アリスとの弾幕ごっこで勝利を収めた魔理沙は、

「へへへ……勝ったぜ!!」

嬉しそうな表情を浮かべ、自分の勝ちを宣言しながら霊児達の近くへと戻って行く。
戻って来た魔理沙に、

「ああ、お疲れ」

霊児が労いの言葉を掛けると、

「おう!!」

おうと言う言葉と共に魔理沙は満面の笑顔を霊児に向ける。
その後、

「それにしても、余計な時間を喰ったわね」

余計な時間を喰ってしまったと言う発言が咲夜の口から零れた。
確かに、魔理沙とアリスの弾幕ごっこで余計な時間を喰ったのは事実だろう。
とは言え、魔理沙の攻撃で妖精の大群を一気に薙ぎ払えたので、

「あの妖精の大群をまともに相手していたら今の弾幕ごっこの時間位は掛かったと思うから、とんとん何じゃない?」

妹紅からフォローが入った。
総合的に見たら妹紅のフォローの通り、プラスマイナス零になるからか、

「確かにそうかもね」

咲夜はそれ以上何かを言う事はせず、納得した表情になる。
そして、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人が再び異変解決の道中に戻ろうとした時、

「いたたたた……相変わらずのパワー馬鹿ね、貴女は」

吹き飛ばされたアリスが腹部を押さえながら魔理沙と弾幕ごっこをしていた場所、つまり霊児達の傍へと戻って来た。
戻って来たアリスを見て、

「何だ、戻って来たのか?」

少し驚いた表情を魔理沙は浮かべた。
そんな魔理沙に向け、

「そりゃ、このルートが私の家への一番の近道だもの。戻っても来るわよ」

霊児達が居る地点が自分の家に戻る一番の近道である事をアリスは教える。
教えられた内容を聞いた魔理沙はアリスの家が在る地点を頭に思い浮かべ、

「ああー……確かにこの辺りを通ればアリスの家まで直ぐだな」

納得した表情になったが、

「それはそうと、これで弾幕はパワーだって事が証明されたな」

直ぐに浮べていた表情を得意気なものに変え、胸を張りながら弾幕はパワーである事が証明されたなと言い切った。
そう言い切られた事でアリスはカチンと来たからか、

「何を言っているのよ。大体、私と貴女の弾幕ごっこの戦績は半々位でしょうが。それではパワーはブレインよりも優れているって言う証明には
成らないでしょう」

自分と魔理沙の弾幕ごっこに置ける戦績は半々位なのだから、パワーの方がブレインよりも優れている事にはならないだろうと反論する。
しかし、

「でも、勝ち星は私の方が多いだろ」

勝ち星は自分の方が多いと言う事を魔理沙から指摘された為、アリスは言葉を詰まらせてしまう。
事実、弾幕ごっこに置ける総合的な勝ち星は魔理沙の方が上であるからだ。
魔理沙の指摘を受けたアリスは、

「……まぁ、次やる時は私が勝つから良いわ。ブレイジングスターと言う技の対処方法が幾つか思い付いたし」

気持ちを切り替えるかの様に次は勝つと言う宣言をする。
そう宣言された魔理沙は不敵な笑みを浮かべ、

「その対処方法も私のパワーでぶち抜いて、次も私が勝ってやるぜ」

次も自分が勝つと言い放つ。
言い合いと言うか再戦の約束をした魔理沙とアリスの二人からは、蟠りは見られなかった。
どうやら、上手い所に落ち着いた様だ。
だからか、

「それはそれとして、この鬱憤を何所にぶつけ様かしら」

鬱憤を何所にぶつけ様かと言う事をアリスは呟いた。
元々、魔理沙のノンディクショナルレーザーで家や家具などを滅茶苦茶にさせられた憂さを晴らす為にアリスは魔理沙に弾幕ごっこを挑んだのだ。
だと言うのに、その弾幕ごっこでアリスは負けてしまった。
これでは、鬱憤を晴らす処か逆に鬱憤が更に溜まってしまった事であろう。
兎も角、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすにはどうすれば良いかと言う事に付いてアリスが頭を悩ませ始めたからか、

「なら、アリスも私達と一緒に来るか?」

魔理沙はアリスに自分達と一緒に来るかと言う提案をする。

「貴女達と?」

一緒に来るかと提案されたアリスは疑問気な表情を浮べながら魔理沙、霊児、妹紅、咲夜の顔を見渡していき、

「そもそも、貴女達は何所へ向っていたの?」

何所に向かっているのかと言う事を尋ねた。

「春を取り戻しにだぜ」
「春を……ああ、成程」

尋ねられた事に魔理沙が何処が自慢するかの様な表情で春を取り戻しにだと語ると、アリスは納得した表情になり、

「春を取り戻すのは分かったけど、春を奪った元凶が何所に居るのか分かっているの?」

続ける様にして春を奪った元凶が何所に居るのか分かっているかと尋ねる。

「さぁ?」
「さぁ……って」

尋ねた事に対して分からないと言う答えが魔理沙から返って来た事でアリスは呆れ顔になったが、

「私は霊児の勘を頼りにしてここまで来たからな」
「同じく」
「私はパチュリー様の助言を元にして来たけど、霊児達と合流してからは霊児の勘を頼りに来てるわね」

魔理沙、妹紅、咲夜の三人から霊児の勘を頼りにここまで来たと言う発言が発せられた為、

「ああ……霊児の勘って物凄く鋭いものね。なら、何の手掛かりが無くても問題は無いか」

直ぐに浮べていた表情を納得したものに変えた。
何故ならば、霊児の勘の良さはアリスも知っているからだ。
それはさて置き、アリスの口振りからアリスは今回の異変の犯人が居る場所を知っているのでは咲夜は考え、

