レティを妹紅が弾幕ごっこで倒した後、

「ただいま」

ただいまと言いながら妹紅は霊児達の元へと戻って行った。
戻って来た妹紅に、

「おかえり」

魔理沙が出迎えの言葉を掛けると、

「それにしても、この異変とは全然関係無いのに勝負を挑まれたけど……こう言う事ってよくある事なの?」

異変と全く関係無い者に勝負を挑まれるのはよくある事なのかと言う疑問を妹紅は霊児に問う。
問われた霊児はレミリアが起こした異変を解決しに行った時の事を思い返し、

「んー……この前の異変、レミリアが起こした異変の時にも異変とは全く関係が無い奴等と戦う事になったな」

レミリアの異変の時にも異変とは関係無い者と戦ったと言う事を話す。
話した内容が耳に入った事で、魔理沙もレミリアが起こした異変を解決しに向かった時の事を思い出し、

「そういやそうだったな。まぁ、ルーミアとチルノ位だったけどな。異変と関係無かったのは」

ルーミアとチルノと言ったあの時戦った異変とは全く関係無かった者の名を口にする。
その後、霊児と魔理沙は咲夜の方に顔を向けた。
顔を向けられた咲夜は居心地は悪そな表情を浮べながら顔を背け、

「それはそれとして、そろそろ先へ進みませんか?」

そろそろ先に進まないかと言う提案をし出す。
露骨な話の逸らし方ではあったが、咲夜の提案は尤もなもの。
霊児達は異変解決に来ているのであって、雑談に華を咲かせる為にやって来ているのでは無いのだから。
なので、霊児達は気持ちを切り替えるかの様に体を進行方向上に向けて再び移動を再開した。





















移動を再開してからの道のりは、順調と言って良い程のものであった。
進んでいる途中で妖精による襲撃を受けたものの、それは些細な事。
霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の敵では無かったからだ。
そんな道中の中で、異変の元凶が居る所まで後どれ位だと言う事を霊児が考え始めた瞬間、

「「「「ッ!!」」」」

何の前触れも無く、霊児達が見ている景色に変化が現れた。
景色の変化に気付いた霊児達は進行を止め、身構える。
四人が身構えてから少しすると変化していた景色が落ち着き、見えている景色が変わったと言う事を四人は理解した。
見えている景色が変わったと言っても、別世界に転移させられたと言う訳では無い。
いや、ある意味別世界に転移したと言っても良いだろう。
何故ならば、

「雪が……無い」

見える景色全てに雪が無かったからだ。
現在の幻想郷は異変の影響で春が来なく、何所を見ても白銀の世界と言う状態だ。
だと言うのに、ここ等一帯には雪が見えない。
おまけに、春と言って良い程に暖かいのだ。
まるで、ここにだけ春が来ているかの様に。
急に冬から春に変わったかの様な事態に少し驚くも、霊児の頭にある可能性が過ぎった。
過ぎった可能性と言うのは、ここに異変の元凶が居ると言うもの。
ここにだけ春が来ているのだから、その可能性に思い至るのはある意味当然であろう。
因みに、霊児が思い至った可能性には咲夜も思い至っていた様で、

「ここら一帯に雪が無いと言う事は……ここに異変の元凶が居るのかしら?」

思い至った可能性が正しいかどうかを咲夜は霊児に聞く。
聞かれた霊児は少し考える素振りを見せながら、

「んー……俺の勘じゃここに異変の元凶は居ないって言ってるんだが……」

自身の勘ではここに異変の元凶が居るとは言っていないと漏らす。
漏らされた発言を聞き、

「霊児の勘を疑ってる訳じゃ無いけど……思いっ切り怪しいわよね、ここ」

妹紅は思いっ切りここが怪しいと口にする。
確かに、幻想郷中が冬だと言うのにここだけ春と言っても良い状況なのだ。
これで怪しく思うなと言うのは無理だろう。
だからか、

「だよな。思いっ切り怪しいぜ」

魔理沙も妹紅が口にしていた事に同意を示した。
それに続く様に、

「そうね、仮にここに異変の元凶が居なかったとしてもここを調べて見る価値は有るわね。例えば、ここにだけ春が来ている理由とかが分かるかもしれないわ」

咲夜からこの場所を調べて見る価値は有ると言う意見が出される。
霊児以外の三人からここが怪しいと言う発言が出されたからか、

「なら、ここを少し調べてみるか?」

ここを調べてみるかと言う提案を霊児は行なう。
行なわれた提案に同意するかの様に魔理沙、妹紅、咲夜の三人が頷いた。
取り敢えずこれから予定が決まった事で、一同は眼下に見える光景を少し注意深く観察しながら先へと進んで行く。

