ルナサと、と言うよりプリズムリバー三姉妹との弾幕ごっこで勝利を収めたアリスは、
「んー……スッキリした!!」
満足気な表情を浮かべ、上半身を伸ばしていた。
どうやら、この一戦でアリスの鬱憤は完全に晴れた様だ。
ご満悦と言った様な態度を全身で表現しているアリスに、
「それにしても、人形を爆発させる何て物騒な方法を取るわね」
物騒な攻撃方法を取るなと言う様な言葉を妹紅は掛ける。
掛けられた言葉に反応したアリスは妹紅の方に顔を向け、
「そうかしら?」
首を傾げ、疑問気な表情を浮かべた。
アリスが浮かべた表情から察するに、人形を爆発させると言う行為は物騒の部類には入っていない様だ。
兎も角、無事にアリスが勝利を収めたと言う事で、
「ま、無事にアリスが勝利を収めた事だし早速……」
冥界まで行く方法を探そうと言う事を咲夜が口にし様とした時、
「あいたたたた……あのスペルカードは結構自信が有ったんだけどなー」
リリカから愚痴の様なものが零された。
やはりと言うべき、三人一組で発動すると言うスペルカードには自信が有った様だ。
そんなリリカの呟きが耳に入ったからか、
「確かに三人一組で発動するスペルカードって言うのは斬新だったし、三人で発動しているだけあって弾幕の量は多く密度は濃かったわ。けど、纏まり過ぎで
あった為に大きな一撃で纏めて倒されると言う弱点が在った。大きな一撃が来ると言う事を考えに入れていなかったのが一番の敗因ね」
改めてと言った感じでアリスはプリズムリバー三姉妹が発動したスペルカードに付いての弱点を言い、
「それはそれとして、貴女達に聞きたい事が在るのだけど……良いかしら?」
話を変えるかの様に聞きたい事が在るのだが良いかと問う。
「負けた私達に拒否する権利は無いわね。それで、何が聞きたいの?」
問われたルナサは負けた自分達に拒否権は無いと漏らし、聞きたい事を言う様に促して来たので、
「冥界に行く方法」
アリスは冥界に行く方法が聞きたい事だと口にした。
「冥界に行く方法?」
口にされた事が予想外のものであったからか、ルナサが首を傾げてしまった為、
「ええ、そうよ。貴女達の口振りから察するに、貴女達は自由に冥界への出入りが出来るのでしょ? この門の封印を解いて冥界を出入りしている訳でも
無さそうだし。だから、貴女達の冥界の入り方を教えて欲しいのよ」
冥界への入り方を教えて欲しい理由をアリスは話す。
話された内容を頭に入れたルナサが成程なと言う表情を浮かべていると、
「方法も何も、私達はあの門の一番上を越えているだけだよー」
アリスとルナサの話を聞いていたメルランが、シレッとした表情で自分達は門の一番上を通って冥界の出入りをしている事を教える。
「……え?」
メルランが教えてくれた事が耳に入ったアリスは、目を点にしてしまった。
アリス達の話しを聞いていた霊児達も同じ様に目を点にしてしまう。
まぁ、そうなるのも無理はない。
その様な方法で冥界に行けるのであれば、あの超巨大ば門に施されている封印は何だと言う話になってしまうからである。
だからか、
「えと……もう一回言ってくれる?」
確認を取る為に、アリスはメルランにもう一度同じ事を言ってくれと頼んだ。
もう一度同じ事を言ってくれと頼まれたメルランは仕方が無いと言った表情を浮かべ、
「だーかーらー、門の一番上を越えて冥界に行くのよー」
先程と同じ事を述べた。
聞き間違いでは無い事を理解した魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は一斉に霊児の方に視線を向ける。
霊児ならば、門の意味を成していないこの門に付いて何らかの答えを出してくれると思ったからだ。
四人から視線を向けられた霊児は少し考える素振りを見せ、
「……俺が思うにあの門はこの世とあの世を通じさせる為の門ではなく、あの世とこの世を隔てる為の門なんだろうな」
自分なりの推論を魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人に伝えた。
「この世とあの世を隔てる?」
この世とあの世を隔てると言う部分が良く解らなかったからか、魔理沙が首を傾げてしまった為、
「ああ、そうだ。解り易く言うのであれば線引き……境界線の様なものだ。こっちがこの世であっちがあの世と言った感じのな」
霊児は超巨大な門に付いての簡易的な解説を行ない、
「線引きと言ってもあの門が無くても良いって訳じゃない。あの門が無くなればその線引き……境界線が消えてこの世とあの世が入り混じって融合するのは
確実と思っても良い。仮に成らなくても、碌な事には成らないな。まぁ、あの門の封印は単純に開閉を封じる以外にも門に対するあらゆる攻撃を封じる……
もう少し解り易く言えば門そのものにダメージが行くのを封じるって言う封印もされているんだ。まぁ、これは結界に近いタイプの封印だな。他にも特殊な
タイプの封印が幾つも掛けられてるから、この門が破壊されるって言う心配はしなくても先ず大丈夫だろう」
門が壊されたらどうなるかと言う事と門に掛かっている封印の種類、門が破壊される心配は無い事を説明する。
