「ふぅ……」

人差し指と中指で掴んでいる楼観剣を横たわっている妖夢の近くに突き刺し、霊児が一息吐いたタイミングで、

「霊児ー!!」

自身の名を呼ぶ声が霊児の耳に入る。
入って来た声が発せられたであろう方に顔を向けると、自分の方に向けて近付いて来ている魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの姿が霊児の目に映った。
どうやら、戦いが終わったと言う事で皆霊児の所に集まり出した様だ。
ともあれ、全員が一箇所に集まったと言う事で、

「それにしても、弾幕ごっこじゃなくて通常戦闘で戦いを挑んで来る何てね」

弾幕ごっこではなく通常戦闘で戦いを挑んで来た妖夢に驚いたと言う発言を妹紅は発する。
レミリアが起こした異変が弾幕ごっこで解決されて以降、会話を交わす事が出来る者同士の戦いは弾幕ごっこで行なう事が多くなった。
それ故に、妹紅は驚きの感情を抱いたのだろう。
そんな妹紅に、

「通常戦闘で戦うって言うのは別に普通だとは思うんだけどな。異変を起こす奴等にだってそれ相応の目的があって異変を起こす訳だろうし。その起こした異変での
戦いを遊びで済ますって選択肢は余り取らないだろ。まぁ、理由はどうであれ異変を起こされたら解決する為に動かなければならない俺に取っては迷惑この上無い事
だけ……ど……な……」

通常戦闘で戦いを挑んで来るのは別に不思議では無いだろう言う様な事を口にしている中で、霊児は途中である事を思い出して発言を詰まらせてしまう。
思い出した事と言うのは、この前の正月の時に自分の家である博麗神社でやった忘年会、新年会と言う名の宴会で幽香が発した発言。
幽香が発した発言とは、レミリアが起こした異変を弾幕ごっこで解決したせいで異変=遊びと言う認識が広まったと言うもの。
ならば、遊び感覚で異変を起こす輩が現れても可笑しくないと続ける様に言われたのだ。
元々、弾幕ごっこは気軽に出来る戦いごっこと言うコンセプトで生み出されたもの。
その戦いごっこで異変を解決したのだから、異変=遊びと言う認識が広まっても何の不思議は無い。
宴会と言う場で言われた事なので、幽香のその発言を霊児は話半分位しか信じていなかった。
否、話半分位に信じ様としていたと言った方が正しいであろうか。
兎も角、あの時の話はどうであれ再び異変が起こってしまった。
まだ、レミリアが起こした異変から大した間が開いていないと言うのに。
となれば、あの時の幽香の話も真実味が帯びて来た言うもの。
以上の事から若しかしたらこれから先、結構な頻度で異変が発生するかも知れないと言う考えが頭の中に過ぎった為、

「はぁ……」

知らず知らずの内に、霊児の口から溜息が零れてしまった。
急に溜息を零した霊児に、

「どうかしたの?」

アリスはどうかしたのかと尋ねる。
そう尋ねられた霊児は過ぎった考えを頭から追いやり、

「いや、何でも無い」

何でも無いと返す。
ある意味、現実逃避をしている霊児を放って置くかの様に咲夜は階段の先に目を向け、

「それはそうと、この階段の先に異変の元凶が居るのは確定かしらね?」

確認を取るかの様にこの先に異変の元凶が居るのかと口にする。
口にされた事に対し、

「多分な。さっきの妖夢の発言と行動から察するに、この先に異変の元凶である幽々子って奴が居るだろう」

戦っていた時の妖夢の言動を思い出しながら、霊児は異変の元凶が階段の先に居るだろうと言う。
それに異を示すかの様に、

「この子のさっきの発言はブラフとも考えられなくもないけど……その可能性は低そうね。見た感じ、結構単純そうな感じだったし」

妖夢の発言がブラフである可能性が有るとアリスは漏らしたが、直ぐに漏らした事を撤回した。
妖夢が単純そうと言う部分に異論は無かった様で、

「確かに」
「そうだな」
「そうね」
「霊児と戦っている時の発言を聞くにそんな感じだったしね」

霊児、魔理沙、咲夜、妹紅の四人はその部分に同意する言葉を発する。
やはりと言うべきが、五人とも妖夢に抱いた印象は同じ様なものであった様だ。
ともあれ、霊児達の進行を阻む者が居なくなった事で、

「それじゃ、先に進むもうぜ」

話題を変えるかの様に、魔理沙は先に進もうと言う提案を行なう。
行なわれた提案を受け、一同は気持ち新たにと言った感じで先を見据えて再び先へと進み始めた。





















霊児達が再び移動を始めてから幾らか経った頃、霊児達の目に大きな門が映った。
見た感じ、門の殆どが木で出来ている造りの様だ。

「ここが……」
「頂上みたいだな」

霊児と魔理沙はそう言いながら大きな門の前に降り立つ。
それに続く様にして妹紅、咲夜、アリスの三人も門の前に降り立ち、

「見事な門ね」
「紅魔館の門は洋風だけど、こっちは完全に和風ね」
「……ここから先に春度が集まっているのを感じるわね」

思い思いの言葉を口にしていく。
口にされた言葉の中でこの先に春度が集まっていると言う部分が在った為、

「と言う事は、やっぱりこの先に異変の元凶が居るのか?」

魔理沙からやっぱりこの先に異変の元凶が居るのかと言う発言が発せられる。

「その可能性が高いわね」

発せられた発言にアリスがその可能性が高いと返すと、

「それでどうするの? 普通に考えれば正規の方法で入れないと思うけど?」

妹紅からどの様にして中に入るのかと言う疑問が述べられた。
妹紅の疑問が耳に入ったアリスは門に目を向け、

「普通に考えて、この先に居るであろう異変の元凶が何の侵入者対策をしていないと言うのは考え難いわね。まぁ、異変の元凶が余程の馬鹿か
余程の自信家なら話は別だろうけど」

自分なりの推論を口にしていく。

「なら、その対策が何なのかを調べるところから始めるべきかしら」

口にされた内容から、咲夜は先ずは施されているであろう対策に付いて調べるのが先かと考える。
確かに、侵入者対策が施されているのならそれに付いて調べるのは重要な事だろう。
例えば門を開けた瞬間に門が大爆発を起こすと言う仕掛けが施されていたとしたら、目も当てられない。
取り敢えず、施されているものに付いて調べ様と言う雰囲気が辺りに漂い始めた時、