「……にしても、本当にここだけ春が来てるって感じだな」
「本当ね。何処を見ても冬の要素が欠片も無いわ」
「全く、羨ましい限りだわ」

先に進みながらここにだけ春が来ている事に羨む様な発言を魔理沙、妹紅、咲夜の三人が零していると、

「あれは……民家?」

霊児の目に民家が映った。
補足して置くと、映った民家の数は一軒や二軒ではない。
結構な数の民家が建っているのが霊児の目に映ったのだ。
霊児が民家の存在に気付いた辺りで妹紅は民家の存在を目に入れ、

「驚いた。人里以外にもこんな場所が在ったのね」

驚いたと言った表情を浮べた。
驚いている妹紅に対し、

「天狗の住処ってのなら納得出来るんだが……ここに天狗の気配は感じないしな。勿論、人間も」

霊児は疑問気な表情を浮べつつ、天狗の住処だったら納得出来た事と天狗と人間の気配が感じない事を述べる。
天狗も人間も住んでは居ないと言うのに、存在している多数の民家。
この事に付いて霊児が思案し様とした刹那、

「あら、鳥居も在るわね」

鳥居の存在が咲夜の口から語られた。
鳥居と言う単語に反応した霊児は、咲夜が視線を向けている方に顔を向ける。
顔を向けた先には紅い色をした大きな鳥居が建っていた。
民家だけではなく鳥居まで存在していた事に霊児が一寸した驚きの感情を抱いている間に、

「鳥居は在るけど、神社は見当たらないな」

鳥居は在るが神社は見当たらないと言い、魔理沙はキョロキョロと周囲を見渡していく。
住む者など居ないと言うのに建っている民家に神社が無いと言うのに建っている鳥居。
どう考えてもここ等一帯が怪しんでくれと言っている様なもので、

「んー……取り敢えず、ここを本格的に調べてみ様ぜ」

ここを本格的に調べ様と言う提案を霊児は行なう。
行なわれた提案に同意するかの様に魔理沙、妹紅、咲夜の三人は頷いた。
全員が全員ここを調べる気が在るからか、霊児達は示し合わせたかの様に降下して地に足を着ける。
そして、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人は分かれてここ等一帯を調べ始めた。





















霊児達が沢山の民家や鳥居が在る場所を調べ始めてから暫らく経った頃。
霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人は一軒の民家に集まり、

「調べてみて、何か分かった事はあったか?」
「本当に人っ子一人居ないって感じだったぜ」
「予想は着いていた事だけど、ここ等一帯は雪を含めて冬を感じる事が出来る要素は何処にも無かったわ。あ、それとここって結構広いみたいよ」
「私は民家の様子などを見て来たけど、無人とは思えない程に綺麗だったわね。まるで、定期的に掃除されいるみたいだったわ」

調べた内容を報告し合っていった。
報告された内容は今まで分かっていたものの信憑性を上げるものであったり、新たな謎を呼ぶものであったりと言った感じの様だ。
魔理沙、妹紅、咲夜の報告が終わったので、次は霊児の番かと思われた時、

「そうそう、作り終えたばかりとしか思えない料理……和食などが置いて在る民家が何件が在ったわね。ここに在る鍋料理と同じで」

思い出したかの様に今居る民家と同じ様に幾つかの民家にも出来たばかりの和食が置いて在ったと言う補足を咲夜は行なう。
咲夜の補足内容を聞き、

「ここに集合した時に少し調べたけど、この鍋には毒物とかそう言った類の物は入って無いみたいだぜ」

今居る民家に在る鍋には毒物と言った類の物は入っていないと言う事を魔理沙は話す。
食べ頃と言っても良い程の鍋が安全である事が分かったからか、霊児は急な空腹感を覚えた。
まぁ、腹の中に大した物を入れずに異変解決に赴いたのだ。
腹が減るのも仕方が無いだろう。
それはさて置き、腹が減って何とやらと言う事で、

