言う部分に付いて霊児は少し説明し出した。
その後、少し呆れた視線を霖之助の方に向け、

「よくこんな物騒な物を拾って来たな」

よくこんな物騒な物を拾って来たなと言う言葉を掛ける。

「ははは……」

掛けられた言葉に霖之助は苦笑いで返し、

「それよりも、そんな物を持っていて君は大丈夫なのかい?」

話を変えるかの様に妖刀を持っている霊児は大丈夫なのかと聞く。
霊児の説明通りなら、現在進行形で霊児は妖刀に体を乗っ取られていっていると言う事になる。
霖之助が心配するのも無理はない。
だが、霖之助の心配など杞憂だと言わんばかりに、

「そこそこの熟練者でも何の抵抗も出来ない儘体を乗っ取られるだろうな。けど、俺を乗っ取るには力が全く足りないな。まぁ、この刀が発する妖気の
強さが神綺と幻月の魔力と神力を合わせたものだったのなら話は別だったろうけど……」

今、自身が手にしている妖刀の力では自分を乗っ取る事など不可能だと言い切った。
同時に、

「よ……っと」

妖刀を持っている霊児の手から青白い光が発せられ、何かが砕け散る音が周囲に響き渡る。
すると、妖刀を持っていた霊児の手から青白い光が消えたので、

「……今の音は何だい?」

発生した音は何なのかと言う事を霖之助は霊児に問う。

「この妖刀に俺の霊力を流し込んで妖気の元……って言うのかな? それを消滅させた」

問われた事に対する答えを霊児は述べながら妖刀を鞘に収め、

「ま、これでもう二度と妖気を出したり体を乗っ取る……って事は起きないと思うぜ」

これでもう何も心配はいらないと言いながら鞘に収めた妖刀を霖之助に手渡す。

「そうか、ありがとう」

手渡された妖刀を霖之助が礼を言いながら受け取った瞬間、

「……ん?」

霖之助は訝し気な表情を浮べた。

「どうかしたか?」
「この妖刀……妖刀から霊剣……いや、霊刀の方が正しいか。つまり、この刀が妖刀から霊刀に変わっているんだ」

霖之助が浮べた表情が少々気に掛かった霊児がどうかしたのかと声を掛けると、妖刀から霊刀に変わったと言う発言が霖之助から漏れる。

「そりゃ中にある妖気が消滅したからな」
「それだけで妖刀から霊刀になるとは思えないんだが……」

妖刀から霊刀に変わった事に関する自分なりの意見を霊児は霖之助に伝えたが、霖之助は今一納得出来ないと言った表情を浮べてしまう。
確かに、妖刀から妖気が消えたら只の刀になると考えるのが普通だ。
となれば、妖刀が霊刀に変わったのには何か秘密が在る筈。
そう考えた霊児は少し頭を回転させ、

「なら、俺の霊力を流し込んだせいで妖気の変わりに霊気を発する様になったんじゃないか?」

妖気の変わりに霊気を発する様になったから霊刀になったのではと口にする。
口にされた内容を耳に入れた霖之助は調べて見る価値有りと判断し、霊刀を軽く調べる事にした。
調べた結果、

「……確かに、この刀から霊気が発せられる様になっているね」

霊児が口にした事が正しい事が分かったからか、

「相変わらず、君は出鱈目だね。尤も、博麗の名を冠する者ならそれ位じゃないといけないのかもね」

改めとて言った感じで霖之助は霊児に呆れと感心が入り混じった表情を向ける。
そんな表情を向けられている霊児ではあるが、向けられている表情などどうでも良いと言った感じで、

「まだ何か有るかもしれないから、もっと調べて見たらどうだ?」

更に霊刀を調べて見たらどうだと提案を行なう。
相変わらずとも言える霊児の態度に何も言うまいと霖之助は思い、先程よりも詳しく霊刀を調べていく。
霊児の力で妖刀から霊刀に変わった事で何の心配も要らないと判断したからか、今回は遠慮無しと言った感じで霖之助は霊刀を調べている様だ。
兎も角、霖之助が再び霊刀を調べ始めて幾らか経った頃、

「……ふむ、この霊刀は加護や呪いの類を一切受け付けないと言う能力がある事が分かったよ」

再び調べた事で新たに分かった事を霖之助は霊児に伝えた。
伝えられた内容、つまり霊刀が有している能力が自身の短剣と同じものであるからか、

「俺の短剣と同じが……」

霊児は自分の短剣を注視するかの様に視線を左腰の方に移す。
長年自分の霊力に晒され続けた短剣と、ついさっき自分の霊力を流し込んだ事で妖刀から変化した霊刀。
この二本が同じ能力を有した事に霊児は一寸した感慨を抱きつつ、

