博麗神社の敷地内を箒で掃き掃除しながら、

「結構暑くなって来たな。もう少ししたら夏になるな、こりゃ……」

霊児はそんな事を漏らし、思う。
今年の春は短かったなと。
だが、それも仕方が無い事。
何せ、今年の冬は異変の影響で異様なまでに長くなってしまったのだ。
おそらく、その影響を受ける形で春が短くなったのだろう。
と言っても、冬が長くて春が短いと言うのは流石に今年限りであろうが。
もし、同じ様な異変がまた起こったら面倒だなと言う事を思っている霊児に、

「へぇー……掃除とか、ちゃんとやってるのね」

何者かが上空から声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は掃き掃除を一旦止め、声が発せられたであろう場所に顔を向け、

「サラか」

声を発して来た者の名を口にする。
名前を呼ばれた少女、サラは上空から霊児の傍に降り立ち、

「こんにちは」

軽い挨拶の言葉を掛けた。

「ああ」

掛けられた挨拶に霊児はああと一言だけ返し、

「処で、魔界の門番は良いのか?」

魔界の門番は良いのかと聞く。
霊児がそう聞いたサラは魔界の門番、正確には幻想郷と魔界が繋がっている場所を監視して場合によっては出入りして来る者を止める様な存在。
そんなサラが幻想郷と魔界が繋がっている場所から離れてしまうのは、問題では無いだろうか。
若しかしたら、害意を持った者が魔界から幻想郷にやって来ているのではと言う事を霊児が考えた瞬間、

「だって、暇なのよ!!」

暇なのだと言う主張がサラから発せられた。

「暇?」

暇と言う単語に疑問を覚えた霊児が首を傾げると、

「そうよ。あそこに誰かが来る何て殆どないんだから」

幻想郷と魔界が繋がっている場所には殆ど誰も来ないと言う事を霊児に教える。

「そうなのか?」
「そうなの。少し前に魅魔って言う幽霊魔法使いが来たのだって、前に貴方達が来て以来だったし。まぁ……あの魔法使いにはボコボコにされたけど」

教えられた内容が本当なのかと聞いて来た霊児に、サラは肯定の返事と共についこの前に魅魔にボコボコにされた事を話して悔しそうな表情を浮かべた。
やはりと言うべきか、魅魔に負けた事が悔しい様だ。
ともあれ、サラが魅魔に負けたと言う話から、

「そういや、魅魔は魔界に行って来たんだっけか」

魅魔が魔界に赴き、魔界の魔法を習得して来た事を霊児は思い出す。
同時に、基本的に暇だと言うサラに、

「年がら年中暇だって言うのは羨ましいけどな」

年がら年中暇だと言うのは羨ましいと言う言葉を掛ける。
すると、

「代わってくれるのなら代わって欲しいわよ」

何処か拗ねた様な声色で代わってくれるのなら代わって欲しいと言う事をサラは呟く。
呟かれた内容とサラが浮かべている表情から、

「……若しかして、寂しいのか?」

何となく、感じた事を霊児が述べた時、

「そうよ!! 寂しいのよ!!」

大きな声でサラは寂しい事を主張し、

「あーあ、霊児達が来た時は魔界からも色んな奴等がやって来て結構賑やかだったのになー」

懐かしむかの様に、霊児達が来た時は賑やかであった事を語る。

「俺達が来た時? 今は違うのか?」

語られた内容が過去形であった為、今は賑やかではないのかと言う疑問を抱いた霊児に、

「今は……と言うよりは少ない方が本来の形なのよね。ほら、あの時は魔界の一部の者がこっちを侵略し様としてその子飼いの者が大量に魔界から出て来たでしょ」

賑やかではないのが本来の形である事をサラは教え、賑やかだった時は魔界の一部の者が幻想郷を侵略し様と企てていただろうと言う。
そう言われた事で、

「ああ、そう言えばそうだったな」

嘗て、魔界に突入する事になった理由を霊児は思い出した。
魔界の住人が幻想郷に攻撃を仕掛けて来た理由を探りに魔界に行き、色々あって神綺と戦う破目になった時の事を。
神綺との戦いで霊児はかなりの重傷を負ったが、その戦いのお陰で創造神の強さと言うものを霊児は知る事が出来て魔界からの侵攻と呼べるものも止まった。
結果だけ見たら、イーブンだろうか。
と言った感じで、霊児が魔界で神綺と戦った時の事を思い返していると、

「あの後、地上の侵攻を企てて下の者に指示を出していた者達は神綺様直属の部下に叩き潰されたみたいだけどね。そう言う事もあって、今では魔界と
ここが繋がる門の通行人数も元通りって訳」

幻想郷に侵略行為を企てていた者達は神綺直属の部下に叩き潰された事で、幻想郷と魔界が繋がる場の通行人数が元に戻った事をサラは述べ、

「それに、空間転移に長けた者なら門を通らなくってもこっちに来たりも出来るしね」

空間転移に長けた者は門を通らないでも幻想郷に来る事が出来ると言う補足を行なった。
しかし、聞けば聞く程に霊児の取っては魔界の門番は理想の職場に感じられる為、

「何だ、魔界の門番は不満なのか? 常に暇だ何て、お前が寂しいのを除けば理想の職場じゃないか」

サラが寂しいと言う点を除けば、理想の職場だろうと言う発言を霊児がサラに掛けた時、

「暇なら良いって訳じゃないの。私には門番よりももっと相応しい……活躍出来る場と言うものがあると思うのよ!! 私は門番程度で収まる様な女じゃないの!!」

サラは胸を張りながら、自分には門番よりももっと相応しい場があると言う事を主張する。
その刹那、

「あら、それなら私の直属の子になってみる?」

聞き覚えのある声がサラの背後から聞こえて来た。
同時に背筋を伸ばす様な動きをしながらサラは固まり、ギギギと言う擬音が聞こえて来そうな動作で後ろへと振り返る。
振り返ったサラの目には、