「その必要はねぇよ」

調べる必要は無いと言いながら霊児は門の前まで足を進め、

「侵入者対策をしてい様がしていまいが……」

門の前に着くと足を止めて軽く構えを取り、

「やる事は……」

右足を引き、

「一つだけだ!!」

門に蹴りを叩き込んだ。
すると、何かが破壊される音と共に木で出来た門は吹き飛んで行った。
そして、吹き飛ばされた門は奥に見えている桜の花を咲かせている桜の木の一部を破壊してしまう。
無論、これだけで済んでいる訳では無い。
破壊された門は更に奥へと突き進んで行き、純和風で構成された巨大な屋敷に激突する。
が、激突した程度では吹き飛ばされた門は止まらなかった。
何と、吹き飛ばされた門は屋敷を破壊しながら更に突き進んで行ったのだ。
最終的に、屋根に到達した所で漸く吹き飛ばされた門の進行は止まった。
蹴りを叩き込んだ門の行方を見届けた後、

「良し、これで入れる様になったな」

満足気な表情を浮かべながら霊児は足を元の位置に戻す。
何の躊躇も無く門を破壊した霊児に、

「無茶するわね」
「成程。紅魔館の門もこんな感じで破壊されたのね」
「昔から力尽くは好きだって感じはしてたけど……」
「ま、この方が霊児らしいぜ」

妹紅、咲夜、アリス、魔理沙の四人は思い思いの感想をぶつける。
ぶつけられた感想に、

「別に良いだろ。時間の短縮にはなったんだし」

霊児がそう返しながら振り返ると、

「確かに、時間の短縮にはなったけどね」

時間の短縮にはなった事を認めるも、アリスは溜息を一つ吐く。
溜息を吐いたアリスの表情が少し残念そうなものであったからか、

「何だ、何の仕掛けが在るのか調べたかったのか?」

仕掛けが在るかどうかを調べたかったのかと言う事をアリスは霊児に問う。

「そ、そんな事は無いわよ」

問われたアリスは否定の言葉を発しながら霊児から顔を背ける。
顔を背けたアリスは顔は若干赤くなっていた事から、霊児は図星かと思った。
と言っても、その事をここで指摘したら余計な時間が取られるであろうと感じたので霊児は何も言わなかったが。
兎も角、蹴り破ると言う方法で門が開かれたからか、

「でもま、蹴り破って進入って言うのも結構良いわね。今度、輝夜と戦う時に私もこの方法で行ってみ様かしら?」
「ま、私はさっきの従者……魂魄妖夢に同情するわね。おそらく、これの修理はあの子がする事になるんでしょうし」

自分もやってみ様と言う台詞と妖夢に同情する台詞が妹紅と咲夜から発せられる。
場の雰囲気から、この儘雑談に突入しそうだと感じた魔理沙は、

「それより、さっさと行こうぜ」

さっさと行こうと言う言葉を四人に伝えた。
伝えられた内容が耳に入った四人は本来の目的を思い出したかの様に破壊された門を見据える。
そして、一同は屋敷の敷地内へと足を踏み入れた。
周囲の様子を伺いながら足を進めて行きながら少しすると、

「やっぱり、ここ等一帯にだけ桜の花が咲いてるな」

ここ等一帯にだけ桜の花が咲いていると言う指摘を魔理沙は行なう。
幻想郷に春は来ず、春度が集まっていると考えられていた冥界は思っていた程に暖かくは無い。
だと言うのに、足を踏み入れた屋敷の敷地内には桜の花が咲き誇っている。
以上の事から、

「予想通りここに春度が集まっていたわね。けど……まさかこんな解り易い使い方をしているとはねぇ……」

春度がここに集まっている事をアリスは断定しつつ、呆れた表情を浮かべた。
まぁ、幻想郷中を春度を奪ったと言うのにやってる事は自分の敷地内の桜を満開させる事にしか使っていない様に見えないのだ。
呆れた表情の一つや二つ、浮べもするだろう。
アリスが今回の異変の首謀者に対して何とも言えない感情を抱いている間に、

「それにしても、見事な庭ね」

辺り一帯を一通り見渡した妹紅が見事な庭だと言う感想を零す。
零された感想に同意するかの様に、

「そうね。紅魔館の庭に勝るとも劣らない位だわ」

咲夜も紅魔館の庭と同等レベルだと言い、

「まぁ、先程のあれで一部が見るも無惨な事になっているけどね」

誰かのせいで庭の一部が見るも無惨な事になっていると呟きながら霊児の方に顔を向ける。
顔を向けられた霊児はシレッとした表情で、

「安心しろ、俺は気にしていない」

そんな事を言ってのけた。
霊児が言ってのけた事は予想通りと言えるものであったからか、

「ま、貴方ならそんな事を言うと思っていたわ」

特に何かを言うと言った事を咲夜はせず、溜息を一つ吐く。
同時に、

「しっかし、何だって幻想郷中の春をこんな所に集めたんだ? やっぱり、花見を独り占めする為か?」

屋敷の敷地内の様子から、幻想郷中の春を集めたのはやはり花見を独り占めする為かと言う推察を魔理沙は立てていく。

「そんな馬鹿な……とは思うけど、この状況を見ると否定仕切れないのよね……」

立てられた推察をアリスは否定したかったが、否定仕切れなかった。
否定し様にも、桜の花が咲き誇っている以外に変わったものが見られないのだ。
案外、本当に幻想郷中から春度を奪ったのは魔理沙の推察通りなのかもしれないと言う事をアリスが考え始めた辺りで、

「ねぇ、あの桜……何かしら?」

あの桜は何かと言いながら、妹紅はある桜が生えている方に向けて指をさす。
妹紅が指をさした桜は、他の桜と比べてずっと大きなものであった。
見た感じ、只大きいだけの桜。
だが、

「何だ……あれ……?」

霊児はその大きな桜を見た瞬間、何かを感じ取った。
感じ取ったものの正体までは分からなかったが、普通の桜とは何かが違うと言うのを霊児の勘が訴えている。
訝し気な表情で巨大な桜を見ている霊児に、

「霊児、あの桜が気になるのか?」

魔理沙はそう声を掛けた。

「ああ……」
「なら、あの桜の近くに行ってみ様ぜ」

掛けられた声に霊児が肯定の返事をした為、魔理沙は一同に霊児が気になっている桜の近くに行こうと促す。
霊児の勘の良さは、ここに居る全員が知っている事。
その霊児が気に掛かっている桜となれば、調べる価値は十分に在るだろう。
だからか、一同は異を唱える事無く霊児が見ていた桜が在る方向へと足を進めて行く。
そして、霊児、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの五人が巨大な桜の前に辿り着くと、

「……この桜の中に春度が集中しているわね」

巨大な桜の中に春度が集中している事をアリスは皆に教える。
教えられた内容から、

「つまり、幻想郷中の春はこの桜の中に集まっているって事か?」

幻想郷中の春が巨大な桜の中に集まっているのかと魔理沙は考えた。
魔理沙が考えた事に、

「ええ、その通りよ」

正解と言う様な言葉をアリスが掛けた時、

「この桜に春度が集まっているって言うのなら、この桜を咲かせる為に幻想郷中の春を集めたのかしら?」

幻想郷中から春度を奪ったのは巨大な桜の花を咲かせる為だったのかと言う答えに妹紅は行き着く。
行き着いた妹紅の答えに、

「多分ね。それと、この桜に春度が集中しているせいで近くの桜が満開になったと考えられるわ」

行き着いた答えは多分正しいと言う事と、巨大な桜に春度が集中しているせいで周りの桜が満開になった可能性があるとアリスは返す。
アリスが返した事に一同が納得している中、