「……ま、二度と妖気を発したりする事は無いだろうから良いんじゃないか?」

顔を上げながら妖気を発する事も無くなったので良いだろうと言う発言で無理矢理締め括り、

「それはそれとして、約束通りこれは只で貰っていくぞ」

約束通りこれは只で貰っていくと言って布地、紙、墨を指でさした。
約束を違える気は霖之助には無い様で、

「ああ、構わないよ」

構わないと言う言葉と共に霊刀を木箱の中に仕舞い、布地、紙、墨の三品を包んでいく。
包まれていく三品を見て、

「……そうそう、何でこの中は暖かいんだ?」

思い出したかの様にどうして香霖堂内は暖かいのかを尋ねる。
尋ねられた霖之助は一旦手を止め、

「ああ、それはあれのお陰だよ」

ある方向に向けて指をさす。
霖之助が指をさした方向に顔を向けると、霊児に目に金属製の箱が映った。
中心部には硝子の筒の様な物が存在しており、硝子の中に炎が発生している金属製の箱が。

「何だ、あれ?」
「あれはストーブと言って外の世界の道具だよ」

初めて見るタイプの金属製の箱に疑問を抱いている霊児に、霖之助は金属製の箱の名称と外の世界の道具である事を教え、

「あの道具、ストーブは部屋の中を暖めたり暖を取ったりする為の道具だ」

ストーブに付いての簡単な説明を行なう。

「へぇ……」

行なわれ説明を頭に入れた霊児は、感心したと言った表情を浮べる。
金属製の箱一つで暖を取る事が出来るのだ。
感心した表情の一つや二つ、浮べもするだろう。
その様な便利な物なら、買って帰ろうかと考えた刹那、

「……あれ?」

霊児の頭にある疑問が過ぎる。
だからか、

「そう言えば、何時だったか外の世界の道具は電気を使うものが殆どだから幻想郷じゃ使えないって言ってなかったか? あのストーブって言う道具は
電気を使わないのか?」

過ぎった疑問を霊児は霖之助に聞いてみる事にした。

「いや、電気は使うよ。唯……」

聞かれた事に、霖之助は電気は使うと答えながらポッケトに手を入れてある物を取り出す。
取り出した物は、掌に収まるサイズの筒状の物体。

「何だ、それ?」
「これは電池と言って、簡単に言うと電気を溜め込んで置く事が出来る物さ」

取り出された物体に疑問気な表情を向けている霊児に、取り出した物体の名称と有する能力を簡単に説明する。

「電気を?」
「うん。序に言えば、この電池は結構な量が幻想入りして来ていてね。まぁ、電池の中身が空だったりサイズが合わなかったりする物が多々在ったりしたけど。
とは言え、あのストーブのサイズに合う電池は結構手に入れているからね。だからこうして利用していると言う訳さ」
「なら、電池ってのがあれば外の世界の道具は使えるのか?」
「いや、そう言う訳でもないよ。電池が使える道具があれば使えない道具もある。今使っているストーブもその一つさ。僕が今まで見付けたストーブは
あれ以外、電池を使う事が出来ないタイプの物だったんだよ」

電気を溜める事が出来ると言う電池があれば外の世界の道具を使える事が出来るのではと考えた霊児に、霖之助が否定の言葉を返した為、

「何だ、そうなのか」

霊児は少しがっかりと感じで肩を落としたが、

「……ま、俺の神社には囲炉裏があるから別にストーブは必要無いか」

直ぐに囲炉裏の存在を思い出し、別にストーブは無くても良いかと考え直した。
霊児からストーブへの興味が消えた事を感じ取った霖之助は、

「僕としてはコレクションの一つを売る事にならなくなって良かったけどね」

自身のコレクションの一つを売る事にならずに済んで良かったと零し、

「はい、御要望の品だよ」

布地、紙、墨を纏めた包みを霊児に手渡す。
手渡された包みを受け取った霊児はもう用は無いと言った感じで霖之助に背を向けて帰ろうとする。
が、

「あ、そうだ」

何かを思い出したかの様に霊児は振り返り、

「封印用のお札、何枚か作ってやろうか?」

封印用のお札を何枚か作ろうかと言う提案を霖之助にする。

「おや、良いのかい?」

された提案は霖之助に取って美味しいものである為、霖之助は期待に満ちた表情を浮かべた。
霊児が作った封印用のお札があれば、見付けた物が呪われていたとしても平気で持ち帰る事が出来るからだ。
今後、無縁塚に行ったら少々危険な物も積極的に収集して行こうと言う予定を霖之助が立てている間に、

