ある晴れた日の香霖堂。
その香霖堂の店内で、

「ここ最近、何故か俺の神社に厄介や奴等ばかり集まって来てな。と言う訳でここに避難して来た」

霊児は店主である霖之助にそんな事を言う。
言われた事を理解した霖之助は、

「いや、それでここに避難して来られても困るんだけどな……」

何とも言えない表情を浮かべた。
そんな表情を浮かべた霖之助を見て、

「大丈夫だ。もしもの時は俺だけ逃げるから」

極めて無責任な発言を霊児は発する。
取り敢えず、霖之助は発せられた発言を頭に入れ、

「……君が逃げる事になると言う事は、ここに君の言う厄介な奴等がやって来ると言う事になるんだよね? そうなったらこの店は……」

霊児の言う厄介な者がここ、香霖堂にやって来た場合を想定していると、

「吹っ飛ぶだろうな、結構な確率で。ああ、吹っ飛ぶと言うのは文字通りの意味でだぞ」

霊児からそうなった場合に起こり得る可能性が述べられた。

「勘弁してくれ……」

述べられた事を受け、肩を落としながら力無い声色で霖之助は勘弁してくれと零す。
今見せた霖之助の反応から、自分が避難の為だけに香霖堂にやって来たと思われていると霊児は感じ、

「安心しろ。避難以外にもここに来た理由は在るから」

霖之助を安心させるかの様に避難以外にもここにやって来た目的は在ると言って、ある物をカウンターの上に置く。
カウンターの上に置かれた物は、霊児が何時も使っている短剣。
それも、五本。
置かれた計五本の短剣を見た霖之助はまた破損したのではと言う嫌な予感を頭に過ぎらせつつ、五本の短剣を観察し始める。
少しの間観察した結果、

「……見た感じ破損した様子は見られないが、どうかしたのかい?」

どの短剣にも破損した痕跡は無いと言う結論を霖之助は下し、何故自分に短剣を見せたのかと言う事を問う。
問われた霊児は一息吐き、

「一応俺も手入れはしているが、少し汚れが目立って来たんだ。だから、香霖に手入れをして貰おうと思ってな」

破損している訳でも無い短剣を持って来た理由を霖之助に伝える。
少し汚れが目立って来たと言う部分に引っ掛かりを覚えた霖之助は、改めと言った感じの一本の短剣を観察していき、

「……成程、確かに少し汚れがある様だね」

少し汚れがあるのを認めつつ、何処か安心したかの様な表情を浮かべた。
何故ならば、こうやって確認するまではまた短剣が破損したのではと言う懸念が存在していたからだ。
何せ、霊児の使っている短剣は緋々色金と樹齢数万年の木で出来ている。
樹齢数万年の木は兎も角、緋々色金は非常に貴重な金属。
そんな貴重な金属を使い、霖之助は霊児の持つ短剣を十本も作ったのだ。
しかも、霖之助のコレクション用の緋々色金で。
余談ではあるが、霊児の短剣は過去に三回も破壊されている。
そして、破壊された短剣は全て霖之助の手によって修復された。
勿論、修復には霖之助のコレクション用の緋々色金を用いて。
もし、これでまた霊児の短剣が破損したと言う事になっていたら。
只でさえ少ないコレクション用の緋々色金がまた消費される事になったであろう。
故に、霖之助は安心したかの様な表情を浮かべたのだ。
それはさて置き、緋々色金の消費を抑えたいのなら破損した短剣の修復依頼が来たとしても断れば良いと思うかもしれない。
だが、断ると言う選択肢は霖之助の中には無かった。
その理由は、付き合いの長さに在る。
魔理沙もそうだが、霊児も含めて二人が幼少期の頃からの付き合いが霖之助には存在しているのだ。
だからか、霖之助はこの二人の頼み事だけはついつい叶え様としてしまうのである。

「…………………………………………………………」

我ながら甘い事だなと思いつつ、短剣の破損じゃなくて良かったと言う事を霖之助がもう一度思っていると、

「どれ位掛かりそうだ?」

どれ位掛かりそうだと言う問いが霊児から投げ掛けられた。
投げ掛けられた問い反応した霖之助は意識を戻し、

「そうだね……徹底的にやろうと思うから二、三日位かな」

短剣を綺麗にするには二、三日は掛かると言う事を霊児に伝える。
直ぐに短剣の汚れが落ちるとは霊児も思って無かったので、

「分かった。それで頼む」

文句の言葉を一つも無く霊児は頼むと言い、ポケットの中から予め入れて置いたお金を取り出し、

「これで足りるか?」

取り出したお金をカウンターの上に置き、これで足りるかと聞く。
聞かれた霖之助は置かれたお金の額を確認し、

「……うん、十分足りるよ」

十分足りると言う言葉と共にお金をカウンターの下に仕舞い、五本の短剣をカウンターの端に追い遣る。
追い遣られた短剣を見て、

「何だ、今からやるんじゃないのか?」

少し意外と言った様な表情を浮かべながら霊児は今からやるんじゃないのかと零す。
零された発言が耳に入った霖之助は霊児の方に顔を向け、

「まだ営業時間だよ」

まだ営業時間だと言う事を教える。
すると、

「営業時間って……在って無い様なものだろ」

営業時間は在って無い様なものだと言う発言が霊児から発せられた為、

「失礼な」

不満気な表情を霖之助は浮かべてしまう。
が、

「実際のところ、ここの客入りはどうなってるんだ? 弾幕ごっこが出来たばかりの時期を除いて」
「………………………………………………………………」

弾幕ごっこが出来たばかりの時期以外の客入りの話題を出されてしまったからか、霖之助は押し黙ってしまった。
やはりと言うべきか、普段の香霖堂は閑古鳥が鳴いていると言って良い状態である様だ。
ともあれ、出された話題のせいか場の空気が微妙なものになっていく。
そんな微妙になった空気を払拭するかの様に、