「でも……その割りにはこの桜、完全には咲いてい無い様ね」

春度が集中していると言うのに、巨大な桜の花は完全に咲いている訳では無いと言う指摘を咲夜は行なった。
咲夜の指摘通り、巨大な桜の花は完全に咲いている訳では無いのだ。
それでも、見事と言える程に咲き誇ってはいるが。
兎も角、幻想郷中の春度を巨大な桜の中に集中させているのに満開になっていないと言う指摘に、

「春度が足りていないんだろ」

霊児は春度が足りていないから満開にならないのだろうと言う推論を述べた。

「足りていないって……幻想郷中の春を殆ど集めたと言うのに、まだ足りないって言うの!?」

返って来た発言を聞き、咲夜は驚きの表情を浮かべてしまう。
何せ、幻想郷中の春度を集中させていると言うのに満開になっていないのだ。
驚くのも無理はない。
咲夜だけではなく、魔理沙、妹紅、アリスも驚いているの感じ取った霊児は、

「それだけ、この桜には強大な力が有るって事だろ」

巨大な桜には幻想郷中の春度を集めても満開にならない程の力が有るんだろうと口にし、印を組み始め、

「少なくとも、この中に在る春度をさっさと解放した方が良さそうだ。この桜が満開になると面倒な事になりそうだし」

さっさと巨大な桜の中から春度を解放した方が良いと漏らし、印を組むスピードを上げていく。
印を組んでいる霊児が珍しかったからか、

「印を組むスピード、相変わらず速いなー」
「見た感じ、陰陽術の印の組み方が基本となっているみたいね」
「私はそう言った術には余り詳しくは無いけど、複雑そうだって言うのは分かるわ」
「陰陽術と言った系統の術は専門外だから、印の組み方が結構興味深いわね」

魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は興味深そうに印を組んでいる霊児を見ていた。
その間に印を組み終えたからか、

「さて……」

霊児は印を組むのを止めて巨大な桜に手を付け様とする。
そして、霊児の手が巨大な桜に触れ様とした刹那、

「それは一寸困るわね」

何者かの声が霊児達の耳に入って来た。
この場所とこのタイミングで声を掛けて来たと言う事は、声を掛けて来た者は敵と言う可能性が極めて高い。
なので、霊児達は警戒した様子を見せながら声が聞こえて来た方へと顔を向ける。
顔を向けた先には肩口位にまで伸ばした少し薄い桜色の髪に薄い青を基調した着物を着込み、着物と同じ色合いの帽子に三角巾を付けた物を被った女性が居た。
十中八九、現れた女性は敵であろうが、

「誰だ、お前?」

念の為と言った感じ霊児は現れた女性に誰かと尋ねる。

「私は西行寺幽々子。この白玉楼の主よ。亡霊の姫と呼ばれる事もあるわね」

尋ねられた女性、幽々子は何の抵抗も無く軽い自己紹介をしてくれた。
容易く自分の事を教えてくれた幽々子に霊児は少し驚きつつ、目の前に居る存在が妖夢の言っていたお嬢様かと言う判断をしている間に、

「それより、この桜から春度を抜かれて困ると言うのは? これだけの花見を一人で満喫したのなら、もう十分じゃないかしら?」

幽々子から更なる情報を得ようと、アリスは幽々子に軽い話題を振る。
すると、

「後、もう少しなのよ」

もう少しだと言いながら幽々子は巨大な桜に目を向け、

「この桜……西行妖にはね、何者かが封印されているの」

唐突に、巨大な桜の名称とそこに封印されている者の事を語った。

「何者かが封印?」
「そう、そのお陰で西行妖は枯れた儘なのよね」

封印と言う部分が引っ掛かった咲夜が首を傾げたタイミングで、幽々子は何者かが封印されているせいで西行妖が満開にならない事を話す。
幽々子が話した内容から、

「だから、幻想郷中から春度を奪ってこの桜……西行妖に入れたのかしら? 西行妖を満開にする為に」

幻想郷中から春度を奪ったのは西行妖を満開にさせる為だったのかと妹紅は推察した。
幽々子の話が正しいのであれば、普段の西行妖は枯れていると言う事になる。
ならば、満開に桜の花が咲いている西行妖を見たいと思っても不思議は無いだろう。
しかし、

「それもあるけど、本当の目的は別に在るの」

そんな妹紅の推察では不十分だと言う様な事を口にしながら幽々子は口元を扇子で隠す。
本当の目的は別に在ると口にされた事で、

「本当の目的?」

魔理沙は首を傾げてしまう。
だからか、

「そう。本当の目的はここに封印されている者を呼び覚ます事なの」

何処か演技掛かった口調で本当の目的を霊児達に教えて扇子を閉じ、閉じた扇子で西行妖をさし、

「この西行妖が満開になれば封印されている存在が解き放たれるらしいのよ」

西行妖を満開にすれば封印されている存在が解き放たれると言う発言で締め括った。
取り敢えず、西行妖の満開と封印されている者の解放がイコールで結ばれている事を知れた後、

「封印されている存在ねぇ……」

もう一度、西行妖の方に霊児は顔を向け、

「その存在を解き放たせる訳にはいかないな。封印を解いたら絶対に碌な事にならないと俺の勘が言っている。邪魔させて貰うぜ」

再び幽々子の方に顔を戻し、そう言い放つ。
それに続く様にして、

「霊児の勘の精度はかなり高いからね。霊児が碌な事にならないって言うのなら、本当に碌な事にならないでしょう。私も邪魔させて貰うわ」
「まぁ、それを抜きにしてもこれ以上春を来させないと言う道理もないしね。幻想郷に春をやって来させる為にも、覚悟して貰いましょうか」
「好い加減、雪も見飽きて来たしね。この西行妖から春度を解放させて貰うわよ」
「そう言う事だ。花見の独り占めはこれで終わり!! 春を返して貰うぜ!!」

妹紅、咲夜、アリス、魔理沙の四人もそう言い放った。
五人から宣戦布告を受けた幽々子は、

「あらあら、怖い怖い」

口元を扇子で再び隠しつつ、

「これは……一寸脅かしてお帰り願おうかしら」

お帰り願おうかと言う台詞を零す。
その瞬間、

「「「ッ!?」」」

魔理沙、咲夜、アリスの三人が顔を青褪めさせ、体を震わせ始めた。
まるで心臓を鷲掴みされた様な、目の前に避け様の無い死が迫っている様な、全身に流れている血を一瞬で氷らされた様な、首元に刃物を添えられている様な。
兎も角、魔理沙、咲夜、アリスの三人が何か言い知れぬ恐ろしいものを感じていると、

