ある晴れた日。
霊児は、

「んー……」

何かをすると言う事もなく、居間でゴロゴロしていた。
囲炉裏から発せられる程好い熱さを感じながら。
思いっ切り腑抜けた様な表情を霊児は浮かべ、

「この寒くて暑いってのが良いんだよなー」

寒くて暑いと良いと呟きながら畳の上で寝返りを打つ。

「あー……」

梃子でも動かんと言う様な態度を霊児が体中で表現していると、

「霊児、大変だ!!」

そんな声と共に居間の襖が勢い良く開かれた。
それに反応した霊児は寝っ転がった体勢の儘、開かれた襖の方に顔を向ける。

「魔理沙」

顔を向けた霊児の目には、魔理沙の姿が映った。
どうやら、やって来た者は魔理沙であった様だ。
ともあれ、魔理沙が発した大変と言う言葉が少々気に掛かったからか、

「大変って……何かあったのか?」

その儘の体勢で、霊児は何かあったのかと聞く。
聞かれ魔理沙は親指で自身の背後を指し、

「外見てみろよ、外」

外を見る様に言う。

「外?」

そう言われた霊児は、襖の先にある外の光景に目を向け、

「外の雪景色がどうかしたのか?」

疑問気な表情を浮べてしまう。
霊児が浮べた表情から、本当に何も分かっていない事を察したからか、

「可笑しいとは思わないのか? こんなに雪が残っている事とかさ」

魔理沙は少し呆れた表情になりつつ、雪が残っている事に付いて指摘する。
今現在の季節は春。
なので、魔理沙の指摘は理に適っていると言っても良い。
だが、

「ん、別に可笑しくは無いだろ? 春になっても雪が残ってるってのは良くある事だし」

幾ら季節が春だと言っても、雪が残っている事位は普通にあるだろう。
故に、霊児は春の季節でも雪が残っていたとしても可笑しくは無いと言い切ったのだ。
しかし、

「そりゃ、最初の頃はそうかもしれないけどさ……もう五月だぜ」

溜息混じりに魔理沙が今が五月である事を口にした為、

「……………………………………は?」

間の抜けた声を霊児は零してしまう。
今一状況が掴めていないと言った感じを霊児から受けたからか、

「いや、だからもう五月なんだって」

もう一度、魔理沙は霊児に今が五月である事を教える。
今が五月である事を教えられた霊児は上半身を起こし、

「…………マジ?」

本当なのかと問う
問われた事に対し、

「マジ」

肯定の返事と共に魔理沙は頷き、

「私もさ、今が五月だって気付いたのはついさっきだったんだ。ここ最近、魔法の研究に集中してて日付が良く分からない生活しててさ」

補足するかの様に自分も今が五月である事を知ったのはついさっきであったと話し、軽く後頭部を掻いた。

「ついさっき?」
「一寸食材を買いに人里に行った時、里民の会話を聞いてな」

ついさっきにと言う部分に疑問を覚えた霊児に、魔理沙は買い物する為に人里に行った時に里民の会話からもう五月になっている事を聞いたのを伝える。

「成程……」

伝えられた内容から、今が五月である事を実感した霊児が面倒臭そうな表情を浮べて立ち上がった時、

「なぁ……これって……」

魔理沙が何かを言い掛け様としたので、

「異変だろうな……」

言おうとしている事を遮るかの様に、異変であると霊児は口にした。
異変と口にした理由は、流石に五月になっても雪が溶けずに残っているのは可笑しいからだ。
そして、異変が起きていると言うのであれば霊児は解決の為に動かなければならない。
何故ならば霊児は今代の博麗、七十七代目博麗であるからである。
折角ダラダラと過ごしていたのにと思いながら、

「……しょうがねぇ。さっさと行って解決するか」

ストレッチを行なうかの様に首を回していく。
その時、魔理沙から期待を籠めた視線で見られている事に霊児は気付き、

「一緒に行くか?」

一緒に行くかと尋ねる。
尋ねられた魔理沙は満面の笑顔を浮かべ、

「おう!! 一緒に行くぜ!!」

一緒に行くと言う主張をし出した。
取り敢えず、魔理沙と一緒に異変解決に行く事になったからか、

「なら、ここ一寸待ってろ。準備して来るから」

準備をして来るから居間で待っている様に言い残し、霊児は居間を出て自分の部屋へと向って行く。
自分の部屋に着くと霊児は机の上に置いて在る鞘に収められている短剣を手に取り、左腰に装備し、