「貴女の口振りから察するに、春を奪った犯人が何所に居るのか知ってるの?」

考えた事をアリスに問う。

「ええ、知っているわ」

問われたアリスは肯定の返事をし、

「少し前にやけに春が来るのが遅いなと思って、軽く探ってみたのよ。そしたら、春度が一箇所に集まっている事が分かったの」

補足する様に春度と言うものが一箇所に集まっている事を話す。

「春度?」

聞き慣れない単語が出て来た事で妹紅が首を傾げると、

「解り易く言うのであれば、春度は季節を冬から春にする為に必要なエネルギーね」

春度に付いての簡単な説明をアリスは行ない、

「あっちに春度が集中的に集まっている様だから、あっちの方に犯人が居るでしょうね」

ある方向に向けて指をさし、指をさした方向に犯人が居るであろうと口にした。
その後、

「ま、私が態々犯人の居所を教えなくても霊児なら分かってたんじゃない? 現に今だってこうして犯人の居る場所……異変の元凶が居る場所を
目指しているんだし」

霊児なら犯人の居所に目星を付けているであろうから、態々自分が犯人の居場所を教える必要は無かったのではと言う様な事をアリスは零す。
アリスの霊児に対する信用は中々高いものの様であるが、魔理沙にこの異様に長い冬の事を教えて貰えなければ今回の異変に気付けなかったのは知らない様だ。
まぁ、ここでその事を言っても場の雰囲気が妙な事になるであろうからか、

「それはそうと、アリスはどうするんだ? 私達と一緒に行くか?」

霊児が異変に気付けなかった事を魔理沙は指摘せず、アリスに自分達と一緒に行くかどうかと言う事を改めて聞く。

「そうね……」

聞かれた事に対する答えを出す為、アリスは頭を回転させていく。
頭を回転させると先ず最初に魔理沙に負けた事で憂さ晴らしは出来なかったが、一緒に異変解決に行けば憂さ晴らしが出きるのではと言う可能性が浮かんだ。
前回の異変、紅霧異変と呼ばれているレミリア・スカーレットが起こした異変では異変と全く関係がない連中に勝負を多々挑まれた事をアリスは宴会の席で聞いている。
であるならば、異変解決に付いて行けば憂さを晴らす機会あるのではないだろうか。
仮に勝負を挑まれなかったとしても、道中は異変の影響で攻撃的に成っているであろう妖精が良く襲撃を仕掛けて来る筈。
ならば、憂さを晴らす機会は確実に来るであろう。
序に言えば、春度を奪っていった犯人にアリスは幾らかの興味を抱いている。
頭を回転させた結果、霊児達と一緒に異変解決に行けば自分の利になる事があるとアリスは判断し、

「ご一緒させて貰うわ」

霊児達と一緒に異変解決に向かう事を決めた。

「また、結構な大所帯になったな……」

アリスの同行が決まった事で大所帯になったと霊児が呟いた時、

「えーと、私に霊児に魔理沙に咲夜にアリスで計五人ね」

確認するかの様に妹紅は異変解決に向かうメンバーの確認を行ない、

「確か、前回の異変の時は六人で行ったのよね。"文々。新聞"にそう書いてあったわ」

レミリア・スカーレットが起こした異変を解決しに行った面々を思い出していく。
因みに、六人と言うのは霊児、魔理沙、魅魔、にとり、椛、文の事である。
ともあれ、前回の異変の話題が出たからか、

「六人って言っても、実質五人だけだったけどな。文は写真を撮ってばっかりだったし」

異変解決に係わったのは文以外の五人だったと言う訂正が魔理沙から入った。
魔理沙の訂正に間違いは無い。
レミリアが起こした異変の時、文は皆の活躍の写真を撮ってばかりであったのだから。
だが、文の写真が貼られた"文々。新聞"のお陰で弾幕ごっこをやり始める者がかなり増え始めた。
言うなれば、あの時の写真は弾幕ごっこの普及に一役買っているのである。
つまり、レミリアの異変の時は戦力以外の事で文は大いに貢献したのだ。
そう考えたら、とんとんであろうか。
それはさて置き、この儘ここで話し込んでいても仕方が無いので、

「……じゃ、行こうぜ」

霊児は行こうと言う言葉と共に移動を再開した。
言うだけ言って先に進み始めた霊児の後を追う様に、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人も移動し始める。





















幻想郷中から春を奪った犯人を追う為に移動を再開した霊児達は魔法の森を抜け、どんどんと高度を上げて行った。
何故高度を上げたのかと言うと、春を奪った者が高い位置に居るからだ。
ともあれ、かなり高い高度にまで来たと言う事で、

「いやー、こんな所にまで来る事なんて滅多に無いからな。絶景かな絶景かな」

魔理沙はご機嫌と言った感じで眼下の光景を見ていく。
魔理沙の感想に同意するかの様に、

「そうね、ここまで高度を上げての飛行する事なんて普段はしないし。ここからの光景を見る事なんて滅多に無いわね」

咲夜もここまで高度を上げての飛行はしないと口にし、視線を眼下に向ける。
魔理沙と咲夜が眼下に見える光景に少し目を奪われている間に、

「お二人さん、眼下の光景を楽しむのはその辺にしなさい。お客さんのお出ましよ」

妹紅は敵の接近に気付き、魔理沙と咲夜の二人に敵が来ている事を教えた。
敵の接近を教えられた二人は顔を上げ、やって来た敵の確認に掛かる。
やって来た敵と言うのは、回転する謎の飛行物体。
数もそれなりに存在している事もあり、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人は迎撃行動に移ろうとした時、

「私がやるわ」

自分がやると言って、アリスは前に出た。
同時にアリスは自身の前方に人形を十数体程展開させ、展開させた人形から弾幕を一斉に放たせる。
人形から放たれた弾幕は回転する謎の飛行物体を次々と撃ち落していく。
が、放たれている弾幕の数は見えている回転する謎の飛行物体の数よりもずっと多い。
序に言えば、放たれている弾幕の威力も今居る敵を倒すにしては強過ぎる。
無駄と言っても良い程に魔力を消費する様な戦い方をアリスがしているからか、

「……あいつ、かなり鬱憤が溜まってんだな」

ポツリと、アリスはかなりの鬱憤を溜めていたんだなと言う様な事を霊児は呟く。
そんな霊児の呟きに続く様にして、

「まぁ、憂さを晴らす為に弾幕ごっこを挑んで負ければこうなるわね」
「あの子、結構色々と溜め込み易そうな性格してそうだし。こう言う場で、色々と発散させた方が良いでしょうね」