霊児の説明が終わると、
「霊児でも、この門は破壊出来なかったりする?」
興味本位でと言った感じで霊児でもこの門を破壊出来ないのかと言う事を妹紅が尋ねて来た。
門に掛けられている封印に対する霊児の評価は、中々に高いもの。
となれば、霊児でも破壊出来ないのではと言う事を少し頭に過ぎらせてしまうのも無理はないだろう。
それはさて置き、門を破壊する事が出来ないのかと尋ねられた霊児は、
「いや、破壊事態は可能だ」
間髪入れずに破壊事態は可能だと答えた。
創造神とも互角の戦いをする事が出来る霊児だ。
強固な封印で護られている門の一つや二つ、破壊出来ない事も無いだろう。
仮に破壊が出来なかったとしても、霊児は陰陽混合弾と陰陽混合拳と言う技を使う事が出来る。
陰陽混合弾と陰陽混合拳と言う技は、どんなものでも消滅させると言う非常に強力な技。
この技なら掛かっている封印諸共門を消し飛ばせるであろう。
と言っても、霊児にこの門を破壊する気など全く無いのだが。
ともあれ、冥界に侵入する方法が分かったので、
「兎も角、冥界への行き方は分かった事だしさっさと行きましょ」
我先にと言わんばかりに門の天辺を越える為、咲夜はどんどんと高度を上げて行く。
一人でどんどんと高度を上げて行った咲夜を追う様に、
「まさか、こんな方法で冥界に入る事が出来る何てね。驚きだわ」
「事実は小説よりも奇なりって言うのは、こう言う事を言うのかもね」
妹紅とアリスも高度を上げて行った。
霊児達がもう完全に冥界に行く雰囲気を出していた事で、
「どうする?」
メルランとリリカにルナサはどうするかと聞く。
「あの人達が居たら、五月蝿くて練習処じゃないわねー」
「なら、どっかで時間を潰してから冥界に行こっか」
聞かれたメルランとリリカは霊児達が居れば冥界は煩くなって練習にならないので、時間を潰してから冥界に行こうと言う案を出す。
「ふむ……冥界がこれから騒がしくなるんなら、それが良いかしらね」
二人から案をルナサは受け入れ、
「じゃあ、何所で時間を潰す?」
何所で時間を潰すかと言う事を二人に問う。
「人里のカフェで新メニュー出たって言うのを風の噂で聞いたから、そこに行ってみない?」
「あ、それ良いかも。一寸お腹が空いて来たし」
ルナサからの問いにメルランとリリカは人里のカフェに行きたいと主張したので、
「そ。なら、人里に行きましょうか」
ルナサは行き先を人里に決める。
その後、プリズムリバー三姉妹は人里へと向かって行った。
経過を見守っていたらポツンと取り残されてしまったので、霊児は先に言った咲夜、妹紅、アリスの三人を追い掛け様とした瞬間、
「霊児……」
霊児と一緒に残ってた魔理沙が、霊児の羽織の端っこ掴みながら霊児を呼び止める。
呼び止められた霊児は顔を魔理沙の方に顔を向け、
「どうかしたか?」
どうかしたのかと尋ねた。
尋ねられた魔理沙は霊児の羽織から手を離し、
「あの……さ…………」
少し顔を赤らめて手をモジモジさせ始める。
急にそんな態度を取り始めた魔理沙に霊児が疑問を抱いている間に、
「さっき……あいつ等さ、三人で一つのスペルカードを……使ってただろ……」
プリズムリバー三姉妹が使っていたスペルカードに付いての話題を魔理沙は出した。
アリスとプリズムリバー三姉妹による弾幕ごっこはちゃんと見ていたと言う事もあり、
「ああ、使ってたな。三人一組でのスペルカード」
悩む事無く、霊児は魔理沙が出した話題に肯定の返事をする。
霊児が先の弾幕ごっこ、取り分け三人一組で発動するスペルカードに付いてちゃんと覚えていてくれたからか、
「だからさ……その……」
ならば早速本題に入ると言わんばかりの雰囲気を出しながら魔理沙は上目遣いで霊児を見詰め、
「私達もさ、その……二人で一つのスペルカードを……作って……みない……か?」
自分達もプリズムリバー三姉妹の様に二人で発動するスペルカードを作ってみないかと口にした。
口にされた事は別段断る理由も無いので、
「ああ、別に良いぞ」
安請け合いするかの様に、霊児は構わないと返す。
すると、魔理沙は物凄く嬉しそうな表情になり、
「本当だな!! 約束だぞ!! 絶対だからな!!」
念を押すかの様に霊児に約束だと言い、
「ほら、私達も行こうぜ!!」
霊児の手を掴んで逸る気持ちに従うかの様な勢いで高度を上げて行った。
余談ではあるが、先に言った三人と合流するまで魔理沙は霊児の手を掴んだ儘で嬉しそうな表情を浮かべた状態であったと言う。
冥界に突入した霊児達は地に足を着け、先へと進んで行った。
それから少し経った頃、
「ここが冥界……か。思っていたよりも確りした所ね」
ポツリと、アリスは思っていたよりも冥界は確りした場所だと呟く。
呟かれた内容に同意するかの様に、
「本当ね。冥界は殺風景な場所って思ってたけど……そんな事は無いみたいね。草木、花、岩と言ったものが見られるし」
妹紅は冥界は殺風景な場所では無いと口にする。
妹紅が口にした通り、突入した冥界には草木や花や岩と言ったものが存在していた。
だからか、
「冥界も結構良い感じで木とか並んでるんだから今度、冥界で花見でもしないか?」