「魔理沙、咲夜、アリス、貴女達は私の後ろに居た方が良いわ」

妹紅が三人を庇う様に数歩前に出てそう言い、

「この女……私達を直接死に誘おうとしたのよ。今、貴女達が感じているそれは死よ」

顔を青褪めて体を震わせている理由を三人に説明し、

「私は不老不死の蓬莱人だから彼女の能力……相手を即死させるだとか死に誘うって言うこちらの生命を奪うと言った系統の能力や技などは私には一切効かない」

不老不死に蓬莱人である自分には幽々子の能力は一切効かないと断言する。
そして、妹紅は顔を三人の方に向け、

「私の後ろに居れば、あの女の能力を防げると思うわ。だから、私の後ろから出ない様にしなさい」

自分の後ろに居ろと言う軽い忠告を行なう。
妹紅が前に出てくれたお陰でかなり楽になったからか、

「……ああ、そう言えば貴女は不老不死だったわね。取り敢えず、助かったわ」
「ああ言う能力に対しては、不老不死って本当に有利よね。兎も角、ありがとう」
「助かったぜ。ありがとな、妹紅」

咲夜、アリス、魔理沙の三人は妹紅に礼の言葉を述べる。
三人から礼を受けた妹紅は、一寸嬉しい気分になった。
不老不死になってからと言うもの、余り良い思い出が妹紅には無かったのだ。
と言うより、悪い思い出の方が多かったであろう。
だが、こうして不老不死であったからこその礼を伝えられた。
だからか、不老不死である事も余り捨てたものでは無いと妹紅は思いつつ、

「どういたしまして」

少し顔を赤く染めてどういたしましてと返し、妹紅は霊児の方に顔を向け、

「まぁ、直接死を与える様な能力や技でも霊児に効果が無い事は分かってたわ。相変わらず、貴方って出鱈目ねぇ」

呆れた表情を浮かべながら霊児には幽々子の能力が効かない事は分かっていたと呟く。
そう、魔理沙、咲夜、アリスの三人は幽々子の能力を受けて行動不能の様な状態に陥ったと言うのに霊児は平然としているのだ。
行動不能の様な状態に陥ってしまったのが一般人だったら妹紅も呆れた表情を浮べなかったであろうが、行動不能の様な状態に陥った三人は三人ともかなりの実力者。
実力者三人を行動不能に陥らせる様な能力や技を受けても平然としているのだから、呆れた表情の一つや二つ向けたくもなるだろう。
ともあれ、何やら不名誉の様な事を呟かれたからか、

「……………………………………………………」

意味有り気な視線を霊児は妹紅に向ける。
霊児からの視線に気付いた妹紅は、

「いや、霊児って不老不死の私以上に不老不死の様な気がしてね」

率直な感想を口にした。
創造神とも対等に戦う事が出来、直接死に誘う様な能力を受けても平然としている。
確かに、これだけ見ると不老不死以上に不老不死と言われても仕方が無いかもしれない。
が、不老不死以上に不老不死と言う評価は過大過ぎると霊児は感じた様で、

「失敬な。俺だって細胞の一欠けらも残さずに消滅させられた流石に死ぬぞ……多分」

細胞を一欠けらも残さずに消滅させられた死ぬと言い、

「それに幽々子が放った死に誘うって言う能力は呪いに近い感じだからな。仮にも神職に携わる人間の俺がそう易々と呪いに掛かるか。それ以前に、
俺は呪術関連の術も使えるからな。そう易々と呪いに掛かって堪るかってんだ」

序と言わんばかりに幽々子の能力が自分に効かなかった理由も説明していく。
言われた事と、説明された事。
色々と突っ込みたいところがあったが、妹紅は取り敢えず、

「自分で仮にを付けるどうなの?」

自分で仮にを付けるのはどうなのかと言う突っ込みを入れた。
しかし、入れられた突っ込みを無視するかの様に、

「仮に効いたとしても、俺は呪詛返しの要領で倍返しにするけどな」

幽々子の能力が効いた場合はどうするかと言う説明も行なった。
続ける様に行なわれた説明を耳に入れた妹紅はここであれこれ突っ込んでも無駄だと言う事を悟り、

「それにしても、やってくれたわね。行き成り殺しに掛かる何て真似をしてくれて」

話を変えるかの行き成り殺しに掛かって来た幽々子に敵意と殺気を向ける。
向けられた敵意と殺気を幽々子は涼し気な表情で受け流し、

「あら、心外ね。本気で殺しに掛かってはいないわよ。只、その子達に死を感じさせただけ」

殺しに掛かった訳では無いと零す。
そして、

「でも……」

幽々子は妹紅、霊児の順で視線を向け、

「そっちの不老不死は兎も角としても、そっちの人間にも欠片も効いていないとはね。流石は今代の博麗と言ったところかしら」

自分の能力が全く効かなかった霊児に称賛の言葉を掛ける。
まるで自分の事を知っている様な言葉を幽々子が掛けて来た為、

「お前……俺の事を知ってるのか?」

霊児は驚きの表情を浮かべてしまう。
博麗と言う名が今まで来る事が無かった冥界にまで知れ渡っているとは、霊児も全く想定していなかったからだ。
驚きの表情を浮かべている霊児が面白かったからか、

「ええ、知っているわ。今代の博麗、七十七代目博麗、博麗霊児。歴代最年少で博麗の名を継いだのと同時に歴代初の男の博麗。更には幼少期の時点で
歴代の博麗の巫女達の全盛期の力を上回っており、最強の博麗と言われても可笑しくない存在……でしょ」

更に驚かせるかの様に、幽々子は霊児の情報を語っていく。
単なる触りの部分だけではなく、今代の博麗に対する情報を幽々子が結構得ていたからか、

「……随分と良く知ってるな」

つい、感心したと言った表情を霊児は浮かべた。
その様な表情を向けられた幽々子は、

「あら、情報を入手する手段と色々とあるのよ」

言い聞かせるかの様に、情報を入手する手段は色々あると言う事を霊児に教える。
情報を入手する集団と言う部分から、霊児の頭に"文々。新聞"と言う単語が過ぎった。
文ならば、冥界にも自分の新聞を配送していても何の不思議はない。
今度、文に会ったら聞いてみ様かと言う事を霊児は思いつつ、

「で、どうする? お前の能力は俺と妹紅には効かないぜ」

これからどうするのかと幽々子に問う。
いの一番で相手を即死させる様な能力を使って来たところを見るに、幽々子の作戦は自身の能力で相手の戦意を削ぐものであったと言う可能性が極めて高い。
しかも必殺とも言える能力が二人に防がれ、効いている三人も効かない内の一人に護れらている。
最早、幽々子の能力で霊児達を止める事は出来ないであろうが、