咲夜と妹紅の二人は憂さが溜まっているのだからアリスがあの様な戦い方をするのは当然と言った事を零す。
まぁ、溜まった鬱憤を晴らすとなれば必要以上に自分の力を出すのはある意味当然なのかもしれない。
それはさて置き、高威力の弾幕をばら撒いているアリスを見て、

「んー……私だったらド派手な一撃をぶっ放すけどな」

自分ならばド派手な一撃を放つのにと言う発言を魔理沙は漏らした。
漏らされた発言が耳に入ったからか、

「何言ってるのよ、大技じゃ撃ち漏らしが出るかもしれないじゃない。大多数の敵を倒すには手数の多い攻撃で各個撃破が常道よ」

大多数の敵を倒すのなら大技よりも手数の多い技で各個撃破が常道だとアリスは魔理沙に返す。

「だったら、大技を薙ぎ払う様にして長時間放てば良いじゃないか。そうしたら撃ち漏らしも出ないだろ」
「それじゃ、無駄になる魔力が多いでしょ」

返された事に魔理沙は大技を薙ぎ払う様に長時間放てば良いだろう言う反論をしたが、それでは無駄になる魔力が多過ぎると言う指摘がアリスから瞬時に行なわれる。
その指摘を合図にしたかの様に、

「そうか? 私の魔力の総量はかなりあるからな。多少の魔力の無駄はどうって事ないぜ。それに、多少程度だったら直ぐに回復するしな」
「自分の総魔力量、魔力回復時間を過信し過ぎると痛い目を見るわよ。戦いに置ける魔力消費は効率的に行なわないとね」
「そう言う割りには、今のお前だって無駄に魔力を消費する様に見えてるぜ」
「お生憎様。私はちゃんと現魔力量、魔力回復時間と相談しながら魔力を消費してるわよ。後先考えない貴女と違って」
「失敬な。後先考えて無い訳じゃないぜ、私は」
「本当かしら?」

魔理沙とアリスは軽い言い合いを始めた。
パワーを信条としている魔理沙とブレインを信条としているアリス。
戦闘面での意見が喰い違ったり平行線を辿ったりするのはある意味当然だ。
とはいえ、これ以上の言い争いは無意味であるからか、

「「……………………………………………………………………」」

アリスと魔理沙は言い合いを止め、

「この異変が解決したら、早速先程のリベンジをさせて貰うわ」
「良いぜ。但し、次も私が勝つけどな」
「言ってなさい。次は私が勝つわ」

異変が終わった後の再戦を交わす。
同時に、

「……と、片付いた様ね」

回転する謎の飛行物体が全て一掃された。
なので、アリスは人形に弾幕を放たせるのを止める。
取り敢えず一段落着いた事で、

「どう? 少しは気分が晴れたかしら?」

咲夜はアリスに気分は晴れたかと聞く。

「んー……そこそこかしら」

聞かれたアリスはそこそこだと口にし

「ほら、先を急ぎましょう」

先を急ぐ様に言って進行スピードを上げ始めた。
まだまだ鬱憤が溜まっているからか、今のアリスは中々に好戦的な様だ。
だが、異変解決の道中と言うのであれば好戦的である事はプラスに働くだろう。
だからか、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人は何も言わずにアリスに付いて行く。
回転する飛行物体をアリスが一掃したと言っても、もう外敵が出て来なくなったと言う訳では無い。
今度は回転する謎の飛行物体と妖精がセットで現れた。
二種類の敵が一緒に現れたと言う事もあってか、現れた敵の数は先程よりもずっと数が多い。
しかし、

「邪魔よ」

現れた回転する謎の飛行物体、妖精はアリスの手によって全て撃ち落された。
人形を使っているとは言え、一人で無数の外敵を撃ち倒していっているアリスを見て、

「流石ね」

咲夜はアリスを流石だと称する。

「人形遣いだもの。これ位はね」

流石と称されたアリスが大した事では無いと返した瞬間、

「春ですよー!!!!」

春ですよと言う声と共に霊児達の進行方向上に何者かが現れた。
現れた者は白い服に白いスカートを着込み、長い金色の髪に白い帽子に赤いリボンを付けた少女。
更に、透明感がある羽を生やしている。
今まで現れて来た者と明らかに違う者が現れた事で霊児達は進行を止め、アリスは人形に弾幕を放たさせるのを止めた。
そして、現れた少女の風貌を観察していくと、

「あの子……春告精?」

現れた少女は春告精なのではと言う当たりを妹紅は付ける。
何やら少女の正体を知っていそうな妹紅の物言いに反応した霊児は妹紅の方に顔を向け、

「知ってるのか、妹紅?」

知っているのかと問う。
問うた霊児に釣られる様にして魔理沙、咲夜、アリスの三人も妹紅の方に顔を向ける。
四人に顔を向けられた妹紅は、

「ええ、彼女は春告精と言って春を告げる妖精。名前は確か……リリーホワイト」

簡単に現れた少女の説明をし、少女の名前を教え、

「彼女、妖精何だけど春の季節に限っては妖精とは思えない程の力を発揮するのよ」

補足するかの様に春の季節ではリリーホワイトは妖精とは思えない程の強さを発揮する事を口にする。
妹紅から口にされた事を頭に入れた霊児は、要するに冬の季節のチルノの様な存在かと思った。
正確に言えば、チルノは寒ければ寒い程に強くなるのだが。
更に言うのであれば、チルノは妖精の中でもかなりの強さを誇っている。
はっきり言って、どの様な季節でもチルノに勝てる妖精は殆ど居ないであろう。
チルノとリリーホワイトの強さに付いて一寸した考察を霊児がしている間に、

「……なら、あの妖精は油断ならない位に強いって事?」

リリーホワイトは油断ならない位に強いのかとアリスは妹紅に尋ねる。

「うーん……今の季節が普通の春だったのならそうなんでしょうけど、今は暦の上では春だけど実際は冬って感じだからね。そこまで圧倒的な強さを
持っているって訳じゃ無いと思うわ。それでも、そこ等辺の妖精よりは遥かに強いと思うけど」

