「……おし、これでこの書物に載っている折り紙で折れる物は全部折ったな」

そう言って、霊児は折り紙で何が折れるかが描かれた書物を閉じて最後に折り紙で折った紙飛行機を手に取り、

「しっかし、紙飛行機って種類がかなり在るんだな」

紙飛行機で折れる物が思っていた以上に多かった事に霊児が少し驚いたと言った感想を抱く。
霊児が折った紙飛行機の種類は一種類や二種類ではなく、数十種類以上。
驚いたと言う感想を抱くのも無理はないだろう。
ともあれ、折角締め括りとして折った紙飛行機だ。
書物には紙飛行機は飛ばす事が出来るとの事なので、霊児は手首を使って紙飛行機を飛ばして見る事にした。
飛ばされた紙飛行機はゆったりとした動作で飛行し、壁に激突して墜落してしまう。
墜落してしまった紙飛行機を見て、

「……ま、部屋の中じゃこんなもんか」

霊児は軽い愚痴の様なものを零し、墜落した紙飛行機を回収して外に目を向ける。
そして、思う。
回収した紙飛行機を外に向けて飛ばしたら、何所まで飛んで行くのだろうと。
折角なので、折った紙飛行機を霊児は外に向けて飛ばそうとしたが、

「…………………………………………………………」

直ぐに思い留まった。
何故かと言うと、飛ばした紙飛行機の回収が面倒だからだ。
興味と回収の手間。
この二つを比べて霊児の中で後者に軍配が上がった後、霊児は周囲を見渡し、

「……流石に書物の中に描かれていたもの全て折ったらこんな量になるのも当然か」

折り過ぎたかと言う様な事を呟いて軽い溜息を一つ吐く。
書物に書かれていた折り紙で折れる物を全て折ったのだから、どれだけの数の折り紙が折られたのは言うまでも無いだろう。
兎も角、折角色々と折ったのだ。
捨てるのもあれなので、霊児は折った折り紙を押入れの中へと突っ込んでいく。
それから幾らかすると折った折り紙を全て押入れの中に入れる事が出来たので、

「ふぅ……」

軽く肩を回しながら一息吐き、

「……残りの折り紙、どうするかな」

残りの折り紙をどうするかと言う事を考えながら、霊児は折り紙が置かれている自分の机の上に視線を向ける。
書物一冊分に描かれていた物を全て折ったと言うのに、霊児の机の上には香霖堂で買った折り紙がまだ大量に残っていた。
少し買い過ぎたかなと言う軽い反省をしつつ、霊児は残りの折り紙に付いてどうするかを考えていく。
また同じ物を折って折り紙の数を減らすと言うのでは、少々芸が無い。
ならば、再び香霖堂へ赴いて折り紙の折り方が描かれている他の書物を買って来るべきか。
と言った選択肢が霊児の頭の中に浮かび上がった瞬間、

「……ん? 書物? 本?」

書物から本と言う単語を連想し、連想した本に何か引っ掛かりを覚える。
その後、

「本……本……本……」

覚えた引っ掛かりの正体に付いての答えを出す為、霊児は頭を回転させていく。
頭を回転させ始めてから幾らした辺りで、

「本…………!! 紅魔館の図書館!!!!」

引っ掛かりの答えが出た。
紅魔館の図書館。
文字通り、紅魔館に存在している図書館だ。
そこに良く進入している魔理沙曰く、蔵書量は桁違いなまでに凄まじく数多の種類の本が収められているとの事。
となれば、紅魔館の図書館に行けば折り紙の事が書かれた本の一冊や二冊は見付かるであろう。
兎も角、折り紙の良い消費方法の手掛かりが見付かりそうであるからか、

「……よし」

紅魔館に行く事を霊児は決め、壁に掛けている赤い文字で"七十七代目博麗"と書かれた羽織を手に取る。
手に取った羽織を着込み、夢美から貰ったグローブをポケットから取り出して手に着け、

「後は……」

机の上に置いて在る折り紙を懐に仕舞い、霊児は博麗神社を後にした。






















博麗神社を後にしてから幾らか経った頃。

「お、見えて来た見えて来た」

霊児は空中から紅魔館を視認出来る場所にまで来ていた。
紅魔館が目で見える距離にまで来たと言う事で、霊児は飛行速度を上げて一気に紅魔館に近付く。
一気に近付いた事で、直ぐに紅魔館の敷地内まで後少しと言う所にまで来れた。
なので、そろそろ降下する準備に入ろうかとした時、

