ここ最近、ずっと三日に一度のペースで宴会が開かれている。
これを異変であると断定した霊児は異変解決に乗り出したのだが、その成果は芳しくない。
何故かと言うと、今までの異変解決の時の様に霊児の勘が上手く働いていないからだ。
今まで通りなら自身の勘が霊児に進むべき方向を教えてくれていたのが、今回に限っては何も教えてくれない。
だからか、先程魅魔と戦った後に霊児はある行動方針を取る事を決めた。
その行動方針と言うのは、嘗て異変を起こした者達の所へ赴くと言うもの。
少なくとも目に付く者全て倒して行くよりも、一度でも異変を起こした者の所に行く方が効率は良いであろう。
ともあれ、そんな行動方針を取った霊児が向かっている先は紅魔館。
紅魔館に向かっている理由は、魅魔と戦っていた場所から紅魔館が一番近い所に在るからだ。
と言った感じで空中から紅魔館を目指している霊児の耳に、

「おーい、霊児ー!!」

自身の名を呼ぶ声が入って来た。
それに反応した霊児は一旦足を止め、声が発せられたであろう方に体を向ける。
体を向けた先には、

「魔理沙」

箒に腰を落ち着かせた魔理沙の姿が在った。
この事から自分の名を呼んだのは魔理沙であると霊児が思ったのと同時に、魔理沙は霊児の傍までやって来て、

「よっ」

片手を上げて軽い挨拶の言葉を掛ける。

「おう」

掛けられた挨拶に霊児がそう返すと魔理沙は片手を下ろし、

「私は一寸人里に買い出しに行くところだったんだけど、霊児はどうしたんだ?」

自分の予定を教えながら霊児はどうしたのかと言う事を尋ねて来た。

「異変解決だ」

尋ねられた霊児が今している事を魔理沙に教えると、

「異変解決? 異変何て起きているのか?」

つい疑問気な表情を魔理沙は浮かべてしまう。
やはりと言うべきか、魔理沙も今回の件を異変と認識出来ていない様だ。
だからか、

「ああ、起きてる。ここ最近ずっと、三日に一度のペースで宴会は開かれるって言う異変がな」

起きている異変を霊児は魔理沙に伝えた。

「……ああ、確かに!!」

伝えられた事を頭に入れた魔理沙は今気付いたと言わんばかりの表情になり、

「しっかし、何で気付けなかったんだ? 幾ら何でもこんなペースで宴会を開かれ続けていたら可笑しいって思いそうなものなんだが……」

三日に一度のペースで宴会が開かれ続けているのに違和感を覚えなかった事に疑問を覚え、首を傾げてしまう。
が、気持ちを切り変えるかの様に魔理沙は直ぐに首を傾げるのを止め、

「それはそれとして、霊児は何所に向かってるんだ?」

一体何所に向かっているのかと言う事を霊児に問うた。

「紅魔館だ」
「紅魔館……と言う事は、またレミリア辺りが異変を起こしたのか?」

問われた事に霊児が紅魔館だと答えると魔理沙はその様な推察をしたが、

「いや、それは実際に紅魔館の連中に会って見ないと分からんな」

まだレミリア、強いて言うのであれば紅魔館の者が犯人かどうかは会うまで分からないと言う事を霊児が話した為、

「どう言う事だ? 霊児の勘が紅魔館に異変の犯人が居るって言ったんじゃないのか?」

またまた疑問気な表情を浮かべてしまう。
今までの異変は霊児の勘が進むべき道と言うものを指し示して来た事が殆どであった。
なので、今までの様に今回も霊児の勘が紅魔館に犯人が居ると訴えたのだと魔理沙は思っていたのである。
だと言うのに、霊児は今向かっている紅魔館に犯人が居るかどうかは分からないと話したのだ。
魔理沙が疑問気な表情を浮かべるのも無理はない。
そんな魔理沙の疑問を解消するかの様に、

「どうもこうも、勘が上手く働いて無いんだよ。今回の異変に限ってはな。だから、取り敢えず過去に異変を起こした者の所に行こうって事にしたんだ」

勘が働いていない事と現時点での活動方針を霊児は魔理沙に説明した。

「霊児の勘が働かない? そんな事、初めてじゃないか?」

説明された事を受け、霊児の勘が働かないのは今回が初めてではないかと魔理沙は漏らす。
すると、霊児は少し過去を思い返していき、

「……確かに、今回が初めてだな」

魔理沙が漏らした事は正しいと口にした。
と言う事は、今まで様に進むべき道を勘で知る事が出来ないので今回の異変解決はそれ相応の時間が掛かってしまうであろう。
幸い、今起きている異変は幻想郷そのものに被害を齎す様なものではないので時間的余裕は在る。
だからと言って長々と時間を掛ける気は無いと言う事を霊児が思ったタイミングで、

「……こりゃ、今回の異変解決は時間が掛かりそうだな」

少し気を引き締めると言った感じで、魔理沙から異変解決には時間が掛かりそうだと言う発言が発せられた。
どうやら、魔理沙も霊児と同じ様な事を思った様だ。
その後、

「それじゃ、早速紅魔館に行こうぜ」

早速紅魔館に行こうと言う事を魔理沙は言い出す。
行き成りとも言える魔理沙からの異変解決同行の申し出を、

「そうだな、そうするか」

霊児は悩んだり迷ったりする事無く受け入れた。
まぁ、今まで異変解決の為に出動した霊児に魔理沙は殆ど同行していたのだ。
今更断る意味は無いと言う事だろう。
と言った感じで一緒に紅魔館へと向かう事になった霊児と魔理沙の二人は、紅魔館の方に体を向ける。
そして、霊児と魔理沙は紅魔館に向けて素っ飛んで行った。






