尋ねられた事に妹紅は少々曖昧な返事をするも、リリーホワイトはそこ等辺の妖精よりも遥かに強いと断言した。
まぁ、春を告げると言われている妖精だ。
弱かったら春を告げる事は出来ないであろう。
兎も角、リリーホワイトが油断なら無い相手であると言う事を霊児、魔理沙、咲夜、アリスの四人が認識したタイミングで、

「春ですよー!!」

リリーホワイトから大量の弾幕が放たれた。
放たれた弾幕の量、密度、弾速は一妖精が放ったものとは思えない程に多く、濃く、速い。
妹紅の言っていた事も間違いでは無いと言う事を一同は思いつつ、それぞれ回避行動を取っていく。
如何にリリーホワイトの弾幕が妖精が放つものとは思えない程のものであっても、この五人に取って避ける事は難しく無い様だ。
一応リリーホワイトを無視して先に進む事も出来るであろうが、ここで倒して置いた方が後ろから攻撃させる心配がなくなる。
なので、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人がリリーホワイトに攻撃を加えようとしたが、

「私がやるわ」

また自分がやると言いながらアリスは展開させている人形と共に前に出た。
やはりと言うべきか、今のアリスは中々に好戦的な様だ。

「どうする?」

この場もアリス任せるかどうかを咲夜は一同に問う。
道中を含めてアリスに任せ切りではあるが、アリスの戦意はかなり高い儘。
ならば、リリーホワイトの相手もアリスに任せても大した問題は無いと霊児は判断し、

「ここはアリスに任せるか」

アリスに任せる事を決める。
霊児が決めた事に異論は無い様で、

「アリスなら負ける事も無いだろうし、大丈夫だろ」
「そうね、今までの戦い振りを見るからに任せても問題無いでしょ」
「確かに」

魔理沙、妹紅、咲夜の賛成の意を示した。
そして、四人がアリスから少し距離を取ったの同時にアリスとリリーホワイトの戦いが本格化する。
狙うべき相手が一人になったからか、リリーホワイトの弾幕はアリス一人に集中していく。
放たれていた弾幕が一人に集中された事で弾幕がより濃くなったが、

「……甘い」

大した問題では無いと言った表情を浮かべながらアリスは回避行動を取り、人形から弾幕を放たせる。
放たれた弾幕はリリーホワイトの弾幕を掻い潜る様にして、リリーホワイトへと向って行く。
そして、アリスの弾幕がリリーホワイトに直撃すると思われた刹那、

「ッ!?」

リリーホワイトの姿が消えた。
一瞬で姿を消したリリーホワイトにアリスが驚いている間に、リリーホワイトは消えた場所から少し離れた場所に現れて弾幕を再度放つ。
行き成り姿を消す様な行動を取られたからか、一旦弾幕を放つ事をアリスは止めて回避行動に徹し始めた。
アリスが回避行動に徹している間にもリリーホワイトは弾幕を放ち、一瞬で消えて現れると言った行動を繰り返す。
それから少し時間が過ぎると、

「成程、短距離ワープか」

リリーホワイトが一瞬で消えた事に対する正体にアリスは当たりを付ける。
冷静にリリーホワイトの力を分析しているアリスに対し、リリーホワイトはご機嫌と言った表情を浮べていた。
どうやら、リリーホワイトはアリスが自分の攻撃に手も足も出ないと思っている様だ。
確かに、アリスはリリーホワイトの弾幕を避けるだけで反撃をし様とはしていない。
これでは、自分が優位な状況に立っているとリリーホワイトが感じていても可笑しくは無いであろう。
兎も角、避けるだけで全く反撃をしていないアリスであったが、

「……見切った」

見切ったと言う呟きと共にアリスはリリーホワイトが消えたのと同時に、ある方向に向けて弾幕を放つ。
すると、アリスが放った弾幕の射線上に消えていたリリーホワイトが現れた。

「ッ!?」

再び姿を現したリリーホワイトは目の前に弾幕が迫って来ている事に驚きの表情を浮かべ、反射的に体を捻る。
体を捻ったお陰か、アリスが放った弾幕はリリーホワイトに当たらなかった。
放った弾幕を避けられたのを見て、

「少し弾幕を放つタイミングが遅かったかしら」

アリスは少し弾幕を放つタイミングが遅かったかと考える。
弾幕を放つタイミングに付いてアリスが考えている間に、リリーホワイトは再び姿を消した。
この事からアリスはリリーホワイトがワープしたのだと判断し、次にリリーホワイトが現れるであろう場所に向けて弾幕を放つ。
放たれた弾幕は何も無い空間を突き進んで行き、

「ッ!?」

突き進んで行った先に現れたリリーホワイトに命中した。
つい先程は弾幕が命中しそうになり、今回は弾幕が命中。
突然の事態に訳が分からないと言った表情を浮べているリリーホワイトに、

「言ったでしょ、見切ったって」

アリスは見切っていると言う言葉を掛ける。
見切ったと言う発言とワープ後に攻撃を当てられた事で、自分の圧倒的不利をリリーホワイトは本能で感じ取り、

「逃げますよー!!」

一目散と言った感じで今居る空域から逃げ出した。
見事としか言い様の無いリリーホワイトの逃げっ振りにアリスが呆気に取れらていると、霊児達はアリスの傍にまでやって来る。
皆の接近に気付いたアリスが霊児達の方に顔を向けたタイミングで、

「お疲れ」

労いの言葉を霊児は口にする。

「別に、お疲れって程でも無かったわよ」

口にされた労いの言葉にアリスが大した事は無いと言う様な台詞を返した時、

「良くあのワープを見切れたわね」

妹紅から良くリリーホワイトのワープを見切れたなと言う発言が発せられる。
リリーホワイトのワープによる移動は神出鬼没を体現していた様なもの。
そんなワープを見切った事を話題に出されたからか、