「し、神綺様……」

魔界の創造神である神綺の姿が映った。

「ふふふ……こんにちは」

予想外とも言え過ぎる人物が現れた事でフリーズ仕掛かっているサラに神綺が挨拶の言葉を掛ける。
他の者ならまだしも、魔界の創造神である神綺に挨拶されて挨拶を返さなかったら無礼処の騒ぎでは無い。
なので、サラは何とかと言った感じで気を持ち直し、

「こ、こんにちはです。神綺様」

ビクビクとした態度で神綺に挨拶の言葉を返す。
お互い、挨拶が済んだ後、

「私の直属の子になりたいのなら、試験として夢子ちゃんと戦って貰うけど……どうかしら?」

神綺はサラに自分の直属の部下になる為の条件を提示する。
神綺直属の部下になれると言うのは魅力的ではあるが、夢子と戦うと言うのはリスクがあり過ぎるからか、

「い、いえ。遠慮して置きます」

恐る恐ると言った感じで、サラは神綺から受けた提案を断った。

「あら、そう。処で……貴女は何でここに居るのかしら?」

サラから返って来た返答を聞いた神綺は、話を変えるかの様にここに居る理由を尋ねる。

「い、いえ、それはですね……」

尋ねられたサラは発すべき言葉を探すかの様に視線を動かす。
サラが魔界の門番をしている事は、神綺も存じている。
故に、神綺がサラにその事を尋ねるのは当然と言うもの。
だが、馬鹿正直に魔界の門番の仕事をサボッたなどと言う事をサラが言える訳が無い。
何とか上手い言い訳を出そうと必死になってサラが頭を回転させている時、

「若しかして……魔界の門番と言う仕事をサボッたのかしら?」

魔界の門番と言う仕事をサボッて博麗神社に来たのかと言う推察を神綺は行ない、サラを強い視線で見る。
そんな視線で神綺から見られたサラは、

「ひう!?」

短い悲鳴を上げながら霊児の背中に隠れてしまった。

「お前な、俺の後ろに隠れるなよ……」

一目散と言った感じ自分の背中に隠れたサラに霊児が文句の言葉を掛けると、

「ふふ、冗談よ」

冗談と言う言葉と共に神綺は表情を柔らかいものに変え、

「私もここと魔界が繋がっている道に来る者の数の少なさは知っているから、多少の事は目を瞑るわ」

幻想郷と魔界が繋がっている場所の通行人数の少なさは知っているので、多少の事には目を瞑ると言った事を口にする。
口にされた事と神綺の雰囲気から神綺が怒っていない事を理解したサラは、霊児の背中に隠れるのを止めて霊児の隣に立つ。
取り敢えず、場が落ち着いた事で、

「人が悪いな、お前も」

人が悪いと言う台詞を零しながら霊児は溜息を一つ吐き、

「それで、何の用だ?」

神綺に何の用で博麗神社にやって来たのかと問う。
問われた神綺は満面の笑顔を浮かべ、

「貴方に会いに」

一言、霊児に会いに来たと言う事を述べる。

「あっそ」

述べられた事に対し、霊児が余りにも素っ気無く興味が無いと言った感じの反応をしたからか、

「そこはもっと嬉しそうな顔をする場面なんじゃないの?」

神綺は少し怒った様な表情を浮かべた。
が、

「そんな顔をして欲しかったら土産の一つや二つでも持って来い」

浮べられた表情を無視するかの様に、霊児が嬉しそうな顔をして欲しかったら土産でも持って来いと言った為、

「……仕方ないわね」

呆れた様な息を溜息を一つ吐き、神綺は指を鳴らす。
すると、縁側に酒瓶が幾つか現れるた。
現れた酒瓶を見た霊児は、

「おお!!」

思いっ切り目を輝かさせる。
意識の大半が酒瓶に向いている霊児に、

「魔界のお酒の中でも特に美味しいのを幾つか用意したわ」

出現させた酒瓶の中の酒がどう言った酒であるかの説明を行なう。
美味しいお酒と言う部分が耳に入った瞬間、ご機嫌と言った雰囲気を霊児は全身から醸し出し、

「よく来てくれたな」

満面の笑顔を浮かべながら神綺の来訪を歓迎し始める。
酒を見ただけでここまで態度を変えた霊児に、サラが現金だと言う感想を抱くと、

「で、ここに来た本当の理由は?」

浮かべていた表情を霊児は元に戻し、改めてと言った感じで神綺に博麗神社にやって来た理由を聞く。
聞かれた神綺は仕方が無いと言った表情になり、

「単純に暇だったのよ。特にする事がなかったから、お散歩に出掛け様と思ってこっちに来たの。お忍びでね」

博麗神社にやって来た本当の理由を霊児に教える。

「それで、ここに来たって訳か」
「そう言う事。それで最初に思い付いた場所がここ、博麗神社だったの」

教えられた事を受けて霊児が納得した表情になると、散歩に行こうと思ったら最初に思い付いた場所が博麗神社であった事を神綺は語り、

「まぁ、こうやって折角貴方と会えたんだし……一つ私と戦って貰おうかしら」

神力と魔力を少し解放し、霊児に一寸した殺気を放つ。
解放された神綺の神力と魔力を感じたサラは、慌てて再び霊児の背中に隠れてしまう。
また自分の背中に隠れたサラに霊児は文句の言葉を言いたかったが、そんな事をするよりも目の前に居る神綺に意識を向ける事の方が重要。
なので、霊児はサラに文句の言葉を掛ける事無く神綺を注視する。
左腰に装備している短剣の柄を左手で掴み、何時でも短剣を抜き放てる様な状態で。
一触即発と言える様な状態が少しの間続き、何時戦いが始まっても可笑しくは無いと思われた瞬間、