霊児が魔理沙と一緒に異変解決しに行く事を決め、紅魔館を目指し始めてから暫らく。
二人は紅魔館まで後少しと言った所にまで来ていた。
紅魔館に着いたら早速乗り込もうと言う事を魔理沙は考えていたが、

「……ん? 美鈴の奴、起きてるじゃないか」

門番である美鈴が起きている事を知り、自分が考えていた方法を実行に移すのは少々困難になりそうだと言う様な事を零す。
零された言葉が耳に入った霊児は視線を魔理沙と同じ方向に向ける。
すると、紅魔館の門の前で軽い体操をしている美鈴の姿が霊児の目に映った。
寝ている事も多い門番と称されたりもする美鈴ではあるが、今回は起きていた様だ。
これでは紅魔館に忍び込んでレミリアに会うと言う選択肢は取れないだろう。
かと言って無理矢理進入したら、後々面倒な事になる可能性は高い。
だからか、霊児は正面から紅魔館に入る事を決めて降下して行く。
降下して行く霊児に続く様にして魔理沙も降下し、二人揃って地に足を着ける。
そして、霊児と魔理沙の二人は歩いて紅魔館の方に近付いて行くと、

「こんにちはです、お二人さん」

体操をしていた美鈴が霊児と魔理沙に気付き、体操を止めて二人に挨拶の言葉を掛けた。
挨拶の言葉を掛けられたと言う事で、

「おう」
「よう」

霊児と魔理沙は足を止めて軽い挨拶の言葉を返す。
その後、

「魔理沙がちゃんと正面から入るとは……あ、霊児さんが一緒だからかな? それはそうと、紅魔館に何の御用で?」

紅魔館にやって来た理由を問う。
取り敢えず反応を見ると言ったかの様に、

「異変解決の為だな」

嘘偽り無く、紅魔館にやって来た理由を霊児は口にした。

「異変解決? 異変何て起きているんですか?」

口にされた事を耳に入れた美鈴は疑問気な表情を浮かべながら首を傾げてしまう。
予想していた事だが、美鈴も今回の件に違和感を覚えていない様である。
だからか、

「三日に一度のペースで開かれ続けている宴会の事だ」

何が異変であるかを霊児は美鈴に教える事にした。
教えられた事を受けた美鈴は、

「……ああ!! 確かに!!」

今気付いたと言う様な表情と共に驚きの声を上げる。
魅魔や魔理沙と同じ様に、美鈴も指摘されれば気付けた様だ。
この三人と違って自分が自力で気付けたのは宴会開催場所が自分の家である博麗神社だったからかと霊児が考えている間に、

「あの宴会が異変だと言うのに気付けなかったのには疑問が残りますが……何故、異変解決の為に紅魔館にやって来たのですか?」

異変解決の為に紅魔館へとやって来た理由は何だと言う事を美鈴は霊児に尋ねた。
ここで本当の事を隠して紅魔館の中に入っても良いが、後でバレて面倒な事になってもあれなので、

「今回の異変にレミリアが係わっている可能性が在るからだ。それに、前科も在るしな」

紅魔館にやって来た理由を話す。
話された事を耳に入れた美鈴は、

「あー……確かにお嬢様は前科が在りますからねぇ。疑われるのも当然か」

異変を起こしたと言う前科が在る以上、レミリアが今回の異変に係わっていると思われても仕方が無いと漏らしつつ、

「ですが、私は紅魔館の門番。お嬢様に害を成そうする者を通しはしません」

霊児と魔理沙の二人を紅魔館に入れる訳にいかないと宣言して構えを取った。
どうやら、紅魔館の中に入るには美鈴を倒す必要が在る様だ。
とは言え、霊児達が二人に対して美鈴は一人。
状況的には霊児と魔理沙の有利なのだが、

「流石に貴女一人でその二人を厳しいでしょ。手を貸して上げるわ」

その状況も咲夜の登場で消える事となった。

「咲夜さん。どうしてここに」

突然現れた咲夜に美鈴は驚きながらもここに来た理由を聞く。

「それは貴女がまた寝ていないかどうかの確認をしに来たのよ」

聞かれ咲夜がシレッとした表情で門の前まで来た理由を話すと、

「な、何を言ってるんですか咲夜さん!! 私は何時だって真面目に門番をしてますとも!!」

慌てた動作で美鈴は何時も真面目に門番をしていると言う主張を行なう。

「どうだか」

行なわれた主張に咲夜は素っ気無い態度でそう返し、

「それにしても……あの宴会が異変だなんてね。霊児にそう言われるまで、全く違和感を感じなかったわ」

今回開かれ続けている宴会が異変だった事に気付けなかったと口にする。
口にされた事から察するに咲夜は霊児達の会話を聞いて様だ。
しかし、だからと言って咲夜も霊児達を通す気は無いからか、

「やっぱ、お前も通す気は無いのか」

一応確認すると言った感じで霊児は咲夜にそう尋ねる。
尋ねられた咲夜は霊児の方に体を向け、

「紅魔館のメイド長である私が、お嬢様に害を成そうとする者を通すと思う?」

レミリアに害を成す者を通すと思うのかと尋ね返す。
やはりと言うべきか、咲夜も霊児達を通す気は無い様だ。
こうなっては、もう交戦は避けられないだろう。
それを悟った魔理沙は好戦的な笑みを浮かべ、