「あのワープ、ワープアウト場所は一見ランダムの様に見えるけどある程度の規則性が在ったからね。それを見極めれば後は簡単よ」

リリーホワイトが使っていたワープで再び姿を現す場所にはある程度の規則性が在る事をアリスは教え、

「仮に規則性がなかったとしても攻撃をするのに最も効果的な場所に現れるだろうから、見極めは簡単だったでしょうけどね」

仮に規則性が無かったとしてもワープアウト先を見極めるのは簡単だったであろうと続ける。
その後、

「それよか、少しは気分は晴れたか?」

少しは気分が晴れたかと言う事を魔理沙はアリスに尋ねた。
尋ねられたアリスは魔理沙の方に顔を向け、

「それなりにね」

それなりにと返し、

「と言うか、そもそもの原因を作った貴女がそれを言う?」

少し呆れた表情になりつつ、魔理沙に突っ込みを入れる。
鬱憤を溜めさせた原因が鬱憤は晴れたかと尋ねて来たのだ。
呆れた表情の一つや二つ、浮べたくもなるだろう。
アリスにそう言った突っ込みを入れられた魔理沙は、

「ははは……」

苦笑いを浮べながらアリスから顔を背ける。
余り反省の色が魔理沙からは見られなかったが、ここであれこれ言っても時間の無駄になるので、

「ま、良いけどね」

アリスは溜息を一つ吐きながら魔理沙から視線を外し、

「さ、先に進みましょ」

先陣を切るかの様に移動を再開した。
やる気満々と言った感じのアリスの追う様に霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人も先へと進んで行く。
リリーホワイトと言う中々に強力な妖精を退けたが、相も変わらずと言った感じで妖精達が霊児達の邪魔をしに現れて来た。
だが、これまた相も変わらずと言った感じでアリスが一人で現れた妖精達を一掃していく。
しかし、現れた妖精達を一掃するアリスの弾幕に今まで様な苛烈さは見られなかった。
苛烈さが見られないのは、今までの戦闘である程度は鬱憤が晴れたからであろうか。
と言っても、見られなくなったのは苛烈さだけでアリスの弾幕が激しい事に変わりは無い。
半ばアリスの独壇場と言った感じで進んで行った中で、非常に耐久力が在る妖精が出て来た。
これまでの道中で出て来た妖精の殆どは弾を一発か二発喰らえば沈んでいったのだが、この妖精は一発や二発の弾を受けても平然としているのだ。
となれば、この妖精を倒すまでに時間が掛かってしまう。
そう思われたが、直ぐに妖精は撃墜された。
何故かと言うと、アリスが展開している人形による集中砲火をその妖精に浴びせたからだ。
一発二発程度の弾は平気でも、百発二百発の弾を一度に浴びせられたら一溜まりも無かった様である。
兎も角、リリーホワイト程では無いにしても強い妖精を撃退してから少しすると超巨大な門が霊児達の目に映った。
更に、門の近くに何本かの柱が下の方から伸びている。
予想外過ぎる光景に霊児達は進行を止め、

「……何だ、あのでっかい門は?」

一同を代表するかの魔理沙は超巨大な門に付いての疑問を漏らす。
妹紅、咲夜、アリスの三人も魔理沙と同じ疑問を抱いていたが、

「……あれは冥界への門だ」

ポツリと、超巨大な門は冥界への門だと言う事を霊児は呟いた。

「冥界って、あの冥界?」

呟かれた内容に反応した咲夜は確認を取るかの様に霊児にそう聞く。

「ああ、その冥界だ」

咲夜が聞いて来た事を意味を理解した霊児は肯定の返事を行なう。
すると、

「まさか、春度が冥界に集まっているとはね。と言う事は、犯人は冥界の住人かしら」
「冥界か……私には文字通り一生縁が無い場所ね」

今回の件の犯人が冥界に居るだろうと言う事と、冥界は自分には一生縁が無い場所だと言う事をアリスと妹紅はそれぞれ零す。
アリスが零した事は兎も角、妹紅は不老不死なのだ。
妹紅からしてみたら、今回の様な事が無ければ冥界に行く事も無かったであろう。
だからか、妹紅は感慨深いと言った様な表情を浮べていた。
それはさて置き、幻想郷から春を奪った犯人がこの先に在る冥界に居る確率が極めて高いので、

「それでどうするの? この門を破壊して冥界に乗り込む?」

咲夜は超巨大な門を破壊して冥界に乗り込むのかと霊児に問う。
以前レミリアが起こした異変を解決する為に紅魔館に赴いた時、霊児は紅魔館の門を蹴り破って紅魔館に乗り込んだのだ。
なので、紅魔館の時の様に霊児がこの門を破壊して冥界に乗り込むと考えても不思議では無い。
しかし、

「いや、この門は破壊しない」

咲夜が考えていた事とは裏腹に、霊児は首を横に振りながら門は破壊しないと断言した。
断言された内容は意外であったからか、つい驚いたと言った表情を咲夜は浮べてしまう。
咲夜の反応に不満があったからか、

「お前……俺を何だと思ってるんだよ?」

ジト目で咲夜を見詰め、

「この門を破壊すると冥界……解り易く言うのであればこの世とあの世が融合する事になりかねない。そうなったら、幻想郷は確実に滅茶苦茶なる。
それだけは避けなきゃならない。だからだよ、この門を破壊しないのは」

冥界へと続く門を破壊しない理由を霊児は説明していく。
基本的にグータラが好きな霊児が冷静に目の前の門に付いて分析していた事を知ったからか、

「意外と真面目なのね」

意外と真面目と言う感想が妹紅の口から紡がれた。
何やら、自分のイメージが変な風に固定されているのを察したからか、

「俺は自身の……今代の博麗としての役目は幻想郷を護る事だと思ってる。只、それだけだ」

霊児は今代の博麗として自身が思っている役目を妹紅に伝える。
その後、

「でもよ、あの門を破壊したら駄目なら私達はどうやって冥界にまで行くんだ? 門を開こうにも封印処理されてるみたいだし」

話を戻すかの様に、魔理沙はどうやって冥界に行けば良いのかと言う疑問を述べ、

「取り敢えず、この門の封印を解くところから始めるか?」

冥界へと続く門に施されている封印を解くところから始めるかと言う提案を出す。
確かに、冥界に入る為には冥界へと続く門に封印が施されているのであれば封印を解くのが常道であろう。
だが、