「あれは……」

紅魔館の正門と思わしき場所に誰かが立っているのが、霊児の目に映る。
目に映った者が誰なのかを確認する為に霊児は一旦止まり、高度を下げて行く。
ある程度高度を下げた辺りで、

「美鈴か」

正門と思わしき場所に居るのが美鈴である事が分かった。
同時に、

「…………こいつ、寝てやがる」

美鈴が立った儘の状態で寝ている事に気付く。
今、寝ている美鈴と言う妖怪は紅魔館の門番をしている。
だと言うのに、美鈴は寝ていた。
しかも、幸せそうな表情を浮かべながら。
はっきり言って、これは門番としてどうなのだろうか。
まぁ、それだけ平和と言う事なのかもしれないが。
ともあれ、霊児は紅魔館の図書館に用が在るのであって美鈴に用が在る訳では無い。
だからか、寝ている美鈴を無視する形で霊児は高度を上げ直して門を越える。
そして、紅魔館の中に入った霊児は周囲を見渡し、

「相変わらず、紅で構成されているな。この館は」

相変わらず紅で構成されていると言う感想を抱き、魔理沙が語っていた図書館への進行ルート思い出していく。
進行ルートがある程度明確になった辺りで、霊児は図書館に向けて足を進め始めた。






















霊児が紅魔館の中に入り、図書館を目指し始めてから暫らく。
霊児は、

「…………まだか」

未だ図書館に着く事が出来ずに紅魔館内を彷徨っていた。
単純にまだ図書館に着かないだけか、それとも魔理沙が語っていた図書館への進行ルートを覚え間違ったのか。
どちらかなのかは分からないが、好い加減歩きっ放しと言うこの状況に霊児は飽きを感じ始めていた。
だからか、手っ取り早く図書館に着く方法を実行し様かと考え始める。
嘗てレミリアが起こした異変を解決する為に紅魔館に突入した際、紅魔館の一室の床を踏み砕いて図書館への入り口を作ったと言う方法を。
部屋へと続くとドアでも見付けたら、直ぐにでも嘗ての方法を実行に移そうかと霊児が思った時、

「あら、これは珍しいお客さんね」

背後からそんな声が掛かって来た。
掛けられた声に反応した霊児は足を止め、振り返ると、

「咲夜か」

咲夜の姿が霊児の目に映った。
やはりと言うべきか、声を掛けて来た者は咲夜であった様だ。
取り敢えず、お互いがお互いの存在を認識した後、

「処で、美鈴はどうしたの?」

咲夜から美鈴はどうしたのかと言う問いが投げ掛けられた。
門番である美鈴からの報告が無ければ、客が来ると言う情報も咲夜は得ていない。
それ故に、咲夜はそう言った問いを投げ掛けたのだろう。
ともあれ、美鈴の事を隠して置く必要も理由も無いので、

「あいつか? 気持ち良さそうに爆睡してたから無視してここまで来たぞ」

何一つ偽る事無く、霊児は咲夜に美鈴の様子を教える。
教えられた内容が、美鈴が仕事をサボっている事であったからか、

「あの子は……」

機嫌が悪くなったと言う表情を咲夜は浮かべ、

「美鈴は気付いたら良く寝てるし、妖精メイドは直ぐに仕事をサボるし、殆ど私一人で仕事する事になるし……」

愚痴を零し始めた。
零された愚痴の内容を聞き、

「……なぁ、紅魔館ってお前が居なくなったら荒れ放題の館になるんじゃないか?」

ふと、思った事を霊児は咲夜に尋ねてみる。
尋ねられた事に思い至る所でもあったのか、咲夜は何処か諦めた表情になり、

「……それは言わないで頂戴」

そう漏らす。
どうやら、咲夜もその事には気付いていた様だ。
まぁ、妖精メイドは仕事を全然しないと言うか役に立たない存在らしい。
であるならば、自分が居なくなった場合の紅魔館の状態を想像する事など咲夜に取っては赤子の手を捻るが如くであろう。
紅魔館に置ける咲夜の重要性を霊児が改めて理解している間に、