「これで二対二。へへ、面白くなって来たぜ」

美鈴と咲夜の二人から距離を取って構えを取った。
場の空気が完全に戦いをすると言う雰囲気になったのを感じながら霊児は左腰に装備している短剣を左手で掴み、

「……そういや、戦闘方法はどうする?」

ふと思い出したかの様に美鈴と咲夜の二人に戦闘方法に付いて尋ねてみる。
尋ねられた二人は少し考えを廻らせる様な表情になり、

「……弾幕ごっこにしましょうか。弾幕ごっこなら流れ弾で紅魔館の門や門壁で破損する心配も無いし」

後の被害も考慮してか、戦闘方法は弾幕ごっこにすると咲夜が言ってのけた。
破損などの心配が出て来る辺り、嘗て紅魔館が廃墟館と言う名に成っても可笑しく無い程に壊れた時の事を思い出したのであろうか。
紅魔館修繕現場を霊児は見た事は無いが、物凄く大変だったと言う事は聞いている。
また修繕する様な事態になるのを避けたいが為に咲夜は弾幕ごっこを戦闘方法に選んだのだろう。
霊児としても弾幕ごっこなら消耗も少なくなるので、

「あいよ」

弾幕ごっこで戦う事を霊児は了承しながら短剣を抜き放ち、短剣の刀身部分を霊力で覆った。
霊児と魔理沙の準備が整ったのを見て、美鈴と咲夜の二人も構えを取る。
構えを取った際に咲夜は太腿に装備してあるナイフを手に取り、霊児と同じ様にナイフの刀身部分を霊力で覆おう。
弾幕ごっこでは故意の殺傷などは禁止の為、殺傷能力の高い武器を扱う者は武器の殺傷能力を押さえる工夫が必要に成って来る。
因みに、今回霊児と咲夜の二人がやったのは霊力で刀身に鞘を被せたと言うものだ。
ともあれ、これで全員の準備が整った。
後は誰かが動けば状況も動き出すだろうと思われた瞬間、

「……しっ!!」

美鈴が霊児との間合いを一気に詰め、霊児に向けて拳を放つ。
放たれた拳を霊児は短剣の腹で受け止めた。
すると、まるでそれを合図にしたかの様に咲夜は魔理沙との距離を詰めに掛かる。
咲夜相手に接近戦は不利だと悟ったからか、魔理沙は弾幕をばら撒きながら後ろに下がって行く。
魔理沙と咲夜の方も戦いが始まると、

「……実を言うとですね、霊児さんとは一度手合わせをしたいと思っていたんですよ」

拳を放った体勢の儘、美鈴がそんな発言を零す。

「俺と?」

零された発言が耳に入った霊児がつい疑問気な表情を浮かべてしまう。
だからか、

「歴代初の男の博麗であり、幼少期の時点で歴代のどの博麗の全盛期をも上回る戦闘能力を持っていた。更には名立たる妖怪処か、創造神さえもが貴方を高く
評価しているって言うじゃないですか。武術を嗜む者としては、手合わせをしたいと思うのは当然ですよ」

霊児と手合わせをしたいと零した理由を美鈴は説明した。
された説明を受け、

「……何か、気付けば色々な奴等に目を付けらてるな。俺」

溜息混じりに愚痴の様なものを霊児は漏らした。
霊児からしたら、こうやって目を付けられると言うのは避けたい事なのだろう。
そんな霊児の心中を知ってか知らずか、

「歴代初の男の博麗であり、最強の博麗。更には起きた異変も全て解決している。これ目を付けるなって言うのは無理ってものですよ」

目を付けるなと言うのは無理だと断言しながら美鈴は拳を引き、引いた拳の代わりだと言わんばかりに霊児に頬に向けて蹴りを繰り出す。
繰り出された蹴りに反応した霊児は、蹴りを避ける為に頭部を後ろに倒す。
霊児の頭部が後ろに倒された事で美鈴の蹴りは空を斬る結果に終わってしまう。
攻撃を避けられると言う結果に終わったものの、

「流石」

美鈴は残念がる事無く、霊児に称賛の言葉を掛ける。
そして、

「では、これならどうです」

先程までのパターンと変えるかの様に美鈴は連撃を繰り出し始めた。
次から次へと繰り出される拳と蹴りを、霊児は涼し気な表情で全て紙一重で避けていく。
だからか、

「これも避けますか。それも涼し気な顔で」

苦笑いと言った感じの表情を美鈴は浮かべ、

「それにしても、実際にこうやって戦って見ると身に沁みて解りますね。霊児さんのとんでもない強さが」

博麗霊児の強さを改めて理解したと言う様な事を呟く。
呟かれた内容が耳に入った霊児は、

「強くなければ、博麗何てやってられないからな」

博麗として強いのは当然だと言い、連撃の隙を突くかの様に刺突を繰り出す。
繰り出された刺突に反応した美鈴は連撃を強引に中断し、後ろへ跳んで霊児との間合いを取った。
霊児との間合いを取った事で刺突を避けられて美鈴が一安心している間に、ちらりと言った感じで霊児は魔理沙と咲夜の方に視線を向ける。
すると、お互い濃い目の弾幕を放ち牽制し合っている様子が霊児の目に映った。
目に映った光景から、魔理沙も咲夜も自分が最も得意とする距離に移行出来ずにいる事を霊児は感じ取る。
それ故に、ある程度の距離を維持しながら二人は弾幕を放ち合っているのだろう。
そう考察しながら霊児は美鈴の方に視線を戻し、

