ある日の昼下がり。
博麗神社の縁側でのんびりとしている霊児に、

「なぁ、霊児。今日の夜にここ、博麗神社で宴会を開かないか?」

何時もの様に博麗神社にやって来た魔理沙がそんな提案をして来た。
やって来て早々に宴会を開こうと提案して来た魔理沙に霊児は行き成りだなと言う感想を抱きつつ、

「宴会を開くのは良いんだが……急だな」

急だなと言う言葉を投げ掛ける。
今日の夜は特別な日で今までド忘れしていたと言うのであれば兎も角、今日の夜は別に特別でも何でも無い。
何時もと変わらない普通の夜だ。
それ故に、急と言う言葉を掛けて来た霊児に驚く無く、

「ほら、幽々子が起こした異変のせいで今年の春はかなり短かっただろ。そのお陰で今年は夜桜を見ながらの宴会ってのが全然出来なかったし、私の
見立てではここの桜はそろそろ散りそうだからな」

宴会を開こうと提案した理由を魔理沙は霊児に話す。
話された事から確かに今年の春は短かったと言う事を思いつつ、霊児は庭先に在る桜の木に目を向ける。
霊児から見ても、庭先に在る桜はそろそろ散りそうであった。
となれば、今年最後の見納めと言う意味合いの籠もった宴会になるだろう。
一人静かに夜桜を楽しみながら酒を飲むと言うのも悪くは無いが、宴会で騒ぎながら夜桜を肴に酒を飲むと良いものだ。
そう考えた霊児は、

「そうだな、宴会開くか」

魔理沙の提案を受け入れるかの様に、宴会を開くかと口にする。

「そうこなくっちゃ!!」

霊児から許可を貰えたと言う事で魔理沙は嬉しそうな表情を浮かべながら指を鳴らし、

「それじゃ、私は色んな所に行って声を掛けて来るぜ」

箒に腰を落ち着かせながら自分のこれからの予定の霊児に伝え、空中へと躍り出た。
そして、何処かへ向けて素っ飛んで行く。
素っ飛んで行った魔理沙を見届けた後、

「……宴会って事は酒を消費するよな。どれ位、酒が残ってたっけ?」

宴会が開かれると言う事は酒が消費されるのは確実なので、霊児は今在る酒の数を思い出し始めた。
思い出した結果、自分一人だけで飲むのなら問題無いが宴会を開くのなら全然足りないと言う結論を霊児は下す。
宴会と言う事で宴会に参加する者は酒や食べ物と言った物を持って来るであろうが、宴会が進めば酒や食べ物の消費量が加速度的に上がるだろう。
食べ物の方は食料庫から出せばどうとでもなるが、酒の方は先に出した結論の通りどう足掻いても足りない。
なので、

「仕方無ぇ、人里に酒でも買いに行くか」

人里に酒を買いに行く事を霊児は決め、軽く上半身を伸ばしていく。
それから少しすると霊児は上半身を伸ばすのを止めて空中に躍り出て、人里へと向かって行った。






















博麗神社から人里にやって来た霊児は、早速と言わんばかりに酒屋で酒樽を三樽購入した。
だが、現在の霊児は目的の物を購入出来たと言うのに、

「くそ、失敗した……」

若干不機嫌だと言う様な表情になりながら軽い愚痴を零し、酒樽を担いで人里の中を歩いている。
何故、愚痴の様なものを零しているのか。
答えは簡単。
買った酒樽を二重結界式移動術で博麗神社に送る事が出来なかったからだ。
どうして送る事が出来なかったのかと言うと、単純に酒屋で一番大きい酒樽を買ってしまったからである。
霊児の部屋に送ったとしても酒樽が大き過ぎて部屋から出す事が出来ないし、下手をしたら部屋に在る物を酒樽の重さで壊してしまうかも知れない。
食料庫に送ろうものなら、保存している野菜などが酒樽に潰されてしまう。
故に、霊児は買った酒樽を二重結界式移動術で博麗神社に送る事が出来なかったのだ。
こんな事なら二重結界式移動術の術式を庭先にでも刻んで置けば良かったと霊児は思ったが、もう後の祭り。
まぁ、酒屋で縄をサービスで貰って酒樽三樽を固定出来たのは幸いではあるが。
兎も角、そんな感じで人里を歩いている霊児に、

「そんな大荷物を抱えて、どうしたの?」

何者かが声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は足を止め、声が聞こえて来た方に体を向ける。
体を向けた霊児の目には、

「アリス」

アリスの姿が映った。
どうやら、霊児に声を掛けて来たのはアリスであった様だ。
取り敢えず、霊児がアリスの存在を認識した後、

「大きな酒樽を三樽……と言う事は宴会でもするの?」

アリスから宴会でもするのかと言う疑問が投げ掛けられた。

「ああ、そうだ。魔理沙の発案でな」

投げ掛けられた疑問に霊児は肯定の返事をしつつ、発案者が魔理沙である事を教える。

「成程、魔理沙の発案か。となると、突発的に決まったのかしら」
「そうだ、アリスも参加するか?」

教えられた内容を色々と察したアリスに、霊児はアリスも宴会に参加するかと聞く。

「そうね……うん、私も参加させて貰うわ」

聞かれたアリスは少し考えたものの、大して時間を置く事無く宴会に参加する事を決める。

「そっか。なら、来る時は何か持って来てくれよ」

アリスも宴会に参加すると言う事なので、何か持って宴会に参加してくれと霊児は口にした。

「分かってるわよ。何時もの事だしね」

口にされた事を受けたアリスは分かっていると返し、

「紅魔館の面々も持って来るしょうけどワインと……後は軽く摘まめる物でも持って行きましょうか」

ワインと軽く摘まめる物を持って行くと伝える。

「お、そいつは楽しみだな」
「貴方、本当に食い意地が張っているからね。結構な量を持って行って上げるわ」

伝えられた内容を聞いた霊児が嬉しそうな表情になった為、少し呆れた様な表情を浮かべながらアリスは本当に食い意地が張っていると零しつつ、

「そう言えば、態々酒樽を担いで何処に行こうとしていたの?」

酒樽を担いで何処に行こうとしていたのか問う。

「ああ、酒を買った序に饅頭でも買って帰ろうと思ってな」

問われた事に対する答えを霊児は述べ、

「そう言うアリスは人里に何しに来てたんだ? 人形劇か?」

折角だからと言う感じで霊児はアリスに人里に何しに来たんだと問い返すと、

「ううん。人形の服とかを作る為の布地を買い足しに来たのよ」

人形劇をしに来たのではなく人形の服などを作る為の布地を買い足しに来たと言う事がアリスから語られた。
その後、

「と言うと、新しい人形でも作ったのか?」
「それもあるけど、人形の服の修繕にも使うのよね」
「修繕……ああ、戦闘や弾幕ごっこでも人形を使うもんな。お前」
「ええ、人形遣いだからね。兎も角、人形などが攻撃を受けると人形の服が傷んだりをするのよ。だから戦闘や弾幕ごっこをしたら、必ず人形のチェックを
しているわ。人形の服は勿論、人形その物にもね」
「大変だな、人形遣いってのも」
「ま、そこそこね。って、そう言う貴方はどうなの? 短剣のお手入れとか、それなりに大変だと思うけど」
「俺の短剣は緋々色金製だから、そこまで小まめに手入れをしてはいないな。それに、本格的な手入れは香霖に任せているし」
「香霖……ああ、香霖堂の店主の事ね。あそこの店主も大変ねぇ。確か、貴方の短剣の緋々色金って元々はあの店主のコレクションだったんでしょ?」
「ああ、そうだ」
「短剣十本も製作するのに緋々色金を使ったともなれば、結構な消費になったでしょうに。あそこの店主、意外の気前が良いのかしら?」
「どうだろ? サービスが良いのは俺や魔理沙だけで他は割りと吹っ掛けたりしてるって前に文が言ってたな」
「となると、あそこの店主に取って貴方と魔理沙は特別なお客様ってところかしら」

霊児とアリスが雑談を交わしていく。
それから少しすると、少々長話し過ぎたと感じたからか、

「……っと、少し話し過ぎたわね」

アリスは雑談を切り上げ、

「宴会は夜に始まるで良いのよね?」

一応と言った感じで宴会の開催時刻の確認を取る。

「ああ、そうだ」
「なら、日が暮れ始めた辺りで博麗神社に行かせて貰うわ」

取られた確認に霊児が肯定の返事をすると、日が暮れ始めた博麗神社に向かうと言う言葉を残してアリスは去って行った。
去って行ったアリスを見届けた後、

「さて……」

買う物買って帰るかと言う雰囲気を出しながら霊児は饅頭屋に向けて足を進めて行く。






















「ふー……ただいまっと」

人里から博麗神社に戻って来た霊児は一息吐きながら担いで来た酒樽を地面に降ろし、軽く肩を回していく。
ある程度肩を回した辺りで霊児は肩を回すのを止め、取り敢えず神社の中に入って買って来た饅頭を食べるかと言う事を考え始めた時、

「おや、お帰り」

斜め後ろ上空の方からお帰りと言う声が掛けられた。
掛けられた声に反応した霊児は、声が発せられたであろう方向に体を向ける。
体を向けた霊児の目には、

「魅魔か」

鳥居の天辺に腰を落ち着かせている魅魔の姿が映った。
どうやら、霊児に声を掛けて来たのは魅魔であった様だ。
取り敢えず、声を掛けて来た者の正体に霊児が気付いた同時に、

「よっと」

魅魔は鳥居から飛び降りて地に足を着け、

「そういや、魔理沙から聞いたよ。今日の夜、宴会するってね」

霊児に近付きながら宴会の話を出す。
出された話から、

「その話を出すって事は、魅魔も宴会に参加するって事で良いんだよな?」

一応と言った感じで霊児は魅魔に確認を取る。

「ああ、その積りだよ。手土産に牛肉を持って来たし」

取られた確認に肯定の返事をしながら魅魔は手に持っている包みを霊児に見せた。
おそらく、見せた包みの中に牛肉が入っているのだろう。
ともあれ、牛肉と言う単語を聞いて霊児は思わず目を輝かせた。
牛肉が入っている包みを注視しながら。
そんな霊児を見て、

「相変わらず食い意地が張ってるねぇ……」

何処か呆れた様な表情になりながら魅魔は霊児を相変わらず食い意地が張っていると称する。
そして、昔から食べ物には釣られ易い子だと言う事を思っている間に、

「そうねぇ……歴代の博麗の巫女の中にも食い意地が張っているのが何人か居たけど、霊児程じゃ無かったわね」

魅魔が称した食い意地が張っていると言う部分に同意しながら何者かが霊児達の傍に現れ、地に降り立つ。
新たに現れた者と言うのは、

「紫か」

八雲紫であった。
紫の存在を霊児が認識した後、

「処で、私も宴会に参加しても良いかしら?」

自分も宴会に参加しても良いかと言う事を紫は霊児に聞く。

「……お前、隙間で盗み聞きをしてたろ」

聞かれた事から、隙間で盗み聞きをしていただろうと言う指摘を行なう。

「あら、私が魔理沙と会って魔理沙から宴会の事を聞いたとは考えられないかしら?」

行なわれた指摘に紫はそう返したが、

「俺も魔理沙もお前が何所に住んでいるのか知らない。だから魔理沙の方からお前に接触は出来ないし、お前の方から魔理沙に接触したのなら俺に宴会参加の
許可を求め様とはしない筈だ。となると、考えられるのはお前が隙間で俺達の会話を盗み聞きしてたって事位だろ」

霊児は直ぐに反論を述べる。
述べられた反論を聞いた紫は少しも悪びれた様子を見せる事無く、

「正解。良く分かったわね」

正解と言う言う言葉を口にした。

「お前な……」

少しも悪びれていない様子の紫を見て、霊児がジト目になると、

「そんな顔しないの」

そう言いながら紫は自身の隣に隙間を開く。
開かれた隙間の中からは紫の式である藍が現れた。
現れた藍は大きな皿を両手で持っており、皿の中には幻想郷では見ない様な魚が何匹も乗っかっている。
兎も角、幻想郷では見ない様な魚に目を奪われた霊児に、