「それで、余り遠出をしない貴方が紅魔館にやって来た理由は何かしら?」

咲夜は表情を元に戻し、霊児に紅魔館にやって来た理由を聞く。

「ああ、図書館に用があるんだ」
「図書館に……ねぇ」

聞かれた事に対する答えを霊児が返すと、咲夜はつい驚いたと言った表情を浮かべてしまった。
紅魔館の知識人とも言えるパチュリー・ノーレッジは、本を読んでいる事が非常に多い。
無論、パチュリーに食事を届けるのも仕事の一つである咲夜にはその姿は見慣れたもの。
対して咲夜が見て来た霊児の姿と言えば、ビニールプールで寛いだり白玉楼の門を蹴り壊したり等々。
はっきり言って、咲夜は霊児の知的な部分を殆ど見た事が無いのだ。
強いて言えば、この世とあの世を隔てる門に付いての解説をした時位であろうか。
知的な面を霊児が見せたのは。
以上の事から、霊児が本を読むと言うイメージが出来ずに咲夜は驚いてしまったのだ。
驚いた咲夜の反応から、咲夜が何に対して驚いているのかを理解した霊児は、

「俺だって本位は読むさ」

指摘するかの様に、咲夜に自分とて本を読む位はすると言う事を伝えた。
そして、

「そういや紅魔館、広くしたのか?」

何時まで経っても図書館に着かなかった事から、紅魔館を広くしたのかと言う確認を霊児は咲夜に取る。
取って来た確認に返すかの様に、

「ええ、お嬢様の御意向でね」

レミリアの意向で紅魔館内部を広くした事を咲夜は述べた。
どうやら、霊児が図書館に辿り着けなかったのは迷ったからではなく紅魔館内部が広くなったせいであった様だ。
因みに、紅魔館内部が広くなっているのは咲夜の能力のお陰である。
咲夜の能力は"時間を操る程度の能力"。
この能力は時間を操る以外にも、一寸した空間操作も行なう事を可能としている。
つまり、その空間操作で紅魔館内部を広くする事が出来ているのだ。
兎も角、紅魔館内部が広くなっている事を知った霊児は余計な事をしやがってと思いつつ、

「……っと、そうだ。紅魔館は広くなったってだけで部屋の配置までは変わってないのか?」

紅魔館が広くなったと言う事を知ってから頭に過ぎっていた可能性に付いて、咲夜に問うてみる事にした。

「ええ、広くなっただけで配置までは変わっていないからこの儘行けば図書館には行けるわ。まぁ、部屋を追加したと言うのは在るけど」
「そうか」

問うた事に咲夜が肯定の返事をしたからか、霊児は部屋を踏み抜いて図書館に入ると言う方法を選択肢から除外する。
時間さえ掛ければ図書館に行ける事が確定しているのに、紅魔館にダメージを与えて紅魔館の面々と一戦交える必要性は無いからだ。
取り敢えず、霊児の中でこれからの予定が決まった後、

「さて、私はまだやる事があるからもう行くけど……くれぐれもパチュリー様に失礼のない様にね」

まだやる事があると言う事とパチュリーの邪魔をしない様にと言う言葉を残し、咲夜は姿を消した。
姿を消した咲夜に反応出来なかった為、霊児は咲夜が時間を止めて移動したのだと推察しつつ、

「……行くか」

再び図書館に向けて足を進め始める。






















咲夜と別れてからまた暫らく経った辺りで、

「……やっと着いた」

霊児は、漸く図書館へと続く扉の前に辿り付いた。
ここまで来るのに思っていた以上に時間が掛かった事で霊児は疲れを吐き出すかの様に息を一つ吐き、扉に手を掛ける。
その時、

「……あ」

気付く。
廊下を歩くのではなく、飛行して進んでいればもっと早くに着いたであろうと言う事を。
今の今になってその事に気付いた霊児は己の間抜けさに呆れつつも、扉を開いて図書館の中へと入って行く。
図書館内部に入った霊児は周囲を見渡し、とんでもなく広いと言う感想を改めて抱きながら空中へと躍り出る。
空中に躍り出た霊児は目的の本が何処に在るのかを探そうとしたが、

