白玉楼で宴会をした後、白玉楼に泊まった霊児、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの五人。
一夜明けて朝になり、起き出した霊児達は鼻を刺激する良い匂いに釣られるかの様に五人は客間へと向かって行った。
向かって行った客間には朝食を大きな卓袱台に並べている妖夢の姿と、朝食を食べている幽々子の姿が五人の目に映る。
並べ様としている朝食の量から自分達の分も用意されている事を理解した霊児達は、それぞれ勝手に席に着いて自分の前に並べられた朝食を食べていく。
そして、朝食を食べ終えた五人は外に出て、

「もう、こんな面倒な事は起こすなよ」

異変を解決しにやって来た五人を代表するかの様に、霊児は見送る為に外に出て来た幽々子に軽い警告を行なう。
行なわれた警告に応えるかの様に、

「解ってるわよ。貴方を敵に回すには、余りにもリスクが大き過ぎるしね」

幽々子は扇子で口元を隠しながらそう返し、

「何か事を起こすのなら、もっと念入りに準備してからにするわ」

また何か事を起こすと言う様な台詞を零した。

「お前な……」

零された内容を聞き、霊児が口元を引き付かせ始めたタイミングで、

「ふふふ、冗談よ冗談」

妖艶な笑みを浮かべながら冗談だと幽々子は零す。
何かを企んでいそうで企んでいなさそうな幽々子を無視するかの様に、

「そう言えば、妖夢はどうしたんだ?」

キョロキョロと顔を動かしながら魔理沙は妖夢はどうしたのだと問う。
それに続く様にして、

「確かに。あの子は貴女の従者でつい昨日まで敵対していたものが近くに居るのなら、貴女の傍に居るものだと思ったのだけど」

咲夜も妖夢を探す様に顔を動かしていく。
そんな二人を見た幽々子は、

「ああ、妖夢ならあそこよ」

開いていた扇子を畳み、畳んだ扇子で白玉楼の屋根の上をさす。
さされた扇子の方に顔を向けると、必死になって屋根の修理をしている妖夢の姿が五人の目に映った。
必死になって屋根の修理をしている妖夢を見て、

「そう言えば、皆が寝入り始めた頃に上の方から何か音がしてたけど……あれは妖夢だったのね」

皆が寝入り始めた頃に聞こえていた音の事をアリスは思い出す。

「え、そんな音聞こえていたか?」
「ああ、貴女は幸せそうな顔をして霊児に膝枕をして寝てたからね。気付かないのは無理ないわ」

上の方から聞こえて来た音と言う話に疑問気な表情を浮かべた魔理沙に、妹紅は物音に気付けなかった理由を伝える。
その後、

「成程……ん? 何で妹紅がその事を知っているんだ?」
「宴会が終盤に差し掛かって皆が解散し始めた時に、霊児と魔理沙の姿が見えなかった探したのよ。それで見付けたと思ったら二人共とも気持ち良さそうに
寝てるし。起こしたり客間に運んだりするのもあれだったから、風邪を引かない様に布団だけ掛けて置いたのよ」
「あの布団、妹紅が掛けてくれたのか。ありがとな」
「どういたしまして」

魔理沙と妹紅が軽い会話を交わし始めてしまったので、

「今もまだ屋根の修理を続けている様だけど、後どの位で終わるのかしら?」

話を戻すかの様にアリスが幽々子に屋根の修理は後どれ位で終わるのかと聞く。

「そうね……妖夢の作業ペースを見るに後半分程……お昼過ぎには屋根の修理は終わるわね」
「屋根が終わったても部屋の中と庭も残っているんでしょ? 同情するわ」

聞かれた事に対する凡その答えを幽々子が出すと、咲夜は妖夢に同情し始めた。
そう、妖夢は屋根の修理が終わったら見るも無惨な姿となった庭や白玉楼の一部も修復しなければならないのだ。
更に言えば、妖夢はずっと起きっ放しでいる事が幽々子の話で分かる。
屋根や庭と言った破壊された部分を直さなければ休む事も寝る事も出来ないであろう妖夢に、魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人は心底同情し、