「………………どうだい、他の商品を見ていかないかい?」

他の商品を見ていかないかいと言う提案を霖之助は行なった。
行なわれた提案から、弾幕ごっこが生まれた影響で画用紙が飛ぶ様に売れていた時期がピークだったのかと思いながら霊児は店内を見渡していく。
見渡し始めてから少し経った辺りで、

「……ん?」

霊児はある物を見付けた。
見付けた物と言うのは、色が付いた正方形の紙が透明な袋に何枚も入った物。
何だろうと思った霊児はカウンターから離れてそれを手に取り、

「香霖、これは何だ?」

霖之助にこれは何かと言う説明を求める。
説明を求められた霖之助は気を取り直したかの様に中指で眼鏡を押し上げ、

「ああ、それは折り紙。外の世界の折り紙だよ」

今、霊児が手に取った物は外の世界の折り紙である事を教えた。

「へぇ……外の世界の折り紙ねぇ……」

外の世界の折り紙と言う物に幾らかの興味を抱いた霊児は、手に取っている折り紙を観察していく。
観察していく中で、霊児は今手に取っている折り紙が入っている袋が未開封である事が分かった。
どうやら、外の世界の折り紙が何枚かで一セットとなっている様だ。
何となくではあるが霊児の考えている事を察した霖之助は、

「それ以外にも、もっと枚数が在るので一セットと言う物も在るよ」

補足として、もっと枚数が在るので一セットと言う物が在る事を霊児に教える。

「へぇ……」

教えられた事を受けて霊児は外の世界では折り紙が流行っているのかと思いつつ、別の折り紙が入った袋を探していく。
探し始めてから大した時間を置く事無く、霊児は数十枚や百枚と言った数の折り紙が入った袋を発見した。
と言っても、発見したのは只単に枚数が多い折り紙だけではない。
色ではなく何かしらの模様が描かれているもの、何かしらのキャラクターの絵が描かれてものと言った折り紙も発見したのだ。
単純に色を付けた折り紙以外にも、こういった折り紙も存在している事を知った霊児が少し驚いている間に、

「あ、そうだ。折り紙で折れる物が多数描かれている指南書の様な物が在るのだけど、見てみるかい?」

折り紙の折り方が描かれた指南書が在るので見てみるかと言う提案を霖之助は出す。
色々な種類の折り紙を見た事で、折り紙に幾らかの興味を抱いたからか、

「ああ、見てみる」

霖之助から出された提案を霊児は受け入れ、手に取った物を商品棚に戻してカウンターに近付いてカウンターの上に腰を落ち着かせる。
そのタイミングで、

「これだよ」

霖之助は折り紙で折れる物が描かれている書物を霊児に手渡す。

「どれどれ……」

手渡された書物を受け取った霊児は、早速と言わんばかりに書物を読み進めていった。
読み進めていく中で折れる物の数の多さに幾らか驚きつつも、次々とページを捲っていく。
そして、ページを捲る回数が数十回を超えた時、