「……ちと面倒だな。これは」

余りの蔵書量の多さを前に、つい止まって軽い愚痴の様なものを零してしまう。
そんな行為を取ってしまう程に、ここの図書館の蔵書量は凄まじいのである。
レミリアが起こした異変を解決する際にここに来た時は本探しが目的ではなったので、今回の様なリアクションは取らなかったのだが。
兎も角、これでは目的の本を探すのに相当骨が折れると思われるだろう。
だが、そこは霊児。
持ち前の勘の良さを頼りにするかの様に、目的の本が何処に在るのかを探す為に顔を動かし始めた。
顔を動かし始めてから然程時間を置く事無く、

「……お」

少し遠くの方に何かを感じ取り、霊児は何かを感じ取った方に向かう。
そして、何かを感じ取った場所に着くと、

「よ……っと」

降下して地に足を着け、霊児は近くの本棚を調べていく。
本棚を調べ始めてから大した時間を掛けずに、

「……お、見っけ見っけ」

目的の本である折り紙の折り方が描かれている本を霊児は見付け出した。
しかも、何冊も。
こうも早くに目的の本を見付け出せた事で少しご機嫌になりながら、霊児は本棚から本を引き抜き始める。
そんな霊児に、

「また魔理沙が本を盗みに来たのかと思ったら、貴方だったとはね」

何者かが声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は、一旦本を引き抜くのを止めて声が発せられたであろう方向に顔を向ける。
顔を向けた先には、やはりと言うべきかパチュリーの姿があった。
パチュリーの姿を見て、霊児がやっぱりなと言う表情を浮かべている間に、

「折り紙の本……か……一寸意外ね。貴方がそんな本を読むなんて」

霊児が本棚から引き抜いた本を見たパチュリーは、意外と言った表情を浮かべた。

「悪いか?」
「別に悪くはないわよ」

意外そうにしているパチュリーに霊児が悪いかと聞くと、パチュリーは否定の言葉を返し、

「その本、持っていく気でしょ?」

霊児の手に在る本を見ながら、その本を持って行く気だろうと尋ねる。

「ああ」

尋ねられた事に霊児が間髪入れずに肯定の返事をした為、

「ここに来るのは本を勝手に持って行く様な輩ばかりね……」

顔を手で抑えながら、図書館に来る輩を嘆く様な台詞をパチュリーは零す。
が、図書館の本の持ち出し状況に全く興味が無い霊児は、

「で、この本を持って行って良いのか?」

零された発言を無視し、パチュリーに今持っている本を持って行っても良いのかと問う。
そう霊児が問うて来た事で、パチュリーは溜息を一つ吐き、

「……条件が在るわ」

気持ちを切り替えるかの様に顔を上げ、本の持ち出すのに条件が在ると口にする。

「条件?」

条件と言う単語を受けて霊児が首を傾げると、

「これを見て」

パチュリーは一冊の本を霊児に見せた。

「その本がどうかしたのか?」
「この本はね、霊力を持った者が近くに居ないと読めない本なのよ」

見せられた本がどうしたのかと言う疑問を抱いた霊児に、パチュリーは今見せた本がどう言った本であるかを教える。
教えられた事から、パチュリーが自分に何をさせたいのかを霊児が理解したのと同時に、

「貴方が察している通り、暫らくここに留まって貰う事が条件よ」

霊児の察した通りだとパチュリーは述べ、念の為と言った感じで霊児に条件の中身を説明した。
取り敢えず、はっきりと条件内容が明確になった後、

「霊力なら俺じゃなく、咲夜にでも頼めば良かったんじゃないのか?」

当然とも言える疑問をパチュリーにぶつける。
紅魔館のメイド長である十六夜咲夜は人間である為、扱う力は霊力だ。
そして、パチュリー・ノーレッジは紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの親友であり客分。
であるならば、パチュリーが咲夜にその事を頼むのは可能であろう。
だと言うのに、パチュリーはそれをしていない。
疑問をぶつけるのも当然だろう。
だからか、

「これ位で咲夜の手を煩わせるものどうかと思ったのよ。咲夜は結構忙しくしてるし」

咲夜ではなく霊児にこの事を頼んだ理由を語る。
要は、忙しくしている咲夜に余計な仕事を押し付けない様に気を使ったのだろう。
取り敢えず、パチュリーが咲夜に頼まなかった事に霊児が納得している間に、