「……ふふ、冗談よ」

冗談と言う言葉と共に神綺は神力と魔力の解放と殺気を放つのを止める。
神綺から神力、魔力、殺気が感じられなくなった為、

「……の、様だな」

神綺が発した冗談と言う言葉に嘘が無いと霊児は判断し、短剣の柄から左手を離す。

「……え? え?」

これから霊児と神綺の戦いが始まる事を覚悟してのだが、戦いが始まると言う雰囲気が突然払拭された事で些か混乱しているサラを余所に、

「そりゃね。周りへの被害を考えたら私も貴方も本気で戦う……何て事は出来ないでしょ?」
「まぁ……な」

神綺と霊児はそんな会話を交わしていく。
もし、今ここで霊児と神綺が力の全てを用いて戦ったとしたら。
最低でも、今居る場所がら見える範囲が更地になるのは確実。
それだけ、創造神や創造神クラスの力を持つ者同士の激突は凄まじいのだ。
兎も角、霊児とここでは戦わないと言った神綺は、

「貴方と戦うんだったらもっと拓けた場所じゃないとね。前の事もあるから幻想郷を荒らすと言うのは私としても避けたいし。あ、いっその事……貴方と
戦う為だけの世界を創るって言うのも良いかもしれないわね。名前は戦界と言った感じで」

霊児と戦う為だけの世界を創造する事を考え始めた。
そんな世界が創世された後の事を想像した霊児はゲンナリとした表情を浮かべ、

「簡便してくれ……」

大きな溜息を一つ吐く。
そのタイミングで、

「あー……吃驚した」

安堵の息を吐きながらサラが霊児の背中から出て来た。

「つーか、一々俺の背中に隠れなくても良いんじゃないのか?」
「何に言ってるのよ!! 神綺様がその気になったら私何て余波だけで消滅させられるわよ!!」

一々自分の背中に隠れたサラに霊児がそう言った突っ込みを入れると、サラから神綺がその気になったら余波だけで自分は消滅させられる事を口にする。

「だったら、神綺から距離を取るとかあるだろ」
「距離を取るよりも、神綺様と対等に渡り合える霊児の背中に隠れた方が安全だと思ったのよ」

サラが口にした事を受けて自分の背中に隠れる以外の方法を霊児は提示したが、霊児の背中の方が安全だと言う反論をサラは行なう。

「お前な……」

何の躊躇も無く自分を盾にする事を選択したサラに霊児が何か文句の言葉を掛け様とした瞬間、

「あ、折角だしお茶でもご馳走してくれないかしら?」

お茶でもご馳走してくれと言うお願いを神綺はして来た。
元々、そろそろ一服し様と考えていた事もあり、

「……ま、掃除も一段落着いたし酒を貰ったしな。それ位ならしてやるよ」

酒を貰った礼をも含めて茶をご馳走する事を霊児は約束し、箒を近くに立て掛ける。
そして、神社に向けて足を進めて行く。
それに続く様にして、神綺とサラも神社に向けて足を進めて行った。






















霊児達が博麗神社の方に向かってから暫らく経った頃。
博麗神社の縁側で、

「貴方の淹れるお茶は本当に美味しいわね。私専用のお茶汲みとして欲しい位よ」
「私も霊児が淹れるお茶以上に美味しいお茶を飲んだ事はないですね」

腰を落ち着かせている神綺とサラが霊児の淹れたお茶に対する感想を述べる。
述べられた感想が好意的なものであったからか、

「そいつはどうも」

同じ様に縁側で腰を落ち着かせながらお茶を啜っていた霊児はどうもと返す。
サラが来たり神綺が来たりと一時は如何なる事かと思われたが、今はこうして三人揃って平和に茶を啜っている。
この分なら平和な一日を過ごせるな霊児が思った瞬間、

「やっほー」

何者かが霊児の背中に抱き付いて来た。
一体、誰が抱き付いて来たのか。
顔を見ずとも誰が抱き付いて来たのかは霊児には分かっていた様で、

「……何の用だ? 幻月」

正面を向いた儘、自分の背中に抱き付いて来ている者の名を口にする。
そう、霊児に抱き付いて来たのは幻月であったのだ。
兎も角、幻月の存在に気付いたと言うのに霊児の表情は何処か面倒臭そうなものであったからか、

「何よ、私の様な美少女が抱き付いているのに。普通、もっと嬉しそうな顔をするものでしょ」

幻月は少し頬を膨らませ、より霊児に密着しながらもっと嬉しそうな表情をしろと言う。
神綺と幻月。
創造神が二人も揃った事に霊児が何か嫌なもの感じている間に、

「あら、幻月。御機嫌よう」

神綺が幻月に挨拶の言葉を掛ける。

「ええ、御機嫌よう。神綺」

掛けられた挨拶の言葉に幻月も挨拶の言葉を返す。
そして、神綺と幻月の二人は何かを探る様な視線をぶつけ合う。
そんな二人の様子から、サラは何かを感じ取り、

「ね、ねぇ……あの人って……」

幻月の事を霊児に尋ねる。

「神綺と同じ創造神だ。因みに、幻月が創った世界は夢幻世界だ」

尋ねられた霊児が端的に幻月の正体をサラに教えると、

「……もう一回言ってくれる?」

何処か固まった様な表情になりながら、サラは霊児にもう一度言ってくれと頼んだ。
なので、

「神綺と同じ創造神だ。因みに、幻月が創った世界は夢幻世界だ」

一字一句同じ言葉を、霊児はサラにもう一度伝える。
すると、サラは幻月から無言で距離を取り始めてしまう。
それに気付いた幻月は、

「そんな怖がらなくても、別に取って食ったりはしないわよ」

別に危害を加える積りは無いと言う言葉をサラに掛けたが、

「は、はぁ……」

声を掛けられたサラの表情は優れたものではなかった。
まぁ、故郷でもある魔界の創造神ではなく別世界の創造神が直ぐ近くに居ればサラの様な反応をするのは当然なのかもしれない。
ともあれ、それぞれがここに居る存在を認識したからか、