「なら、休憩を兼ねてこれ食べるか?」

霊児はこの鍋物を食べるかと言う提案をする。
提案を受けた魔理沙、妹紅、咲夜の三人は、

「そうだな」
「そうね」
「そうしましょうか」

大した間も無く霊児の提案を受け入れた。
どうやら、霊児以外の面々も腹を空かしていた様だ。
ともあれ、ここで食事を取る事が決まったからか一同は近くに置いて在った箸を取り、

「それにしても、温まるわ。ここら一帯を出ればまた冷えるだろうし、これを食べて温まるのも良いかもしれないわね」
「そうね。それはそうと、私は鍋料理は余り作らないのだけど……これは中々美味しいし今度からは鍋料理も作ってみ様かしら」
「紅魔館は洋食が多いからな。ま、鍋料理は楽で良いけどな」
「てか、霊児は私が作らないと春夏秋冬朝昼晩問わず毎日鍋料理だけで済まそうとするだろ」

妹紅、咲夜、霊児、魔理沙は鍋料理を食べながら雑談を交わしていく。
雑談を交わしながら箸を進め、ある程度腹が膨れた辺りで、

「処で、霊児は何かを見付けたり分かったりしたものはあったのかしら?」

霊児からの報告を咲夜は聞こうとする。
聞かれた霊児は一旦箸を止め、

「ああ。見付けたのもあるが、俺が見たものとお前等の話を聞いてここがどう言った場所なのかが分かった」

ここがどう言った場所であるかが分かったと返す。
新たな情報を得る処か、地名まで調べが付いているとは思わなかったからか、

「そ、それは本当なの?」

驚いた表情を妹紅は浮かべ、本当なのか言う確認を取りに掛かる。
取られた確認に、

「ああ」

肯定の返事を霊児がすると、

「それじゃあ、ここは何所なのかしら?」

霊児以外の三人を代表するかの様に咲夜がここは何所なのかと霊児に問う。
その瞬間、

「ここはマヨヒガだ」

マヨヒガと言う単語が霊児の口から発せられた。
霊児が発したマヨヒガと言う単語を聞き、

「マヨヒガって……あのマヨヒガ!?」

またまた驚いた表情を妹紅は浮べてしまう。

「ああ」
「ここがマヨヒガ……」

驚いている妹紅にここがマヨヒガである事を霊児が断言すると、妹紅は改めてと言った感じで周囲を見渡し、

「私も結構長い間生きて来たけど、マヨヒガに辿り着いたのは生まれて初めてね」

マヨヒガに来るのは長く生きて来た自分でも初めてだと漏らし、感慨深いと言った表情を浮べた。
マヨヒガと言う名称には聞き覚えがあったからか、

「マヨヒガってあれだろ? そこにある食器とかそう言った類の物を持って帰ると幸運などが訪れるって言う……」

魔理沙はマヨヒガに付いて知っている知識を口にしていく。

「ああ、確かにそう言う言い伝え有るな」

口にされた内容は合っていたからか、霊児はそう言う言い伝えは確かに有ると言う。

「なら、ここに在る食器などの類は持って帰りたいのだけど……良いのかしら?」

妹紅、魔理沙、霊児の三人の会話を聞き、ここに在る食器などの類を持って帰りたいのだが良いのかと言う疑問を咲夜は述べる。
述べられた疑問に対し、

「別に良いんじゃねぇか? 元々マヨヒガには誰も住んでないんだしさ。ここの物を持ってったって誰も文句は言わないだろ」

マヨヒガには誰も住んでいないのだからここの物を持って行っても誰も文句は言わないだろう言いながら霊児は置いて在った茶を啜り、

「話を戻すが、ここ等一帯が春だって言うのはここがマヨヒガだからだな。マヨヒガは滅多な事じゃ来る事が出来ない場所だ。それ故に幻想郷中から春を
奪った奴はここ等一帯の春を奪えなかったって事になる」

話を戻すかの様にマヨヒガが春の儘である理由を話す。

「成程。それでここ、マヨヒガは春だったのか」
「幻想郷中を冬にした儘って言う事を仕出かした輩も、来る事が出来なかった場所を冬にさせた儘……って訳にいかなった様ね」
「羨ましい限りね、このマヨヒガって言う場所は」