「……しっ!!」

咲夜の方に向けて霊力で出来た弾を放つ。
放たれた霊力で出来た弾に気付いた咲夜は弾幕を放つのを中断して回避行動を取ったが、

「……しまっ!!」

直ぐに自分の失態に気付き、慌てて魔理沙の方に体を向ける。
その瞬間、

「サンキュー、霊児!!」

魔理沙は霊児に礼を言いながら咲夜との距離を離し、今までよりも濃い弾幕を放ち始めた。
魔理沙との距離が離れ、更には弾幕の濃さも上がってしまった為、

「く……」

先程までの様に自分も弾幕を放って攻撃と言う事を咲夜は出来なくなり、回避行動に専念する事になってしまう。
膠着状態から一転して魔理沙に押される形となった咲夜を見て、

「援護攻撃……ですか。弾幕ごっこは一対一が殆どですので、援護すると言う発想は無かったですね」

弾幕ごっこは一対一が殆どである為、援護と言う発想は無かったと言う事を美鈴が口にすると、

「魔理沙が言ってただろ。二対二だって」

既に二対二で戦う事を魔理沙が言っていただろうと言う指摘を霊児は行なう。
行なわれた指摘を受けた美鈴は戦いが始まる前の事を思い返し、

「……そう言えば、そんな事を言っていましたね」

霊児からの指摘を認める発言を発する。
そして、

「なら、私も咲夜さんの援護をしても良いと言う事ですね」

自分も咲夜の援護をする事を美鈴は決めた。
勿論、美鈴も咲夜に対して援護をしたとしても何の問題も無い。
但し、

「ああ、別に構わないぞ。ま、俺がそれを許すかどうかは別だけどな」

美鈴が咲夜の援護するには霊児からの妨害を抜く必要が在るが。
とは言え、そんな事は、

「ええ、勿論それは存じていますとも」

美鈴も十分に承知している。
故に、

「ですので、援護を通させる様な攻撃をさせて貰います」

何時の間にか取り出していたスペルカードを美鈴は霊児に見せ、

「彩華『虹色太極拳』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると美鈴は地に足を叩き付ける。
すると、虹色に光り輝くエネルギー状の波が美鈴を囲む様にして出現した。
しかも、出現した波はどんどんと範囲を広げていく。
この儘地上に居ては虹色の波に当たってしまうので、霊児は空中へと躍り出た。
これで虹色の波には当たらないと思ったのと同時に、

「……魔理沙!! 下だ!!」

下だと言う言葉を霊児は魔理沙に掛ける。
掛けられた言葉に反応した魔理沙が視線を下に向けた瞬間、

「うお!?」

魔理沙は虹色の波が眼下に迫って来ている事に気付き、慌てながら弾幕を放つのを止めて高度を上げ始めた。
何とかと言う感じではあるものの、霊児と魔理沙の二人は美鈴のスペルカードの直撃を受けずに済んだ。
だが、

「距離、詰めさせて貰ったわよ」
「げっ!!」

回避行動を取る為に弾幕を放つのを中断したせいで咲夜の接近を魔理沙は許してしまった。
魔理沙に近付けた咲夜はナイフを両手に持ち、両手のナイフを使って斬り掛かる。
斬り掛かられている魔理沙は何とか直撃だけは避けてはいるものの、今まで様に攻撃をすると言う事は出来ないでいた。
先程までとは違って攻撃に置ける主導権は完全に咲夜へと移ってしまった様だ。
魔理沙と咲夜の戦いが一転したのを見た霊児は美鈴の方に視線を戻し、

「考えたな、美鈴」

美鈴を称賛する様な言葉を発する。
発せられた称賛を受けた美鈴は霊児と同じ高度にまでやって来て、

「普通の援護では貴方に妨害されてしまいそうですからね。ですので、波状の全方位攻撃で援護させて貰いました」

波状の攻撃で援護攻撃をした理由を話す。
確かに波状の全方位攻撃ならば完全な妨害、若しくは防ぎ切る事は難しいと言える。
いや、可能と言えば可能ではあろう。
しかし、その場合は弾幕ごっこの範囲を超えるレベルの攻撃が必要だ。
であるならば、波状の全方位攻撃で咲夜の援護をした美鈴の判断は間違ってはいなかったと言えるだろう。
更に言えば今の攻撃で咲夜は少しも被害を受けていない処か、美鈴からの援護攻撃内容を想定していたかの様な動きをしていた。
紅魔館で働く者同士、咲夜と美鈴の二人はお互いの技をある程度は把握していると言う事か。
複数人での弾幕ごっこに置けるスペルカード宣言には味方にこれからする攻撃内容を伝える効果も有るのかと思いながら霊児はもう一度魔理沙の方に視線を向ける。
霊児からの視線に気付いた魔理沙は、霊児の方に顔を向ける。
顔を向けた魔理沙の目に霊児の目が映った刹那、何かに気付いたと言った感じで魔理沙は頷いて咲夜の方に顔を戻す。
魔理沙が頷いたのを確認した霊児は美鈴の方に向き直り、

「行くぞ」

行くぞと言う言葉と共に美鈴との距離を詰めに掛かる。
霊児が自分との距離を詰めて来ているのを見た美鈴は構えを取り直し、霊児の攻撃に備え始めた。
そんな美鈴に対して霊児は、

「なっ!?」

攻撃ではなく、右手で美鈴の頭頂部を押さえ付けると言う行動を取ったのだ。
てっきり真正面から仕掛けて来る事を想定していた美鈴は虚を突かれた言う表情を浮かべながら、霊児に頭頂部を押さえ付けられる形で体勢を崩してしまった。
だが、何時までも体勢を崩している美鈴では無い。
直ぐに体勢を立て直して霊児に反撃し様としたが、