「さて、次はっと……」

同じ様に机の上に置かれ、鞘に収められている四本の短剣を隠し持つかの様に背中に装備する。
何時のも装備品を装備し終えた後、壁に掛けている羽織を着込む。
基本色が白で縁が赤く、背中に赤い文字で"七十七代目博麗"と書かれて羽織を。
装備する物を装備し、着込む物を着込んだ霊児はポケットに入れて在る夢美から貰ったグローブを手に着け、

「後は……」

忘れ物は無いかと言った感じで部屋の中を見渡す。
部屋の中を見渡した事で霊児の目に映った物は壁に掛けられている予備の羽織り四着に、柄頭のリング状の部分に釘の様な物を通して壁に掛けて在る五本の短剣。
更には、少し前に蔵の中で見付けた八咫鏡も霊児の目に映っている。
因みに、八咫鏡は三種の神器の一つであるからか一番高い位置に飾られている。
一通り部屋の中を見渡しても特に忘れ物が無い事が分かった霊児は懐に手を入れ、

「スペルカードは在る。封魔陣用のお札も何枚か在る」

スペルカード、封魔陣用のお札が在る事を確認した。
これで異変解決の道中で弾幕ごっこ、通常戦闘のどちらを仕掛けられても問題は無いであろう。
尤も、封魔陣用のお札は作るのが面倒なので積極的に使おうとはしないであろうが。
兎も角、準備が整ったと言う事で霊児は自分の部屋を後にして居間へと向かう。
再び居間に戻ると、腰を落ち着かせて卓袱台の上の小皿に入っている煎餅を食べている魔理沙の姿が霊児の目に映った。
居間で寛いでいた魔理沙であったが、霊児が戻って来た事に気付くと一気に煎餅を食べ干し、

「お、準備は終わったのか?」

準備は終わったのかと聞く。

「ああ」

聞かれた事に霊児が肯定の返事を返すと、

「なら……」

不敵な笑みを浮べながら魔理沙は立ち上がり、

「早速、行こうぜ」

早速行こうと言いなが霊児の隣に移動する。
魔理沙が自分の隣に来たタイミングで、

「ああ、行くか」

霊児は行くかと口にし、外に出るのと同時に空中へと躍り出た。
それに続く様に魔理沙も空中へと躍り出る。
二人揃って空中に躍り出た霊児と魔理沙は顔を見合わせ、異変を解決する為に博麗神社を後にした。





















異変を解決する為に博麗神社を後にし、幻想郷の何所かを飛んでいる中、

「……しっかし、五月とは思えない景色だな」

霊児は地表を見ながら五月とは思えない景色だと零す。
零された発言を聞き、

「だな。五月と言うより真冬だぜ、これ」

魔理沙も同意した。
空中から見下ろした幻想郷の光景は、一面雪景色と言えるもの。
はっきり言って、これが五月の景色とは思えないだろう。
異変を起こした者は一体何が目的で春を来させないと言う様な事を仕出かしたのかを霊児は頭の隅で考えつつ、

「そういや、魅魔ってどうしたんだ?」

ふと、魅魔はどうしたのかと言う事を魔理沙に聞いてみた。
魅魔だったら性格上、魔理沙と一緒に博麗神社にやって来て異変解決に誘って来ても可笑しくないからだ。
兎も角、魅魔の事を聞かれた魔理沙は、

「魅魔様か? 二、三日前に私の家に来て以来見てないな。多分、何所かその辺をプラプラとしてるんじゃないか?」

何所かその辺をブラブラしているのではないかと口にする。
魅魔も独自に今回の異変に付いて調べているのか、それとも魔界や夢幻世界と言った幻想郷以外の場所に遊びに行っているのか。
どちらにしろ、今回の異変解決では魅魔の同伴は無いと思った方が良いと言う判断を霊児が下した時、

「おーい!!」

おーいと言う声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に声に反応した二人は一旦止まり、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「「妹紅」」