「紙……飛行機?」

聞き慣れない単語を霊児は発見した。
紙と言う部分は分かるし見覚えも在るが、飛行機と言う単語は分からないし見覚えも無い。
だからか、

「なぁ、香霖。紙は分かるが飛行機って何だ?」

取り敢えず、色々と知っていそうな霖之助に飛行機と言う単語は何かと尋ねる事にした。
尋ねられた霖之助は霊児の方に顔を向け、

「幾つかの外の書物を見る限りだと、飛行機と言うのは大勢の人や荷物を運ぶ巨大な鉄の鳥と言った様な物らしいね」

外の世界の書物から得た知識を踏まえ、推論混じりで飛行機がどう言ったものであるのかの説明を行なう。
行なわれた説明を受け、霊児は巨大な鉄の鳥を想像してみたが、

「人や物を運ぶ巨大な鉄の塊ねぇ……」

今一つ想像出来なかった為、霊児は想像していた事を頭の隅に追い遣り、

「まぁ、俺には必要無さそうな物だな」

自分に飛行機と言う物は必要無いと言う判断を下す。

「そりゃ、君の様に空を自由自在に飛べる存在には不要な物だろうね」

下さられた判断には霖之助も異論は無いからか、その様に返した。
それを合図にしたかの様に、

「まぁ、荷物を大量に運べると言うのは便利そうだけどな。あ、でも俺には二重結界式移動術が在るからやっぱ要らないか」
「二重結界式移動術……確か、二重結界を応用した移動術だったかな?」
「ああ、そうだ」
「二重結界も博麗の秘術になるんだが……それの応用技を息をするが如くに扱える君は、やはりとんでもない存在何だろうね」
「そうか?」
「そうだよ。歴代の博麗の巫女だって、秘術を気軽に使えるって訳でも無かったし。ま、歴代最強の博麗と言う異名は嘘偽り無いものだと言う事だね」
「ふーん。それよか、飛行機って言うのを香霖は欲しいのか?」
「そうだね……大量に物を運べると言うのは魅力的かな。無縁塚から幻想入りして来たものを持って帰るのにも、僕一人じゃあ持って帰れる量に限界が
在るし」
「ああ、ここに在る商品の殆どは無縁塚で手に入れた物だっけか」
「うん、そうなるね。序に言うと僕は半妖で妖怪には襲われ難いが、それでも全く妖怪に襲われないと言う事は無い。妖怪に襲われた時の事を
考えたら持って帰れる量は更に減ってしまうよ」
「戦うにしても逃げるにしても、多過ぎる荷物は邪魔になるしな」
「そう言う事。君位の力が有れば、荷物が幾ら在っても関係無いんだろうけどね」
「香霖は半妖だから、鍛えればそこ等の野良妖怪程度は楽に倒せる位の強さは楽に手に入るだろ。鍛えたり、修行したりはしないのか?」
「生憎、僕は荒事は苦手でね。今まで通りやっていくさ」

霊児と霖之助は雑談を交わし始める。
雑談を交わしている最中でも霊児が書物から目を離さなかったからか、

「その指南書……と言うかその書物、気に入ったのかい?」

気に入ったのかと言う問いが霖之助から霊児に投げ掛けられた。
投げ掛けられた問いに答えるかの様に、

「少しな」

少し気に入った事を霊児は認める。
そんな霊児の反応を見て、

「……なら、買って行くかい?」

霖之助は買って行くかと聞く。
別段財布の中が寒いと言う訳でも無いし、この書物を買ったとしても今後の生活に支障が出る事は無いので、

「……そうだな、この書物と幾つかの折り紙を買うか」

今読んでいる書物と幾つかの折り紙を買う事を決め、財布を取り出す為のポケットを手を突っ込むと、

「毎度。しかし意外だな」

少し意外だと言う言葉が霖之助から零された。

「何がだ?」
「いや、何。君がこう言った物に興味を抱くとは思わなくてね」

零された発言が気に掛かった霊児が霖之助の方に顔を向けると、霖之助は零した言葉の意味を述べる。

「そうか?」

述べられた事を受けて霊児は疑問気な表情を浮べつつ財布を取り出し、財布からお金を取り出してカウンターの上に置き、

「あ、そうそう。袋をくれないか?」

思い出したかの様に袋を要求した。

「別に構わないよ」

要求された事に霖之助は構わないと返しながらカウンターの下から紙袋を取り出し、

「しかし、珍しいね。君が袋の類を要求するなんて」

袋を要求して来た霊児を珍しいと称しながら取り出した紙袋を手渡す。

「普段なら荷物になりそうな物は二重結界式移動術で俺の部屋に送ってるんだが、送り先の目印になる短剣は俺の部屋に無いからな」

手渡された紙袋を受け取りながら、袋を要求した理由を霊児は説明する。

「部屋に無いって事は……短剣を全部持って来たのかい?」

部屋に短剣が無いと言う説明から、霖之助は全ての短剣を持って来たのかと推察した瞬間、

「ああ」

肯定の返事と共に霊児は財布を仕舞って羽織の裾を上げ、左腰に装備している一本の短剣と背中に装備している四本の短剣を霖之助に見せた。
霊児が装備している五本の短剣、そしてカウンターの隅に置かれている五本の短剣。
以上十本が霊児の持つ短剣の全てだ。
目で見た事から霊児が短剣を全て持って来た事を知った霖之助は、

「一本位は置いて来ても良かったんじゃないか?」

短剣を一本位置いて来ても良かったのではと考える。
霊児程の実力者ならば、短剣が一本欠けた程度でどうにかなる事が無いからだ。
少なくとも、幻想郷の者では。
ともあれ、そう考えている霖之助に、

「そう言われたらそれまで何だが普段から五本の短剣を装備しているからか、一本でも多かったり少なかったりすると違和感が在ってな」

何時も通り五本の短剣を装備して来た理由を述べながら折り紙の事が書かれた書物を紙袋の中に入れて、カウンターから降りる。
カウンターから降りた霊児は折り紙が入った袋が在る商品棚に向かい、目的の場所に着くと折り紙が入った袋を紙袋に入れていき、

「一応、食料庫の方にも二重結界式移動術の術式を刻んではいるが……食料庫に送ると言うのもどうかと思うしな」

態々袋を要求したもう一つの理由を霖之助に伝えた。

「ふむ……その言い分だと畑で採れた野菜を直接食料庫に送っているのか。羨ましい術だね」
「送った野菜の位置が悪かったら位置を並び替えたりする作業がある時が在るから、完全に手間が省けた訳でも無いんだけどな」

伝えられた事から採れたものを直接食料庫に送れる事に羨む発言を霖之助を漏らした為、霊児は完全に手間が省けた訳では無い事を返す。
そのタイミングで霊児は紙袋に物を入れるのを止め、

