幽々子を弾幕ごっこで倒し、

「……っと」

霊児が地に足を着けたタイミングで、

「お疲れ、霊児!!」

労いの言葉と共に魔理沙は満面の笑顔を浮かべ、霊児の元へと駆け寄って行く。
それに続く様にして、妹紅、咲夜、アリスの三人も霊児の傍へと向かう。
そして、四人が霊児の近くにまで来た時、

「貴方が彼女を倒してくれたお陰で、大分楽になったわ」

両腕を伸ばし、霊児が幽々子を倒してくれたお陰で楽になったと言う台詞をアリスは零す。
そんなアリスに続く様にして、

「いや、全くだぜ。ありがとな、霊児」
「本当、助かったわ。ありがとう」

魔理沙と咲夜も礼を言い、両腕を伸ばし始めた。
魔理沙、咲夜、アリスの三人は、幽々子の"死を操る程度の能力"の影響をどうしても受けてしまう。
なので、この三人は先程まで行動不能の様な常態になってしまっていた。
尤も、素で幽々子の能力が効かない霊児と不老不死故に幽々子の能力が効かない妹紅が居たので幽々子は直ぐに自分の能力を使うのを止めたが。
しかし、死を感じさせられた影響と幽々子が何時気紛れで再び能力を使うか分からなかったので魔理沙、咲夜、アリスの三人は思う様に体を動かせないでいた。
幾ら妹紅に護られているとは言え、幽々子の能力が完全に遮断されている訳では無いのだから。
だが、それも霊児が幽々子を倒してくれたお陰で解放された。
となれば、礼の一つや二つ言いたくもなるだろう。
ともあれ、一段落着いたと言う事で、

「それにしても、相手に直接死を与える能力何て……中々に反則的な能力ね」

両腕を伸ばしていた咲夜が両腕を伸ばすのを止め、幽々子の能力が中々に反則的な能力だと言う感想を零す。
零された感想が耳に入った魔理沙は、

「それをお前が言うか? 普通」

軽く肩を回しながらお前が言うかと言う突っ込みを入れる。
咲夜の能力は"時間を操る程度の能力"。
時を操れる能力を持つ咲夜が死を操れる能力を中々に反則的な能力と称せば、突っ込みの一つや二つ入るのは当然だろう。

「そうかしら?」

突っ込みを入れられた咲夜が疑問気な表情を浮かべて首を傾げた刹那、

「それはそうと、決着も着いた事だしさっさと春度を解放しない?」

場の空気を変えるかの様に、さっさと春度を解放しないかと言う提案を妹紅は行なった。
行なわれた提案で何の為にここまでやって来たのかを霊児は思い出し、

「そうだな、さっさと春度を解放するか」

西行妖が在る方へと足を進めて行く。
西行妖の方に足を進めて行く霊児に続く様にして、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人も足を進め、五人が西行妖の前に辿り着くと、

「このでっかい桜ともこれで見納めか……」

若干名残惜しそうな視線を魔理沙は西行妖に向ける。
西行妖は厄介さを除けば、見事とも言える程の桜。
はっきり言って、西行妖程の桜は一生に一度見れるかどうかと言ったレベル。
これから春度を解放し、枯れ木に戻すと言う行為に躊躇いを感じるのも無理はない。
この儘異変を解決させる事に若干の躊躇いを見せている魔理沙と違い、

「この桜を満開にさせると言う企みのお陰で、こっちは良い迷惑よ」

早く異変を解決したいと言う台詞を咲夜は溜息混じりに零す。
咲夜が異変解決に赴いた理由は、紅魔館の燃料が切れ掛かっていた為。
咲夜としては、紅魔館の燃料が完全に切れる前に異変を解決したいのだろう。
が、

「前に貴女の所の主がやらかした事も良い迷惑だったけどね」

妹紅からその様な突っ込みが入った事で、咲夜はつい言葉を詰まらせてしまう。
嘗て、咲夜の主であるレミリアは幻想郷中に紅い霧を充満させると言う異変を起こしている。
春を来させなくする異変と、幻想郷中に紅い霧を充満させる異変。
迷惑さで言えば、どっちもどっちであろう。
それはさて置き、話が明後日の方向に向かいそうな雰囲気になって来たと感じたからか、