「このお魚は全て海のお魚。海の無い幻想郷では滅多に食べる事の出来ないお魚よ」

藍が持っている魚は全て海の魚である事を教え、紫は開いていた隙間を閉じた。
幻想郷では滅多に食べる事の出来ない魚。
この部分だけで霊児は全ての遺恨を水に流したかの様な笑顔で、

「良く来てくれたな紫、藍」

紫、藍の来訪を快く迎え入れた。
幻想郷には無い海の魚を持って来たと言っただけでこの態度の変わり様。
余りにも余りである為、

「海のお魚を持って来ただけでこの変わり様。一寸心配ね」
「女の色香に唆され、溺れるよりはマシかと……。まぁ、大差無い感じもしますが」

紫と藍の二人はジト目になりながら軽い会話を交わしていく。
霊児の今後を心配するかの様な二人の会話が耳に入ったからか、

「霊児は平時とそれ以外とじゃあ意識の有り方ってものに違うからね。少なくとも、あんた等が心配している事にならないさ。仮に姦計に掛けられたと
しても、霊児の実力なら掛けられた姦計事相手を叩き潰すだけの力は持っているしね」

心配する必要は無いと言う事を魅魔は口にする。
口にされた事を受け、

「確かに、霊児の実力なら掛けられた姦計何て力尽くで突破出来そうね」
「付け加えるのであれば、彼自身の力が強過ぎるせいか呪術と言った間接的な攻撃が無意味なものになっています。何せ、幽々子様の能力を無効化したと言う話ですし」

確かにと言う感じで紫と藍は心配する必要は無いと思い直した。
魅魔もそうが紫も藍も霊児の強さは身を以って知っている為、そう思い直すのに時間は掛からなかった様だ。
ともあれ、紫と藍の二人がそう言う判断を下している間に、

「で、その魚ってどうやって食うんだ? 焼いてか? 煮てか? それとも刺身でか?」

持って来た魚はどうやって食うんだと言う事を霊児は聞いて来た。
ワクワクとした目をしながら。
相変わらずと言えば相変わらずの霊児の態度に、紫は溜息を一つ吐き、

「それは宴会の時のお楽しみよ。とは言え、宴会に参加する人数は結構なものになるでしょうから今の内に下拵えをして置きましょう。藍が」

持って来た魚の調理方法は宴会の時のお楽しみだと言いつつ、藍に下拵えをやらせると言う指示を出す。
下拵え中に魚の調理方法を見るのは構わないと言う事だろうか。
兎も角、紫に下拵えをする様も指示を出された藍は、

「御意。下拵えをするに当たって博麗神社の台所を使わせて貰いたいのだが……構わないか?」

御意と返し、下拵えをする為に博麗神社の台所使用の許可を霊児に求める。
求められた許可に、

「ああ、構わないぞ。さっさとやってくれ」

霊児は間髪入れずに藍が台所を使う事を認めた。
この反応の速さに藍は本当に食い意地が張ってるなと言う感想を抱きつつも、

「なら、早速使わせて貰おうか」

主から出された指示を実行に移す為に博麗神社の台所へと向かって行く。
そして、藍の姿が見えなくなった後、

「さて、それじゃあ私はお酒やお摘みを探して来るわね。おそらく、宴会が始まったら足りなくなるでしょうし」

追加の酒などを探して来ると言って紫は自身の背後に隙間を開き、開いた隙間に身を投じて隙間を閉じた。
やって来た紫と藍の姿が見えなくなったので、

「で、これからどうする?」

これからどうするかと問いを魅魔は霊児に投げ掛ける。

「そうだな……」

投げ掛けられた問いに霊児が何かを返そうとした時、

「だーれだ?」

何者かが天から舞い降りる様な形で霊児の首元に手を回し、背後から抱き付いて来た。
突如として背後を取られ、抱き付かれた訳だが、

「何の用だ、幻月」

欠片も動揺した様子を見せずに、霊児は自分に抱き付いて来た者の名を口にする。
そう、霊児に抱き付いて来た者は幻月であったのだ。
ともあれ、自分の名を言い当てられた幻月は、

「相変わらず釣れない反応ねぇ」

少し頬を膨らませながら霊児から離れて地に足を着け、

「私の様な可愛い女の子が抱き付いて来たら、普通は喜ぶものでしょー」

文句の様な言葉を霊児にぶつける。
そんな言葉をぶつけられた霊児は、

「知るか」

素っ気無い返事をしながら幻月の方に体を向け、

「と言うかだ。普通に現れろよ」

現れるのなら普通に現れろと言う事を述べた。
すると、

「今の現れ方って、天使が舞い降りて貴方を守護しに来ましたって感じがするじゃない」

可愛らしい笑みを浮かべながら幻月はロマンチックと言える様な事を語る。
背中から天使を思わせる様な純白の翼が生えている幻月は天使と言っても差し替えない風貌をしているので、先程の幻月は傍から見れば幻月が語った様に見えるだろう。
だが、幻月の種族は天使では無い為、

「お前は天使じゃ無くて悪魔であり創造神だろうが」

間髪入れずに天使じゃ無いだろうと突っ込みを霊児は幻月に入れる。
が、

「そこはあれよ。天使の様に可愛いって事」

入れられた突っ込みに幻月はシレッとした表情でそう返した。
返された事から自分で自分の事を可愛いと称するのはどうなのかと霊児が思っている間に、

「このタイミングでここに来たって事は、お前さんも宴会に参加しに来たのかい?」

魅魔から幻月も宴会に参加しに来たのかと言う問いが投げ掛けられる。

「ええ、そうよ」
「何処で盗み聞きをしてたんだよ、お前」

投げ掛けられた問いに肯定の返事をした幻月に、霊児が何処で盗み聞きをしたんだと言うと、

「女の子の秘密を聞きたがる何て、男の子としては失格よ。霊児」

煙に巻く様な事を幻月は零し、

「果物を沢山持って来て上げたんだから文句は言わないの」

博麗神社で宴会が開かれる事を知った理由を追求しなければ果物を上げると言う様な事を言い、自身の掌の上に果物が入ったバスケットを出現させた。
その瞬間、

「良く来てくれたな、幻月。歓迎するぜ」

またまた全ての遺恨を水に流したかの様な笑顔を霊児は浮かべ、幻月の来訪を歓迎し始める。
食べ物を見せただけで思いっ切り態度を霊児を見て、

「食べ物を見せただけでここまで態度が変わるとは。神綺が言っていた通りね」

神綺が言っていた通りだと幻月は呟き、

「……あ、そうだ」

何か良い事を思い付いた言った表情を浮かべた。
そして、幻月は霊児を上目遣いで見詰め、

「ねぇ、霊児。私と戦ってくれたら美味しい食べ物やお酒を沢山上げるんだけどなぁー」

自分と戦ってくれれば美味しい食べ物や酒を提供すると言い出す。
今までの反応からこれで自分の頼みを受け入れてくれると幻月は思っていたが、

「断る」

思っていた事とは裏腹に、霊児は断ると断言した。

「えー、どうしてよー」

断られるとは思っていなかった幻月は、ついと言った感じで驚きの声を上げてしまう。
そんな幻月に、

「お前と戦いたく無いからだよ。お前と本気で戦ったら、どう足掻いても長引くし俺も大怪我を負うだろうし」

断った理由を霊児は語った。
霊児と幻月。
戦闘能力だけに絞ればこの二人は互角と言っても良い。
余談ではあるが神綺も霊児、幻月の二人と互角に渡り合える強大過ぎる戦闘能力を誇っている。
兎も角、自分と互角の強大過ぎる戦闘能力を持つ者と本気で戦ったらどうなるか。
確実と言って良い程の確率で双方とも無事では済まないだろう。
故に、霊児は幻月と戦いたくはないのだ。
日々をのんびり、グータラと平和に過ごしたいのだから。
とは言え、もしその戦いが幻想郷を護る為のものであれば積極的に挑んでいくであろうが。
ともあれ、自分との戦いを拒否された幻月は、

「前に霊児と戦った時は決着が着く前に終わっちゃったから、今度は決着が着くまで戦いたかったのになぁ……」

溜息を一つ着きながら今度は霊児と決着が着くまで戦いたかったのにと愚痴る。
愚痴られた事が耳に入ったからか、

「人気者だねぇ、霊児」

からかう様な声色で、魅魔は霊児を人気者だ称した。

「こんな人気、欲しくねぇよ」

称された事に霊児はそう返しつつ、

「で、用件は宴会に参加したいって言う宣言だけか?」

幻月に用件は宴会参加の宣言だけかと問う。

「ええ、そうよ」

問われた幻月は肯定の返事をしながら果物が入ったバスケットを霊児に向けて放り投げる。
放り投げられたバスケットを霊児が危な気無く受け止めると、

「折角だから、宴会の準備を手伝って上げるわ」

宴会の準備を手伝うと言う事を幻月は口にした。
準備をする人手が得られると言うのは霊児としても大助かりなので、

「おう。なら手伝ってくれ」

手伝いは大歓迎である事を言う様な事を述べ、

「魅魔、序だからお前も手伝ってくれ」

序だからと言った感じで魅魔にも手伝ってくれと言う頼みを行なう。

「ま、宴会が始まるまで暇だからね。手伝って上げるよ」

宴会開催まで暇と言う事もあり、手伝ってくれと言う霊児の頼みを魅魔は引き受けた。
運良く人手が集まったと言う事もあり、

「じゃ、さっさと準備するか」

若干やる気が出て来た雰囲気を見せながら霊児は宴会の準備に取り掛かる。
それに続く様にして、幻月と魅魔の二人も霊児の手伝いを始めた。






















幾らか時間が流れ、太陽が隠れ始めた時間帯。
様々な存在が博麗神社に集まり、ドンチャン騒ぎの宴会が始まっていた。
皆が皆、思い思いにと言った感じで宴会を楽しんでいる。
そんな中、霊児は、

「海の魚って言うのは、幻想郷の魚とは本当に違うんだな。味も、食感も」

一心不乱と言った感じ紫が持って来た海の魚を食べていた。
幻想郷では滅多に食べる事の出来ないものであるからか、集中的に。
放って置いたら一人で海の魚を食べ尽くすのでは思われた時、

「良く食べるわねぇ、貴方」

何処か呆れさが感じられる声色で、何者かが霊児に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した霊児は一旦魚を食べるのを止め、声が発せられたであろう方向に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目には、

「神綺」

神綺の姿が映った。
どうやら、霊児に声を掛けて来た者は神綺であった様だ。
兎も角、神綺の存在を認識した後、

「……幻月か?」

少し何かを考える素振りを見せ、ポツリと幻月かと呟く。
呟かれた内容を聞き、

「正解。幻月から今日博麗神社で宴会をするって言う念話を貰ってね。来ちゃった」

神綺は笑顔で肯定の返事をしつつ、念話で博麗神社で宴会が開かれる事を聞いたのだと話す。
宴会に招待した覚えの無い者が宴会に参加して来るのは良く在る事なので、そこに関して霊児は突っ込む事はせず、

「で、神綺は何を持って来たんだ?」

宴会参加に当たって何を持って来たのかと言う事を問うた。
問われた事を受け、

「本当、貴方は食い意地が張ってるわねぇ」

呆れた表情になりながら神綺は霊児をそう称し、

「私の方から持って来たのは、お酒とお肉ね。どちらも魔界産よ」

持って来た物が何であるかを教える。

「魔界の酒と肉も美味いからな。楽しみだ」

教えられた内容から魔界産の酒や肉を飲んだり食べたりをする場面を想像し、笑みを浮かべた霊児に、

「そう言えば聞いたわよ。貴方、幻月からの逢引のお誘いを断ったんですってね。酷い男だ事」

幻月からの逢引の誘いを断ったのだろうと言う言葉を神綺はぶつけた。

「幻月からの逢引の誘い?」

ぶつけられた言葉から、霊児は何かを考え始め、

「……幻月から戦ってくれと言われた事か」

考え始めてから少しすると、逢引と言う単語が何を指しているのかが頭に浮かんだ。
頭に浮かんだ事は正しかった様で、

「ええ、そうよ」

頷きながら神綺は肯定の返事をし、

「全く。女の子からの逢引のお誘いがあったら受けるのが男の礼儀ってものよ」

説教する様な声色で女の子からの逢引の誘いは受けるのが礼儀だと言う。

「何処の礼儀だよ、それ」

言われた事に霊児は即座に突っ込みを入れ、

「てかだ。お前が幻月と戦ってやれば良いだろ」

神綺が幻月と戦えば良いだろうと言う指摘をする。
神綺も幻月と同じで創造神。
更に言えば、神綺と幻月の二人と戦った事が在る霊児としてはこの二人に実力差は無いと判断している。
であるならば、神綺が幻月と戦っても問題は無い筈。
そう思っている霊児に、