「ああ、良いぜ。香霖には短剣の事とかで色々と世話になっているからな」

短剣の事などで世話になっているので封印用のお札を作る事位は構わないと霊児は返す。
返された内容を頭に入れた霖之助は、今後も緋々色金製の短剣が破損する可能性がある事を霊児が示唆している事を理解し、

「……そのお陰で僕のコレクションの緋々色金のを殆ど使ってしまったんだけどね」

溜息を吐きながら自身の緋々色金のコレクションを殆ど使ってしまった事を話し、

「もうその短剣、壊さないでくれよ」

忠告するかの様にもう緋々色金製の短剣を壊さないでくれよと呟く。

「それは敵に言ってくれ」

呟かれた事に霊児はそれは敵に言ってくれと口にし、封印用のお札を作る為に必要な材料を香霖堂内から物色し始めた。






















前払いと言った感じ封印用のお札を作り、それを霖之助に渡した霊児は博麗神社に帰って行った。
そして、霊児が博麗神社に戻ると、

「あら、お帰りなさい」

出迎えの言葉が霊児の耳に入る。
霊児は一人暮らしをしているので、帰って来ても出迎えの言葉が返って来る事は無い。
となれば、何者かが博麗神社にやって来ていると言う事になるだろう。
なので、出迎えの言葉を発した者を探す為に顔を動かした霊児の目に、

「夢子……」

夢子の姿が映った。
どうやら、出迎えの言葉を発した者は夢子であった様だ。
割と意外な者が博麗神社に来ていたからか、

「珍しいな、どうかしたのか?」

少し驚いた表情を霊児は浮かべ、どうかしたのかと問う。
問われた夢子は、

「神綺様がこちらの食べ物を食べたいと仰られてね。それを買いに来たのよ」

溜息混じりに神綺が幻想郷の食べ物を食べたいと言っていた事を霊児に教え、

「で、こっちに来た序に貴方と咲夜に顔でも見せ様と思ったの」

補足するかの様に幻想郷に来た序に霊児と咲夜に顔でも見せ様と思ったと言った事を話す。
自分と咲夜に顔を見せ様と思ったと言う部分を聞き、

「そういや……前の忘年会と新年会を複合させた宴会でお前、咲夜と仲良さそうにしてたな」

以前開いた忘年会と新年会を複合させた宴会で夢子と咲夜が仲良さそうにしていたのを霊児は思い出していく。
同時に、

「ええ、咲夜とは同じメイドだし扱っている武器も似通っているから色々と話が合うのよ」

同じメイドで扱っている武器が似通っていると言う発言が夢子の口から紡がれた為、霊児は夢子と咲夜の扱っている武器を頭に思い浮かべ始めた。
夢子の武器は通常の短剣より刃渡りが短い短剣であり、咲夜の武器はナイフ。
確かに、この二人の武器は似通っていると言えば似通っているだろう。
霊児が夢子と咲夜が扱う武器に付いて照らし合わせ終えた後、

「それはそうと、貴方に聞きたい事があるの」

夢子が霊児に聞きたい事があると言う声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は意識を現実に戻し、

「俺に? 何だ、言ってみろよ」

聞きたい事を言う様に促す。

「私はここ、幻想郷の地理に余り明るく無いの。だから、食材などが売っている場所を教えて欲しいのよ」
「食材関連なら人里で売ってるぞ」

聞きたい事と言うのが食材などを売っている場所を教えて欲しいとの事だったので、霊児は人里の事を夢子に教えてある方向に向けて指をさす。
指をさされた方向に人里が在る事を察した夢子は霊児の方に体を向け、

「ありがとう」

礼の言葉と共に頭を下げ、人里に行く為に空中へと躍り出ようとしたが、

「あ、一寸待った」

空中へと躍り出る前に霊児の呼び止められたしまったので、夢子は動きを止めながら霊児の方に顔を向け、

「何?」

何かと問う。

「お前って……こっちの金って持ってるのか?」

問われた霊児は単刀直入にこっちのお金を持っているのかと聞くと、夢子は思いっ切り動きを止めてしまった。
そして、それから少し経った頃、

「……魔界のお金じゃ無理?」

ポツリと、魔界のお金では無理かと呟く。
呟かれた言葉が耳に入った霊児は、

「無理だな」

僅かに在った夢子の希望を無理の一言で打ち砕いた。
すると、夢子は目で見て分かる程にガックリと肩を落とし、

「どうしたものかしら……」

状況を打開する為に頭を回転させ始める。
そんな時、

「お前、何か売れる物を持ってないのか?」

霊児から何か売れる物は持ってないのかと言う発言が零れた。
物を売って金を得ると言う割と基本的な方法が頭から抜けていた事で、天啓を得たと言った感じで夢子は少し目を見開いたものの、