「因みに、断ったら全力で抵抗させて貰うから」

忠告すると言った感じで、パチュリーは断ったら全力で抵抗する事を口にした。
口にされた内容を耳に入れた霊児は、少し考えを廻らせる。
先程、本棚から引き抜いた折り紙の本は魔導書と言った様な類の本では無い。
と言う事は、戦いになったら本を気にせずに攻撃を仕掛けて来るだろう。
魔導書で無いのなら、魔法使いであるパチュリーに取って重要度は低いであろうし。
それはさて置き、パチュリーと普通に戦おうが弾幕ごっこで戦おうが霊児には勝つ自身が在る。
しかし、霊児が勝てる事と本が無事である事は別。
更に言えば、霊児は折り紙を持って来ている。
つまり、燃え易い物を霊児は二種類も所持しているのだ。
例えば、パチュリーが図書館の全てを炎で包み込む様な魔法を使ったとしたら。
霊児は無事でも、本と折り紙は無事では済まないだろう。
二重結界式移動術で引くと言う手も在るが、それでは後々面倒な事になりそうだと言う予感が霊児に在った。
そこまで考えが廻った当たりで、

「……分かった、その条件を呑むよ」

出された条件を霊児は呑む事にする。
一応、条約の様なものが交わされたからか、

「そう、なら付いて来て。あっちに本を読むのに十分なスペースが在るから。勿論、椅子もテーブルもね」

そう言って、パチュリーは霊児に背を向けて歩き出した。
歩き出したパチュリーに付いて行く形で、霊児も足を動かし始める。






















「……ふむ、読む条件に霊力が係わってたから陰陽術と言った様な系統のものだと思っていたけど違うみたいね。これは魔法使いが書いた魔導書だわ。となると、
これを書いた魔法使いは魔力だけではなく霊力を扱えたのかしら? いえ、霊力を持った存在が傍に居たと言う可能性も考えられるわね。それか、親兄弟と言った
かなり近しい存在に霊力を持った者が居たか。となると、霊力を持った存在と一緒に読む事が前提の魔導書? でも……書かれる内容は魔に関する事。霊力を扱う
術に付いては書かれていないし、何らかの仕掛けが施されている感じも無い。読み進めていけば霊力を持った存在が必要な理由も解るのかしら?」

読む為には霊力を持った者が必要だと言う魔導書を、パチュリーは推論を呟きながら読み進めていく。
そんな中、区切りの良い所まで読み進めたパチュリーは魔導書から目を離して霊児の方に視線を移す。
視線を移した先に居る霊児を見て、

「……随分とまぁ、沢山折ったものね」

沢山折ったものだと言う感想を零す。
その様な感想が零された通り、相当の数の折られた折り紙がテーブルの上に鎮座していた。
ともあれ、零された感想が耳に入った霊児は、

「まだ、数冊分の本に描かれているものしか折っていないけどな」

折り紙を折りながらまだ数冊分しか折っていないと言う台詞をパチュリーに返す。
そう返している最中にも霊児が折り紙を折っていた為、折り紙を折ると言う事は楽しいものなのかとパチュリーは思った時、

「おーっす!! 本を借りに来たぜー!!」

元気さが感じられる声と共に魔理沙がパチュリーの傍にやって来た。
やって来た魔理沙に気付いたパチュリーは、顔を魔理沙の方に向け、

「貴女の場合は借りている……じゃなくて盗んでいるでしょ。言葉は正しく使いなさい」

突っ込みを入れる。

「おいおい、私は盗んでるんじゃなくて死ぬまで借りてるだけだぜ。それに、私が本を持っていくのは弾幕ごっこで私が勝った時が大体だろ」

突っ込みを入れられた魔理沙はあっけらかんとした表情でそんな事を言ってのけた為、

「弾幕ごっこで貴女が勝ったらって、貴女の進入が私に知られた場合だけじゃない。そうでないのなら、勝手に盗んでいくし」

弾幕ごっこ等々の部分は魔理沙の侵入が自分にばれた場合だけだろうと言う指摘をパチュリーは行なう。
すると、

「それはそれ、これはこれってやつだぜ」

魔理沙はその様に返して霊児の方に近付き、

「霊児がここに居る何て珍しいな」

ここに霊児が居るのは珍しいと言う感想を漏らしながら、霊児の隣に座る。
そして、

「折り紙を折ってたのか」
「ああ。香霖の所で外の世界の折り紙と外の世界の折り紙の事が描かれた書物を見付けてな」
「あー……香霖の所のか。幻想郷じゃ余り見ない紙質だから少し不思議に思ってたぜ」
「ま、人里じゃあこう言った感じの紙は売っていないからな」
「外の世界の紙だからなぁ。となると、外の世界の紙には和紙とかはもう無かったりするのかな?」
「んー……和紙を模した様な折り紙も在るからそれは無いんじゃないか」
「へー、そう言うタイプの折り紙も在るのか」
「和紙を模した物、単純に色が付いた物以外にも色々在ったぞ」
「はー。一言に外の世界の折り紙と言っても、色々と在るんだな」