「分かってないわねぇ。創造神と対等に渡り合えるだけの戦闘能力を持った人間である貴方と戦うのが面白いんじゃない。貴方と戦うまでは、創造神である私達と
対等に渡り合える存在は同じ創造神だけだと思っていたし。と言うより、実際そうだったのよねぇ。私を消して魔界をこの手にって言う野望と言うか野心を持った
奴を相手にした事が多々在ったけど、どいつもこいつも本気を出す様な力を持って無かったし」

どうして幻月が霊児と戦いたがっているのかの理由を神綺は語り、

「それに、私も霊児とはまた戦いたいのよ。今の霊児なら余力を残し、必要最低限の力で戦うって言うのは絶対に無理だしね。と言うか、実際それやって
負けちゃったし。だから、今度は最初っから本気で……ね」

自分も霊児と戦いたいと言う事を零して意味有り気な視線を霊児に送る。
送られた視線に気付いた霊児は、

「やだよ」

一言、やだよと返した。

「全く、酷い男ね。私の様な美女からの誘いを断るなんて」

やだと返された神綺は少し頬を膨らませながら霊児を酷い男と称し、

「そんなんじゃ、何時か女の子を泣かせてばかりの男に成っちゃうわよ」

この儘では女の子を泣かしてばかりの男になるぞと言う忠告の様な言葉を霊児に掛けた。

「知るか」

掛けられた言葉を無視するかの様な事を言い、

「そういや、魔界からは誰が来たんだ?」

ふと思い出したかの様に霊児は魔界からは誰が来たのかを問う。

「魔界から私、夢子ちゃん、ルイズちゃん、マイちゃん、ユキちゃん、サラちゃんね」

問われた神綺は下唇に人差し指を当てながら魔界からここに連れて来た者達の名を上げ、

「皆それぞれ散らばって行ったから、宴会場内を回っていれば会えると思うわよ」

宴会場内を回っていれば魔界から来た者に会えるだろうと言う事を口にする。
口にされた事を受けて、霊児はある事を考えた。
考えた事と言うのは、宴会に参加している者の数が想定していたよりも多いと言うもの。
と言う事は、何かしらのトラブルが発生する確率が高くなるだろう。
もし発生したトラブルで博麗神社に被害が出たら、目も当てられ無い。
だからか、

「……一寸、宴会場内を回って来るか」

見回りの意味の意味を籠めて、宴会場内を回ってる来るかと霊児は考え始めた。
そんな霊児の考えを聞き、

「あら、目の前の女を放って別の女の所に行く気? やっぱり酷い男ね」

からかう様な声色で神綺はそう言ってのける。
しかし、

「言ってろ」

当の霊児は欠片も動揺しなかった為、

「もう。相変わらずからかい甲斐の無い男ね」

目論見が外れたと言った感じで神綺は溜息を一つ吐くと、

「で、俺は行くがお前は如何する?」

自分は行くが神綺はどうすると言う事が霊児から尋ねられた。

「私? そうねぇ……私も色々と見て回ろうかしら。アリスちゃんともお話ししたいし」

尋ねられた事に神綺が自分も色々と見て回ると言う旨を零す。
取り敢えず、お互いこの場を離れると言う事になったからか、

「それじゃあな」
「ええ。若しかしたら、また会うかも知れないけどね」

軽い別れの挨拶の掛け合い、霊児と神綺は分かれて移動を始めた。






















「……お」

神綺と分かれてから少しすると、霊児の目にある一団が映った。
映った一団と言うのは、パチュリー、ユキ、マイの三人だ。
何か問題を起こしそうな面子には見えないが、念の為と言った感じで、

「よう」

霊児は目に映った三人に声を掛けて近付いて行く。
声を掛けられた三人は霊児の方に顔を向け、

「あら、霊児じゃない」

三人を代表するかの様にパチュリーが霊児の名を口にした。
そう口にされたお陰か、ユキとマイも霊児の存在を認識する。
その後、

「そういや、お前等は何をやってたんだ?」

何をやってたんだと言う問いを霊児は三人に投げ掛けた。
別段隠して置く事でも無いからか、

「彼女達と一寸した魔法談義をしていたのよ」

パチュリーは自分を含めた三人で魔法談義をしていた事を話す。
それに続くかの様に、

「魔界の魔法とこっちの魔法って色々と違うみたいでね。勿論、同じ部分も在るわ。けど、違う部分が方が多い。だからか、色々と勉強になるし楽しいのよ。
パチュリーとの話しは」
「……地上の魔法は遥か昔に魔界から伝わったと言う話を聞いた事が在ったから最初は余り期待してはいなかった。だけど、そんな事は無かった。こっちの
魔法は魔界の魔法とは違った進化、発展を遂げている。非常に興味深い」

ユキとマイは補足する様な事を口にする。
要するに、魔界の魔法と幻想郷の魔法は違う部分が多いと言う事であろう。
魔法に大して詳しく無い霊児はそう思いつつ、

「そういや、前に魅魔が魔界の魔法を習得する為にそっちに行ったそうだけど何か知ってるか?」

興味本位と言った感じで、以前魅魔が魔界の魔法を習得しに行った事に付いて何か知っているかと言う問いユキとマイの投げ掛けた。
投げ掛けられたユキとマイ少し昔を思い出すかの様な表情を浮かべ、

「あー……そう言えば来てたわね、あの幽霊魔法使い。色々な要因が絡み合った結果、マイと一緒にあの魔法使いと戦う事になったのよねぇ。まぁ、ボロ負けしたけど」
「……あれは戦う者としても魔法使いとしても私達の完全な負け。相当な実力者だとは思っていたけど、あそこまでとは思ってなかった。因みに、魅魔が習得した
魔法はおそらく古代魔法と言われるもの。古代魔法は基本的に習得難易度高すぎて扱える者が全く居なくなったタイプと上位互換の魔法が作られて廃れたって言う
二種類に分けられる。魅魔が習得したのは十中八九前者」

魅魔が魔界に来た際に戦った事と魅魔が習得したであろう魔法に付いて話す。
話された内容を聞いていたパチュリーは、

「魔界に住む貴女達から見ても、魅魔は魔法使いとして相当なレベルに有ると映るみたいね」

魅魔の魔法使いとしてのレベルは魔界に住まう者達から見ても相当なもので有ると結論付けた。
パチュリーが付けた結論に同意する様な形で、

「そりゃねぇ。高威力の魔法を平気な顔をでバンバン撃って来る、どんな高度な魔法も無詠唱で使って来る、全く違う種類の魔法を何個も同時に使って来る、
保有魔力量も桁違いに多いって感じなのよ。これだけのものを見せられて、魅魔を魔法使いとしてはレベルが低いと判断する者は居ないわよ」
「……更に言えば、魅魔は戦い方が上手い。この辺りも私とユキが二人掛かりで戦ってもボロ負けした要因」

ユキとマイの二人は魅魔と戦って凄いと感じた部分を口にし、

「魅魔と言えば、弟子の魔理沙ちゃん。何時ぞやの大会の後にここで開かれた宴会で魔理沙ちゃんを見たんだけど、滅茶苦茶強くなってるって言う印象を
受けたわ。初めて会った時は大した事無いって感じだったんだけどなぁ」

口にした事から、魅魔の弟子である魔理沙の事をユキは思い出す。
より正確に言うのであれば、霊児達が異変解決の為に魔界へと赴いて来た時にマイと一緒に霊児と魔理沙のコンビと戦った時の事を。
あの時点の魔理沙はユキから見てもマイから見ても、大した事無い魔法使いと言う評価であった。
だが、今はどうだ。
そんな評価を払拭するかの様な強さを身に付けている事を、ユキとマイの二人は以前の宴会で魔理沙を一目見ただけで気付いた。
ユキとマイからしたら大した事の無い時間でここまでの強さを得た魔理沙に驚いたとしても、仕方が無いだろう。
と言った感じで今と昔の魔理沙を比較した後、

「でも、霊児はあの時点でも出鱈目に強かったけどね。今は更に出鱈目になたって感じだけど」
「……年齢は魔理沙と変わりが無いのに、神綺様に勝つ様な強さ。今にして思えば、私とユキが霊児と戦って生き残ったのは凄い事かも」

当時の霊児も今と変わらずに出鱈目に強かったと言う事をユキとマイは零した。
僅かではあるものの、幼少期の魔理沙と霊児の情報を知れたパチュリーは、

「魔理沙は兎も角、霊児は幼少期の時点でも魔界の猛者相手に戦える実力を有していた……か。やっぱり、貴方は出鱈目な存在ね」

博麗霊児と言う存在はやはり昔から出鱈目な存在であったのかと結論付け、納得がいったと言う表情を浮かべる。
何やらユキ、マイ、パチュリーの中で自分の評価が変になっている様に感じたからか、

「あのなぁ、俺は純度100%の普通の人間だぞ」

自分は純度100%の人間の普通の人間であると言う主張を行なう。
しかし、

「普通の人間が魔界に突入したり、魔界で開催した大会に出場したりしないわよ」
「……普通の人間は魔界の猛者や創造神と戦い、勝ったりはしない」
「普通の人間は吸血鬼相手に真っ向から戦いを挑んだりはしないわよ」

間髪入れずに三人から突っ込みを入れられてしまった。
入れられた突っ込み返す言葉が見付からなかったからか、

「……………………………………………………」

何も言い返す事が出来ず、霊児は言葉を詰まらせてしまう。
霊児が言葉を詰まらせてしまったのを見て、

「舌戦なら、私達にも勝ち目が有りそうかしら」
「……少なくとも普通に戦うよりは遥かに勝ち目が有ると思う」

舌戦ならば霊児相手でも勝ち目が有るのではと言う推察を行なったユキとマイの二人に、

「尤も、それが大会と言ったルールが定められた試合に限るわね。そうでなかったら、力尽くで叩き潰されるわよ」

軽く忠告するかの様に舌戦で勝てても力尽くで叩き潰されるのがオチだとパチュリーは言う。
そう言われたユキとマイの二人はハッとした表情になり、

「確かに。これって言い方を変えたら、神綺様をからかうって言う様なものよね」
「……神綺様の機嫌が良かったら笑って済ませてくれるだろうけど、機嫌が悪かったら最悪消し飛ばされる。そして、神綺様曰く今の霊児は自分と同等の強さを
誇っているとの事。うん、下手をしたら私達は文字通り消される」

最悪消し飛ばされる可能性が在ると言う事で霊児に舌戦を仕掛ける事は止め様と言う判断を下した。
一通りパチュリー、ユキ、マイの三人と会話を交わしたり話を聞いた霊児は、この三人が何か仕出かす事を無いだろうと思い、

「それじゃ、俺はそろそろ行くな」

そろそろ行くと言う事を三人に伝える。

「霊児は魔法使いじゃないから、私達の話に興味は惹かれないか」

伝えられた事から魔法使いではない霊児に取って自分達の話には興味が惹かれないとユキは考えたが、

「……成程、場所を提供してる者としてはそう言った心配事が有ると言う訳か」
「まぁ、この宴会に参加している者は思っていたよりも多いから心配になるのも当然か。ま、頑張りなさい」

マイとパチュリーの二人はユキと違い、霊児が何をし様としているのかを理解した。
その後、

「それじゃあな」

それだけ言って、霊児はパチュリー、ユキ、マイの一団から離れて他の場所へと向かって行く。






















魔法談義をしていた三人と別れ、宴会場内を彷徨っている霊児の目に、

「あれは……咲夜と夢子か」

咲夜と夢子の二人の姿が映った。
この二人なら何か問題を起こす事は無いであろうが、一応と言った感じで霊児は二人に近付き、

「よう」

二人に声を掛ける。
声を掛けられた咲夜と夢子の二人は霊児の方に顔を向け、

「あら、霊児じゃない。こんばんは」
「御機嫌よう、霊児」

軽い挨拶の言葉を口にした。
その後、

「お前等二人が一緒に居るって言うのは珍しい……って訳でも無いか」

二人が一緒に居るのは珍しいと言う言葉を霊児は発し様としたが、直ぐに発し様としていた言葉を止める。
何故かと言うと、夢子は幻想郷に来ると咲夜に会いに行く事が多いからだ。
その理由に付いて、