「売れる物ねぇ……」

売れる物と言う事で夢子は自身の掌の上に短剣を出現させ、

「これ位かしらね」

これ位だと口にする。
夢子が出現させた短剣は、当然魔界で作られた物。
魔界産の短剣ならば人里で売るよりも香霖堂で売る方が良いと霊児は考え、

「なら、それを香霖堂で売って来いよ」

短剣を売る場所として香霖堂の場所を薦めた。

「香霖堂?」

香霖堂と言う場所がどう言う場所が分からない夢子が首を傾げたので、

「どうでも良い品から日用品。特殊な道具……お前に解り易く言うのならマジックアイテムだな。要するに、取り扱ってる道具の範囲がかなり幅広い店だな。
で、だ。その香霖堂の店主……森近霖之助って言うんだけど、あいつは結構な収集家でな。幻想郷じゃあ手に入らない魔界の短剣を見せれば、結構な値段で
買い取ってくれる筈だ。あ、香霖堂は魔法の森……あっちに方に魔法の森って言う場所が在るんだ。その森の入り口近くに香霖堂が建っているから、真下を
見ながら進めば分かる筈だ」

香霖堂がどの様な店であるかと言う事と、香霖堂が在る場所を霊児は夢子に教える。
夢子に取って霊児から教えられた情報はかなり有益なものであった為、

「ありがとう、霊児」

夢子は再び霊児に礼を言い、今度こそと言った感じ空中に躍り出て香霖堂へと向かって行った。
香霖堂へと向かって行った夢子が見えなくなった後、

「……さて、茶でも啜りながらのんびりするか」

気持ちを切り替えるかの様に神社の方に向けて足を動かす。
しかし、

「こんにちは」

何者かが来訪して来た事で霊児は足を止める事になってしまった。
今度は誰と思いながら霊児が振り返ると、

「幽香」

幽香の姿が霊児の目に映る。
振り返った先に幽香が居た事から、来訪者が幽香である事を霊児が認識したのと同時に、

「相変わらず参拝客が来ない神社ね」

まるで喧嘩を売っている様な事を言いながら幽香は近付いて行く。
近付いて来ている幽香を視界に入れながら、

「うるせい。それで、何か用か?」

ここ、博麗神社に何の用でやって来たのかを問う。
問われた幽香は懐に手を入れ、

「貴方にこれを渡そうと思ってね」

懐から何かを取り出す。
幽香が取り出した物と言うのは、掌サイズの袋。
それを見て、疑問気な表情を浮べた霊児に、

「春の花の種よ。ちゃんと育ててね」

春の種が入った袋である事を説明し、袋を霊児に手渡そうとする。
手渡された袋を受け取った霊児は、

「……ああ」

ある事を思い出す。
何を思い出したのかと言うと、神社で花を育てる様になってから時折幽香が花の種を渡しに来る様になったと言う事。
神社にやって来た幽香が暴れない様にする為に花を育て始めた訳だが、今ではちゃんと花を育てなければ幽香の怒りの買うと言う状況になっている。
結果だけ見たらプラスマイナスゼロなのだが、霊児自身花を育てる事に楽しみを覚えたので少しはプラスになったであろうか。
少しの間、博麗神社で花を育て始めてからの事を思い返した後、

「それにしても……何で今、春の花の種を渡して来たんだ? 今はまだ冬だろ」

何故、春の花の種を渡して来たのかを聞く。
今現在の幻想郷は普通に雪景色が見られるので、霊児が今の季節を冬と断じても何も可笑しくは無い。
冬である今に春の花の種を渡して来た事に疑問を抱いている霊児に、

「暦の上ではもう春よ」

幽香は暦の上ではもう春だと言う事を伝える。

「……え? 春?」

もう春に成っている事を初めて知った霊児は思わず周囲を見渡す。
周囲を見渡す事で見えるのは、雪が積もっている自分の神社の敷地。
少なくとも、博麗神社に春の要素は欠片も見られない。
更に言えば、博麗神社から香霖堂までの道中も白い雪で覆われていた。
改めて春の要素が無い事を霊児が実感している間に、

「春に成ったとしても、雪が残っている事は良くある事でしょ」

春に成ったとしても雪が残っている事は良くあるだろうと言う指摘を行なう。
幽香からの指摘を受け、納得した表情を霊児が浮べた瞬間、

「さて、折角ここまで来たんだし……お茶でも頂いていこうかしら」

家主である霊児の許可を得ずに幽香はお茶を頂いていく事を決め、神社の方へと向かって行った。
こうなった以上、何を言っても幽香が帰ったりしないだろう。
とは言え、この儘幽香を放って置いて神社の中を荒らされては堪ったものでは無いので、

「お前もほんとに自由だよな」

軽い愚痴の様なものを零しつつ、霊児は幽香の後を追って行った。























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