「それで、この中に在る春度の解放は貴方がするの?」

場の空気を戻すかの様に、アリスは霊児に西行妖の中に在る春度の解放は貴方がするのかと尋ねる。
尋ねられた霊児は改めてと言った感じで西行妖に目を向け、

「ああ」

肯定の返事と共に超スピードで印を組み始めた。
組んでいる印は、幽々子が現れた事で春度の解放を中断した際に組んでいた印だ。
兎も角、印を組み終えると霊児は両手の掌を西行妖に押し当てる。
すると、西行妖が輝きを発し始め、

「お……」
「あ……」
「あら……」
「これは……」

輝いている西行妖から桜の花びらの様なものが無数に噴出した。
その光景は中々に神秘的で幻想的なものであったからか、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は桜の花びらの様なものが噴出していく光景に目を奪われる。
四人が目を奪われている間にも西行妖から桜の花びらの様なものが絶え間無く噴出し、西行妖がどんどんと枯れていく。
そして、桜の花びらの様なものの噴出が止まると西行妖は只の巨大な枯れた桜になってしまった。
西行妖が枯れ木に成った後、霊児は西行妖の中にまだ春度が残っていないかを確認する。
確認し始めてから少しすると西行妖の中に春度が無い事が分かったので、

「……無いな」

霊児は西行妖から手を離し、

「ふぅ……」

疲れを吐き出すかの息を一つ吐く。
すると、

「あーあ、枯れちゃったわー」

何時の間にか霊児達の近くにやって幽々子がそんな事を口にして来た。
口にされた内容が耳に入ったからか、妹紅は幽々子の方に顔を向け、

「あら、まだやる気?」

まだやるのかと言いながら一歩前に出る。
警戒した様子で見られている幽々子は、何処吹く風と言った雰囲気を見せつつ、

「やらないわよ」

やる気は無いと言った返答を返し、

「私は彼に負けたんだもの。これで駄々を捏ねてもみっともないでしょ」

既に負けた自分が駄々を捏ねてもみっともないだけだと言う。
そう言った幽々子からは敵意と言ったものなどを感じられなかった為、

「……そうみたいね」

少し納得いかないと言った雰囲気を見せつつ、妹紅は警戒を解く。
妹紅が警戒を解いたのを見計らったかの様に、

「それにしても、残念だったわ。後、もう少しで満開になる処だったのに」

異変を解決されて残念だと言う台詞を漏らす。

「お陰で、こっちは良い迷惑だったけどな」

漏らされた台詞が耳に入った霊児がこっちは良い迷惑だと言う突っ込みを入れた瞬間、

「幽々子様ー!!」

少し遠くの方から、幽々子の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した霊児、魔理沙、妹紅、咲夜、アリス、幽々子の六人は声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた六人の目には、人影の様なものが映った。
映った人影の様なものはどんどんと大きくなっていき、

「幽々子様!! ご無事ですか!?」

幽々子の無事を確認する発言と共に幽々子の前に降り立つ。
降り立った者を見て、

「あいつは……妖夢か」

霊児は降り立った者の名を口にする。
霊児に限らず、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人も妖夢の存在を認識している間に、

「あら、私は平気よー」

全然平気だと言う事を幽々子は妖夢に伝えると、

「申し訳ございません!! 賊の侵入を許したばかりか春度を全て奪い返されると言う事態になってしまい……」

跪きながら妖夢は謝罪の言葉を述べた。
述べられた謝罪に対し、

「別に構わないわ。西行妖が満開になれば良かったな程度だったし」

どうって事無いと言った様な表情で、幽々子は全く気にしていないと言った様な台詞を言い出した。

「…………へ?」

言い出された事を理解した妖夢は目を点にしつつ、

「いえ、あの、何が何でも春度を集めて西行妖を満開せよ……との事だったのでは?」

恐る恐ると言った感じで自分に命じた内容に付いて幽々子に問う。
問うた事から察すると、幽々子は何が何でも異変の成熟を願っていた様に思える。
だが、

「そんな事は言ってないわよ。只、西行妖が満開になった姿を見たいわーって言っただけ」

お気楽な表情を浮かべた幽々子が問うた内容が間違っていると言う指摘を行なった。
妖夢が聞き間違えたのか、それとも幽々子が妖夢に態とそう言った命令を出したのかは分からないが、