「それじゃ二、三日後にまた来るな」

二、三日後にまた来る事を言って出口に向けて足を進めて行く。

「うん、分かったよ。それと、次に来る時も何かを買ってくれると嬉しいかな」
「欲しい物が在ったらな」

霖之助の次来た時も何か買って欲しいと言う台詞に、霊児は欲しい物が在ったらなと返して香霖堂を後にした。






















香霖堂を後にした霊児は、歩きながら博麗神社を目指していた。
何故、空を飛んで帰らなかったのか。
答えは簡単。
何となく歩いて帰りたい気分であったからだ。
その内飽きて空を飛んで帰る事になるのか、それとも二重結界式移動術を使って食料庫に跳ぶ事になるのか。
そんなどうでも良い事を考えながら歩いてる霊児の耳に、

「こんな所で会う何て……何だったっけ?」

聞き覚えが在る様な言い回しが入って来た。
入って来た声が気に掛かった霊児は足を止め、声が発せられたであろう方に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目には、

「チルノか」

チルノの姿が映った。
香霖堂から博麗神社までの道のりで会うのは珍しいなと霊児は思いつつ、

「何か用か?」

チルノに何か用かと尋ねる。
尋ねられたチルノは思わず目を点にし、

「えーと……何だっけ?」

何だっけと言いながら首を傾げてしまった。
目的を忘れてしまっているチルノを霊児が呆れた視線を向け、それから幾らか経った辺りで、

「……あ、思い出した!! あんたに弾幕ごっこを挑みに来たのよ!!」

当初の目的のチルノは思い出し、霊児に指を突き付け、

「新しいスペルカードも出来たし、今日と言う今日はあたいの最強っ振りを見せ付けてやる!! 序に、あんたが持っているその荷物も貰ってやるわ!!」

宣戦布告の言葉を言い放つ。
どうやら、チルノの目的は霊児へのリベンジの様だ。
突然とも言えるリベンジ発言を受けても、霊児は大して驚く事無く、

「別に構わないが……良いのか? 今は夏に近い春だから冬の時の様な力は出せない思うぞ」

普段通りの態度で今は夏に近い春なので冬の時の様な力を出す事は出来ないだろうと言う指摘を行なう。
チルノは氷の妖精である為か冬、と言うよりも寒い季節や時期が最も強い力を発揮する事が出来る。
そして、今の季節は夏に近い春。
これでは、チルノが力を十全に発揮出来ないと思っても仕方が無いだろう。
だが、

「ふふん。そんな……えっと…………挑発には乗らないぞ!!」

霊児の指摘をチルノは挑発と捉えた様だ。

「挑発……まぁ、挑発でも間違ってないか。どっちかと言うと、俺の発言をブラフだと疑うべきだと思うけどな……」

挑発でも間違ってはいないと言う事を零しつつ、先ずは自分の発言がブラフだと疑うべきではと霊児が思った瞬間、

「煩い煩ーい!! 来ないのなら、こっちからいくよ!!」

煩いと言う言葉と共にチルノは氷の弾幕を霊児目掛けて放ち始めた。
放たれた氷の弾幕が紙袋に当たらない様に少し気を付けながら、霊児は回避行動を取る。
霊児が氷の弾幕を避けている間に、チルノは己が手から氷で出来た剣を生み出し、

「たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

氷の弾幕を放つのを止めながら霊児に肉迫し、生み出した氷の剣を振り下ろす。
振り下ろされた氷の剣を霊児は体を逸らす事で避けたが、それを合図にしたかの様にチルノは氷の剣を連続で振るい始めた。
次から次へと振るわれる氷の剣を避けていく中で、

「へぇー……お前ってそんな事も出来たんだな」

少し驚いた言った表情を浮かべながら霊児は氷の剣に視線を向ける。
霊児からの発言を受け、機嫌を良くしたチルノは得意気な表情になり、

「ふふん!! 最強のあたいは日々進化しているのよ!!」

自分は日々進化している事を語りながら氷の剣を振るう速度を上げていく。
しかし、幾ら速度を上げても氷の剣が霊児の体に当たる事はなかった。
だからか、

「むきー!! 当たりなさいよ!!」

攻撃を避け続けている霊児にチルノは文句の言葉をぶつける。
ぶつけられた言葉に対し、

「何で態々攻撃を受けてやらないといけないんだよ」

当たり前の様な意見を返しながら霊児は腕を伸ばし、チルノの額にデコピンを放つ。
放たれたデコピンは当然の様にチルノの額に当たり、

「きゃう!!」

デコピンを受けた衝撃でチルノは氷の剣を手から離してしてまう。
チルノの手から離れた氷の剣は地面も落ち、氷の剣は砕け散ってしまった。
同時に、チルノは額を押さえながら後退する。
ある程度霊児から距離が取れた辺りでチルノは後退するのを止め、霊児を睨み付けた。
デコピンが痛かったからか、チルノは若干涙目になっている。
が、戦意は少しも衰えていなかった様で、

「これでも喰らえー!!」

元気な声と共にチルノは両手を突き出し、突き出した両手から氷柱を生み出しながら射出した。
無論、射出された氷柱の狙いは霊児だ。

「……それなりに量も密度もあるな」

迫り来る氷柱を見ながら霊児はそんな感想を抱きつつ、跳躍する事で迫って来た氷柱を避けていく。
霊児が居た場所を全ての氷柱が通過した時、霊児の頭上目掛けて大きな氷の塊が飛んで来た為、