二人の方に向かって来ている妹紅の姿が在った。
どうやら、声を掛けて来たのは妹紅であった様だ。
霊児と魔理沙が妹紅の存在を同時に、

「やっぱり霊児と魔理沙だったわね」

妹紅も霊児と魔理沙の存在を認識し、二人の近くで進行を止める。
互いが互いの存在を認識したタイミングで、

「どうしたんだ、こんな所で?」

取り敢えずと言った感じで、霊児は妹紅にこんな所でどうしたんだと問う。
問われた事に対し、

「答えても良いけど、その前に貴方達に聞きたい事が在るの。貴方達はこれから何所に向かおうとしているのかしら?」

答えても良いがその前に二人は何所に行こうとしていたのと言う事を問いたいと妹紅は返して来た。
問いを問いで返される事になったものの、

「異変解決」
「異変解決だぜ」

霊児と魔理沙の二人は気にした様子を見せず、異変解決だと答えた。
二人が何所に向かっているかを知った妹紅は軽い溜息を一つ吐き、

「……なら態々神社に向う事も無かったかな」

博麗神社に向かう必要は無かったかと呟く。
呟かれた内容が耳に入った霊児は少し疑問気な表情を浮べつつ、

「どう言う意味だ?」

どう言う意味かと尋ねると、

「さっき人里の方に用事があったから人里に行ったら、全然春が来ないって話を聞いたの。だから、その事を貴方に伝え様としてたのよ」

呟いた内容の意味を妹紅は霊児に教えた。
要するに、異変が起きている事を霊児に教える為に妹紅は博麗神社に行こうとしていたのだ。
とは言え、既に霊児が異変解決に向かっているので妹紅の行動は無駄に成ってしまったが。
取り敢えず、伝える事も伝えた事だし帰ろうかと妹紅が考えたタイミングで、

「そうだ、妹紅も一緒に異変解決に行かないか?」

魔理沙は妹紅も一緒に異変解決に行かないかと言う提案をする。
妹紅の実力なら足手纏いになる事も無いからか、霊児は特に何かを言う事はせずに妹紅の反応を待つ。
それはそうと、一緒に異変解決に行こうと誘われた妹紅は、

「うーん……」

少し考える素振りを見せるも、

「……そうね、御一緒させて貰おうかしら」

然程時間を掛けずに一緒に異変解決に行くと提案を受け入れた。
すると、

「よし、なら行こうぜ」

話を切り替えるかの様に霊児は行こうと言う言葉を発し、移動を再開する。
そんな霊児の後を追うかの様に、魔理沙と妹紅は霊児の後を追って行く。
暫しの間、のんびりと感じで進行していたのだが、

「そう言えば、言われるが儘に着いて来たけど異変を起こした犯人の居場所とかって分かってるの?」

ふと思い出したかの様に、妹紅は異変を起こした者が何所に居るかが分かっているのかと言う疑問を投げ掛けた。
投げ掛けられた疑問に対し、

「いや、分からん」

瞬時に分からないと答えを霊児は返しつつ、

「只、俺の勘がこの儘行けと言っている」

自身の勘がこの儘行けと言っている事を教える。

「勘って……」

勘で行き先を決めた霊児に妹紅は呆れた感情を抱いたが、

「何言ってんだ。霊児の勘が良く当たるのは妹紅も知ってるだろ」
「ああ……」

魔理沙から霊児の勘の良さに付いての指摘が入った為、妹紅は納得した表情を浮べた。
霊児の勘の良さに関しては、妹紅も知っているからだ。
霊児との付き合いが浅かったら、勘で進むと言った事をしている霊児に文句の言葉の一つや二つはぶつけていただろうと言う様な事を妹紅が思っている間に、

「行き先を決めたのは俺の勘だが……見てみろよ。異変解決の手掛かりは向こうから来てくれたみたいだぜ」

手掛かりが向こうからやって来たと霊児は口にし、進行を止める。
止まった霊児に続く様にして魔理沙と妹紅も進行を止め、前方に視線を移す。
霊児、魔理沙、妹紅の三人の進行方向上には、大量とも言える妖精達が姿が在った。
心做か、妖精達は熱り立っている様に見える。
だからか、

「あれって妖精よね? 何時もよりも好戦的な感じを受けるけど」

何時もよりも好戦的な妖精に妹紅は疑問を抱く。
妹紅が抱いた疑問に対し、

「前の異変の時……レミリアが起こした異変の時も妖精はあんな感じだったからな。あの時は紅い霧の影響で凶暴化してると考えてたけど……
若しかしたら、異変が起こると妖精は凶暴化するのかもな」