「そうね。同じメイドだし扱っている武器も似ている事もあって咲夜とは話が合うから、私がこっちに来て時間に余裕が有る時は咲夜と会ったりしてるわ。
って、これは前にも言ったかしらね」
「他にも仕事の話や愚痴の言い合い……ってのも出来るのよ。お互い、メイドとして働いているから共感出来るし話しも弾むしね」

夢子と咲夜は簡単にではあるが口にした。
口にされた事から、霊児は何時だったか夢子が言っていた事を思い出しつつ、

「そういや、夢子はこっちに来る事がそれなりに在るけど咲夜が魔界に行ったりはしないのか?」

興味本位と言った感じで咲夜に魔界へ行ったりはしないのかと聞く。
聞かれた事に、

「私も行ってみたいとは思ってるんだけど、魔界は幻想郷よりもずっと広大だって言うでしょ。そんな広大な場所を観光したり夢子が働いているって言うお城に
行ったりってしたら、時間が幾ら在っても足りないわ。幾ら私が時間を操れる女でもね。それに、私が長時間紅魔館を離れるのも頂けないわ。冬が異様に長いと
言う異変解決をする為に紅魔館を後にして、紅魔館に帰ったら色々と大変だったし」

魔界には行ってみたいが長期間紅魔館を離れる訳にはいかいと言う事を咲夜は語った。
語られた内容を受け、

「そう言えば、何時だったかその事を愚痴ってたわね。妖精メイドが全然使えないって」

以前、咲夜が愚痴っていた時の話題を夢子は出す。
すると、

「そう言う貴女の所は優秀なのが多いらしいわね。やっぱり、魔界の創造神が住まうお城ともなれば優秀な者が集まり易いのかしら」

羨むかの様に夢子の所には優秀なのが多いらしいと言う事を咲夜は零す。
そんな咲夜に、

「優秀なのが多いと言っても、最初っから皆が皆優秀だったって事は無いのよ。メイドとして入って来た者を教育した結果、優秀になったって言う事もあるし。
それに私から言わせて貰ったら、メイドの数が多い紅魔館の方が羨ましいわ。今は役に立たなくても、役に立つ様になったら色々と改善するでしょうし」

夢子はメイドの数が多い紅魔館の方が羨ましいと言う台詞を返した。
質と量。
そのどちらかが幾らか欠けている方に取って、そのどちらかを満たしている方は眩しく見えると言う事であろうか。
兎も角、互いの職場を羨む様な事を言い合った後、

「と言った理由で、私は魔界に行ってないのよ」

話を戻すかの様に以上の理由で自分は魔界に行っていないと言う発言で咲夜はこの話題を終わらせ、

「そう言う貴方は魔界に行ったりはしないの?」

聞き返すかの様に霊児は魔界に行ったりはしないのかと問う。
問われた事に、

「必要が在れば行くけど、そうでないのなら態々魔界に行ったりはしないな。下手に魔界に行ったら、神綺に戦いを仕掛けられそうだし」

必要が無ければ魔界に行かない事と、その理由に付いて軽く話す。

「神綺様からしたら、貴方は創造神である自分と対等に渡り合える人間。神綺様の興味を惹かれるのも、仕方が無いわね」

話された内容から神綺が霊児と戦いたがるのも仕方が無いと言う事を夢子が呟くと、

「それと似た様な事、さっき神綺にも言われた」

何処か疲れた様な雰囲気を見せながら、夢子が呟いた事はさっき神綺に言われたと霊児は漏らした。
ともあれ、一通り咲夜と夢子の二人と会話を交わした霊児は、

「お前がここに居るって事は、ここに魔界の食べ物が在るかの?」

ここに夢子が居るのなら、魔界の食べ物は近くに在るのかと言う事を夢子に尋ねる。
話に一段落着いた瞬間に食べ物の事を尋ねて来た辺り、食い意地が張っているのは相変わらずかと思いつつ、

「そこのテーブルの上に乗っかっているのが魔界産よ」

近くのテーブルを指でさし、その上に乗っかっている食べ物が魔界産である事を夢子は霊児に教えた。
その瞬間、霊児は一目散にと言った勢いでテーブルに近付いて魔界の食べ物を食べ始める。
食べている霊児の勢いが相当なものであるから、

「ほんと、食い意地が張ってるわねぇ」

ついと言った感じで、咲夜は霊児を食い意地が張っていると称した。
霊児の事をそう称した咲夜に、

「ま、男の子ならあれ位は普通なんじゃない? それに、作った側からしたらああ言う風に食べてくれたら嬉しいものだわ」

男の子ならあれ位は普通だろうと言う事と、作った側からしたら霊児の様に食べてくれたら嬉しいと言う事を夢子は口にする。

「……確かに、男の子の食べっぷりは分からないけど美味しそうに食べてくれたら作った側としては嬉しいわね」

男の子の食べっぷりは分からないが、美味しそうに食べてくれたら嬉しいと言う部分に咲夜が同意を示したタイミングで、

「腹が膨れはしなかったが、美味かったな」

美味かった言う感想を述べながら霊児が咲夜の夢子の近くに戻って来た。
戻って来た霊児を見た夢子と咲夜の二人は、

「でも、もっと味わって食べて欲しいとは思うわね」
「同感」

そう言って溜息を一つ吐く。
二人が溜息を吐いた理由に付いて分からなかったからか、

「そういや、今回の宴会で出されてる料理ってお前等が作ったのか?」

それを無視しながら宴会に出ている料理を夢子と咲夜の二人が作ったのかと聞く。

「魔界から持って来た物は私が、紅魔館から持って来た物は咲夜がって感じでここに出されている料理は持って来た場所に属して居る者が作っているわ」

聞かれた事に持って来た場所に属して居る者が作ったと言う答えを夢子が述べると、

「そう言えば、夢幻世界の夢月って子。メイド服を着てるけど、メイドって訳じゃ無いのよね。彼女の作った料理、美味しいのに」

思い出したかの様に夢月はメイド服を着ているがメイドでは無いと言う事を咲夜は漏らし、少し残念と言った表情になった。
残念そうな表情になったのは、メイド仲間が増えると思ったらそうで無かったからか。
ともあれ、夢月の話が出たからか、

「幻月曰く、夢月は家事全般が出来るって事だからな。メイド服に関しては……幻月の事だから可愛いから着せたとかそんな感じだろ」

夢月が家事全般出来ると言う事と、メイド服を着ているであろう理由に付いて霊児は咲夜に伝える。

「ファッションとしてメイド服を着る……か。その内、他の仕事着や作業着と言ったものもファッション感覚で着る者が出て来るのかしら」
「毎日着ているこれがファッションになるのを想像したら、少し微妙な気持ちになるわね」

霊児から伝えられた事を受け、夢子と咲夜がメイド服がファッションになる時代が来るのではと考え始めた。
そんな二人の様子を見て、ここも問題は無いと霊児は判断し、

「じゃ、俺はそろそろ行くな」

二人にそう声を掛けて別の場所に向かおうとする。
掛けられた声に反応した夢子と咲夜の二人は、

「食べ歩き? 余り食べ過ぎには気を付けなさいね」
「後、飲み過ぎにもね」

食べ過ぎ飲み過ぎには気を付けろと言う忠告の様な言葉を霊児に返した。

「分かってるよ」

返された言葉に応えるかの様に霊児はそう言い、移動を開始する。






















夢子と咲夜のメイドコンビと別れ、宴会場内を彷徨っている時、

「あ、霊児ー」

自身の名を呼ぶ声が霊児に耳に入って来た。
だからか、霊児は一旦足を止めて声が発せられたであろう方に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目に、

「ルイズか」

ルイズの姿が映った。
更に、その隣に幽香の姿が在る事に気付く。
ルイズと幽香と言う組み合わせは珍しいなと言う感想を霊児は抱きつつ、

「何やってたんだ?」

興味本位と言った感じで何をやっていたのかと問いながら二人に近付き始めた。
霊児が二人にある程度近付いた辺りで、

「彼女……幽香に幻想郷の事を教えて貰ってたのよ。前に魔界の一部の者がここに侵略し様とした事件が解決されてからそこそこ時間も経ったし、
幻想郷を旅行し様と思ってね」

簡単にではあるが、幽香と話していた内容をルイズは霊児に教える。
教えられた内容を受け、

「……ああ、そういや幽香って夏以外の季節は幻想郷中をブラブラしてるんだっけか。幻想郷を旅行するなら、幽香に何かアドバイスを貰うってのは当然の考えか」

幽香が夏以外の季節は幻想郷中をブラブラしている事を霊児は思い出す。
すると、

「そう言う事もあって、彼女に幻想郷の地理に付いて教えていたのよ。ま、代わりに魔界に咲いている花に付いて色々と聞かせて貰ったけどね」

幻想郷の地理に付いて教えた代価として魔界に咲いている花に付いて教えて貰ったと言う事を幽香は語る。
以前魔界に突入した時もそうであったが、魔界の花は幽香に取って興味を惹くものなのだろう。
まぁ、そうでなければ四季のフラワーマスターと言う異名は付かなかったであろうが。
兎も角、二人の会話内容を知った霊児は、

「ま、幻想郷に害を成す様な事さえしなければ俺は何も言わねぇよ」

忠告とも言える様な言葉をルイズに掛ける。

「そんな事しないわよ。私は旅行がしたいだけだし。それに、神綺様と戦って勝つ様な人と好き好んで戦おうとは思わないわよ」

掛けられた言葉に返す様にルイズは霊児と敵対はしないと口にした。
が、

「あら、私は強い相手となら戦ってみたいけどね」

口にされた事とは正反対と言える台詞を幽香は発し、

「運動不足を感じたら、また貴方に戦いを仕掛けにさせて貰おうかしら」

意味有り気な視線を霊児へと向ける。
そんな幽香の視線に気付いた霊児は溜息を一つ吐き、

「勘弁してくれ……」

勘弁してくれと呟く。
その瞬間、

「あやややや、これは珍しい組み合わせですね」

文が三人の傍にやって来た。
文の接近に気付いた三人は文の方に顔を向け、

「あら、貴女は確か幻想郷の新聞屋さんじゃない」

ルイズは文がどう言った存在であるかを述べる。
それに応えるかの様に、

「そう言う貴女は魔界に住まうルイズさんではありませんか」

やって来た文はそう返し、

「処で、皆さんはどう言った集まりで?」

どう言った集まりなのかと言う事を三人に問う。
霊児、幽香、ルイズ。
この三人が一緒になっていると言うのは珍しいと言えるので、文がそう問うのも無理はない。
ともあれ、問われた事に対し、

「ルイズが幻想郷を旅行したいって言うから、幻想郷の地理に付いて幽香が教えてた。で、その最中に俺が来たって訳」

霊児は簡潔に文が欲しているであろう情報を答え、

「そうだ。お前も何かルイズに何か教えてやったらどうだ? ネタ探しに幻想郷中を飛び回ってるんだから良い場所の一つや二つは知ってるだろ」

折角だから文もルイズに何か教えてやったらどうだと提案する。

「別に構いませんが……そうですね、代わりに魔界で起きた出来事などを教えて頂いても?」

提案された事を引き受ける代わりに魔界で起きた出来事などを教えて欲しいと言う主張を文は行なう。

「ええ、それ位構わないわ」

行なわれた主張にルイズが構わないと言ってくれた為、

「ありがとうございます。では、先ずは私から。幽香さんは花が多く咲いている場所を教えていそうですしそれ以外だと……あ、そうだ。玄武の沢何てどうです?」

礼の言葉と共に文は先ずは自分からと言い、玄武の沢の情報を出す。
玄武の沢は岩盤などが多い事もあり、花は余り生えてはいない。
故に幽香が玄武の沢を教えていないだろうと文は判断し、玄武の沢の事をルイズに教えたのだ。
その判断は間違っていなかった様で、