「……あら?」

霊児は美鈴が崩れた体勢を戻す力を利用して、美鈴から距離を取った。
強引とも言える方法で自分の体勢を崩したのに攻撃を仕掛けずに距離を取った霊児に美鈴が疑問を覚えている間に、霊児は左手の短剣を投擲する。
投擲された短剣は魔理沙が居る方に向かって行き、短剣が魔理沙の正面に来たタイミングで、

「魔理沙」

魔理沙の正面に現れた霊児が左手で短剣を掴み、魔理沙の名を呼びながら霊児は魔理沙に向けて右手を伸ばす。

「霊児」

伸ばされた霊児の右手に応える様に魔理沙は霊児の名を口にし、右手を霊児の方に伸ばした。
そして、二人が互い手を掴んだのと同時に魔理沙の姿が消え、

「ぶふう!?」

フルスイングされた魔理沙の箒が美鈴の後頭部に直撃する。

「え!?」

霊児と魔理沙の居る場所が一瞬で入れ替わり、美鈴の後頭部に魔理沙の箒が直撃したのを見た咲夜は驚きの表情を浮かべるも、

「……二重結界式移動術」

直ぐに二人の居場所が入れ替わった要因に付いての結論を出した。
咲夜自身、二重結界式移動術での移動を経験済みであるので直ぐに気付けた様である。
と言った感じで一寸した考察を咲夜がしている間に、

「正解」

正解と言う言葉と共に霊児は振るわれて来るナイフを短剣で受け止めていく。
発せられた言葉に反応した咲夜は改めてと言った感じで霊児を視界に入れ、

「流石……と言ったところかしら。この連撃を行き成り放り込まれた様な状況でも涼しい顔で対処するなんてね」

霊児を称賛する様な事を口にする。

「お前も知ってるだろ。俺が接近戦も得意なのを」

された称賛に霊児はそう返しながら受身から脱却するかの様に、短剣を連続で振るい始めた。
振るわれた短剣は、当然の様に咲夜が振るっているナイフとぶつかり合って火花と接触で剥れた僅かばかりの霊力を散らしていく。
剥れたと言っても、剥れた部分の霊力は直ぐに補填されたが。
兎も角、一見互角の斬り合いの様に見えているものの、

「く……」

少しずつではあるが咲夜が押され始めた。
押され始めている事を実感した咲夜は改めて思う。
厄介であると。
攻防速の全てが高水準で纏まっているのみならず、近中遠の全ての距離にも霊児は高い戦闘適正を保持しているのだ。
咲夜でなくても博麗霊児と言う男は戦い難い相手の部類に入るだろう。
ともあれ、この儘では押し切られるのも時間の問題なので、

「仕方無いわね」

霊児と斬り合うのを咲夜は止めて後ろに下がった。
後ろに下がった咲夜を見た霊児が短剣を振るうのを止めると、

「それにしても、まさかアイコンタクト一つでここまでの事が出来るなんてね」

アイコンタクト一つで魔理沙に自分達の位置を入れ替えて攻撃に移ると言う事を伝えた霊児に咲夜は一寸した驚きの言葉を掛ける。
掛けられた言葉に反応した霊児はシレッとした表情を浮かべ、

「魔理沙との付き合いは長いからな。これ位の事は出来るさ」

付き合いが長い魔理沙とならこれ位は出来ると断言する。

「成程」

断言された事を耳に入れた咲夜は納得した表情を浮かべ、チラリと言った感じで美鈴と魔理沙の方に視線を向けた。
視線を向けた咲夜の目には魔理沙の弾幕に押されている美鈴の姿が映る。
美鈴が押されているのは箒のフルスイングが後頭部に直撃し、魔理沙との距離が離れたせいかと咲夜は推察した。
遠距離戦を得意としている魔理沙と、遠距離戦を得意としていない美鈴。
この二人が遠距離で戦った結果、美鈴が押されると言うのは自明の理だろう。
押し切られる前に美鈴の援護に回るべきかと考えた時、咲夜の目にある物が映る。
映った物と言うのは美鈴の帽子に刻まれている術式だ。
あんな術式など刻まれていたかと言う疑問を抱いた刹那、咲夜は気付く。
美鈴の帽子に刻まれている術式は二重結界式移動術の術式である事と、あれが在ったからこそ魔理沙が美鈴の傍まで一瞬で跳べたと言う事を。
であるならば、霊児も美鈴の傍まで一瞬で移動出来ると言う事になる。
何時美鈴の方に跳んで行くか分かったものでは無いと言うのは、精神衛生上余り宜しくない。
口で伝えたとしても、美鈴が帽子を取る前に霊児が美鈴の傍に跳んでしまうだろう。
何とか美鈴の帽子を外し、美鈴の傍に霊児が一瞬で移動出来る要因を排除したいと咲夜は考え、

「……仕方が無い、使いましょうか」

そう呟きながら霊児の方に視線を戻しつつ、右手に持っているナイフを霊児に向けて投擲する。
投擲されたナイフを霊児が体を傾けて避けている間に、咲夜は右手で懐からスペルカードを取り出し、

「時符『プライベートスクウェア』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動しても何かが起こったと言う感じがしなかったので霊児は一寸した疑問を抱く。
そんな霊児に向け、再びナイフの投擲を咲夜は行なった。
但し、先程と違って今回は一本ではなく無数。
とは言え、投擲されたナイフの数が多くなっただけでは霊児に取って大した脅威では無いのだが、