「みょーん、そんなー……」

自分の失態だと妖夢は判断し、項垂れるかの様に地面に両膝と両手を着ける。
ともあれ、何の疑いもなく幽々子の言った事を妖夢が信じたからか、

「やっぱり、単純な子の様ね」

改めてと言った感じで妖夢が単純であると妹紅は称した。
それに続く様にして、

「みたいね。態々行き成り霊児に斬り掛かる……何て事も仕出かす位だし」

アリスも妖夢が単純であると言う事に改めて同意した時、

「あら、貴女そんな事をしたの?」

少し驚いた言った表情を浮かべながら幽々子は妖夢の方に顔を向ける。
どうやら、妖夢が問答無用で霊児に斬り掛かった事は幽々子に取って予想外の事であった様だ。
兎も角、幽々子に驚きの表情を向けられた妖夢は立ち上がり、

「え、あ、はい。彼等の中で彼だけが他の者とは一線も二線も画す強さを持っていると感じましたので早々に退場して頂こうと思いまして……」

問答無用で霊児に攻撃を仕掛けた理由を幽々子に教える。
教えられた事を理解した幽々子は少し呆れた表情を浮かべ、

「無茶をするわねぇ。貴女が斬り掛かった子、今代の博麗よ。それも、歴代最強と言われる程の」

斬り掛かった相手は今代の博麗である事を伝えた。
すると、

「はぁ、今代の博麗……ってええ!? 今代の博麗!?」

驚きの声を上げながら妖夢は霊児の方に顔を向け、

「彼……何所をどう見ても男性ですよね?」

疑問気な表情を浮かべながら霊児はどう見ても男だろうと漏らす。
代々、博麗の名を冠する者は女性。
つまり、巫女であるのが普通のなのだ。
だと言うのに、今代の博麗とされる霊児は男。
男の博麗と言う部分に引っ掛かりを覚えている妖夢に、

「あら、今代の博麗は歴代初の男の博麗だって言わなかったかしら?」

幽々子は今代の博麗は歴代初の男の博麗だと言う事を前に言わなかったかと口にする。

「……え?」

そう言われた妖夢は間の抜けた表情を浮かべ、幽々子と交わした会話を思い出していく。
が、幾ら思い出そうとしても幽々子に今代の博麗が男だと情報を聞いたと言う記憶は出て来なかった。
そんな妖夢の心情を理解した幽々子は、