「玄武の沢って言う地名は幽香からは聞かなかったわね」

ルイズは幽香から玄武の沢の情報を聞いてはいないと言う事を漏らす。
漏らされた言葉を受け、

「玄武の沢は余り花が無いから積極的に足を運ぼうとは思わないのよねぇ。あ、でもあそこの岩壁から偶に花が咲いている事があるの。まぁ、玄武の沢は
ふと思い出したら行くって感じかしら」

補足するかの様に玄武の沢が自分に取ってどう言う場所であるかを幽香は口にする。

「玄武の沢は岩盤が多いのね。そう言う場所でピクニックをするのも良いかもねぇ……」

口にされた事から玄武の沢の土地的情報を知ったルイズがそこでピクニックをし様と言う計画を立てていると、

「あら、それなら冥界もお薦めよー」

何の前触れもなく幽々子が四人の間に現れ、ピクニックの場所ならば冥界がお薦めと言う案を出して来た。
突如として現れた幽々子に霊児以外の三人が大なり小なり驚いた表情を見せている中、

「何処から湧いて出た、お前」

若干呆れが混じった声色で霊児が幽々子に突っ込みを入れる。

「あら、酷い。人をお化けみたいに」
「お化けみたいに……って、お前はお化けだろ」

湧いて出たと言う部分を受けて幽々子がそう反論したが、間髪入れずに霊児はその様に返す。
そんな二人のやり取りを見て、

「へぇ……と言う事は、幻想郷ってあの世とこの世を行き来する事が出来るのね」

幻想郷はあの世とこの世を行き来する事が出来る場所であると知り、ルイズが驚いた表情を浮かべた瞬間、

「冥界は良い所よー。静かでのんびり出来るし」

冥界が良い場所とであると言う事を幽々子はルイズに教えていく。

「生きている者に冥界は良い場所と薦めるのはどうなのよ?」

生者に薦める場所として冥界はどうなのかと言う疑問を幽香は抱くも、

「ま、貴女位の実力が有れば冥界に行っても大丈夫でしょうけど」

ルイズ位の実力が有れば冥界でも平気かと思い、抱いた疑問を頭の隅に追い遣る。

「あら、冥界って危険な所なの?」
「偶にトチ狂った人魂やら亡霊やらが襲い掛かって来る事が在るのよ。冥界ではね」

自分の実力なら問題無いと思われた事でルイズが幽香に冥界は危険な所なのかと聞き、幽香の口から冥界の何が危険なのかと言う事が紡がれた。
その刹那、

「それを言ったら、幻想郷でも同じじゃない? 野良妖怪が突然襲い掛かって来る事が在るでしょ」
「確かに。妖怪の山でも野良妖怪と言うか知能も知性も無い妖怪が襲い掛かって来ますからねぇ。同じ妖怪でもお構いなく」

幽々子から危険なのは幻想郷も同じだろうと言う指摘が入り、文もその指摘に同意を示す。
幽々子がした指摘の通り、幻想郷では野良妖怪に突如として襲われる事が在る。
人里を始めとして妖怪などに襲われない場所が幾つか存在するが、それでも襲われる場所の方が多い。
結局、危険度に関しては幻想郷も冥界も大して変わらないと言う事になるであろう。
ともあれ、幻想郷と冥界のどちらもある一定の危険を有しているのを知れたルイズは、

「そう言えば、魔界でも町や村と言った場所が見当たらない所で魔獣と言える存在に襲われる事が在るわねぇ。そう言う意味では、魔界も幻想郷も冥界も
変わらないのねぇ」

魔界でも魔獣と言った存在に襲われる事を思い出し、危険度は魔界と変わらないと言う判断を下す。
取り敢えず、話が一段落付いたからか、

「さてさて、それではルイズさんに魔界の事を聞かせて頂きましょうか」

文は手帳とペンを取り出し、魔界の事を聞かせて貰うと言ってルイズに詰め寄る。
それに続く様して、

「なら、私も魔界の花に付いてもっと聞かせて貰おうかしら」
「じゃ、折角だから私も聞かせて貰うわね。魔界の食べ物に付いて」

幽香と幽々子が知りたい情報を得る為にルイズに詰め寄って行った。
詰め寄られたルイズは軽い笑みを浮かべ、

「良いわ、色々と話して上げる。先ずは新聞屋さんからね」

魔界の事を教えると口にし、先ずはと言った感じで文が欲している情報を話し始める。
魔界に付いての話しをしているルイズに、それを聞いている文、幽香、幽々子の三人。
そんな四人の様子を見て、ここも問題は無さそうだと言う判断を霊児が下した瞬間、

「あ、そうそう。あっちの方に幻想郷以外の場所の食べ物を使った料理が置いて在るわよ」

幽香が霊児の方に顔を向けてある方向に指をさし、指をさした方には幻想郷以外の場所の食べ物を使った料理が在ると言う事を伝える。
伝えられた事を受け、

「お前、俺が求めてる物が良く分かったな」

ついと言った感じで霊児は幽香に良く自分が求めている物が分かったなと問う。

「何だかんだで付き合いが長いしね。貴方が食い意地を張っている事位、百も承知よ」

問われた幽香は付き合いが長いのだから分かって当然だと返し、

「幻想郷産以外の食べ物は珍しいからか、結構な速さで消費されている様よ。急がないと、無くなっちゃうかもね」

急がないと幻想郷産以外の食べ物が無くなってしまうと零す。
すると、霊児は他の場所に目を向けて足を動かし始めた。
足を動かして他の場所へと向って行く霊児を見て、

「ほんと、食い意地が張ってるわねぇ……」

少し呆れた表情になりながら幽香は改めて霊児の事を食い意地が張っている称する。






















幽香から速くしないと幻想郷産以外の場所から持って来られた食べ物が無くなってしまうと言われた霊児は、

「多分、この辺りに……」

幻想郷産以外の食べ物が在る場所に大体の当たりを付け、その近辺を探る様に顔を動かす。
すると、サラと美鈴が一緒に居るのが目に映り、

「あそこか……」

サラと美鈴が居る場所に幻想郷産以外の食べ物が在る事を霊児は確信し、二人が居る場所に近付いて行く。
そして、

「よう」

霊児は二人に声を掛けた。
声を掛けられたサラと美鈴の二人は霊児の方に顔を向け、

「あら、霊児じゃない」
「こんばんはです、霊児さん」

軽い挨拶の言葉を返す。
その後、霊児は近くに置いて在った食べ物を口に入れながら、

「お前等二人が一緒に居るってのも何か珍しいな」

サラと美鈴が一緒に居るのは珍しいと言う感想を零した。
魔界の出入り口の門番をしているサラと紅魔館の門番をしている美鈴。
やっている仕事の都合上、この二人は余り出歩く事は無い。
となれば、この宴会で仲良くなったのかと霊児が考えた時、

「美鈴とはこの宴会で会って話したら、話が弾んでね」
「場所は違えどサラは私と同じで門番をしているからか、話が色々と合うんですよ」

サラと美鈴の二人からこの宴会で会い、話が合ったので仲良くなれたと言う事が語られた。
やはりと言うべきか、この二人は今回の宴会で出会った様だ。
そして、サラと美鈴の二人は、

「でも、美鈴の職場は羨ましいわ。魔界の出入り口って、全然人が来ないし」
「私としては、サラの方が羨ましいけどね。人が全然来ないって事は、のんびりし放題じゃない」

互いの職場を羨む様な発言を発する。
そんな二人の発言を聞き、つい先程も似た様な事を聞いたなと霊児が思っている時、

「あら、これはまた中々見ない組み合わせね」

何者かが三人の傍にやって来た。
何者かの来訪に気付いた三人は、その来訪者の方に顔を向け、

「妹紅か」

妹紅と言う名を霊児は口にした。

「ええ、こんばんは。霊児」

霊児が妹紅の存在を認識したのと同時に、妹紅は霊児に挨拶の言葉を掛け、

「美鈴もこんばんは」

続ける様にして美鈴にも挨拶の言葉を掛ける。

「こんばんはです、妹紅さん」

挨拶を掛けられた美鈴が妹紅に挨拶の言葉を返すと、

「そう言えば、貴女とは初対面かしら?」

妹紅はサラの方に顔を向け、貴女とは初対面かと言う問いを投げ掛けた。

「そうね」

投げ掛けられた問いをサラは肯定し、

「それじゃ、簡単に自己紹介でもしましょうか。私の名前はサラ。魔界の出入り口の門番をしているわ」

簡単な自己紹介を行なう。
行なわれた自己紹介の内容を妹紅は頭に入れ、

「私は藤原妹紅。迷いの竹林に住む健康マニアの焼き鳥屋よ」

自分も簡単な自己紹介を行なった。

「焼き鳥屋……へぇ、妹紅って焼き鳥を作ってるんだ」

自己紹介の中に在った焼き鳥と言う部分にサラが興味覚えると、

「何だったら食べて見る? 一応私の方からもこの宴会用にって焼き鳥を持って来たから探せば見付かると思うわ」

宴会用に持って来た焼き鳥が在るから探して見たらどうだと言う案を出す。

「あら、そうなの? じゃあ、一寸探して見るわね」

出された案を受け、サラは周囲を見渡して妹紅が持って来た焼き鳥を探していく。
それを横目で見ながら、

「そう言えば、海産物何て久し振りに食べたわ。幻想郷には海が無いからねぇ」

久し振りに海産物を食べた言う事を妹紅は漏らし、

「私が幻想郷に来て、幻想郷が結界で覆われる前は時偶海に行って魚を釣ってたわねぇ……」

何かを懐かしむ様な表情を浮かべながら昔の事を思い出す。
漏らされた言葉が耳に入ったからか、

「そういや、海の魚ってどんなのが居るんだ?」

ふと、気になった事を霊児は妹紅に尋ねてみた。

「そうねぇ……代表的なのはシビ……今は鮪って言うんだったかしら? それに鰹、鰤、河豚、鰈、鱈かしらね」

尋ねられた妹紅は人差し指を下唇に当てながら思い浮かんだ海の魚の名を述べ、

「そうそう。鮪と言えば昔は大した魚じゃ無かったんだけど、幻想郷が結界で覆われる少し前辺りにはお値段が張る魚になってたのよねぇ。噂では、鮪一匹で
一財産になるとかどうとか」

鮪の値段が昔に比べて随分高くなったと言う豆知識の様なものを霊児に教え、

「今、霊児が食べてるのは鮪の刺身よ」

序と言わんばかりに今霊児が食べている物は鮪の刺身である事を伝える。

「へぇ、これが鮪って言う魚なのか……」

伝えられた事を受け、霊児は幾らかの興味を抱きながら改めて鮪の刺身を見詰め、

「ふむ……」

神綺と会っていた時に食べていた海の魚の中にも鮪が在ったのかも知れないと言う事を考えながら刺身を口へと運ぶ。
値段が高い魚と言う事を知って食べると今までよりも美味しく感じた為、霊児は若干不思議に感じつつ、

「今度から、人里の魚屋に行く時は外の世界の魚が在るかどうかを聞いてみるか」

今後、人里の魚屋に行ったら外の世界の魚が在るかどうかを聞く事にし様と言う計画を立てる。
同時に、ある事に気付いた。
何に気付いたのかと言うと、外の世界の食べ物などを人里で偶に売っている者の正体。
その正体と言うのは、八雲紫。
そう、八雲紫なのだ。
まぁ、幻想郷と外の世界を自由気儘に行き来する事を可能としている者は八雲紫位しか居ないのでこの結論に達するのはある意味当然ではあるが。
兎も角、霊児の中で一寸した予定を立てたり一寸した疑問が解消されたりしている間に、

「紅魔館ではお肉が多いですから、お魚を食べるのは中々新鮮ですねー」

霊児と同じ様に外の世界の魚の刺身を食べていた美鈴がそんな感想を零す。
零された発言が耳に入った霊児が、

「ああ、レミリアって肉系とかが好きそうだもんな」

レミリアは肉などが好きそうだと言う台詞を口にすると、

「お嬢様は血の滴るステーキとか好きですからねぇ。後、赤ワインとかも」

同意するかの様に美鈴はレミリアが血の滴るステーキ、赤ワインなどを好んでいる事を漏らした。
吸血鬼であるレミリアからしたら、血が入っている料理や血を連想させる飲み物は全て好みと言う事になるのであろうか。
と言っても、にんにくなど吸血鬼が弱点としている様な食べ物に血を入れても好物にはならないであろうが。
そんな感じでレミリアと言うより吸血鬼の食の好みに付いての軽い考察を霊児がしていると、