「……っと」

飛んで来た氷の塊を拳で砕く。
氷の塊を砕き、地に足を着けた瞬間、

「たああああああああああああああああああああああああ!!!!」

氷の塊の影に隠れる様にして霊児に近付いて来ていたチルノが、霊児に向けて氷の剣を振り下ろした。

「……っと」

囮を使っての攻撃をして来ると思わなかった霊児は少し驚くも、後ろに下がって氷の剣の斬撃を避け、

「今日は随分と調子が良いじゃないか」

随分と調子が良いと言う発言をチルノに掛ける。
掛けた発言の通り、今日のチルノは調子が良い。
元々チルノは妖精の中では飛び抜けた実力を持ってはいるが、それを踏まえてもチルノの調子は良いと霊児は感じているのだ。
ともあれ、調子が良いと言う言葉を掛けられたチルノは胸を張り、

「当然!! あたいは何時だって絶好調よ!!」

何時だって自分は絶好調だと述べ、

「だから!! 今日こそあんたの最後よ!!」

今日こそ霊児の最後だと言い放つ、再び無数の氷の弾幕を放ち始めた。
再び放たれた氷の弾幕を避けながら、今のチルノは冬の時と大差無いと言う確信を霊児は得る。
妖精と言う種族は日によって力を左右される者が多いが、チルノの力の揺れ幅はかなり大きいのだ。
若しかしたら、この揺れ幅の大きさもチルノが最強の妖精と謳われる要因なのかもしれない。
と言った感じで、霊児がチルノに対する一寸した考察をしていると、

「どうしたのよ、さっきから反撃もしないでさ!! あたいの強さに恐れをなしたか!!」

チルノから挑発の様な言葉が発せられた。
発せられ言葉で霊児は現状を思い出し、

「それはないな」

否定の言葉と共に霊児は左手を前方に伸ばし、左手から大量の弾幕を放つ。
急に霊児から大量の弾幕を放たれた為か、チルノは慌てた表情を浮かべながら弾幕を放つのを止めて回避行動に専念し出す。
迫り来る弾幕を必死に避けているチルノの姿を見ながら、霊児はチルノとの弾幕ごっこは大体はこんな感じだなと思っていた。
先程までしていた考察の通り、妖精の力は日によって揺れ動く。
つまり、今日妖精の中での強かった者が明日には妖精の中で弱い者になる可能性が十二分に存在しているのだ。
強さが揺れ動くと言う事が事は攻撃力、防御力、スピードとその他諸々全て揺れ動くと言う事。
そして、霊児とチルノが戦う時は弾幕ごっこで戦う事が多い。
補足して置くと妖精と言う種族は人間、妖怪、魔族、神と言った者達と比べて脆弱と言える者が多いのだ。
弾幕ごっこは遊びであるので、弾幕ごっこで致命傷を与える様な弾幕を放つ訳にもいかない。
幾ら相手が死んでもそう時間を掛けずに復活する妖精であってもだ。
それ故に霊児はチルノと弾幕ごっこで戦う時は、先ず現在のチルノの力を見極めるところから始めているのだ。
どの程度の威力の通常弾幕までなら問題無いのかと言う事を含めて。
唯、今までチルノと戦った時の事を考えるにこれからは見極めは不要かなと考えつつ、

「弾幕ごっこが出来る前は適当に二、三発拳骨をすれば追い返せたんだがなぁ……」

ふと、思い返したかの様に霊児は弾幕ごっこが出来る前の事を漏らす。
チルノ単体に対する対処だけを考えたら、霊児としては弾幕ごっこが出来る前まで方が良かったであろう。
拳骨二、三発と弾幕ごっこ。
時間と労力のどっちを取っても前者の方が優れているであろうから。
さて、少し話を戻すがスペルカードなら一々威力の調整をする必要は無い。
ならばスペルカードを連続で使い続ければ良いと思うかもしれないが、万が一それ等を全て避けられてスペルカードを全て使い切ってしまったらその瞬間霊児の負け。
流石に、霊児としてもスペルカードを使い切って負けると言う事態は避けたかった。
何せ、スペルカードを使い切って負けたレミリアの表情が何とも言えないものであったからだ。
改めてスペルカードの使い切りで敗北と言う事態だけは避けたいと言う決意をしている間に、

「……ん」

チルノが結構離れた位置に移動している事に霊児は気付く。
これだけ距離が離れたら弾幕も薄くなってしまうが、これは弾幕を濃くすれば良い。
とは言え、始めの方に言っていた新しいスペルカードと言うのに霊児は少々興味を抱いている。
だからか、霊児は弾幕を放つのを止め、

「そう言えば、さっき新作のスペルカードが在るって言ってなかったか?」

チルノに新作のスペルカードに付いて聞く。
聞かれたチルノは可愛らしく首を傾げ、

「……言ったっけ?」

疑問気な表情を浮かべてしまった。
そんなチルノの反応を見て、

「……はぁ」

霊児は溜息を吐く。
そのタイミングで、

「……あっ!! 思い出した!! スペルカード!!」

何かを思い出したかの様な表情になりながらチルノはスペルカードと言う単語を口にした。
どうやら、霊児の溜息で自分の発言を思い出した様である。
兎も角、新しいスペルカードの事を思い出したチルノは、