「あら、忘れちゃったの? 駄目な子ねぇ」

からかう様な声色で妖夢を駄目な子と称する。
妖夢としては色々言い返したかったが、思い出せなかった事は事実であるので、

「申し訳ございません」

謝罪の言葉と共に頭を下げた。
頭を下げている妖夢を視界に入れながら、

「それに、彼の羽織りの背中の部分に赤い字で"七十七代目博麗"って分かり易く書いてあるじゃない」

霊児が解り易く自分が博麗であると言う主張をしているだろうと言う事を教える。

「……え?」

教えられた事を理解した妖夢は再び間の抜けた表情を浮かべながら顔を上げ、霊児の背後に回り込む。
そして、霊児の着ている羽織の背中に書かれている文字を読み取り、

「……あ、本当だ」

ポツリと、本当だと呟いた。

「あらあら、注意力が散漫ね」
「も、申し訳ありません」

また幽々子が妖夢を嗜め、妖夢が謝ると言った事をやり始めた。
繰り返し行なわれている二人の漫才の様なやり取り余所に、

「どうする?」

魔理沙はどうするかと一同に尋ねる。
尋ねられた事に反応した咲夜はスカートのポケットの中から懐中時計を取り出し、

「ふむ……霊児の二重結界式移動術で博麗神社に行き、マヨヒガで得た物を回収して帰ったとしても余裕で日付が変わるわね」

この儘返ったとしても余裕で日付が変わる事を口にし、懐中時計を仕舞う。

「もう、そんなに時間なのか。どうりで腹が減ってる訳だ」

後少しで日付が変わる事を知った霊児が空腹を実感した時、

「なら、白玉楼に泊まっていく?」

幽々子から白玉楼に泊まっていかないかと言う提案がされた。
つい先程まで敵対していたと言う事もあってか、

「それで油断しているところを……何て事を考えていたりはしないわよね?」

疑いの眼差しを妹紅は幽々子に向け、油断しているところ仕留める気なのではと推察する。

「疑り深いわねぇー。そんな事はしないわよ」

妹紅が推察している内容を幽々子は片手を振って否定の言葉を返す。
幾ら否定の言葉を返されたとしても、幽々子はつい先程まで敵対していた相手。
そう簡単に警戒を解く気は無いと言った雰囲気を妹紅は醸し出していたが、

「大丈夫だろ。今更そんな事も仕出かす事も雰囲気も感じないし」

問題無いと言う様な発言が霊児から発せられたので、

「……ま、霊児がそう言うのであれば大丈夫かしらね」

妹紅は幽々子に向けていた警戒を解く。
それに続くかの様に、

「これだけでっかい屋敷なら、豪華な料理が出て来そうだな」
「紅魔館を丸一日空けると言うのは少し心配だけど……ここに泊まれば和食の勉強が出来そうなのよね」
「んー……偶には和食も良いかもしれないわね」

魔理沙、咲夜、アリスの三人は白玉楼に泊まろうと言う意思を見せ始めた。
だからか、

「なら決まりね。妖夢、ご飯の準備をお願いね」

霊児達を白玉楼に泊める事を幽々子は決め、妖夢にご飯の準備をする様に指示を出す。
出された指示を了承したと言う様に、

「畏まりました」

妖夢が幽々子に頭を下げた後、一同は白玉楼の中に入る為に足を動かして行った。






















「な、何で白玉楼に庭がこんな滅茶苦茶になっているのー!?」

白玉楼の中に向かう道中で白玉楼の庭を見た妖夢は、そんな絶叫を上げてしまった。
まぁ、自分が住んでいる屋敷の屋根や庭が抉れたり滅茶苦茶に破壊された状態になってしまっているの見てしまったのだ。
絶叫の一つや二つ、上げてしまっても仕方が無いだろう。
ともあれ、妖夢の絶叫を聞いた魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は霊児の方に視線を向ける。
視線を向けられた霊児は何処吹く風と言った感じで、白玉楼の中へと入って行った。
妖夢が絶叫を上げる原因を作ったのだと言うのに、霊児は全く気にした様子を見せてはいない。
霊児らしいと言えば霊児らしいと言う感想を魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は抱きつつ、霊児に続く様にして白玉楼の中へと入って行った。
これ等の惨状を一人で直さなければ成らないであろう妖夢に大なり小なりの同情心を抱きながら。
取り敢えず、客人とも言える霊児達が白玉楼の中に入って行くの見届けた幽々子は、

「早く立ち直りなさいね、妖夢」

早く立ち直れと言う台詞を何時の間にか地面に手を着けて落ち込んでいる妖夢に掛け、白玉楼の中に入って行く。
妖夢以外が白玉楼の中に入り、一人取り残された妖夢は哀愁を漂わせる様な表情を浮かべ、