今度、冥界で花見をしないかと言う提案を魔理沙はし出す。
魔理沙からの提案を受け、
「冥界で花見? 縁起良いのか悪いのか……」
冥界でする花見は縁起が良いのか悪いのかと言う事を咲夜は考えつつ、
「それにしても、春度が冥界に集まっているって言うのに……冥界って余り暖かく無いのね」
思っていたよりも冥界は暖かく無いと言う事を漏らす。
今の季節は暦の上では春だが、実質冬の様なもの。
なので、冥界も幻想郷と同様に寒くても問題はない。
しかし、今の冥界には春にする為に必要な春度が集中している。
ならば、冥界が暖かく無いと言うのは不自然ではないだろうか。
と言う様な咲夜の考えを察したからか、
「おそらく、集めた春度は冥界を春にする為に使われていないんだな」
集められた春度が冥界を春にする為に使われている訳では無いと言う推論を霊児は述べる。
述べられた霊児の推論を聞き、
「つまり、幻想郷中から春度を集めたのは冥界だけを春にする為じゃ無いって事か?」
魔理沙は纏めると幻想郷中から春度を集めたのは冥界だけを春にする為だけでは無いと言う事かと霊児に問う。
「ああ、そうだ」
「じゃあ、一体何の為に幻想郷中から春度を奪ったんだ?」
問われた事に霊児が肯定の返事をすると、魔理沙は首を傾げてしまった。
そんな魔理沙に、
「単純に考えるなら、幻想郷に春を来させたく無かったからか……」
「若しくは集めた春度を使って何か大きな事を仕出かす……と言ったところかしらね」
霊児とアリスは自分なりの考えを伝える。
二人の考えに異論は無いからか、魔理沙は成程なと言った表情を浮かべた。
その間に、妹紅は霊児の方に顔を向け、
「普通なら霊児かアリスの考えで合っているのでしょうけど、霊児。貴方の勘はどう言ってるの?」
尤もらしい考えではなく、霊児の勘はどう言っているのかと尋ねる。
そう尋ねられた霊児はシレッとした表情を浮かべ、
「大層な理由じゃないって言ってるな」
大層な理由ではないと言う言葉を零す。
霊児から零された言葉を耳に入れた魔理沙は霊児の方に顔を向け、
「大層な理由でないとすると……例えば花見を独り占めする為とかか?」
だとしたら、花見を独り占めする為に幻想郷中から春度を奪ったのではと言う予想を述べる。
霊児の勘を聞いて魔理沙が述べた予想の内容の信憑性は在ると言う事が感じられたからか、霊児達のやる気が若干削がれた。
まぁ、それも無理はないだろう。
幻想郷中の春度を奪い、冬の儘にした犯人の目的が安っぽく感じたのだから。
とは言え、異変は解決しなければならないので削がれたやる気を何とか戻そうとした時、
「「「「「ッ!!」」」」」
霊児達が居る場所に弾幕が迫って来た。
迫り来る弾幕に気付いた霊児達は回避行動を取り、弾幕を放って来た者の姿の確認に掛かる。
霊児達に向けて弾幕を放って来た者は、妖精であった。
だからか、
「……ほんと、何所にでも居るんだな。妖精って」
呆れた様な表情を魔理沙は浮かべ、妖精と言うの何所にでも居るんだなと愚痴る。
魔理沙の愚痴に対し、
「冥界にも自然が在るのだから、妖精が居るのは当然ね。ま、少しは驚いたけど」
冥界にも自然が在るのだから妖精が居るのは当然だとアリスは返しつつ、人形を展開させた。
それを合図にしたかの様に、霊児達は一斉に弾幕を放って妖精達の撃退に掛かる。
異変の元凶に近付いて来ていると言う事もあってか、妖精達から放たれる弾幕はかなり激しい。
しかし、
「よっ」
「ほっ」
「とっ」
「ふっ」
「っと」
霊児、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの五人はその激しい弾幕を余裕が感じられる動きで避けつつ、弾幕を放ち続ける。
五人の放っている弾幕と妖精達の弾幕の多くはぶつかり合って相殺し合ったが、それでも妖精達の方には大量の弾幕が迫って行った。
何故、妖精達の方にだけ大量の弾幕が迫っていくのか。
答えは簡単。
アスリの人形が何体も展開されているお陰で、手数は霊児達の方が圧倒的に上だからだ。
故に、霊児達は大した時間を掛けずに妖精達を一掃する事が出来た。
取り敢えず外敵を一掃し終えた後、霊児達は弾幕を放つのを止めて移動を再開する。
但し、今までよりも進行スピードを上げて。
進行スピードを上げ始めてから幾らかすると、異様に長い階段の前に霊児達は辿り着いた。
思わず目を奪われてしまいそうな程、長い階段であった為か、
「異様に長い階段だな……」
霊児は足を止め、見えている階段を注視する。
足を止めた霊児に釣られる様にして他の面々も足を止め、
「本当に長い階段ね。終わりが見えないわ」
長い階段と言う部分に妹紅は同意し、
「博麗神社へと続く階段とこの階段、どっちの方が長いのかしら?」
博麗神社へと続く階段とこの階段のどちらが長いのかと言う事を霊児に問う。
「間違い無く、こっちの階段だな。それも圧倒的に」
問われた霊児は迷う事無く、今見ている階段だと断言した。
具体例と比べて圧倒的に長いと言われた事で、今見えている階段がどれだけ長いかと言う事を何となくではあるが一同が実感している時、
「……ん?」