「それで、何の用だ?」

再度、霊児は幻月に何をしにやって来たのかと尋ねる。
博麗神社にやって来た理由を再度尋ねられた幻月は霊児から離れ、

「私は只単に遊びに来たんだけど……一応、付き添いも含まれているのよね」

自分としては遊びに来ただけなのだが、付き添いも含まれていると言う。

「付き添い?」

付き添いと言う部分に一寸した引っ掛かりを覚えながら霊児は右腕を頬の横に持っていく。
その瞬間、大きな激突音が周囲に響き渡った。
響き渡った音に反応した一同が音の発生源に目を向けた時、

「付き添いって言うのはこいつのか?」

付き添いと言うのはこいつかと言う事を霊児は幻月に聞く。

「ええ、そうよ」

聞かれた事に幻月が肯定の返事をしたタイミングで、

「まさかこうも容易く蹴りを防がれるとは……」

霊児の右腕に蹴りを叩き込んでいる体勢を取っている夢月が、悔しそうな表情をしながら自身の蹴りが防がれた事を漏らす。
そう、激突音の正体は夢月が霊児の右腕に叩き込んだ蹴りであったのだ。
激突音の正体を一同が知れたのを感じ取った後、霊児は右腕を動かす。
すると、夢月は弾かれる様にして霊児から距離を取って地に足を着ける。
地に足を付けた夢月が体勢を立て直したのを見て、

「だーかーらー、まだ霊児と戦うのは早いって言ったでしょ」

言い聞かせるかの様な声色で、幻月は夢月にまだ霊児と戦うのは早いと言ったのにと言う言葉を掛けた。
投げ掛けられた言葉は正しいからか、

「確かに、姉さんの言った通りでした」

ションボリとした表情になりながら夢月は肩を落とす。
そんな二人の様子を見ながら、

「で、お前は兎も角夢月は一体何をしに来たんだ?」

夢月は何をしにここにやって来たのかと言う疑問を霊児は幻月に投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に反応した幻月は体を夢月から霊児の方に向け、

「単純に、夢月ちゃんが霊児にリベンジしたいって言うからここ来たのよ」

夢月がここにやって来た理由は、霊児にリベンジする為であると言う事を話す。

「リベンジ?」
「ほら、前に私達の世界に来た時に夢月ちゃんをボコボコにしたでしょ」

リベンジと言う単語を受けて霊児は思わず首を傾げてしまったからか、幻月は嘗て霊児が夢幻世界に来た時の話を出した。

「……ああー、そんな事もあったな」

夢幻世界に赴いた時の話を出された事で、霊児は夢幻世界に赴いた時の事を思い出す。
霊児とフランドールの戦いで廃墟と化してしまった紅魔館が復活した時の事。
紅魔館が復活した事を祝したパーティが開かれ、そのパーティが終わって解散して博麗神社に帰った霊児は縁側で酒を飲みながら就寝した。
だと言うのに、何の因果か霊児は幻月と夢月の世界である夢幻世界に迷い込んでしまったのだ。
正確に言うと、夢幻世界に迷い込んだのは霊児の肉体ではなく霊児の精神体であるのだが。
兎も角、霊児は迷い込んだ夢幻世界で夢月を倒して幻月とも戦った。
但し、幻月との戦いの決着は着かなかったが。
幻月が出した話から、霊児は夢幻世界へ赴いた時の事を思い返している間に、

「で、霊児に圧倒的な実力差を見せられてボコボコにされた夢月ちゃんは悪魔としてのプライドをボロボロにされちゃったの。それで、霊児にリベンジしたいって
夢月ちゃんが言うから私が夢月ちゃんのレベルアップに付き合って上げたのよ。可愛い妹の頼み事だし、私も断れなくてね」

霊児にリベンジし様と夢月が考えた理由、自分が夢月のレベルアップに付き合った事を幻月は語る。
夢幻世界で夢月を倒した事と、語られた内容。
この二つの事項から、夢月が自分にリベンジを果たそうとして来た事に霊児は納得した。
納得した霊児の表情を見た幻月は、

「そう言う事。私はまだ早いって言ったんだけどねぇ……」

まだ霊児に挑むのは早いと言ったのにと言う台詞を零しながら再び体を夢月の方に向ける。
体を向けた先に居る夢月は落としていた肩を戻し、

「姉さんの言う通り、見積もりがかなり甘かったのは認めます。流石、姉さんが自分と同等だと認めた男ですね。博麗霊児は」

姉である幻月の言った通りである事を認めた。
が、これとそれとは話が別だと言わんばかりに夢月は霊児に指を突きつけ、

「……けど、博麗霊児!! お前は私が何時か必ず倒す!! 倒して見せる!!」

宣戦布告の様な感じで、何時か必ず倒すと言う言葉をぶつける。
ぶつけられた言葉から、夢月の襲撃が不定期に行なわれるのではと考えた霊児が面倒臭そうな表情を浮かべた時、

「あら、何だか賑やかねー」

何処からか、間延びした声が聞こえて来た。
また来訪者かと思いながら声が聞こえて来た方に顔を向けた霊児の目に、

「幽々子」

西行寺幽々子の姿が映る。
どうやら、声を掛けて来たのは幽々子であった様だ。
やって来た幽々子にも、他の面々と同じ様にここにやって来た理由を霊児が問おうとした刹那、

「西行寺幽々子……冥界の管理人ね」

今までの喧騒を無視するかの様にまったりとした雰囲気で茶を啜っていた神綺が口を開いた。
口にされた内容から察するに、神綺は幽々子の事を知っている様だ。
ともあれ、魔界の創造神に話し掛けられたからか、