「そうね……私の"死を操る程度の能力"も貴方とそこの不老不死が居るせいで殆ど意味がなくなっちゃったし」

当の幽々子は幾らかお気楽さが感じさせる声色で自分の不利を認めた。
容易く自分の不利を認めた幽々子に霊児は不審に思うも、

「なら、さっさと降伏したらどうだ? その方が俺は楽が出来て良いんだがな」

さっさと降伏しろと言う提案をする。
そう提案したものの、霊児は幽々子が今の提案を受け入れる事は無いだろうと感じていた。
霊児が感じていた事は正しかった様で、

「それだと一寸芸が無いわね……」

芸が無いと言いながら幽々子は扇子を閉じ、人差し指を下唇に当て、

「弾幕ごっこで私に勝てたら大人しく負けを認めて上げる」

弾幕ごっこで自分に勝てば大人しく負けを認めると言い出した。
態々弾幕ごっこ勝負しなくても、直ぐにでも幽々子を倒して異変を解決する事は出来るので、

「そんな提案を……」

言い出された事を霊児は拒否し様した時、

「あら、逃げるの?」

幽々子から挑発の言葉が発せられた為、霊児は言葉を詰まらせてしまう。
弾幕ごっこを生み出した者の一人である自分が、弾幕ごっこで挑まれた勝負を避けたら不味いのではと思ったからだ。
下手をしたら、折角広まった弾幕ごっこが廃れてしまうかもしれない。
序に言えば、異変の首謀者との戦いから逃げた博麗と言う汚名も付いてしまうだろう。
幽々子がそこまで理解して勝負方法を弾幕ごっこに指定して挑発して来たかまでは分からないが、

「……良いぜ、やってやるよ」

挑発を受ける選択肢しか霊児にはなかった。
挑発に霊児が乗ってくれたからか、

「決まりね」

嬉しそうな表情を浮かべて幽々子は空中へと躍り出る。
空中へと躍り出た幽々子を追う為に霊児も空中へと躍り出様とすると、

「何かの気紛れでまた能力使われたらあれだから私達はここから動けないけど、頑張ってね」
「霊児なら何の心配ないとは思うけど、気を付けてね」
「霊児、貴方なら必ず勝てるだろうけど油断しない様にね」
「私は霊児が絶対に勝つって信じてるぜ!!」

妹紅、アリス、咲夜、魔理沙の四人から応援の言葉を発せられた。
発せられた応援の言葉に対し、

「ああ」

一言、ああと返して霊児は空中へと踊り出る。
空中に躍り出た霊児と幽々子はどんどんと高度を上げ、西行妖が小さくなり始めた辺りで、

「何で、態々弾幕ごっこで勝負を挑んだんだ?」

態々弾幕ごっこで戦いを挑んで来た理由を霊児は幽々子に聞く。

「弾幕ごっこは単純な実力差だけでは勝敗が決しないのは発案者の一人である貴方も分かっているでしょ」

聞かれた事に反応した幽々子は高度を上げるのを止め、弾幕ごっこは当人同士の単純な実力差だけで勝敗は決さないだろうと言う事を口にする。
確かに、幽々子が口にした通り弾幕ごっこは戦闘能力の差で勝敗が決まる訳では無い。
弾幕の展開の仕方やスペルカードの種類によっては、戦闘能力で自分を大きく上回る相手を倒す事は十分に出来るであろう。
だから、幽々子は勝ちの目が高い弾幕ごっこで勝負を挑んで来た。
ともあれ、幽々子が弾幕ごっこで勝負を挑んで来た理由を霊児は理解し、

「成程……」

納得した表情を浮かべながら高度を上げるのを止め、

「だが、俺に勝つ事が出来るかな?」

不敵な笑みを浮かべ、軽い挑発を行なう。
行なわれた挑発に返すかの様に、

「あら、貴方こそ私に勝てる気でいるのかしら?」

幽々子も同じ様に挑発を行なった。
お互い軽い挑発を行なった後、霊児と幽々子は睨み合い、

「花の下で永劫の時を過ごせ、亡霊」
「花の下で眠ると良いわ、三色な蜂」

宣戦布告の様な言葉をぶつけ合い、それを合図にしたかの様に弾幕ごっこを始める。
弾幕ごっこが始まると霊児は弾幕を広範囲にばら撒く様に放ち、幽々子は大と小の弾幕を組み合わせたものを放っていく。
霊児が広範囲に弾幕を放っているせいか、互いの放つ弾幕は相殺し合ってしまう。
相殺を逃れた弾幕も幾らかあったが、そのどれも二人に直撃するコースではなかった。
だからか、霊児はこの儘では埒が明かないと言う判断を下し、

「なら……」

放つ弾幕を広範囲のものから幽々子の弾幕を縫う様にして突き進むものに変える。
そのお陰が、二人が放っている弾幕が相殺し合う頻度は劇的に減少した。
無論、減少した代わりに霊児と幽々子に向って行く弾幕の量は激増する事となったが。
とは言え、迫り来る弾幕が激増したところでそう易々と被弾する霊児では無い。
余裕と言った表情を浮かべながら迫り来る弾幕を避けていく。
が、それは幽々子の方も同じ。
幽々子も霊児と似た様な表情を浮かべ、優雅さが感じられる動きで弾幕を回避していた。
暫しの間、弾幕を放って迫り来る弾幕を避けると言う行為を続けていたからか、

「この儘弾幕を放ち合っていても仕方が無いし……状況を動かしましょうか」

状況を動かすと言いながら幽々子は弾幕を放つのを止めて懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、

「亡郷『亡我郷-宿罪-』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、幽々子はある方向に向けてウネウネとした動きをする弾幕を何列か放つ。
当然、霊児は幽々子が放った弾幕の反対側へ移動する。
すると、

「当然、そう移動するわよね」

予想通り言う様な事を幽々子は呟き、霊児が移動した方に向けて束となっているレーザーを放った。
放たれたレーザーを視界に入れた霊児は、

「ち……」

舌打ちをしながらレーザーを避ける為の回避行動を取ろうとしたが、

「ッ!!」

回避行動を取る前に回避先に一番最初に放たれた弾幕が在る事に気付いたので、回避行動を移動から細かい動きで避けると言うものに変える。
同時に、霊児は理解した。
幽々子が発動したスペルカードは弾幕とレーザーの二つで挟み込み、相手を打倒するものであると言う事を。
理解したが故に、霊児は現状維持と言った感じで細かい動きでの回避を続けていく。
しかし、その回避方法も只問題を先送りしているだけに過ぎない。
何故ならば、弾幕とレーザーの距離がどんどんと縮まっていってるからだ。
弾幕とレーザーの距離が縮まれば縮まる程に、攻撃の密度は濃くなる。
となれば、当然霊児が被弾する可能性が高くなってしまう。
今更ながら霊児は回避方法を間違ったかと思ったが、今から回避方法を変えると言うのはかなり厳しい。
何せ、今の状態でさえ弾幕とレーザーが掠り捲くっているのだ。
ここで不用意に回避行動を変えたら、立て続けに弾幕とレーザーの直撃を受けて敗北とすると言う事態になってしまうかもしれない。
かと言って、攻勢に出ようにも弾幕やレーザーの密度が濃過ぎて幽々子に攻撃が届かないだろう。
こなったら、自分もスペルカードを発動して対抗し様か霊児が考えた瞬間、