階段の先から何かが飛んで来ている事に霊児は気付く。
飛んで来たものが何かを確認する為に目を凝らした結果、
「あれは…………桜の花びらか?」
桜の花びらが飛んで来ているのだと言う判断を霊児は下した。
しかも飛んで来ている桜の花びらの数は一枚や二枚では無い。
無数。
そう言って良い程の桜の花びらが、異様に長い階段の先から桜の花びらが飛んで来ているのだ。
幻想郷中に春は来ず、冥界全体は春が来ているにしては寒い。
だからか、
「これで確定ね。春度はこの先に集まっている」
この階段の先に春度が集まっているとアリスは断定した。
アリスが断定した内容に異論は無い様で、
「だな、それにしても、空を飛べて良かったぜ。そうでなかったらこの階段を歩いて上らなきゃならなかったし」
同意する返事をしながら、空を飛べて良かったと言う台詞を霊児は発する。
もし、空を飛べなかったとしたら。
そんな状況を想像をした魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は、
「空を飛べなかったら、この階段を自分の足を使って上る破目になってたのか」
「でしょうね。この階段の先に今回の異変の元凶が居るのなら、行かない訳にはいかないし」
「足腰には少し自信が在るけど……流石にこの階段を直接上る気にはなれないわね」
「肉体労働が趣味って訳じゃ無いから、この階段を直接上るのは避けたい事ね」
口々に直接上りたくないと言う事を漏らしていく。
確かに、肉体派では無い者は態々終わりが見えない階段を自分の足で上りたいとは思わないであろう。
幾らその先が目的地であったとしてもだ。
兎も角、異様に長い階段の先に居るであろう犯人の居所に向かう為に霊児達は空中に躍り出て移動を再開した。
階段に沿う形で空中を移動し始めてから暫らく経った頃、
「この階段、何時になったら終わりが見えるんだ?」
うんざりしたと言った表情を浮かべながら魔理沙が何時になったら終わりが見えるんだと言った愚痴を零す。
まぁ、どれだけ進んでも終わりが見えないのだ。
そんな表情の一つや二つ、浮べたくもなるだろう。
因みに、霊児、妹紅、咲夜、アリスの四人も魔理沙と同じ様な表情を浮かべていた。
だからか、
「なぁ、一気にスピードを上げて進まないか?」
進行速度を上げないかと言う提案が魔理沙から出される。
だが、
「ここ、冥界は私達全員が初めて来る場所。そんな場所で下手にスピードを上げたら、見落としてはいけない何かを見落としてしまう可能性が出て来るわ。
だから、その案は却下よ」
進行スピードを上げたら見落としてはいけない何かを見落としてしまう可能性が在るので、魔理沙の案は却下だと言う発言がアリスから発せられた。
アリスの発言を受けて初めて来る場所、しかも異変の犯人が居るであろう場所で急ぎ過ぎるのもどうかと魔理沙は考え直し、
「それもそうだな」
たった今出した提案を却下する。
結局、進行スピードは今の状態を維持すると言う雰囲気になった後、
「これ、実は無限に続いている……何て事は無いでしょうね……」
この異様に長い階段は無限に続いているのではと妹紅は呟いた。
霊児達の今現在の進行スピードは決して遅いと言えるものではないのに、一向に終わりが見えないのだからそう呟くのも無理はない。
少々現実味が帯びている呟きであったからか、
「流石にそれは無いと思うけど……」
少し弱気な声色で咲夜は流石にそれは無いのではと返す。
咲夜が返した言葉で一抹の不安が一同に漂ったが、
「ああ、それは無いな」
霊児からこの階段は無限に続いている訳では無いと断言された。
まるで確信している様な声色だったからか、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は霊児の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る霊児は進行を止めていたので、魔理沙達は慌てて進行を止め、
「あら、そんな事が分かるの?」
四人を代表するかの様にアリスがどうしてそんな事が分かるのかと尋ねる。
尋ねられた霊児は体を魔理沙達の方に体を向けて一息吐き、
「ああ、何せ……」
何かを口にし様としながら右手を右肩付近に持って行き、人差し指と中指を合わせた。
するとどうだろう。
霊児の人差し指と中指の間に刀の切っ先が挟まっているではないか。
挟まれている切っ先から何者かが霊児に攻撃を仕掛けて来た事を魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人が認識したのと同時に、
「この上の方は誰かが住んでいる様だしな」
霊児は口にし様としていた事を続けながら背後に顔を向ける。
その瞬間、
「くっ!!」
霊児に攻撃を加えて来た者は大きく後ろに下がって距離を取った。
霊児と襲撃者の距離が離れた事で、襲撃者の風貌が明らかになる。
襲撃者は肩口付近辺りで揃えられた銀色の髪、緑と白を基調とした服に緑色のスカートを来た少女。
更にその少女は自身の傍らに人魂を佇ませて一般的な刀よりも長い刀を構え、一般的な方よりも短い刀も腰に装備していた。