「「「「……………………………………」」」」

自然とそもそもの原因を作った霊児の方に視線を向ける。
五人からの視線を向けられた霊児は、

「全くだ、同情するな」

少しも悪びれた様子を見せずに五人の意見に同意した。
相変わらずとも言える霊児の態度に、

「貴方ならそう言うと思ったわ」

少し呆れた表情をアリスは浮かべ、霊児の発言は予想出来ていたと漏らす。
色々話したりはしたが、霊児達がこれ以上ここに居る理由は無いと言う事を幽々子は感じ取り、

「そう……また、何時でも遊びにいらっしゃい。貴方達なら歓迎して上げるわ」

何時でも冥界に遊びに来いと言うお誘いを五人に掛ける。
冥界の管理人であり、亡霊の姫と称される者から何時でも冥界に遊びに来いと誘われたからか、

「冥界に来る事を歓迎されても素直に喜べないわね」
「確かに、縁起が良いとは言えないわね」
「私は文字通り一生冥界には縁が無いものと思っていたけど、まさか冥界の住人からお誘いを受けるとはね。長生きはしてみるものね」

咲夜、アリス、妹紅の三人は三者三様の感想を抱いた。
生者である咲夜とアリスに取って冥界に来いと言うお誘いは何とも微妙なものであった様だが、不老不死である妹紅に取ってはそうでは無い様だ。
ともあれ、微妙そうな表情を浮かべている咲夜とアリスの二人に、

「咲夜とアリスももっと喜んだらどうだ? これからは春になったらこの桜を肴に酒を飲めるんだぜ」

これからは冥界で何時でも花見が出来るだろうと言う案を魔理沙はお気楽な表情で提示する。
ここ、冥界で見られた桜はどれも見事と言える程のもの。
見事な桜を肴に酒を飲むと言う部分に惹かれたからか、

「確かに……魔理沙の言う通りね。それに彼女が今更私達をどうこうするとは思えないし」
「そうね。万が一の時は霊児を盾にすれば良いだけだし」

咲夜とアリスは先程抱いた感想を撤回させた。
撤回させた内容の中に一言申したいと言う部分があった為、

「おい……」

霊児は咲夜とアリスに突っ込みを入れ様としたが、

「良いじゃない、別に。霊児には彼女の能力は通用しないんだし。それに、彼女が私達に害を為すのならその原因は貴方にあるでしょ」

突っ込みが入る前にアリスにそう言われてしまい、霊児は押し黙ってしまう。
異変を解決する為に幽々子を倒した事は兎も角、異変を解決するのに必要の無い事を霊児はしてしまっている。
例えば白玉楼の門を蹴破ったり、白玉楼の庭や屋根を破壊したと言った様な事を。
紅魔館の時もそうであったが、何故霊児は後々尾が引きそうな事をしたのか。
答えは簡単。
その場のノリと異変を起こしてくれた鬱憤を晴らす為だ。
異変などと言う面倒臭いものは起こって欲しく無いと霊児は思っているが、異変が起きたら解決の為に動かなければならない。
鬱憤の一つや二つ、溜まりもするだろう。
それはさて置き、自分の屋敷の一部を破壊される事となった幽々子は、

「そうよねぇ、私の能力がまるで効かない人間何て不老不死を除けば貴方が初めてよ。自信が無くなっちゃうわ」

報復何て考えていないと言った表情で自身の能力が効かない人間は霊児が初めてだと溜息混じりに漏らす。
取り敢えず、後腐れなく終われたのを理解出来たからか、

「さて、今回の件をお嬢様に報告しなければならないしそろそろ帰りましょうか」

場の空気を変える様に咲夜はそろそろ帰ろうと言い、霊児の手を掴んだ。

「ん? 何だ?」

急に手を掴まれた霊児が疑問気な表情を浮べると、

「何って、貴方の二重結界式移動術で帰るんだから貴方に接触するのは当然じゃない?」

手を掴んだ理由を咲夜は説明する。
そんな咲夜に続く様にして、

「そうね、普通に帰ったら結構な時間が掛かりそうだものね。それに、博麗神社に送った荷物の回収しなければならないし」

咲夜が掴んでいる反対側の霊児の手を妹紅は掴み、

「見た感じ単純なワープや転送魔法よりもずっと優秀だからね、霊児の二重結界式移動術は」

二重結界式移動術を褒めながらアリスは背後から霊児の両肩に手を置き、

「そう言う訳だから、宜しく頼むぜ霊児」

魔理沙は正面から霊児の胸部に両手を置き、話を纏めるかの様に宜しく頼む言う言葉で場を纏めた。
ここに居る全員を二重結界式移動術で運んでも大した手間にはならないが、少々思うところはあった為、