魔理沙と霊児は軽い会話を交わしていく。
交わしている会話の内容が折り紙に付いてのものであったからか、魔理沙は折り紙に興味を示し始め、

「なぁなぁ、一枚折らせて貰っても良いか?」

霊児に自分も一枚折っても良いかと尋ねる。

「ああ、良いぞ」
「サンキュ!!」

尋ねた事に霊児が直ぐに了承の返事をした事で、魔理沙は嬉しそうな表情を浮かべながら赤い色をした折り紙を一枚手に取り、

「さーて……」

早速と言わんばかりに折り紙を折っていく。
淀み無い動きで。
だからか、

「貴女……折り紙なんて折れたのね」

つい、パチュリーは魔理沙に意外そうな表情を向けてしまう。
向けられた表情に気付いた魔理沙は一旦折り紙を折るのを止めてパチュリーの方に顔を向け、

「どう言う意味だよ」

心外だと言わんばかりの表情になる。
そんな表情を浮かべた魔理沙を見たパチュリーは、

「だって、パワー馬鹿の貴女が折り紙の折り方を知っているとは……ねぇ……」

パワー馬鹿と折り紙がくっ付かない事を話す。
魔理沙は威力が高い魔法や派手な魔法などを好んで使っている。
特に、威力が高い魔法は魔法使いとしてそれなりの年月を生きて来たパチュリーから見ても相当な練度。
しかし、だからこそパワー馬鹿の魔理沙が折り紙を折ると言う様な手先を扱うものを得意としているとは思わなかったのだ。
話された事から、自分の事をパワー一辺倒の馬鹿と言う認識がパチュリーの中でされている事を魔理沙は感じ、

「失敬な。これでも手先は器用な方なんだぜ。それに、料理も結構得意だしな」

手先が器用な事と料理が得意である事を口にする。
口にされた内容を受け、

「……そう言えば、前にレミィが魔理沙の作った料理は咲夜には及ばないけど美味しいと言っていたわね」

以前、レミリアが魔理沙の料理に対しての評価を下していた事をパチュリーは思い出し、

「後、貴女の使うノンディクショナルレーザーって言う魔法もパワーよりも技術や器用さが要求されるわね。他にも技術や器用さが要求される様な魔法を
習得してそうだし。そう考えると手先が器用なのは納得かしら」

序と言わんばかりに魔理沙が使う魔法に付いても思い出した。
思い出された事から、取り敢えずパチュリーの中での自分のイメージがある程度は改善されたのを察したからか、

「全く、失礼しちゃうぜ」

再び、折り紙を折ると言う行為に魔理沙は戻る。
それから幾らか経った辺りで、

「……出来た」

魔理沙が折っていた物が完成した。

「何を折ったんだ?」

折っていた物が完成したと言う事で、霊児は魔理沙に何を折ったのかと問う。
問われた事に対し、

「薔薇だぜ」

薔薇と言う答えを魔理沙は返した。
赤い折り紙で折った物が薔薇。
以上の事から、

「赤い折り紙で薔薇……ああ、成程」

何かを理解したパチュリーは、魔理沙の方に顔を向ける。

「な……何だよ」

顔を向けられた魔理沙が幾らか狼狽えた表情になると、

「ふふ、別に」

意味有り気な笑みをパチュリーは浮かべた。
浮べられた笑みを見て、魔理沙は心の中を見透かされた様な感じを受ける。
だからか、魔理沙は顔を少し赤く染め、

「ほ、本を探して来る!!」

勢い良く立ち上がって本を探して来ると言い、

「あ、これは霊児が貰ってくれよ!!」

赤い折り紙で折った薔薇を霊児に手渡し、本を探しに本棚が在る方へと向かって行った。

「何だったんだ、一体?」

急に立ち上がって本を探しに向かった魔理沙を見て、霊児は疑問気な表情になりながら首を傾げた為、

「さぁ、何だったのかしらね? ま、それは受け取って上げなさい」

何処か面白がる様な表情になりながらパチュリーは曖昧の言葉で場を濁し、魔理沙が手渡して来た折り紙の薔薇を受け取って上げる様に進言する。
別段邪魔になる物と言う訳でも無いので、霊児は進言された通りに折り紙の薔薇を懐にしまう。
すると、