霊児は自分なりの推論を述べつつ、

「ま、前回は現れる妖精が強くなっていく方に異変の元凶が居たからな。今回もそれで元凶が居る所まで行けるだろ」

前回の異変の時と同じ様に妖精が強くなっていく方に向かえば異変を起こした者の所に行けるだろうと結論付ける。

「妖精が強くなっていく方に異変の首謀者が居るって話みたいだけど……本当にそんな単純な方法で異変の首謀者の所に着くの?」

異変を起こした者の場所へと辿り付く方法がそんな簡単な方法で大丈夫なのかと少し心配気な表情を浮べた妹紅に、

「着くんじゃないか? レミリアが起こした異変の時もそれでレミリアの所に辿り着けたし。まぁ、あの時は椛って言う案内人が居たけどな」

レミリアが起こした異変の時はそれでレミリアの所に辿り着けたのだから、今回もこれで大丈夫だろうと言う楽観的な言葉を魔理沙は掛けた。
その瞬間、前方に居る妖精達から弾幕が放たれる。
放たれた弾幕を見た三人は散開する事で弾幕を避け、現れた妖精を倒す為に弾幕を放っていく。
そして、現れた妖精達を一掃し終えると妹紅は弾幕を放つのを止め、

「……ほんと、凶暴化してるのね。何時もだったら他愛ない悪戯を仕掛けて来る程度なのに」

異変時の妖精が凶暴化している事に付いて実感したと漏らす。
漏らされた内容を聞いた魔理沙は妹紅と同じ様に弾幕を放つのを止め、

「何だ、妹紅はこの前の異変の時は外に出なかったのか?」

妹紅にレミリアが起こした異変の時は外出しなかったのかと問う。

「ええ。あの時は紅い霧が出た時点で家で大人しくしてたわね。どうせ、霊児が直ぐに解決すると思ってたし」
「何だ、妹紅も来れば良かったのに。この前の時は結構な人数で行って楽しかったぜ。なぁ」

問われた事を妹紅が肯定すると、前回の異変は大人数で行って楽しかったから妹紅も来れば良かったのにと言いながら魔理沙は霊児の方に顔を向ける。
顔を向けられた霊児は溜息を一つ吐きながら弾幕を放っていた腕を降ろし、

「俺は異変なんか起きなければもっと楽しく、のんびり過ごせたんだけどなぁ……」

異変さえ起きなければもっと楽しくてのんびり過ごせたと言う愚痴を零すが、

「ま、今回もさっさと片付けるさ」

直ぐに気持ちを切り替え、今回もさっさと片付けると言って移動を再開した。

「やれやれ、相変わらず霊児はグータラが好きね」
「ま、そこが霊児の良いところだぜ」

相変わらずとも言える霊児に妹紅と魔理沙は軽い評価を下しつつ、霊児の後を追って行く。
霊児、魔理沙、妹紅の三人が移動を再開してから言うもの、妖精達が幾度と無く現れては弾幕を放って来た。
三人の進行を阻むかの様に。
しかし、この三人の進行を阻む事は出来ずに三人の弾幕によって撃ち落されてしまう。
これを何度か繰り返し、前回の異変を踏まえたら今回も長い道のりに成りそうだと言う様な事を霊児が思い始めた辺りで、

「ふっふっふ、来たわね」

腕を組んだチルノが霊児達の進行方向上に現れた。
今まで現れた妖精とは明らかに雰囲気が違う妖精が現れたと言う事で霊児達は一旦進行を止め、

「何やってるんだ? こんな所で」

三人を代表するかの様に、霊児がチルノにこんな所で何をしてるのかと尋ねる。

「そこ等辺をプラプラと飛んでいたらあんた達を見付けてね。ちょっかい掛けてやろうと思ったのよ」

尋ねた事に対し、チルノが胸を張りながら霊児達に取って迷惑な事を言い出したので、

「俺達は急いでるんだ。お前の相手をしている暇は無いから、さっさと帰れ」

霊児は面倒臭そうな表情を浮べながらチルノにさっさと帰る様に言う。
が、

「そうは餅屋が降ろさないわよ!!」

大人しく帰ると言う選択肢はチルノには無かった様で、宣戦布告の様な事を口にしながら霊児に向けて指を突き付ける。

「餅屋じゃなくて問屋な。降ろさないのは」

チルノの宣戦布告内容に霊児は突っ込みを入れたが、チルノは全く気にした様子を見せず、

「ふん!! ここ最近はずっと調子が良いのよ!! だから、今日こそあんたをケチョンケチョンにしてやるわ!!」

ここ最近はずっと調子が良い事を主張をし出した。
今は冬が非常に長くなっていると言う事態であるので、氷の妖精であるチルノの調子は現在も絶好調なのだろう。
となれば、今までの道中に出て来た妖精の様に楽に倒す事は出来ないと考えた方が良い。
今のチルノの強さは真冬の状態と変わらないだろうと言う判断を霊児は下し、チルノに攻撃を加え様とした刹那、