「ッ!?」

霊児は驚きの表情を浮かべてしまう。
何故かと言うと、投擲されたナイフの進行速度が今でのと比べて桁違いなまでに速かったからだ。
本気で投擲したからと言う言葉では説明出来ない程の速さだと思いながら回避行動を取った霊児の目に、魔理沙と美鈴の方へと向かっている咲夜の姿が映る。
しかも、移動している咲夜のスピードは投擲されたナイフと同じで今までよりも桁違いなまでに速い。
咲夜も投擲されたナイフも桁違いに速いのは、先程咲夜が発動したスペルカードのお陰かと考えた瞬間、

「そうか……」

咲夜と投擲されたナイフの異常なまでの速度上昇に付いての答えに霊児は気付く。
その答えと言うのは咲夜自身の時間が加速している、若しくは咲夜以外の時間が減速していると言うもの。
気付いたこの答えならば、異常なまでの速度アップにも説明が付くであろう。
出した答えに間違いは無いだろうと言う判断を下しながら霊児は咲夜の狙いに付いて推察していく。
魔理沙と美鈴の方に向かった咲夜は、どちらかと言うと美鈴側へと向かって行っている。
咲夜の進路から、二重結界式移動術の術式を美鈴の帽子に刻み込んだ事に気付かれたかと霊児は考えた。
考えた事が正しいのであれば、二重結界式移動術で跳ぶ前に術式を崩されてしまう可能性が出て来る。
であるならば美鈴の帽子を目標に跳ぶのは避けた方が良いだろうと霊児は判断し、左手に持っている短剣を魔理沙と美鈴の方に投擲する。
投擲されたナイフは魔理沙側に向かって行き、短剣が魔理沙の正面に来た辺りで霊児は二重結界式移動術を発動した。
二重結界式移動術を発動した霊児が魔理沙の正面に現れて左手で短剣を掴んだタイミングで、

「しっ!!」

咲夜は美鈴の帽子を払い除け、払い除けた帽子にナイフを投擲する。
咲夜が投擲したナイフが美鈴の帽子のど真ん中を刺し貫いた時、

「え、あ。咲夜さん!?」
「れ、霊児!?」

行き成り現れた咲夜と霊児の二人に、美鈴と魔理沙の二人は驚きの声を声を上げた。
そんな二人を無視するかの様に霊児はナイフで貫かれた美鈴の帽子に視線を移す。
視線を移した霊児の目には咲夜のナイフが二重結界式移動術の術式を刺し貫いているのが映った為、

「正確に術式を刺し貫くとは……やるな」

やるなと言う称賛の言葉を霊児は口にした。
口にされた言葉が耳に入ったからか、咲夜は霊児の方に体を向け、

「やるなはこっちの台詞よ。短剣が投擲された物だったとは言え、時間の流れを減速させて先に行動を起こした私と同じ様なタイミングで着くなんてね」

何処か呆れた様な表情を浮かべながら咲夜はそう返す。
と言った感じで軽いやり取りをしている霊児と咲夜の二人に対し、

「なぁ、霊児。一体どう言う事なんだ?」
「何か遭ったんですか? と言うか、私の帽子……」

魔理沙と美鈴の二人が説明を求めて来た。
だからか、霊児と咲夜の二人は魔理沙と美鈴に二人の傍にやって来た理由を説明する。
された説明を受けた魔理沙と美鈴の二人は、

「成程、それで私達の所に来たのか」
「霊児さんに不意打ちされたら、一溜まりもありませんでしたから助かりました。それにしても、あの一瞬で術式を刻まれたのか……」

納得した表情を浮かべた。
二人が納得したのを見届けた霊児と咲夜の二人は正面を見据え、

「お前と普通に話せるって事は、時間の流れは元に戻っている様だな」
「ええ、元に戻っているわよ。このスペルカードは発動時間がそんなに長くはないからね」
「そういや……さっきのは時間の流れを遅くするスペルカードだったよな。と言う事は自分の時間の流れを加速させたり、時間を停止させたりする
スペルカードも在るって事か」
「さぁ、それはどうかしらね?」

相手の出方を探る様に軽い会話を交わしていく。
しかし、会話を交わしていっても隙の様なものを霊児と咲夜は見せなかった。
だからか、これ以上は意味が無いと二人は判断して会話を打ち切り、

「「…………………………」」

霊児と咲夜は無言で構えを取り直す。
それを見た魔理沙と美鈴も構えを取り直すと、

「魔理沙、突っ込むから援護を頼む」
「美鈴、援護するから突っ込みなさい」

相方である二人に霊児と咲夜はやって欲しい事を口にする。

「おう、任せとけ」
「お任せください、咲夜さん」

口にされた事を魔理沙と美鈴が了承したのと同時に霊児は駆け、駆けた霊児に反応する形で美鈴も駆けた。
そして、

「しっ!!」
「せい!!」

短剣による刺突と正拳突きを霊児と美鈴は繰り出す。
繰り出された刺突と拳が激突した刹那、魔理沙と咲夜から星型の弾幕と無数のナイフと言う援護攻撃が放たれた。
放たれた援護攻撃は相手の援護攻撃と相殺し合うと言う結果で終わったが、その間に魔理沙と咲夜は少し移動し、