「……はいはい、分かったよ」

溜息混じりに霊児は分かったと言い、二重結界式移動術を発動させる。






















「着いたぞ」

二重結界式移動術を発動した瞬間には博麗神社に着いたので、霊児は魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人にそこ事を伝える。
博麗神社に着いた事を知った四人は目をパチクリさせながら霊児から手を離して周囲を見渡し、

「二重結界式移動術で移動したのは初めてだけど本当に凄い移動術ね、これ。単純な移動速度と術の発動速度は神綺様が使う転移魔法よりもずっと上の様だし」
「この術を体感するのは初めてだけど……移動した事に全く気付けなかったわ」

アリスと咲夜は二重結界式移動術が思っていた以上に凄いものであると零す。
二重結界式移動術に感嘆していると言った感じの二人に対し、

「霊児の部屋に入るのは少し久しぶりな気もするけど……結構片付けてるのね」
「霊児はあまり散らかさないって言うのもあるけど、私が定期的に掃除をしてるからな。散らかり放題になる事は無いと思うぜ」

妹紅と魔理沙の二人は霊児の部屋に付いての会話を交わしていた。
戻って来て早々に他愛無い会話を始めた四人に霊児が何か言おうとした時、

「そう言えば、部屋の隅にあるあの家具の塊は何?」

アリスから部屋の隅にある家具の塊に付いての問いが投げ掛けられる。
投げ掛けられた問い反応した咲夜は、アリスと合流したのはマヨヒガを出た後である事を思い出し、

「ああ、それはマヨヒガで得た物よ」

家具の塊を何所で得たかをアリスに教えた。

「マヨヒガって……あのマヨヒガ!?」

教えられた内容を頭に入れたアリスは驚いた表情を浮かべ、

「貴方達、マヨヒガに辿り着いたと言うの!?」

確認を取るかの様に本当にマヨヒガに辿り着く事が出来たのかと聞く。
アリスが驚いた表情でそう聞いて来たのも無理はない。
何せ、マヨヒガとは狙って行ける様な場所ではないのだから。
兎も角、マヨヒガに辿り着けたのかと聞かれたので、

「ええ、異変解決の道中にね。ま、私もマヨヒガに辿り着けるとは思っていなかったけど。序に言えば、マヨヒガに辿り着いたのはあれが生まれて
初めてだったしね」

妹紅は肯定の返事と共にマヨヒガに辿り着いた経緯、そしてマヨヒガの辿り着いたのは生まれて初めてあった事を口にする。
異変解決の道中でマヨヒガに辿り着けたと知れたアリスは、

「……だったら、冬が長いと思った時点で博麗神社に行けば良かったわ」

冬が長いと思った時点で博麗神社に行けば良かったと言う後悔を抱いた。
もし、最初っから霊児達に同行していればマヨヒガの物を持ち帰る事が出来たからだ。
嘗ての自分の行動に後悔している雰囲気を醸し出しているのをアリスから感じ取ったからか、

「何だ、アリスもマヨヒガの物が欲しかったのか?」

アリスもマヨヒガの物が欲しかったのかと魔理沙は問う。

「まぁ……ね。マヨヒガの物を持ち帰れば幸運が訪れる聞くしね」
「なら、私が持って来た分を少し分けてやろうか?」

問われた事をアリスが肯定すると、魔理沙が自分の分を少し分け様かと言う提案をした。
幾ら何でも魔理沙が何の対価も無く自分が得た物を誰かに上げるとは思えなかったので、