「……お?」

弾幕とレーザーが止んだ。
急に攻撃が止んだ事を不審に思った霊児は、幽々子の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る幽々子は、再び弾幕とレーザーを放ち始めていた。
それを見た霊児は、

「成程……一定時間弾幕とレーザーを放つと、ああやっての仕切り直しが必要なのか」

攻撃を一旦止めた理由を理解する。
弾幕とレーザーの距離が縮まって攻撃が濃くなると言う事は、絶対に攻撃が回避出来なくなるかもしれない。
そうなったら、弾幕ごっこのルールに違反しまう事になる。
だから、仕切り直しと言う意味合いを籠めて幽々子は一旦攻撃を止めたのだろう。
ならば、反撃に移るチャンスも十分に存在する事を直感的に感じ取った霊児は懐に手を入れてスペルカードを取り出す。
どうやら、目には目をと言う作戦を霊児は取る事にした様だ。
兎も角、後はスペルカードを発動するべきタイミングを見極めるだけ。
霊児は再び迫って来た弾幕とレーザーの直撃を避けていきながらそのタイミングを待つ。
一瞬の判断ミスが敗北を招く様な弾幕とレーザーを避けながら。
弾幕とレーザー、その二種類の攻撃が体中を掠って行くの感じながら今か今かと絶好のタイミングを待っていた時、

「ッ!!」

先程と同じ様に弾幕とレーザーが消えるのが霊児の目に映った。
相手が攻撃を仕切り直すと言うこのタイミングならば、スペルカードによる攻撃を加える絶好のチャンス。
そのチャンスを逃さんと言わんばかりに、

「連弾『乱射光霊弾』」

霊児はスペルカードを発動させる。
スペルカードが発動するのと同時に霊児は両手を幽々子に向け、十本の指の先から霊力で出来た弾を次から次へと放つ。
丁度攻撃を仕切り直そうとしていた幽々子は慌てて攻撃を止めて回避行動を取ったが、

「ッ!!」

時既に遅く、幽々子は霊力で出来た弾の直撃を受けてしまう。
霊力で出来た弾が直撃する度に爆発と爆煙が発生し、幽々子の姿を隠していく。
幽々子の姿が視認出来ないのは不味いと判断したからか、霊児は途中でスペルカードの発動を止めて様子を見る事にする。
今のスペルカードで倒せていれば御の字だが、そう上手く事は運ばないであろう。
まだまだ幽々子は健在だと言う仮定を前提に、霊児は爆煙に包まれている地点を注視する事にした。
すると、爆煙を突っ切る様にして急上昇して幽々子の姿が霊児の目に映る。
飛び出して来た幽々子は多少服をボロボロにしているが、動きには欠片も陰り見られない。
やはりと言うべきか、幽々子は大したダメージを負ってはいない様だ。
まぁ、仮にも幽々子は今回の異変の首謀者。
スペルカードとは言え、一回直撃を受けた程度で決着が着いたら拍子抜けだろう。
ともあれ、自分も高度を上げなければ幽々子に頭上を取られてしまうので、

「さて……」

気持ちを切り替えるかの霊児も高度を上げて行く。
そして、幽々子と同じ霊児が高度に達した時、

「あれは……扇か?」

巨大な扇の様なものが展開されているのが霊児の目に映った。
と言っても、展開されている扇は実際の扇では無い。
おそらく、見えている扇は幽々子の霊力で構成されているものであろう。
直感的にそう認識した霊児の頭に、魅魔が良く使う空中魔法陣が過ぎった。
魅魔が使う空中魔法陣は、空中に描いた魔法陣から様々な攻撃魔法を主に放つと言った事をしている。
となれば、あの展開されている扇から何らかの攻撃が繰り出されるかもしれないので、

「……一旦様子を見た方が良いか」

霊児は不用意に動かず、様子を見る事にした。
様子を見始めてから少しすると、細かい弾幕と放射状に広がる大き目の弾幕が幽々子から放たれる。

「……あの扇からは弾幕を放たないのか?」

扇から攻撃が放たれなかった事、霊児は少し疑問気な表情を浮べる。
尤も、今は扇から攻撃を放っていないだけかもしれないのであの扇から攻撃が放たれないと決め付けるのは早計であろう。
なので、霊児は展開されている扇に注意を払いながら迫り来る弾幕を避けて行く。
順調と言った感じで霊児は幽々子の弾幕を避けて行ったが、

「……っと」

次第に幽々子の弾幕が霊児の体に掠り始めていってしまう。
これは単純に、霊児の注意が展開されている扇に向き過ぎていたからだ。
攻撃が放たれるかどうかも分からないもの意識を向け過ぎた事を霊児は反省し、幽々子が放っている弾幕の方に警戒を重視していく。
そのお陰か、霊児の体に掠っていく弾幕の数が減っていった。
自身が放っている弾幕に霊児が慣れ始めて来ているのを感じ取った幽々子は懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、

「亡舞『正者必滅の理-死蝶-』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると今まで放たれていた弾幕が消え、代わりと言わんばかりに幽々子から細かい弾幕と大きい弾幕が放たれた。
見た感じ弾幕の放ち方を変えただけにしか思えないが、今放たれている弾幕はスペルカードの発動によって放たれたもの。
只、弾幕が放たれている訳では無い筈。
そう考えながら霊児が回避行動を取ると、

「ッ!! 追尾式か!!」

大きい弾幕が霊児を追尾するかの様に進行方向を変えたので、霊児は追尾式かと言う判断を下し、

「っと」

追尾して来た弾幕をギリギリまで引き付けて避ける。
だが、

「ッ!!」

二度目の回避行動を取った瞬間に霊児は何かを感じ取り、慌てて体を逸らした。
何故かと言うと、霊児の体が在った場所を細かい弾幕が通って行っているからだ。
自身の体が在った場所を通っている細かい弾幕を見て、