霊児、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの五人が襲撃者が目の前に居る少女である事を理解している間に、
「何時から……」
何時からと言う言葉が少女から発せられる。
発せられた言葉から少女が何を言いたいのかを理解した霊児は、
「最初っから。ずっと俺に対する敵意を感じてたから隙を見せた。そしたら案の定、斬り掛かって来たな」
最初っから気付いていたと言う事を少女に教えた。
「最初っから……」
「取り敢えず、聞いて置こうか。幻想郷から春度を奪ったのはお前か?」
仕掛ける前から自分の存在が露見していた事に少女が驚いている間に、霊児は少女に幻想郷から春度を奪ったのはお前かと問う。
問われた少女は表情を戻し、
「そうだ。お嬢様の願いを叶える為には大量の春度が必要なのよ」
肯定の返事をしながら春度を幻想郷から奪った理由を話す。
少女が話した事から、少女が誰かに使える従者である事を咲夜は読み取り、
「成程、主の為に……ね」
納得したと言える様な表情を浮かべながら一歩前に出て、
「私も主に仕える身。主の願いを叶えたいと言う貴女の気持ちも理解出来るけど……幻想郷に春を取り戻させる為に邪魔をさせて貰うわ」
そう言い放つ。
主に仕える従者として少女の想いに咲夜が共感を抱いていると、
「それより、行き成り霊児に斬り掛かる何てどう言う了見だ!!」
少女に向けて魔理沙が文句の言葉をぶつける。
どうやら、霊児に行き成り斬り掛かって来た事が魔理沙の気に障った様だ。
ぶつけられた言葉に反応した少女は魔理沙の方に顔を向け、
「彼が貴方達の中で一番の強者だから。貴方達は皆強い様だけど、彼は別格。彼をお嬢様に会わせてしまったらお嬢様の願いは成熟しない。
私の直感がそう訴えていたから、彼にはここで倒れて貰いたかったのよ」
霊児を不意打ちで倒そうとした理由を答えた。
要は、霊児を一番の強敵だと少女は認識したから不意打ちを慣行したのだ。
だからか、
「何だ、霊児が一番強いって感じてたのか。分かっているじゃないか」
魔理沙は少し嬉しそうな表情を浮かべた。
敵とは言え、霊児が評価されて嬉しい様だ。
魔理沙の喜び様を見た後、
「今のって、喜ぶところなのかしら?」
「そう何じゃない?」
アリスと妹紅がそんな事を会話を交わし始める。
何やら話が変な方向に向かって行っているのを感じ取った咲夜はまた一歩前に出て、
「……兎も角、同じで従者で刃物を扱うのなら私が相手に」
話を変えるかの様に少女の相手は自分がすると言う宣言をし様としたが、
「いや、俺が行く」
前に出た咲夜を遮るかの霊児が前に出た。
自分から戦うと言い出した霊児が珍しかった、
「あら、珍しいわね。貴方がそんな事を言うなんて」
少し驚いたと言った表情を咲夜は浮かべてしまう。
基本的にグータラが好きな霊児が自分が戦うと主張したのだ。
驚きの表情の一つや二つ、浮べるのも当然と言うもの。
それはさて置き、霊児自ら戦うと主張した事で場の空気が疑問気なものに変わってしまったので、
「楽が出来るならそれに越した事は無いんだが……翌々考えれば、俺はここに来るまで殆ど何もして無いんだよな」
ここまで来るのに自分は殆ど何もしていないと言った事を霊児は口にする。
本来、異変解決と言えば博麗の名を持つ霊児の仕事。
だと言うのに、ここに来るまで霊児は殆ど何もしていない。
一応襲い掛かって来た妖精などを撃退には参加していたが、実力者と言える様な相手との戦い妹紅、咲夜、魔理沙、アリスの四人に任せて来た。
異変を解決する者がここまで楽し過ぎるのもどうかと思ったので、霊児は自分が戦うと口にしたのだ。
ともあれ、霊児の実力は咲夜も知っている事もあり、
「ま、貴方なら何の問題も無いわね」
何の異論も無いと言った感じで咲夜は少女の相手は霊児に任せる事を決め、後ろに下がる。
後ろに下がった咲夜に続く様にして、
「なら、霊児に任せるぜ。私は霊児を信じてるからな。何の心配もしてないぜ」
「ま、霊児なら必ず勝つでしょうね」
「そうね、霊児は創造神クラスの実力を持っているんだし。相手が霊児と同じ創造神クラスでなければ、霊児の勝利は確実ね」
魔理沙、妹紅、アリスの三人は霊児の勝利を信じていると言った事を話しながら後ろに下がって行った。
そして、霊児と少女が一対一と言う状況になったタイミングで、
「一対一なら好都合。ここで貴方を倒せば……後顧の憂いが断てる!!」
ここで霊児を倒せば後顧の憂いを断てると少女は言い放ち、霊児に長刀の切っ先を向ける。
自分を倒せると思っている少女に、
「倒せれば……だけどな」
霊児は軽い挑発を行なう。
すると、
「我が名は魂魄妖夢!!」
少女、妖夢はそう名乗りを上げ、
「妖怪が鍛えしこの楼観剣に……断てぬものなど、あんまりない!!!!」
気合を入れながら霊児に斬り掛かって行く。
迫り来る妖夢を視界に入れながら、
「そこは斬れると断言して置けよ」
少し呆れた表情で霊児は突っ込みを入れ、放たれた斬撃を紙一重で避ける。
それを合図にしたかの様に、妖夢から次々と斬撃が放たれていく。