霊児の話を耳に入れた魔理沙、妹紅、咲夜の三人が納得した表情を浮べている間に、

「取り敢えず、腹を膨れさせたらここにある物を持って出発するって事で良いか?」

これからの予定を霊児は立て、立てた予定で良いかと三人に聞く。
聞かれた三人は無言で頷いて肯定の意を示したので、霊児は今立てた予定に決まった事を理解する。
そして、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人は再び箸を動かして鍋料理を食べていった。





















鍋料理を食べ終え、自分達が欲しい物を集め終わった後、

「結構な量が集まったな」

ポツリと、霊児は結構な量が集まったなと呟く。
霊児の目の前には茶碗に食器に座布団など、様々な日用品が大量に鎮座していた。
更には、箪笥何て物もある。
霊児がそう呟くのも無理はない。
そんな呟きを零した霊児の視線の先に居る魔理沙、妹紅、咲夜の三人は、

「私は使えそうな物を一通りな。こう言う物は手に入れられるだけ手に入れないと何か勿体無いだろ」
「私の家にある箪笥は結構ガタが来ててね。丁度良い機会だと思って……」
「紅魔館は西洋の食器などが多いからね。少しは東洋の食器などを増やそうと思ったの」

口々に持って帰る物を大量したかの理由を説明していく。
まぁ、マヨヒガ何て場所は滅多に来る事が出来ないのだ。
マヨヒガに在る物を沢山持って帰りたいと思うのは、ある意味当然かもしれない。
それはそれとして、

「ここまで集めて置いて何だけど、これどうする? 流石にこれ等全てを持って先に進むとなると邪魔にしかならないぜ」

これだけの物をどうやって運ぶのかと言う疑問を魔理沙は口にする。
確かに、これだけの荷物を持って異変解決に赴くと言うのは流石に無理があるだろう。
かと言って、一旦荷物を置きに戻ると言うのは時間の無駄だ。
ではどうするべきかと魔理沙、妹紅、咲夜の三人が頭を悩ませ様とした時、

「なら俺の部屋にでも送って置くか」

自分の部屋に送って置こうかと言い、霊児は纏められている荷物に掌を向ける。
すると、纏められていた荷物が一瞬で消えてしまった。
一瞬で荷物が消えた様子を見て、

「二重結界式移動術で送ったのか」

魔理沙は霊児が荷物を消し去った方法に当たりを付ける。
付けた当たりは正しかったからか、

「ああ。これなら余計な荷物をさっさと送れるしな」

肯定の返事をすると、

「便利な技よね、それ。羨ましいわ」

二重結界式移動術と言う技を羨む発言を咲夜は零す。
零された発言に対し、

「時間を操れる能力を持ってるお前がそれを言うか?」

少し呆れた声色で時間を操れるお前が言うな突っ込みを霊児は入れつつも、

「ま、便利と言えば便利だな。食料庫にこれの術式刻んであるから畑で取れた野菜を直接送れるし」

二重結界式移動術の便利性の一つを語った。

「元々は戦闘用に作った技だって言ってたけど、それ以外の事に使いまくりね」

元々、二重結界式移動術は戦闘用に作った技であるのに戦闘以外の用途で使ってばかりと言う感想を妹紅は抱いたが、

「そう言うお前だって、自分で生み出した炎を戦闘だけじゃなく日常生活にも使っているだろ」

妹紅も自分の力で生み出した炎を日常生活に使っているだろうと言う指摘を霊児から受けてしまい、妹紅は少し頬を赤く染めながら顔を霊児から逸らしてしまう。
因みに、魔理沙と咲夜も若干頬を赤く染めていた。
どうやら、この二人も自分の能力などを日常生活で多用している様だ。
まぁ、魔法も時間操作も日常生活で役立てる場面は幾らでも存在する。
なので、そう言った力や能力を日常生活で使うのは仕方が無いと言えば仕方が無い。
ともあれ、何だか場の空気が微妙なものになり始めてしまったので、