「宜しいのですか、パチュリー様」

飲み物を持って来た小悪魔がパチュリーに声を掛けて来た。
掛けられた声に反応したパチュリーは小悪魔の方に顔を向け、

「何がかしら?」

何がかと問う。

「彼女を行かせた事がです。また結構な数の本……と言うか魔導書を持っていかれますよ」
「面白いものが見れたし、少しはサービスして上げるわ。それに……」

声を掛けた意味を小悪魔が述べると、面白いものが見れたから少しサービスすると言ってパチュリーは一旦言葉を切る。

「それに?」
「魔理沙が何の魔導書を持って行ったかを後で調べれ、対策を立てればリベンジも上手くいきそうだしね」

早く続きを言ってくださいよと言った感じで小悪魔から続きを促された為、魔理沙を放置した理由をパチュリーは語った。
どうやら、パチュリーは魔理沙が持っていった魔導書を調べて魔理沙への対策を立てる気の様だ。
語られた内容からパチュリーに狙いを知った小悪魔は、

「あー……パチュリー様は魔理沙との弾幕ごっこでは黒星の方が多いですしね……」

パチュリーと魔理沙の弾幕ごっこに置ける戦績を思い出す。

「おだまり。魔法使いとしての力量で魔理沙に劣っている気は全く無いんだけどねぇ。あのパワーさえ無ければ……」

魔理沙との弾幕ごっこの戦績を出されたからか、忌々しいと言った様な表情を浮かべた。
パチュリーからしてみたら、パワーで勝ちを持っていかれているのだ。
魔法使いとしての力量で勝っていると言う自負がある以上、パワー一つで何度も戦況を引っ繰り返されるのは納得がいかないのだろう。
と言った感じで、パチュリーが魔理沙との戦いでの苦い記憶を思い出し始めた瞬間、

「咲夜の言った通り、図書館に居たのね」

レミリアが霊児達の傍にやって来た。
やって来たレミリアに気付いたパチュリーは、レミリアの方に顔を向け、

「あら、珍しいわね。レミィがこの時間帯に起きてる何て」

少し意外と言った顔をする。
吸血鬼であるレミリアは基本的に夜に行動する為、太陽が天に出て来ている時間帯は寝ている事が多い。
だと言うのに、レミリアはこうして起きて出回っている。
意外と言った様な感情を抱くのは、当然となのかもしれない。
ともあれ、この時間帯に起きて来た事を言われたからか、

「私の別荘の家主が来てるんだから、挨拶位はと思ってね」

態々こんな時間帯に起き、図書館に足を運んで来た理由をレミリアは説明する。
説明された中にあった別荘の家主。
この部分に引っ掛かりを覚えたからか、

「一寸待て、何時から俺の神社がお前の別荘になった」

一体何時自分の神社がお前の別荘になったんだと言う突っ込みを霊児はレミリアに入れる。

「貴方の神社に泊まりに行った時によ」

突っ込まれた事にレミリアは霊児の神社に泊まりに行った時だと口にし、

「大体、私とフランが泊まった際に使った部屋はその儘でしょ」

自分とフラドールが泊まった際に使った部屋はその儘だろうと言う。
スカーレット姉妹が博麗神社に宿泊した時、二人が使っていた部屋は一日も待たずして改装された。
和で構成された部屋から洋で構成された部屋へと。
無論、部屋を改装したのは咲夜であるのだが。
兎も角、改装された部屋はスカーレット姉妹が紅魔館に戻ってからもその儘。
だからか、

「ああ、そうだな。お前等が帰る時に部屋を元に戻して行か無かったからな」

軽い愚痴の様なもの霊児はレミリアにぶつけた。
まぁ、改装された部屋を面倒臭いと言う理由で元に戻す事をしていない霊児も大概あれだが。
それはそれとして、ぶつけられた言葉に、