次々と放たれていく斬撃を霊児はこれまた紙一重で避けていき、放たれている斬撃の威力を見て思う。
妖夢が弾幕ごっこではなく通常戦闘で戦いを挑んで来ていると。
弾幕ごっこが生まれてからの異変解決で通常戦闘をするのは、おそらくこれが初めてであろう。
初めてと言っても、弾幕ごっこが生まれてからの異変解決は今回で二度目だが。
異変解決の戦闘で通常戦闘をするのは魔界に乗り込んだ時以来だと言う事を霊児が思っていると、
「得物を抜かず攻撃を紙一重で避けるだけとは……私を舐めているのですか!!」
妖夢から文句の言葉が発せられた。
慌てた表情も浮べずに攻撃を避け、得物も抜かない。
これでは妖夢から文句の言葉が出る程に怒りを買うのも当然と言うもの。
文句の言葉をぶつけられた霊児は思っていた事を頭の隅に追いやり、
「そう言うお前だってもう一本の刀、抜いてないだろ」
発せられた文句の言葉をその儘返すかの様に、霊児は妖夢にもう一本の刀を抜いていない事を指摘する。
確かに、妖夢も妖夢でもう一本の刀である短刀を抜いてはいない。
なので、舐めるなと言う文句は妖夢にも返って来ると言う事になるだろう。
だが、それに反論するかの様に、
「白楼剣は霊以外には殆ど斬れ味が在りません。それ以前に私は基本的に楼観剣一本で戦い、白楼剣は主に防御用に用いています!!」
短刀、白楼剣の性能と自分の戦い方を妖夢は霊児に伝えた。
頼んでもいないと言うのに余計な情報まで教え出した妖夢に、
「いや、そこは隠して置くべきだろう」
霊児は再び突っ込みを入れながら距離を取り、
「そこまで言うのなら……抜いてやるよ」
リクエストに応えてやると言った感じで左腰に装備している短剣を抜き、一気に妖夢へと肉迫して短剣を振るう。
振るわれた短剣を妖夢は白楼剣を抜いて防ぐが、
「ぐっ!?」
思いっ切り吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた妖夢は霊児の斬撃の強さに驚きながらも体勢を立て直し、顔を上げる。
その瞬間、
「ッ!?」
妖夢の目に霊児の短剣の切っ先が映った。
映った短剣から霊児が短剣を投擲したのだと言う事を妖夢は直感的に感じ取り、
「しっ!!」
反射的に白楼剣を振るって迫って来ていた短剣を弾き飛ばす。
しかし、弾き飛ばした短剣の先には、
「なっ!?」
霊児が居た。
一体何時の間にと言う思いを妖夢が抱いている間に、霊児は弾かれた短剣を左手で掴み、
「今度はこっちからいくぜ」
連続で短剣を振るい始める。
次から次へと振るわれる短剣を妖夢は白楼剣で防いでいったが、
「く……」
直ぐに白楼剣だけではなく楼観剣も使って霊児の短剣を防ぎに掛かった。
何故、楼観剣も使って防いでいるのか。
答えは簡単。
白楼剣一本では防ぎ切れ無いと判断したからだ。
が、楼観剣と白楼剣の二本の刀を使っても妖夢は霊児の斬撃を少し掠らせてしまっている。
少なくとも、二本の刀を使って防戦に入った妖夢の判断は間違ってはいなかったであろう。
もし、二本の刀を使って防戦に入らなければ確実に妖夢は霊児の斬撃の直撃を受けていたであろうから。
とは言え、この儘護りに徹したとしても妖夢に勝ち目は無い。
それは妖夢自身も十分に理解している。
故に、
「…………………………………………………………………………」
妖夢は霊児の斬撃を二本の刀で防ぎ、チャンスを伺っていた。
伺っているチャンスと言うのは、霊児の隙。
霊児に隙など出来るのかと思われるかもしれないが、今の霊児の意識は妖夢に向いている。
意識が妖夢に向いていると言う事は、他への警戒が疎かになっていると言う事。
そう考えた妖夢は、自らの手で霊児の隙を作る為に霊児の真後ろにあるものを配置していた。
配置しているものと言うのは妖夢の傍らに佇んでいる人魂、自身の半身とも言える半霊だ。
後をこれ霊児にぶつけるだけと言う予定を立てながら、妖夢はチラリと霊児の顔に目を向ける。
チラリと霊児の顔を見た妖夢は、霊児の目が自分に集中している事を感じ取った。
だからか、
「今っ!!」
今が好機だと言わんばかりに妖夢は半霊を動かす。
動かされた半霊は物凄い勢いで霊児のへと向って行く。
そして、半霊が霊児の背中に当たる直前、
「……え?」
霊児の姿が消えた。
一体何所にと思う暇も無く、霊児に激突させる筈であった半霊は、
「ぶふう!?」
妖夢に直撃する。
想定外の攻撃を受けたと言うより自爆してしまった妖夢は体勢を思いっ切り崩してしまったが、
「くっ!!」
歯を喰い縛って強引に体勢を立て直し、白楼剣を鞘に収めて楼観剣を両手で構えながら霊児の姿を探していく。
すると、
「気付けないとでも思ったか?」
妖夢が居る位置よりも高い位置からそんな声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した妖夢が顔を上げると、その先には霊児が居り、
「戦っている最中にお前の傍らに居た人魂が居なくなってた事に。そこまでヒントを貰って置いて人魂による不意打ちに気付けない程、俺は間抜けじゃないぜ」
妖夢より高い位置に居る霊児は不意打ちを避ける事が出来た理由を語る。