「……で、私は代わりに何を差し出せば良いのかしら?」

アリスは魔理沙に対価として差し出して欲しい物を言う様に促す。

「何、お前の持ってる魔導書を何冊か貸してくれれば良いぜ。私が死ぬまでな」
「貴女が欲しがる魔導書と言えば……あれ辺りのやつかしら……」

促された魔理沙が欲している物を提示すると、アリスは何かを考える体勢を取り、

「……良いわ、その提案を呑むわ」

暫し考えた結果、アリスは魔理沙の提案を受け入れる事にした。
どうやら、魔導書よりもマヨヒガの品物が齎す幸運の方が上と判断した様だ。

「よし、決まりだな」
「品物の検分はさせてよね」

話が決まったからか、魔理沙とアリスはマヨヒガから回収した物が置いている場所へ向かって行く。
それを見て、

「あ、何か包む物は無いかしら?」

思い出したかの様に咲夜は霊児に包む物は無いかと尋ねる。
得た家具を包まずに持って帰ると言う事に、咲夜は幾らか思うところがあった様だ。
ともあれ、包みの一つや二つ貸しても何の問題は無いので、

「んー……そこ箪笥の上から五段目に風呂敷が入ってるぞ」

咲夜に風呂敷が在る場所を霊児は指でさして教える。

「そう、ありがとう」

包みとして使える物の在りかを教えてくれた霊児に咲夜は礼を言い、指がさされた箪笥の方へと足を進めて行った。
すると、

「霊児霊児」
「どうした?」

今度は妹紅が霊児に声を掛けて来たので、霊児は妹紅の方へと振り返る。
そのタイミングで、

「壁に掛かってる貴方の羽織り、二着程借りても良いかしら?」

壁に掛けている霊児の羽織を二着程借りたいと言うお願いを妹紅はして来た。

「羽織りを? 何でまた?」
「ほら、私がマヨヒガから持って来たのは箪笥でしょ。背負って運ぶ予定だけど、何かの拍子で落としたら大変だからね」

自分の羽織を欲している理由に疑問を覚えた霊児に、妹紅がどうやってマヨヒガから持ち帰った箪笥をどの様にして運ぶかを話した為、

「つまり、俺の羽織をロープ代わりにしたいって訳か」

どうして妹紅が自分の羽織りを欲しているのかを霊児は理解し、壁に掛けて在る予備の羽織りに目を向ける。
壁に掛けられている予備の羽織は四着。
ここで妹紅に羽織を二着貸しても、今着ている羽織を含めて残りは三着となる計算だ。
貸したとしても、大した問題は無いであろう。
更に言えば、今現在の霊児の羽織は極めて頑丈に作られている。
幼少期の頃に羽織をよくボロボロにして霖之助に修繕の依頼していた為、霖之助が気を利かせて霊児を羽織りのサイズを合わせ直す時に頑丈な物に改修したのだ。
少なくとも箪笥を支える程度では破ける事は無いし、暫らくは羽織り三着だけでも何の問題も無いので、

「別に良いぞ」

妹紅に羽織を貸し出す許可を霊児は出した。

「ありがとう」

許可を出された事で妹紅は霊児に礼を言い、早速と言わんばかりに羽織りが掛かっている壁へと向かって行く。
そんなこんなで魔理沙、妹紅、咲夜、アリスの四人はマヨヒガで得た物を持ってそれぞれの家に帰って行った。
四人がそれぞれの家に帰った後、霊児は自分の部屋を出て神社の裏側にある畑に足を運び、

「……うん、雪は完全に消えてるな」

つい昨日まで存在してた雪が消えている事を口にする。
まぁ、西行妖から春度を解放した際に直ぐに春が来る様に細工をしたのだから雪が無いのは当然であろう。
兎も角、自分の目で畑に雪が無い事を確認した霊児は懐からある物を取り出す。
取り出した物と言うのは、部屋を出る前に持って来ていた春の作物の種が入った袋。
春の作物の種が入った袋を取り出した理由は、勿論畑に種を植えるためだ。
冬が異様に長くなると言う異変が起きていたせいで今年の春は短くなってしまっているが、それでも一回か二回は収穫は出来るであろう。