「御機嫌よう、霊児」

レミリアが霊児に声を掛けて来た。
声を掛けられた霊児は噂をすれば影だなと思いつつ、

「よう、レミリア」

ようと言う言葉をレミリアも返す。
と言った感じで二人が軽い挨拶を交わした後、レミリアは美鈴の方に顔を向け、

「貴女も楽しんでる?」

楽しんでるかと聞く。

「ええ、楽しんでますよ」

聞かれた美鈴は楽しんでいると答え、

「お嬢様はどうです? 楽しんでますか?」

レミリアはどうだと聞き返した。

「勿論、私も楽しんでいるわ」

聞き返されたレミリアは美鈴と同じ様な答えを言いつつも、

「でも、血入りの食べ物が全然の無いのは一寸不満ね」

出されている料理に血が入っている物が全然無かったと言う不満を口にする。
口にされた不満に対し、

「この宴会に参加している吸血鬼ってお前とフランドールだけだしなぁ。吸血鬼以外で血を好む奴はそうそう居ないだろ」

宴会に参加している吸血鬼はレミリアとフランドールだけだし、吸血鬼以外で血を好む奴は居ないだろうと言う指摘を行なう。

「そんな事は無いと思うんだけどねぇ……」

行なわれた指摘に否定的な意思をレミリアが抱いた時、

「やっと妹紅が作ったって言う焼き鳥を見付けたわー」

妹紅が作った焼き鳥を食べ、やっと見付けたと言う台詞と共にサラが戻って来た。
無事、目当ての物を見付けられてご満悦と言った表情を浮かべているサラを見て、

「……ふむ、感じる魔力から察するに魔界の住人か」

感じる魔力からサラが魔界の住人であるとレミリアは判断し、

「ねぇ、魔界の住人って血を吸ったりしないの?」

サラに魔界の住人は血を吸ったりしないのかと尋ねる。
尋ねられたサラはレミリアの方に顔を向け、

「貴女は……美鈴が言っていた紅魔館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットね。私は魔界の出入り口の門番をしているサラよ」

目の前に居るレミリアがどう言った存在が理解したのと同時に簡単な自己紹介をして、

「吸血鬼や吸血種って言う存在じゃなければ、好んで血を摂取し様とはしないわよ」

吸血鬼、吸血種でもなけれな好んで血を摂取したりはしないと言う事を伝えた。

「解せぬ」

伝えられた内容に幾らかの不満を抱いたレミリアに、

「そこは解せなさいよ」

若干呆れた表情になった妹紅が軽い突っ込みを入れる。
すると、

「ねぇねぇ、何の話してるのー?」

胡瓜を大量に乗せた皿を持っているにとりが現れた。
現れたにとりが持っている皿を見て、

「お前、良くそれだけ集めたなぁ」

呆れと感心が入り混じった表情で良くそれだけ集めたなと霊児は言う。
そう言われたにとりは皿から一本の胡瓜を手に取ってそれを齧り、

「そりゃ宴会場を回って来たからね。胡瓜を使った料理も良いけど、何の手も加えていないのを食べるのも乙なものだよ」

宴会場を回って来た事と胡瓜に対する自分のなりの考えを語った。
そして、

「霊児も食べる? 胡瓜」

また皿の中から一本の胡瓜を手に取り、手に取った胡瓜を霊児に差し出しながら食べるかと問い掛ける。
先程まで食べていた鮪の刺身はもう完食してしまった事で手持ち無沙汰になっているからか、

「そうだな、食うよ」

霊児は胡瓜を食べる事を決め、にとりから胡瓜を受け取り、

「ふむ……」

受け取った胡瓜を食べ始めた。
何か付けたりと言った事をせずに胡瓜をその儘食べている霊児、にとりの二人を見て、

「良くその儘で食べれるわねぇ」

何処か呆れた表情になったレミリアがそんな言葉を掛ける。

「何だ、お前は野菜とかをその儘で食べたりはしないのか?」
「しないわよ。精々、野菜スティックにして食べたりする位ね」

掛けられた言葉からレミリアは野菜などをその儘で食べないのかと言う疑問を抱いた霊児に、その儘で食べるのは精々野菜スティック位だとレミリアは返した。

「私も昔は良く野菜とかを生の儘で食べてたけど、幻想郷に来てからは野菜を生の儘で食べるって事はしなくなったわねぇ……」

二人の会話を聞き、昔の事を少し思い出している妹紅に、

「意外。貴女って、そう言う食べ方をした事が在るのね」

レミリアは意外と言った表情を向ける。

「あら、そんなに意外だったかしら?」
「ええ。貴女って、良い所の出だって言う感じがしたからね」

向けられた表情に気付いた妹紅がつい疑問気な表情を浮かべると、レミリアは妹紅が良い所の出だと言う事を感じたと零す。
零された発言を受けた妹紅は、

「……どうだったかしらね? 昔の事何て、忘れちゃったわ」

はぐらかすかの様に昔の事は忘れたと言い、酒を一口飲む。
触れて欲しく無い事でもあったのだろうか。
その様に感じた霊児は息を一つ吐き、

「そういや、お前が飲んでる酒って何所産だ?」

話題を変えるかの様に妹紅に今飲んでる酒は何所産であるかを妹紅に尋ねる。
尋ねられた妹紅は一旦酒を飲むのを止め、

「これは夢幻世界のお酒ね。後、この辺りは幻想郷産以外の物が多いみたいよ」

飲んでいる酒が夢幻世界産である事と、今居る場所の辺りには幻想郷産以外の物が多い事を霊児に教える。
この辺りに幻想郷産以外の食べ物が在ると当たりを付けてやって来た霊児ではあるが、ここに在る料理の大半が幻想郷産以外の物とまでは思っていなかったので、

「へぇー……」

驚いたと言った様な表情になりながら霊児は改めてと言った感じで周囲を見渡していく。
こうやって見渡して見ると、幻想郷では見ない様な料理が沢山在る事が分かった。
これならば色々と堪能出来そうだと思いながら、霊児は近くに在った料理を食べ始める。
霊児が新たな料理に夢中になっている間に、

「あ、妹紅。妹紅が作った焼き鳥、美味しかったよ」

サラが妹紅に焼き鳥が美味しかったと言う感想を伝えた。

「ありがとう」

美味しいと言う感想を貰えた事で嬉しそうな表情になりながら礼の言葉を妹紅が述べると、

「私もさっき焼き鳥を食べましたけど、凄く美味しかったです」
「ああ、それなら私も食べたわよ。咲夜には及ばないでしょうけど、良い腕してるじゃない」
「私としては胡瓜の方が美味しかったけど、焼き鳥も美味しかったよ」

美鈴、レミリア、にとりの三人からも妹紅の焼き鳥は美味しいと言う感想が口にされる。
サラに続いて美鈴、レミリア、にとりの三人からも妹紅の焼き鳥に対する感想が出た事から察するに、妹紅の焼き鳥は多くの者に食べられている様だ。
作って来た焼き鳥が色んな者達に食べられている事は想定していたが、食べた者達からこう何度も美味しいと言われるのは妹紅も想定していなかった。
だからか、妹紅は少し気恥ずかしい気分になってしまう。
そんな妹紅を余所に結構な勢いで料理を食べていた霊児は、ここも大丈夫そうだと判断して近くに置いて在る酒を飲み干し、

「それじゃ、俺はそろそろ行くな」

そろそろ行くと言う旨を皆に伝える。
伝えられた事を受け、

「食べ過ぎには注意しなさいよね」
「後、飲み過ぎにもねー」
「食べ合わせにも気を付けて下さいねー」

妹紅、にとり、美鈴の三人は食べ過ぎ飲み過ぎ食い合わせに注意しろと言う言葉を掛けたが、

「霊児にその心配は要らないんじゃない?」
「神綺様に勝つ様な存在が食べ過ぎ飲み過ぎ食い合わせでダウンする何て、考えられないしねー」

レミリアとサラの二人は特に心配していない様だ。
兎も角、五人にそう言われた霊児は他の場所へと向かって行った。






















サラ、美鈴、妹紅、レミリア、にとりの五人に別れた霊児は、またまたと言った感じで宴会場内を歩き回っていた。
そして、思う。
別に問題何て起こっていなかったと。
若しかしたら神綺に上手く乗せられたのではと言う疑念が霊児の頭に過ぎった時、

「あ……」

妖夢と夢月の近くを通ってしまっている事に霊児は気付く。
そのタイミングで妖夢と夢月の二人も霊児の存在に気付き、

「どうも」
「こんばんは」

簡単な挨拶を行なう。
挨拶をされたと言う事で霊児は足を止め、

「よう」

軽い挨拶の言葉を返す。
お互い挨拶の言葉を掛け合った後、

「ここでリベンジを果たしたいのだけど……」
「そんな事をしたら宴会を台無しにしちゃうからね。だから、私も夢月も今仕掛ける気は無いわ」

夢月と妖夢は霊児にリベンジをしたいが、今リベンジをすると宴会を台無しにしてしまうのでする気は無いと言う事を口にする。
騒ぎの鎮圧をすると言った事態にならなくて良かったと言う事を霊児は思いつつ、

「そういや、この辺りにある料理は何所産だ?」

この辺りに在る料理は何所産であるかを二人に聞く。
聞かれた事に、

「この辺りの料理は幻想郷産の物が多いみたいよ」
「私としては食べ慣れた夢幻世界産じゃなくて、食べ慣れていない幻想郷産や魔界産の料理を沢山食べられて満足だけど」

妖夢と夢月の二人は、この辺りには幻想郷産の料理が多いと言う答えを出す。
まぁ、夢月に関しては幻想郷産や魔界産の食べ物を食べられて嬉しいと言う感想であったが。
兎も角、この辺りに在る料理の産地が知れた後、

「んー……幻想郷産以外の物をばっか食べてたから、今度は幻想郷産の物を食べるか」

今度は幻想郷産の食べ物を食べ様と言う事を霊児は決め、早速と言わんばかりに近くに置いて在った料理を食べ始める。
そんな霊児を見た妖夢と夢月の二人は、

「霊児の台詞から察するにさっきからずっと飲み食いしてるみたいだけど、良く食べれるわねぇ」
「人間の男の子って、皆大食いなのかしらね?」

幾らかの驚きと呆れを混ぜた様な表情を浮かべ、

「食べる事と強くなる事ってイコールで結ばれるのかな?」
「完全には結ばれてはいないとは思うけど、少しは結ばれている気がするかな」
「んー……あ、幽々子様も健啖家だから良く食べる人はやっぱり強いのかも」
「そう言えば……姉さんも良く食べるっけ」

強い者は良く食べるのではと考えながら身近な人物を思い浮かべる。
冥界の管理人である幽々子に夢幻世界の創造神である幻月。
二人共、二つ名に恥じない力を誇っている。
ならば、自分達も健啖家になれば強くなれるのではと考えるのもある意味当然と言えるだろう。
打倒博麗霊児を掲げている事もあり、妖夢と夢月の二人が沢山食べたら強くなれるのかどうかの真偽を確かめ様とした時、