「ふっふっふ、このスペルカードならあんた何かコテンパンよ!!」

自信満々な声色でそう言い放つ。
そう言い放つだけ、チルノは新しいスペルカードに自信が有るのだろう。
そこまで自信の有るスペルカードなら、是非見てみたいと欲求に駆られたからか、

「そこまで言うのなら、使ってみろよ」

霊児はチルノにそのスペルカードを使う様に促す。
すると、

「後悔してももう遅いわよ!!」

後悔しても遅いと言う言葉と共にチルノは懐に手を入れる。

「後悔してももう遅いって言うのはもう少し後で使うべき何じゃ……」

チルノが言った言葉に霊児は軽い突っ込みを入れたが、入れられた突っ込みが聞こえてなかったからかチルノは何事も無かったかの様に懐からスペルカードを取り出し、

「霜符『フロストコラム』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動したのと同時に、周囲の気温が下がり始めていく。
気温が下がった事で何かを感じ取った霊児が、一歩後ろに下がると、

「なっ!?」

霊児の正面、周囲の地表から氷で出来た突起物が幾つも突き出て来た。
もし、一歩後ろに下がっていなかったら。
真下から突き出てきた氷の突起物で、霊児は上空へと打ち上げられてしまっていたであろう。
そう思いながら霊児は周囲を見渡し、周囲の状況を確認しに掛かる。
確認した結果、周囲が氷で出来た突起物に囲まれている事が分かった。

「これはまた……」

そこまで広くないとは言え、フィールドを支配する技を使って来たチルノに霊児が驚きの感情を抱いている間に、

「ふっふっふ……どーだ!!」

何時の間にか空中に上がっていたチルノが腕を組み、霊児を見下ろしながら自慢気な表情を浮かべ、

「それで、もう動く事は出来ないわね!! 今まで沢山拳骨をしてくれたお返しをしてやるわ!!」

今まで霊児がして来た拳骨のお返しをしてやると言い放ちながら両手を天に向け、両手の先に氷の塊を生み出す。
無論、それだけでは無い。
生み出された氷の塊は、どんどんと大きくなっていっているのだ。
大きくなっていく氷の塊を視界に入れた霊児は、もう一度周囲の状況を確認しに掛かる。
地表から突き出てきた氷の突起物は、真っ直ぐに生えている物も在れば斜めに生えている物も在るのが見て取れた。
この二種類の氷の突起物から考えるに、自分は氷の檻に囚われている様なものかと思いながら霊児は視線をチルノに戻す。
戻した視線の先に居るチルノが放とうとしている氷の塊は、また更に大きさを増していっていた。
氷の塊の大きさ、無数に生えている氷の突起物に囲まれていると言う状況では避け切るのは難しいと考えられる。
考えられた事から、氷の塊が放たれる前に攻撃を喰らわせるべきだと霊児は判断しながら左手を懐に入れ、

「スペルカードを使って来たんだ。俺もスペルカードを使ってやるよ」

自分もスペルカードを使う事を宣言しながら懐からスペルカードを取り出し、

「神脚『夢想封印・脚』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると霊児の右足から七色の光が発せられ、発せられた光はどんどんと輝きを増していく。
そして、輝きが十分と思える程になった辺りで霊児はチルノに向けて飛び蹴り放つ。
一直線で。
霊児とチルノの間に存在している氷を突起物を蹴り砕きながら突き進んで来ている霊児を見て、

「え!? え!? え!?」

思いっ切り混乱した表情になったチルノは慌てた動作でキョロキョロと顔を動かす。
どうやら、霊児がこの様な方法を取って来る事は完全に予想外で想定外の事であった様だ。
ともあれ、チルノが混乱の極みに有ると言っても時間は流れていき、

「かっ!!」

七色に光る足がチルノの胴体に叩き困れる。
強力な蹴りを叩き込まれたチルノは当然の様に蹴り飛ばされ、最後には地面に墜落してしまった。
その瞬間、氷で出来た突起物も大きな氷の塊も全て砕け散る。
攻撃が直撃し、フィールドが元の状態に戻ったのを確認した霊児が地に足を着けたタイミングで、

「うー……覚えてろー!!」

覚えていろと言う捨て台詞を吐きながら何所かへ飛んで行った。
どんどんと小さくなっていくチルノは見て、妖精が元気なのは平和な証拠かなと霊児は考える。
まぁ、それで喧嘩を売られた霊児はご愁傷様ではあるが。
兎も角、チルノとの弾幕ごっこで勝利した霊児が一息吐いた刹那、

「博麗霊児よ」

背後から、自身の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
自身を呼ぶ声に反応した霊児は、体を背後に向ける。
体を向けた先には、

「大天狗か」

大天狗の姿が在った。

「見てたのか?」
「うむ。しかし……」

見ていたのかと霊児が聞くと、大天狗は肯定の返事をしながらチルノが飛んで行った方に視線を向け、

「最近の妖精は強いものだな」

ポツリと、最近の妖精は強いものだと呟く。
やはりと言うべきか、大天狗の目から見てもチルノの強さは妖精の範疇に収まらない様だ。
とは言え、チルノの強さを妖精の基準に考えられても困るので、