「そう言うタイプのスペルカードか……」

幽々子が発動したスペルカードがどう言うタイプであるかを霊児は理解した。
追尾式と細かい弾幕。
どちらか一方に気を取られ過ぎれば、もう片方の方に被弾してしまう。
要するに、片方の弾幕に注意を向けさせてもう片方の弾幕で仕留めると言うタイプのスペルカードなのだ。
兎も角、このスペルカードの特製を理解した霊児は回避のやり方に気を付けながら幽々子の方に目を向ける。
目を向けた先に居る幽々子の周囲には大量の弾幕が存在していた。
これでは、霊児が弾幕による攻撃を行なっても幽々子には届かないであろう。
では、どうするか。
答えは簡単。
大量の弾幕を突破出来る程の量を持った攻撃、若しくは弾と弾の間を通り抜ける事が出来る攻撃をすれば良い。
これからすべき事を決めた霊児は懐に手を入れながら追尾して来ている弾幕を引き付け、その弾幕をギリギリのタイミングで避けた瞬間、

「夢符『封魔陣』」

懐からスペルカードと一枚のお札を取り出し、スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動するのと同時に、霊児は幽々子に向けて取り出したお札を投擲する。
投擲されたお札が霊児から離れて少しすると、お札は爆発的な勢いで分裂して数を増やしていった。
封魔陣と言う技は攻撃、防御、移動制限の三つを兼ね備えた技。
それは、スペルカードの封魔陣でも変わる事は無い。
本来、封魔陣はフィールドを動き回る事を重視した相手にこそ最も効果を発揮する技である。
しかし、幽々子はフィールドを動き回ることを重視してはい無い。
寧ろ、一箇所に留まると言う事を重視している。
ならば、どうして霊児は封魔陣のスペルカードを使ったのか。
その答えは、封魔陣の弾にある。
封魔陣の弾と呼べるものはお札、つまり紙で出来ているからだ。
紙で出来ていると言う事は厚さも大した事は無いので、通常の弾幕では通り抜ける出来ない弾と弾の間を通り抜ける事が出来る。
故に、霊児は封魔陣のスペルカードを使ったのだ。
そして、その判断は正しかった様で、

「ッ!?」

幽々子の周囲に展開されている弾幕の弾と弾の間をお札の大半が通り抜け、通り抜けたお札が幽々子へと直撃していく。
ある程度お札が幽々子に直撃した辺りで、幽々子は猛スピードで高度を上げてお札の雨から逃れ、

「あいたたたたた……歴代の博麗の巫女とは全然違う戦い方をするって聞いてたけど、お札とかも使ったりするのね」

お札が通って行っている場所が見下ろせる位置に来た辺りで幽々子は高度を上げるのとスペルカードの発動を止め、お札を使って来た事に驚いた様な発言を零す。
高度を上げた幽々子を追う様に霊児も高度を上げ、幽々子と同じ高度に達した辺りでスペルカードの発動と高度を上げる事を止め、

「聞いたって……誰に聞いたんだ?」

自分の戦い方が歴代の博麗の巫女と違うと言う事を誰から聞いたのかと尋ねた。
霊児と歴代の博麗の巫女の戦い方を比較出来る者と言えば、ある程度霊児と歴代の博麗の巫女との交友関係が有る者に限られる。
限られる者の中で霊児が思い当たる者と言ったら幽香、魅魔、文、大天狗と言った者位だ。
が、思い当たった者が幽々子に自分の情報を与えた訳では無いと霊児の勘は言っていた。
だから、霊児はそう尋ねたのだ。
尋ねられた幽々子は色っぽい表情を浮かべ、

「ふふ……な・い・しょ」

内緒と返した。
まぁ、尋ねた事に対する答えが返って来るとは元々思って無かったので霊児は欠片も落胆してはいなかったが。
取り敢えず、幽々子から尋ねた事に対する答えを問い質す事が出来ないと霊児が悟ったのと同時に、

「さて、貴方も気になっていたであろうこの扇……使っていこうかしらね」

そう言いながら幽々子は展開している扇から大量を放ち始めた。
少々不意打ち気味に放たれた弾幕を前にした霊児は、

「ッ!!」

慌てた動作で回避行動に入る。
回避行動に入った際に慌てていたからか、弾幕を避ける度に霊児の体勢はどんどんと崩れていってしまう。
この儘では被弾するのも時間の問題であるからか、霊児は何とか体勢を立て直そうと体を動かしていく。
勿論、幽々子としても霊児に体勢を立て直させる気は無く、

「体勢を立て直す暇なんて上げないわよ」

自分自身からも大き目の弾幕をばら撒き始める。
迫り来る弾幕が増えたお陰で霊児は体勢を立て直す事が出来ず、体勢を崩していきながらの回避行動を強いられてしまう。
だが、危なっかしい動きではあるものの幽々子の弾幕は霊児に掠りはしているが直撃だけはしていなかった。
反面、攻勢に出る事は出来ない様ではあるが。
弾幕に当たる気配を霊児が一向に見て、

「あら、これなら当たると思っていたけど……そう上手くはいかないわね」

幽々子は少し愚痴る様な感じで上手くはいかないと呟き、

「それにしても、随分と体が柔らかいのね。男の子は体が固い子が多いって聞いてたけど」

霊児の体の柔らかさに驚いたと言った事を零した。
崩れた体勢で回避行動を取っていると言う事もあり、霊児の体勢は体が固い者では出来ないものとなっている。
いや、並大抵の体の柔らかさでは今の霊児の体勢は取れないであろう。

「貴方は接近戦を一番得意としてるって話だし、それ位体が柔らかいのは当然なのかしらね」

目に映っている霊児の体の柔らかさに付いて幽々子は自分なりの結論を下し、

「これ以上普通に弾幕を放っても状況は動きそうにないし……この一手で動かすとしましょうか」

状況を動かすために懐に手を入れ、スペルカードを取り出す。
そして、

「桜符『完全なる黒染の桜-亡我-』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると、今まで幽々子から放たれていた弾幕が消えて舞い散る桜の花びらを思わせる様な弾幕が辺り一面を舞い踊る。
中々に美しい光景に霊児が少し目を奪われていると、

「ッ!!」

霊児の腹部に幾つかの衝撃が走った。
走った衝撃で意識を戻した霊児は自身の腹部に視線を向ける。
腹部に視線を向けた霊児の目には、

「蝶……?」

砕け散る様にして消えていく蝶を模した弾が映った。
その瞬間、

「ッ!!」

何かに気付いた霊児は咄嗟に顔を上げる。
顔を上げると、舞い散る桜の花びらの弾幕の他にも蝶を模した弾幕が行き交っているのが分かった。
弾幕が舞い踊る様な光景を確りと視界に入れた霊児は、美しさと幻想的な雰囲気が合わさった光景だと言う感想を抱く。
改めて弾幕ごっこは第三者の目を惹くなと言う事を霊児は思いつつ、頭を切り替えて回避行動を取る。
回避行動を取り、弾幕を避けている中で、