「あ、焼き魚見っけ」

何者かが三人の近くにやって来た。
それに反応した三人は来訪者の方に顔を向け、

「橙か」

三人を代表するかの様に霊児は一旦食べるのを止めて現れた者の名を口にする。
口にされた言葉が耳に入った橙は霊児達の方に体を向け、

「妖夢さんにお兄さんに……そっちの金色の髪でメイド服を着ている人は誰?」

妖夢、霊児の二人は知っているが夢月の事は知らないと言う事を零す。
零された発言を受けた夢月は、

「私は夢月。夢幻世界の住人よ」

簡単な自己紹介を行なう。
行なわれた自己紹介に返す様に、

「私は橙。藍様の式だよ」

橙も簡単な自己紹介を行なった。

「藍と言ったら……八雲紫の式よね。式が式を使役するとは、それだけ八雲藍は強大な力を持っているって事か」

行なわれた自己紹介から八雲藍が強大な力を有していると言う判断を夢月は下しつつ、

「そう言えば、貴女って誰か倒したい相手が居たりするの?」

ふと気になったと言った感じで、橙に倒したい相手が居るのかと聞く。

「紅魔館のメイドのお姉さんには勝ちたいなー」
「ああ、そういや咲夜に二連敗してたな。お前」

聞かれた事に答える様にして勝ちたい者の名を言い、思い出したかの様に霊児は橙が咲夜に二連敗した事を話した。
話された内容は橙に取って面白く無いものであるからか、

「ふん、これでも私は成長してるのよ。あのお姉さんにだって直ぐに勝って見せるもん」

橙は若干不満気な表情になりながら自分は成長している事と、直ぐに咲夜にだって勝って見せると言う主張を行ないつつ、

「そう言えば、妖夢さんと夢月さんは倒したい相手とか居るの?」

妖夢と夢月の二人には倒したい相手は居るのかと聞き返す。
すると、妖夢と夢月の二人は同じタイミングで霊児を指でさした。
それだけで橙はこの二人が霊児に敗北した事を察し、

「そうなんだ。頑張ってね」

激励の言葉を二人に掛ける。
どうやら、相手は違えど倒したい相手が居ると言う共通事項が在るせいかは橙は二人に共感を覚えた様だ。
尤も、妖夢と夢月も同じ様な共感を抱いたからか、

「貴女もね」
「貴女は……猫の妖獣よね。なら、その俊敏さと身軽さを活かす様な戦い方をメインに置いたら良いんじゃないかしら」

激励とアドバイスの言葉を橙に送った。
橙がこの二人と急速に仲良くなっていくのを感じつつ、霊児は近くに在ったワイングラスにワインを注ぐ。
そして、ワインを飲もうとした瞬間、

「あ、家のワイン見っけ」

また何者かが霊児達の近くにやって来た。
だからか、霊児はワインを飲むのを止めてやって来た者の方に顔を向ける。
顔を向けた霊児の目には、

「フランドールか」

フランドールの姿が映った。
こう言った宴会の場ではフランドールは誰かと一緒に行動している光景が良く見られたので、一人で行動をしているフランドールを霊児は珍しく思いながら、

「珍しいな、お前が一人で居るって」

その事に付いて尋ねてみると、

「何時も紅魔館の誰かと居るって訳じゃ無いわ。私だって一人で行動する事位、あるもの」

何時も誰かしらと一緒に居る訳では無いと言う事をフランドールは口にする。
霊児はフランドールが自分と戦って以降は安定したと言う様な話を聞いた事が在ったので、一人で居るのはその辺りが関係しているのではと推察していく。
まぁ、若しかしたらレミリアか咲夜のどちらかがこっそりフランドールの様子を見ていると言う可能性も存在するが。
兎も角、霊児とフランドールが話している間に、

「あら、また誰か来たみたいね」

二人の会話が耳に入った事で新たな来訪者が来た事を察した夢月はフランドールの方に体を向け、

「この魔力の感じ……貴女、吸血鬼ね」

フランドールから感じた魔力で、フランドールが吸血鬼である事に当たりを付けつつ、

「そう言えば……貴女、ここで開かれた何時ぞやの宴会に居たわよね。確か……名前はフランドール・スカーレット」

何時ぞやの宴会で会った時の事を思い出してフランドールの名前を紡ぎ、

「それにしても、貴女って独特な翼の形をしてるわね。夢幻世界にも吸血鬼は居るけど、翼の形はレミリアに近いわよ」

翼の形が独特だなと言う感想を漏らす。
フランドールの翼は枯れ木に宝石を吊るした様な造形をしているので、独特と言う感想を漏らしても仕方が無いだろう。
ともあれ、翼の形が独特と言う感想を抱かれたフランドールは、

「そうかな?」

疑問気な表情を浮かべながらフランドールは自分の翼に目を向け、翼を動かしてみる。
翼を動かし、自身の翼を観察しているフランドールを余所に、

「そういや、夢幻世界にも吸血鬼って居るんだな」

夢月が漏らした感想の中に在った言葉から、夢幻世界にも吸血鬼に居るのかと言う言葉を霊児は夢月に投げ掛けた。
投げ掛けられた言葉に反応した夢月は霊児の方に顔を向け、

「ええ、居るわよ。私が一番良く知っているのは私達の館に住んでいて、夢幻世界への入り口の門番をしているくるみって子ね。あの子も連れて来ようと
思ったんだけど、館の門番と一緒に何所かに遊びに行っててね。連れて来れなかったのよ」

夢幻世界にも吸血鬼が居る事と、一番良く知っているのが自分と幻月の館に住んでいて夢幻世界の入り口の門番をしているのだ言う事を語る。
序に、くるみと言う吸血鬼を今回の宴会に連れて来れなかった理由も。

「その言い分だと、やっぱり幻想郷に夢幻世界への入り口が在るんだな」
「ええ、そうよ。前に貴方がやって来た様に、寝ている時に夢幻世界に来るって言うのは裏ルートみたいなもの。くるみが門番をしている所から入るのが正規ルートね」

語られた事から幻想郷に夢幻世界への入り口が存在している事を推察した霊児に、夢月は肯定の返事をしながらくるみが門番している場所が正規ルートである事を教えた。

「吸血鬼を門番にする何て、凄い事をしてるのね」

霊児に教えていた内容が耳に入った妖夢が吸血鬼を門番としている夢幻世界の情報を知って少し驚いていると、

「実力が無い者にそう言った役目を任せても、簡単に突破されるだけだからね」

吸血鬼であるくるみを門番にしている理由を夢月を述べる。
確かに、門番の実力が低ければ簡単に突破されてしまうだろう。
であるならば、強力な力を有している吸血鬼を門番するのは理に適っていると言える。
とは言え、吸血鬼を門番に出来る程に人材が豊富であるからか、

「良いなぁ。冥界では門番を任せられる様な幽霊や人魂、亡霊は居ないし……」

夢幻世界を羨む様な発言を妖夢は零した。
零された発言から幽々子が起こした異変を解決する為に冥界に赴いて白玉楼に乗り込んだ際、白玉楼に門番が居なかった事を霊児は思い出す。
まぁ、仮に門番が居たとしても結果は変わらなかったであろうが。
兎も角、夢幻世界の人材豊富さに羨んでる妖夢に、

「だったら幽霊、人魂、亡霊を鍛えたら良いんじゃない?」

幽霊、人魂、亡霊を鍛えれば良いのではと言うアドバイスを夢月は行なう。
が、

「うーん……料理の手伝いを出来る様にはなってはいるけど、戦闘に耐えうるだけになるかなぁ……」

行なわれたアドバイスを実行しても戦闘に耐えれるだけの者が出来るかは疑問であるからか、ついと言った感じで妖夢は首を傾げてしまった。
それだけ、霊的な存在を鍛えるのが難しいと言う事であろうか。
となると、魅魔や幽々子は特別な存在になるのかも知れない。
妖夢と夢月の会話からそんな事を考えている霊児に、

「そう言えば、お兄さん所には門番とかは居ないの? 紫様と藍様は博麗神社は大切な場所だって言ってたけど」

博麗神社には門番は居ないのかと言う事を橙は聞いて来た。
聞かれた霊児は橙の方に顔を向け、

「必要ねぇよ。博麗神社には俺が居るんだから」

シレッとした表情で博麗神社には自分が居るのだから門番は必要は無いと断言する。
どの様な脅威が博麗神社に迫って来ようと何とかする自信が有ると言うより、それ位出来て当然と言う態度で。
そんな霊児の態度を見て、

「良くもまぁ、当たり前の様に自分に敵無しって言えるわね」
「そう言うところも、霊児の格好良いところだって前に魔理沙が言ってたよ」
「紫様と藍様が言うには、男の子はあれ位が丁度良いんだってさ」
「姉さんも自分に勝てる奴など居ないって感じだし。強くなるには、それ位の態度で居る事が必要なのかも知れないわね」

妖夢、フランドール、橙、夢月の四人はそれぞれ思った事を口にする。
その瞬間、

「宴会だから、係わり合いの無い様な面々が一箇所に集まっている場面を良く見ますね」

何者かが霊児達に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した一同は、声が発せられた方に顔を向け、

「椛か」

声を掛けて来た者の名を霊児は零す。
椛の名を聞き、

「あ、貴女は白狼天狗の……」

橙が椛がどう言った存在であるかの当たりを付け様とした時、

「そう言う貴女は八雲紫の式の式」

椛は橙がどう言った存在であるかに気付く。
橙と椛の発言から、

「あれ、お前等って知り合いなのか?」

二人は知り合いなのかと言う事を霊児が尋ねて来たので、

「一応、彼女も妖怪の山に居を構えていますからね。それ関係で知ってます。後は、彼女が八雲紫の式の式ですから」

自分が橙の事を知っている理由を椛は話す。

「あれ? お前ってマヨヒガに住んでるじゃなかったっけ?」

話された内容から橙はマヨヒガに住んでいるのではないのか言う疑問を抱いた霊児は、抱いた疑問を橙にぶつけると、

「マヨヒガが私の縄張りであって住んでるって訳じゃ無いよ。まぁ、最近はマヨヒガに居る事が多いけど」

マヨヒガは自分の縄張りだが住んでいる訳では無いと言う返答が橙から返って来た。

「マヨヒガって前に咲夜が言ってた簡単には行けない場所だよね? そんな場所で橙は何してるの?」

二人の会話からマヨヒガがどう言った場所であるかをフランドールは思い出し、橙にマヨヒガで何をしているのかと言う事を聞く。

「マヨヒガには猫が沢山居るからね。その猫達の中から私の部下となる子を探しているのよ」

聞かれた事に橙は胸を張りながらマヨヒガでやっている事を語ったが、

「その分だと、猫を部下にするってのは上手くいっていない様だな」

語られた事からマヨヒガで猫を部下するのが上手くいっていないのを霊児を察し、そう言った突っ込みを入れる。
入れられた突っ込みは的を射ていたからか、

「うぐ……」

橙は言葉を詰まらせてしまう。
だが、直ぐに何処か得意気な表情になり、

「ふ、ふん!! 直ぐに沢山の部下を従えて藍様みたいな凄い妖獣になって見せるもん!!」

直ぐに猫達を部下にし、藍の様な妖獣になると言う決意を表明する。
弾幕ごっことは言え、橙は咲夜とある程度とは言え渡り合って咲夜にスペルカードを使わせた。
それも二回も。
以上の事から、橙の潜在能力はかなりのものが有ると霊児は考えている。
であるならば、橙が藍の様になると言うのも不可能ではないだろう。
まぁ、そうなるまでにはかなりの時間を必要とするであろうが。
橙が藍レベルになる頃には、自分は生きていないだろうなと言う事を霊児が思っている間に、

「妖怪の山の桜も良いものですが、博麗神社の桜も良いものですね」

博麗神社の桜に付いて感想を椛は漏らし、

「お酒も進みますし」

酒も進むと言いながら酒を一口飲む。
そんな椛を見て、

「そうやって何かを見ながら飲むと、何時もよりも美味しく感じるのは何でだろうね?」

フランドールからその様な疑問が発せられた。
発せられた疑問に、

「その時の精神状態で食べ物、飲み物は味が変わるって言うからそのせいじゃない?」

精神状態で味が変わるからではと言う答えを夢月は出す。

「言われて見れば……そうかも。最近は昔よりもご飯が美味しくなった感じがするし」

出された答えには覚えがあるからか、フランドールは納得した表情になる。
フランドールの納得した表情を見て、

「……と言う事は、霊児を倒した暁にはご飯もお酒もかなり美味しくなるって事よね」

霊児に勝つ事が出来ればご飯も酒も美味しくなるだろうと言う推察を妖夢は行なう。
行なわれた推察が耳に入ったからか、

「霊児さんに勝つ事を目標にしてるんですか。まぁ……目標は高ければ高い程、良いのかも知れませんね」

目標は高ければ高い程良いと言う事を椛が呟くと、

「その言い方だと、貴女も霊児と戦った事が在るのね」

呟かれた内容から、夢月は椛も霊児と戦った事が在ると判断する。
判断された事に間違いは無い為、

「ええ、少し前に文さんと二人掛かりで。と言っても、私も文さんも普通に負けましたけど」

肯定の言葉と共に二対一で負けた事を椛は話す。
すると、

「ああ、そう言えばあったな。そんな事」

嘗て夢美が起こした異変で椛と文のペアと戦った事を霊児は思い出した。
あの異変はあの異変で色々と大変だったが、あの異変のお陰で霊児は生涯愛用出来るグローブを手に入れる事が出来たのだ。
異変解決と言うのは霊児に取って面倒臭い事ではあるが、トータルで見たらあの異変はイーブンと言ったところだろうか。
と言った感じで、昔の事を霊児が思い出している間に、