「春度ってのを一度に幻想郷中から冥界に持って行ったとは考え難い。となると、当然幻想郷と冥界を何回も行き来している事になる。そんな何回も行き来する為に
通過する門を移動の度に封印を解除して再封印するってのは正直言って手間だ。と言う事は、何所かに通り道か抜け道の様な何かがある筈だ。第一この門に掛かって
いる封印は昨日今日で掛けられたものでも無いしな」

封印を解くのではなく抜け道を探そうと言う案を霊児は出し、抜け道を探そうと言う案を出した理由を説明していく。
された説明に対する反論が誰からも出なかったので、

「抜け道が見付から無かったら、封印を解いて門から冥界に入れば良い。ま、その場合は再封印しなきゃならないけどな」

抜け道が見付からなかった門を通って冥界に入ると言う発言で霊児は締め括る。

「なら早速……」

これからの予定が決まった事で、アリスが別れて抜け道を探そうと言う声を皆に掛け様とした時、

「あら、こんな所に人間が来る何て珍しい。まぁ、人間じゃないのも混ざっている様だけど」

そんな声と共に肩口付近にまで伸ばされた金色の髪に黒い服、黒い帽子を被り自身の手にヴァイオリンを持った少女が現れた。
現れた少女を一同が視界に入れると、

「彼女は……ルナサ・プリズムリバーね」

ルナサ・プリズムリバーと言う名が妹紅から発せらる。

「知ってるのか?」
「ええ。彼女はプリズムリバー三姉妹の長女。偶に人里でこの姉妹がコンサートを開いているって慧音に聞いた事があるわ」

発せられた名が少女のものである事を理解した霊児が妹紅に何か知っているのかと聞くと、妹紅は簡単にルナサの情報を話し始めた。
霊児と妹紅の会話が聞こえたからか、

「その分だと自己紹介の必要は無いみたいね」

金色の髪をした少女、ルナサはポツリと自己紹介の必要は無いと零し、

「それで、貴方達はこんな所に何しに来たの?」

何しにこんな所にまで来たのかと問う。

「異変解決の為に冥界に向うところよ」
「春を取り戻す為のな」

問われた事に一同を代表するかの様にアリスが異変解決だと言い、続ける様に魔理沙が春を取り戻す為だと言った来たので、

「成程……」

納得がしたと言う表情をルナサは浮かべた。
そして、

「そうなると……」

ルナサが何かを言い掛けようとした瞬間、

「姉さん、何かあったの?」
「どうかしたの?」

どうかしたのかと言う声と共に、二人の少女が現れる。
新たに現れた少女の一人は肩口を少し超す程度に伸ばされた水色の髪に白い服、白い帽子を被りトランペットを持っていた。
もう一人は肩口付近にまで伸ばされた茶色い髪に赤い服、赤い帽子を被りキーボードを持った少女。
二人とも服の形や顔付きがルナサに似ているので、この二人の少女は妹紅が言っていたプリズムリバー三姉妹の残り二人であろうか。
と言った事を霊児が考えている間に、

「今出て来た二人はメルラン・プリズムリバーとリリカ・プリズムリバー。二人ともルナサ・プリズムリバーの妹よ」

妹紅が新たに現れた二人の名を口にする。
既に自分の名が知れていた事で、

「あら、私達の事を知ってるみたいね」
「いやー、私達って結構有名人ね」

メルランとリリカの二人は嬉しそうな表情を浮かべた。
まぁ、プリズムリバー三姉妹はコンサートを開いているので名が売れていると言うのは喜ばしい事なのだろう。
それはさて置き、プリズムリバー三姉妹が現れてから話が明後日の方向に向かい始めたからか、

「それはそうと、私達はこの先の冥界に用があるの。そこを通してくれないかしら?」

話を戻すかの様に咲夜は自分達はこの先に存在している冥界に用があるのでそこを通して欲しい言う事をプリズムリバー三姉妹に伝える。
プリズムリバー三姉妹の言動から察するに、この三姉妹は異変に係わってはいない。
ならば、直ぐにでも咲夜が伝えた事をプリズムリバー三姉妹は受け入れてくれるだろうと思われたが、

「それは駄目」

駄目と言う言葉がルナサから発せられた。
異変に係わっている訳では無いと言うのに冥界に行こうとするのを邪魔する意思をルナサが示した為、

「どうしてかしら?」

何故駄目なのかと言う疑問を咲夜はルナサにぶつける。

「私達はこれから冥界に行って今度行うコンサートの練習をするからよ」

ぶつけられた疑問に対する答えをルナサは述べ、

「冥界はとても静かな所。故に音楽などの練習を行うのには最適な場所」

続ける様に冥界でコンサートの練習をする理由も述べた。
述べらた理由を頭に入れた後、

「つまり……俺達が異変解決の為に冥界に行けば煩くなって練習の邪魔になるから通せないって言う事か?」

霊児はルナサが自分達を通さない理由を纏めると、

「そう言う事」

纏めた内容は正しいと言った言葉がルナサから返って来る。
プリズムリバー三姉妹が先に進むのを邪魔をすると言うのなら、取る手段は一つだけ。
倒して押し通ると言う想いを胸に霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人が前に出ようとした刹那、

「なら、力尽くでお引取り願う事になるわ」

アリスがそう言って前に出た。
多少の鬱憤は晴れていると言っても、鬱憤自体はまだまだ溜まっているからか今のアリスもかなり好戦的だ。
アリスと一緒に異変解決に向かう事にしてからここまでの道中、外敵の対処は殆どアリスに任せ切りである。
だが、そのアリスに疲労の色は全く見られなかったので、

「なら、任せたぜ」
「私が言うのも何だが、熱くなるなよ」
「任せたわよ」
「ちゃんと勝ってよね」

霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人はそれぞれアリスにこの場は任せると言う言葉を掛け、後ろに下がって行った。
四人が後ろに下がったのを見届けた後、