「……避け難い弾幕だな」

避け難い弾幕だと言う言葉を霊児は漏らす。
漏らした言葉の通り、霊児は弾幕をかなり避け難そうにしていた。
避け難いのは不安定な体勢で回避行動を取っている事もあるであろうが、二種類の弾幕が不規則な動きをしているのも避け難い原因の一つだろう。
不規則と不規則が合わさり、不規則の交響曲を奏でている様なものなのだから。
それはさて置き、只避け難いだけなら良かったのだが、

「くそ…………」

少しすると、霊児は幽々子の弾幕に被弾し始めてしまった。
被弾し始めてしまった原因は、避け難くなった原因と同じだ。
もし、放たれている弾幕が一種類だけであったのなら。
結果も違ったであろう。
と言っても、所詮はもしもの話。
今、もしもの事を思い描いたところで仕方が無いので霊児は気持ちを切り替えるかの様にこれからどうするかを考えていく。
この儘被弾していっても意識が飛ぶ事は無いであろうが、問題は被弾で体勢が完全に崩れた場合だ。
体勢が完全に崩れてしまったら、被弾する弾幕の量が激増するのは確実。
そうなったら最後、敗北への道を辿る事に為りかねない。
何かしらの手を打たなければ、状況は好転では無く悪化の一途を辿る事になるであろう。
ならば、ここは多少の無茶をしてでも勝負に出る必要が在ると霊児は決心し、

「ッ!!」

決意を決めた様な表情を浮かべ、懐に手を入れながら幽々子との距離を詰めに掛かる。
幽々子との距離が縮まるに連れて被弾率が大幅に上昇したが、霊児は全く気にした様子を見せずにどんどんと距離を詰めて行く。
そして、幽々子と距離が後半分と言った所に来た辺りで霊児は懐かスペルカードを取り出し、

「神霊『夢想封印』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると霊児の体から七色に光る弾が次々と射出され、射出された弾の全てが幽々子へと向って行く。
幽々子の方へと向って行く過程で七色に光る弾はフィールドを駆け巡っている弾幕と激突していった。
だが、フィールドを駆け巡っている弾幕では七色に光る弾を相殺する事も軌道を変える事も出来ず、

「ッ!?」

七色に光る弾は次々と幽々子に命中し、爆発を起こしていく。
爆発が起きてから少しすると桜の花びらと蝶を模した弾幕が消え、幽々子が落下して行く様子が霊児の霊児の目に入った。
墜落している幽々子が何の行動も起こさなかったからか、

「ふぅ……」

霊児は一息吐いてスペルカードの発動を止め、西行妖が在る場所に降下し様とする。
その刹那、

「ッ!?」

幽々子から爆発的な勢いで霊力が高まっていくのを感じ取り、霊児は慌てて幽々子が墜落して行った方に顔を動かす。
顔を動かした先に居た幽々子は猛スピードで急上昇し、今霊児が居る場所よりも高い場所で急上昇を止め、

「『反魂蝶-八分咲-』」

懐からスペルカードを取り出し、取り出したスペルカードを有無を言わせぬ様に発動させる。
すると、

「なっ!?」

大量と言う言葉でも足りない位の蝶を模した弾幕が幽々子から放たれた。
放たれた弾幕を視界に入れながら霊児は高度を上げ、幽々子の弾幕をすり抜ける様なコースで弾幕を放つ。
霊児が放った弾幕は幽々子の弾幕に妨害される事無く、幽々子の元へと向かって行ったのだが、

「ッ!? すり抜けた!?」

霊児の弾幕は幽々子の体をすり抜けてしまった。
弾幕が幽々子の体をすり抜けたのを見た霊児は、確認をするかの様に弾を一発だけ幽々子に向けて放つ。
新たに放たれた弾もつい先程放たれた弾幕と同じ様に、幽々子の体をすり抜けてしまう。
この事から、霊児は攻撃を行なっても無駄だと判断し、

「耐久型のスペルカードか……」

幽々子が使って来たスペルカードを耐久型のスペルカードであると断定する。
耐久型のスペルカードは基本的に攻撃が一切通用せず、スペルカードの制限時間が来るまで耐える以外に攻略法が無いと言うタイプだ。
攻撃を無効化している手段として、弾幕ごっこレベルの威力では破壊出来ないバリアの様なものを張っているもの。
若しくは、幽々子の様に幽霊であるならば全てのものが自分の体をすり抜ける様に自身の存在を薄くしていると言うのが考えられる。
他に色々あるであろうが、そう言う状態の者にも当たる様な攻撃を当てる事は弾幕ごっこでは不可能だ。
何故かと言うと、そう言った状態の者に攻撃を当てようとしたら事故や過失を除いた殺生は禁止と言う弾幕ごっこのルールの違反する可能性が出て来るからである。
下手に高威力の攻撃を放ち、相手に致命傷を与えてしまっては笑い話にもならない。
つまり、耐久型スペルカードの対処法は避けに徹する事以外無いのだ。
なので、霊児は攻撃をすると言った事をせずに回避行動に徹し始める。
回避行動に徹している中で、霊児は蝶を模した弾幕以外にもレーザーに大き目の弾幕と言うものが織り交ぜられている事に気付いた。
同時に、目に映る景色の殆どが幽々子の弾幕で埋め尽くされている事にも気付く。
視界一杯に映っている弾幕を見て、霊児は神綺や幻月が得意としている広域殲滅型の技を思い出す。
幽々子は創造神と言う訳では無いが、亡霊の姫と言われている存在。
神や姫と言った雲の上と言える様な存在は皆、広域殲滅型の技を得ているのかもしれない。
ともあれ、放たれている弾幕の量が量である為、

「……これは下手に動き回るより、その場での回避が得策か」

動き回って避けるよりもこの場に留まっての回避が得策だと霊児は判断し、回避行動をその様に変える。
神綺と幻月が使って来た広域殲滅型の攻撃を頭に思い描きながら。
幸い、先程までと違って体勢が整っている状態であったので霊児は弾幕の直撃を受ける事だけは避けられた。
と言っても、一瞬でも気を抜けばあっと言う間に弾幕の海に呑まれる事になってしまうだろうが。
そんな感じで一瞬たりとも気抜け無い弾幕を避け始めてから幾らか経った頃、

「お……」

放たれていた弾幕が消え、幽々子が再び墜落して行く様子が霊児の目に映る。
目に映った内容から霊児は幽々子のスペルカードの発動時間が過ぎたのを悟りつつ、ある仮説を立てた。
立てた仮説と言うのは、今のスペルカードは発動時間が過ぎると発動者が大きなダメージを負うのではと言うもの。
スペルカード発動中にこちらの攻撃を一切受け付けないのだから、そう言った代償は有って当然なのかもしれない。
尤も、こう言う裁量は個人個人に任されるであろうが。
それはさて置き、墜落して行った幽々子からまた浮上して来ると言った気配は感じられなかったので、

「やれやれ……」

今度こそ自分の勝ちであると言う確信を得ながら霊児は一息吐き、降下して行った。























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