「みょーん……」

何とも言えない声を口から漏らした。





















霊児達が白玉楼の中に入り、白玉楼の客間で寛ぎ始めてから幾らか経った頃、

「出来ました!!」

妖夢と大量の人魂が料理を持って客間に入って来た。
そして、妖夢と人魂達はテーブルの上に料理を並べていく。
次々と並べられていく料理を見て、

「時を操れるって訳でも無いのに、随分早く出来上がったわね」

然程時間を掛けずに料理を完成させた事に、咲夜は少し驚いたと言った表情を浮かべて妖夢の方に顔を向ける。
咲夜から視線に気付いた妖夢は若干照れ臭そうな表情を浮かべ、

「まぁ、私一人で作った訳では無いんだけどね……」

頬を掻きながら自分一人で作った訳では無いのだと漏らす。

「あら、そうなの? 私の所は料理を作る何て器用な真似が出来る妖精メイドが居ないから、紅魔館では殆ど私一人で作っているのだけど」

白玉楼では妖夢一人で料理を作っている訳では無いと言う事を知って咲夜が少し驚いた表情を浮べると、

「私の所は人魂が居るからね。まぁ、人魂には手が無いから一人じゃないとは少し言い難いけど。でも、人魂のサポートも結構助かっているんだけどね。
幽々子様、かなりお食べになられるから」

早くに料理に並べる事が出来たのは、人魂が手伝ってくれているお陰だと口にする。
と言った感じで咲夜と妖夢がそんな会話をしている間に、

「妖夢ー、お代わりお願いー」

お代わりの要求が幽々子から出された。
自身の主からお代わりを要求された事で、

「はい、只今……って、ええ!? もう食べ終えられたのですか!?」

妖夢は反射的にお代わりを持って来ようとしたが、料理が並べられてから短時間でお代わりを要求して来た幽々子に驚きの表情を向ける。
余談ではあるが、幽々子のテーブルの上には他の者達と比べて倍程の量が在る料理が乗っかっていた。
それをこんな短時間で平らげてお代わりまで要求して来たのだから、驚くのも無理はない。
ともあれ、驚いている妖夢に向け、

「一寸小腹が空いたから、その儘ペロリとね」

可愛らしく小腹が空いてたからペロリと食べたと言う事を口にする。

「そ、そうですか……」

口にされた内容を理解した妖夢が肩を落とした時、

「ある程度お腹は膨れたから、次はもっと味わって食べるわよ」

今度はゆっくり食べると言う様な事を幽々子が言い出したので、

「……是非ともそうしてください。出来れば、これからずっと」

疲れた表情を浮かべながら妖夢は自身の願望を幽々子に伝え、再び台所に向かって行く。
既に追加用の料理を作ってあったからか、妖夢は直ぐに台所から料理を持って戻って来た。
戻って来た妖夢が幽々子の前に料理を置いたのを合図にしたかの様に、霊児達は出された料理を食べ始める。
料理を食べ始めて幾らか経った頃、

「ふむ……和食か。和食も少しは勉強してみ様かしら」

和食の勉強をしてみ様かと言う発言がアリスの口から紡がれた。
どうやら、妖夢が作った和食を食べて和食に興味が出て来た様だ。
そんなアリスに続く様にして、

「……美味しいわね。和食の勉強はしている積りだけど……もっと勉強し様かしら。それと、レパートリーの増加も」

咲夜からもっと和食の勉強をし、和食のレパートリーを増やそうかと言う発言が発せられた。
基本的に咲夜は和食、洋食、中華と何でも作れる。
だが、紅魔館の性質上と言うよりはレミリアは洋食を好んでいると言う事もあって咲夜のレパートリーは洋食の方に比重が傾いているのだ。
バランスを考えるのならば、和食と中華のレパートリーも増やすべきであろう。
後で、妖夢に和食の事を聞こうかと咲夜が考え始めた瞬間、