「魔界の創造神である貴女に知って貰えているとは光栄ですわ」

幾らか丁寧な口調で幽々子はそう返す。
そして、

「あら、私の事をご存知?」
「ええ。貴女の事とそちらに居る夢幻世界の創造神、幻月は有名よ。私の友人も偶に口にしてるしね」
「私達の話をする貴女の友人ねぇ……」
「貴女の友人と言うと……あの妖怪かしら?」
「それは言わぬが華と言うものですわ」
「そう。華なら仕方無いわね」

神綺、幽々子、幻月の三人が何やら腹の探り合いを始め出した。
それぞれが魔界の創造神、冥界の管理人、夢幻世界の創造神と言う肩書きを持つ者同士。
色々と知りたい事でもあるのだろうか。
この三人が腹の探り合いをしていても霊児に取ってはどうでも良い事だが、霊児としては幽々子が博麗神社にまでやって来た理由をさっさと知りたいので、

「で、お前は何しに来たんだ?」

若干暗い笑みを浮かべ始めた三人割って入るかの様に、霊児は幽々子に改めてここにやって来た理由を尋ねる。
その瞬間、

「御免!!!!」

御免と言う言葉と共に霊児に抜き身の刀が迫って来た。
迫って来ているそれを、霊児は落ち着いた様子で左手の人差し指と親指で刀の刃先を掴んで刀を受け止め、

「行き成り何をするんだよ、妖夢」

斬り付けて来た人物、妖夢に声を掛ける。
霊児が声を掛けたのと同時に、

「やはり容易く防がれたか……」

防がれた事は想定内だと言う様な事を妖夢は零しながら刀、楼観剣を握っている手の力を緩めた。
楼観剣に籠められている力が弱まったのを感じた霊児が人差し指と親指の力を抜くと、妖夢は楼観剣を引き戻して霊児から距離を取る為に後ろへと跳ぶ。
後ろに跳び、霊児から離れた妖夢は地に足を着けて一息吐く。
比較的短い間隔で二度も不意打ちをされた事で何となくではあるものの、妖夢の考えは読めたのだが、

「で、行き成り何をするんだよ?」

念の為と言った感じで、霊児は妖夢に再度自分に斬り掛かって来た理由を尋ねる。
尋ねられた妖夢は体勢を立て直し、

「……前に貴方と戦い、貴方に完敗を喫してからずっと考えていました。どうすれば貴方の様に強くなれるのかと。これでも鍛錬は毎日続けているし、自分で
言うのもあれだけどちゃんと強くなっていると思っている。けれど、それでもまだまだ足りない。もっと強くならなければこの前の時の様に幽々子様の眼前に
まで敵を通し、幽々子様の身を危険に晒してしまう事になってしまう」

霊児と戦って負けた後、どうすれば幽々子の身を護れて霊児の様に強くなれるのかと言うのを考えていた事を霊児に伝えた。
伝えられた内容の中にあった幽々子の身の危険と言う部分。
そこに関しては幻想郷中から春度を奪うと言う異変を起こさなければ防げた事であるので、

「いや、この前の異変はお前等が春度を奪う何て事をしなければ幽々子の身に危険が及ぶ事はなかったんじゃないのか?」

霊児はその事に付いての指摘を行なう。
しかし、霊児が行なった指摘が聞こえなかったからか、

「考えに考えた結果、貴方の様な強さが得られて幽々子様を危険に曝さずに済ませられる答えが今日出ました」

まるで無視するかの様に、妖夢は更に言葉を紡いでいく。

「答え?」

紡がれた言葉の中に在った答えと言う単語に霊児が興味を覚えると、

「ええ。霊児を斬ろう言う答えが」

得た答えと言うものを妖夢は述べた。
述べられた答えが物騒なものであった為、

「一寸待て。何処を如何したらそんな結論に達した?」

つい、霊児は妖夢に突っ込みを入れてしまう。

「私の師匠が言ってました。斬れば解ると」

すると、妖夢は自分の師が言っていた事を口にした。
斬れば解る。
少なくとも、字面通りの意味だけでは無いと思った霊児は、

「……それ、実際に叩き斬って見ろって意味じゃないと思うぞ」

思った事をその儘妖夢に伝えた。

「兎に角!! 貴方を斬れれば私は貴方の強さの秘密を知る事が出来、この前の負けを取り返せると言う事です!!」

伝えられた事をちゃんと聞いたかは分からないが、妖夢は話を纏めるかの様に声高々にそう言い放つ。
そう言い放った妖夢の目は、揺ぎ無いものであった事で霊児は悟る。
自分を斬ると言う妖夢の決意と言うか目的を挫くのは不可能だと言う事を。
何故、今日に限ってこうも立て続けに戦線布告を受けなければならないのかと言う事を思いながら霊児が大きな溜息を一つ吐いたタイミングで、

「……ん?」

ふと、妖夢は誰かの視線を感じ取った。
感じ取った視線が気に掛かった妖夢は、視線が向けられている方に体を向ける。
体を向けた妖夢に目には、夢月の姿が映った。
妖夢と夢月。
今日初めて会う二人であったが、解り合えると言う事を直感的に理解した。
だからか、夢月と妖夢は目を合わせ、

「「………………………………………………………………」」

同時に足を動かして距離を詰め、

「よろしく」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

よろしくと言う言葉と共に二人は握手を交わす。
出会って早々に握手を交わした二人を見て、

「目的が同じ者同士、友情が芽生えた様ね」

同じ目的を持つ者同士であるからか、友情が芽生えたのだろうと幽々子は評した。
評された事から妖夢の目的を知った上で妖夢をここに連れて来たと言う事を霊児は理解し、

「幽々子……妖夢の目的を知った上であいつをここに連れて来たな」

厄介な事をしてくれた幽々子に文句の言葉をぶつけ様とする。
だが、

「あら、自分の従者が上を目指そうとしているんだもの。その手助けをして上げるのも主の勤めでしょ。あの子は目標が高ければ高い程やる気が増す
タイプだからね」

ぶつけ様とした言葉を無視するかの様に幽々子は軽い笑みを浮かべ、妖夢をここに連れて来た理由を霊児に教える。
要は、妖夢に改めて霊児の強さを教える為と言ったところか。
だからと言って、不意打ち気味に妖夢が斬り掛かる事を黙認した幽々子に霊児がジト目を向けると、