「あれは……」

大量のナイフがチルノの側面に向かって行くのが霊児の目に映った。
霊児に注意を向けていたチルノには側面から迫り来るナイフに対処する事が出来ず、チルノはナイフの直撃を全て受けて墜落して行ってしまう。
墜落して行っているチルノを尻目に、霊児達はナイフが飛んで来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、咲夜の姿が在った。
やはりと言うべきか、チルノにナイフを投擲したのは咲夜であった様だ。
霊児、魔理沙、妹紅の三人が咲夜の存在を認識したのと同時に、咲夜は三人に近付き、

「こんにちは」

軽い挨拶の言葉を掛け、

「こんな所に居るって事は、貴方達もこの冬を終わらせる積りなのかしら?」

霊児達も冬を終わらせる積りなのかと聞く。

「ああ、そうだ」

聞かれた事に霊児は肯定の返事をしつつ、

「そう言うお前もそうか?」

咲夜も冬を終わらせる積りなのかと聞き返す。

「ええ、紅魔館の燃料が切れ掛かっているからね。完全に切れる前にこの冬を終わらせたいのよ」

聞き返された咲夜は溜息混じり紅魔館の燃料が切れ掛かっている事を霊児達に教え、

「それにしても、冬がこんなに長く続くとは思わなかったわ。この長い冬は異変の様だけど、貴方は気付かなかったの?」

この長い冬を異変とは思わなかったのかと口にしながら呆れた表情で霊児を見る。
確かに、冬と言う季節が五月になるまで続いていたのにこれを異変と気付けなかったのは間抜けと言われても仕方が無い。
幾ら碌に日付を確認しない様な生活をしていたとしてもだ。
だが、今になって冬を止めに来た咲夜も今日初めて五月であると言う事を知ったと言う可能性が存在する。
だからか、

「そう言うお前は気付いてたのか? 五月になっても冬が終わらずに春が来ないって事に」

その事を霊児は咲夜に指摘する。
指摘された咲夜は、

「………………………………………………………………」

何も言わず、霊児達から顔を逸らしてしまった。
心做か、若干頬が赤く染まっている様に見える。
どうやら、咲夜も冬が五月まで続いている事に気付けなかった様だ。
おそらく、紅魔館の燃料が切れ掛かった事で漸く異変に気付いたのだろう。
まぁ、結局はここに居る全員が間抜けと言う事になるが。
兎も角、顔を逸らしていた咲夜であったが、

「……そ、それはそうと異変解決に向うのなら私も御一緒させて貰っても良いかしら?」

話を変えるかの様に顔を霊児達の方に戻し、自分も同行しても良いかと尋ねる。
咲夜の実力なら足手纏いになる事は無いからか、

「別に良いぞ」

あっさりと咲夜の同行を霊児は認めた。
同行者が一人増えた後、

「にしても、人生分からないものだな。異変解決を邪魔した奴と組んで異変を解決するなんてよ」
「あら、私も思わなかったわ。お嬢様に害を成した者と一緒に組んで異変を解決する事になるなんてね」

魔理沙と咲夜が軽口を叩き合ったのを合図にしたかの様に霊児達は移動を再開する。
新たに咲夜と言う同行者を得たが、妖精達の襲撃が止んだ訳では無い。
といっても、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人に取って敵では無かったが。
半ば単純作業の様な形で妖精達を撃ち落している中、

「それにしても、放つのは弾じゃなくてナイフってのも中々過激よね」

ナイフで妖精達を撃ち落している咲夜を、妹紅は中々過激だと評した。

「あら、ナイフの刀身は私の霊力でコーティングされて刺さらない様に成ってるからそれ程過激って訳ではないわよ」

過激と評されたは咲夜がナイフの刀身を自身の霊力でコーティングしているのでナイフが何かに刺さる事は無いと言うと、

「そうなの?」

妹紅は少し驚いた表情を咲夜に向ける。
妹紅から自身に向けられている表情を見て、

「ええ、そうなの。弾幕ごっこは過失を除いた殺傷は禁止だからナイフの刀身を霊力でコーティングする癖を付けたのよ。こうすば、ナイフが相手に刺さる事は無い
からね。会話が出来る相手は弾幕ごっこで挑んでくる事が多いし。それに、ナイフが相手に刺さったら手入れとかが面倒なのよね。私のナイフ、数が多いから」

肯定の言葉を共に咲夜は少々物騒な補足を行なう。
要するに、咲夜は血で汚れたナイフの手入れは面倒だからナイフが刺さらない様にしていると言っているのだ。
補足を受け、紅魔館のメイド長は物騒だなと言う感想を妹紅が抱いた時、