「あー……何か久しぶりに畑に出たな。まぁ、実際久しぶり何だけどな」

久々に種蒔きをする自分に霊児は懐かしさを抱きつつ、畑に種を蒔いていく。
畑に種を植える単純な作業で飽き来そうになるのを押さえながら。
それから幾らかすると種を蒔き終えたので霊児は空となった袋を仕舞い、

「後は……」

ここでの用は済んだと言わんばかりの動きで神社の中に戻り、神社の中に在る自動水遣り機の制御装置がある部屋に入る。
そして、自動水遣り機の制御装置の電源を入れ、

「………………………………………………………………」

水の残量を確認しに掛かった。
確認した結果、

「残り60%か……」

残り60%である事が分かったので、霊児は少し思案する。
この儘にして置くべきか、それとも補充に向うべきか。
残量が60%であれば直ぐに切れる事は無いが、余裕があると言う訳では無い。
下手をしたら肝心な時に水を補給出来ないと言う事態になる可能性も出て来る。
とは言え、そう言う可能性を考慮しても霊児は今から水の補給をしに行くと言う気分にはなれないでいた。
グータラが好きで、昨日異変を解決したばかりの霊児がそう言う気分になるのも無理はないだろう。
だからか、

「…………10%切ったら補充するか」

問題を先送りにするかの様に霊児は水の残量が10%切ったら水を補充する事を決め、この部屋を後にした。























時が少し流れ、昼下がりの午後になった時間帯。
霊児は、

「ふぅ……」

縁側で柱に背を預け、茶を啜っていた。
舞い散る桜の花びらを見ながら。
急遽春にしたが、何の問題も無く博麗神社の桜の木が花を咲かせた事に幾らかの安心感を抱きつつ、

「平和だ」

平和だと言う台詞を呟き、周囲を見渡していく。
見渡していく中で花壇が目に入った時、

「あ、そうだ。これを飲み終わったら花壇に春の花の種を植えるか。それしないと幽香の怒りを買いそうだし」

後で花壇に春の花の種を植える事を決め、霊児は皿の上に乗っている煎餅を手に取って齧る。
花の種を植えずに幽香の怒りを買って神社に被害が出るのだけは避けたいと思いながら空を見上げると、

「……ん?」

空に黒い点の様な物体が在る事に霊児は気付き、黒い点を注視する事にした。
注視した黒い点はどんどんと大きくなっていき、

「あれは……文か?」

黒い点の正体であろう者の名を霊児はポツリと呟く。
すると、

「どうもー!! 清く正しい射命丸文でーす!!!!」

砂埃を舞い上がらせながら文が霊児の前に降り立った。
舞い上がった砂埃を霊児は手で払いつつ、

「……お前、もう少し大人しく来る事は出来ないのか?」

大人しくここに来る事が出来ないのかと言う突っ込みを入れる。
まぁ、文は博麗神社に来る時は何時も今回の様な登場をするのだ。
突っ込みの一つや二つ、入れたくもなるだろう。
兎も角、突っ込みを入れられた文は軽い笑みを浮かべ、

「失礼な、これでも大人しく来た方ですよ。大人しくなかったら、小型の竜巻でも発生してますって」

手を振りながら大人しく来なかったら小型の竜巻が発生すると言う事を話す。
お気楽な表情で中々に物騒な事を文が話し出したからか、

「……はぁ」

呆れと諦めが入り混じった様な溜息を霊児は一つ吐く。

「どうしたんです、溜息なんか吐いて。溜息を吐くと幸せが逃げるって言いますよ」
「誰のせいだと……」

溜息を吐いた霊児に文が溜息を吐くと幸せが逃げると言う事を教えると、それに反応した霊児が何かを言おうと口を開いたが、

「……………………………………………………………………」

直ぐに開いた口を閉じた。
言った処で何も変わらないと感じたからだ。
ともあれ、この儘では話が進まないので霊児は軽く頭を振って顔を上げ、

「それで、何の用だ?」

何の用で博麗神社に来たのかと尋ねる。

「それは勿論、取材ですよ!!」

尋ねられた文は取材と断言しながら手帳とペンを懐から取り出し、

「昨日まで一面銀世界の冬だったと言うのに今日になれば桜が舞い散る春!! これは何かがあったに違いないと思った私は何かを知っているであろう
霊児さんの所にやって来たのです!!」