「大丈夫よ。妖夢が暴走しそうになったらちゃんと私が軌道修正させるから」

向けられた目を別の意味に解釈した幽々子は、妖夢の手綱は握って置くから暴走の心配は無いと言う。

「いや、俺が言いたい事はそうじゃねぇよ」

言われた事に霊児が反射的に突っ込みを入れた瞬間、

「分かった。同じ目的を持つ二人が良い具合刺激し合って、二人の成長スピードが上がるって言いたいんでしょ?」

二人のやり取りを見ていた幻月は、そんな事を口にし出した。
当然、幻月が口にした事も的外れであるので、

「それも違う」

霊児は否定の言葉を投げ掛けた。
あれも違うこれも違うと言う発言ばかりが霊児から出て来ているからか、

「じゃあ何よ?」

疑問気な表情を浮かべながら幻月は首を傾げてしまう。
本当に分からないのか、それとも分かっていて分からない振りをしているのか。
どちらかなのか分からないが、言わなければ話が進まないのは確実。
なので、霊児は一息吐き、

「何でこう、俺に厄介事を持って来るんだよって事だ」

伝えたかった事を幽々子と幻月に述べる。
すると、

「何言ってるのよ。そもそもの原因を作ったのは霊児でしょ。私達の世界で夢月ちゃんを倒したのは霊児だし……」
「冥界で妖夢を倒したのも霊児だしね」

そもそもの原因は霊児が作ったのだろうと言う台詞が幻月と幽々子から発せられ、霊児はつい押し黙ってしまう。
二人の言う通り夢月と妖夢を倒したのは霊児であるし、夢月と妖夢の二人に強いリベンジ心を抱かせたのもまた霊児だ。
何せ、霊児は夢月と妖夢の二人を圧倒した上で勝った。
こう言う場合、負けた者は折れるかリベンジを誓うのが定石。
最後まで戦う道を選んだ二人が、後者を選ぶ事は自明の理。
少しでも頭を捻らせば分かったであろう事に気付けなかったと言う事実に、自分の事ながら霊児が呆れた感情を抱いている間に、

「大体、この前の忘年会と新年会を複合させた宴会で夢月ちゃんがプライドをボロボロに……って事を霊児に言ったからこの程度の事は考え付くと思ってたんだけど……」

夢月が霊児にリベンジする事を予想出来なかった事に、幻月は意外と言った表情を霊児に向ける。
忘年会と新年会を複合させた宴会と言う部分から、霊児はその時の事を思い返し、

「……そういや、あの時はお前と神綺が強い酒をばら撒いてたよな。お陰であの時は酔っ払い共の相手が大変だったんだがな」

つい、文句があると言わんばかりの視線を神綺と幻月の二人に向けてしまった。
向けられた視線の先に居る神綺と幻月の二人は、霊児から顔を逸らす。
霊児から向けられた視線を必死に見まいとしている二人を見ながら、

「多分、これからも妖夢が貴方に勝負を挑む為にここに何度も足を運ぶ事になるだろうから……宜しくして上げてね。代わりに、炊事や掃除と
言った感じであの子をこき使っても良いわよ」

幽々子は唐突に、そんな事を言い出した。
まるで妖夢が不定期に霊児に戦いを挑む事は決定事項の様な事を言った幽々子に、霊児が文句の言葉をぶつけ様としたが、

「あ、夢月ちゃんも霊児と戦いにと言った風にこっちに来る事がそれなりにあると思うの。その時は夢月ちゃんと戦って上げてね。あ、勿論戦ってくれたら
夢月ちゃんに料理作らせたり掃除させたりと言った事をさせても良いわよ。あの子、家事全般は大体出来るから」

ぶつける前に、幻月からも幽々子と似た様な事が言い出されてしまう。
揃いも揃って人を自分の従者や妹の修行相手に使う気だなと言う事を思いつつ、霊児は比べていく。
あの二人の相手をするだけで料理やら掃除をしてくれると言う利点、まったりしている最中に戦いを挑まれる可能性と言う欠点を。
利点と欠点。
それら二つを量りを掛け、どちらに傾くかと言う事を霊児が頭の中で思い描いている間に、

「あら、可愛い女の子が貴方に会う為に来てくれるのよ。男冥利に尽きるじゃない」

何処からか、そんな声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した霊児は利点と欠点のどちらを取るかの答えを出すのを一時中断し、声が発せられたであろう場所に顔を向け、

「……今度はお前か、紫」

面倒臭そうな表情になりながら隙間から上半身を出している紫にそう声を掛ける。

「はーい」

声を掛けられた紫はそれに応えるかの様に手をひらひら振ると、

「あら、紫じゃない。いらっしゃい」

幽々子が紫の来訪を出迎える言葉を口にした。
家主である自分を差し置き、まるで自分の家の様な態度で紫に出迎えの言葉を掛けた幽々子に、

「おい、ここは俺の神社だぞ」

ここは自分の神社だと言う突っ込みを霊児が入れた瞬間、

「へぇ……あの八雲紫と知り合いだったとはね……」

霊児と紫が知り合いである事に神綺は少し驚きつつ、紫の方に顔を向ける。
神綺に見られている事に気付いた紫は、隙間から体を出して地に足を着け、

「あら、魔界の創造神である貴女に私の名を知って貰えているとは光栄ですわ」

神綺の方に顔を向けながら自分の名を知って貰えて光栄だと言う。

「貴女、自分の名が私に知られている事を承知でそんな事を言ってるでしょ」

そう言われた神綺がその様に返したタイミングで、

「ああ、そう言えば私の自己紹介は必要かしら?」

神綺と紫の会話に割り込む様な形で、幻月は紫に自己紹介は必要かと問う。

「いいえ、貴女の事も存じておりますわ。夢幻世界の創造神」

問われた紫が自己紹介は不要だと答える。
紫からの返答を受けた幻月は、

「やっぱり私の事も知ってたか。話を戻すけど、貴女自身もかなり有名な存在よ。貴女の能力……"境界を操る程度の能力"は世界を組み変える事も
崩壊させる事も創造する事も可能……と言われているからね」