語られた内容を頭に入れながら、妖夢はこれまで分かった事を纏めていく。
正攻法で攻めても駄目。
かと言って、不意打ちを仕掛けても駄目。
おまけに単純な実力でも圧倒的に負けている上に、霊児は非常に戦い慣れている。
纏めた結果、勝ち目がかなり薄いと言う判断を妖夢は下した。
しかし、それでも妖夢は霊児に勝たなければならない。
主の願いを叶える為に。
「………………………………よし」
決意新たにと言った感じで妖夢は霊児に勝つ為の作戦を立て始める。
先ず最初に浮かんだ作戦は半霊を自分の姿に変え、二対一で戦うと言うもの。
劣っている地力を数で埋めると言うのは割とポピュラーな方法であり、直ぐに思い浮かんだと言う事で、
「行け!!」
妖夢は早速作戦を実行する事にし、半霊を霊児に向けて突っ込ませる。
突っ込んで来た半霊を視界に入れた霊児は身構えたが、
「……何?」
突っ込んで行った半霊は霊児を避ける様に霊児の後ろへと回って行った。
自分に激突させずに半霊を自身の背後に回させた事に霊児は表情を訝しむものにしたが、直ぐに表情を驚いたものに変える。
何故ならば、後ろに回った半霊が妖夢そっくりな姿になったからだ。
武装も含めて。
流石にこれは予想外と言った感じの霊児に向け、妖夢の姿となった半霊は霊児との距離を詰めて楼観剣を振るう。
振るわれた楼観剣を避ける為、霊児が体を傾けると、
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
本物の妖夢が一気に霊児へと肉迫し、楼観剣を振るって来た。
体を傾けているところに攻撃を加えると言う、妖夢の攻撃はタイミング的には申し分無いもの。
しかし、
「っと」
体勢を崩している霊児は反射的に楼観剣を握っている本物の妖夢の手に蹴りを放ち、振るわれた楼観剣の進行を途中で止める。
「ッ!!」
今の一撃を防がれた事に本物の妖夢は驚くも、直ぐに次の一撃を放とうとしたが、
「がっ!!」
放つ前に霊児はもう一本の足で妖夢の腹部に蹴りを叩き込み、本物の妖夢を蹴り飛ばした。
またしても攻撃を防がれた事に本物の妖夢が苦々しいと言った表情を浮かべている間に、半霊の妖夢は再度霊児に向けて楼観剣を振るう。
敵が攻撃した直撃に攻撃を仕掛けると言う、これまたタイミング的に申し分無いもの。
今度こそ当たると思われた一撃は、
「……っと」
霊児ではなく、霊児の持つ短剣に叩き込まれた。
つまり、またまた防がれてしまったのである。
二度ある事は三度あると言う諺を再現するかの様に半霊の妖夢からの攻撃を防いだ霊児は短剣を持っている手に力を籠め、半霊の妖夢を弾き飛ばす。
本物と半霊の二人の妖夢が離れたからか、霊児は体勢を立て直し、
「さて……」
改めてと言った感じを周囲を見渡す。
見渡すと、二人の妖夢が自分を挟む位置に居る事が分かった。
先程と配置が変わっていない事から、再び前面背面による攻撃を仕掛けて来るのかと言う事を霊児は考えていると、
「ん……」
背面の方に居る半霊の妖夢が突っ込んで来ているのを感じ取る。
ならば、振り返り様に一撃を喰らわせて敵の数を減らそうと言う予定を立てながら霊児は短剣を持つ手に力を籠め、
「しっ!!」
振り返りながら短剣を半霊の妖夢に向けて振るう。
振るわれた短剣は半霊の妖夢へと向かって行き、その切っ先が妖夢に当たろうとした刹那、
「何っ!?」
半霊の妖夢が姿を人魂の姿に変えた。
いや、戻したと言った方が正しいであろうか。
兎も角、人型から人魂に姿を変えられた事で霊児の攻撃は空振ってしまい、
「貰った!!」
空振った事で生まれた隙を突くかの様に、妖夢は楼観剣による刺突を繰り出した。
「ッ!!」
繰り出された刺突に反応した霊児は反射的に上半身を後ろに倒す。
上半身を後ろに倒したのと同時に霊児の前髪数本が斬られ、宙を舞った次の瞬間、
「避けられるの想定済み!!」
妖夢は刺突の状態にある楼観剣をその儘振り下ろした。
上半身が後ろに倒れている今ならこの斬撃は避ける事は出来ないと言う確信が妖夢にはあったが、
「なっ!?」
その確信を裏切るかの様に、振り下ろされた楼観剣は霊児によって防がれてしまう。
振り下ろされている楼観剣の柄に、上半身を後ろに倒した勢いを利用した蹴りを叩き込むと言う方法で。
それはさて置き、握っている刀の柄を蹴られた事で妖夢は体勢を若干崩しながら後ろに下がってしまった。
妖夢が後ろに下がってしまった間に霊児は構えを取り直す。
折角崩れていた霊児の体勢が元に戻ったのを見た妖夢は、
「く……」
悔しそうな表情を浮かべ、楼観剣を握り直しながら体勢を立て直した。
そして、思う。
同じ手は通じないだろうと。
半霊を自分の姿にするのも攻撃途中で自分の姿をした半霊も人魂に戻すのも初見だからこそ、ここまで通用した様なもの。
二度目ともなれば、今回の様にはいかないであろう。
であるならば、態々同じ手を使う必要も無いと言う結論を妖夢が頭の中で下した時、
「……ッ」
足りない地力を数で埋めると言う、つい先程取っていた作戦の一部を変えたらどうだと言う発想が浮かんだので、
「しっ!!」
妖夢は楼観剣を連続で振るい、振るった楼観剣の軌跡から弾幕を発生させる。