「さて、休憩を終わった事だしさっさと先へ進もうぜ」

場の空気を変えるかの様に霊児はそろそろ出発し様と言う旨を三人に伝えた。
伝えられた旨を受けた魔理沙、妹紅、咲夜の三人は、

「そうだな、そうするか」
「そうね、休憩も腹拵えも十分にした事だし」
「余り長居すると、異変解決に掛かる時間が増えそうだしね」

出発すると言う旨を受け入れ、出口へと向かって行く。
出口に向かって行った三人に続く様にして、霊児も出口へと向かう。
そして、全員が外に出ると示し合わせたかの様に霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人は空中に躍り出て移動を再開する。
移動を再開してから幾らかすると、大量の妖精が現れた。
幾ら滅多の来る事の出来ないマヨヒガと言えど、自然は普通に存在している。
大量の妖精がマヨヒガに居たとしても、何の不思議は無いだろう。
だからか、霊児達は驚く事無く弾幕を放って妖精達を撃ち落していく。
そんな中、

「こんな風に大量の妖精が襲い掛かって来るって事は、マヨヒガにも異変の影響が出て来てるって事?」

大量とも言える数の妖精が襲い掛かって来ているのはマヨヒガにも異変の影響が出ているのかと言う疑問を妹紅は口にする。
口にされた内容に返す様に、

「マヨヒガも幻想郷の一部。そして、今回の異変は幻想郷中に及んでいる。幾らマヨヒガにだけ春が来ていると言っても、異変の影響は幾らか受けて
いるだろうな」

霊児はマヨヒガも幻想郷の一部なのだから異変の影響を幾らか受けているのだろうなと話す。

「やれやれ、ここは春なのだから異変の影響は無いと思っていたのだけど……そうそう上手くはいかないわね」

マヨヒガで位なら楽が出来るかもしれないと思っていたのと言う愚痴の様なものを咲夜が零した瞬間、

「あんた達、何処から入って来たの?」

何所から入って来たのかと言う言葉と共に、妖精では無い何者かが霊児達の前に現れた。
妖精以外の者が現れたと言う事もあってか霊児達は弾幕を放つのと進行を止め、現れた者の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居た者は、翠色の帽子を被り肩口付近にまで伸ばした茶色い髪に猫耳。
基本色が赤で袖が白、少しゆったりした蝶ネクタイを着けた服。
更に、二本の尾を生やした女の子であった。
見た目から人間で無い事を理解しつつ、

「誰だ、お前?」

誰だと言う問いを霊児は女の子に投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に対し、

「私? 私は橙だよ」

女の子、橙はすんなりと自分の名を名乗った。
簡単に自分の名を名乗った橙に少々驚いた感情を霊児達が抱いてる間に、

「処で、私の縄張りに何の用なの?」

自分の縄張りに何の用かと言う事を霊児達に聞く。
聞かれた事に反応した妹紅は、

「縄張り……このマヨヒガは貴女の縄張りなの?」

少し驚いた表情を浮べながらマヨヒガは橙の縄張りなのかと聞き返す。
疑問を疑問で返される事になったのだが、

「そうだよ、ここは私の縄張り。普通の奴はここに来る事何て出来ないんだけど……ここに来れるって事は貴方達は普通の存在じゃないんだね」

橙は気にする事無く、マヨヒガは自分の縄張りであると言い切る。
マヨヒガ何て場所を自分の縄張りにしている橙に驚きの感情を抱くも、

「失敬な。私は普通の魔法使いだぜ」
「それを言ったら私も普通のメイドですわ」
「それなら私も普通の健康マニアの焼き鳥屋ね」

橙の発言内容に思うところがあったからか、魔理沙、妹紅、咲夜の三人は自分の事を普通と称した。
自分自身の事を普通と称した三人に続く様に、

「だったら俺も……」

霊児も自分の事を普通と称し様としたタイミングで、

「いや、貴方を普通と称するのは無理があるでしょ。基本的な身体能力でも吸血鬼であるお嬢様と妹様を大きく上回っていると言うのに」
「それに創造神相手にガチンコ勝負で対等以上に渡り合ったって聞いたし。それと、霊児は歴代初の男の博麗だしね」
「ごめん、霊児。フォローの言葉が思い付かないぜ」

咲夜、妹紅、魔理沙の三人から霊児を普通と称するのは無理があると断じられてしまう。

「成程。そこのお兄さんだけは普通じゃないって事ね」

三人が断じた内容を頭に入れた橙は、霊児だけが普通でないと認識した。
何やら橙の中で霊児の印象などが変な方向に向かってしまったからか、

「いや、一寸待て……」

霊児は橙が抱いている自分の印象を変える為に声を掛け様とする。
しかし、

「兎に角、私の縄張りに入って只で出られると思わない事ね!!」

声を掛ける前に宣戦布告と取れる発言が橙の口から紡がれた為、

「……もう、良いや」

溜息混じりに諦めたと言った感じでもう良いやと呟いた。
それはさて置き、ここから先に進む為には橙を倒す必要があるだろう。
何時までもここで時間を喰っている訳にはいかないので、橙を倒す為に霊児が前に出ようとすると、