紫が自分の事を知っているのは想定内である事を漏らしつつ、能力が能力故に紫も有名だと言う指摘を行なう。

「あら、それは誇大解釈と言うものですわ。創造神でもない只の妖怪に過ぎない私に世界をどうこうする力何てありませんもの」

行なわれた指摘に対し、紫は誇大解釈だと返したが、

「ふふ、その発言自体がブラフ……とも考えられるわよ。と言うか、貴女の様な妖怪を只の妖怪と称するのは無理があるでしょ」

誇大解釈だと言う発言そのものが自分達にそう言った事が出来ないと思わせる為のブラフだと言う可能性を神綺は示唆する。
そして、何時の間にやら幻月、紫、神綺の三人が何やら腹の探り合いを始め、

「「「ふふふふふ…………」」」

三人揃って黒い笑みを浮かべ始めた。
そんな三人の気配に中てられたからか、サラは体を縮め込ませながら霊児の背中に再び隠れしまう。
自身の背中にまた隠れたサラに霊児は気付いたものの、それを無視しながらある事を思っていた。
何で今日に限って一癖も二癖も三癖もある者が行き成りここに集まり、厄介事を持ち込んで来たのかと。
だからか、今日は厄日だと言う結論を霊児が下そうとした時、

「霊児ー!!」

空中の方から、自身の名を呼ぶ声が霊児の耳に入って来た。
入って来た声に反応した霊児は、空中へと目を向ける。
空中へと目を向けた霊児の目に、

「魔理沙にアリスににとりか」

魔理沙、アリス、にとりの三人の姿が映った。
同時に、その三人が霊児の近くに降り立ち、

「よっ」
「こんにちは」
「やっほー」

三者三様と言った感じで三人は霊児に挨拶の言葉を掛ける。

「よう」

挨拶されたと言う事で霊児も挨拶をし、

「それで、お前等は何の用だ?」

本日何度目かになる、ここに来た理由を三人に問う。

「私は霊児のお昼ご飯を作りにだぜ。私が作らないと、霊児は適当に切った野菜をぶち込んだ鍋料理ばかりを食べるからな」

問われた事に対して、先ず最初に魔理沙が博麗神社にやって来た理由を話す。
どうやら、魔理沙は霊児の昼食を作りに来た様だ。
これで昼は楽が出来ると言う事を霊児は思いつつ、

「アリスは?」

アリスの方に顔を向ける。
すると、

「私は貴方に用が在ると言うよりはここに来ている方に用が在るんだけど……」

アリスは霊児に用が在ると言うより博麗神社に来ている者に用が在ると言い、神綺の方に視線を移す。
アリスからの視線に気付いた神綺はお気楽そうな表情になり、

「あら、アリスちゃんじゃない。奇遇ね」

奇遇だと言いながらアリスに向けて手を振る。
そんな神綺を見ながら、

「奇遇ねって……神綺様が私をここに来る様に仕向けたんじゃないですか」

自分がここに来たのは偶然ではなく神綺に仕向けられたからだと言う事をアリスは若干呆れた顔で語る。

「あら、分かっちゃった?」

アリスをここに来る様に仕向けた事を見抜かれたからか、神綺は些か驚いてしまう。
驚いている神綺の反応を見て、

「分かっちゃったって……さっき神力と魔力を開放された時、神力と魔力を私が必ず感じ取れる様に私の方に飛ばして来ましたよね」

分かる様に自分に向けて神力と魔力を飛ばして来た癖にとアリスは言い、

「何でそんな事をしたんですか?」

何故、その様な真似をしたのかと聞く。
神綺がアリスに自分が幻想郷に来た事を知らせたいのなら、もっと別の方法が在るだろう。
例えばテレパシーを送る、使い魔を送る。手紙を送る等々。
だと言うのに、神綺は神力と魔力をアリスに飛ばすと言う方法を取った。
その事が、アリスの中で少々引っ掛かっているのだ。
しかし、そんなアリスの引っ掛かりを無視するかの様に、

「だってー、折角こっちに来たんだからアリスちゃんに会いたかったんだもん」

幻想郷に来たのだからアリスに会いたかったのだと言う目的の様なもの神綺は口にする。
口にされた発言を受け、

「もんって……こう言っては何ですが、自分から会いに行くって言う選択肢は無かったんですか?」

何処か呆れた様な表情を浮かべながら会いに来させるではなく、会いに来ると言う選択肢は無かったのかと言う疑問をアリスが抱いたのと同時に、

「アリスちゃんに会いに来て欲しかったんだもん」

会いに来て欲しかったのだと言う自身の願望を神綺はアリスに伝えた。
伝えられた内容を確りと頭に入れたアリスは、

「……はぁ」

大きな溜息を一つ吐く。
兎も角、アリスがここに来た理由を知れた後、

「で、にとりは?」

霊児はにとりにもここ、博麗神社にやって来た理由を尋ねる。

「私は水遣り機のメンテナンスに来たんだけど……」

尋ねられたにとりは博麗神社にやって来た理由を霊児に教え、

「何か、知らない人が増えてるね」

一通り周囲を見渡しながら知らない者が増えている事を呟く。
呟かれた内容から、今この中でにとりが知らない人物と言えばサラに紫に幽々子に妖夢かなと霊児は考える。
ともあれ、別段今考えた四人の事を隠して置く必要性も無いので、