「そら!!」
「せい!!」

魔理沙はレーザーを美鈴に、咲夜は高速で突き進むナイフを霊児に向けてそれぞれ放った。
放たれた攻撃に反応した霊児と美鈴の二人は弾かれる様にして間合いを取る。
間合いを取ったお陰で二人にナイフやレーザーが当たる事は無かった。
だが、接触時間が長くなれば何れは被弾するかも知れない。
そう結論付けた龍也と美鈴は、一度激突したら直ぐに離脱して再度激突すると言う戦法に切り替えた。
激突して離脱し、また激突して離脱。
そんな戦い方を霊児と美鈴は繰り返し、魔理沙と咲夜もまた援護攻撃を繰り出していく。
その様な戦い方を始めてから幾らかした辺りで、

「なぁ、霊児」

魔理沙が霊児に話し掛けて来た。

「ん、何だ?」

話し掛けられた事で霊児は美鈴との激突を中断して魔理沙の傍に寄り、魔理沙の方に顔を向ける。
すると、

「この儘じゃあ状況が動きそうにないからさ、あれを使わないか?」

あれを使わないかと言う提案を魔理沙がして来た。
あれと言う言葉だけで魔理沙が何をし様としているのかを理解した霊児は、

「……そうだな、そうするか」

魔理沙の提案を霊児は受け入れる事を決め、懐に右手を入れながら魔理沙の隣に並ぶ。
懐に手を入れた事からスペルカードが発動されると感じた咲夜と美鈴は警戒するかの様に構えを取り直すと、魔理沙も懐に手を入れる。
魔理沙も懐に手を入れた事から二人同時にスペルカードを使うのかと咲夜と美鈴が考えた瞬間、霊児と魔理沙の二人はスペルカードを取り出して、

「「閃光『星空を駆け巡る流れ星』」」

二人揃って同じスペルカードを発動させた。

「「ッ!?」」

まさか同じスペルカードを使って来るとは思わなかった咲夜と美鈴が驚いている間に魔理沙は両手を前方に伸ばし、伸ばされた両手に霊児は右手を重ねた。
重ねられた霊児の右手から青白い光が発せられた刹那、伸ばされた魔理沙の両手から光り輝く星型の弾幕が放たれた。
放たれた弾幕の量と密度は先程放たれたものよりも格段に多く、濃い。
迫り来る弾幕を見た咲夜と美鈴は他の事に意識を割いたら被弾すると感じ取ったので、驚きの感情を押さえて回避行動を取り始めた。
感じ取った事は正しかったからか、回避行動に徹している咲夜と美鈴は被弾せずに弾幕を避け続けている。
この分ならスペルカードの制限時間が過ぎるまで避け続けられそうだと言う事が咲夜と美鈴の頭に過ぎった時、

「くあ!?」

美鈴から悲鳴の声が上がった。
上がった悲鳴に咲夜が反応したのと同時に、

「あぐ!?」

斬られたと言える様な衝撃が咲夜の体に走る。
一体何がと咲夜が思っている間にも、斬られた様な衝撃が絶え間無く咲夜の体を走っていく。
走っていく衝撃に耐えながら美鈴の方に視線を向けた咲夜の目には、美鈴の周囲を閃光の様なものが駆け巡っている光景が映った。
いや、それだけでは無い。
美鈴も咲夜と同じ様に斬られた様な衝撃を絶え間無く受けているのである。
絶え間無く走っている衝撃のせいで咲夜は今、何か行動を起こす事が出来ない。
と言う事は、美鈴も何か行動を起こす事が出来ないであろう。
だからと言って咲夜は勿論、美鈴も諦める気は欠片も無かった。
しかし、幾ら諦める気が無くとも何かしらの行動を起こす事が出来なければどうし様もなく、

「「しまっ!!」」

衝撃のせいで空中での姿勢制御を咲夜と美鈴は崩してしまい、地上へと叩き落されてしまう。






















地上に叩き落された咲夜と美鈴の二人は、全身に力を籠めながら立ち上がろうとする。
そして、二人が立ち上がった瞬間、

「どうする、続けるか」

構えを取った霊児は正面から咲夜と美鈴にそう問い掛けて来た。
問い掛けて来た霊児の斜め後ろ上空には、ミニ八卦炉を構えて狙いを定めている魔理沙の姿が見える。
この分では何か行動を起こす前に霊児か魔理沙から攻撃が放たれるだろうと言う事を咲夜は感じ、

「……降参。私達の負けよ」

大人しく降参する事にした。
咲夜が負けを認めた後、霊児は美鈴の方に顔を向け、

「お前はどうする?」

美鈴はどうするのかと聞く。
聞かれ美鈴は戦闘体勢を解き、

「私も降参です」

咲夜に続く様な形で降参の宣言をした。
二人からの降参宣言を受けた霊児は構えを解き、左手に持っている短剣を鞘に仕舞う。
そのタイミングで魔理沙がミニ八卦炉を仕舞い、空中から地上へと降り立つ。
すると、

「それにしても、二人で一つのスペルカードを使って来る何てね。正直、驚いたわ」

先程霊児と魔理沙が使ったスペルカードに付いての話題を出して来た。
やはりと言うべきか、二人で一つのスペルカードと言うのが咲夜の興味を引いている様である。
更に言えば、美鈴も興味深そうな視線で霊児と魔理沙を見ていた。
どうやら、咲夜だけではなく美鈴も先のスペルカードに興味がある様だ。
だからか、

「異変を解決しに冥界に行った時、プリズムリバー三姉妹が三人で一つのスペルカードを使ってただろ。あれを見て、私も霊児と二人で一つの
スペルカードを作ろうと思ったんだ。で、作った内の一つが今さっき使ったやつって訳さ」