「相手は貴女か……」

戦うべき相手であるアリスをルナサは見据える。
すると、

「手助けは必要?」

メルランからルナサに手助けは必要かと言う声が掛けられた。
掛けられた声に、

「いえ……大丈夫」

大丈夫だとルナサは返す。
大丈夫と返されたからか、

「分かった。でも、必要だと思ったら助けに入るからね」
「頑張ってねー」

リリカとメルランは一旦下がる事にする。
その後、

「さて……雑音の排除をしましょうか」
「その雑音をそう上手く排除する事は出来るかしら?」

ルナサとアリスは軽く言い合いをしながら睨み合い、いざ戦いが始まるかと思われた時、

「……っと、そうそう。戦闘方法はどうする? 普通に? それとも弾幕ごっこ?」

ふと思い出したかの様に、戦闘方法はどうするかと言う問いをルナサはアリスに投げ掛けた。
アリスとしては戦闘方法はどちらでも良いのだが、この先の事を考えたら消耗が少ない弾幕ごっこの方が良いだろうと言う判断を下し、

「そうね……弾幕ごっこで戦いましょうか」

弾幕ごっこで戦おうと口にする。

「そ、弾幕ごっこね」

戦闘方法を弾幕ごっこに指定された事をルナサが理解したのと同時に、弾幕ごっこが始まった。
弾幕ごっこ始まるとアリスは人形を展開し、ルナサは弾幕を放ちながらヴァイオリンを手放す。
ヴァイオリンを手放すと言う行為にアリスが一寸した疑問を抱いた瞬間、

「ッ!?」

手放されたヴァイオリンが宙に浮き、ルナサから放たれる弾幕に合わせるかの様に周囲を動き回りながら大きな弾を放って来た。
しかも、大きな弾の軌跡からは細かい弾幕がばら撒かれる様にして放たれている。
予想外とも言えるルナサの弾幕にアリスは驚くも、直ぐに放たれている弾幕を冷静に分析し、

「………………………………」

分析に基づいた的確な回避行動を取りながらルナサのヴァイオリンは自分の人形と似た様なものかと思いつつ、人形の配置を変えていく。
無論、軌跡から放たれているランダム性の高い弾幕に人形が当たらない様に気を付けながら。
そして、人形の配置が完了したのと同時に、

「しっ!!」

アリスは自分自身と人形から弾幕を放つ。
放たれた弾幕はルナサの弾幕を掻い潜る様にしてルナサへと迫って行く。
自身が放った弾幕を器用に避けながら迫り来る弾幕を見たルナサは、

「ッ!?」

驚きの表情を浮かべ、慌てて回避行動に移る。
どうやら、自身が放った弾幕を掻い潜る様にしてアリスが弾幕を放って来る事はルナサに取って予想外のものであった様だ。
回避行動を取り続けながら、

「……思ってたよりやるわね。ま、この高度に来ても平然としていられるのだからこれ位は出来て当然か」

アリスを少し侮っていた事をルナサは反省し、放つ弾幕の量と密度を上げていく。
弾幕の量と密度が上がった事でルナサに迫る弾幕の量は減ったが、根本的な解決になってはいない。
幾らか相殺されていると言ってもアリスの弾幕は未だにルナサの弾幕を掻い潜って迫って来ているのだ。
序に言えば、アリスはルナサの弾幕を見切り始めている。
この儘ではアリスが一気に攻勢に出るのは確実。
そう感じたルナサは一旦弾幕を放つのを止めて懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、

「弦奏『グァルネリ・デル・ジェス』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると、ルナサから音符の形をした弾が幾つか放たれる。
放たれた弾がアリスとルナサの中間地点に来ると、音符の形をした弾は爆発して弾幕を撒き散らした。

「これは……」

撒き散らされた弾幕を見たアリスは弾幕を放つのを止め、展開している人形を自分の傍に戻して回避行動に専念し始める。
何故、人形を自分の傍に戻して回避行動に専念し始めたのか。
答えは簡単。
撒き散らせれている弾幕の進行方向は完全にランダムであるからだ。
その様な状況で下手に人形を展開すれば、確実に人形が撃墜されてしまうであろう。
故にアリスは人形を自身の傍にまで戻して回避行動に徹する事にしたのである。
勿論、アリスとしても只回避行動を取っているだけでは無い。
回避行動を取りながら、突破口を探している。
しかし、幾ら探しても突破口は見付からなかった。
突破口が見付からない理由して上げられるのは、撒き散らされている弾幕が完全にランダムであるからだ。
ランダム性が高い弾幕は楽な時は楽であるが、一度嵌ったらとことん厄介なものになる。
おまけに、嵌った時は一瞬の判断ミスで被弾して大量の弾幕が叩き込まれてしまう。
改めてと言った感じでランダムで放たれる弾幕の厄介さをアリスは思い知りながら、

「……埒が開かないわね」

埒が開かないと判断した。
アリスがそう判断するのも無理はない。
一向に攻勢に出れていないのだ。
とは言え、今発動されているルナサの技はスペルカードで発動されたもの。
回避行動に徹していれば、何れはスペルカードの制限時間が過ぎてこの弾幕も消えてしまうだろう。
が、スペルカードの制限時間が過ぎるのを待つと言うのはアリスのプライドに触る。
更に言うのであれば、スペルカードの発動時間が過ぎるまでに被弾しないとも限らない。
だったら、取る手段は一つだけだと言わんばかりにアリスは懐に手を入れ、

「魔理沙との弾幕ごっこでは使うタイミングがなかったけど……新作のスペルカードを見せて上げる」

懐からスペルカードを取り出し、

「人形『レミングスパレード』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動するのと同時に人形が現れる。
それも一体二体ではなく、大量に。
現れた大量の人形達はルナサが居る場所へと一直線に向って行く。
向って行くと言っても、アリスとルナサの間に存在している弾の量は相当なもの。
幾らアリスの人形のサイズが小さいと言っても、一発も被弾せずにルナサの元に辿り着くのは無理の一言。
次々とアリスの人形はルナサの弾幕と激突し、爆発を起こしていく。
だが、少しずつではあるがアリスの人形は確実にルナサの元ヘと近付いて行った。
そして、遂にと言った感じでルナサの目前にまで辿り着いたアリスの人形は、