「ああ、こいつ等は……」

簡単にではあるが、霊児は今考えた四人の事をにとりに説明していく。
サラ、紫、幽々子、妖夢の四人に付いてある程度知る事が出来たにとりは何処か遠い目をしつつ、

「……この神社って相変わらず普通の人間が来たりはしないね」

相変わらず博麗神社に普通の人間が来ないと言う感想を零す。

「ほっとけ」

零された感想に霊児はほっとけと返すだけで、他に何かを言う事はしなかった。
博麗神社へと続く道は、はっきり行って危険だ。
普通の人間では博麗神社に辿り着く前に道中に居る妖怪に食い殺されるのは確実。
序に言えば、霊児は人里の人間に博麗神社に来ない様に言い含めている。
これで博麗神社に普通の人間が来る事を望むと言うのは酷と言うものだろう。
一通り話が纏まったのを感じた魔理沙は霊児の方に顔を向け、

「で、お昼ご飯のリクエストは何か在るか?」

お昼ご飯のリクエストは在るかと聞く。
霊児としては腹が膨れればどうでも良いと言う感じであったからか、

「んー……魔理沙に任せる」

魔理沙に任せる事を霊児は決め、その事を魔理沙に伝える。

「了解したぜ」

伝えられた内容を受けた魔理沙は了解したと言う言葉と共に、何を作るかを考えていく。
取り敢えず、霊児の好きな物でも作ろうと思いながら博麗神社の台所に魔理沙が向かおうとした時、

「あ、それなら私の分も作って貰おうかしら?」

幽々子から自分の分も作って欲しいと言う要望をが発せられた。
それに続くかの様に、至る所から自分の分も作れと言う声が上がり始める。
今ここに居る人数は十一。
とてもじゃないが自分一人で作り切れる量ではない為、

「うおーい、私一人でこの人数分の料理を作れってか。おまけに約一名、とんでもなく食う奴が居るし」

突っ込みの言葉と、とんでもなく食う奴が居ると言う言葉と共に魔理沙は幽々子の方に顔を向ける。
顔を向けられた幽々子は、

「失礼しちゃうわ。人を大食感みたいに」

心外だと言わんばかりの表情になった。
そんな幽々子を見て、

「おい、お前の主はあんな事を言ってるぞ」

霊児が妖夢にその様な言葉を投げ掛けると、

「……黙秘します」

黙秘すると言う言葉と共に妖夢は幽々子から顔を逸らす。
フォローする気を妖夢が全く見せなかったからか、

「妖夢ー」

何か言いた気な視線を幽々子は妖夢に向ける。
幽々子から視線を向けられ、幾らか狼狽え始めた妖夢を余所に、

「……確かに、この人数分の料理を一人で作れと言うのはあれね」

今居る人数分の料理を魔理沙一人で作るのは紫も無理と言う判断を下し、自身の近くに隙間を開く。
開かれた隙間からは藍が現れ、

「紫様、何か御用ですか?」

紫の目の前で跪き、用件を尋ねる。

「魔理沙と協力してここに居る全員が食べれる量の料理を作りなさい」
「御意」

尋ねられた紫が端的に用件を述べると、藍は御意と一言だけ言う。
紫が藍に料理を作る魔理沙の手伝いをする様に言ったのを聞き、

「妖夢、貴女も手伝いなさい」
「夢月ちゃんもお願いね」

幽々子と幻月が妖夢と夢月に料理を作る手伝いをする様に指示を出す。

「分かりました」
「分かったわ、姉さん」

指示を出された二人が了承の返事をしたタイミングで、

「アリスちゃんが作る料理、久々に食べたいわー」

唐突に、神綺からアリスの作る料理を食べたいと言う言葉が発せられた。
この儘駄々を捏ね続けられたり、癇癪を起こされたりするのはあれだからか、

「……分かりました、私も手伝います」

何処か諦めたと言う様な表情を浮かべながらアリスは自分も料理を手伝う事を決める。
魔理沙、妖夢、夢月、アリス、そして新たに現れた藍も含めた面々が昼食を作るのを決めていったのを見て、

「あ、それなら私も」

自分の料理を作るのを手伝うと言う主張をサラは行ない、少し慌てた動作で魔理沙達の方を駆け寄って行く。
慌てた動作で駆け寄って行ったのは、この場に残りたくないからであろうか。
もし、サラが料理を作るのを手伝わなかった場合。
創造神二人、創造神と対等に渡り合う戦闘能力を持っている人間、冥界の管理人、創造神が一目置く妖怪、河童。
河童は兎も角として、この者達の中に取り残されるのはサラとしては勘弁したいのだろう。
ともあれ、結構な人数で料理を作る事になった為、

「まぁ、これだけ居ればこの人数分の料理を早い時間で作れる事は可能だな」

安心したかの様な表情に魔理沙はなり、

「にとりはどうする」

にとりはどうするのかを尋ねる。

「私は水遣り機のメンテナンスで来たから料理の手伝いは出来そうにないかな」

尋ねられたにとりは水遣り機のメンテナンスがあるので料理の手伝いをする事は出来そうに無い事を魔理沙に伝えた。

「そうか、分かったぜ」

にとりからの返事を聞いた魔理沙は分かったと言う言葉と共に博麗神社の食料庫に向う。
魔理沙に後に続く様にして藍、妖夢、夢月、アリス、サラの料理を作る組、そしてもにとりもそれぞれの持ち場へと向かって行った。
移動して行った者達が見えなくなった後、

「思ったんだが……何でお前等、家主俺の了承無しに勝手に色々と決めてるんだ?」

当然とも言える様な疑問を、霊児は零す。
だが、霊児の零した発言に反応する者は居なかった。
と言うより、神綺、幻月、幽々子、紫の四人は何かを探る様に視線を交し合わせる事に集中していて霊児が零した事など聞こえていない様だ。
だからか、

「……はぁ」

今日は本当に厄日だと言う想いを籠めた溜息を霊児は一つ吐いた。























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