「私も霊児と戦った事が在るけど、負けちゃったっけ。本気で戦っても霊児は壊れる気配を感じなかったし」

霊児と戦った事があると言う話題に乗っかる様な形で、フランドールも霊児と戦って負けた事を語り、

「そう言えば、その戦いで紅魔館が廃墟となって貴女とレミリア・スカーレットが一時期博麗神社に居候してましたっけ」

それに続けるかの様に、椛はその戦闘で紅魔館が廃墟になったせいでスカーレット姉妹が博麗神社に居候していた事が在ると言う補足をする。
妖夢、夢月、椛、フランドールと、自分以外の者が霊児と戦った事が在るのを知り、

「お兄さんって、色んな人と戦ってるんだねぇ。やっぱり博麗だからかな?」

博麗だから色々な者と戦ったりするのではと橙は考えた。

「俺としてはそう言う面倒臭い事はしたくないんだけどな。俺は毎日縁側で茶を啜れれば満足だし」

そう考えている橙に戦いなぞ望んでいないと言う様な発言を霊児が掛けた刹那、

「とは言え、幻想郷に何か遭ったら動くのでしょう?」

確信を得ていると言う様な声色で幻想郷に何か遭ったら動くのだろうと言う問いが椛から投げ掛けられる。
投げ掛けられた問いに霊児は迷う事無く、

「当たり前だ」

当たり前だと言う言葉を紡いだ。
グータラ好きだと言うのに、幻想郷の危機には誰よりも率先して動こうとする。
博麗だからと言う理由だけではなく、博麗霊児自身の意志で。
おそらく、この辺りも直属の上司である大天狗が霊児の事を高く評価している一因だろうなと言う事を椛を考えつつ、

「……っと、そうだ。大天狗様から霊児さんに言伝を預かってます。宴会には参加出来なくて済まぬと」

思い出したかの様に大天狗からの言伝を霊児に伝えた。

「そっか、大天狗の奴参加してないのか……忙しいのか?」

大天狗が宴会に参加していない事を知り、大天狗は忙しいのかと言う事を霊児が椛に聞くと、

「忙しいと言うか、今日は天魔様と全大天狗様達が集まって会議を開く日なんです。流石に大天狗様も今日の会議をサボってこの宴会に参加するって事は
出来なかった様でして……」

椛は霊児に大天狗が宴会に参加出来なかった理由を教える。
白狼天狗である椛や烏天狗であると文と違い、大天狗ともなれば頻繁に妖怪の山から出られないと言う事であろうか。
ともあれ、大天狗が宴会に参加していないのを知った霊児は、

「大天狗には気にするなと伝えて置いてくれ」

椛に大天狗への言伝を頼み、

「さて、ワインでも飲むか」

話を変えるかの様にしてワイン瓶を手に取ってワイングラスにワインを注ぎ、ワインを飲み始めた。
そんな霊児を余所に、

「そうそう。貴女達二人も霊児に負けたって話だけど、霊児にリベンジする気は無いの?」

夢月が椛とフランドールに対し、霊児にリベンジする気は無いのかと問う。
問われた椛とフランドールの二人は、

「私は霊児さんにリベンジをしたいと言う気持ちは特に在りませんね。私個人としても天狗の一人としてに霊児さんと戦う理由は特に在りませんし」
「私はまた霊児と戦ってみたいかな。本気で戦っても霊児は壊れないし。あ、でも霊児が本気を出したら直ぐ負けちゃうか」

それぞれ正反対と言える答えを出した。
椛は兎も角、フランドールがまた自分と戦いたいと言う意思を見せて来たの知った霊児はワインを飲むのを一旦止め、

「勘弁してくれ。何で大した理由も無いのにお前の様な強い奴と戦わなきゃならないんだ。それに本気を出すと疲れるし、お前との戦いは神経を使うし」

フランドールと戦うのは勘弁したいと言う言葉を吐き出す。
吐き出された言葉の中に気になる部分が在ったからか、

「霊児、彼女は貴方に神経を使わせる程に強いの?」

幾らか興味深そうな視線をフランドールに向け、フランドールはそんなに強いのかと言う事を妖夢は霊児に尋ねる。

「フランドールは確かに強い。はっきり言って、そこ等の妖怪など相手にならない程にな。唯、問題はフランドールの能力だ。フランドールの能力は
"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"。この能力は読んで字の如くどんなものでも破壊する事が出来る能力だ。実際、俺の緋々色金製の短剣を
破壊したしな。それも容易く一瞬に近い時間で」

尋ねられた霊児は強さ以上に能力が厄介である事を話し、フランドールがどの様な能力を有しているのかを教えた。

「緋々色金製の短剣を容易く破壊……となると、私の楼観剣と白楼剣も容易く破壊されるだろうなぁ」

教えられた内容から自分の楼観剣と白楼剣もフランドールの能力で破壊されるだろうと言う事を妖夢が思っている間に、

「てか、フランドール。俺と戦いたかったら弾幕ごっこにしろよ。弾幕ごっこなら上空で戦えば他に被害がいく事も無いし。前に俺が弾幕ごっこの事を
教えてから結構経ってるし、弾幕ごっこは問題無く出来るだろ」

霊児はフランドールに戦いを挑んで来るなら弾幕ごっこにしろと言う。
そう言われたフランドールは何かを考える様な素振りを見せながら、

「弾幕ごっこかぁ……うん、それでも良いかも」

弾幕ごっこで霊児と戦うのでも良いかと思い始めた。
これでフランドールに戦いを挑まれる様な事が起きたとしても、博麗神社に被害が出る事は無いであろう。
後顧の憂いが幾らか断てたと言う様な表情を霊児が浮かべていると、

「そう言う貴女達は霊児さんに弾幕ごっこでリベンジしたりはしないんですか?」

夢月と妖夢の二人に弾幕ごっこで霊児にリベンジしないのかと言う事を椛は聞く。

「それは無いわね。私と妖夢は霊児と普通に戦って負けたし」
「普通に戦って負けたのならば、普通に戦って勝たなければリベンジを果たしたと言えないからね」

聞かれた二人は普通に戦ってリベンジをすると言う主張をした。
された主張から椛は霊児に少し同情しつつ、

「……でも、力を上げて相手を見返すと言うのは良いかも。そうすれば、文さんも少しは真面目になるかもしれないし」

力を上げて文を見返せば、文も真面目になるのではと言う事を考え始める。
そんな椛に向け、

「戦いを挑んでも文なら適当な言い訳を並べて戦いを避けそうだけどな」

文ならば上手く戦いを避ける様な事をするのではと言う言葉を霊児は掛けた。
掛けられた言葉に思い当たる部分が在るからか、

「……確かに、あの人ならそうするかも知れませんね。何せ、口は良く回りますから」

確かにと言った様な表情になりながら椛はそう零す。
皆が皆と言う訳ではないが、戦う相手との戦い方を考えているのを聞き、

「私は弾幕ごっこかな。あのお姉さんをギャフンと言わせる方法は」

打倒咲夜を目指している橙は、弾幕ごっこで咲夜を倒す事を決める。
少々物騒な感じが漂って来るものの、ここで暴れると言った事は無さそうであると感じた霊児は、

「じゃ、俺は他の場所に行くな」

色々と思案している五人にそう言い残し、他の場所へと向かって行った。






















色々な面々が集まっている場所を一通り見て回った霊児は、賽銭箱を背にする様にして腰を落ち着かせていた。
そして、霊児は一息吐き、

「とんだ無駄足だった」

無駄足であったと呟く。
何故そんな事を呟いたのかと言うと、結局暴れそう者は見付からなかったからだ。
はっきり言って、平和そのものであった。
結果だけ見たら、霊児は神綺の言葉に踊らされた言う形になるだろう。
とは言え、色々と歩き回ったお陰で幻想郷産以外の食べ物や酒を沢山食べたり飲んだり出来た。
そう考えると、イーブンとも言えるかもしれない。
ともあれ、取り敢えず一息吐ける様になったので、

「さて……」

宴会会場から持って来た酒瓶に口を付け、酒を飲み始める。
ある程度酒を飲んだ辺りで霊児は酒を飲むのを止めて近くに在る桜に目を向け、

「……こうやって静かに桜を見るのも良いもんだな」

ポツリとそんな感想を漏らす。
暫しの間、霊児が一人で夜桜を楽しんでいると、

「よっ」

魔理沙が霊児の前にやって来た。
やって来た魔理沙に気付いた霊児が、

「よう」

魔理沙に軽い挨拶の言葉を掛けると、魔理沙は霊児の隣に腰を落ち着かせ、

「何か疲れてるみたいだけど、どうしたんだ?」

疲れている様だけどどうかしたのかと言う問いを霊児に掛ける。
問い掛けられた霊児は、

「ああ、実はな……」

疲れている理由を魔理沙に話す。
話された事を聞き、

「そりゃ大変だったな。お疲れ、霊児」

労いの言葉を魔理沙は口にする。
その後、

「そういや幻想郷産以外の食べ物も色々出てたよな。霊児は何所産のが気に入った?」

何所から持って来た物が気に入ったのかと言う事を尋ねる。

「んー……そうだな……」

尋ねられた霊児は何かを考える様な素振りをし、

「外の世界の魚、魔界の肉、夢幻世界の野菜は良かったな。味も歯応えも違ったし」

気に入った食材とその生産地となった場所を魔理沙に教える。

「ふーん……成程成程……」

教えられた事を受けた魔理沙は何かを考え始め、

「上手い事味付けと調理法を考えれば、幻想郷の物だけでも味と食感だけは再現出来そうだな」

幻想郷の物だけでも他の世界の食べ物の味や食感を再現出来そうだと判断し、

「霊児。その内今回の宴会で出た幻想郷産以外のと似た様なのを作ってやるぜ」

霊児にそう言った宣言を行なう。
今回の宴会で出された料理は霊児が好む物ばかりであったので、

「ああ、楽しみにしてるよ」

霊児は楽しみにしていると返す。
すると、魔理沙は笑顔を浮かべ、

「おう、任せて置け」

任せて置けと断言する。
その後、霊児と魔理沙の二人の目は自然と桜の方に向かい、

「夜桜は良いもんだな」
「ああ、そうだな」

軽い会話を交わし、桜の鑑賞に集中し出す。
そして、それから幾らか時間が経つと、

「ん……」

魔理沙が霊児の肩に自身の頭を預けた。
肩に掛かった重みに気付いた霊児は魔理沙の方に顔を向け、

「どうかしたのか?」

どうかしたのかと聞く。
聞かれた魔理沙は、

「これからもずっと一緒にさ、夜桜を見たり星空を見たり満月を見たり夜雪を見たりし様ぜ」

一寸とした願望の様なものを零す。
魔理沙との付き合いは長いし、魔理沙が隣に居る事は霊児に取って当たり前と言える為、

「ああ、そうだな」

特に考えもせず、霊児はそうだなと言う相槌打つ。
された相槌は魔理沙に取ってこの上なく嬉しいものであったからか、

「えへへ……」

物凄く幸せそうな表情を魔理沙は浮かべた。
行き成り機嫌が急上昇した魔理沙に疑問に抱いた霊児は、

「どうした?」

どうしたと言う言葉を魔理沙に掛ける。
掛けられた言葉に、

「んーん、何でもないぜ」

幸せそうな表情の儘、魔理沙は何でもないと返した。
態々詰め寄ってまで知る事でも無いので、

「そっか」

霊児はそれ以上何かを言ったりせず、顔を桜の方へと戻す。
そして、霊児と魔理沙の二人はのんびりとした雰囲気の中で桜を眺めていった。























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