「私が行くわ」

霊児が前に出る前に、自分が行くと言って咲夜が前に出た。

「何だ、私が行こうと思ってたのに」
「この子相手なら、私が一番上手く立ち回れると思ったからね」

咲夜に出番を取られる形になって少し不満気な表情を浮べている魔理沙に、咲夜は橙相手なら自分が一番上手く立ち回れると言う。
自信満々と言った感じで自分が戦う事を主張した咲夜に、

「なら、任せる」
「自分が一番上手く立ち回れるとまで言ったんだ。負けるなよ」
「大丈夫とは思うけど、一応気を付けてね」

霊児、魔理沙、妹紅の三人はこの場を任せる事にし、咲夜と橙の二人から距離を取って行く。
咲夜以外の面々が離れて行ったのを見て、

「あれ、相手はお姉さん一人? 一人で私の相手をする何て……痛い目を見るよ」

咲夜一人で戦うのだと言う事を橙は理解し、軽い挑発を行なう。
行なわれた挑発に返すかの様に咲夜は不敵な笑みを浮かべ、

「痛い目を見る……ね。貴女にそれを見せる事が出来るのかしら?」

挑発を仕返した。
その後、二人は軽く睨み合い、

「……っと、普通に戦うの? それとも弾幕ごっこ?」

思い出したかの様に咲夜は橙に戦闘方法はどうするかと問う。
問われた橙は少し考える素振りを見せ、

「そうね……じゃ、弾幕ごっこで!!」

元気な声で弾幕ごっこで戦おうと宣言し、すばっしこく動き回りながら弾幕を放ち始めた。
放たれた弾幕を咲夜は必要最小限の動きで避けつつ、

「ふむ……見た目から大体の想像は付いていたげど、やっぱり猫の妖怪……妖獣だったのね」

橙の見た目と動きから橙が猫の妖獣である事を確信し、

「それに速い弾幕と遅い弾幕を同時に放ってこちらのタイミングを狂わせ様としている……と」

放たれる弾幕がどう言う意味を持っているかの予測を立てる。
立てられた予測が耳に入ったからか、

「ふふん、私の弾幕凄いでしょ」

橙は得意気な表情を浮べた。
弾速が違う二種類の弾幕を同時に放つと言うのは中々に凄い事であるからか、

「そうね、確かに凄いわ」

肯定の言葉を咲夜は呟き、

「なら、私もそろそろ反撃する事にし様かしら」

気持ちを入れ替えるかの様にそろそろ反撃に移ると宣言し、橙に向けて一本のナイフを投擲する。

「おっと」

投擲されたナイフを橙は余裕の表情を避けたが、

「あ……あれ?」

ナイフに気を取られていたせいで橙は咲夜の姿を見失ってしまう。
見失った咲夜を探す為に顔を動かそうとした時、

「御機嫌よう」

真横の方から咲夜の声が聞こえて来た。
聞こえた声に反応した橙が体を咲夜の方に向けた瞬間、

「しっ!!」

咲夜から無数のナイフが投擲される。
今回投擲されたナイフは一本ではなく無数である為、

「わわ!!」

つい先程までとは打って変わって慌てた表情を浮かべながら橙は弾幕を放つのを止め、必死になって迫り来るナイフを避けていく。
割と不意を突いた攻撃ではあったものの、投擲されたナイフは掠りはしては直撃する事は無かった。
流石は猫の妖獣と言ったところであろうか。
だが、幾ら現時点で直撃をしていないと言ってもこれから先はどうなるかは分からない。
故に橙は回避行動を取りつつ、咲夜から距離を取って行く。
が、