「そう言えば、咲夜は目指すべき場所は分かっているのか?」

目指すべき場所は分かってるのかと言う疑問が魔理沙から咲夜に投げ掛けられる。

「紅魔館を出発する前にパチュリー様に何所へ向えば良いかと尋ねたら、暖かく成っている方に行けと言う助言を頂いたのよ」
「何だ、事前に情報を得て来たのか」

投げ掛けられた疑問にパチュリーから情報を得たと言う事を咲夜が口にすると、魔理沙は感心した表情を浮べた。

「そりゃそうでしょ。お嬢様に冬を終わらせて来るって大見え切った手前、確実に解決する為にある程度の前情報は得ないとね。と言うより、貴方達も
何かしらの情報を得て出発したんじゃ無いの?」

事前に前情報を得て来るのは当然だと言いながら、咲夜は霊児達にそっちも何らかの情報を得て来たのでは無いのかと問う。

「いんや。私達は霊児の勘頼りだな」
「勘って……ああ、そう言えば霊児の勘はかなりの精度を誇ってたわね」

問われた事に魔理沙が霊児の勘頼りと述べた事で咲夜は呆れた表情を浮べたが、直ぐに霊児の勘の良さを思い出して表情を納得したものに変え、

「霊児の勘ってある意味お嬢様の能力と良い勝負ね」

レミリアの能力と霊児の勘はある意味良い勝負をしていると呟いた。
軽い会話を交わしつつ、現れて来る妖精を蹴散らしながら霊児達は先へと進んで行く。
それから幾らか経つと、妖精の襲撃が収まったので霊児達は攻撃を止め、

「やっと襲撃が止んだか。ずっと襲撃が止んだ儘なら良いんだけどな」
「あー……流石にそれは無理じゃないか?」
「そうね、妖精は何所にでも居る存在だし。また出て来るわね」
「異変の時の妖精ってこんなにも攻撃的になるのね。買出しの時に妖精に会ってもこんな風に攻撃された事は無いから、少し驚いたわ」

霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人は妖精に付いての話を交わしていった。
そんな時、

「あら、そんな人数で何所へ行こうと言うのかしら?」

白い髪を肩口辺りまで揃え、青と白を基調とした服を着た女性が霊児達の前に現れる。
妖精以外の者が現れたからか、霊児達は進行を止め、

「誰だ、お前?」

四人を代表するかの様に、霊児が女性に誰かと聞く。

「私の名はレティ・ホワイトロック。冬の妖怪よ」

聞かれた女性は、すんなりと軽い自己紹介を行なった。
冬の妖怪と言う発言から、

「冬の妖怪? じゃあ、お前がこの異変の犯人なのか?」

レティが今回の異変の犯人ではないかと魔理沙は考える。
流石にそれは安直ではと霊児、妹紅、咲夜の三人が思った瞬間、

「そうよ、私が犯人よ」

レティは自分が犯人だと言い出した。
まだ、レティを犯人であると示す証拠など何も無いと言うのにだ。
只の愉快犯かと言う可能性が頭に過ぎりつつも、

「……なぁ、あいつが犯人だと思うか?」

魔理沙は霊児にレティが犯人かどうかと言う相談する。

「俺の勘はあいつが犯人じゃないと言っているが……」

相談された霊児は自身の勘ではレティが犯人では無いと言っている事を漏らし、レティの方に顔を向けた。
顔を向けた先に居るレティが何処か好戦的な笑みを浮べていた為、

「あれ、どう考えても俺達の邪魔をするって言う顔付きだな」

簡単にここを通してはくれないだろうと言う様な事を霊児は理解する。

「そうね」

霊児が理解した事に咲夜は同意を示し、

「こう言う状況下で自分が犯人だと言う輩は余程の馬鹿か腕に自身が有るか愉快犯の三つ。彼女は……多分愉快犯ね」

自分なりの考えを零す。
個人個人の思惑や考えがどうであれ、レティを片付けなければ先に進めない事が分かったので、

「あいつが犯人であろうがなかろうが、倒さなきゃ先へ進めないって言うんであれば……」

さっさと片付け様と言った感じで霊児は前に出ようとしたが、

「それなら私が行くわ」

その前に自分が行くと行って妹紅が一歩前に出た。

「別に俺が行って良かったんだが……」
「気にしないで。折角異変解決に付いて来たんだし、何もしないって言うのはね。それに、最近は輝夜の奴と戦ってなくて少し体が鈍っているから丁度良いのよ」