「いや、あれだけの強さを持った妖精は俺が知る限りではチルノだけだ」

訂正するかの様に霊児はチルノ程の強さを持った妖精はチルノしか知らない事を大天狗に伝える。
伝えられた内容を受けた大天狗は、

「ふむ、成程……」

何かを考え始め、

「……だが、幾ら強いとは言え妖精が貴公に勝負を仕掛けたのを見るに命の遣り取りを抜きにした戦いごっこ……弾幕ごっこを生み出したのは
正解だった様だな」

考えている事に結論が出たからか、話を変えるかの様に弾幕ごっこを生み出したのは正解であったと口にし、

「ここ最近……と言うよりは貴公がレミリア・スカーレットの起こした異変を解決してからか。それからと言うもの、妖怪にしろ人間にしろ様々な存在が
活気付いて来たと儂は思う」

レミリア・スカーレットが起こした異変以降、幻想郷の様々な存在が活気付いて来たと言う心中を述べた。
大天狗が述べた通り、あの異変以降の幻想郷は活気付いている。
何時も何所彼処で、弾幕ごっこによる戦いが繰り広げられているからであろうか。
まぁ、基本的に命の危険や大怪我を負う心配も無いのだ。
更に言えば、弾幕ごっこは遠くから見れば綺麗に見える。
自ら弾幕ごっこやり始めたり弾幕ごっこを観戦する者が増え、それが幻想郷に活気を付かせている要因になっているのだろうか。
ともあれ、弾幕ごっこが幻想郷を活気付かせる要因の一つとなっているのであれば、

「そいつは重畳。人間も妖怪の他の存在も元気が良いのは幻想郷にとって好ましいからな」

霊児としては嬉しいからか、霊児は重畳と言いながら幻想郷に活気が在るのは好ましい事を語った。

「それは儂等、天狗とて同じ事。幻想郷に住まう者として、幻想郷が活気に満ちるのは好ましいからな」

語られた事に大天狗は同意しつつ、

「そうそう。弾幕ごっこと言えば弾幕の美しさで勝負を決めたり、予め使用するスペルカードの枚数を決めてから弾幕ごっこをすると言った方法、被弾回数に
制限を設けるなど、幾らかの独自ルールを盛り込んで弾幕ごっこする者がチラホラと出て来ている様だ」

独自のルールを盛り込んで弾幕ごっこをする者が現れている事を霊児に教える。

「弾幕ごっこのルールを作った時、ガチガチのルールで固めなかったからな。独自の楽しみ方って言うのが出て来るのは想定の範囲内だ」

教えられた事は想定の範囲だと霊児が返したからか、

「そう言った自由度と言うか応用性の高さもここまで広まった理由の一つか。貴公は先を見る眼を持っている様だな」

感心したかの様な表情を大天狗は浮かべ、霊児には先を見る眼が在ると称した。

「そういつはどうも」

称された事に霊児はどうもと言い、続ける様にして、

「けど、俺……と言うか俺達がレミリアの起こした異変を弾幕ごっこで解決して以降、色んな存在が俺の神社にやって来たり、暫らくは起こらないだろうと
思っていた異変が結構な短さで起こったりしたんだよなぁ……」

一寸した愚痴の様なものを零す。
グータラ生活を好んでいる霊児に取って色んな来訪者が頻繁にやって来る、短い頻度で異変が起こると言うのは望ましい事では無いからだ。

「様々な存在がやって来ると言うのは、それだけ貴公に惹かれているのだろう」

零された事に大天狗が様々な存在が博麗神社にやって来るのは霊児に惹かれているからだろうと言う推察を行なう。

「惹かれている?」

行なわれた推察に霊児は良く解らないと言った感じで首を傾げてしまった為、

「貴公には人妖問わず、様々な存在を惹き付ける魅力の様なものが有るのだ」

大天狗は端的に様々な存在を惹き付ける魅力が有ると言う言葉を霊児に掛ける。

「魅力ねぇ……」

魅力が有ると言われても今一つ解らないと言う雰囲気を霊児が見せたからか、

「妖怪の山で言えば静葉殿に穣子殿、河童の河城にとりに儂の部下の射命丸文に犬走椛が良く貴公の神社に行っていると聞くが」

妖怪の山で良く博麗神社に行く者の名を大天狗は上げていく。

「ああ、確かに」

名を上げられた者は博麗神社に来る事が多い為、納得した表情を霊児が浮べると、

「貴公の口振りから察するに、今上げた者達以外にも沢山来て居るのだろう?」

確認するかの様に、大天狗は霊児に今上げた者達以外にも博麗神社に来ている者は多いのだろうと聞く。

「まぁな。最近来る様になったのは幽々子に紫とかだな」
「ほう、あの二人もか」

聞かれた事に肯定しながら霊児が幽々子と紫の名を出すと、大天狗の表情は少し驚いたものに変わる。
大天狗の反応から、幽々子と紫の事を知っていると霊児は判断し、

「やっぱり有名なのか? あの二人」

幽々子と紫は有名なのかと言う事を問う。

「うむ。西行寺幽々子は冥界の管理人として、八雲紫は妖怪の賢者としてそれぞれ名を馳せておる。特に八雲紫は昔……幻想郷が出来る遥か前から色々と
動いていた事もあり、儂の様に古くから存在している妖怪などにはその名が知られておるな」