「なぁなぁ、これはどうやって作ったんだ?」

魔理沙が妖夢に出された料理の事を聞いていた。
聞かれた妖夢は少し驚いた表情を浮かべ、

「……一寸以外ね。貴女って余り料理するタイプには見えなかったけど」

魔理沙に対する一寸した感想を零す。
零された感想を耳に入れた魔理沙が、

「失礼な。私だって料理位するぜ」

不機嫌になったと言う様な表情を浮かべてしまった為、

「ごめんごめん。後でレシピを紙に書いて上げるわ」

軽く謝罪を行ないながら、後で和食のレシピを紙に書く事を約束する。
すると、

「私もお願い出来るかしら?」
「私にもお願いね」

アリスと咲夜から自分達にもレシピをくれと言う発言が発せられた。

「ええ、別に構わないわ」

魔理沙だけではなくアリスと咲夜にもレシピを渡す件を妖夢は快く受け入れ、

「そう言えば、貴女達も料理をする事が出来るのよね? どんなのを作るの?」

ふと、三人にどんな料理を作るのかと聞く。
聞かれた事に対し、

「ああ、私が作る料理は和食がメインだぜ。中華、洋食はそこそこだな」
「私は魔理沙と違って洋食がメインね。和食、中華はそれなりね」
「私は咲夜と同じね。和食、中華に関しては二人程では無いわね」

魔理沙、咲夜、アリスの三人はそれぞれ自分が得意としている料理を述べ、そこから四人は料理談義に華を咲かせていった。
割と自然な流れで料理談義に華を咲かせ始めた四人を見て、

「まさか冥界に来て、こんな風に宴会する事になるとは思って無かったわ」

酒を飲みながらこんな風に宴会をする事になるとは思わなかったと妹紅は呟く。
妹紅の呟きが耳に入った幽々子は、妹紅の方に顔を向け、

「あら、冥界はもっと殺風景で殺伐とした様な所だと思っていたのかしら?」

冥界は殺風景で殺伐とした様な所だと思っていたのかと尋ねる。

「まぁ……ね。冥界に対するイメージは想像のものでしかなかったし。百聞は一見に如かずと言うのはこの事を言うのかしらね」

尋ねられた事を妹紅は否定せず、百聞は一見に如かずと言う言葉の意味を実感したと言う様な事を漏らす。
まぁ、冥界と言う地は死した者の行く着く場所。
草木が生え、道が在り、石段が在り、桜が生え、屋敷が在るとは思えないだろう。
ここ、冥界で見たものを一通り頭に思い浮かべた妹紅は幽々子の方に顔を向け、

「それにしても、貴女も胆が据わっているわね。一応、私は貴女の天敵の様なもの何だけど」

肝が据わっていると言う言葉を掛ける。
不老不死である妹紅に取って、幽々子の"死を操る程度の能力"は一切通用しない。
故に、妹紅の自分は幽々子に天敵であると言う表現は間違ってはいないだろう。
何せ、文字通り必殺の攻撃が通用しないのだから。
ともあれ、肝が据わっていると称された幽々子は軽い笑みを浮かべ、

「あら、長い人生に天敵の一人や二人は居ないと張り合いがないじゃない」

天敵の一人や二人は居ないと張り合いが無いと言った事を返しながら霊児の方をチラリと見る。
チラリと見られた霊児も、幽々子に取っては天敵だ。
何せ、素で幽々子の能力が効かないのだから。
不老不死でも無いと言うのに。
そう言った意味では霊児の方が厄介かと言う事を幽々子が考え始めた時、

「人生って……貴女はもう死んだ存在でしょうに……」

返された内容に突っ込み所があった為、妹紅は幽々子にもう死んでいるだろうと言う突っ込みを入れる。
入れた突っ込みに反応した幽々子は、

「じゃあ霊生? それとも人死かしら?」

人生では無いのなら霊生か人死かと口にしながら首を傾げた。
お気楽と言うか何と言うか。
掴み所が無いと事だけは確かだと考えながら、妹紅はある人物達を思い浮かべる。
思い浮かべた人物達と言うのは、自分と霊児以外にも幽々子の天敵となる者。
しかし、今思い浮かべた者達が幽々子と会う事は無いだろうと言う予測を妹紅は立てた。
何故かと言うと、妹紅が思い浮かべた者達は基本的に引き篭もっていて自分の活動範囲外に出る事など滅多に無いからだ。
どうせ出会う事が無いのなら、言わぬが華だろうと言う事を妹紅は思いつつ、