少々演技掛かった口調で博麗神社にやって来た経緯を伝え、

「さぁ!! 知ってる事を教えてください!!」

知っている事を教えてくれと言いながら霊児へと詰め寄った。
詰め寄られた霊児はシレッとした表情を浮かべ、

「教えるも何も、異変を解決したから春になったんだが」

一日で冬から春になった理由を答える。

「………………え?」

返って来た答えを理解した文は唖然とした表情を浮かべ、

「あの……もう一回言ってくれませんか?」

恐る恐ると言った感じでもう一度言ってくれと漏らす。
漏らされた発言は確り耳に入ったからか、

「異変を解決したら春になったんだよ。序に言えば、昨日異変解決に出発して今日帰って来たんだ」

つい先程答えた内容に少し付け加えた事を霊児は答える事にする。

「………………………………………………………………」

異変が起き、起きた異変を既に解決された。
その事が真実である事を返って来た答えから理解した文は、ガックリと言った感じで膝を崩して地に両手を付け、

「この私が……そんな特ダネを見逃すとは……」

かなり悔しそうな声色で特ダネを見逃した事に対する後悔の言葉を零す。
文からしてみたら自分が発刊している"文々。新聞"に異変に関する記事を独占するチャンスを逃したのだ。
悔しそうな態度を見せるのも仕方が無いだろう。
地面に両手と両膝を着けて落ち込んでいる文を無視するかの様に、霊児が再び茶を啜ろうとした瞬間、

「どうして私に教えてくれなかったんですか!?」

勢い良く文は立ち上がって霊児の両肩を掴み、どうして異変の事を自分に教えてくれなかったのかと言う問いを投げ掛ける。

「そうは言っても事が起こったと分かった以上、俺はさっさと解決に動かなければならないからな。それに俺は人間だぞ。前にあった試合の時の様に
妖怪の山に行っても追い返されるだけだろ。招待された……って訳じゃ無いんだから。仮に隠れながら妖怪の山を進んだとしても、俺はお前が妖怪の
山の何所に住んでいるか分からないしな。探している最中に天狗に見付かって一悶着起こるのがオチだろ」
「そ、それはそうですが……」

投げ掛けた問いに霊児から正論を返された為、文はつい押し黙ってしまう。
返された内容の通り、霊児が妖怪の山に進入したら天狗に見付かって一悶着起きるのは確実。
更に言えば、一悶着が起きていたら文も駆り出される事になるであろう。
霊児との付き合いが長いと言う理由で。
そう考えたら霊児が異変の事を自分に伝えに来なかったのは中々に良い判断であると思えたからか、

「まぁ、気付かなかった私も私ですしね。このお煎餅でも食べて気を紛らわせる事にします」

霊児が自分に異変が起きているのを教えなかったのは水に流すと言う様な事を文は言い、皿の上に乗っている煎餅を手に取って齧り始めた。

「お前……人の煎餅を……」
「良いじゃないですか。こんなに沢山在るんですから一枚位」

自分の許可無く勝手に煎餅を食べた文に霊児が文句を言おうとすると、沢山在るのだから一枚位良いだろうと文は口にする。
そして、文は霊児が伸ばしている脚を背にする様にして縁側に腰を落ち着かせ、

「折角ですから、今回の異変の事を教えてくださいよ」

手帳とペンを持ち直して霊児に異変の事を教えと詰め寄った。
こうなった文が中々に頑固である事は知っているからか、

「……はぁ」

本日何度目かになる溜息を一つ吐き、

「分かったよ。話してやるよ」

諦めたかの様な表情を浮かべながら今回の異変の詳細を文に教える事を決める。
すると、

「ありがとうございます!!」

文は満面の笑みを浮かべ、早速のと言わんばかりに異変の事に付いて聞き始めた。























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