別に自分が出ても良かったと漏らした霊児に、妹紅は少し体が鈍っているから丁度良いと返す。
要は、レティで準備運動をしたいと言う事であろう。
理由はどうであれ、妹紅がやる気になっている様なので、

「なら、任せるぜ」
「それじゃ、私等は見学させて貰うぜ」
「では、お手並み拝見させて貰うわね」

霊児、魔理沙、咲夜の三人はこの場を妹紅に任せる事にし、少し離れた場所に移動する。
三人が離れ切ったタイミングで、

「そう言えば、名乗られたのに私からは名乗ってなかったわね。私の名は藤原妹紅。健康マニアの焼き鳥屋よ」

思い出したかの様に妹紅は軽い自己紹介を行なう。
そして、

「藤原妹紅ね。それはそうと、一人で良いの? 私としては全員で掛かって来ても良かったんだけど」
「随分な自信ね。それが自信なのか過信なのか……私が確かめて上げるわ」

レティと妹紅が軽い挑発をし合い、戦いが始まると思われた刹那、

「……と、そうだ。普通に戦う? それとも弾幕ごっこ?」

普通に戦うか、それとも弾幕ごっこで戦うかを妹紅はレティに尋ねる。

「んー……折角だし、弾幕ごっこでやりましょうか」

尋ねられたレティが戦闘方法を弾幕ごっこに決めたのと同時に、妹紅とレティの弾幕ごっこが始まった。
弾幕ごっこが始まると、妹紅とレティはそれぞれのペースで弾幕を放っていく。
先ずは様子見と言った感じの様だ。
弾幕ごっこ開始当初はお互い余裕が感じられるものであったが、時間が経つに連れてレティの表情が険しいものに変わっていった。
何故かと言うと、妹紅の放つ弾幕の量、弾速、密度の全てがレティの弾幕の上をいっているからだ。
無論、ここから妹紅と同レベルの弾幕を放つ事はレティにも出来る。
だが、それをすると妹紅も弾幕のレベルを上げて来る事は必至。
つまり、レティが弾幕のレベルを上げてもイタチごっこになってしまうのである。
とは言え、妹紅とレティの戦いは弾幕ごっこ。
如何に妹紅の弾幕が苛烈であっても、絶対に避ける事が出来ないと言うものではない。
しかし、

「く……」

妹紅の弾幕を前にして冷静さを欠いているレティでは完全に避け切る事は厳しいと言うもの。
まぁ、出会い頭に会った者がかなりの実力者と言うのはレティに取って想定外の事であった筈なので冷静さを欠いていても仕方が無いと言えば仕方が無い。
尤も、仮にレティが冷静な状態であったとしても妹紅の弾幕を避け切る事は相当難しいであろうが。
兎も角、自分の方が不利と言う事もあってかレティは次第に放つ弾幕の量を抑えて回避に専念してしていく。
が、只回避するだけジリ貧だ。
故に、何か逆転の一手を放つ必要が有ると考えたレティは懐に手を入れる。
懐に手を入れたレティは懐からスペルカードを取り出し、

「冬符『フラワーウィザラウェイ』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動したの同時にレティ周囲に花を思わせる様な形で弾幕が配置され、花が砕け散る様な感じで弾幕が放たれる。
宛ら、冬の寒さで花が凍って砕け散る様を連想させる様な弾幕だ。
迫り来る弾幕を視界に入れた妹紅は、

「中々幻想的なスペルカードね」

中々幻想的なスペルカードだと言う感想を抱きつつ、弾幕を放つの止めて回避行動に集中し出す。
回避に集中している事もあってか、余裕が感じられる動きで妹紅はレティの弾幕を避けていく。
だと言うのに、

「……成程、これも簡単に避けて来るか」

レティは大して驚いてはいなかった。
スペルカードの発動によって放たれた弾幕を苦も無く避けられていると言うのにだ。

「………………………………………………………………」

レティの様子からまだ何か手でもあるのではと推察し、警戒を強め始めた時、

「……ん?」

ある事に妹紅は気付いた。
気付いた事と言うのは気温。
元々五月とは思えない程に低かった気温が、更に下がったのだ。
幾ら何でもこんな急激に気温が下がる事など無いので、何か絡繰があると妹紅が判断した刹那、