「それにしても、良いお酒ね。冥界産のお酒?」

話を変えるかの様に、今飲んでいる酒に付いての話題を出す。

「違うわ。それは友人から貰ったお酒」

出された話題に反応した幽々子は、今飲んでいる酒は冥界産では無い事を妹紅に教える。

「友人? 貴女の口振りから考えるに……亡霊と言うか、霊じゃないのかしら? その友人って言うのは」
「ふふ、それはどうかしらねぇー」

幽々子から教えられた内容から友人と言うのは幽霊以外の存在ではと推察した妹紅に、幽々子は曖昧な答えを返し、

「冥界産のお酒はこれになるわよ」

冥界産のお酒を妹紅の目の前に置く。

「へぇ、これが……」

置かれた冥界産の酒に興味を引かれた妹紅は、早速と言わんばかりに冥界の酒を一口飲み、

「……美味しい」

美味しいと言う感想が妹紅の口から零れた。
そして、

「それは良かったわ。ほら、まだまだ在るからどんどん飲みなさいな」
「そうね、そうさせて貰おうかしら。冥界産のお酒を飲むのは初めてだし。堪能させて貰うわ」

幽々子と妹紅は酒を飲み、軽い会話を交わしていく。





















宴会とも言っても差し支えない騒ぎ合いが始まってから幾らか経った頃。
縁側の方で一人、酒を飲んでいる霊児に、

「こんな所で一人で飲んで、どうしたんだ? 霊児」

魔理沙が近付きながら声を掛け、

「て言うか、宴会が始まってからずっと一人で飲んだり食べたりしてたけどどうしたんだ?」

宴会の時に余り騒がなかった事に付いて尋ねる。
そう、今現在もそうだが霊児は宴会の時に誰かと話したり騒いだりすると言った事をせずに黙って飲み食いしていたのだ。
ともあれ、黙って飲み食いしていた事を尋ねられた霊児は、

「単純に精神的に疲れてて、眠かったからだ。只、腹を膨らませる事に集中していた」

ストレートに、今現在の状態を魔理沙に伝えた。

「疲れたって……意外だな。異変解決までに霊児が力を使うところ何て無かったって思うんだが……」

伝えられた内容を頭に入れた魔理沙が意外そうな表情を浮かべ、霊児の隣に腰を落ち着かせた時、

「ま、慣れない事をしたからな」

慣れない事したからだと言う言葉が霊児の口から発せられる。

「慣れない事?」

発せられた言葉を聞いて魔理沙が首を傾げると、

「ああ。西行妖から春度を解放する時に幻想郷中に春度が均等に散らばる様に操ったからな。かなり神経を使ったぜ」

慣れない事をしたと言う部分を霊児は魔理沙に教えて酒を飲み、

「おまけに春度が幻想郷中に行き渡ったら直ぐに春が来る様に細工をしたんだ。前にレミリアが起こした異変の時の様に首謀者を倒して解決って流れじゃ
なかったからな、今回の異変は。ま、要するに俺がしたのは直ぐに春が来る様にって言うアフターケアだよ」

教えた部分を詳しく説明していく。

「それで霊力を使い過ぎて眠くなったのか?」
「いや、霊力自体はまだまだ余裕がある。どっちかって言うと精神的な気疲れだな」

教えられた内容から霊力の使い過ぎかと考えた魔理沙に、霊児は否定の言葉を返しながら疲れは精神的なものだと言って欠伸をする。

「だったら、もう寝たらどうだ?」
「寝ろっつっても、空き部屋に行って布団敷くのも面倒臭いんだが……」

眠そうな霊児に魔理沙がもう寝たらどうだろ言う提案をすると、寝る準備をするのが面倒臭いと言う答えが返って来たので、

「……霊児。ここなら直ぐに寝られるぜ」

魔理沙は少し頬を赤らめ、ここなら直ぐに寝る事が出来ると言って自分の太腿をポンポンと叩く。
それを見た霊児は、

「なら、そうさせて貰うぜ」

何の躊躇も無く横になり、自身の後頭部を魔理沙の太腿に預ける。
そして、

「お疲れ、霊児」
「おう」

魔理沙から労いの言葉に霊児は一言おうと返し、夢の世界へと旅立って行った。























前話へ                                           戻る                                             次話へ