何処か自慢気な表情を浮かべた魔理沙が、決め手となったスペルカードに付いて簡単に説明する。
された説明を受け、

「……そう言えば、あの三姉妹はそんなスペルカードを使っていたわね」

プリズムリバー三姉妹が使っていたスペルカードを咲夜は思い出し、

「二人で一つ……と言う事はあの星型の弾幕の中を駆け巡っていた閃光は霊児ね」

二人で一つと言う部分から星型の弾幕の中を駆け巡っていた閃光の正体に当たりを付けた。
付けた当たりは正しかった様で、

「ああ、そうだ。少し種明かしをすると、あの星型の弾幕全てに二重結界式移動術の術式が俺の霊力で刻まれていてな」

肯定の言葉と共に先程のスペルカードに付いてのヒントの様なものを霊児は零す。
零された事を耳に入れた咲夜は少し考える素振りを見せ、

「……成程。二重結界式移動術を連続使用しながら高速で斬り付けていたのね」

霊児が星型の弾幕の中で何をしていたのかに気付く。

「正解」

気付いた事も正しかったので霊児が正解と言う言葉を発すると、

「あのスペルカードを攻略するには、外側に向かうのが良さそうですかね」

霊児と魔理沙が使ったスペルカードに付いての攻略法を美鈴は考え出した。
しかし、

「それも一つの攻略法だが、その場合は私の弾幕を距離を取りながら避けるって言う事になるぞ」

考え出した攻略法に魔理沙からの突っ込みが入った為、

「あー……そう言えばあの弾幕は範囲も密度も凄かったっけ。単純に外側に行こうとしても駄目か」

直ぐに考え出した攻略法を美鈴は忘却の彼方へと追い遣る。
正面から避け様とすれば霊児からの超スピードによる斬り掛かり。
かと言って弾幕の範囲外に逃げ様にも、放たれる弾幕の範囲は広い。
あちらを立てればことらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず。
不利な二者択一を選ばせる事を強制する様なスペルカードだと咲夜は思い、

「随分と強力なスペルカードを作ったわね」

そんな台詞を魔理沙に投げ掛けた。
投げ掛けられた台詞に、

「そりゃ霊児と私の二人で作ったスペルカードだからな。強力なのは当然だぜ」

霊児と二人で作ったのだから強力なのは当然だと魔理沙は返す。
すると、

「咲夜さん咲夜さん。私達も二人で一つのスペルカードを作りませんか?」

自分達も二人で一つのスペルカードを作らないかと言う提案を美鈴は咲夜に行なう。
行なわれた提案は一考する価値が在るからか、

「ふむ……これから多対多と言った感じで複数での弾幕ごっこをするかも知れないから、幾つか作ると言うのもありね」

美鈴の提案に咲夜は好意的な反応を示すも、

「……でも、私と貴女ってコンビを組む事はそんなに無いわよね?」

直ぐに自分と美鈴がコンビを組むのは多くない事に気付き、

「……言われて見れば、そうですね」

美鈴もその事に気付く。
メイド長である咲夜は紅魔館内部に居る事が多く、門番である美鈴は紅魔館外部に居る事が多い。
確かに、主に居る場所が別れているこの二人がコンビを組む事は多く無いだろう。
とは言え、今回の様に組む機会が在ったりはするので、

「ま、今回の様にまた一緒に戦う事も在るかも知れないし幾つか作って置きましょうか」

保険と言った感じで咲夜は美鈴と二人で一つスペルカードを作る事を決める。
取り敢えず、咲夜と美鈴の間で話しが纏まったからか、

「じゃ、紅魔館の中に入らせて貰うぞ」

紅魔館の中に入ると言う事を霊児は二人に伝えた。
伝えられた事が耳に入った咲夜と美鈴の二人は霊児の方に体を向け、

「まぁ、負けた私達に貴方達を止める権利は無いわね」
「とは言え、お嬢様が犯人とは思えないんですけどね」

霊児と魔理沙の二人を紅魔館の中に入る許可を出す。
許可を出された事で紅魔館に入っても侵入者扱いされはしないなと考えつつ、

「レミリアが犯人かどうかは、レミリア本人から直接問い質すさ」

レミリアが犯人かどうかは本人から直接問い質すと言う事を霊児が返すと、

「そういや、犯人がレミリアでは無いと仮定した場合。お前等二人は今回の異変の犯人捜しには行かないのか?」

魔理沙から咲夜と美鈴は異変の犯人捜しをしないのかと言う問いが投げ掛けられた。
投げ掛けられた問いに対する答えとして、

「あの宴会を異変だと気付かせなかった犯人には興味が在るけど……紅魔館での仕事が在るからねぇ。お嬢様の許可が出れば、私も異変解決に乗り出そうかしら」
「私も門番の仕事が在りますからねぇ。まぁ、お嬢様から許可が出れば話は別ですけど」

レミリアの許可が無ければ犯人捜しは出来そうに無いと言う事を咲夜と美鈴は述べる。

「ああ、確かにお前等はレミリアの許可が無ければ長時間の外出は出来なさそうだもんな」

述べられた事を受けて魔理沙が納得した表情になったのと同時に、

「それじゃ、中に入らせて貰うぞ」

霊児が紅魔館の中に入る為に足を動かし始めたので、

「あ、待ってくれよ霊児」

霊児を追う様にして魔理沙も足を動かす。
そして、

「余り中を荒らさない様にね」

咲夜からの中を余り荒らさない様にと言う台詞を背に受けながら、霊児と魔理沙は紅魔館の中へと入って行った。























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