問われた事に大天狗は肯定し、補足する様に古い妖怪には八雲紫の名は有名である事を語った。
やはりと言うべきか、幽々子と紫の二人は有名である様だ。
大天狗から得られた情報から幽々子は兎も角、古い妖怪に昔から動いていて有名と言わしめる紫にはある程度の警戒は払って置く必要が有るかもしれない。
と言った様な事を霊児が考えている間に、

「それと異変が短い頻度で起きると言う件に付いてだが、儂が思うに今の幻想郷は変革期に在るのだろう」

異変が短い頻度で起こるのは、今の幻想郷が変革期で在るのだろうと言う推論を大天狗は霊児に伝えた。

「変革期?」
「うむ。弾幕ごっこが生まれ、短い頻度で異変が起き、それを貴公が解決した。この三つの流れで幻想郷は変わっていっておる。儂が思うに、それは良い方向にな。
それとおそらくだが、異変と解決の部分はこれからも続くであろうな」

変革期と言う部分に疑問を覚えた霊児に、大天狗は変革期に付いての簡単な説明を行なったが、

「そうなのか? 俺は只普通に異変を解決しただけ何だがな……」

霊児は益々訳が解らないと言った表情になってしまう。
何故ならば、異変解決は博麗に取っての義務の様なものであるからだ。
その義務を果たしただけで幻想郷が良い方向に変わっていっていると言われても訳が解らないのは、仕方が無い事だろう。
だが、

「それで良いのだ。貴公は貴公が想うが儘に動き、異変を解決すれば良い。それが幻想郷を良い方向に持っていき、変えていくのだと儂は思う。それは
貴公が今代の博麗だからではなく、貴公が博麗霊児であるからこそ出来る事なのだろうがな」

解らない儘で良いと言う事とその理由を大天狗は独自の様に呟く。

「俺が俺であるからねぇ……」

呟かれた内容を受け、霊児は少し何かを考える素振りを見せつつ、

「……てか、お前の言い方だとこれからも異変が起こると聞こえるぞ」

思い出したかの様に霊児は今までの会話から、大天狗の言い方ならこれからも異変が起こると言っている様に聞こえると言う指摘を行なう。
すると、

「二度ある事は三度あると言うぞ。後、偶然も続けば必然とな」

間髪入れずに二度ある事は三度ある、偶然も続けば必然と言う発言を大天狗が返して来た。

「勘弁してくれ。それだとまた異変が起きて、その異変を解決するたんびに俺の神社に集まってくる奴が増えるって事じゃねぇか……」

返って来た発言を受けてガックリと肩を落とした霊児に、

「だが、言う程にその事を貴公が嫌がっている様には見えんがな」

大天狗は嫌がっている様には見えないと言う。
そう言われた霊児が落としていた肩を上げたタイミングで、

「貴公自身、楽しく思っているのではないか? 様々な者が集まり、大騒ぎしたりする日々を」

様々な者が集まって大騒ぎする事を楽しく思っているのでないかと言う問いが大天狗から投げ掛けられた。
投げ掛けられた問いを受けた霊児は、

「…………………………………………………………」

少し何かを考え始める。
そして、

「…………確かにそうだな。俺は騒がしくも退屈しないこの日々を楽しんでいるな」

楽しんでいる事を霊児は認めた。
もしそう言った事を嫌っているのなら、神社にやって来る面々を無理矢理にでも追い返したりするだろう。
更に言えば、霊児も宴会に参加したり宴会で大騒ぎをすると言った事もしている。
と言っても、静かな日々も相変わらず好きな儘。
静かな日々と騒がしい日々の両方を好ましく思える様になったのは、何時頃からであったであろうか。
そんな事を思い出そうとしつつ、

「そういや大天狗、お前は何しにここに来たんだ?」

ふと、頭に過ぎった事を霊児は大天狗に尋ねる。

「何、今日は休暇なのでな。妖怪の山に篭らずにこうして他へと足を運んだ次第だ」

尋ねられた大天狗は今日が休暇なので妖怪の山から離れて来た事を話し、

「ああ、そうだ」

何かを思い出したかの様な表情を浮かべながら何かを霊児に向けて投げ飛ばす。
投げ飛ばされたものを霊児は反射的に掴み取り、飛んで来たものが何であるかを確認しに掛かる。
確認した結果、

「これは……杯か?」

掴み取ったものは杯である事が分かった。
同時に、

「うむ。どうだ、飲まんか?」

飲まないかと言いながら大天狗は自分用の杯と酒瓶を霊児に見せる。
大天狗が持って来た酒ともなれば、それは天狗の酒。
しかも、大天狗程の地位の者が持って来る酒ともなれば天狗の酒の中でもかなり高位の物だと考えられるだろう。
それはさて置き、天狗の酒を飲む機会など文か椛が持って来る時位しか無いので、

「そうだな……飲むか」

大して悩む事無く霊児は大天狗と酒を飲む事を決め、腰を地面に落ち着かせた。
自分と飲もうと言う提案を霊児が受け入れたと認識した大天狗は腰を地面に落ち着かせ、杯に酒を注いでいく。
こうして、霊児と大天狗は近くにまだ残っている桜を肴にしながら酒飲みを始めた。























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