「別に良いじゃない。貴方の神社、神何て祀って無いんだし」

博麗神社は神を祀っている訳では無いのだから別に良いだろうとレミリアは返す。
返された事を受け、霊児は押し黙ってしまう。
事実、博麗神社に神は居ないのだから。
少なくとも霊児が博麗の名を継いだ時には既に神は居なかったので、そこに霊児の責任は無いだろう。
尤も、神が居ない事を知っていながら新たな神を祀っていないのは霊児の責任であろうが。
とは言え、新たな神を祀る何て事は霊児はしないだろう。
何故ならば、面倒臭い事この上無いからだ。
そんなこんなで、結局何も言えなくなっている霊児に、

「ねぇねぇ、皆は何してるの?」

何処からかとも無く現れたフランドールが、何をしているんだと尋ねて来た。
急に現れたフランドールに一同は大なり小なり驚いていたが、

「俺は折り紙を折っていた」

まるでフランドールの接近には気付いていたかの様に、霊児は折り紙を折っていた事を話す。
すると、

「折り紙?」

フランドールは首を傾げてしまった。
首を傾げてしまったフランドールの様子から考えるに、折り紙が何なのかを知らない様だ。
フランドールは、基本的に紅魔館の地下に引き篭もっている事が殆どであった。
博麗神社に泊まってからは出歩く頻度が幾らか増えた様だが、それでもフランドールには見聞きしたものがそう多くは無い。
折り紙の事を知らなくても仕方が無いだろう。
改めて、フランドールの見聞の少なさを知ったレミリアは、

「それなら、私が教えて上げましょうか? 折り紙」

自分が教えて上げ様かと口にする。

「お姉様が?」
「ええ、そうよ」

折り紙の事を教えると口にしたレミリアに若干驚いた表情をフランドールが向けると、レミリアは自信満々と言った感じで肯定の返事をしながら胸を張った。
自信満々と言った態度を示しているレミリアに、

「お前、折り紙で何か折れるのか?」

つい、折り紙で何かを折る事が出来るのかと言う事を霊児が問うと、

「それ位、レディの嗜みよ」

折り紙を折る位はレディの嗜みだと返した。
折り紙とレディ。
この二つが自分の中で上手く結び付かなかった為、霊児はレミリアの親友であるパチュリーに顔を向ける。
霊児から顔を向けられている事に気付いたからか、

「……偶にレミィの言うレディ感が分からなくなる時が在るのよね。まぁ、女らしさの事を言っているのだと思うけど」

少々自信無さ気ではあるが、パチュリーはレミリアのレディ感は女らしさの事を言っているのだろうと漏らす。

「女らしさねぇ……」

漏らされた事から霊児は何かを考える素振りを見せつつ、レミリアの方に顔を向け、

「レディって言うんなら、他に何が出来るんだ?」

興味本意と言った感じで折り紙以外に何が出来るのかと尋ねる。
尋ねられたレミリアは人差し指を下唇に当て、

「そうねぇ……ピアノ、フルート、ヴァイオリン、歌唱、ダンス、絵画、チェス等々。それなりに色々と出来るわ」

一通り、自分に出来る事を上げていく。
上げられた事を耳に入れた霊児は、レミリアが思っていたよりも多芸である事を知って驚きの感情を少し抱いた。
その間に、レミリアは霊児が持って来ていた折り紙を一枚手に取り、

「さて、先ずは蝙蝠の折り方でも教えて上げ様かしら」

折り紙を折り始める。
人の許可無く勝手に折り紙を持っていったレミリアに霊児は文句の言葉をぶつけ様としたが、

「お前もか……」

文句の言葉をぶつける前に、フランドールも霊児の折り紙を一枚持っていってしまった。
姉妹揃って勝手に折り紙を持っていった事から、何を言っても無駄だと霊児は判断し、

「……はぁ」

溜息を一つ吐き、再び折り紙を折り始める。
そして、霊児、レミリア、フランドールの折り紙を折っている三人を見て、

「……あの二人の蟠りが薄まっていったのは、博麗神社へのお泊りから帰って来てからかしら。だとするなら、私の図書館が滅茶苦茶になった甲斐があったと言うものね」

パチュリーは誰にも聞かれない様な声量で、ポツリとそう呟いた。























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