「ッ!!」

ルナサの目の前で大爆発を起こす。
人形の爆発を咄嗟に交差した両腕でルナサは爆発を耐え、続けて来るであろう爆発に備えていたのだが、

「……あれ?」

一向に爆発が発生しなかった。
若しかして、弾幕との激突でアリスの人形の数が減って今爆発した人形が最後だったのではと言う考えがルナサの頭に過ぎった瞬間、

「……ん?」

ルナサの体に何かが当たる。
何が当たったかを確認する為にルナサが顔を下に向けると、

「……え?」

ついさっき爆発したアリスの人形と同じ人形が目に映った。
どうしてこの人形がと思った時、ルナサはある可能性を思い付く。
思い付いた事と言うのは、この人形が他の人形よりも進行スピードが遅いのではと言う事。
同時に、

「く……」

人形が爆発した。
二回目の爆発を受けたルナサは、爆発の範囲外に逃れるかの様に横に跳ぶ。
一応防御してはいたが、ルナサが受けたダメージは思っていた以上に低かった。
まぁ、それも仕方が無い。
今回アリスが発動したスペルカードは、全ての人形が相手に爆発のダメージを与えて初めて真価を発揮するのだ。
一体や二体の人形の爆発では大したダメージは与えられないと言うもの。
しかし、大したダメージを与えられなかったがルナサの体勢を崩す事には成功したので、

「……さて、攻めに回りましょうか」

アリスはその隙を吐くかの様に人形を一気に展開し、弾幕を放ち始めた。
体勢を崩されたところに大量の弾幕を放たれた為、

「ッ!!」

咄嗟にスペルカードの発動を止め、ルナサは回避行動に移る。
攻めるアリスに守るルナサ。
奇しくも、先程とは全く逆の状態になってしまった。
アリスから放たれている弾幕の精度がかなり高い事もあってか、ルナサは顔を顰めながら回避行動を取っている。
二人の弾幕ごっこ見ていると明らかに状況がアリスの方に傾いているからか、

「かなり苦戦してるわねー」
「手助け必要?」

メルランとリリカの二人から手助けは必要かと言う言葉がルナサに投げ掛けられた。
そう言われるまでもなく、状況が自分の不利であるのをルナサ自身が理解している事もあり、

「ごめん、お願い。それとあれを使う」

短い謝罪の言葉と共にルナサはメルランとリリカに手助けを頼んだ。

「はいはーい」
「ラジャー」

手助けを頼まれたルナサとメルランは元気良くルナサの近くへと向かう。
そして、プリズムリバー三姉妹が一箇所に集まると三姉妹は懐に手を入れ、

「「「大合葬『霊車コンチェルトグロッソ』」」」

懐からスペルカードを取り出し、三人同時に同じスペルカードを発動させた。
三人一組で発動されるスペルカードと言うのは完全に予想外であったからか、

「三人一組でのスペルカード!?」

アリスは驚きの表情を浮べてしまう。
三人がそれそれ別々のスペルカードを使ったのなら兎も角、三人一組で発動すると言うスペルカードが使われたのだ。
驚きもするだろう。
驚いているアリスは余所にプリズムリバー三姉妹は三角形のフォーメーションを取り、一斉に弾幕を放ち始めた。
一人ではなく三人で弾幕を放っているからか、放たれている弾幕の量はとんでもなく多い。
それはそれとして、斬新と言える様なスペルカードに驚いた事で反応が遅れてしまったアリスは、

「……っと!!」

不安定な体勢で回避行動を取る破目になってしまった。
不安定であるが故に危なっかしい回避行動をアリスが取っていたからか、

「手を貸そうか?」
「手助けは必要か?」
「援護は必要?」
「必要とあらば援護攻撃を行うけど」

霊児、魔理沙、妹紅、咲夜の四人はアリスに向けて手を貸そうかと言う発言を発する。
弾幕ごっこの状況は三対一となっているので、手を貸して貰った方が良いのだろうが、

「別に必要無いわ。これ位、私一人で十分よ」

不敵な笑みを浮べながらアリスは手助けは不要と返し、

「体勢は悪いけど……この状態でも攻撃をする事は出来るのよ」

スカートの中から一体の人形を、懐から一枚のスペルカードを取り出す。
同時に、

「魔操『リターンイナニメトネス』」

スペルカードを発動させ、取り出した人形を投擲した。
投擲された人形は弾幕と弾幕の隙間を縫う様に進んで行き、プリズムリバー三姉妹が取っているフォーメーションの中心部に辿り着くと、

「三人一組で発動するって言うスペルカードは中々に斬新な発想ではあったけど、少し密集し過ぎた陣形だったわね。私相手にそれは悪手よ」

三人一組で発動するスペルカードに付いての感想を言った瞬間、投擲された人形は大爆発を起こす。
プリズムリバー三姉妹は密集すると言う陣形を取っていた事で、全員爆発の直撃を受けてしまった。
爆発そのものの威力が高かった為かプリズムリバー三姉妹の陣形は一瞬で崩れ、三姉妹全員がそれ相応のダメージを受けてしまう。
爆発の影響で直ぐに次の行動に移れないプリズムリバー三姉妹をアリスは自身の人形で包囲し、

「続ける?」

続けるかどうかを聞く。
手痛い反撃を受けてフォーメーションを崩され、包囲網を引かれてしまった。
普段の状態なら包囲されていたとしても弾幕量が許容範囲内であればまだ何とかなったかもしれないが、爆発の衝撃で思う様に動けない今の状態なら話は別。
下手をしたら撃ち落されてしまうかもしれない。
流石にこの高度から落下はしたくはないので、

「……降参。私の……私達の負け」

ルナサは大人しく自分達の負けを認める。
こうして、アリスとルナサ……プリズムリバー三姉妹の弾幕ごっこはアリスの勝利で幕を閉じた。























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