「さっきぶりね」
「ッ!?」

ある程度距離を取った辺りで咲夜が橙の退避方向上に現れた。
何時自分の背後に回ったのかが分からないと言った表情を浮べながら橙が背後に振り返ると、

「何も私は能力を……"時間を操る程度の能力"を使わなくてもそれなりに速いのよ。少なくとも、貴女に追い付く程度には……ね」

スピードには自信が有ると言う事を咲夜は漏らし、また無数のナイフを投擲する。
その時、

「……って、別に貴女に私の能力を説明してはいなかったわね」

思い出したかの様に橙に自分の能力の橙に伝えていなかったと呟く。
咲夜がそんな事を呟いている間に、投擲されたナイフは次々と橙に直撃していってしまう。
と言っても、弾幕ごっこなので直撃したナイフが橙に刺さる事は無かった。
まぁ、これでナイフが橙に刺さったら霊力をナイフの刀身にコーティングさせるのを咲夜がミスした事になるが。
それはそれとして、投擲されたナイフは刺さりはしなかったがぶつかったダメージはある様で、

「痛ぅぅぅ……」

体に走る痛みに耐えつつ、橙は再び後退して行く。
後退したものの、橙の瞳から戦意が失われていない事から、

「降参……する気はない様ね」

橙に降参する気が無い事を咲夜は悟る。
悟った事は合っていた様で、

「当たり前!!」

当たり前と言い放ちながら橙は懐に手を入れ、

「天符『天仙鳴動』」

懐からスペルカードを取り出し、スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると、橙は体を回転させながらかなりのスピードでフィールドを縦横無尽に駆け巡り始める。
弾幕をばら撒くと言うおまけを付けながら。
縦横無尽にフィールドを駆け巡る橙とその橙から放たれる弾幕を見た咲夜は、

「これは……」

少し驚いた表情を浮べ、回避行動に専念し始めた。
今発動されたスペルカードが只動き回りながら弾幕を放つだけならば、咲夜も回避に専念する事も無かったであろう。
では、どうして回避行動に専念しているのか。
答えは弾幕量と橙のスピードにある。
放たれている弾幕量が多過ぎて不用意に橙に近付く事が出来ず、動き回る橙のスピードが速過ぎて中々狙いを付ける事が出来ない。
これで強引にナイフを投擲し様ものなら橙の弾幕と相殺し、ナイフを投擲した事で生じた隙で被弾してしまう可能性がある。
と言う様に不用意に攻めに移ったら手痛い反撃を受ける事になるのだが、橙が発動した技はスペルカードで発動された技だ。
ある程度時間が経てばスペルカードの効果時間が過ぎ、自然とこの技も終わるだろう。
故にこの儘回避行動を続けていれば橙のスペルカードを攻略出来るのだが、

「………………………………………………………………」

そんな方法で橙のスペルカードを攻略しても咲夜としては勝った気にはならない。
序に言えば、その方法でスペルカードを攻略しても元気な橙が二枚目三枚目のスペルカードを使って来る事であろう。
そうなったら最後、異変を解決する時間が余計に掛かる事になる。
今回起きている異変に制限時間と言ったものは存在しないが、解決する時間は早いにこした事は無い。
だからか、

「仕方が無い……私も使うか」

咲夜は懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、

「幻符『殺人ドール』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると、咲夜はあらゆる方向に向けて無数のナイフを投擲する。
あらゆる方向にナイフを投擲されたナイフを見た橙は、疑問を覚えた。
覚えた疑問と言うのは、どうしてナイフを自分の方に向けて投擲して来なかったのかと言うもの。
しかし、覚えた疑問も直ぐに氷解する事になる。
何故ならば、

「ッ!!」

あらゆる方向に投擲されたナイフの全てが一斉に橙へと向かって行ったからだ。
突然の事態に橙は驚くも、反射的に迫り来るナイフを避ける軌道を取る。
だが、

「ふ、振り切れない……」

迫り来るナイフを橙は振り切れないでいた。
これは単純に、ナイフの進行スピードが橙のスピードを上回っているからだ。
スピードが下回っている事もあってか、橙とナイフの距離はどんどんと縮まっていき、

「ッ!!」

投擲されたナイフが次々と橙に命中していき、ナイフの命中が止むと橙は地面へと墜落して行ってしまう。
墜落していると言うのに復帰する素振りを橙が見せなかったので、咲夜は橙が気絶したものだと判断し、

「私の勝ちね」

自身の勝利を確信する。
こうして、咲夜と橙の弾幕ごっこの勝敗は咲夜の勝ちで決着が着いた。























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