そう、浮かんだ発想と言うのは弾幕で攻めると言うもの。
発生した弾幕は一斉に霊児へと向かって行ったが、
「……っと」
迫り来る弾幕を、霊児は顔色一つ変えずに己が短剣で斬り払っていった。
「く……」
弾幕を斬り払っている霊児の様子を見た妖夢は弾幕を放っても大した意味は無いと感じ、楼観剣を振るうのを止めて弾幕の発生を止める。
得物を使った近接戦も弾幕を使った遠距離戦も駄目となると、取れる手段は一つだけ。
強烈な一撃で下す。
これだけである。
とは言っても、強烈な一撃で霊児を下そうにも普通にその一撃を放っても容易く避けられるだけ。
となれば、先ずは隙を作る必要が在る。
だが、強烈な一撃を放つ為には自分の技などで隙を作らせるのは避けたいところ。
何故ならば、妖夢自身は強烈な一撃を放つのに集中したいからだ。
なので、妖夢は霊児の隙を作る為の何かを探す為に顔を動かしていく。
そう都合良く霊児の隙を作らせる事が出来るものなど見付からないと思われたが、
「あ……」
都合良く、霊児の隙を作れそうなものが妖夢の目に映った。
今現在の霊児は妖夢から少し離れた位置に居るが、何時また攻撃を仕掛けて来るか分かったものではない。
まだ余力が有り、霊児が攻勢に出る前に仕掛けた方が良いと妖夢は考え、
「ッ!!」
意を決したかの様に急降下を行なう。
突如として急降下を行なった妖夢を不審に思うも、妖夢を追い掛ける為に霊児も急降下する。
霊児が自分を追って来ているのを感じ取った妖夢は内心で掛かったと思いながら石で出来た階段に足を着け、
「はあ!!」
楼観剣を階段に突き立てた。
その次の瞬間、石で出来た階段の一部が砕けて無数の小さな石の塊が舞い上がる。
丁度、霊児が居る場所に目掛けて。
自身に向けて迫り来る小さな石の塊を視界に入れた霊児は、
「ッ!!」
急ブレーキを掛け、石が目に入らない様に右腕を眼前へと持って行く。
石が舞い上がり始めてから少しすると、右腕に石が当たらなくなったので、
「………………………………………………」
霊児は右腕を下ろして眼下を確認する。
確認した結果、
「……居ない?」
つい先程まで妖夢が居た位置に、妖夢は居ない事が分かった。
この事から、舞い上がらせた石は目晦ましであるのを霊児は理解し、
「何所に……」
居なくなった妖夢を探す為に顔を動かそうと刹那、
「……ん?」
上空の方から霊児は何かを感じ、顔を上げる。
霊児が顔を上げた先には、楼観剣から青白い妖力溢れ出させて楼観剣自体を擬似的に巨大化させている妖夢の姿が在った。
そして、妖夢は巨大化させた楼観剣を振り被りながら超スピードでの急降下を行なう。
全てはこの一撃の為に在ったのだと言わんばかりの意気込みで。
物凄い勢いで近付いて来る妖夢を視界に入れた霊児が短剣を構えたのと同時に、
「迷津慈航斬!!!!!!」
全ての力を籠めたと言わんばかりの勢いで、妖夢は楼観剣を振り下ろした。
振り下ろされた楼観剣は霊児の短剣と激突し、金属と金属を激突させた様な音が辺り一帯に響き渡り、
「ッ!!」
妖夢に押される形で霊児はどんどんと高度を落として行ってしまう。
予想以上に重い一撃である事に霊児が驚いている間に、
「お……」
強制的にと言った感じで霊児は妖夢が破壊した階段に足を着け、体勢を崩してしまう。
足場が悪く、体勢を崩しているこの状況。
確実に押し切れると妖夢は判断し、
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
体中から妖力を解放し、更に力を籠める。
籠められていた力が激増した事で、霊児の足が地面に減り込んでしまう。
これで下半身による踏ん張りも効かなくなったので、押し切るの時間の問題と妖夢は思った時、
「……え?」
楼観剣が妖夢の手から離れ、宙を舞った。
何の前触れも無く楼観剣が自分の手から離れた事に唖然とした表情を浮かべていると、短剣を振り切っている霊児の姿が妖夢の目に映る。
単に腕力だけで自身の必殺の一撃を霊児が弾いた事を妖夢が認識したのと同時に、
「か……」
妖夢の腹部に衝撃が走った。
走った衝撃を確認する為に視線を下ろすと、自身の腹部に霊児の拳が突き刺さっているのいるのが妖夢の目に映る。
楼観剣を弾かれた際に生まれた隙を突いたのかと言う事を妖夢が理解したタイミングで、
「生憎、弱かったら博麗何てやってられないんでな。負けてやれないんだよ、俺は」
負けてやる事は出来ないと言った発言が霊児から発せられる。
しかし、突き刺さった拳のせいで意識を失い掛けていた妖夢はその発言を耳に入れる事は出来ず、
「申し訳……ありません……幽々子様……」
主と思わしき人物への謝罪を行ない、意識を失った。
意識を失った事で妖夢から解放されていた妖力が収まった後、霊児は妖夢を地面に横たわらせ、
「よっ……と」
落下してきた楼観剣を右手の人差し指と中指を使って掴み、短剣を鞘に収めて一息吐く。
こうして、霊児と妖夢の戦いは霊児の勝利で幕を閉じた。
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