「ふふ、気付いた様ね」

得意気な表情をレティは浮かべ、妹紅に気付いた様ねと声を掛ける。
レティが浮べている表情と掛けられた声の中身から、

「この急激に下がった気温……貴女の仕業ね」

急激に気温が下がった原因はレティにある事を妹紅は理解した。
理解した内容は合っていた様で、

「そう、私の仕業。私の能力は"寒気を操る程度の能力"。それを使ってここ等一帯の気温を下げさせて貰ったわ」

肯定の返事と共にレティは自分の能力に付いて説明し出す。
"寒気を操る程度の能力"。
字面と冬の妖怪と言う部分から妹紅はレティの能力の中身を何となくではあるが察し、

「へぇ……結構変わった能力を持ってるのね」

結構変わった能力だと評した。
気温を下げていっていると言うのに妹紅は大して動揺していないからか、

「何時までそんな余裕が続くかしら? 気温はどんどん下がっていく。寒くなればなる程に貴女の動きは鈍くなっていき、最後には私の弾幕全てが
命中するって言う事態になるわよ」

この儘気温が下がり続けたらどうなるかをレティは妹紅に教える。
確かに、寒さで体温を奪われれば動きが鈍くなるのは当然の事。
だからか、

「そうね。確かに貴女の言う通りだわ」

レティが教えた事を妹紅は肯定した。
事実、寒さで妹紅の体は震え始めている。
おまけに回避行動を取る際の動きも鈍くなっていた。
これでは、レティの弾幕の直撃を受けて敗北するのも時間の問題であろう。
しかし、そんな絶体絶命のピンチと言える様な状況だと言うのに、

「ふふ……」

妹紅は不敵な笑みを浮べていた。
こんな状況で不敵な笑みを浮べている妹紅にレティが一寸した疑問を抱いた瞬間、

「でも……これならどうかしら?」

妹紅の背中から炎の翼が発生したではないか。

「ッ!! 炎!?」

発生した炎の翼を見たレティは、驚きの表情を浮べる。
それもそうだろう。
炎など使われたら、寒さで妹紅を凍えさせて動きを鈍らせると言うレティの作戦が台無しになってしまうからだ。

「これで、寒さで私の動きを鈍らせると言う作戦は使えなくなったわね」
「く……」

妹紅に自分の作戦が崩れた事を指摘されたレティは、悔しそうに声を漏らす。
ある意味、レティがスペルカードを発動し始めた辺りにまで状況が戻ったのだが、

「それはそうと、中々幻想的なスペルカードを見せてくれたお礼に今度は私のスペルカードを見せて上げる」

戻った状況を今直ぐ変えるかの様に妹紅は懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、

「不滅『フェニックスの尾』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると妹紅から光る弾が幾つか射出され、射出された弾から大量の弾幕がばら撒かれる。
更に、少し大き目の弾が妹紅から放たれた。
これでもかと言わんばかり量の弾幕を見たレティは、

「く……」

スペルカードの発動を止め、回避行動に専念し始める。
最初の方こそちゃんと避ける事は出来ていたが時間が経つに連れてレティの体に妹紅の弾幕が掠り始めていく。
掠り始めて来たのだから直撃するのも時間の問題だとレティは判断し、回避行動を弾と弾の間に体を滑り込ませると言うものに変える。
だが、

「ッ!?」

体を滑り込ませた場所の正面に、少し大き目の弾が存在していた。
だからか、レティはこう思ってしまう。
判断をミスったと。
同時に、妹紅が放つ弾が何処にあるのかも頭に入れていなかった自分の迂闊さを嘆いた。
とは言え、何もしなければ直撃を受ける事になる。
なので、

「くっ!!」

レティは咄嗟に両腕を交差し、迫り来る弾に防ぐ。
両腕を交差させた事で直撃するは避けれたものの、着弾の影響で体勢を崩してしまった。
そして、体勢を崩したレティに妹紅の弾幕が次々と命中していく。
レティに弾幕が当たり始めてから幾らか経つと、弾幕の中を抜けるかの様に墜落して行っているレティの姿が妹紅の目に映った。
墜落に見せ掛けて弾幕の射線上から抜け出したのではと考えた妹紅は墜落して行っているレティをジッと見詰めるが、

「……復帰して来ないわね」

墜落しているレティは復帰する素振りを見せず、どんどんと高度を下げて行く。
気絶でもしたのだろうか。
仮にそうだとしても、レティは妖怪だ。
今居る高度からその儘地面に落下したとしても、大した怪我を負う事も無いだろう。
そう思いながら勝負は決したと判断した妹紅はスペルカードの発動を止め、霊児達が居る方へと戻って行った。























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